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静かな墓地。コミュの如砥如矢

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また彼は此処に来たのです。

岩には「如砥如矢」と刻まれています。

振り向いたそこは、100メートルの断崖絶壁。

目の前の岩肌に彼は凍えた指で何かを書いています。

それは手紙でした。遠くにいる・・・
いや隔てる互いの心がその距離を遠くに感じさせる人への手紙です。

伝えたいあれこれ、詫びたいあれこれ、伝えてはいけない真実・・そして嘘。

木々の軋む音と冷たい風に我に返り、見つめた指先には血が滲んでいます。

その手のひらを冷たい岩肌に手を当てて、彼は何事か小声で言っているようでした。

風の音に乗り、その声は歌っているようにも聞こえました。
海鳴りに混じったそれは般若信教のようにも聞こえます。

「仕方ないんだ・・」

岩を背に道の端に・・・心もとない手すりから海を見ました。

何回かに一度大波が来ます。何処まで連れて行ってくれるのでしょうか・・

・・・・・・・・・・・・・。

来た道を引き返しながらもう一度言いました。

「仕方ないんだよ・・・・」

何故そうするのか、彼自身も認めたくないのです。
しかし、彼には行かなければならない場所がまだあるのです。

そこは彼を笑わせてくれる場所なのか、待っている人が居るのか・・。

何も確かなものは無いはずでした・・。

しかし、真実を隠したままきっと彼はそこに向かうのです・・。

そしてまた此処に来て手紙を岩肌に綴るのかもしれません。

誰の手にも渡ることなく、此処のように誰にも読まれる事の無い手紙を・・・。

コメント(4)

そして彼は、少ない荷物のカバンを整理、
くたびれたスニーカーの紐を締めなおして車のドアを開けました・・。

つづく。
行ってみた。

跡形も無く整地されきれいな住宅の中には
暖かそうな灯りが揺れ、笑い声が漏れてくる。

ここで彼女はどんな気持ちで毎日過ごしていたんだろう・・。

突然電話をもらったのは中学校卒業し、
ひまわりの咲くころだったように覚えている。

「私もそうするから、みんなに伝えてください。
 私がみんなに謝りたいと・・。悪かったのは私なんだと・・。」

「・・・何を言っているんだ・・?君は被害者だ。
土下座しなければならないのは君ではない。」

出身地と家業をからかわれ、いじめられていた彼女。
幾度かかばい、普通に接触してきただけのクラス委員としての自分にも
攻撃の矛先は向かってきた事もあったのだ。

「断る。謝る必要は微塵も無い。」

きっと彼女は追い詰められ、おかしくなってしまっていたのだろう。
新しい環境に進学した後も追いかけてきた下劣な者どもに・・。

曖昧な返事をしてしまった自分も悪い。

釈然としないまま、幾人かに状況を説明するよりも
彼女の催促の頻度は度を越してきた・・。

今でも重く圧し掛かる・・。
曖昧な返事とはいえ約束は果たされてはいない。

もとより無茶な話だ・・。

「同級会を開催します。楽しく思い出を語りませんか?」

ハガキに火をつけた・・・。


ハガキはもう読み取れない・・。
見たくも無い。

だって、笑い声の漏れていた家の表札は全く知らない苗字が石に刻まれていたのだから。
どんなに理不尽な攻撃を毎日受けようと、
彼女が泣いたのを見たことは無かった。
泣くよりも悲しすぎる毎日だったのだと思う。

ありふれた表現だけれど、死んだ方がマシな日々だったのだろうと思う。

記憶から消したい日々。何の責任があったわけではないのに。

鉄筋コンクリートの校舎は墓場に見えたのかもしれない。
その忌まわしい校舎が見えるところに彼女は住んでいたのだった。

遠いところでせめて幸福な日々が彼女の周りに訪れますよう・・。

いぢめ抜いた記憶さえ忘れ、いや、忘れたふりをしているのか・・。

反省の一言もなく毎夏執り行われる「楽しい同級会」
彼には鬼畜の宴会のようさえも思えた。

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