≪伝記・ノンフィクション≫のコーナーを、新しく作りました。 
コツコツ本の紹介を続けてきて何年か経ちましたが、亀のような歩みでも、紹介した本が増え、大雑把にひとくくりした分類方法ではしっくりこないと感じることも出てきて、新しくこのコーナーを作ることにしました。 伝記などで、今まで他のコーナーで紹介してきた作品は、そのままにしておきますので、ご了承ください。
図書館に行った際に、司書の方に分類方法について訊ねてみました。 例えば、細川貂々・著の『ツレがうつになりまして』などの一連の作品は、図書館によって、<マンガ>のコーナーに置かれていたり、<日記・ノンフィクション>のコーナーにあったりして、置かれている場所が違います。
一冊の本に含まれている要素が複数の場合、どのコーナーに置くか、司書の方たちも迷われることがあるのですね。最終的には探す人の立場にたって考えて決めるということです。
≪元気な本棚≫での分類方法も、難く考えすぎずに柔軟性を持たせていけたらと思っています。
〖目次〗
１ 『神谷美恵子』 大谷美和子・著 くもん出版
２ <この一首>
『生きる』 大谷美和子・著より いのちのことば社 フォレストブックス
３ トルストイに魅せられた良心的兵役拒否者
『北御門二郎 魂の自由を求めて』 ぶな葉一・著 銀の鈴社・ジュニアノンフィクション
（本書は
世界の平和を願って・その４にも掲載しています） ４ 〜 くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ 〜
『愛と勇気の鐘』― 孤児たちに一生をささげる品川博の愛の軌跡
藤崎康夫・作 くもん出版
５ 〜 くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ 〜
『しあわせまで３万キロ』 ― ドイツ兵の墓を守った高橋夫妻の真心
岡本文良・作 鴇田 幹・絵
６ 〜 くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ 〜
『愛のかけ橋はきえず』 ― 韓国の孤児をそだてた望月カズの一生
藤崎康夫・作 伊東展安・絵
７ 『夜明けへの道』 岡本文良・作 こさかしげる・画 金の星社
『みちのくの聖僧』 岡本文良・作 金野新一・画 ポプラ社
８ 『愛の島に星がきらめく』― 奥浦慈恵院ものがたり
岡本文良・作 こさか しげる・絵 あすなろ書房
９ 『111歳、いつでも今から』 後藤はつの 河出書房新社
１０ 『ぼくの夢は学校へ行くこと』 バングラデシュ〜紅茶畑の軒下教室から〜
今西乃子・文 浜田一男・写真 佼成出版社
１１ 〜 くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ 〜
『はるかなり モヨロの里』 ― 貝塚に魅せられた米村喜男衛の一生
吉樹朔生・作 高田 勲・絵 くもん出版
１２ 『地雷の村で「寺子屋づくり」』 今関信子・著 PHP研究所
１３ 〜くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ〜
『ブータンの朝日に夢をのせて』 木暮正夫・作 こぐれけんじろう・絵 くもん出版
１４ 『グリーン・ファーザー』
〜インドの砂漠を緑にかえた日本人・杉山龍丸の軌跡〜
杉山満丸・著 ひくまの出版
１５ 『世界一の紙芝居屋 ヤッサンの教え』 安野侑志 高田真理 ダイヤモンド社
１６ 『ジェーン・アダムスの生涯』 ジャッドソン／作 村岡花子／訳 岩波少年文庫
１７ 若き鉄鋼王 『カーネギー』 クララ・イングラム・ジャドソン・作
河田智雄・訳 学習研究社
１８ 『石井のおとうさんありがとう』 ― 石井十次の生涯
和田 登・著 和田春奈・画 総和社
１９ 『津波をこえたひまわりさん』 ― 小さな連絡船で大島を救った菅原進
今関信子・著 佼成出版社
２０ 『まど・みちお』〜 伝記を読もう ��
谷 悦子・文 あかね書房（2016年3月）1500円
２２ 『知里幸恵物語』 〜アイヌの物語を命がけで伝えた人〜
金治直美・著 PHP研究所
２３ 『すべてを明日の糧として』 〜今こそ、アイヌの知恵と勇気を〜
宇梶静江・著 清流出版
写真左は、『はるかなりモヨロの里』 （目次１１）。編集している時に、下欄にある宣伝の写真がせり上がって来て画面を邪魔して、編集がうまく出来ませんでした。代わりに写真だけ、ここに掲載することにしましたので、ご了解ください。 右は、 『地雷の村で「寺子屋づくり」』 今関信子・著
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コメント(28)
『神谷美恵子』― ハンセン病と歩んだ命の道程
大谷美和子・著 くもん出版（2012年）1400円
神谷美恵子さんのことがずっと気になっていましたが、詳しく知ることもなく今まで来てしまいました。児童文学者の大谷美和子さんが、神谷美恵子さんについて書かれた本があることを最近知って、それなら私でも読めるのではないかと、さっそく図書館で借りてみました。
まず誕生から幼少時代のことが語られます。そして20歳の時に、愛する人が結核で亡くなり、生きる目標を失いますが、ハンセン病の療養所での患者たちとの出会いがあり、美恵子が立ち直るきっかけとなります。
「わたしの進むべき道は、苦しむひと、悲しむひとによりそうことではないか。らい病医療の仕事をしたい！」
ですが、当時はらい病患者への正しい知識もなく、差別と偏見の目でみられた時代でした。医師になりたいという希望は家族の大反対で叶わず、結核を患い、闘病生活を送ることを余儀なくされました。
ようやく医学の勉強をすることが許されましたが、父は「ハンセン病にかかわることは許さない」と断乎として反対。精神医学に興味をもちはじめていた美恵子は精神科医を目ざします。
第二次世界大戦をくぐり抜け、やっと医学の勉強に専念できると思っていたとき、英語に堪能な美恵子は、文部省に通訳や文書作成の手伝いに請われてやむなく承諾せねばなりませんでした。やっと職をとかれたころ、神谷宣郎という植物学者との出会いがあり、結婚。夫を助け、子育てをしながら、生活のため英語の教師をするなど、医者としての夢はまだまだ実現しませんでした。
41歳の時、転機が訪れます。子宮がんになり、奇跡的に乗り越えることができ、残りの人生を真剣に生きようと思いました。そして瀬戸内海の長島にあるハンセン病療養所に赴くことになります。苦しむひとたちのところではたらきたいとねがった20歳のときから、22年がたっていました。
57歳の時、最初の狭心症発作を起こし、入退院を繰り返しながら執筆を続け、65歳で死去。
大変遅まきながら、出会わなければいけない本にやっと出合えたという気がします。真摯な生きざまに触れることができたことをとてもありがたく思いました。
著書も多数出版されています。翻訳以外の本で著作として初めて出版された『生きがいについて』で、美恵子の名は広く知られるようになりました。
大谷美和子・著 くもん出版（2012年）1400円
神谷美恵子さんのことがずっと気になっていましたが、詳しく知ることもなく今まで来てしまいました。児童文学者の大谷美和子さんが、神谷美恵子さんについて書かれた本があることを最近知って、それなら私でも読めるのではないかと、さっそく図書館で借りてみました。
まず誕生から幼少時代のことが語られます。そして20歳の時に、愛する人が結核で亡くなり、生きる目標を失いますが、ハンセン病の療養所での患者たちとの出会いがあり、美恵子が立ち直るきっかけとなります。
「わたしの進むべき道は、苦しむひと、悲しむひとによりそうことではないか。らい病医療の仕事をしたい！」
ですが、当時はらい病患者への正しい知識もなく、差別と偏見の目でみられた時代でした。医師になりたいという希望は家族の大反対で叶わず、結核を患い、闘病生活を送ることを余儀なくされました。
ようやく医学の勉強をすることが許されましたが、父は「ハンセン病にかかわることは許さない」と断乎として反対。精神医学に興味をもちはじめていた美恵子は精神科医を目ざします。
第二次世界大戦をくぐり抜け、やっと医学の勉強に専念できると思っていたとき、英語に堪能な美恵子は、文部省に通訳や文書作成の手伝いに請われてやむなく承諾せねばなりませんでした。やっと職をとかれたころ、神谷宣郎という植物学者との出会いがあり、結婚。夫を助け、子育てをしながら、生活のため英語の教師をするなど、医者としての夢はまだまだ実現しませんでした。
41歳の時、転機が訪れます。子宮がんになり、奇跡的に乗り越えることができ、残りの人生を真剣に生きようと思いました。そして瀬戸内海の長島にあるハンセン病療養所に赴くことになります。苦しむひとたちのところではたらきたいとねがった20歳のときから、22年がたっていました。
57歳の時、最初の狭心症発作を起こし、入退院を繰り返しながら執筆を続け、65歳で死去。
大変遅まきながら、出会わなければいけない本にやっと出合えたという気がします。真摯な生きざまに触れることができたことをとてもありがたく思いました。
著書も多数出版されています。翻訳以外の本で著作として初めて出版された『生きがいについて』で、美恵子の名は広く知られるようになりました。
≪この一首≫
なえし手に手を添へもらひわが鳴らす
鐘はあしたの空にひびかふ
『生きる』― 元ハンセン病患者 谷川秋夫の七十七年 より
ハンセン病療養所・長島愛生園で暮らす、谷川秋夫さん。その中央に位置する光が丘の頂上にある「恵みの鐘」を撞いたときの歌だということです。
『生きる』を読んで、この短歌とそこから広がっていった感動的な出来事を知り、とても感銘を受けました。
≪愛生園に入園している谷川秋夫は、長年短歌を詠むことを大きな心の支えとしてきた。1992年12月に長く応募を続けてきた歌会始に初めて入選。（お題は『空』）体調が思わしくなく、やむなく出席を断念したが、それでも当日はこの短歌が朗詠され、全国に電波を通して流れるものだと思うと、しみじみうれしかった。ところが歌会始の前夜宮内庁から電話があり、「欠席者の朗詠はせず、記念品を送る」とのこと。がっかりした。松の間からのテレビ中継のあと、NHKテレビのアナウンサーが秋夫の歌を紹介したが、それは天皇、皇后の前で朗詠されるのと意味が違った。
だが人生とは面白いものである。新聞でこのことを知った岡山の主婦が、欠席者の歌も朗詠するよう、天皇・皇后あての請願書を２度にわたって宮内庁に提出し、改善を求めた。
また、岡山の山陽女子高校放送部から取材の申し込みがあった。２年生部員20名は、まずハンセン病や歌会始についての勉強から始め、取材を重ねた。そして、ルポ『この短歌が空に響くまで』が完成。この作品は第41回NHK全国高校放送コンテスト・ラジオ番組自由部門で優勝し、文部大臣賞に選ばれた。
その10日後、高校生たちは顧問の先生たちとともに秋夫の部屋を訪れ、花束を秋夫に渡し、賞状とトロフィーも抱えさせてくれた。
秋夫は深い感動に浸っていた。瀬戸内の小島で世の中と離絶されて生きてきたと思っていたが、そうではなかった。自分の役割を思った。知らぬ間に思いがけなく、見知らぬ若い人たちに影響を与えていた自分。
その年の秋、宮内庁は今後は欠席者の朗詠を行うと発表した。≫
先日この欄でもご紹介した『神谷美恵子』（大谷美和子・著）に出会ったことがきっかけで、それより前に同じ著者により出版された『生きる』（大谷美和子・著 いのちのことば社 フォレストブックス・2001年）があることを知り、さっそく読んでみました。
本書から受けた感銘は、私の拙い文章力ではとても書ききれず、せめて本書のことを知っていただくきっかけになればと思い、短歌をご紹介するに留めました。
トルストイに魅せられた良心的兵役拒否者
『北御門二郎 魂の自由を求めて』 ぶな葉一・著
銀の鈴社・ジュニアノンフィクション（2014年）1200円
『まぶしい涙』〈鈴の音社〉がとても素晴らしかったので、このような作品を書かれた、ぶな葉一さんがどんな方なのか知りたくなりました。他の作品もぜひ読んでみたいと思い、『北御門二郎 魂の自由を求めて』との嬉しい出会いへとつながっていきました。
<著者・プロフィール>
安曇野に生まれる。本名 石田昭義。北御門二郎氏と出会い、地の塩書房を設立。
トルストイの作品『イワンの馬鹿』『文読む月日』などを広めることを始めて今日にいたる。著書は他に『山のみち』『泣いたゼロ戦』（ともに銀の鈴社刊）。
<北御門二郎の横顔>
1913年（大正２年）熊本県球摩郡湯前町に生まれる。旧制五校時代に、トルストイの『人は何で生きるか』を読んで感激。東大英文学科を退学、徴兵を拒否するが、奇跡的に生き延びる。以来「トルストイも言うように、農耕が一番罪がない」と人里離れた熊本県水上村湯山にこもり、農業を営みながら、トルストイの翻訳に没入する。
「翻訳に大切なことは、原書に感動し、読者とその喜びを分かち合いたいと思うこと、だからトルストイが涙して書いたところは、私も泣いて訳します。」
2004年死去。享年91歳。
本文中に『イワンの馬鹿』について書かれているところがあり、そのごく一部ですが抜き書きしてみます。
≪憲法九条が行きつく先は、「イワンの村」であると二郎はよく語っていました。
「トルストイの作品『イワンの馬鹿』は、子供の読み物のように思われているが、子供大人に限らずに、人間にとっての深い心理、生き方を語っている。」 （中略）
二郎はこの『イワンの馬鹿』が全国の学校で読まれて、トルストイの絶対平和、絶対非暴力の精神が子供たちの心に芽生え、すくすくと育ち、やがてはイワンの王国となり、人類が戦争から解放される日がくることを願っています。≫
『イワンの馬鹿』を授業でつかったいくつかの学校から、二郎のもとに便りが届き、その中の二つが紹介されています。かつて二郎が失望して中退した東大の先生からと、小学6年生たちの感想文です。教師側の指導は全くせず、ただ読んだだけということですが、感想文は生徒さんたちが本の内容を深く汲み取ったものであり、とても感動しました。
『北御門二郎 魂の自由を求めて』 ぶな葉一・著
銀の鈴社・ジュニアノンフィクション（2014年）1200円
『まぶしい涙』〈鈴の音社〉がとても素晴らしかったので、このような作品を書かれた、ぶな葉一さんがどんな方なのか知りたくなりました。他の作品もぜひ読んでみたいと思い、『北御門二郎 魂の自由を求めて』との嬉しい出会いへとつながっていきました。
<著者・プロフィール>
安曇野に生まれる。本名 石田昭義。北御門二郎氏と出会い、地の塩書房を設立。
トルストイの作品『イワンの馬鹿』『文読む月日』などを広めることを始めて今日にいたる。著書は他に『山のみち』『泣いたゼロ戦』（ともに銀の鈴社刊）。
<北御門二郎の横顔>
1913年（大正２年）熊本県球摩郡湯前町に生まれる。旧制五校時代に、トルストイの『人は何で生きるか』を読んで感激。東大英文学科を退学、徴兵を拒否するが、奇跡的に生き延びる。以来「トルストイも言うように、農耕が一番罪がない」と人里離れた熊本県水上村湯山にこもり、農業を営みながら、トルストイの翻訳に没入する。
「翻訳に大切なことは、原書に感動し、読者とその喜びを分かち合いたいと思うこと、だからトルストイが涙して書いたところは、私も泣いて訳します。」
2004年死去。享年91歳。
本文中に『イワンの馬鹿』について書かれているところがあり、そのごく一部ですが抜き書きしてみます。
≪憲法九条が行きつく先は、「イワンの村」であると二郎はよく語っていました。
「トルストイの作品『イワンの馬鹿』は、子供の読み物のように思われているが、子供大人に限らずに、人間にとっての深い心理、生き方を語っている。」 （中略）
二郎はこの『イワンの馬鹿』が全国の学校で読まれて、トルストイの絶対平和、絶対非暴力の精神が子供たちの心に芽生え、すくすくと育ち、やがてはイワンの王国となり、人類が戦争から解放される日がくることを願っています。≫
『イワンの馬鹿』を授業でつかったいくつかの学校から、二郎のもとに便りが届き、その中の二つが紹介されています。かつて二郎が失望して中退した東大の先生からと、小学6年生たちの感想文です。教師側の指導は全くせず、ただ読んだだけということですが、感想文は生徒さんたちが本の内容を深く汲み取ったものであり、とても感動しました。
くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ（15）
『愛と勇気の鐘』― 孤児たちに一生をささげる品川博の愛の軌跡
藤崎康夫・作 くもん出版（1987年）
赤城山のふもとの小高いみどりの丘に、赤いとんがりぼうしの屋根が見えます。〈鐘の鳴る丘・少年の家〉です。
みどりの丘の 赤い屋根
とんがり帽子の 時計台
鐘が鳴ります キンコンカン
メェメェ 子山羊も鳴いてます
このラジオドラマ『鐘の鳴る丘』のテーマソングと、実在する「鐘の鳴る丘・少年の家」のことは知っていたものの、本書と出会うまで詳しいことは知りませんでした。
今まで、このドラマの脚本は、「鐘の鳴る丘・少年の家」をモデルにして書かれたのだと思っていましたが、本書を読んでそれが逆だったことを知りました。
第二次世界大戦が終わり、復員兵としてかえってきた品川博が出会ったのは、戦災孤児たちでした。戦争で亡くなった仲間たちにも、子どもがいました。彼らの子どもたちも戦災孤児になっているかもしれない。博は、生き残った自分がこれからどう生きていくべきかを考え続け、戦災孤児たちのために働く決心をします。
1947年から放送された、菊田和夫・作のラジオドラマ『鐘の鳴る丘』。その登場人物は、たちまち全国の人気者になっていました。
復員兵・加賀見修平は、感化院を脱走した弟をさがすうちに、戦災孤児たちと出あい、孤児たちとの生活がはじまります。修平は、故郷の信州の田舎に、この孤児たちといっしょにくらす自分たちのたのしい家をつくろうとしていました。
このストーリーは、あまりに博と戦災孤児たちのすがたに似ていました。
菊田一夫氏に面会を申し込み、「ドラマの加賀見修平のモデルに会わせてください。」とたのみましたが、菊田は、「ぼくがつくりだした人物で、モデルはいない。あなたの力でこの「鐘の鳴る丘」を現実のものにしてくれませんか。」といいました。
博はこのことばにとても勇気づけられ、きっと「鐘の鳴る丘」をつくってみせると決心するのです。
やっと見つけた土地を、博と少年たちは、自分たちの手で木の根を掘り起し、開墾します。
幾多の困難を乗り越え、少年たちは「鐘の鳴る丘」から未来に向かって羽ばたいていきます。
〜 くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ 〜 より
� 悗靴△錣擦泙韮核�キロ』― ドイツ兵の墓を守った高橋夫妻の真心
岡本文良・作 鴇田 幹・絵
図書館の児童書の伝記のコーナーには、数々の出版社による伝記シリーズがずらっと並んでいて、とても目を引きます。シリーズで取り上げられている人物は、どの出版社も似たり寄ったりという感じで、ナイチンゲール、シュバイツァー、キュリー夫人などといった超有名な人物か、豊臣秀吉、徳川家康など戦国の武将たちが目立ち、いささか食傷気味になっていました。現代に活躍している方たちが紹介されているシリーズもありますが、有名な方ばかりです。
知名度が低く、地味な存在だけれども、一生をかけて人のためになる何かをやり遂げた人たちのことを知りたくて、さがして読んでいます。そういった地味な本は、定番の伝記シリーズの間に埋もれるようにしてあり、いっそう目につきにくくて、残念に思うのです。
この<くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ>は、シリーズとして一度に全作品が出たものとは違い、１冊ずつ長期にわたって出版されているためか、図書館の書架でも、まとまって配置されていないし、ずっと前に出た本は、古くなったためか書庫に入っていたりします。
最近、『愛と勇気の鐘』― 孤児たちに一生をささげる品川博の愛の軌跡― に出会い、とても感動しました。<くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ>の中の作品ですが、この本をきっかけに、同シリーズの他の作品も読み始めています。ただ、これから取り上げる２冊（
１冊は次の欄で）も書庫に入っていて、とても残念に思いました。
『しあわせまで３万キロ』
徳島県の坂東というところは、第一次世界大戦で捕虜になったドイツ人収容所があった場所です。捕虜収容所の松江豊寿所長は、友愛の精神をもって捕虜たちに接することを指導しました。坂東谷川のほとりに建てられたドイツ館には、当時の捕虜たちと坂東町民の友愛ぶりを物語る資料もたくさん残されています。
高橋敏治さん夫妻は、不幸にも病気などで亡くなったドイツ人捕虜たちのさびれたお墓を見つけて手入れをし、ずっとお世話を続けて来られた方です。敏治さんは自分のあゆんできた道すじを、まるで戦争にいくために生まれてきたみたいだといいます。作者は、敏治さんの話こそ、戦争のおろかさと平和の尊さを教えてくれるものではないか ― それを伝えることは、ドイツ人捕虜と坂東町民の友愛の話を語りつたえるのと同じように大切なことではないかと考えて、この物語を書かれました。
〜 くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ 〜 より（前の欄より続きます） 『愛のかけ橋はきえず』
望月カズは、1927年（昭和2年）に東京で生まれました。４歳の時、母とともに満州（当時中国の東北地方は満州とよばれていた）に渡りました。
カズが満州に来た翌年、満州は日本軍のあとおしで、中国から独立して「満州国」に」なりました。日本が勢力をのばすためにつくった国なので、世界の国々が、つよく非難しました。
６歳の時母の突然の死でひとりぼっちになり、人から人へと売られる日々で、学校へも行けませんでした。12歳の時逃げ出し、満鉄の建設事務所の守衛室にたどりつき、たすけられ、日本人の家庭や日本病院などで働きました。
16歳になったとき、母の眠る満州に墓参りに旅立ちましたが、日中戦争の戦火がひろがり、太平洋戦争に突入。墓参りが果たせず、朝鮮で働きます。
終戦で日本に帰国しますが、苦しい生活の中、どうせ死ぬのなら母の眠る満州へいこう、と韓国へむかい、そこで朝鮮戦争に巻き込まれます。
戦争で両親を失った孤児を助け、生活をともにしていましたが、孤児たちに出会うと放っておけず、助けた孤児たちの数は増えていきました。カズは孤児たちを飢えさせないために一生懸命働きました。いよいよお金がないときは、自分の血を売って食費にあてました。
カズが開いていた理髪店のある子どもたちと暮らす家が、不法建築だといわれ、取り壊されたり、資格がないのに理容店を開いていることと、スパイの疑いをかけられたことで、留置場に入れられたこともありました。
ですが、韓国の子どもたちを一生懸命育てていることを知って救いの手を差しのべてくれる人たちもいました。カズはそのあたたかいはからいで、理容師の試験を受けられることになり、合格してはれて理容師の資格をもらいます。
新聞でカズのことをよんだ韓国の人たちは、カズを「愛の理容師」とよぶようになりました。
学校に行くことができなかった人が、こんなにも尊い生き方をされた。一方、高い学歴があっても、人の道をあやまることもある。人として一番大切なことは何なのか、とこの本に問いかけられているように感じました。
前の欄より続きます） 『愛のかけ橋はきえず』
望月カズは、1927年（昭和2年）に東京で生まれました。４歳の時、母とともに満州（当時中国の東北地方は満州とよばれていた）に渡りました。
カズが満州に来た翌年、満州は日本軍のあとおしで、中国から独立して「満州国」に」なりました。日本が勢力をのばすためにつくった国なので、世界の国々が、つよく非難しました。
６歳の時母の突然の死でひとりぼっちになり、人から人へと売られる日々で、学校へも行けませんでした。12歳の時逃げ出し、満鉄の建設事務所の守衛室にたどりつき、たすけられ、日本人の家庭や日本病院などで働きました。
16歳になったとき、母の眠る満州に墓参りに旅立ちましたが、日中戦争の戦火がひろがり、太平洋戦争に突入。墓参りが果たせず、朝鮮で働きます。
終戦で日本に帰国しますが、苦しい生活の中、どうせ死ぬのなら母の眠る満州へいこう、と韓国へむかい、そこで朝鮮戦争に巻き込まれます。
戦争で両親を失った孤児を助け、生活をともにしていましたが、孤児たちに出会うと放っておけず、助けた孤児たちの数は増えていきました。カズは孤児たちを飢えさせないために一生懸命働きました。いよいよお金がないときは、自分の血を売って食費にあてました。
カズが開いていた理髪店のある子どもたちと暮らす家が、不法建築だといわれ、取り壊されたり、資格がないのに理容店を開いていることと、スパイの疑いをかけられたことで、留置場に入れられたこともありました。
ですが、韓国の子どもたちを一生懸命育てていることを知って救いの手を差しのべてくれる人たちもいました。カズはそのあたたかいはからいで、理容師の試験を受けられることになり、合格してはれて理容師の資格をもらいます。
新聞でカズのことをよんだ韓国の人たちは、カズを「愛の理容師」とよぶようになりました。
学校に行くことができなかった人が、こんなにも尊い生き方をされた。一方、高い学歴があっても、人の道をあやまることもある。人として一番大切なことは何なのか、とこの本に問いかけられているように感じました。
『夜明けへの道』 岡本文良・作 こさかじげる・画
金の星社（1993年）
『みちのくの聖僧』 岡本文良・作 金野新一・画
ポプラ社（1977年3版）
偉人伝に出て来るような超有名な人物ではなく、知名度は低いけれども、一生をかけて人の役に立つ何かをやり遂げた人たちのことを知りたくて、さがして読んでいます。
最近、岡本文良（ぶんりょう）さんの著書に出会い、続けて何冊か読んでいます。先日ご紹介した「くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ」の中の１冊『しあわせまで３万キロ』も、岡本文良さんの著書でしたが、今日ご紹介する２冊も岡本さんの作です。岡本さんの著書は地味なテーマのものばかりで、ベストセラーになるような話題性とは程遠いのですが、そこにとてもひかれるのです。
『夜明けへの道』
この物語の主人公のビーム・アンベードカルは、20世紀のインドで、4000年も前から続いている階級制度の、最下層のアウトカーストの身分にありましたが、困難に立ち向かい、その階級制度をなくすために一生をささげた人です。最後は自分の属する宗教をすてて仏教徒になりました。 ほぼ同時代に生きた人ではガンジーが有名ですが、アンベードカルをとおして、一つの視点からだけでなく、違った視点からも当時のインドについて伺い知ることができました。ガンジーに比べて知名度が低いのをtとても残念に思いました。
アンベードカルの志をうけついで、階級の低いインド人のためにつくしている佐々井秀嶺というお坊さんのことも知ることができ、嬉しかったです。
『みちのくの聖僧』
本書と出会い、牧庵鞭牛というお坊さんのことを初めて知りました。物語というかたちをとっているので、堅苦しくなく、引きこまれて一気に読んでしまいました。
牧庵鞭牛は、宝永7年（1710年）の南部盛岡藩の和井内村（現在の岩手県宮古市）の農家に生まれ、22歳で仏門に入りました。32歳の時に栗林村（現在の岩手県釜石市）曹洞宗常楽寺住職、38歳で林宗寺住職になります。
過酷な立地条件のもとで、度重なる飢饉に多くの人々が餓死するなど、被害のあまりの大きさに直面し、古くから陸の孤島であったこの地方と内陸とを結ぶ道を築くことを決意し、以後は三陸沿岸の海辺道をはじめ、宮古から盛岡に至る往路などの開削に生涯を捧げます。
はじめは鞭牛の行為を不信に思っていた住民らも、彼の献身に感銘を受け、次第に協力するようになっていきます。鞭牛が73歳で没するまでに携わった道路は、宮古〜盛岡間の宮古街道をはじめ、吉里吉里〜山田間、腹帯〜南川目間、宮古〜岩泉間、橋野〜鵜住居間などの改修の総延長は、およそ400kmにも及びました。当時はつるはしを持っての作業で、400キロという距離を切り開くことがどんなに困難なことだったかと想像すると、気が遠くなるような思いがします。
いつか、鞭牛がつくった道を辿り、ゆかりの林宗寺、宝鏡院、南川目の洞窟、北川目の十三仏などを訪ねてみたいと思いました。
金の星社（1993年）
『みちのくの聖僧』 岡本文良・作 金野新一・画
ポプラ社（1977年3版）
偉人伝に出て来るような超有名な人物ではなく、知名度は低いけれども、一生をかけて人の役に立つ何かをやり遂げた人たちのことを知りたくて、さがして読んでいます。
最近、岡本文良（ぶんりょう）さんの著書に出会い、続けて何冊か読んでいます。先日ご紹介した「くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ」の中の１冊『しあわせまで３万キロ』も、岡本文良さんの著書でしたが、今日ご紹介する２冊も岡本さんの作です。岡本さんの著書は地味なテーマのものばかりで、ベストセラーになるような話題性とは程遠いのですが、そこにとてもひかれるのです。
『夜明けへの道』
この物語の主人公のビーム・アンベードカルは、20世紀のインドで、4000年も前から続いている階級制度の、最下層のアウトカーストの身分にありましたが、困難に立ち向かい、その階級制度をなくすために一生をささげた人です。最後は自分の属する宗教をすてて仏教徒になりました。 ほぼ同時代に生きた人ではガンジーが有名ですが、アンベードカルをとおして、一つの視点からだけでなく、違った視点からも当時のインドについて伺い知ることができました。ガンジーに比べて知名度が低いのをtとても残念に思いました。
アンベードカルの志をうけついで、階級の低いインド人のためにつくしている佐々井秀嶺というお坊さんのことも知ることができ、嬉しかったです。
『みちのくの聖僧』
本書と出会い、牧庵鞭牛というお坊さんのことを初めて知りました。物語というかたちをとっているので、堅苦しくなく、引きこまれて一気に読んでしまいました。
牧庵鞭牛は、宝永7年（1710年）の南部盛岡藩の和井内村（現在の岩手県宮古市）の農家に生まれ、22歳で仏門に入りました。32歳の時に栗林村（現在の岩手県釜石市）曹洞宗常楽寺住職、38歳で林宗寺住職になります。
過酷な立地条件のもとで、度重なる飢饉に多くの人々が餓死するなど、被害のあまりの大きさに直面し、古くから陸の孤島であったこの地方と内陸とを結ぶ道を築くことを決意し、以後は三陸沿岸の海辺道をはじめ、宮古から盛岡に至る往路などの開削に生涯を捧げます。
はじめは鞭牛の行為を不信に思っていた住民らも、彼の献身に感銘を受け、次第に協力するようになっていきます。鞭牛が73歳で没するまでに携わった道路は、宮古〜盛岡間の宮古街道をはじめ、吉里吉里〜山田間、腹帯〜南川目間、宮古〜岩泉間、橋野〜鵜住居間などの改修の総延長は、およそ400kmにも及びました。当時はつるはしを持っての作業で、400キロという距離を切り開くことがどんなに困難なことだったかと想像すると、気が遠くなるような思いがします。
いつか、鞭牛がつくった道を辿り、ゆかりの林宗寺、宝鏡院、南川目の洞窟、北川目の十三仏などを訪ねてみたいと思いました。
『愛の島に星がきらめく』― 奥浦慈恵院ものがたり
岡本文良・作 こさか しげる・絵
あすなろ書房（昭和61年）1200円
岡本文良さんの著書を続けて読んでいます。
新しい本に出会うたびに、知らないことがたくさんあることに気づかされます。
今日ご紹介する『愛の島に星がきらめく』も、まさにそんなことに気づかされた一冊でした。まず、表紙を開けると、長崎県の地図があります。地図の真ん中は海で、南は五島灘、その北は西海国立公園です。東には西彼杵半島があり、半島の付け根のあたりには長崎市と浦上天主堂があります。五島灘の西には五島列島があり、この物語の中心となる「奥浦慈恵院」のある奥浦は、五島列島のいちばん南に位置する福江島にあります。五島列島の島々のかたちや島の名前をまじまじと見たのも初めてなら、西彼杵半島の名前も知らなかったことに愕然としました。
この物語は、いろいろな事情から親の愛情にめぐまれなかった子どもたちに、明治時代から長い歳月にわたって、親にかわるふかい愛情をそそぎつづけている、長崎県五島列島の修道女たちの姿をえがいたものです。修道女たちは、子どもたちの身の回りの世話だけでなく、農業、機織り、養蚕、行商などに懸命に励み、子どもたちの学費を捻出し、物心両面から支えました。
子どもたちの中からも将来慈恵院を助ける人材が多く育ちました。
その中のタカという少女は、医者になりました。医者のなかった離れ島に、子どもたちの中から一人、医者になるべく人材を育てようということになり、精米所の仕事を新たに始め、皆で支えました。
少女たちや修道女たちが、人知れず清らかに咲く野の花のように感じられました。そしてひたむきに、懸命に生きた名もない人たちのことを本に表された著者を、とても素晴らしいと思いました。
『111歳、いつでも今から』 後藤はつの
河出書房新社（2015年2月）1300円
後藤はつのさんは、アマチュアの画家で、明治36年、新潟県妙高山麓・赤倉温泉生まれの111歳。現在は東京都墨田区に息子さんのご家族と暮らしています。
はつのさんが絵を描き始めたのは、73歳のとき。子どもや孫の手が離れ、持て余していた時間つぶしのためであり、何かしないとボケてしまうかも、と軽い気持ちから始めたことでした。
82歳で展覧会で入選。以来、100号という畳１枚くらいの大きなキャンバスに向かって１年に１枚づつを出展のために描き続けました。
99歳まで描き続けた絵は体力的なこともあって一旦離れ、100歳からは、百人一首、詩吟に新たに挑戦。アメリカ旅行にも出かけました。
お習字の練習にも取り組んでいて、季節折々のご挨拶状200通ほどの、１通１通に直筆で言葉を記しているということです。
後藤さんの描く絵のテーマは、幼いころの故郷の暮らしと思い出です。囲炉裏端に集う家族、お祭りや遠足、田植え、雪道の通学、野外教室、市場に並んでいた招き猫、だるま市、凧揚げ会など、明るい色彩と、楽しい雰囲気が伝わってくる絵に癒されます。
はつのさんはいつも赤がメインの服を着ています。76歳のとき、ぶつかり事故で骨折し、入院。それがきっかけで目立つような赤い服を身につけるようになりました。そして赤い服を着ていると本当に元気がでるのだそうです。
はつのさんはおしゃれ心と、いつも笑顔を忘れない、本当に素敵な方です。
「いつか自分が亡くなって、消えて骨になっていくときでも、笑顔とともに旅立ちたい」
元気をいっぱい頂いた一冊でした。
写真・右は、ネットより拝借した、過去の展覧会の様子。
『ぼくの夢は学校へ行くこと』 バングラデシュ〜紅茶畑の軒下教室から〜
今西乃子・文 浜田一男・写真
佼成出版社（2002年）1500円
著者が国際支援というものに興味を持ったのは、本書を書かれる３年前のことでした。
ある日、テレビでアジアの貧しい国の子どもたちのことがニュースで放送されていました。レポーターが、路上で生活している子どもたちに「今、一番したいことは何ですか？」とたずねました。著者は、食べ物や衣服がほしいという答えを予想していたのですが、日々の生活を送ることにせいいっぱいであるにもかかわらず、ほとんどの子どもが「学校へ行ってみたい」と答えたのです。
その理由は？ 著者の中に問いがふくらんでいきました。
そして、子どもたちが、なぜ勉強をしたがっているのか、何となくわかるような気がしてきました。
それは“希望”です。
子どもたちは、今は貧しいけれど、「勉強していろいろなことを学べば、未来には楽しいことがあるんじゃないか」「大人になったら、いろんなことができるんじゃないか」と、“大きな希望”を持って、毎日をせいいっぱい生きているのです。
実際に貧しい子どもたちを見るまでは、食料や衣服などを送る、またそれらを買うお金を送ることが、国際支援だと思っていました。
しかし、１年分の食料が送られてきても、１年後にはまた、飢えと戦わなければならないのですから、これでは子どもたちの将来への“希望”にはつながりません。
そう考えているうちに、著者は、子どもたちの将来への希望を持てるような支援活動に参加してみたい、と思うようになりました。
同時に、「貧しい子どもはかわいそう」という気持ちは消え、苦境の中でも、希望をすてずに生きている子どもたちが、とてもかがやいて見えてきたのです。
著者は、インターネットでさがしているうちに、NGO「アジア教育支援の会（ESA）」を見つけ、事務所をたずねます。 事務局長の水野さんは「支援というものは支援を受ける人だけがあたえてもらうものではありません。支援するわたしたちも、かれらから、たくさんのものをあたえてもらっているのです。それは目に見えるものではありませんが、人間として生きていく上で、それを得るのと得ないのとでは、天と地ほどの差はあります。」と話されます。
著者は、ESAの支援先の一つ、バングラデシュの紅茶畑に住む貧しい子どもたちのところに視察に行くことになります。
私も今までは、著者と同じように、「国際支援」というものに対して、ばくぜんとした捉え方しか出来ていなかったのですが、本書と出会って、やっと目が開かされた気がします。感謝の一冊でした。
表紙写真は、医者になる夢を持っているジュトン君。彼は素晴らしい子でした。
〜 くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ�� 〜
『はるかなり モヨロの里』 ― 貝塚に魅せられた米村喜男衛の一生
吉樹朔生・作 高田 勲・絵
くもん出版（1987年）
本書を読んで、以前にご紹介した本に登場した二人の人物が浮かんできました。その一人は、絵本『あたまにつまった石ころが』の主人公で、色々な石を集めるのが趣味で、のちに博物館の館長になったお話でした。もう一人は、ヤマネの観察・研究を一筋に続け、ヤマネミュージアムの館長さんになった、湊 秋作さんです。
好きなことを一心に続けてきたことが、ずっとのちの人生に美しい本物の花を咲かせることになる。本書に描かれている米村喜男衛さんも、まさにそんな方だと思いました。
こんなお話を読むと、人生捨てたものではないと嬉しくなってきます。
米村喜男衛は、明治25（1892）年に、青森県南津軽郡常盤村で生まれ、祖母の昔話を聞いて育ちました。近くには古代遺跡があり、祖母はその遺跡にまつわるはなしや、そのほかの名所のいわれも語ってくれました。
小学３年生になったある日、山の畑であそんでいて古代人が使っていた石のナイフを拾ったことをきっかけに、考古学への興味がひろがっていきました。
中学校へ進学し喜男衛でしたが、経済的な理由で勉学を断念します。
床屋の修行をしながらも、休日には遺跡をめぐり、集めた遺物を参考書で調べました。
修行がおわったとき、学問はやはり東京でやらなければと、上京。働きながらさらに研究を続けます。そののち、アイヌの人びとにひかれ、北海道の網走まで行き、ここでも理髪店を営みながら研究を続けました。
喜男衛が発見した貝塚はのちに「モヨロ貝塚」と名づけられました。ここから出土した人骨は、日本人ともアイヌの人びとともちがいました。
喜男衛の家は、理髪店だか博物館だかわからなくなっていきました。友人たちの協力を得て、博物館をつくる計画が進み、ついに『北見郷土館』（のちに網走郷土博物館）が開館し、喜男衛はそこの館長となります。
『はるかなり モヨロの里』 ― 貝塚に魅せられた米村喜男衛の一生
吉樹朔生・作 高田 勲・絵
くもん出版（1987年）
本書を読んで、以前にご紹介した本に登場した二人の人物が浮かんできました。その一人は、絵本『あたまにつまった石ころが』の主人公で、色々な石を集めるのが趣味で、のちに博物館の館長になったお話でした。もう一人は、ヤマネの観察・研究を一筋に続け、ヤマネミュージアムの館長さんになった、湊 秋作さんです。
好きなことを一心に続けてきたことが、ずっとのちの人生に美しい本物の花を咲かせることになる。本書に描かれている米村喜男衛さんも、まさにそんな方だと思いました。
こんなお話を読むと、人生捨てたものではないと嬉しくなってきます。
米村喜男衛は、明治25（1892）年に、青森県南津軽郡常盤村で生まれ、祖母の昔話を聞いて育ちました。近くには古代遺跡があり、祖母はその遺跡にまつわるはなしや、そのほかの名所のいわれも語ってくれました。
小学３年生になったある日、山の畑であそんでいて古代人が使っていた石のナイフを拾ったことをきっかけに、考古学への興味がひろがっていきました。
中学校へ進学し喜男衛でしたが、経済的な理由で勉学を断念します。
床屋の修行をしながらも、休日には遺跡をめぐり、集めた遺物を参考書で調べました。
修行がおわったとき、学問はやはり東京でやらなければと、上京。働きながらさらに研究を続けます。そののち、アイヌの人びとにひかれ、北海道の網走まで行き、ここでも理髪店を営みながら研究を続けました。
喜男衛が発見した貝塚はのちに「モヨロ貝塚」と名づけられました。ここから出土した人骨は、日本人ともアイヌの人びとともちがいました。
喜男衛の家は、理髪店だか博物館だかわからなくなっていきました。友人たちの協力を得て、博物館をつくる計画が進み、ついに『北見郷土館』（のちに網走郷土博物館）が開館し、喜男衛はそこの館長となります。
『地雷の村で「寺子屋づくり」』 今関信子・著
PHP研究所（2003年）
栗本さんは、タイでボランティア活動に携わっていたとき、ボランティア活動をする人たちに疑問をもつようになったといいます。
日本から活動のためのお金が送られてきても、まず安定するのは、日本のボランティアたちだった。タイの力ある大人たちも、安定した暮らしを手に入れた。弱いものや子どもたちは、大人たちが安定するために利用されているように見えた。しかし見返りをもとめないで奉仕をしている若い人たちもいた･･･。
栗本さんが活動の場を探しはじめたころ、カンボジアの内戦が終わりました。
カンボジアのポイペットという町は、難民がたくさんながれてきた町で、教育を受けたくても受けられない現実があります。ポイペットの町では20％ぐらいの人しか文字が読めないといいます。
その町で、栗本さんは、ひとりで「寺子屋」をつくりはじめました。今関信子さんは、いまだ地雷の危険にさらされている現地に飛び、一週間を栗本さと行動を共にされ、夜はベランダでさまざまなことについて語り合います。栗本さんの生い立ちやNGOの活動をするに至った経緯なども語られます。
著者の体当たりの一週間のさまざまな体験と思いが、率直な文章をとおして伝わってきて、それは大きく私の心を揺さぶりました。
栗本さんは活動資金を自分で働いてまかなっています。現地での観光ガイド、大工や左官の仕事の技術を生かして日本に働きに行き、講演もします。
のちに日本で栗本さんに再会した著者は、その後のカンボジアと栗本さんの活動についてたずねます。
栗本さんは最近、支援もお願いしているといいます。
現地に飛び込んで体験してみないとわからないことがたくさんあるが、色々な事情でそれが出来ない人も多い。
「するほうも受けるほうも、むりのない支援がいいんですよ。」
「同じ時間、同じ地球に住んでいるんですものね。」
今関信子さんは、滋賀県守山市在住の作家です。これからも注目していきたいです。
その後の栗本英世さんについて知りたくて、インターネットで調べてみました。
2011年の書き込みには、次のようにありました。
<５年前に脳腫瘍で余命数カ月の宣告を受けた。「医者から死を宣告されたとき、とてもすがすがしい気持ちになりました。自分はやるべきことをやってきたという自信があったからだと思います」と振り返る。その後奇跡的に回復。「苦しむ人のそばでの援助活動」を再開するため、今春カンボジアへ戻る。
どうか、お身体を大切にと祈っています。
写真は、ナットから拝借しました。真ん中は、栗本さん。右は、本書が出版されたころの
ようです。
PHP研究所（2003年）
栗本さんは、タイでボランティア活動に携わっていたとき、ボランティア活動をする人たちに疑問をもつようになったといいます。
日本から活動のためのお金が送られてきても、まず安定するのは、日本のボランティアたちだった。タイの力ある大人たちも、安定した暮らしを手に入れた。弱いものや子どもたちは、大人たちが安定するために利用されているように見えた。しかし見返りをもとめないで奉仕をしている若い人たちもいた･･･。
栗本さんが活動の場を探しはじめたころ、カンボジアの内戦が終わりました。
カンボジアのポイペットという町は、難民がたくさんながれてきた町で、教育を受けたくても受けられない現実があります。ポイペットの町では20％ぐらいの人しか文字が読めないといいます。
その町で、栗本さんは、ひとりで「寺子屋」をつくりはじめました。今関信子さんは、いまだ地雷の危険にさらされている現地に飛び、一週間を栗本さと行動を共にされ、夜はベランダでさまざまなことについて語り合います。栗本さんの生い立ちやNGOの活動をするに至った経緯なども語られます。
著者の体当たりの一週間のさまざまな体験と思いが、率直な文章をとおして伝わってきて、それは大きく私の心を揺さぶりました。
栗本さんは活動資金を自分で働いてまかなっています。現地での観光ガイド、大工や左官の仕事の技術を生かして日本に働きに行き、講演もします。
のちに日本で栗本さんに再会した著者は、その後のカンボジアと栗本さんの活動についてたずねます。
栗本さんは最近、支援もお願いしているといいます。
現地に飛び込んで体験してみないとわからないことがたくさんあるが、色々な事情でそれが出来ない人も多い。
「するほうも受けるほうも、むりのない支援がいいんですよ。」
「同じ時間、同じ地球に住んでいるんですものね。」
今関信子さんは、滋賀県守山市在住の作家です。これからも注目していきたいです。
その後の栗本英世さんについて知りたくて、インターネットで調べてみました。
2011年の書き込みには、次のようにありました。
<５年前に脳腫瘍で余命数カ月の宣告を受けた。「医者から死を宣告されたとき、とてもすがすがしい気持ちになりました。自分はやるべきことをやってきたという自信があったからだと思います」と振り返る。その後奇跡的に回復。「苦しむ人のそばでの援助活動」を再開するため、今春カンボジアへ戻る。
どうか、お身体を大切にと祈っています。
写真は、ナットから拝借しました。真ん中は、栗本さん。右は、本書が出版されたころの
ようです。
〜くもんのノンフィクション＊愛のシリーズ〜
『ブータンの朝日に夢をのせて』 木暮正夫・作 こぐれけんじろう・絵
くもん出版（1996年）
本書は、ヒマラヤの王国ブータンで、真の国際協力をとげた、西岡京治の物語です。
京治は、1964年から1992年までの28年の歳月をかけて、遅れていたブータンの農業を向上させることに貢献しました。ブータンでは京治のことを誰もが知っていて、敬愛されているということです。
京治は、ブータンの農家の人たちが自立できるよう、そしてその自立が永続するよう、さらには農業を安定させることで、村の生活全体が向上することをめざしました。次世代のブータンの農業を指導していく人材育成にも力を注ぎました。
西岡京治がブータンでおこなった農業指導は、日本の国際協力のもっとも成功した例にあげられています。たくさんの費用や技術者を投入した大型プロジェクトでもできないことを、京治は手間ひまをかけ、まごころをかけ、ひとつずつ可能にしていきました。ブータンの農民の立場にたって、だれもが納得のいく無理のない方法で、ものごとを進めていきました。
ブータンという国について知りたいと思いながら、とっかかりがなくて今まで来てしまいましたが、西岡京治さんと奥様の里子さんという素晴らしい国際協力をとげた日本人をとおして、ブータンについて少しなりとも知ることが出来たことを、嬉しく思いました。
「西岡京治に国民栄誉賞を」と言われた方があったと書かれていました。（お名前を忘れましたが、本を図書館に返却してしまい確かめることが出来ません） 本当にこのような方こそ、国民栄誉賞にふさわしいのに、とても残念に思いました。
『ブータンの朝日に夢をのせて』 木暮正夫・作 こぐれけんじろう・絵
くもん出版（1996年）
本書は、ヒマラヤの王国ブータンで、真の国際協力をとげた、西岡京治の物語です。
京治は、1964年から1992年までの28年の歳月をかけて、遅れていたブータンの農業を向上させることに貢献しました。ブータンでは京治のことを誰もが知っていて、敬愛されているということです。
京治は、ブータンの農家の人たちが自立できるよう、そしてその自立が永続するよう、さらには農業を安定させることで、村の生活全体が向上することをめざしました。次世代のブータンの農業を指導していく人材育成にも力を注ぎました。
西岡京治がブータンでおこなった農業指導は、日本の国際協力のもっとも成功した例にあげられています。たくさんの費用や技術者を投入した大型プロジェクトでもできないことを、京治は手間ひまをかけ、まごころをかけ、ひとつずつ可能にしていきました。ブータンの農民の立場にたって、だれもが納得のいく無理のない方法で、ものごとを進めていきました。
ブータンという国について知りたいと思いながら、とっかかりがなくて今まで来てしまいましたが、西岡京治さんと奥様の里子さんという素晴らしい国際協力をとげた日本人をとおして、ブータンについて少しなりとも知ることが出来たことを、嬉しく思いました。
「西岡京治に国民栄誉賞を」と言われた方があったと書かれていました。（お名前を忘れましたが、本を図書館に返却してしまい確かめることが出来ません） 本当にこのような方こそ、国民栄誉賞にふさわしいのに、とても残念に思いました。
『グリーン・ファーザー』
〜インドの砂漠を緑にかえた日本人・杉山龍丸の軌跡〜
杉山満丸・著 ひくまの出版（2001年）1500円
インドの人びとから、グリーン・ファーザーとよばれた杉山龍丸という人がいます。本書は、そのご子息である杉山満丸さんによって記された、龍丸の足跡をたどる心の旅です。
インドは古代分明以来、森の木を切り倒してきました。森林がなくなったことで、大地の水がなくなり、地面は乾燥し、砂漠になっていきました。龍丸は、今インドに必要なのは、植林をすることだと、ユーカリの木を植えることを進言します。
まず、デリー ― アンバラ市 ― アムリッツアルまで、約470キロメートルの国際道路の沿線両側に、ユーカリの木を植えていきました。ユーカリが育つと地下に水がたくわえられ、そのまわりの土地で、稲、馬鈴薯、麦の三毛作が可能になりました。
インドのヒマラヤ山脈に続いているシュワリック・レンジ（丘陵）で、約3000キロメートルにわたり、土砂崩落の現象が起きていました。日本列島よりも長い地域です。誰もがこの崩落をくい止めることは無理だと言いました。しかし龍丸は、崩落をくい止める方法を見つけ、やがてシュワリックの砂漠の丘に緑の風が渡るようになるのです。
龍丸とともに苦労を分け合い、緑を育てる戦いに参加してきた農業試験場の研究員たちは言います。「タツマル・スギヤマは、緑のガンジーさんです。インドの独立の父はガンジーさん、インドの緑の父はスギヤマさんです。」
龍丸の偉大な事業の背景には、龍丸の祖父・茂丸、父・泰道、そして龍丸と三代にわたる心の歴史がありました。
福岡の郊外に約４万坪の杉山農園を明治の時代にアジアの農業試験場としてつくりあげた茂丸、その志を文学の領域で開花させようとした泰道（夢野久作）、そして龍丸は、杉山農園の土地をなげうって植林の事業費にあて、インドの荒廃した土地に木を植えつづけていきました。
＜解説＞を書かれた、那須田稔さんの言葉から。
“この誠実な人間の記録を、地球を愛する全ての人々、未来に希望を持ちつづけたいと願っている中学生や、若い人たちにぜひ、読んでいただきたいと私は思う”
表紙写真は、杉山龍丸の植えた記念の木の前で、二人の孫を抱くスクラマジーラ村の村長と、著者。著者が190センチと大柄なためか、村長さんが小柄に見えます。二人の表情が何ともいえずいいです。
『世界一の紙芝居屋 ヤッサンの教え』 安野侑志 高田真理
ダイヤモンド社（2014年）1300円
新聞で本書のことを知り、紙芝居が大好きな私はわくわくして、さっそく読んでみたくなりました。
ヤッサンこと安野侑志（やすのゆうし）さんは、紙芝居歴40年のプロの紙芝居屋さんです。
「紙芝居は“古きよき時代の懐かしいもの”のままじゃだめだ。時代に合わせて、進化させていかなければ絶滅してしまう」
ヤッサンは紙芝居の新しい形を創り続けてきました。その信念と、想いを貫き通す行動力は、まさに「世界一の紙芝居屋」に違いないと、弟子の高田真理さんは語られます。
ヤッサンは日本全国はもちろん、依頼があれば紙芝居を携えて、どこにでも口演にでかけます。2006年より京都国際マンガミュージアムの、ヤッサン一座専用の常設の紙芝居小屋にて定例口演をスタート。韓国、イギリス、アメリカなどでも口演。夢は「紙芝居を千年続く、日本文化にすること」。50人近くの紙芝居師を育てるなど後進育成にも尽力
自分で自分の生きる道を切り開いてきたからこその、説得力のある一つ一つの言葉。
「“ヤッサンの生き様”と“自分のやりたいことで生きていくための信念”を伝えたい」
高田真理さんは本書の執筆にあたって、ヤッサンの許可を得て、ヤッサンが書き溜めてきた“日死” 数十冊（ヤッサンは日記のことを“日死”と呼んでいました）、ハガキ千枚近くを全て読み返し、稽古場や口演先など、あらゆるところに同行し、ポツリポツリの語られる言葉を拾い、まとめられました。
ヤッサンは。残念ながら2012年8月25日に逝去されましたが、その意志はお弟子さんたちに引き継がれ、さらに大きく発展していくことと思います。「紙芝居で世界に平和を」というヤッサンの夢の実現に向かって。私もそんな未来を夢に描いて、心をふくらませました。
ダイヤモンド社（2014年）1300円
新聞で本書のことを知り、紙芝居が大好きな私はわくわくして、さっそく読んでみたくなりました。
ヤッサンこと安野侑志（やすのゆうし）さんは、紙芝居歴40年のプロの紙芝居屋さんです。
「紙芝居は“古きよき時代の懐かしいもの”のままじゃだめだ。時代に合わせて、進化させていかなければ絶滅してしまう」
ヤッサンは紙芝居の新しい形を創り続けてきました。その信念と、想いを貫き通す行動力は、まさに「世界一の紙芝居屋」に違いないと、弟子の高田真理さんは語られます。
ヤッサンは日本全国はもちろん、依頼があれば紙芝居を携えて、どこにでも口演にでかけます。2006年より京都国際マンガミュージアムの、ヤッサン一座専用の常設の紙芝居小屋にて定例口演をスタート。韓国、イギリス、アメリカなどでも口演。夢は「紙芝居を千年続く、日本文化にすること」。50人近くの紙芝居師を育てるなど後進育成にも尽力
自分で自分の生きる道を切り開いてきたからこその、説得力のある一つ一つの言葉。
「“ヤッサンの生き様”と“自分のやりたいことで生きていくための信念”を伝えたい」
高田真理さんは本書の執筆にあたって、ヤッサンの許可を得て、ヤッサンが書き溜めてきた“日死” 数十冊（ヤッサンは日記のことを“日死”と呼んでいました）、ハガキ千枚近くを全て読み返し、稽古場や口演先など、あらゆるところに同行し、ポツリポツリの語られる言葉を拾い、まとめられました。
ヤッサンは。残念ながら2012年8月25日に逝去されましたが、その意志はお弟子さんたちに引き継がれ、さらに大きく発展していくことと思います。「紙芝居で世界に平和を」というヤッサンの夢の実現に向かって。私もそんな未来を夢に描いて、心をふくらませました。
ジェーン・アダムスの生涯』 ジャッドソン／作 村岡花子／訳
岩波少年文庫・3012（1953年初版）
ジェーン・アダムスという人について、本書と出会うまでは名前すら知りませんでした。
本当に知らないことがいっぱいあります。本の紹介をしていると、自分が知らないことだらけなのを皆さんに暴露しているようで、恥ずかしく感じることがあります。でも、表面を取り繕って良く見せようとするのはもっと恥ずかしいことになると思うので、正直にありのままをさらけだすことにしました。
ジェーン・アダムス（1860年9月6日〜1935年年5月21日）は、アメリカの女性で、全米で女性初のノーベル平和賞を受賞した方です。ジェーン・アダムスがハル・ハウスという隣保館（セツルメント）を作って、さびしい人々の友だちになったことは、世界中に知れわたっているということです。ハル・ハウスという名前は聞いたことがありましたが、それだけだった自分が、やっときっかけをいただくことが出来ました。
ジェーン・アダムスの偉大な生涯の方向を決定づけた幼いころの体験は何だったのか。どんな考えかたを幼い年月の間にいだいていたか･･･。
ジェーンが、幼いころから身体が弱く、背骨に持病をかかえていたことも、ジェーンの生き方に深く影響を及ぼしたのではないかと思いました。
1889年、ジェーンは親友のエレン・スターと共同で、シカゴの貧民街にあった古い別荘を提供してもらい、ハルハウスを設立。
ハルハウスは、成人のための夜間学校、幼稚園、少年少女のためのクラブ活動、慈善食堂、画廊、喫茶部、体育館、プール、製本所、音楽教室、図書館などを備えた大規模な活動に発展して行きました。
さまざまなエピソードが出て来ますが、映画の場面のように登場人物の動きがまぶたに浮かんで来て、お話を身近なものに感じさせてくれました。
この本の原著者のクララ・イングラム・ジャッドソンは、有名な児童文学者で、伝記を書くことに特にすぐれており、少年少女のためにすぐれた伝記をたくさん書かれたということです。
岩波少年文庫・3012（1953年初版）
ジェーン・アダムスという人について、本書と出会うまでは名前すら知りませんでした。
本当に知らないことがいっぱいあります。本の紹介をしていると、自分が知らないことだらけなのを皆さんに暴露しているようで、恥ずかしく感じることがあります。でも、表面を取り繕って良く見せようとするのはもっと恥ずかしいことになると思うので、正直にありのままをさらけだすことにしました。
ジェーン・アダムス（1860年9月6日〜1935年年5月21日）は、アメリカの女性で、全米で女性初のノーベル平和賞を受賞した方です。ジェーン・アダムスがハル・ハウスという隣保館（セツルメント）を作って、さびしい人々の友だちになったことは、世界中に知れわたっているということです。ハル・ハウスという名前は聞いたことがありましたが、それだけだった自分が、やっときっかけをいただくことが出来ました。
ジェーン・アダムスの偉大な生涯の方向を決定づけた幼いころの体験は何だったのか。どんな考えかたを幼い年月の間にいだいていたか･･･。
ジェーンが、幼いころから身体が弱く、背骨に持病をかかえていたことも、ジェーンの生き方に深く影響を及ぼしたのではないかと思いました。
1889年、ジェーンは親友のエレン・スターと共同で、シカゴの貧民街にあった古い別荘を提供してもらい、ハルハウスを設立。
ハルハウスは、成人のための夜間学校、幼稚園、少年少女のためのクラブ活動、慈善食堂、画廊、喫茶部、体育館、プール、製本所、音楽教室、図書館などを備えた大規模な活動に発展して行きました。
さまざまなエピソードが出て来ますが、映画の場面のように登場人物の動きがまぶたに浮かんで来て、お話を身近なものに感じさせてくれました。
この本の原著者のクララ・イングラム・ジャッドソンは、有名な児童文学者で、伝記を書くことに特にすぐれており、少年少女のためにすぐれた伝記をたくさん書かれたということです。
若き鉄鋼王『カーネギー』 クララ・イングラム・ジャドソン・作
河田智雄・訳 学習研究社（1971年・初版）
カーネギーといえば、あまりにも有名なアメリカの実業家で、私たち庶民とはかけ離れた存在のようにずっと思って来ました。何年か前に読んだ本の中に、カーネギーについて書かれている箇所があり、アメリカにたくさんの図書館をつくった方だということを知り、いつかもっと詳しく知りたいと思ってきましたが、きっかけがあり本書と出会うことが出来ました。
先日、『ジェーン・アダムスの生涯』を読み、原作者・ジャドソンの名前を初めて知りました。アメリカの作家で、すぐれた伝記をたくさん著した方だとあり、ジャドソンの他の著作も読んでみたくなって図書館で調べ、本書と出会いました。結局あったのは、『ジェーン・アダムスの生涯』と、この『カーネギー』の２冊だけだったのは残念でしたが。
アンドリュー・カーネギーは、スコットランド生まれ。父親は腕のいい機織り工でしたが、機械化の波に逆らえず、仕事が立ち行かなくなり、一家でアメリカのピッツバーグへ移住します。アンドリューが13歳の時でした。
アンドリューは、両親を助けて働き、どんな時もあきらめず、知恵を働かせ、人並みはずれた前向きな生き方で道を切り開いて行き、さまざまな仕事を経たのち、「鉄鋼王」と言われるまでになります。
カーネギーは、自分のつくった巨万の富を社会におくりましたが、慈善家とよばれることをこのみませんでした。自分はあくまでも富の＜配分者＞だと思っていたのです。
カーネギーはアメリカに2811の図書館をたて、他の英語国にも300の図書館をたて、その範囲は英国から南太平洋のフィジー諸島までおよんだ、とあります。
＜富の配分＞は、教育の振興、いろいろな宗派の教会に、約8000のオルガンを寄付するなど、多方面にわたりました。他人の身代わりになって死んだ人の遺族を援助するためにもうけられた＜英雄基金＞まであったということです。
また、カーネギーは平和のためにもつくした人です。国際紛争の解決のために設立された、ハーグ国際司法裁判所の建設資金を寄付したことや、国際平和の増進のために１千万ドルの基金を設けたことなども書かれていました。
河田智雄・訳 学習研究社（1971年・初版）
カーネギーといえば、あまりにも有名なアメリカの実業家で、私たち庶民とはかけ離れた存在のようにずっと思って来ました。何年か前に読んだ本の中に、カーネギーについて書かれている箇所があり、アメリカにたくさんの図書館をつくった方だということを知り、いつかもっと詳しく知りたいと思ってきましたが、きっかけがあり本書と出会うことが出来ました。
先日、『ジェーン・アダムスの生涯』を読み、原作者・ジャドソンの名前を初めて知りました。アメリカの作家で、すぐれた伝記をたくさん著した方だとあり、ジャドソンの他の著作も読んでみたくなって図書館で調べ、本書と出会いました。結局あったのは、『ジェーン・アダムスの生涯』と、この『カーネギー』の２冊だけだったのは残念でしたが。
アンドリュー・カーネギーは、スコットランド生まれ。父親は腕のいい機織り工でしたが、機械化の波に逆らえず、仕事が立ち行かなくなり、一家でアメリカのピッツバーグへ移住します。アンドリューが13歳の時でした。
アンドリューは、両親を助けて働き、どんな時もあきらめず、知恵を働かせ、人並みはずれた前向きな生き方で道を切り開いて行き、さまざまな仕事を経たのち、「鉄鋼王」と言われるまでになります。
カーネギーは、自分のつくった巨万の富を社会におくりましたが、慈善家とよばれることをこのみませんでした。自分はあくまでも富の＜配分者＞だと思っていたのです。
カーネギーはアメリカに2811の図書館をたて、他の英語国にも300の図書館をたて、その範囲は英国から南太平洋のフィジー諸島までおよんだ、とあります。
＜富の配分＞は、教育の振興、いろいろな宗派の教会に、約8000のオルガンを寄付するなど、多方面にわたりました。他人の身代わりになって死んだ人の遺族を援助するためにもうけられた＜英雄基金＞まであったということです。
また、カーネギーは平和のためにもつくした人です。国際紛争の解決のために設立された、ハーグ国際司法裁判所の建設資金を寄付したことや、国際平和の増進のために１千万ドルの基金を設けたことなども書かれていました。
『石井のおとうさんありがとう』 ― 石井十次の生涯
和田 登・著 和田春奈・画
総和社（平成16年）1400円
石井十次はl865年(慶慶応元年)4月11日、宮崎県生まれの我が国の児童福祉の先駆者です。
まだ22歳で、医者になるため学校に通っていたころ、たまたま、一人の孤児を預かったことがきっかけで、今の岡山市に孤児院を開きました。
十次は最初から孤児救済施設を「教育院にして養育院にあらず」と述べ、食べさせるだけではなく労働を通じて教育をすることが大切との信念で、約3000人以上の孤児救済に生涯を捧げました。
岡山孤児院はすでに存在しませんが、その流れをくむ石井記念友愛社（宮崎県）と石井記念愛染園（大阪府）が、各種の福祉活動をおこなっているということです。
本書との出会いをいただき、十次についてもっと詳しく知りたくて、ネットで調べてみました。
石井十次は、、留岡幸助、山室軍平,アリス・ペティ・アダムスとともに「岡山四聖人」と称されているということです。
「留岡幸助」は、「感化事業の父」と称され、この感化事業とは少年少女を非行から保護や教育して矯正を図る事業を言います。
「山室軍平」は、日本人初の救世軍士官。
「アリス・ペティ・アダムス」はアメカ人女性宣教師で、1891年に岡山花畑地区の子どもたちとクリスマス会を持ち日本学校を開始、これが日本最初のセツルメントとなりました。セツルメントとは、「貧しい人が多く住む区域に定住、住民と親しく触れ合って生活の向上に努める社会運動。 また、その為の宿泊所・授産所・託児所などの設備。」です。
この「岡山４聖人」については、地元岡山でも、４人の名前をすらすら言えない人が多いということで、残念だと書かれているブログもありました。
留岡幸助に関しては、映画をとおして知っていましたが、山室軍平に関しては名前のみ、アリス・ペティ・アダムスに関しては名前すら知りませんでした。一冊の本をとおして世界がひろがっていくことをとてもありがたく思いました。
石井十次については、松平健さんが主演し、山田火砂子・監督で映画にもなっています。十次は身体の大きな人だったそうですが、松平健さん、よく似ていますね。イメージにぴったりです。
和田 登・著 和田春奈・画
総和社（平成16年）1400円
石井十次はl865年(慶慶応元年)4月11日、宮崎県生まれの我が国の児童福祉の先駆者です。
まだ22歳で、医者になるため学校に通っていたころ、たまたま、一人の孤児を預かったことがきっかけで、今の岡山市に孤児院を開きました。
十次は最初から孤児救済施設を「教育院にして養育院にあらず」と述べ、食べさせるだけではなく労働を通じて教育をすることが大切との信念で、約3000人以上の孤児救済に生涯を捧げました。
岡山孤児院はすでに存在しませんが、その流れをくむ石井記念友愛社（宮崎県）と石井記念愛染園（大阪府）が、各種の福祉活動をおこなっているということです。
本書との出会いをいただき、十次についてもっと詳しく知りたくて、ネットで調べてみました。
石井十次は、、留岡幸助、山室軍平,アリス・ペティ・アダムスとともに「岡山四聖人」と称されているということです。
「留岡幸助」は、「感化事業の父」と称され、この感化事業とは少年少女を非行から保護や教育して矯正を図る事業を言います。
「山室軍平」は、日本人初の救世軍士官。
「アリス・ペティ・アダムス」はアメカ人女性宣教師で、1891年に岡山花畑地区の子どもたちとクリスマス会を持ち日本学校を開始、これが日本最初のセツルメントとなりました。セツルメントとは、「貧しい人が多く住む区域に定住、住民と親しく触れ合って生活の向上に努める社会運動。 また、その為の宿泊所・授産所・託児所などの設備。」です。
この「岡山４聖人」については、地元岡山でも、４人の名前をすらすら言えない人が多いということで、残念だと書かれているブログもありました。
留岡幸助に関しては、映画をとおして知っていましたが、山室軍平に関しては名前のみ、アリス・ペティ・アダムスに関しては名前すら知りませんでした。一冊の本をとおして世界がひろがっていくことをとてもありがたく思いました。
石井十次については、松平健さんが主演し、山田火砂子・監督で映画にもなっています。十次は身体の大きな人だったそうですが、松平健さん、よく似ていますね。イメージにぴったりです。
『津波をこえたひまわりさん』― 小さな連絡船で大島を救った菅原進
今関信子＝文 佼成出版社（2012年7月）1500円
平成23年3月11日、宮城県北東部の海にうかぶ大島を巨大な津波がおそいました。
大島と本土を結ぶ連絡船「ひまわり」の船長、菅原進さんは、「このままでは島が孤立する」と、「ひまわり」とともに津波を乗り切る決心をします･････。
大島の船は、まだ一そうも海にでていないようです。このままでは、船は残らず津波にやられてしまう。もし、船が一そうもなくなったら、大島は孤立してしまいます。
『遠くのしけは、早くにげろ。近くのしけは、向かっていけ』という言葉を思い出し、菅原さんは、エンジン全開で沖をめざしました。最初の15、6メートルの波を乗り越えることができ、何度も乗り越えるたびに波は小さくなっていきます。
ですが、今度は引き波に強い力で引っぱられていきます。
「潮目にいこう」
潮目というのは、早さのちがう潮の流れがぶつかり合うところで、潮と潮の間は、安全だといわれています。
注意深く進んで、「ひまわり」は無事、潮目にたどり着きました。
流れて来るがれきをよけながら、「ひまわり」は15時間ぶりに、浦の浜港に帰ってくることができました。
菅原進さんの幼少時から、「ひまわり」の船長さんになるまでの道程を知り、とても感銘を受けました。
「ひまわり」は、震災後の大島の人びとの大きな支えとなります。「ひまわり」のすがたを通して、島民が一丸となった復興への道のりを知ることができます。
今関信子＝文 佼成出版社（2012年7月）1500円
平成23年3月11日、宮城県北東部の海にうかぶ大島を巨大な津波がおそいました。
大島と本土を結ぶ連絡船「ひまわり」の船長、菅原進さんは、「このままでは島が孤立する」と、「ひまわり」とともに津波を乗り切る決心をします･････。
大島の船は、まだ一そうも海にでていないようです。このままでは、船は残らず津波にやられてしまう。もし、船が一そうもなくなったら、大島は孤立してしまいます。
『遠くのしけは、早くにげろ。近くのしけは、向かっていけ』という言葉を思い出し、菅原さんは、エンジン全開で沖をめざしました。最初の15、6メートルの波を乗り越えることができ、何度も乗り越えるたびに波は小さくなっていきます。
ですが、今度は引き波に強い力で引っぱられていきます。
「潮目にいこう」
潮目というのは、早さのちがう潮の流れがぶつかり合うところで、潮と潮の間は、安全だといわれています。
注意深く進んで、「ひまわり」は無事、潮目にたどり着きました。
流れて来るがれきをよけながら、「ひまわり」は15時間ぶりに、浦の浜港に帰ってくることができました。
菅原進さんの幼少時から、「ひまわり」の船長さんになるまでの道程を知り、とても感銘を受けました。
「ひまわり」は、震災後の大島の人びとの大きな支えとなります。「ひまわり」のすがたを通して、島民が一丸となった復興への道のりを知ることができます。
『まど・みちお』〜 伝記を読もう ��
谷 悦子・文 あかね書房（2016年3月）1500円
「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」など、みんなが歌った童謡の作者として親しまれているまど・みちおさん。その、まどさんの伝記の児童書版を図書館で見つけました。
私は、まど・みちおさんについて、童謡の他に、『THE ANIMALS どうぶつたち』（皇后 美智子様・訳）で国際アンデルセン賞を受賞されたことなど、ごく一般的なことしか知らず、生い立ちや人となりついては、知りたいという思いが漠然とあったにもかかわらず、きっかけがなく今まで来てしまいました。児童書は入門書としてまさにうってつけ！ 嬉しい出会いでした。
まど・みちおは、1909年、山口県徳山町（今の周南市）に生まれました。本名は石田道雄。父母、兄、姉、祖父母の七人家族でしたが、父がもっと給料のいい仕事につくため、台湾に引っ越すことになりました。けれども、道雄だけは、祖父母のもとに残されました。家が貧しかったので、養子の父が祖父に仕送りしなくなることを恐れた母が、祖父と相談して、心やさしい次男を人質として残すことにしたのです。
それから半年後に祖母が亡くなり、道雄は祖父と二人きりというさびしい生活になりました。道雄は近くの田んぼや畑に、ひとりでよく出かけていきました。徳山は自然が豊かで、幼いころの時間は、見るもの聞くものすべてが新しい発見でした。この時期に感じ取ったものは、心の中に深く残りました。
三年半が過ぎたころ、道雄は台湾にいる家族とともに暮らすことになりました。
台湾での日々、身体が弱かったこと、仕事、結婚、戦争、戦後の生活、童謡「ぞうさん」の誕生エピソードなど･･･。
58歳で最初の詩集「てんぷらぴりぴり」を出版。この作品で野間児童文芸賞を受賞。このとき新人賞を同時に受賞したのが、あまんきみこさんでした。
童謡から、詩、そして、具象画から、もっと自由に描きたいと抽象画へ。
まど・みちおの絵は、まど・みちおの研究をしていた、谷悦子さんによって本の中で紹介され、初めて世に出ました。
子どものとき孤独に耐えたこと、身体が弱かったこと。それらはすべて、育つための肥やしになっているのですね。最近≪元気な本棚≫でご紹介した『初心 そして･･･』の中にも、著者の早乙女勝元さんが、赤ちゃんの時から身体が虚弱だったことが書かれていますが、マイナスと思われることも、プラスの芽を孕んでいる。子どもはみんな宝の原石なのだと思うのです。
谷 悦子・文 あかね書房（2016年3月）1500円
「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」など、みんなが歌った童謡の作者として親しまれているまど・みちおさん。その、まどさんの伝記の児童書版を図書館で見つけました。
私は、まど・みちおさんについて、童謡の他に、『THE ANIMALS どうぶつたち』（皇后 美智子様・訳）で国際アンデルセン賞を受賞されたことなど、ごく一般的なことしか知らず、生い立ちや人となりついては、知りたいという思いが漠然とあったにもかかわらず、きっかけがなく今まで来てしまいました。児童書は入門書としてまさにうってつけ！ 嬉しい出会いでした。
まど・みちおは、1909年、山口県徳山町（今の周南市）に生まれました。本名は石田道雄。父母、兄、姉、祖父母の七人家族でしたが、父がもっと給料のいい仕事につくため、台湾に引っ越すことになりました。けれども、道雄だけは、祖父母のもとに残されました。家が貧しかったので、養子の父が祖父に仕送りしなくなることを恐れた母が、祖父と相談して、心やさしい次男を人質として残すことにしたのです。
それから半年後に祖母が亡くなり、道雄は祖父と二人きりというさびしい生活になりました。道雄は近くの田んぼや畑に、ひとりでよく出かけていきました。徳山は自然が豊かで、幼いころの時間は、見るもの聞くものすべてが新しい発見でした。この時期に感じ取ったものは、心の中に深く残りました。
三年半が過ぎたころ、道雄は台湾にいる家族とともに暮らすことになりました。
台湾での日々、身体が弱かったこと、仕事、結婚、戦争、戦後の生活、童謡「ぞうさん」の誕生エピソードなど･･･。
58歳で最初の詩集「てんぷらぴりぴり」を出版。この作品で野間児童文芸賞を受賞。このとき新人賞を同時に受賞したのが、あまんきみこさんでした。
童謡から、詩、そして、具象画から、もっと自由に描きたいと抽象画へ。
まど・みちおの絵は、まど・みちおの研究をしていた、谷悦子さんによって本の中で紹介され、初めて世に出ました。
子どものとき孤独に耐えたこと、身体が弱かったこと。それらはすべて、育つための肥やしになっているのですね。最近≪元気な本棚≫でご紹介した『初心 そして･･･』の中にも、著者の早乙女勝元さんが、赤ちゃんの時から身体が虚弱だったことが書かれていますが、マイナスと思われることも、プラスの芽を孕んでいる。子どもはみんな宝の原石なのだと思うのです。
『知里幸恵物語』 〜アイヌの物語を命がけで伝えた人〜
金治直美・著
PHP研究所（2016年6月）1400円
銀のしずく降る降るまわりに
金のしずく降る降るまわりに
これは、アイヌ神謡集「フクロウの神の自ら歌った謡」の中の一節です。
アイヌ語で語られたこの詩物語を日本語に訳したのが、知里幸恵です。
この美しい詩句は、どのようにして生まれたのでしょうか。
本書は、アイヌの文化を生涯をかけて守ろうとした幸恵の生きた軌跡を追ったものです。
知里幸恵は、1903年（明治36年）、北海道の登別に、アイヌの娘として生まれました。
その当時、北海道には、本州から多くの和人が移住していました。アイヌの人びとは、明治政府が進める和人への同化政策により、アイヌの伝統的な生活やしきたりから、和人風の暮らしに変えることを強いられていました。
幸恵が通う学校でも、アイヌ語を使うことを禁じられ、差別に耐えなければなりませんでした。それにもかかわらず、幸恵は勉学に励み、優秀な成績を納めました。もし私なら到底耐えられずに、学校に通うことをやめてしまったかもしれません。
1918年（大正7年）、幸恵が女学校2年生の時、彼女の運命を大きく変える出来事がありました。それは、言語・国語学者の金田一京助との出会いです。京助は、アイヌの言葉の研究のために北海道へわたり、幸恵の祖母のモナシノウクがユカﾗの名手であると聞いて訪ねてきたのでした。
幸恵は、京助から、アイヌ語を後世に残すため、書き写すことを勧められました。モナシノウクの語るアイヌの物語をローマ字で書き起こし、それを日本語に翻訳するのです。
幸恵と、東京で暮らす京助とのあいだで、何度も質問や感想や助言が行きかいましたが、郵便ではもどかしくてたまりません。ついに、幸恵は京助の家に滞在しながら、研究を続けることになります。
幸恵は心臓の持病があり、滞在中に悪化しますが、それを押して「アイヌ神謡集」の校正に取り組みます。そして、ついに校正を終えた日の夜、最後の心臓発作におそわれ、返らぬ人となりました。19歳という若さでした。
『すべてを明日の糧として』 〜今こそ、アイヌの知恵と勇気を〜
宇梶静江・著 清流出版（2011年）1700円
宇梶さんのことを知るきっかけになったのは、『シマフクロウとサケ』という一冊の絵本でした。『シマフクロウとサケ』は、アイヌのカムイユカﾗ（神謡）の中にあるお話で、古い布とアイヌの伝統の刺繍を生かして作った「古布絵」で表現されています。
同じく、宇梶さんによる古布絵で描かれた絵本、『セミ神様のお告げ』『トーキナ・ト』（３冊とも福音館書店）なども読んでみました。
そして、どうしても宇梶静江さんのことをもっと詳しく知りたくなり、本書にたどりつきました。
≪著者略歴≫
昭和8年（1933年）北海道浦河郡生まれ。詩人・古布絵作家・絵本作家・アイヌの解放運動家。首都圏のアイヌ民族4団体でつくるアイヌ・ウタリ連絡会代表。20歳で中学に入学し、卒業後上京。働きながら苦学。結婚後は次々と上京するウタリ（同胞）たちの面倒をみながら、２児を育てる。
昭和47年（1972年）新聞の投稿欄に「ウタリたちよ手をつなごう」を投稿し、反響を呼ぶ。63歳から始めた古布絵は、海外でも高い評価を得る。平成16年アイヌ文化奨励賞を受賞。平成20年、北海道の洞爺湖で開かれた「先住民族サミット・アイヌモシリ2008」にアイヌ代表の一人として出席。平成23年、吉川英治文化賞を受賞。
く自分の中で封印してきたアイヌであることを、カミングアウトした宇梶さんに対し、反発もありましたが、多くの新しい出会いももたらされました。
歌や踊りのパフォーマンスをとおして、新しいアイヌ文化を発信する、アイヌの若いグループも誕生しています。
アイヌでは、太陽、月、星、海、山、川、花、動物、虫、鳥･････あらゆるものに神が宿っていると考えられてきました。人間だけがこの世の中でエライんじゃない。そのことをアイヌの人たちは良く知っている。だから自然界の仲良くできるし、大切にもする。
そして、アイヌはただの一度も自ら戦争をしかけたことのない民族なのです。
宇梶さんの願いは、アイヌの知恵が社会に浸透し、和人もアイヌも誰もが傷つけ合わない平和な社会になることだといいます。
宇梶静江・著 清流出版（2011年）1700円
宇梶さんのことを知るきっかけになったのは、『シマフクロウとサケ』という一冊の絵本でした。『シマフクロウとサケ』は、アイヌのカムイユカﾗ（神謡）の中にあるお話で、古い布とアイヌの伝統の刺繍を生かして作った「古布絵」で表現されています。
同じく、宇梶さんによる古布絵で描かれた絵本、『セミ神様のお告げ』『トーキナ・ト』（３冊とも福音館書店）なども読んでみました。
そして、どうしても宇梶静江さんのことをもっと詳しく知りたくなり、本書にたどりつきました。
≪著者略歴≫
昭和8年（1933年）北海道浦河郡生まれ。詩人・古布絵作家・絵本作家・アイヌの解放運動家。首都圏のアイヌ民族4団体でつくるアイヌ・ウタリ連絡会代表。20歳で中学に入学し、卒業後上京。働きながら苦学。結婚後は次々と上京するウタリ（同胞）たちの面倒をみながら、２児を育てる。
昭和47年（1972年）新聞の投稿欄に「ウタリたちよ手をつなごう」を投稿し、反響を呼ぶ。63歳から始めた古布絵は、海外でも高い評価を得る。平成16年アイヌ文化奨励賞を受賞。平成20年、北海道の洞爺湖で開かれた「先住民族サミット・アイヌモシリ2008」にアイヌ代表の一人として出席。平成23年、吉川英治文化賞を受賞。
く自分の中で封印してきたアイヌであることを、カミングアウトした宇梶さんに対し、反発もありましたが、多くの新しい出会いももたらされました。
歌や踊りのパフォーマンスをとおして、新しいアイヌ文化を発信する、アイヌの若いグループも誕生しています。
アイヌでは、太陽、月、星、海、山、川、花、動物、虫、鳥･････あらゆるものに神が宿っていると考えられてきました。人間だけがこの世の中でエライんじゃない。そのことをアイヌの人たちは良く知っている。だから自然界の仲良くできるし、大切にもする。
そして、アイヌはただの一度も自ら戦争をしかけたことのない民族なのです。
宇梶さんの願いは、アイヌの知恵が社会に浸透し、和人もアイヌも誰もが傷つけ合わない平和な社会になることだといいます。
久しぶりの伝記の紹介です。
残念なことに、最初の欄の編集が出来なくなったので、目次が書き込めなくなり、【２４】以降は目次で調べることが出来なくなりました。以前に掲載した写真も上下が切れたりして全体を見ることが出来なくなりましたので、ご了承下さい。
『新渡戸稲造ものがたり』
〜 真の国際人 江戸、明治、大正、昭和をかけぬける 〜
柴崎 由紀・著
銀の鈴社（2012年）1500円
新渡戸稲造について、名前を知っていても、その功績については案外詳しくは知られていないのではないでしょうか。以前、五千円札の肖像になった人でもありますが、振り返ってみれば、そのことが知名度を上げる大きな効果につながったということもなかったように思えます。私自身についてもまさにそうでした。背景に桜の絵が配された美しい表紙の本書を見つけ、ためらいがちに手に取ったことがきっかけで、初めて、その人物像に触れ、学者、教育者、国際人として、大きな功績を残した方だということを知ることが出来ました。
そのたくさんの功績について、本欄ではとても紹介しきれないのは当然のことですが、少しだけピックアップしてみます。
数々の著書がありますが、その中でも英語で出版された『武士道』は有名で、日本語の他にさまざまな国で翻訳・出版されて、今も読み継がれています。
国際連盟が発足した時には、事務次長に就任しています。条件は、英語が堪能で、見識を備え、優れた人格をもち、欧米人とともに仕事が出来るということで、稲造の名前があがり、ついにその大役を引き受けることになったのです。
中でも最大の功績は教育にあり、多くのスペースをさいて紹介されていました。
稲造は、数々の学校の運営・教育に尽力し、新しい学校も立ち上げました。
札幌農学校、遠友夜学校、北鳴学校、スミス女学校（今の北星学園女子中学高等学校）、第一高等学校、東京帝国大学、拓殖大学、東京女子大学、軽井沢夏季大学、女子経済専門学校（新渡戸文化短期大学）、恵泉女学園 など。
その中の、遠友夜学校は、以前からの稲造の願いが実現したものです。
明治27年１月、稲造が校長になり、授業料のかからない学校を始めました。貧しい家の子どもたちや教育の機会に恵まれない人たちに、勉学の楽しさを教え、社会に役立つ立派な人になってもらうための学校です。札幌農学校の生徒たちがボランティアで教えました。農学校から夜学校までは、徒歩で１時間ほどもありましたが、学生たちは熱心に通って教えました。
夜学校は、恵まれない生徒の教育だけではなく、貧しい地域に看護師を巡回させたり、消毒薬を配布させたりするなど、あたかも、「セツルメント事業」の先駆けのような働きもしました。
ある生徒は、次のように思い出を話しました。
「夜学校に入ったぼくの心は、驚きとうれしさでいっぱいだった。あのなごやかな雰囲気は誰をも引きつけないではおかなかった。校門が近くなると歩くのがもどかしくかけ出してしまう。兄さんのような先生に、お父さんのような下級生。みんなが一緒になって仲良く勉強した」。
このような心温まるエピソードの他に、稲造の教育への理念が、あちこちで語られていて、とても心温まる思いがしました。
『美輪明宏とヨイトマケの唄』〜天才たちはいかにして出会ったのか〜
佐藤 剛・著
文藝春秋（2017年6月）2200円
美輪明宏さんについては、型にはまらない、とてもスケールの大きな人というイメージを抱いてきました。著作は、瀬戸内寂聴さんとの対談など、２冊くらいしか読んだことがなく、読み応えがありそうな新刊が出たことを知り、是非読んでみたいと思いました。
三島由紀夫、中村八大、寺山修司など、歴史に残る天才たちと出会い、お互いにどう影響し合って作品や舞台を作り上げてきたか。「ヨイトマケの唄」が生まれた経緯。そしてこの唄が、五木ひろし、桑田佳祐、泉谷しげる、加藤和彦、米良美一など、数々のミュージシャンの心をとらえ、21世紀へと歌い継がれてきたことなど、たくさんの発見がありました。
「シスターボーイ」としてキワモノ的に注目されたときに、「僕はシャンソン歌手を手段として僕の持つパーソナリティを最大限にひき出して、人に見せる極端に言えばワンマン・ショー、自分で企画、構成、舞台装置、衣装、照明を全部やる“自分の夕べ”を計画して居ります」と語った。それらをすべて現実に成し遂げたことを、凄いと思いました。
≪歌の心の世界に差別などないのです。
歌が悲しんでいる心もわからず、勝手に差別しているのは歌の心のわからない夢のない人間達なのです。歌は人間と異って（ちがって）天使のように自由なのです。歌は誰にも、どんな権威にも支配されません。
だから歌は人々から羨ましがられ、望まれるのでしょう。僕は一生涯、歌の心で、歌のように自由奔放な美の世界に生きていきたいと思います。（美輪明宏『紫の履歴書』水書房）≫
本書の中で、いちばん心に残った言葉でした。
コメント
『 北原白秋ものがたり ー この世の虹に 』 楠木しげお・作 友添 泰典・絵
銀の鈴社（ジュニア・ノンフィクション）
本書・あとがきには、こう書かれています。＜北原白秋は、国民詩人とよばれています。才能豊かな総合詩人であり、広く国民に親しまれているからです。＞
そして、＜「童謡」「詩」「短歌」「歌謡」･････どの一つをとっても、たっぷり付き合えるのですから、やはり偉大な詩人です。＞とあります。
白秋の作だと知っていたものもありますが、本書を読んで、これまで白秋の作だとまったく知らずに親しんできた作品もずいぶんたくさんあることに、驚かされました。
これほど多くの作品を残した白秋なのに、白秋の故郷が九州の水郷・柳川であること以外は、ほとんど詳しいことを知らないまま来てしまいました。
幼い頃のこと、数えきれないほどの引っ越しをしたこと、三度の結婚のことや、交友関係などを通して作品が生み出された背景などもわかり、大変興味深かったです。
巻末に、全国にある、白秋の歌碑、童謡碑、詩碑、「校歌」碑などが、何と10ページにも渡って紹介されていて、その多さに本当に驚きました。（“ぜひ白秋先生に”とたのまれて、全国百校におよぶ校歌や、たくさんの社歌や市町村歌も書いたということです）
本書にきっかけに白秋についてもっと詳しく知りたくなり、さっそく巻末の「参考図書」から『ここ過ぎて ― 白秋と三人の妻』（瀬戸内晴美・著 新潮社）など、三冊をピックアップして予約しました。
『自伝 若き日の狂詩曲』 山田耕筰・著
中公文庫（1996年・初版 2016年・改版）
本書の最初の出版は1951年。著者が65歳の時です。この時は講談社からの出版で、その後、長嶋書房、かのう書房を経て、中公文庫に収録され現在に至っています。
『自伝 若き日の狂詩曲』は「からたちの花」「この道」「赤とんぼ」など数多くの名曲を作曲した山田耕筰の、生まれてから、東京音楽学校を経て、ドイツに留学し、帰るまでの波乱に富んだ前半生を語った自伝です。
大変なストーリーテラーだなあと思いました。山あり谷あり、波乱万丈の人生を、持ち前の明るさ、たくましさで前向きに乗り越えてきた著者。４年に及ぶ留学生活での渾身の学び。音楽のみならず、演劇、美術、文学なども貪欲に吸収し、しかし、真面目一方ではないスケールの大きな方だったことが、多彩なエピソードの数々からも想像することができます。また、様々な女性も登場し、著者が恋多き人だったことがわかります。
迷い、悩んだ末に、日本の音楽界の草分けとして生きる覚悟を決めるまでの過程には、大変感銘を受けました。もし、彼が他の道を選択していたなら、私たち日本人の心に生きる数々の素晴らしい歌曲や童謡も生まれなかったことでしょう。
この間読み終えた『ここ過ぎて−白秋と三人の妻』に続き、本書と出会うことが出来、北原白秋と山田耕筰のコンビで生み出された歌の数々と、それぞれの曲が生まれた背景にも思いを馳せました。
カバー画は、山田耕筰自筆「赤とんぼ」
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