元気な本棚　ほっこりコミュの📖≪日本の文学≫　～その６～

≪日本の文学≫ ～その６～

その５の書き込みが増えましたので、見やすくするために新しく＜その６＞を作りました。
引き続きよろしくお願いします。（その１～５もトピックを検索すれば見ることが出来ます。）

コメント(5)

最初
全て
最新の40件

『ジャノメ』　戸森しるこ・作　牧野千穂・絵
　　　　　　　　　　　　　　静山社（2021年）

　ジャノメとは、動物園に居るメスの孔雀の名前です。名前をつけたのはある少年。この本は、ジャノメと少年の出会いと、長い別れ、そして10年後の再びの出会いが描かれています。

　あらすじはあえて紹介しないでおこうと思います。

　誰しも、子どもの時に住んでいた世界を追われ、大人になって行かざるをえない。痛みを感じながらも･････。でも著者は、ラストに読者に贈り物を用意してくださいました。

　ああ、この本と出会えて良かった。心の宝物をいただけました。

　図書館では児童書の書架に置かれていますが、大人の読者にも是非お薦めしたい本です。

[2] mixiユーザー 06月24日 10:18

『あえてよかった』　村上しいこ・作
　　　　　　　　　　　小学館（2023年4月）

　村上しいこさんの著書をいろいろ読んで来ましたが、本書は一般書で、主人公は小野大地という58歳の男性です。

大地は、妻の美月が亡くなり、それまで暮らしていた一軒家を売り払い、アパートを借りて暮らしている。その部屋からは、美月が好きだった三日月がよく見える。
　夜、窓際のテーブルの前に座って、美月とお喋りするのが、大地の日課になっていた。もう気配しか見せない美月だけど、大地の声にはっきりと答えてくれる。

　生きていても仕方がない、死のうと思っている大地に、美月は、あることを頼む。
　二人の間に子どもはできなかった。子育てが夢だった美月の代わりに、子どもにかかわることをしてほしいという。
　求人サイトを検索して調べた中に、放課後学童指導員の補助員の仕事があり、面接に行く。採用されたが、子育ての経験のない大地には、戸惑うことばかり。

　大地が子どもだった頃の昭和時代の子育てと、令和の時代の子育ては全く違う。
　親の離婚、発達障害、愛着障害、不登校、子どもたちの悩みや心の傷･････。学童保育所の先生たちは、いろいろな悩みや心の傷かかえた子どもたちと向き合う。

　子どもたちの思いにふれるうちに、知らず知らず大地にも大きな変化が訪れていく。

　
　子育て中の家庭の方、教育関係の方だけでなく、広く大人の方たちにも、是非お薦めしたい本です。

この本を読み終えた日の晩、近所を運動のため歩いていると、空の高いところに三日月がかかっているのに気がつきました。すぐ下には星が一つ瞬いています。空は少しボーっとしていて三日月の線も少しぼやけているのが、とても絵になっていました。読んだばかりの本の余韻をもう一度抱きしめました。

[3] mixiユーザー 06月26日 09:36

『両手にトカレフ』　ブレイディ・みかこ／作
　　　　　　　ポプラ社（2022年6月）

　本書の主人公ミアは、ネグレクトの母親を持つイギリスの少女。幼い弟の世話もしています。友達のお母さんが、食事代がない人でも無料で食べさせてくれるカフェをやっていて、そこで弟と食事をしたり、着るものも買えなくて、スカートが短くなってしまった制服を着ていたり、弟も服装のことなどで学校でいじめらています。

　ある日ミアは、図書館で出会ったホームレス風のおじさんが読んでいた一冊の本に目を止めます。「気に入ったら君が読んだらいい」と、おじさんからその本を渡されたミアは、ページをめくっていきます。
　それは、いまから百年前ぐらい前に日本に住んでいた女性・金子文子という人が書いた自伝でした。文子の少女時代は、今のミアの置かれている世界とよく似ていました。

　ミアは、時間があればこの本を読み耽ります。ミアの現実の生活と、文子の少女時代の話とが交互に出て来ます。

　ある日、ミアのクラスメートのウィルに、ラップのリリックをやってほしいと頼まれます。最初はつきはなしていたミアも、次第にラップに惹かれていきます。このことも、ミアが自分の世界を開いていくのに力をかしてくれます。

　追いつめられて、ついに弟を連れて家を飛び出したミアは、電車に乗り、隠れて乗り換えを繰り返しながら、ついに疲れ切って･････。でも、病院のベッドに寝かされたミアに、救いが待っていました。
　「両手にトカレフ」という題名がまさにピッタリの本でした。

国が変わっても、まさに今の時代が共通してかかえている切実な問題を訴えかけています。本当に素晴らしい本で、何をおいても紹介しなくてはと思いました。

金子文子は、大正期日本のアナキスト。23歳で獄死しています。
　瀬戸内寂聴さんの小説に、この金子文子のことが書かれた『余白の春』があります。寂聴さんの著書は好きで色々読んできましたが、『余白の春』は読むのがしんどい気がして敬遠してきました。それが、思いがけずこんなかたちで、文子の少女時代のことを知るとは、予想だにしませんでした。目の前が明るくなりました。

　表紙の二人の女の子は、ミアと文子ですね。

[4] mixiユーザー 10月23日 09:52

『美しき愚かものたちのタブロー』　原田マハ・作
　　　　　　　　　　　　　　　　　文藝春秋社（2019年）

やっと原田マハ入門を果たせました。ずっと気になっていた作家でしたが、少し遠くに思えて、とっかかりがつかめずにいました。
　きっかけは、伊勢英子さん。伊勢さんの絵と作品のファンである私は、『ピアノ』という新刊が発売になったことを知り、図書館で検索してみました。そこで、伊勢さんが原田マハさんの本の装画を描かれていることを知り、嬉しい驚きでした。きっかけになったのが本書です。
　有名な「松方コレクション」については、ほとんど名前くらいしか知らなかった私でしたが、本書との出会いをいただき、目の前が開ける思いでした。　　

実業家松方幸次郎は、20世紀初めにヨーロッパで、印象派などの19世紀から20世紀前半の絵画・彫刻を中心とする膨大な数の美術品を収集しましたが、さまざまな事情で散逸したり、また、フランスで保管された作品も、第二次世界大戦後、フランス政府により敵国資産として差し押さえられてしまいました。コレクションを収蔵する美術館を新たに設置することを条件として返還されることとなり、国立西洋美術館が建設されました。
　「ほんものの絵を見たことがない日本の若者たちのために、ほんものの絵が見られる美術館を創る」という松方の夢は、彼の死後ようやく叶えられました。

松方幸次郎、戦時中も命がけでコレクションを守り続けた日置釭三郎、松方コレクションを取り戻すために尽力した、当時の首相・吉田茂、美術史家・田代雄一（架空に人物だが、モデルがあるらしい）など、多くの人びとの思いが結実して、国立西洋美術館が誕生するまでの経緯を知ることが出来、世界を広げてくれた本書との出会いに感謝しました。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ