Invitation card for Mazeコミュの18th card；超能力捜査官という虚像

ﾕﾘ･ｹﾞﾗｰ初来日時に纏わるｴﾋﾟｿｰﾄﾞ

05年に公開されたﾊﾘｳｯﾄﾞ映画『ﾀﾞｰｸ･ｳｫｰﾀｰ』の原作が､鈴木光司著の
短編ﾎﾗｰ小説『仄暗い水の底から』である事は広く知られている｡原作
の『仄暗い水の底から』自体も黒木瞳主演で映画化(鈴木光司原作･中
田秀夫監督のｺﾝﾋﾞは『ﾘﾝｸﾞ』から引き続いたものであった)されており
劇場やTV､DVDなどで御覧になった方も多いのではないだろうか｡

ちなみに､これは全くの余談なのだが､ｷｬﾊﾞ嬢が嫌う同伴ｺｰｽとしてﾜｰｽﾄ
1になっているのがﾎﾗｰ映画である事は､ｷｬﾊﾞｸﾗ通いをする男性にとって
覚えておいて損は無いであろう(営業の一環ともいえる同伴とは言え､好
きでもない客と映画を観る為に早起きさせるのも理由にはあると思うが)｡

それはさて措き､日本を代表するﾎﾗｰ作家となった感のある鈴木光司だが､
同氏が世に出るきっかけとなった作品が『ﾘﾝｸﾞ』である事に異論を挟む余
地はないであろう[『ﾘﾝｸﾞ』の大ﾋｯﾄにより鈴木光司の年収が前年の数百倍
以上となる約4億円になった事はあまりにも有名｡また､ほとんど知られて
はいないが､TV版として初めて放映された同作品において､雛形あきこが地
味な脇役でﾃﾞﾋﾞｭｰを飾っている｡すみません｡何気にC級以下ｱｲﾄﾞﾙ(特に
D級､E級ｸﾞﾗﾄﾞﾙ)通です･笑]｡

『ﾘﾝｸﾞ』以降も三部作の『らせん』『ﾙｰﾌﾟ』などがﾍﾞｽﾄｾﾗｰとなり､いずれ
も映画化されているが､この三部作において恐れられる存在として描かれて
いたのが､激しい恨みを抱きながらこの世を去った山村貞子なる女性｡黒髪
の間からのぞく異様な瞳の映像を誰もが一度は目にした事と思うが､彼女の
ﾓﾃﾞﾙとなったのは､御船千鶴子と云う実在した女性である｡

TVﾌﾟﾛｸﾞﾗﾑなどでも何度か紹介されているが､日本において学術的な調査を
最初に受けた超能力者として今に名を残す御船千鶴子(1886〜1911年）が生
前､注目されたのは､所謂(いわゆる)千里眼と呼ばれた透視能力を持つとい
う評判が立ったことによる｡熊本の漢方医の娘として生まれた千鶴子は23歳
の時､義兄の催眠術実験に参加した事を機に､どういう理由か透視能力を授か
り､以降病気の診察なども行っている｡

これらの評判を聞きつつけた東京帝大助教授の心理学者である福来友吉博
士が熊本の地を訪れて透視実験を行い､同博士は千鶴子を本物の超能力者と
して認定している｡だが､その後間もなく､千鶴子は悲劇に見舞われる｡千鶴子
の超能力に懐疑的だった物理学者の山川健次郎博士などを前にした､鉛管に
入れた紙に書かれた文字を透視する実験で､鉛管がすり替えられていた事実
が発覚したのである(これらの実験に使用された鉛管は､現在も筆者が住む
仙台市内の福来研究所に保管されている)｡

ただし､この実験においても千鶴子は透視を成功させている｡にもかかわら
ず､実験用として用意された鉛管とは別の鉛管が何らかの理由で紛れ込んだ
(その原因については明らかにされていない)事により､透視は何らかのﾄﾘｯｸ
によるものと見なされてしまっただけでなく､何の証拠も無いままに､鉛管を
取り替えたのも千鶴子自身と決め付けられてしまったのである｡

この結果を受けて､これまでの透視結果も全てがｲﾝﾁｷであると当時のﾏｽｺﾐが
大々的に報道したのである[人気がある間は持ち上げておき､一端齟齬(そご)
が見えると､一気に揶揄(やゆ)するﾏｽｺﾐの体質は今に受け継がれているとおり
である)｡結果｡世間から謂(いわ)れ無き迫害を受け苦悩を重ねた御船千鶴子は
これら一連の報道がなされた翌1911年1月9日に服毒自殺を遂げ､自ら冥界へと
旅立っている(ｱﾒﾘｶを標的とした大規模ﾃﾛが発生した日が9.11だったように､1
と9という､1と3の2乗数でもあるこれらの数字には､何かしら神の配剤が為さ
れているのかもしれない)｡

確かに､いずれの実験においても透視する紙が入れられた鉛管は常に観察者
に背を向けていた千鶴子の手の中にあった事､蓋(ふた)を開けられた痕跡が
僅かながら残っていた事などから､疑わしい点がある事は否めないが､それだ
けを以(もっ)て千鶴子の超能力の全てを否定する事は拙速(せっそく)と言え
るのではないだろうか｡自ら命を断ってしまった千鶴子のみが真相を知ってい
るのだろうが､果たして千鶴子の透視能力は本物だったのであろうか……｡

以降も日本では世界最初の念写と当時世間を騒然とさせた長尾郁子[1871〜
1911年｡御船千鶴子と同年に絶命している事は何かの暗喩(あんゆ)なのであろ
うか]､NASAより早く月の裏側を念写した三田光一(1885〜1943年｡本名才二､
後に靖善と改名)などが現れているが､この2人に関しては科学的な実証により
ﾄﾘｯｸであった事が解明されている｡

これら日本における超能力者の存在は別にして､世界で最も著名な超能力者と
言えるのが､最近では故ﾏｲｹﾙ･ｼﾞｬｸｿﾝと親交があったという事で度々TVにも登場
しているほか､ｽﾌﾟｰﾝ曲げの元祖として日本に空前の超能力ﾌﾞｰﾑを巻き起こした
ﾕﾘ･ｹﾞﾗｰであろう｡

ちなみに､ﾕﾘ･ｹﾞﾗｰが超能力者として初めてｱﾒﾘｶのTVに登場したのは1962年の
事であった｡同年5月､米ﾈﾌﾞﾗｽｶ州ｵﾊﾏ市郊外に住むﾄﾑ青年の寝室に､入る筈の
無い大きさの馬を突如として現した､と云う不思議な現象を起こした人物としてTV
ｼｮｰに出演し､その生放送中にﾃｰﾌﾞﾙの上に置かれたﾍﾟﾝを手を触らずにｸﾙｸﾙと
回し､一気に超能力者として認知されている｡

その数年後､ﾕﾘ･ｹﾞﾗｰは初来日を果たしているのだが､当時いち早く彼の来日
を聞きつけ会見を申し込んだのは､ほとんど知られていないが､『座頭市』ｼﾘ
ｰｽﾞなどの主演で銀幕の大御所としてだけでなく､飛行機内で麻薬を下着に隠
した事でも話題を振りまいた大ｽﾀｰの故勝新太郎だったとされている｡

念願の会見を果たした故勝新太郎は､ｽｸﾘｰﾝで見せていた押し出しのある声音
で､｢あんた曲げたり回したりするの得意なんだろ｡1つ頼みがあるんだ｡回して
みてくれないかな」とﾕﾘ･ｹﾞﾗｰに対し徐(おもむろ)に言った後､少しの間を置
いて､｢首が回らないんだ……｡借金で｣と呟(つぶや)いたと伝えられている｡
この故勝新太郎にまつわるｴﾋﾟｿｰﾄﾞとﾕﾘ･ｹﾞﾗｰの超能力｡どちらも信じ難いと云
う点では共通しているのではないだろうか(苦笑)｡

……超能力捜査の胡散(うさん)臭さ

ﾕﾘ･ｹﾞﾗｰと故勝新太郎に関するｴﾋﾟｿｰﾄﾞの真偽はさて措き､ｵｳﾑ真理教に纏(ま
つ)わる事件が発生して以降､心霊現象や超能力に関するTVﾌﾟﾛｸﾞﾗﾑが減少し
たのに対し､年末年始だけでなく､春秋の番組改編時などに放送されているの
が失踪や殺人などの未解決事件を扱う特番である｡これら特番以外にも以前は
ﾃﾚﾋﾞ朝日系列において『TVのﾁｶﾗ』と云う同様な内容の番組がﾚｷﾞｭﾗｰ枠で放送
されていた事もあり､TV局としても､ある程度以上の視聴率を取れる定番ﾌﾟﾛｸﾞ
ﾗﾑとして認知しているのであろう｡

未解決事件を風化させない為にも､この種のTVﾌﾟﾛｸﾞﾗﾑが放映される事は望ま
しいとも言える反面､毎回のように登場してくる超能力捜査官などと呼ばれる
人たちの存在には疑問を呈さざるを得ない(この点で言うと､超能力者たちは
登場する番組内容が変わっただけで､見事なまでの生き残りを見せていると言
えるだろう･苦笑)｡

ﾕﾘ･ｹﾞﾗｰ同様海外から招かれる事が多い彼ら､彼女たちは被害者が残した意思
(残留思念)や自らが見る夢(ｻｲｷｯｸ･ﾄﾞﾘｰﾑ)などによって事件当時の模様を再現
するだけでなく､死体遺棄現場や容疑者の特徴､潜伏先などを次々に透視して
いくのだが､この内容たるや実に曖昧模糊(あいまいもこ)としているのである｡

彼ら､彼女たちを紹介する際､番組では彼らがこれまでに解決した事件を報道
する海外の新聞記事などを画面に大写しにし､｢捜査に協力し多大なる成果を挙
げている｣などのﾅﾚｰｼｮﾝやﾃﾛｯﾌﾟを流しているが､以前当ｺﾗﾑで指摘したとおり
FBIを始めとする海外の公的捜査機関が､彼らに対し公式に事件捜査の協力要請
をした事などは１度としてない｡100歩譲って公式ではなく､あくまでも私的に
捜査要請を受けているのだとしても､彼らのﾌﾟﾛﾌｨｰﾙには誇張があると言わざる
を得ないであろう｡

ほんの少しだけでも冷静に考えてみれば分かる事だが､もしそれほどまでの素
晴らしい超能力を持っているのだとすれば､ﾃﾛや国際紛争などが世界各地で連
続している現在､各国の公的捜査機関から協力要請が相次ぎ､とても日本人の一
般市民の失踪などを解決する為にわざわざ来日する時間など取れないのが道理
である｡もしかしたら､揃いもそろって､よほどの親日家なのかもしれないが､こ
の事実1つ取っても､彼らの能力の程が伺い知れるのではないだろうか｡

それを端的に示しているのが､彼らのほぼ全員が例外なく死体遺棄現場や容疑
者の潜伏先などを透視する際に用いるﾀﾞｳｼﾞﾝｸﾞ(Y字形の木の棒やL字形に曲げ
た金属､振り子などを用い水脈や鉱脈などを発見するﾃｸﾆｯｸ)なる手法である｡彼
らは透視を終えた後､TV局ｽﾀｯﾌから手渡された日本地図の上に振り子をかざし､
｢犯人がいるのはここです｣などと自信満々に言ってみせる｡この際､TV局ｽﾀｯﾌが
手渡す地図は何故か毎回､示し合わせたように日本全図であり､さらに範囲を狭
める為､その後で彼らがﾀﾞｳﾝｼﾞﾝｸﾞ等で示した都道府県の地図を差し出すのが通
例となっている｡彼らは､それらの地図を前に神妙な表情で再びﾀﾞｳﾝｼﾞﾝｸﾞ等を
用い､｢間違いありません｡犯人はここにいます｣と示唆した後､｢学校｣｢太陽のよ
うな物｣｢橋｣｢大きな石｣などと､意味ありげな手掛かりを挙げていくのだ｡

……唯一の救いは心の慰めか

だが､常識ある者なら誰もが分かるとおり､海やよほどの山奥でも示さない限
り､これらの手掛かりが日本全国の何処にでもある事は言うまでもない｡｢学校｣
が学区毎に設置されている事は周知のとおりだが､地図を見て河川がある事が
分かれば近隣に｢橋｣がある事など､小学生でも指摘できるであろう｡｢大きな石｣
にしても､具体的な大きさが事前に示されない以上､それが石積みのﾌﾟﾛｯｸ塀な
のか､単なる置き石なのかは､言っている本人にしか分からず､適当な石を指せば
済む事である｡｢太陽のような物｣などという抽象的な表現の手掛かりも同様で､
太陽に似た色や形の物などいくらでも存在している事は改めて言うまでもない
であろう｡

さらに言えば､このﾀﾞｳﾝｼﾞﾝｸﾞ等によって日本全土から都道府県ﾚﾍﾞﾙへと範囲
を絞れるのであれば､何故TV局ｽﾀｯﾌは更に詳細な住宅地図などを呈示し､より
正確な範囲の絞り込みを依頼しないのであろうか｡

そもそも彼らが用いているﾀﾞｳﾝｼﾞﾝｸﾞなる手法に関しては､これまでに様々な
科学的実験と論証が繰り返されており､振り子や金属の棒などが動くのは僅か
な指のの動きが伝わったものであり､振り子などが動く0.5秒前には手首の筋肉
(随意筋)が反応している事が判明している｡また､以前当ｺﾗﾑでも指摘したとおり
ﾀﾞｳﾝｼﾞﾝｸﾞを用いた場合と用いない場合での水脈発見の比較実験ではﾀﾞｳﾝｼﾞﾝｸﾞ
を用いた場合が70.4%だったのに対し､ﾀﾞｳﾝｼﾞﾝｸﾞを使わなかった場合が83.8%を
示すなど既に何の効果をも持たないことが証明されているのである｡

恐らく超能力捜査官を自称する人々やTV局ｽﾀｯﾌなどは､これらの事実を知らな
いまま放送しているのかもしれないが､だとすれば､あまりにも無知と言わざる
を得ない｡さらに超能力捜査官なる人たちが､事件関係者に当時の模様を聞く際
の話術も､実は単なるﾄﾘｯｸに過ぎない｡

この点についても､以前当ｺﾗﾑにおいて指摘したが､彼らが使っているのはﾘｰﾃﾞ
ｨﾝｸﾞと呼ばれる心理学を基にした手法であり､｢ｱﾅﾀのお父さんはなくなってい
ません｣(｢なくなって｣｢いません｣と区切れば死亡した意味となり､｢なくなって
いません｣とつなげて取れば死亡していない意味に採れる)と云うように､どち
らとも取れる質問やｾﾝﾃﾝｽを重ね､自分たちにとって都合の良い答えへと誘導し
ているに過ぎない(しかも､彼らが使用しているﾘｰﾃﾞｨﾝｸﾞのほとんどは初歩的な
ものである)｡

とは言っても､心霊現象を始めとする超常現象はもとより超能力､UFO､UMAなど
について筆者は懐疑派より肯定派のｽﾀﾝｽをとっており､全ての超能力を否定す
る積もりなど毛頭ない｡重ねて言えば､これら超能力捜査官の存在にもﾒﾘｯﾄは有
ると思っている｡

それは彼らのほぼ全員が､哀しみという暗い時に気持ちを押し潰され､狂おしい
夜を重ねた遺族などに対し口を揃え｢被害者の魂は安らかに眠っています｣と伝
える点である｡事件が未解決なままになっている遺族などにとっては､この一言
こそが､心を安らげる為に最も必要な物かもしれないのだから……｡