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Invitation card for Mazeコミュの16th card ;雪山に残されたSOSの謎

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……安楽椅子探偵の限界

指紋、血痕、足跡、争った形跡……。
実際に発生した事件は言うに及ばず推理小説に描かれるところの
犯行現場には事件を解決へと導くじつに様々な物証が残されている。

とりわけ犯人逮捕へと繋がる決定的証拠となる指紋〔同じ指紋を持
つ人間が現れる確率は870億分の1とされており、地球全人類の人口が
60億人弱の為、事実上同じ指紋を持つ人は存在しないと結論づけられ
ている。ちなみに警視庁の指紋センターには現在約700万人以上の指紋が保
管されているが、指紋自動識別システム(FIS)による指紋照合に要する時間
は1つの指紋につき1,000分の1,3秒という〕や血痕などの体液〔ルミノール
反応によって調べられるが、このルミノール反応は20年以上前の僅か一滴の
血痕に対しても有効である。また一般的に知られている血液型はABO式
であるが、FBIや警察などが行う血液分類法はABO式のほかMN式、P式(あ
るいはQ式)、白血球のタイプを分類するHLA、血液中の酵素を分類する酵素
型など35種類以上に及ぶ。この血液鑑定のほか科学捜査の進展に伴いDNA
鑑定も進んでいるが、1件の鑑定に付き10万円以上の費用を要することも
あり、DNAのデータベースが完備されていない為、あくまでも個人を識別する上
での確率の範囲を未だ出ていないのが現状となっている〕は、最も肝要な
証拠と言えるであろう。ただし指紋や血痕が現場に残されていなくとも、
犯人特定へと繋がる希少性の高い遺留物などが発見されれば捜査上重要
な意味を持つ事となる。

実際、警察や社会派推理小説などに描かれる刑事たちは、これらの証拠
をもとに地道な聞き込みや取り調べなどの捜査を重ね犯人像へ迫ってい
く事となる。このようなプロセスは世界的に知られる名探偵シャーロック・ホームズや
エルキュール・ポワロ、日本が誇る奇想の名探偵御手洗潔(みたらい きよし)、少年
探偵団を率いる明智小五郎にしても同じである。とは言ってもシャーロック・ホー
ムズや御手洗潔の場合、大多数の読者も含め誰もが気付かないような物証
とも言えない微かな物を手掛かりにする事も多いのだが……。

ただ、いずれの場合にしろ警察や数々の名探偵たちが実際に犯行現場へと
赴き事件解決の手掛かりを得ているのに対し一度も現場に行かないだけで
なく、関係者の話しを聞いただけで事件を解決に導くのが安楽椅子探偵と呼
ばれる存在である。

名前が知られたところではJ・ヤッフェ著の『ママは何でも知っている』(ハヤカワ・ポ
ケット・ミステリ)に登場するブロンクスのママと呼ばれる探偵などが安楽椅子型探偵の典
型と言えるであろう。ニューヨークの下町プロンクスに1人で住んでいる年老いたこのマ
マは殺人課に勤務する息子から事件のあらましを聞いたうえで一聞すると全
く事件とは無関係な質問を繰り出し、犯人を正確に指摘するだけでなく事件
の全容を解いてみせるのだ。日本においても短編集『ナポレオン狂』で直木賞を
受賞している作家の阿刀田高が僧侶を主人公にした安楽椅子型探偵のシリーズ
物を著している事は知られている所であろう。

これら安楽椅子型探偵に共通して言えることは、どのような事件であって
も、とにかく事件とは無関係にしか思えない質問を繰り出す事で事件を解決
してみせる事である。この質問内容が突拍子が無いほど面白い読み物として
受け入れられるわけだが、あまりにも事件とかけ離れてしまえば、読者から
「こじつけだろ」と指摘される事になりかねない。事実、阿刀田高自身も「設定
と解答の関連づけが楽ではない。楽ではない事をあえてやるのだから無理が
生ずる」と述懐している。

まぁいずれにしても安楽椅子型探偵は推理小説と云う虚構の世界だからこ
そ存在しうるとも言えるのが、実際の事件においても時として安楽椅子型探
偵にならざるを得ないケースと云う事も起こり得るのだ。

無論、現場が実際に存在している以上、足を運べない事はないか、たとえば現
場が雪に閉ざされた山岳や絶海の孤島などの場合、いくら現場に足を運びたく
とも、そう何度も行くことは事実上不可能であろう。

ミステリの分類にも、このような点に主眼を措いた山岳ミステリと呼ばれるジャンルが
存在しているが、今回紹介する『雪山に残されたSOSの謎』も北海道大雪山を
舞台とする何とも不可解な事件だったのである。

……次々と浮上する幾多もの謎

この事件が露見する発端となったのは1989(平成元)年7月。東京から来た
登山者が北海道大雪山で遭難した事から始まる。同登山者は北海道大雪山
の黒岳から旭岳へと向かっていたのだが、その途上行方不明となった為、北
海道警のヘリコプター部隊が出動。懸命な捜査の末、無事救助されるに至った。
本来であれば登山者が救助された事で一件落着となる筈だったが、その裏
で新たな事件が幕を開けていたのだった。

この捜査の途上、ヘリコプター部隊が偶然にも登山者が救助された地点から南
方2〜3kmに位置する融雪沢付近の湿地帯で『SOS』と読める大きな文字を
発見したのである。その時点において他の登山者か遭難したと云う情報は
なかったが、万全を記す意味で翌日ヘリコプター部隊は『SOS』と書かれた現場
へと調査に赴いている。

結果。上空から『SOS』と読めた文字は白樺の枯れ木を並べて作られた縦
5m、横3mにも及ぶ巨大さでかなり古い物である事が判明した。さらに周辺を
調査したところ遭難者と思われるバラバラになった白骨死体とナップザックなど
が発見されたのだ。事ここに至っては、この現場で登山者が死亡したのは明
らかであろう。

北海道警旭川東署は7月28日、再びこの現場へとヘリコプターを出動させ、更なる
調査を行っている。その結果、遺骨の一部や新たな遺留品などが発見されては
いるが、近隣は羆(ひぐま)が生息する危険なエリアである上、熊笹が生い茂り十分
な捜索は不可能な状況であった。また同日、前回の調査で発見されたナップザック
に入っていたテープレコーダーに録音されていた「SOS。助けてくれ」などと云う男性
の声も公開されたが、家族などからの問い合わせは皆無だった。

しかし大雪山ではちょうど5年前の7月、愛知県江南市の会社員I村さん(当時
25歳)が縦走中に消息を絶ち、家族からも捜索願いが出されていた他、HBC(北海
道放送)取材班が7月29日にヘリコプターを出動させた現地調査でI村さんの運転免
許証やユースホステル会員証などを発見した事で見つかった遺骨はI村さんであると
推察されるに至った。

だが、ここで新たな謎が浮上したのだ。白骨を鑑定した旭川医大が骨盤の形
状などから20〜40歳の女性と云う見解を示したのである。この事と合わせ男
性の遺骨が見つからなかったことから当時のスポーツ新聞などは連日、「不倫登
山で事故に遭いI村さんだけが逃げのびた」「心中を図って女性だけが死亡し
た」「当初からI村さんが女性を殺害する計画だった」などというスキャンダラスな記
事を並べ立てた。

白骨となった女性は誰か、と云う事も謎として浮上したが、さらに不可解な
謎として当時注目されたのが発見されたテープレコーダーの録音内容だった。テレビ
でも公開されたので年配の読者の中には或いはご記憶の方もいるかもしれ
ないが、「SOS。助けてくれ。崖の上で身動き出来ず。SOS。助けてくれ。場所は初
めにヘリに会った所。笹深く上へは行けない。ここから吊り上げてくれ」と云う
男性の口調は、一語一語区切られており、まるで緊迫感が無いのである。

また内容にしても不可解であった。テープレコーダーが発見されたのは湿地帯で
あり笹深くはたしかに納得出来るのだが、崖の上など呼べる形状でなかった
のである。さらに、このテープには最も伝えるべき自分の身元に関する事や愛
する者へのメッセージなどが一切入っていなかったのである。

さらに、このテープだけでなく白樺の樹木を用い巨大な『SOS』を作るには屈
強な若者でも丸2日は掛かると云う専門家の指摘があり、それほどの余力があ
るなら何故脱出に労力を使わなかったのか、という点も大きな謎となった。

しかし、これほどまでに多くの謎を抱えたまま、この事件は7月30日には収束
へ向かっている。じつはこの日の現場捜索でI村さんのノートが発見され真相が記
されている事が期待されたのだが、記者会見でI村さんの父親が「このノートが息
子の心だとしたら、親として抱きしめていたい。ノートは読みません」と一切を封
印してしまったのである。

……反転した鑑定結果

さらにその1年半後。白骨の鑑定に当っていた旭川医大は当初女性の物と判
定したが、それは長期間山野に放置されて骨髄が変質した為で白骨はI村さん
の物であるとし、旭川東署もI村さんの単独遭難事故と発表したのだ。

もし、これらの発表が真実ならば、I村さんの単独遭難事故なのだろうが、そ
れにしても多くの謎が残されているのは変わらない事実であろう。I村さんは
何故巨大な『SOS』を作り、不可解な内容のテープを残したのであろうか。

そこに至る過程が記されている筈のノートが封印されてしまった以上、推察する
しかないのだが、自殺でない事だけは『SOS』やテープが残されてる事からも明
らかなのではないだろうか。

またもし当初の判定どおり白骨が女性の物でありI村さんが何らかの事情で
この女性を殺害したとしても、死体がある近くに『SOS』などとは作らない(救
助されても犯人として即逮捕される事は言うまでもないが、丸2日掛かりの作業
をする体力があったなら殺害現場から少しでも離れるのが道理)であろう。

だとすれば残された可能性はやはり事故か心中しかない。事故ならば、恐らく
は予想だにしなかった突発的な物だったのではないだろうか。そう、現場には
羆(ひぐま)が生息しているのである。テープや『SOS』はI村さんが何らかの記念
(または自主制作映画撮影など)の為に作ったとも考えられるであろう。そして、
これらを成し遂げた直後、不運にも羆に襲撃され命を落としてしまったのでは
ないだろうか。
また心中だとすれば、ノートにはきっとI村さんの切々たる思いが綴られていたの
ではないだろうか(白骨の鑑定結果が覆った事、執拗とも云える追求をするマスコミ
がノートについて続報を一切しなかった事から心中の相手となった女性はそれなり
身分を持つ者の身内であり、何らかの圧力がかかったとも推察される)。

いずれにしろ、真相は深い闇の中へと埋没してしまったが、果たしてプロンクスの
ママなら、関係者にどんな質問をし、どのような答えを導き出すのか、ぜひ聞いて
みたい事件でもある……。

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