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4000字の世界コミュの「十年の喧嘩」

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この喧嘩の始まりは10年も前の約束だった。
僕らは、時間を持て余した人たちが時間つぶしに使うような寂れた公園で殴り合っていた。
喧嘩の理由なんていつも対した事がないものだが、あの時の喧嘩はただ単にどちらのほうが強いかというだけのもので、喧嘩というより力比べのようなものだった。

当時16歳。
どちらが強いかなんてくだらない事のために殴り合うなんて、馬鹿げてると思い始めてもいい年齢だ。
公園で殴り合っている僕らを、遠目で見る人はいても止めに入る人はいなかった。
二人とも本気になりすぎていて、ためらいもなく相手の顔を殴り、噛み付き、目つぶしに砂をかけたり、何でもありだった。
僕らの勝負は結局つかなかった。最後には二人ともかすれる目でしゃがみ込んだまま相手を睨みつけるのが精一杯で戦う事が出来なくなっていた。

僕らはけっして仲が悪かったわけじゃない。
当時、殴り合う事になったのも、むしろ仲が良かったからだ。いつも一緒にいるからすれ違いもある。同じ人を好きになる事もあった。
期末テストの成績などで一緒に一喜一憂して、わずかに勝っているだけでも相手をこれでもかと馬鹿にしたものだ。
そうして、小さな事で争い、馬鹿にしていると、
「ただの喧嘩なら負けないのに。」
僕がそう言ったのは、ある意味自然だったと思うし、僕が言わなくてもいつかは彼が言った言葉だったと思う。
あの時の殴り合いはそんな理由で始まったのだ。

もはや戦う力がなくなった親友同士は、相手を見つめながら笑い始めた。
「今回は引き分けだ」
彼の言葉を僕は笑ったまま受けた。
「なあ、今度はちゃんと決着をつけようぜ。10年後だ。もう一回戦おう。」
彼は僕を親友として認め、10年後にまた会おう。そういう約束をしようと持ちかけたのだと思った。
「ああ、このままじゃ終われないよな。10年後、逃げるんじゃないぞ。」
僕は単純に10年経ってもまだ友達でいたかった。だから応えた。
彼は見えない目を擦ろうとしたが、砂の入った目を悪化させてしまうと思ったのか、手を顔の前で止めた。
その手を握りしめ震わせながら僕に向かって言った。
「ルールは一つ。まいったと言わせたら勝ちだ。それでいいだろ」
僕は応える。
「もちろんだ」
いつまでも親友でいようと、そう言ってくれた彼の言葉が僕は嬉しかった。
ただ、彼は本気だった。

彼とは小学生の頃からの友達で同じクラスになったのは3回、典型的な幼なじみにして親友という仲だった。
彼の事はよく知っているつもりだったし、僕も彼に多くの事を話してきたと思う。
つらい事、楽しい事、好きな人や付き合った彼女に言ってもらって嬉しかった言葉、何でも話したし話してくれた。
そんな僕が彼を一言で言うと、やり始めた事はきちんとやり遂げる奴だ。
だから、彼が部活を変えたと聞いた時は驚いた。
高校に入りたてだった僕らはそれぞれサッカー部とハンドボール部に所属していた。
彼は突然ハンドボールをやめて、空手部に入ると言い出したのだ。
「なんでハンドやめんの?何かあったか?」
と僕が聞くと、
「10年後にお前と戦う時、必要になりそうなものは何でもやっとくんだ」
と応えた。僕は正直に驚いた。
本当にあるかも分からないただの喧嘩のためにそこまでやるのか。

彼の本気さに僕は逃げられなくなった。
僕は、未経験だと厳しいと言われながら剣道部に入った。ルールはないんだから、武器を持っていたほうが強いというのが僕の考えだった。
こん棒でも持っていれば、空手の技を食らう前に叩きつぶせると考えたのだ。

僕らはそれぞれ示し合わせて同じ大学に入った。地元でそこそこのレベル。手頃な大学で、親も納得してくれた。
僕らは喧嘩を約束しながらも相変わらず仲がよく、一緒にいる事が多かった。
お互い彼女ができると会う事は少なくなったが、メールでの連絡は結構頻繁で掛け替えのない友人である事に違いはなかった。

彼が株式を始めたと聞いたのはその辺りの時期だった。
「その元手、どこから作ったん?」
彼が株を始めたのは僕には意外だった。お金が欲しいと言っているのを聞いた事もないし、リスクを好んでチャレンジしたがる性格でもない。
少なくともそう思っていた。
「バイトして20万ぐらい作った。いくらいるか分からないけど、出来るだけ増やしておきたいんだ。高校の時から結構本読んで勉強してたし、なんとか増やせると思うんだ」
と彼は応えた。彼がそんな本を読んでいた事なんて知らなかった。ずっと一緒にいたつもりだったのに、やっぱり分からない事はあるものだなと思った。
「そんなに金がかかる事って何だよ?」
単純な好奇心から聞くと、
「5年後のお前との喧嘩だよ。何が必要か分からないだろ」
さらっと答えられて唖然とした。20万じゃ足りないようなものがあんな下らない喧嘩に必要なのか?
一体何に使う気なんだ?僕は何をやればいい?勝てるのか?むしろそこまでやって勝つ必要があるのか?
僕は混乱した後に、そこまで本気の彼に少しでも対抗したい想いで、ちょっと強がってみた。
「はは、ちゃんと考えてるんだな。俺の作戦はお前の想像では止められないぜ。」
言ってみた後に、本気で準備しないとまずいと思った。
彼は空手を続けているが、僕はもう剣道をやめてしまっていた。まだ5年ある。喧嘩なんてもういいだろうと持ちかけるにも十分な時間がある。
今から勝つために準備しても、彼に勝てるほどの何かが出来るかもしれない。
本気で取り組む彼を前にやめようと言うのは気が引けた。
なんとかして勝ちにいこう。そう心に決めた。

決闘の一週間ぐらい前になると、彼はお金で仲間を雇い始めた。
一日で3万円というバイト料とたった一人と戦うだけという仕事内容に50人ぐらい集まっていた。
彼は株式で20万円を300万円ほどにまで増やしていた。そのうちの半分ほどを使って僕と戦うための戦闘員を集めたのだ。
ルールはないといったけれど、まさか仲間を雇うのもありだとは思っていなかったから、彼が人を雇い始めたと聞いて背筋が凍る思いだった。

僕に人を雇うお金はない。
それにこんな喧嘩に100万も200万も使うのはばからしいと感じていた。
僕の作戦は最初から最後まで武器だ。始めに剣道を思いついた時と同じ考えで、より勝ちやすい武器が何かと考えていた。
彼に気づかれないように花火を出来るだけ購入し、ちょっとした手榴弾のようなものを作ってみたのだ。
誰もいない海で一度だけ試してみたが、相手をびびらせるには十分な破壊力があると思った。
手榴弾が50個もあれば相手の数は関係ない。数個爆発させて威嚇するだけで、即席のバイト戦闘要因では近づくのもこわくて尻込みしてしまうだろう。
ルール無用なのだから、文句もないはずだ。

彼の行動は露出しすぎている。僕に情報が漏れすぎているのだ。彼の作戦は分かっている。僕は勝利を確信していた。
彼が今までやってきた、この喧嘩に向けての長い準備には驚かされてばかりだったが、最後は発想力で勝てる。
準備期間がいくら短いと言っても、相手の戦略の情報と完璧な対策があれば負けるわけがないのだ。
ただ、人目のある場所で爆弾はあまりよくない。
決闘場所を決める段階で一目のない場所を指定しておかなければ作戦は成就しない。
「なあ、それぞれ思い切り準備してるんだから、戦うのはあのときの海岸でどうだ?」
あのときとは僕らが誰もいない所に行こうと言いだして、自転車で走り着いた先にあった海岸だ。
海岸線から1キロぐらい人家もなく、ひたすら森が広がっていて手入れもされていない。決闘をするにはうってつけの場所だ。
「いいぜ。俺も人目につかないほうが好都合だ」
彼は答えた。

決戦当日、予想通り彼は50人程度のバイト戦闘員とともに、僕と対峙した。
「じゃあ、始めようか」
そういって僕は持っていた手榴弾4つを同時に点火して彼らの目の前に投げつけた。
大きな爆発音とともに、戦闘員たちの悲鳴が聞こえる。勝ちを確信した。
やっぱり、喧嘩は戦略と発想力なのだと思った。

爆弾を投げつけた後にサイレンの音が聞こえ、爆弾の煙の霧が晴れてくると、その向こう側で彼の勝ち誇る笑みが見えた。
どうやら事前にパトカーを呼びつけていたらしい。
「爆発物使用罪で逮捕する。」
そう叫んで近づいてくる警察官を指差して彼はいった。
「僕にいう言葉があるんじゃないかい?」
僕は答えた。
「まいったよ」

数分後、僕はパトカーに乗せられて警察署に向かっていた。

おわり

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原稿用紙にすると10枚になるんですが、WEBで見る事を考えて改行を多めにしました。そのままだと11枚とかになると思いますけど、大丈夫でしょうか?

コメント(7)

 ヒビトさん、こんばんは。

 さっそくの投稿、ありがとうございました。
 
 まずは規定に関するご質問にお答えしたいと思います。
 原稿用紙では10枚だけれども、WEBであることを考慮して改行を多めにした結果、11枚になったが、大丈夫かどうか、とのこと。
 これは判断の難しいところですね。
 本来であれば、縦書き横書き、段組、文字の大きさなどをもっと自由に変えられる状態で、原稿用紙10枚限定という規定を適用したいのですが、トピックの書式を変えられない以上、改行の多寡や漢字の開き、句読点の位置、キャラクターのセリフなどなどで、読みやすくなるように苦心しなければならないわけです。
 当然、読みやすくしようと思えば、改行を増やすのは有効な手段のひとつなのですが、このコミュニティの趣旨としては、「あくまで原稿用紙10枚限定」という規定を守ることが、他のコミュニティとの差別化をはかるうえでも重要だと考えます。
 あえて10枚にこだわる、というコンセプトなわけです。

 とはいえ、これは楽しみのためにやっていること。あんまりがちがちに縛っても面白くありません。
 私は、当コミュのイメージピクチャーにもある通り、「原稿用紙10枚 それより多くも少なくもない」ものを募集します。
 それだけを募集します。
 ただたまに、なんでかな、数が数えられなくなることがあるんです。
 ……ということでひとまず。


 さて、「十年の喧嘩」、読ませていただきました。

 10枚で、10年という歳月を描こうという発想が愉快でした。これはおもしろい試みです。それも10年後にまた喧嘩をするという。その喧嘩のために着々と準備をしてゆく。どうなるのかという興味に引きずられて、一気に読みました。

 冒頭の喧嘩のシーンは、さわやかです。
 仲の良い、競い合う幼馴染と心行くまで殴り合う青い春。きっとだれもが一度は憧れるシチュエーションではないでしょうか。

 ラストにもう少し趣向を凝らして欲しかったな、とは思いました。もっと壮大な、様々な利権のからまり合う町ぐるみの闘争に発展するとか、あるいは哲学的な示唆に富むラストを想像していたので、話の終わりがオチになってしまっているところが、個人的には物足りなかったです。

 しかし、このアイデア自体はおもしろい。話の導入部で、いきなり「寂れた公園で殴り合っていた。 」という引き込み方もうまかったです。

 格闘家ではない、素人同士の、素手の殴り合い。
 ブラッド・ピットが主演した映画「ファイトクラブ」の前半部もそうした趣向で、後半からはSFがかってきてしまうのですが、前半には奇妙なさわやかさが漂っていました。潔い野生の心地良さというか。
 あこがれますね、こういうの。魅力的な素材です。私も書きたくなりました。

 快い刺激がいただけました。感謝です。
 また、よろしくお願いしますね。
 ありがとうございましたm(_ _)m
コメントありがとうございます。
とても勉強になりましたし、なんだか見透かされているだなと驚きました。

>とはいえ、これは楽しみのためにやっていること。あんまりがちがちに縛っても面白くありません。
>私は、当コミュのイメージピクチャーにもある通り、「原稿用紙10枚 それより多くも少なくもない」ものを募集します。
>それだけを募集します。

了解しました。そういうものを書こうと思います。

>10枚で、10年という歳月を描こうという発想が愉快でした。

実はこれはあんまり意識していなかったので,指摘されてびっくりしました。なるほど、確かに珍しいなと思いました。自分で少し驚きました。人に見てもらうとこういう発見が嬉しいですね。

>ラストにもう少し趣向を凝らして欲しかったな、とは思いました。もっと壮大な、様々な利権のからまり合う町ぐるみの闘争に発展するとか、あるいは哲学的な示唆に富むラストを想像していたので、話の終わりがオチになってしまっているところが、個人的には物足りなかったです。

これについては、僕が一番そう思っています。始めはもっと長編の構想で、もっと壮大なものを書きたかったのです。「大人が本気で喧嘩をするとどうなるか。」というテーマでもっと壮大な、様々な利権のからまり合う町ぐるみの闘争に発展するとかを本当は書きたかったんですよ。見透かされてしまってますね。
十分な資料と経験が僕にはなかった僕としては今の形が精一杯でした。もっと勉強したいですね。

本当に勉強になりました。
また、何か書ければここに乗せたいと思います。
面白かったです。
発想が、ものすっごくいいです。
単純な喧嘩でも突き詰めればここまで、面白くなるってことが、すごく勉強になりました。

ただ、やっぱりラストが妥協しすぎな感じはしますね。
十年の間に喧嘩の相手がどんどんと強大になっていく描写を伏線としていれてるなら、その強大な相手に主人公が勝つ話じゃないと、なんかすっきりしないような気がします。

十年間、なんの準備もしてこなかった主人公が、コツコツ準備してきた相手にどうやって機転を利かせて勝つかを考えるのは大変だと思いますが、やっぱり最後には勝って欲しかったです。

例えば、「まいった」と言ってしまう事が敗北条件なわけですから、自分の喉を焼くなりして潰してしまえば、声が出せなくなって勝てないまでも、負けはなくなる。その覚悟に、驚嘆して友人が負けを認めるみたいな感じでもよかったので、勝って欲しかったなぁと思いました。

逆に、どうしても主人公を負けさせたいなら、例えば主人公は「まいった」とあった瞬間に友人に言うんだけど、友人は聞く耳持たずで攻撃の手を緩めない。主人公はどうして「まいった」と言っているのに、友人がそれを聞き入れてくれないのかと、逃げながら考える。やがて、その途中で友人が十年の間に聴覚障害者になっているのを知って、最後の最後で主人公が「まいった」と手話で伝えるとか、ちょっと捻って欲しかったな。というのが本音です。

というか、警察に捕まったくらいで「まいった」と言うくらいなら、主人公が勝負に関心なさすぎて、十年間がんばった友人が哀れ過ぎますよ。
>発想が、ものすっごくいいです。

ありがとうございます。すごく嬉しい言葉です。

その他いろいろ指摘、アドバイスありがとうございます。
しっかり読んでいただけたんだなと嬉しく思いながら、今後の作品に参考にしたいと思います。

ラストは妥協し過ぎですね。それは、自分でも分かります。もっと磨きたいです。

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