あざらしの談話室２コミュのFreedom-Fighter 23-2

しかし今となっては状況も立場も変わった。恐らく彼女の両親には戦死の通知がいってるはずだ。両親には辛い思いをさせてることに違いはない。それはリェスターにも辛いことではあるが、それなら早くこの戦いを終わらせて、戦争が終結したらすぐに両親のもとに向かうつもりだった。それまで両親には生き延びていてほしい。リェスターも、死ぬわけにはいかない…。

すぐして、アリシアと避難民が到着、あいさつもそこそこに移乗作業が始まった。アリシアも作業を手伝い、アンリとコリーも、老人や幼い子供の乗船手伝いを行った。

「勇敢な姉御隊長が、か…」

上陸用舟艇に、避難民を乗せる作業はスムーズに進んでいた。アリシアはその作業の間、リェスターの姿をチラチラ見ていた。

「同郷…だっけ？」

メランコリーはアリシアに声をかけた。アリシアは静かに首を縦にに下ろした。

「あたしは空軍だったけど、リェスター=バーナードの名前は知ってたよ」

「やっぱり、複雑？」

「なんて言えばいいかわかんないけど…ね」

同じリジェルバルタ出身者が祖国を敵にする立場として、また、前の大戦で敵味方だった者同士が、今度は同じ軍で戦う。その運命を複雑に感じずにはいられなかった。どちらにせよ、結局また殺し合いに肩身を置かなければならないというのも、辛いことではあった。

移乗作業が終わり、海岸にはしばしの静寂が訪れる。第301戦術海兵師団が周辺警戒を行い、第二陣の到着を待った。このあとは、沖合いの輸送艦からOCRGの部隊及びキックスとアリソンとミューレンスの到着、第二陣の移乗作業を経て、拠点に向かう予定だ。

場所は変わって強襲揚陸艦ガーランド。支度を終えてデッキにもたれるキックスの姿があった。しばらく上陸用舟艇の動きを眺めていたのだが、ふとタバコを１本…。

「どうぞ」

右から火のついたライターが…

「ありがとう…」

吸いながら火をつけ、フーっと息を吐いた。キックスの隣には、ＯＣＲＧ４番隊のアパム=ムスタングがいた。

「気付かなかったよ」

「気付かれないように、近付いたのです」

彼は笑っていた。２人が…というか、キックスがＯＣＲＧの隊長と話すのは珍しい話ではないが、ムスタングとゆっくり話すのは何気に初めてだった。

「ダガイの時とは、違いますよね」

ムスタングは、緊張していた。それがキックスには筒抜けだった。

「ダガイでビビったなら、今からでも遅くない。艦を降りるんだな」

キックスは、極力血は流したくない。中途半端な気持ちで戦場に向かい、死んだ人間をたくさん見てきたから。しかしムスタングは…

「自分には、護りたいものがあるので、艦を降りるつもりはありません。降りるとしても、そこはトサノコクの砂浜です」

キックスは小さく笑った。彼を隊長に任命したのが誰かは知らないが、とりあえず任命責任を問わずに済みそうだ。

「准佐こそ、護りたいものがあるのでは？」

ニヤリとするムスタング。

「キックスでいい。准佐と呼ばれるのは、好きになれん」

本当は恥ずかしいだけ。

「そうだな…ただやみくもに戦うよりは、ずっとマシだよ。ハスティーに感謝だな」

珍しく本心を話すキックス。

「彼も、護りたい人がいますからね」

キックスは笑った。オーガンシティーを発つ日のことを思い出した。あの時は特になにも感じなかった。それが…。


彼女の笑顔が、浮かんだ


「仲良いですよね…慕っているって感じですか」

「まぁ…そうだな」

キックスは、珍しく笑顔だった。

「オレにはそういうことなんかないと思ってたんだが…不思議なもんだな」

そういうもんですよ、ムスタングは言った。彼も全くその気がなかったらしい。

「エリーゼ…セントルーゼン」

「よく御存知で」

「あぁ…ゆかから聞いたんだ」

ゆか？ キックスははっとなった。人と話すときはだいたい『アリソン』とか『ヨークタウン兵長』と呼ぶのだが、この時キックスははっきりと『ゆか』と口にした。

「あはは！大丈夫ですよ。それだけ大事な人なんでしょう？」

「……」

昔から知ってた。上官の一人娘。だがあまり話したことはなかった。よく話すようになったのは、ダガイからボエラニアに脱出したしばらく後だ。


キックスなら大丈夫、お前に足りないものを彼女は持ってる。難しく考えない方がいい


そんなようなことを昔ハスティーに言われたことがある。なに先輩風吹かしてやがる、なんて言い返していたが…。