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バイク小説「Rider's Story」コミュのバイク短編小説「過去と未来」

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 五年前に病気で死んだはずの親父が道路の向こうに立っていた。
「浩二。後ろに乗らないか。伊豆の方にツーリングに行こう」
 親父の傍らには当時の愛車カワサキW650があった。
「浩二はコーナーでバイクを倒すと、いつも俺の腰にやった手に力を入れるんだよな」
 ふふっと、親父はやさしい笑い方をした。そして、こっちにおいでと手を振った。
 親父とタンデムツーリングなんて、もう二度とできないと思っていた。親父の大きな背中にしがみついてバイクの後ろに乗っていると、親父の頼もしさを感じて、とても安心できたんだよな。
 俺が親父の方へ向かって一歩踏み出そうとした時だった。
「おとうさん。バイクの後ろに乗せてよ」
子供の声が聞こえた。
「ユウスケ?」
姿は見えないが、確かに声はユウスケだった。そうだ。俺には小学一年生になる息子がいたのだ。
「もう小学生になったよ。小学生になったらバイクの後ろに乗せてくれるって約束したじゃん」
 そうだ。そろそろだと思っていたのだ。ユウスケとのタンデムは、彼が生まれてからずっと待ち望んでいた俺の夢でもあった。
 親父と二人乗りかユウスケと二人乗りか。どちらを選ぶか。
迷うことはないよな。

「…ユウスケ…」
 目の前にはユウスケと妻の香織がいた。俺はベッドに横になっていた。白い壁と白い天井。ここは病院のようだった。
「おとうさん! おとうさん!」
 ユウスケと香織が大きな声を出している。
「先生!意識が戻りました!先生!」
香織が叫びながらあわてて部屋を出て行った。
そうだ、思い出した。俺は会社からバイクで帰宅途中に、交差点で大型トラックとぶつかったのだ。そこからの記憶はない。今、意識が戻ったらしい。生死をさまよっていたのだろうか。どうやら、一命を取り留めたようだ。
さっきまで見ていた夢は何だったのだろう。親父の方へ行っていたら、俺は帰らぬ人となっていたのだろうか。それを引き留めたのは、息子のユウスケだというわけか。

五年後

ようやく妻の許可が下り、俺はまた懲りずにバイクに乗っている。
今日は、息子のユウスケを後ろに乗せて山の方の茶屋にかき氷を食べに行くのだ。
 コーナーでバイクを傾ける度に、ユウスケは俺の腰にやった手に力を入れる。それが、かわいくて、この幼い息子をこれからも守ってやらねばと思わせる。
 親父が言っていたのは、このことだったのだな。親父の後ろに乗った幼い頃の俺も、きっと腰にやった手に力を入れたのだろう。親父も、俺に対してこんな感情を抱いていたのだろうか。木陰のトンネルを走り抜けながら、五年前に夢で会った親父を思い出していた。
(親父、俺は息子をバイクの後ろに乗せて走っているよ。俺が、親父のようにバイクに乗りたいって思ったのと同じように、ユウスケもバイクに乗りたがるかな。夢の中だったけど、親父に会えてよかったよ。…でもね、親父、俺はあの時、親父とのタンデムを選ばなかった。ユウスケを選んだ。…俺はまだ、死ねないんだ)

 見晴しのいい畑に囲まれた一本道を、山の方へ向かう。
「おとうさん。風が気持ちいいね」
ユウスケが大きな声で言った。
「だろ!」
 こいつはバイクの良さをわかっている。バイク乗りになるかもしれないな。
 川沿いを北上している。俺は少しだけアクセルを開けて、左カーブを抜けた。
 ユウスケが、また俺の腰にやった手に力を入れた。

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