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コメント(26)
吉田公平「洗心洞答刂記 上・下」（タチバナ教養文庫）
「江戸末期，天保の大飢饉の際，元与力の大塩平八郎は義憤に駆られ「大塩の乱」を起こして果てたが，彼は陽明学をひたすら研鑽していた陽明学者でもあった。その主著「洗心洞答刂記」は，明治時代以降，佐藤一斎の「言志四録」と並んで読み継がれた，隠れたロングセラーなのである」（紹介文から）
幕末維新の始期は１８５３年のペリー来航とされるのが一般ですが，明治維新の変革はそれに先立つ時代に変革の条件が整えられていたからこそできたので，ペリー来航はきっかけを与えたにすぎないという内在史観を取ると，始期をペリー来航から更に遡らせることもありうるということになります。
こうした立場からは，１８３７年に発生した「大塩の乱」も幕末維新の始期の候補に挙がってくるでしょう。
この本は，大塩の主著「洗心洞答刂記」（せんしんどうさっき。「答刂」は一字）を，広島大学文学部教授の著者が現代語訳したものです。
「江戸末期，天保の大飢饉の際，元与力の大塩平八郎は義憤に駆られ「大塩の乱」を起こして果てたが，彼は陽明学をひたすら研鑽していた陽明学者でもあった。その主著「洗心洞答刂記」は，明治時代以降，佐藤一斎の「言志四録」と並んで読み継がれた，隠れたロングセラーなのである」（紹介文から）
幕末維新の始期は１８５３年のペリー来航とされるのが一般ですが，明治維新の変革はそれに先立つ時代に変革の条件が整えられていたからこそできたので，ペリー来航はきっかけを与えたにすぎないという内在史観を取ると，始期をペリー来航から更に遡らせることもありうるということになります。
こうした立場からは，１８３７年に発生した「大塩の乱」も幕末維新の始期の候補に挙がってくるでしょう。
この本は，大塩の主著「洗心洞答刂記」（せんしんどうさっき。「答刂」は一字）を，広島大学文学部教授の著者が現代語訳したものです。
巌本善治編「海舟座談」（岩波文庫）
「晩年の海舟が興の赴くままに説き去り説き来る幕末明治の史話を悉く収録したもの。維新前後の軍事外交事情を知る上で無比の文献」（オビの文章より）
基礎知識がないと座談の意味内容を汲み取るのに苦労する部分がありますが，海舟の闊達自在な人となりを髣髴とさせるものがあり，それだけでも読む価値があります。残念ながら，現代の指導者にこれだけの人物を見出すことはできません。
付録として当時の有名人による海舟論，本書の書評などが収録されており，その中には足尾銅山鉱害事件で活躍した田中正造がいるかと思えば，後の右翼の大立者大川周明も見られます。当時の志士の流れを汲む文脈の中では，後に見られる「左」「右」といった分類は，余り意味をなさなかったのだろうと察せられます。
以下の海舟の言が，今日のこの国の情勢に照らして，ひときわ印象に残りました。
「時勢の変りというものは妙なもので，人物の値打ちが，ガラリと違って来る。どうも其事が，分らなかったがネ。32年前に，初めて分ったよ。ワシが抜擢されて，其ころの上の者と初めて一つ会談などに出た処が，カラキシ一つも知らない。夫は夫はひどいものだ。どうして之で事が出来たものかと思って，不思議なほどであったが，その時初めて勢の転ずる具合が分った。一つ，大本を守って，しっかりした所さえあれば，騒ぎのあるのは反って善いのだと言うけれど，どうも分らないネ。一つ，大本を守って，夫から変化して行くのだ。その変化が出来にくいものと見える。」
「晩年の海舟が興の赴くままに説き去り説き来る幕末明治の史話を悉く収録したもの。維新前後の軍事外交事情を知る上で無比の文献」（オビの文章より）
基礎知識がないと座談の意味内容を汲み取るのに苦労する部分がありますが，海舟の闊達自在な人となりを髣髴とさせるものがあり，それだけでも読む価値があります。残念ながら，現代の指導者にこれだけの人物を見出すことはできません。
付録として当時の有名人による海舟論，本書の書評などが収録されており，その中には足尾銅山鉱害事件で活躍した田中正造がいるかと思えば，後の右翼の大立者大川周明も見られます。当時の志士の流れを汲む文脈の中では，後に見られる「左」「右」といった分類は，余り意味をなさなかったのだろうと察せられます。
以下の海舟の言が，今日のこの国の情勢に照らして，ひときわ印象に残りました。
「時勢の変りというものは妙なもので，人物の値打ちが，ガラリと違って来る。どうも其事が，分らなかったがネ。32年前に，初めて分ったよ。ワシが抜擢されて，其ころの上の者と初めて一つ会談などに出た処が，カラキシ一つも知らない。夫は夫はひどいものだ。どうして之で事が出来たものかと思って，不思議なほどであったが，その時初めて勢の転ずる具合が分った。一つ，大本を守って，しっかりした所さえあれば，騒ぎのあるのは反って善いのだと言うけれど，どうも分らないネ。一つ，大本を守って，夫から変化して行くのだ。その変化が出来にくいものと見える。」
山県大弐「柳子新論」（岩波文庫）
「柳子新論は山県大弐（１７２５−１７６７）がはげしい気魄で徳川幕府打倒の論をのべたものである。当時は幕府の盛世で大儒，太宰春台さえ『今の大将軍派日本国王なり』といったときに痛烈な幕府排撃論を展開し，幕末に起こった尊王倒幕運動の一代先声をなしたのであるから，本書は日本思想史上高く評価せらるべきものであると信ずる」
「本書は大弐刑死後，筆写せられて同志の間に愛読せられた。以後約９０年を経て本書は幕末明治の奇僧宇都宮黙霖（１８２４−１８９７）によって，長州萩の吉田松陰のもとにもたらされた。そして本書の所説は黙霖の熱心な説得と相まって，松陰のそれまでの幕府を規諌してゆくという考えを一変させ，倒幕またやむなしという決心を抱かせるにいたった。刑死後１００年たって幕府はついに倒れ（１８６７）大弐の素志は実現した」（「解題」より）
「柳子新論は山県大弐（１７２５−１７６７）がはげしい気魄で徳川幕府打倒の論をのべたものである。当時は幕府の盛世で大儒，太宰春台さえ『今の大将軍派日本国王なり』といったときに痛烈な幕府排撃論を展開し，幕末に起こった尊王倒幕運動の一代先声をなしたのであるから，本書は日本思想史上高く評価せらるべきものであると信ずる」
「本書は大弐刑死後，筆写せられて同志の間に愛読せられた。以後約９０年を経て本書は幕末明治の奇僧宇都宮黙霖（１８２４−１８９７）によって，長州萩の吉田松陰のもとにもたらされた。そして本書の所説は黙霖の熱心な説得と相まって，松陰のそれまでの幕府を規諌してゆくという考えを一変させ，倒幕またやむなしという決心を抱かせるにいたった。刑死後１００年たって幕府はついに倒れ（１８６７）大弐の素志は実現した」（「解題」より）
頼山陽「日本外史 上・中・下」（岩波文庫）
「『日本外史』は，その対象を頼山陽（１７８０−１８３２）の生きた武家時代にとり，平氏（武家時代の開始）から徳川氏にいたるまでを述べた漢文体の通史である。記述の範を司馬遷『史記』の『世家』にあおぎ，その巧妙な筆致は，とりわけ人物描写において生彩を放つ」（紹介文より）
「幕末から明治にかけて，『日本外史』ほど多くの読者をもった歴史書はなかった。過去の日本人に親しまれた史書といえば，『平家物語』や『太平記』と並べて，本書の名が思い浮かべられるであろう」「『日本外史』では，個々の人物の人間像を描写し，その心情の美しさ，行動の正しさや勇ましさを顕彰することに主眼がおかれていて，直接に読者の心情にふれる要素が大きい。人々はそれを読むことを通じて，武士としての行き方を，あるいは日本人としての人生観を，学ぶことができたのである」「本書では『勤王』もしくは『尊王』が，武士にとって至上の道徳的義務とみなされている点であり，そのことの帰結として，中国風の歴史思想の前提をなしていた易姓革命是認の思想は否定されることとなる」「明治維新以後，本書は尊王思想を鼓吹し，王政復古を実現するのに功績の大きかった史書として，宣伝されるようになったが，それは山陽の本来の意図ではない」（解説より抜粋）
幕末維新の志士に広く読まれ，大きな思想的影響を与えた書として，ここで紹介しておきます。
なお，松岡正剛さんの書評にもリンクを張っておきます。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0319.html
「『日本外史』は，その対象を頼山陽（１７８０−１８３２）の生きた武家時代にとり，平氏（武家時代の開始）から徳川氏にいたるまでを述べた漢文体の通史である。記述の範を司馬遷『史記』の『世家』にあおぎ，その巧妙な筆致は，とりわけ人物描写において生彩を放つ」（紹介文より）
「幕末から明治にかけて，『日本外史』ほど多くの読者をもった歴史書はなかった。過去の日本人に親しまれた史書といえば，『平家物語』や『太平記』と並べて，本書の名が思い浮かべられるであろう」「『日本外史』では，個々の人物の人間像を描写し，その心情の美しさ，行動の正しさや勇ましさを顕彰することに主眼がおかれていて，直接に読者の心情にふれる要素が大きい。人々はそれを読むことを通じて，武士としての行き方を，あるいは日本人としての人生観を，学ぶことができたのである」「本書では『勤王』もしくは『尊王』が，武士にとって至上の道徳的義務とみなされている点であり，そのことの帰結として，中国風の歴史思想の前提をなしていた易姓革命是認の思想は否定されることとなる」「明治維新以後，本書は尊王思想を鼓吹し，王政復古を実現するのに功績の大きかった史書として，宣伝されるようになったが，それは山陽の本来の意図ではない」（解説より抜粋）
幕末維新の志士に広く読まれ，大きな思想的影響を与えた書として，ここで紹介しておきます。
なお，松岡正剛さんの書評にもリンクを張っておきます。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0319.html
吉田松陰「講孟答刂記 上・下」（講談社学術文庫）
「嘉永六年五月，再度江戸遊学。この年六月，ペリー浦賀来航，七月プーチャーチン長崎来航，上下狼狽して為すところを知らなかった。先生はここにおいて初めて（佐久間）象山の憂国の識見に服し，「佐久間象山は当今の豪傑，都下一人に御座候。（中略）慷慨気節，学問あり識見あり」と，九月兄梅太郎に書き送られた。十月八日，江戸を発し，長崎来泊中のロシアの軍艦に投じて渡航しようと計ったが，十月二十七日，長崎に至るとロシアの軍艦が去った後であったので，空しく帰らざるを得なかった。翌安政元年，アメリカの軍艦が再び来航したので，改めてこれに投じて海外に出でんと計画，しかし三月二十七日夜，下田停泊中のアメリカの軍艦に，みずから小舟を漕ぎよせたが許されなかったので，二十八日，下田奉行所に自首，縛につき，ついで江戸に送られた。途中，高輪の泉岳寺の前で，四十七士に，
かくすればかくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂
の一首を手向け，義士に託して自身の心事を述べられた。九月十八日，在所において蟄居もうしつけるとの判決が下り，二十三日江戸発，十月二十四日，萩帰着，直ちに野山獄に投ぜられた」
「本書『講孟答刂記』（こうもうさっき。「答刂」は一字）は，先生が野山獄に投ぜられた翌年の三月より，同囚の人々と『孟子』の輪講を行った際の，先生自身の各章に対する批判感想をみずから筆録されたものであるが，みずからその完成を回顧して「亦奇ならずや」何と不思議なことではないかといっておられるように，まことに極まりなき辛苦のうちに書き続けられた書物であった。
これよりさき，先生が獄に投ぜられてまず驚き，驚いたというよりも憤激されたことは，当時の囚人に対する不誠意不親切であった。すなわち当時在獄者十一名，その最長在獄者は四十七年，次は十七年，次は十四年，中には入獄して間もないものもあったが，いずれも刑期というものはなく，いったんここに入れられると生涯出獄は許されず，されば彼らは，前途に何の希望もないままに，陰鬱にして自棄の毎日を送っていた。先生はここにおいて『福同策』という論文を書いて獄囚教化の道を当局に進言しようとされたが，それよりもまず，自分の力で為し得る道を考えられ，そこで最初に行われたものは『孟子』の講義であり，それは安政二年四月十二日より始められ，二ヵ月後の六月十日に終えたのであった」（「解説」より抜粋）
「嘉永六年五月，再度江戸遊学。この年六月，ペリー浦賀来航，七月プーチャーチン長崎来航，上下狼狽して為すところを知らなかった。先生はここにおいて初めて（佐久間）象山の憂国の識見に服し，「佐久間象山は当今の豪傑，都下一人に御座候。（中略）慷慨気節，学問あり識見あり」と，九月兄梅太郎に書き送られた。十月八日，江戸を発し，長崎来泊中のロシアの軍艦に投じて渡航しようと計ったが，十月二十七日，長崎に至るとロシアの軍艦が去った後であったので，空しく帰らざるを得なかった。翌安政元年，アメリカの軍艦が再び来航したので，改めてこれに投じて海外に出でんと計画，しかし三月二十七日夜，下田停泊中のアメリカの軍艦に，みずから小舟を漕ぎよせたが許されなかったので，二十八日，下田奉行所に自首，縛につき，ついで江戸に送られた。途中，高輪の泉岳寺の前で，四十七士に，
かくすればかくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂
の一首を手向け，義士に託して自身の心事を述べられた。九月十八日，在所において蟄居もうしつけるとの判決が下り，二十三日江戸発，十月二十四日，萩帰着，直ちに野山獄に投ぜられた」
「本書『講孟答刂記』（こうもうさっき。「答刂」は一字）は，先生が野山獄に投ぜられた翌年の三月より，同囚の人々と『孟子』の輪講を行った際の，先生自身の各章に対する批判感想をみずから筆録されたものであるが，みずからその完成を回顧して「亦奇ならずや」何と不思議なことではないかといっておられるように，まことに極まりなき辛苦のうちに書き続けられた書物であった。
これよりさき，先生が獄に投ぜられてまず驚き，驚いたというよりも憤激されたことは，当時の囚人に対する不誠意不親切であった。すなわち当時在獄者十一名，その最長在獄者は四十七年，次は十七年，次は十四年，中には入獄して間もないものもあったが，いずれも刑期というものはなく，いったんここに入れられると生涯出獄は許されず，されば彼らは，前途に何の希望もないままに，陰鬱にして自棄の毎日を送っていた。先生はここにおいて『福同策』という論文を書いて獄囚教化の道を当局に進言しようとされたが，それよりもまず，自分の力で為し得る道を考えられ，そこで最初に行われたものは『孟子』の講義であり，それは安政二年四月十二日より始められ，二ヵ月後の六月十日に終えたのであった」（「解説」より抜粋）
徳富蘇峰「吉田松陰」（岩波文庫）
「彼は多くの企謀を有し，一の成功あらざりき。彼の歴史は蹉跌の歴史なり。彼の一代は失敗の一代なり。然りといえども彼は維新革命における，一箇の革命的急先鋒なり。もし維新革命にして伝うべくんば，彼もまた伝えざるべからず。彼はあたかも難産したる母の如し。自から死せりといえども，その赤児は成育せり。長大となれり。彼れ豈に伝うべからざらんや」（「第一 誰ぞ吉田松陰とは」より）。
「彼が殉難者としての血をそそぎしより三十余年，維新の大業半ば荒廃し，さらに第二の維新を要するの時節は迫りぬ。第二の吉田松陰を要する時節は来たりぬ。彼の孤墳は，今既に動きつつあるを見ずや」（「第二十 事業と教訓」より）。
「彼は多くの企謀を有し，一の成功あらざりき。彼の歴史は蹉跌の歴史なり。彼の一代は失敗の一代なり。然りといえども彼は維新革命における，一箇の革命的急先鋒なり。もし維新革命にして伝うべくんば，彼もまた伝えざるべからず。彼はあたかも難産したる母の如し。自から死せりといえども，その赤児は成育せり。長大となれり。彼れ豈に伝うべからざらんや」（「第一 誰ぞ吉田松陰とは」より）。
「彼が殉難者としての血をそそぎしより三十余年，維新の大業半ば荒廃し，さらに第二の維新を要するの時節は迫りぬ。第二の吉田松陰を要する時節は来たりぬ。彼の孤墳は，今既に動きつつあるを見ずや」（「第二十 事業と教訓」より）。
奈良本辰也「吉田松陰」(岩波新書)
「・・松陰は，のぞめば藩に重用される道はついていた。藩主の寵も厚かった。しかも，彼は止っていられなかったのだ。人間として，また学者として，時代の真只中にその真価をきたえようとしたのである。学問が，真実の道を探求するためには，それは書斎の中で，ただ書を読んでいたのでは駄目であるということを悟ったのだ。悟ると同時に，彼は実践もしたのであった。真理のためには，思想の純粋を保つためには，彼には世間的な成功は問題ではなかったといえる。
そうして意味で，学問や思想と，その人間の真髄が，あまりにもかけ離れた多くの人々を見てきた私は，松陰の人間像に強く惹かれるものを持っている。かつて私が学んだ近代歴史学はあまりにも多くの英雄や偉人を抹殺した。冷徹な科学の思惟が，遠慮会釈もなくこれらの偶像を破壊したことは，一種の爽快感を感じさせずにはおかなかった。しかし，そのために歴史学が，たんなる学問，それも研究室の学問になり下がったことの不幸は，今日いくら歎いても歎きたりるものではない。われわれの歴史学を国家・社会に有用の学たらしめるには，その破壊した偶像の廃墟の中に，新しく血の通った人間像を打ち立てることだ。わたくしは，松陰に惹かれるその情熱をもって，この新しい仕事にとりかかりたいと思っている。」(「あとがき」より)
本書の初版は１９５０年に出版されており，あとがきの最後においてカナダ人外交官で著名な日本近代史の研究者ハーバート・ノーマンに献辞が捧げられています。その後，ノーマンがマッカーシズムの犠牲になったことを念頭に置いて，上の著者の文章を読むと，本書が世に出た頃の時代背景が思い起こされます。
「・・松陰は，のぞめば藩に重用される道はついていた。藩主の寵も厚かった。しかも，彼は止っていられなかったのだ。人間として，また学者として，時代の真只中にその真価をきたえようとしたのである。学問が，真実の道を探求するためには，それは書斎の中で，ただ書を読んでいたのでは駄目であるということを悟ったのだ。悟ると同時に，彼は実践もしたのであった。真理のためには，思想の純粋を保つためには，彼には世間的な成功は問題ではなかったといえる。
そうして意味で，学問や思想と，その人間の真髄が，あまりにもかけ離れた多くの人々を見てきた私は，松陰の人間像に強く惹かれるものを持っている。かつて私が学んだ近代歴史学はあまりにも多くの英雄や偉人を抹殺した。冷徹な科学の思惟が，遠慮会釈もなくこれらの偶像を破壊したことは，一種の爽快感を感じさせずにはおかなかった。しかし，そのために歴史学が，たんなる学問，それも研究室の学問になり下がったことの不幸は，今日いくら歎いても歎きたりるものではない。われわれの歴史学を国家・社会に有用の学たらしめるには，その破壊した偶像の廃墟の中に，新しく血の通った人間像を打ち立てることだ。わたくしは，松陰に惹かれるその情熱をもって，この新しい仕事にとりかかりたいと思っている。」(「あとがき」より)
本書の初版は１９５０年に出版されており，あとがきの最後においてカナダ人外交官で著名な日本近代史の研究者ハーバート・ノーマンに献辞が捧げられています。その後，ノーマンがマッカーシズムの犠牲になったことを念頭に置いて，上の著者の文章を読むと，本書が世に出た頃の時代背景が思い起こされます。
海原徹「江戸の旅人吉田松陰 遊歴の道を辿る」（ミネルヴァ書房）
「安政６（１８５９）年１０月２７日（陽暦１１月２１日），吉田松陰は江戸伝馬町獄内の刑場で死んだが，文政１３（１８３０）年８月４日生れの彼は，まだ数え年３０歳の若者であった。ところで，このいかにも短い，ほとんど駆け足の生涯の間に，彼は驚くほど精力的に日本各地を旅している。嘉永４（１８５１）年末，厳冬の風雪を冒して企てられた４ヵ月余に及ぶ東北旅行など，交通手段の著しく貧弱な江戸時代にしては，ほとんど信じがたいほどの快挙であるが，嘉永３年から７年まで，僅か５年足らずの限られた時間内に，彼が足跡を残した地理的な広がりや旅に出掛けた回数などを考えると，その行動力は同時代の旅人たちの中でも屈指のものだといって過言ではなかろう。ではなぜ，彼はそのように旅に執着したのか，彼をそれほどまでに旅に駆り立てた理由や動機とは，そもそもどのようなものか。また彼は，そうした旅の繰り返しの中で一体何を見てとり，何を経験したのか。旅から彼が学んだもの，それが彼の人格形成にいかなる影響を及ぼし，その後の主張や行動にどのように反映されていったのか。そうした幾つかの疑問に何ほどか応えようとするのが，ここでの狙いである。」（「はじめに」より）
著者は京都大学名誉教授。教育学博士。著書に「吉田松陰と松下村塾」「松下村塾の人びと」「松下村塾の明治維新」（以上，いずれもミネルヴァ書房）などがある。
「安政６（１８５９）年１０月２７日（陽暦１１月２１日），吉田松陰は江戸伝馬町獄内の刑場で死んだが，文政１３（１８３０）年８月４日生れの彼は，まだ数え年３０歳の若者であった。ところで，このいかにも短い，ほとんど駆け足の生涯の間に，彼は驚くほど精力的に日本各地を旅している。嘉永４（１８５１）年末，厳冬の風雪を冒して企てられた４ヵ月余に及ぶ東北旅行など，交通手段の著しく貧弱な江戸時代にしては，ほとんど信じがたいほどの快挙であるが，嘉永３年から７年まで，僅か５年足らずの限られた時間内に，彼が足跡を残した地理的な広がりや旅に出掛けた回数などを考えると，その行動力は同時代の旅人たちの中でも屈指のものだといって過言ではなかろう。ではなぜ，彼はそのように旅に執着したのか，彼をそれほどまでに旅に駆り立てた理由や動機とは，そもそもどのようなものか。また彼は，そうした旅の繰り返しの中で一体何を見てとり，何を経験したのか。旅から彼が学んだもの，それが彼の人格形成にいかなる影響を及ぼし，その後の主張や行動にどのように反映されていったのか。そうした幾つかの疑問に何ほどか応えようとするのが，ここでの狙いである。」（「はじめに」より）
著者は京都大学名誉教授。教育学博士。著書に「吉田松陰と松下村塾」「松下村塾の人びと」「松下村塾の明治維新」（以上，いずれもミネルヴァ書房）などがある。
山岡鉄舟「剣禅話」(徳間書店)
「幕末三舟ということばがあり，それは『幕末三舟伝』として書物の題名にもなっている。三舟とは，いうまでもなく勝海舟，山岡鉄舟，高橋泥舟の三人をさす。
まず，勝海舟であるが，これはなんといっても著名人である。何をやらせても，みごとにやってのけることができた。ただし，嫌いなこととなると，絶対に首をたてに振らなかった男でもある。
二番目をとばして高橋泥舟。この男は槍を握らせたら天下無敵だった。しかし，他のことはなんにもできない男である。自分でも槍以外のことには手を出さなかった。だから，武士の時代が終ると，３６歳という若さのままで世を捨ててしまう。『泥舟』とはそのときからの号である。まさにどろ舟のとごく，世間の波にもまれて抗いもできず，ぶくぶくと沈んでしまったわけだ。
そこで最後に鉄舟であるが，前の二人との比較でいうと，まことに中途半端な男である。
・・・鉄舟の一世一代の大芝居といえば，『朝敵徳川慶喜家来山岡鉄太郎ー』と名乗って敵軍の本営に乗り込んだことであろう。生死を無視した人にしかできない，胸のすくような大冒険であった。・・・
・・・鉄舟の中途半端なところがもっとも際立っているのは，明治も１３年を数え，武士的なものの名残さえ捨てられ，忘れ去られかかっているとき，ようやく剣法において無敵の境地に悟りを開き，天竜寺の滴水和尚から突きつけられていた『両刃，鋒を交えて避くるを須いず云々』の公案に対する回答をつかんで歓喜したことである。
そのとき鉄舟は４５歳になっていた。にもかかわらず，彼はそこで満足していない。９歳ではじめた剣，そして書，２０歳を過ぎてからはじめた禅の修業，それらがいま，ようやくものになりはじめたばかりだといい，これからすべてがはじまるんだともいうのである。
鉄舟はここに至って，はじめて，少年のころからの目的を一貫して追い求め，しかもいまだにそれをやめようとしない人物として，われわれの前に現れてくる。」(「総説」より)
「幕末三舟ということばがあり，それは『幕末三舟伝』として書物の題名にもなっている。三舟とは，いうまでもなく勝海舟，山岡鉄舟，高橋泥舟の三人をさす。
まず，勝海舟であるが，これはなんといっても著名人である。何をやらせても，みごとにやってのけることができた。ただし，嫌いなこととなると，絶対に首をたてに振らなかった男でもある。
二番目をとばして高橋泥舟。この男は槍を握らせたら天下無敵だった。しかし，他のことはなんにもできない男である。自分でも槍以外のことには手を出さなかった。だから，武士の時代が終ると，３６歳という若さのままで世を捨ててしまう。『泥舟』とはそのときからの号である。まさにどろ舟のとごく，世間の波にもまれて抗いもできず，ぶくぶくと沈んでしまったわけだ。
そこで最後に鉄舟であるが，前の二人との比較でいうと，まことに中途半端な男である。
・・・鉄舟の一世一代の大芝居といえば，『朝敵徳川慶喜家来山岡鉄太郎ー』と名乗って敵軍の本営に乗り込んだことであろう。生死を無視した人にしかできない，胸のすくような大冒険であった。・・・
・・・鉄舟の中途半端なところがもっとも際立っているのは，明治も１３年を数え，武士的なものの名残さえ捨てられ，忘れ去られかかっているとき，ようやく剣法において無敵の境地に悟りを開き，天竜寺の滴水和尚から突きつけられていた『両刃，鋒を交えて避くるを須いず云々』の公案に対する回答をつかんで歓喜したことである。
そのとき鉄舟は４５歳になっていた。にもかかわらず，彼はそこで満足していない。９歳ではじめた剣，そして書，２０歳を過ぎてからはじめた禅の修業，それらがいま，ようやくものになりはじめたばかりだといい，これからすべてがはじまるんだともいうのである。
鉄舟はここに至って，はじめて，少年のころからの目的を一貫して追い求め，しかもいまだにそれをやめようとしない人物として，われわれの前に現れてくる。」(「総説」より)
保田與重郎「南山踏雲録」(新学社保田與重郎文庫１３)
文久３年(１８６３)８月，尊攘派の草莽たちによる天忠組が大和に挙兵する。だが，間もなく京都の政変によって追われる身となり，十津川，吉野の山中を一ヶ月余配送の末，主だった者らは討死，刑死という悲劇的な結末を迎えることになった。これに加わった中の指導的立場にあった一人で，国学者・歌人の伴林光平が刑死を待つ京都の獄にあって，戦況戦跡を静かに振り返りながら遺した記録が『南山踏雲録』である。
早くから光平に対する讃仰の念ひとかたならぬものがあった保田は，戦時下に同書の詳細な註釈に取り組んだ。本書はその評注を巻頭に，光平の師伴信友の一書に従いつつ南朝の伝統を回想した「花のなごり」，さらに光平歌集の注解，光平伝，十津皮郷士伝を併録して，天忠組義挙の精神史的意義を明らめようとしたものである。
文久３年(１８６３)８月，尊攘派の草莽たちによる天忠組が大和に挙兵する。だが，間もなく京都の政変によって追われる身となり，十津川，吉野の山中を一ヶ月余配送の末，主だった者らは討死，刑死という悲劇的な結末を迎えることになった。これに加わった中の指導的立場にあった一人で，国学者・歌人の伴林光平が刑死を待つ京都の獄にあって，戦況戦跡を静かに振り返りながら遺した記録が『南山踏雲録』である。
早くから光平に対する讃仰の念ひとかたならぬものがあった保田は，戦時下に同書の詳細な註釈に取り組んだ。本書はその評注を巻頭に，光平の師伴信友の一書に従いつつ南朝の伝統を回想した「花のなごり」，さらに光平歌集の注解，光平伝，十津皮郷士伝を併録して，天忠組義挙の精神史的意義を明らめようとしたものである。
「富岡鉄斎/大田垣蓮月」（新学社近代浪漫派文庫?）
「富岡鉄斎 天保７年，京都に生れる。早く大国隆正に国学を学び，また梅田雲浜の講筵にも列し，勤皇思想を体して奔命するうちに明治維新を迎えたのは３０歳の余で，その後は敬神愛国の念から，旧蹟，名所の復興に尽力する一方，明治７年に北海道を訪れたのをはじめ，諸方に旅したのは，万巻の書を読み，万里の道を行くという文人の処世をそのまま示すものであった。蓮月尼の心性寺の居にあった２０歳前後から画を始め，京都に定住するようになった４０歳代から専心し，殆ど独学で会得した描法による水墨画風の作品は，晩年に至るほどに豊穣さを加えたが，画業は余技にすぎず，本分はあくまで学者にあると観じた。大正１３年，数えで８９歳を以て歿。」
「大田垣蓮月 寛政３年，京都に生れる。１０歳にならない自分から丹波亀山城主の松平家に仕えて武芸にも通じ，国学を上田秋成に学んだが，六人部是香の門に入った歌道を以てよく知られ，平明で温雅な調べの作品は，幕末の京都歌壇を女流において代表した。夫，子供と死別し，３０歳を過ぎて剃髪した後は，洛東の周辺に居所を何度か移しながら，歌を教える傍ら，自詠を彫りこんだ茶碗などの陶器を制作し，蓮月焼と称されたこれを頒って米塩の資とする生活を送る間，橘曙覧，梁川星巌，また多くの勤皇の志士たちと交わるが，なかに富岡鉄斎があり，北白川の心性寺に住したときは起居を共にして，若き日の鉄斎を調育した。明治８年に８５歳で歿。」
「富岡鉄斎 天保７年，京都に生れる。早く大国隆正に国学を学び，また梅田雲浜の講筵にも列し，勤皇思想を体して奔命するうちに明治維新を迎えたのは３０歳の余で，その後は敬神愛国の念から，旧蹟，名所の復興に尽力する一方，明治７年に北海道を訪れたのをはじめ，諸方に旅したのは，万巻の書を読み，万里の道を行くという文人の処世をそのまま示すものであった。蓮月尼の心性寺の居にあった２０歳前後から画を始め，京都に定住するようになった４０歳代から専心し，殆ど独学で会得した描法による水墨画風の作品は，晩年に至るほどに豊穣さを加えたが，画業は余技にすぎず，本分はあくまで学者にあると観じた。大正１３年，数えで８９歳を以て歿。」
「大田垣蓮月 寛政３年，京都に生れる。１０歳にならない自分から丹波亀山城主の松平家に仕えて武芸にも通じ，国学を上田秋成に学んだが，六人部是香の門に入った歌道を以てよく知られ，平明で温雅な調べの作品は，幕末の京都歌壇を女流において代表した。夫，子供と死別し，３０歳を過ぎて剃髪した後は，洛東の周辺に居所を何度か移しながら，歌を教える傍ら，自詠を彫りこんだ茶碗などの陶器を制作し，蓮月焼と称されたこれを頒って米塩の資とする生活を送る間，橘曙覧，梁川星巌，また多くの勤皇の志士たちと交わるが，なかに富岡鉄斎があり，北白川の心性寺に住したときは起居を共にして，若き日の鉄斎を調育した。明治８年に８５歳で歿。」
「頼山陽・梁川星巌」(岩波書店江戸詩人選集)
「頼山陽(１７８０−１８３２)と梁川星巌(１７８９−１８５８)とは１９世紀初頭の日本文学における二大巨頭である。彼らは漢詩という，外国から輸入された外国語の詩形を駆使して，幕藩体制末期の爛熟期における市民の生活と心情を歌い尽くし，１９世紀を通じて，明治の変革をさえ乗り越え，知識階級のみならず一般庶民にまで熱烈かつ広範囲な支持者，愛好者を持つという文学上の奇跡を成就した。奇跡を生んだ土壌である，漢学の広範囲，かつ高水準の国民的教養は，今日失われたといってよいが，彼らの残した詩は，近代をめざして苦悩した日本人の意識の文学における反映の，最高度のものとして，今日においてもいささかも価値を失うものではなく，あらゆるジャンルを通して日本人の生んだ詩の最高水準のものといってよい。
彼らの詩は，鎖国とがんじがらめの身分制のもとで厳しい閉塞状況に置かれた日本人の，状況を乗り越えようとする未来を望むロマンティシズムと，その反面としての長い平和をもたらした，一定水準の生活程度の上昇のもとで，ささやかな身辺の平和を大切にする，人間的なやさしさとによって，人人をひきつける。この両者は実は別物ではなく，封建的な圧力を断ち切ってはばたこうとする，成長した市民の力の二つの表現である。それはまた彼らの生き方にも反映する。二人とも体制内の身分制度に組み入れられることを拒否した。山陽は安定した藩儒の地位をみずから拒否して，京都の町儒者として生き，星巌は富農の当主たることを望まず，一生を放浪に送った。彼らの生き方は女性に対する態度にも反映する。山陽は母に対して，封建的な礼の規範を衝き破った敬愛をし，江馬細香(１７８７−１８６１)を筆頭とする女弟子たちを仲間として待遇し，星巌は妻の張紅蘭(１８０４−１８７９)と放浪をともにする中で彼女を詩人に育てた」(解説より)
「頼山陽(１７８０−１８３２)と梁川星巌(１７８９−１８５８)とは１９世紀初頭の日本文学における二大巨頭である。彼らは漢詩という，外国から輸入された外国語の詩形を駆使して，幕藩体制末期の爛熟期における市民の生活と心情を歌い尽くし，１９世紀を通じて，明治の変革をさえ乗り越え，知識階級のみならず一般庶民にまで熱烈かつ広範囲な支持者，愛好者を持つという文学上の奇跡を成就した。奇跡を生んだ土壌である，漢学の広範囲，かつ高水準の国民的教養は，今日失われたといってよいが，彼らの残した詩は，近代をめざして苦悩した日本人の意識の文学における反映の，最高度のものとして，今日においてもいささかも価値を失うものではなく，あらゆるジャンルを通して日本人の生んだ詩の最高水準のものといってよい。
彼らの詩は，鎖国とがんじがらめの身分制のもとで厳しい閉塞状況に置かれた日本人の，状況を乗り越えようとする未来を望むロマンティシズムと，その反面としての長い平和をもたらした，一定水準の生活程度の上昇のもとで，ささやかな身辺の平和を大切にする，人間的なやさしさとによって，人人をひきつける。この両者は実は別物ではなく，封建的な圧力を断ち切ってはばたこうとする，成長した市民の力の二つの表現である。それはまた彼らの生き方にも反映する。二人とも体制内の身分制度に組み入れられることを拒否した。山陽は安定した藩儒の地位をみずから拒否して，京都の町儒者として生き，星巌は富農の当主たることを望まず，一生を放浪に送った。彼らの生き方は女性に対する態度にも反映する。山陽は母に対して，封建的な礼の規範を衝き破った敬愛をし，江馬細香(１７８７−１８６１)を筆頭とする女弟子たちを仲間として待遇し，星巌は妻の張紅蘭(１８０４−１８７９)と放浪をともにする中で彼女を詩人に育てた」(解説より)
芳賀登・松本三之介編「国学運動の思想」（岩波書店日本思想大系５１）
「幕末におけるいわゆる草莽の国学は，幕藩体制の矛盾が深刻化し，対外問題の発生による危機感に直面しつつあった時代相を反映しながら，草深い地方の庶民の具体的な日常生活と結びついた社会文化運動として展開し，宣長・篤胤らによる国学が基礎篇・原理篇ともいうべき性格をもっていたのに対して，応用篇・実践篇としての色彩が濃かったのが特徴である」（紹介文より）
以下の１４篇が収録されています。
生田万「岩にむす苔」
橘守部「待問雑記」
和泉真国「明道書」
六人部是香「産須那社古伝抄」
鈴木重胤「世継草」
桂誉重「済生要略」
宮負定雄「国益本論」
宮内嘉長「遠山毘古」
鈴木朖「離屋学訓」
長野義言「沢能根世利」
伴林光平「園能池水」
竹尾正胤「大帝国論」
角田忠行「古史略」
矢野玄道「献芹�藐譟�
「幕末におけるいわゆる草莽の国学は，幕藩体制の矛盾が深刻化し，対外問題の発生による危機感に直面しつつあった時代相を反映しながら，草深い地方の庶民の具体的な日常生活と結びついた社会文化運動として展開し，宣長・篤胤らによる国学が基礎篇・原理篇ともいうべき性格をもっていたのに対して，応用篇・実践篇としての色彩が濃かったのが特徴である」（紹介文より）
以下の１４篇が収録されています。
生田万「岩にむす苔」
橘守部「待問雑記」
和泉真国「明道書」
六人部是香「産須那社古伝抄」
鈴木重胤「世継草」
桂誉重「済生要略」
宮負定雄「国益本論」
宮内嘉長「遠山毘古」
鈴木朖「離屋学訓」
長野義言「沢能根世利」
伴林光平「園能池水」
竹尾正胤「大帝国論」
角田忠行「古史略」
矢野玄道「献芹�藐譟�
今井宇三郎他篇「水戸学」(岩波書店日本思想大系５３)
「尊王攘夷論は，幕末維新期における政治運動の指導理念となり，とくに天皇制国家の構想を提示したことによって近代日本の進路を決定づけた。水戸藩の藩政改革のなかで形成された水戸学は，幕末尊攘論の最大の源泉となったばかりではなく，その理論体系を最も整備された形で示すものである。」(紹介文より)
儒学の系統に立つ水戸学は，儒学における「天」とは天照大神とその子孫たる歴代天皇と一体のものであり，儒学における五倫の実は記紀神話に体現されており，未だかつて皇位を簒奪する者なく万世一系の天皇が無窮に皇統を伝える日本こそが，「君臣の義」を貫き通し万国に優越した「国体」を有するとして，儒学の日本化・国粋化を推し進めました。
以下の１３篇が収録されています。
藤田幽谷「正名論」
藤田幽谷「校正局諸学士に与ふるの書」
藤田幽谷「丁巳封事」
会沢正志斎「新論」
藤田東湖「壬辰封事」
豊田天功「中興新書」
徳川斉昭「告志篇」
徳川斉昭「弘道館記」
会沢正志斎「退食間話」
藤田東湖「弘道館記述義」
豊田天功「防海新策」
会沢正志斎「人臣去就説」
会沢正志斎「時努策」
「尊王攘夷論は，幕末維新期における政治運動の指導理念となり，とくに天皇制国家の構想を提示したことによって近代日本の進路を決定づけた。水戸藩の藩政改革のなかで形成された水戸学は，幕末尊攘論の最大の源泉となったばかりではなく，その理論体系を最も整備された形で示すものである。」(紹介文より)
儒学の系統に立つ水戸学は，儒学における「天」とは天照大神とその子孫たる歴代天皇と一体のものであり，儒学における五倫の実は記紀神話に体現されており，未だかつて皇位を簒奪する者なく万世一系の天皇が無窮に皇統を伝える日本こそが，「君臣の義」を貫き通し万国に優越した「国体」を有するとして，儒学の日本化・国粋化を推し進めました。
以下の１３篇が収録されています。
藤田幽谷「正名論」
藤田幽谷「校正局諸学士に与ふるの書」
藤田幽谷「丁巳封事」
会沢正志斎「新論」
藤田東湖「壬辰封事」
豊田天功「中興新書」
徳川斉昭「告志篇」
徳川斉昭「弘道館記」
会沢正志斎「退食間話」
藤田東湖「弘道館記述義」
豊田天功「防海新策」
会沢正志斎「人臣去就説」
会沢正志斎「時努策」
「横井小楠 １８０９−１８６９」(藤原書店「別冊環?」)
慶応(1866)年、横井小楠が、洋行する二人の甥に贈った詩は、以下のようなものであった。
「尭舜孔子の道を明らかにし/西洋器械の術を尽さば/何ぞ富国に止まらん/何ぞ強兵に止まらん/大義を四海に布かんのみ」。
伝統的な朱子学の素養に立脚して、砲艦外交によって世界を席巻しつつあった19世紀中葉の西洋列強に対峙し、富国強兵の現実政治の彼方に今日の世界連邦思想にも通ずる大義の政治を独自に構想した小楠の先見性は、真に驚嘆すべきものである。
同時代の勝海舟が、生涯で出会ったおそるべき人物として小楠と西郷の名を挙げ、小楠については、あまり西洋のことも知らず自分が教えてやったくらいだが、議論の調子の高いことといったら、自分が梯をかけても及ばぬほどだと述懐したとされる(渡辺京二「小楠の道義国家像」「環」vol.15ｐ３２１）所以である。
この小楠の言葉にもかかわらず、維新後の日本は、ひたすら富国強兵を追い求め、その結果、強兵を追い求めた戦前は、最後は泥沼の１５年戦争に突入して、一敗地にまみれ、富国を追い求めた戦後は、最後は金まみれのバブル経済に突入して、バブル崩壊後は第二の敗戦とまで言われる停滞に苦しんでいる。
こうした近代日本の歩みを振り返って見るとき、１３０年以上前の小楠の言葉は、預言者的響きをもって聞こえてくるように思える。
慶応(1866)年、横井小楠が、洋行する二人の甥に贈った詩は、以下のようなものであった。
「尭舜孔子の道を明らかにし/西洋器械の術を尽さば/何ぞ富国に止まらん/何ぞ強兵に止まらん/大義を四海に布かんのみ」。
伝統的な朱子学の素養に立脚して、砲艦外交によって世界を席巻しつつあった19世紀中葉の西洋列強に対峙し、富国強兵の現実政治の彼方に今日の世界連邦思想にも通ずる大義の政治を独自に構想した小楠の先見性は、真に驚嘆すべきものである。
同時代の勝海舟が、生涯で出会ったおそるべき人物として小楠と西郷の名を挙げ、小楠については、あまり西洋のことも知らず自分が教えてやったくらいだが、議論の調子の高いことといったら、自分が梯をかけても及ばぬほどだと述懐したとされる(渡辺京二「小楠の道義国家像」「環」vol.15ｐ３２１）所以である。
この小楠の言葉にもかかわらず、維新後の日本は、ひたすら富国強兵を追い求め、その結果、強兵を追い求めた戦前は、最後は泥沼の１５年戦争に突入して、一敗地にまみれ、富国を追い求めた戦後は、最後は金まみれのバブル経済に突入して、バブル崩壊後は第二の敗戦とまで言われる停滞に苦しんでいる。
こうした近代日本の歩みを振り返って見るとき、１３０年以上前の小楠の言葉は、預言者的響きをもって聞こえてくるように思える。
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