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アフターパーティーコミュの50

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50

ようやく朝を朝だと純粋に感じられるのは何日ぶりだろうか。ただし爽快だという思いはこれっぽっちもない。身体は常にだるいのだが不規則だった睡眠時間と脳の緊張から巡り巡る思考のループにはまり、眠ってしまえば楽になれそうな気がするのにそう出来ない自分自身に苛立ちを感じながら、徐々に白んでいく空気の中で不安に身を固くしていたのだから。おかしな浮遊感と呼吸が上手く出来ない感じはあれからずっと続いている。ボンの抜ける時間の経過とともに良くなるはずだった体調は一向に良くなる兆しを見せない。眠れぬまま夜を明かしたことで疲労も増し、劇的に変調をきたした私の体調とは裏腹に規則的に刻まれる時計の秒針の音に耳を傾けながら、あと数時間したら病院に行こうかどうしようかを暫く前から悩み続けていた。今は自分が壊れていくのが怖くて、ワラをも掴みたい気分だった。
東京に戻って復職した仕事も、浩二がおかしくなってからというもの自分の体調不良を言い訳に暫く休みをもらっていたのだが、しかしいい加減もう復帰をしなければならない。浩二の身を大阪へ帰し、彼の混沌から解放されたにも関わらず、自分までもが彼の二の舞に陥っているようではしょうがない。いつまでもこんなことをしている場合ではないのだ。
ただ、医者に会ったところで何をどう説明したらよいものか。間違っても大麻を吸ってから不調になり元に戻れなくなったなどとは言えるはずがない。それに体調不良の原因追求のため尿検査や血液検査をしないとも限らない。そんなことされたらたまったもんじゃない。よっぽど見るからジャンキーでない限り医療機関で薬物検査などはしないとは思うが、それだって確証がある訳ではない。なんて、そんなことを危ぶんでいること事態が被害妄想の始まりみたいだ。やばい、混乱する。クスリ、これに関わってはもう仲間以外誰に対しても嘘ばっかりだ。いいや、仲間にだって悪い自分を曝け出す訳にはいかない。クスリでダメになる奴の姿なんてわざわざ誰か好んで見たいものか。何せ私達は基本いい時だけの仲間なのだから。そう考えると真に調子にのれるうちが花、堕ちたら誰にも相談出来ず助けも求められずに朽ちていくのか、と、世間の薬物乱用防止ポスターの標語などが思い浮かぶ。「ダメ、絶対!」この言葉を思い出すなんて、私は後悔しているのだろうか。後悔なんて絶対にしないつもりでいたのに。体調不良はひとを弱気にさせる。そして弱気になった末、このままもう数日様子をみるかリスクを冒して通院するか散々迷った揚句に、結局私は9時になったら病院に出向くことを決意した。

こんな時にどのような病院に行ったらよいか分からず、とりあえずアパートから徒歩圏内の総合病院を私は選択した。総合病院はいつ行っても混んでいるというイメージ通り、やはり今日も朝からたくさんの人が行き来している。外来患者はもちろんのこと、パジャマ姿の入院患者は点滴を引きずったまま公衆電話で誰かと話をしている。私は内科の受付を済ませると、すでに半分以上埋まっている長椅子の空いている所に腰掛けて、名前を呼ばれるのを待った。暇潰しにと文庫本を1冊持ってきていたのでそれを読もうと思ったが、集中力に欠けいつものように文字を追うことが出来ない。頭がぼーっとするのと、誰かに首を絞められているような違和感を肩や首に感じて、しきりと自分の具合の悪さに意識が向いてしまい他へ集中することが出来ない。私は本を読むことを諦めてバッグにしまい、ガチガチに固くなった肩を指で揉んだり首を回したりしながらひたすら自分の番を待った。

暫くして名前を呼ばれ、診察室へ入る。
「今日はどうしましたか?」
柔和な雰囲気の男性の先生が、着崩した白衣の袖下にカルテを置いて尋ねてきた。数人の看護婦が周囲で各々の作業を進めている。私は受診者用の腰掛けに座り、この度我が身に降り懸かった体調不良について切々と語った。
「急に、なんですけど、ここ何日か体調不良が酷いんです。一番酷いのは眩暈、平衡感覚が取れないっていうか、かなりふらふらします。立ちくらみも普段からたまにあるんですが、今はそれ以上に、目の前が真っ白になるような感じが時々あります。あとは呼吸が乱れる感じ。息を吸っても吸っても吸えているような気がしないっていうか、空気が足りないような感じで動悸がするんです。なんか、誰かに首を絞められているような感じに喉が詰まって、肩も重くて。」
「ふうん。それは正確にはいつから?」
「2、3日前からですが、酷くなったのは昨日からです。」
「頭痛は?」
「頭痛っていうか、頭が重い感じはあります。目の感じも変で、本とかちゃんと読めないっていうか。」
「目の感じが変。見え方がいつもと違うということ?」
「はい、そうです。なんかぼーっとするっていうか、全体的に意味が分からないというか。」
「ふむ。なんだろうね。何をしてからそうなった、とか、何か思い当たる原因のようなものはある?」
「そうですね。あの、実は私の今つきあっている彼氏なんですが、少し前に錯乱して精神病院に入って、それで退院してからこれまで一緒に住んでいました。その彼が最近また錯乱状態になって、それでその状態の彼と数日一緒にいる間に何だか私のほうまでも調子がおかしくなってきちゃったみたいなんです。彼の精神病がうつってるっていうか。」
「精神病はうつらないから大丈夫。でも、そういうことがあったんですね。ふむ。」
時々私の言葉をカルテに走り書きしながら、でも私に対し正面に向き直って親身に話をくれている先生の姿勢が嬉しい。
「熱は?計ってみた?」
「あ、はい。でも熱とかは全然ないです。」
「そう。じゃ、ちょっと心臓の音を聞かせてね。」
私は着ていた服を腰から捲り上げるようにした。ぐっと私に近付いた先生が、服の下から聴診器を入れ、その冷たい丸みを肌に感じる。私はなるべくゆっくりとした呼吸をとった。呼吸に意識を集中すると、どうしても過呼吸気味になってしまい酸素過多で目が眩み胸が苦しくなる。背中側からも聴診器を当てられた後、正面に向き直った先生が頬を包み込むようにして私の耳の下あたりを軽く押さえた。私は促されるまま大きく口を明け、先生の持つペンライトに喉をあらわにする。ステンレスの棒で舌の奥を抑えられて軽くえづき、うっすらと涙が瞼にたまった。
「そうだね。扁桃腺も特に問題なし。夜はよく眠れますか?」
「あの、それがこうなってからあまり眠れないです。実はその彼が医者に睡眠薬を処方されていて、私もあんまり眠れないと彼の薬を飲んだりしちゃうんですが、それ飲むと半日は寝てしまって起きてからもかなりずっと頭がぼーっとするんですよね。」
「え?それは良くないよ。きっとその薬はかなり強いんじゃないかな?あなたの今の体調不良の原因のひとつはそこにあるかもしれないよ。医者は患者さんに合わせて薬を処方しているんだから、勝手に他人に処方されている薬を飲んだらいけない。もし眠れないなら僕があなた用に睡眠導入剤を処方してあげるから、もうそれを飲むのはやめなさい。いいね。」
「はい、分かりました。」
「それで、今日はあと一応血液検査をしておきましょう。体調不良の原因が見つかるかもしれないし。脳神経系だとCTとかも撮ったほうがいいかもしれないけど、恐らくそっちじゃないと思いますね。僕の感じでは、そうだなぁ、病名を言うなら鬱病か自律神経失調症じゃないかと思います。」
「でも先生、私、全然精神的に弱ってるとか、そういうのはないと思うんです。ただ本当に体の具合が悪いだけなんです。」
「うん。でもね、ストレスっていうのはストレスと自分では感じていないことも案外ストレスになっていたりするものなんです。責任感が強かったり弱音を吐かないような精神力が強く見える人ほど、体がストレスを感じて異変が出たりするんですよ。まだはっきりそうと分かった訳ではないですが、あなたの場合も恐らくそうではないかと思います。そうですね、もしよければ一度心療内科を受診してみたらどうでしょう?ちょっと今はうちの病院の心療内科は混んでいて予約が3ヶ月先になってしまうんですが、一応予約してみますか?」
「診療内科って何ですか?精神科みたいなものですか?」
「心療内科ってのは、検査しても体に異常がないのにストレスなどから体調不良が良くならない方の話を聞いて、それで患者さんに合った薬を処方するところで、精神科とはまた別のものですよ。内科では検査して問題なければそれ以上はどうにも出来ないのでね。」
私のイメージの中に、医療器具などのない部屋で重厚なソファにくつろぎカウンセラーのような先生とマンツーマンで話す自分の姿が浮かんで消えた。
「でも私、この状態で3ヶ月も待ちたくないのでとりあえずいいです。」
「そうですか。分かりました。じゃ、今日はとりあえず、緊張をほぐす薬と寝つきをよくする薬の2つを出しておきますね。それを1週間飲んで、来週また来てもらえますか?血液検査の結果もその時にお話しますのでね。じゃ、そちらで血液採取をしてから今日はお帰り下さい。」

若い看護婦に連れられて奥のスペースへ移動した私は、たっぷり注射器1本分の血液を採取された。体内から透明な入れ物に移された自分の濃く赤い血液をまざまざと見たのと、数日間の食欲不振と寝不足のおかげでもの凄い眩暈がした。
「大丈夫ですか?」と看護婦に聞かれ、曖昧な作り笑顔で応える。注射針を刺した場所を押さえているガーゼから漏れるアルコール臭にも酔い、目の周りが鬱血して大きなクマが出来ているのを感じる。今の私はきっと酷い形相に違いない。今日はもう帰ろう。一日ゆっくり過ごして、明日から会社に行こう。結局病院に行ってもすぐには体調が変わるはずもなく、私は医者に何を期待していたのか今はもう分からない。医者の言う自律神経失調症という病名にも納得のいかない思いだ。ただ、採取した血液を薬物反応テストに回される心配はないような気がしていた。私は俯いたまま帰宅の途についた。

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