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アフターパーティーコミュのアジアの幻 5

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翌日から、ゲストハウスで遂行している2泊3日のトレッキングに参加する。参加者は私、タマキ、同室のナオミ、その他に大学生や新卒の男の子達6人の計9人。予想通り全員日本人。そしてガイドは日本人の彼女を持つタイ人のワサン。
まず車でワッチラタンという滝に行き、風に乗って届く細かい霧状の水しぶきを浴びながらランチをした後、モン族の村を訪ねる。そこでワサンがモン族についての詳しい知識を、さすが日本人の彼女を持つだけあり、とても流暢な日本で話してくれる。
「モン族の人達は昔から山に住み、農場で阿片を栽培しそれを売って生活していました。現在は政府の手により町に近い場所に生活の場と野菜や果物を作る農場が与えられ、麻薬の栽培を止めさせようとしています。」
「そうなんだ。麻薬って昔からずっとあるんだね。でも、政府が資金援助して電気や水道などを通わせ、生活の場を与えたのは良いことなんじゃないかな。」
「そうですね。しかし古くから伝わる習慣はまだまだ根強いですよ。一家の大黒柱であるお父さんは、家で一番偉いのです。だから、大抵は家で阿片を吸って過ごします。お母さんは、子育てや炊事洗濯などの家事だけではなく、外でも働いて家計を支えています。」
「でもそれって不公平じゃない?女の人ばかり働いているなんて。」
「それがモン族の習慣なんです。いくら国が働きかけても、古い習慣はそう簡単には変えられないのです。日本人の男性は、細くて綺麗な女の人が好きですね?私もそうですが。でも、モン族は、細い人よりちょっと太った人とかがっちりした女の人を好みます。この子みたいな。」
そう言って、ワサンはぽっちゃりとしたタマキの二の腕をぷよぷよと掴んだ。もう、失礼な、とタマキがふくれている横で、ナオミがその理由をワサンに尋ねる。
「つまり、特に若い女性というのは、家の大事な稼ぎ手である訳です。だから身体が丈夫で良く働く娘を嫁にもらうのは、その家にとって非常に有難いことなのですね。モン族の結婚は、収入源である娘の家族に稼ぎ手を頂く分のお金を渡し、その金額に折り合いがつけば成立する仕組みになっています。」
「それじゃ、ほとんど人身売買だね。」
「でもその土地にある習慣がそういうものならしょうがないんじゃないの。」
「そうだよ。それに良く考えれば、日本のお見合い結婚だって、学歴や年収で品定めするんだから似たようなものじゃん。」
「確かに。でもさ、日本の場合、一般的に稼ぎの面で品定めされるのは男だよね。だからかな。日本のお見合い結婚はアリだけど、モン族の風習はなんか嫌だ。」
「女の場合はナシだけど男はアリって、それおかしいでしょう。」
「え、でもやっぱり変だ。日本の場合、一応男は外で働いて金稼ぐ、女は家事子育てをして家を守るって、一応両方にとってタスクがある訳だよ。モン族の場合は全部女がやるんだよ。外も家も。それはダメでしょ。」
小さな小屋の周りで、小さな子供達が泥だらけになって遊んでいた。何の気なしに私達が近付いたら、外国人に慣れていないのか子供達は怖がって小屋の中に逃げて行ってしまった。すると、すぐに赤ちゃんを背負った母親らしき人が、様子を見に外に出てきた。その隙に小屋の中を覗くと、逃げ帰った子供達の傍ででっぷりと太った男が短パン一丁でトドのように寝転がっていた。

さていよいよ本格的なトレッキングだが、これは想像を遥かに超えた過酷さだった。上り下りの傾斜に膝は痛くなるし、時折倒れて道を塞いでいる木をまたいだりくぐったり、獣道ほどの細い道を草を掻き分け進んだり。急流を下に臨みながら断崖にへばり付いて歩き、白い飛沫を上げて流れる川にかかる一本の丸太橋をバランス取りながら渡ったり、半分命を賭けていたと言っても過言ではない。高温熱帯のジャングルを汗だくになりながら口を利くことも出来ず、ただひたすら何時間も歩く。タマキはどんどん遅れて行くが、他人を思いやる余裕はない。テンポ良く歩くワサンに皆ついて行くのがやっとだ。過去にレイヴで連続16時間、足の爪が剥がれるまで踊り続けたことのある私、この時ばかりはレイヴァーをやっていて良かったなと思う。体力や持久力にとりわけ自信がある訳ではないけれど、根性だけなら負けないつもりだ。その道のりが辛ければ辛いほど、達成感がひとしおだということは言うまでもないのだから。

徐々に暗くなり始め体力にも限界を感じてきた頃、「今夜の宿です。」とワサンが指差した方向に、木造ならぬ草造の掘建て小屋が一つ。遠目に見てそれは宿というより物置小屋のようなものだったから、私達はてっきりワサンが冗談を言っているのかと思い笑った。
「はい、お疲れ様でした。じゃあ皆さん荷物を置いて下さい。」
そう言われてやっとこれが彼の冗談ではないことに気付き、高床式になっている小屋の両側にある階段に目をやった。うっかりすると抜け落ちてしまいそうな貧相な階段だ。階段を上るとその先の入口にドアはなく、両側が吹き抜け状態で、中に入ると床と壁は竹で出来ていて所々傾いていたり穴が開いていたりする。椰子の葉を屋根にしているその小屋は、雨風には弱そうだし、火にも注意しないとすぐに燃えてしまいそうで何とも頼りない。そこに全員で雑魚寝するというものだから、綺麗好きの人には耐え難いだろう。しかし私達は笑っていた。その日の汗は天然の滝で洗い流し、ココナッツ・カレーの夕食で精をつける。暗くなったら蝋燭を灯し、順番に怪談話をしたりおしゃべりをしながら就寝。こんな状況、修学旅行以来だ。私達は皆童心に返ってはしゃぎ回っていた。

翌日は象に乗り、そしてラフティング。タイの山岳地帯を自分の足ではない別の方法で縦断し、カレン族という少数民族を訪ねる。農業と織物で生活をしている人々だ。タイ語とは別の彼等独自の言語を話し、英語を話せる人もいない。
「カレン族の織物は全て手製です。織機も彼等で作っているんですよ。」
ワサンが説明をしてくれる。鮮やかな深い色合いの織物は丈夫そうで、その織物で作られたバッグや民族服は溜息が出るほど美しい。
「昔は糸を紡ぎ、その糸を草木で染色する所から始めていたのですが、近年は町で糸を購入して織っているんですね。時代は変化しています。」
「糸を紡ぐのも大変そうだけど、ここから町へ行くのも大変そう。」
「そうですね。行くのに一日がかりになります。だからそうしょっちゅうは行けません。」
「だよね。ここまで来るのにうちらは2日かかったんだもんね。」
「今日はこの村で一泊お世話になります。この後は皆さん自由に過ごして下さい。」
高床式の一軒を皆にあてがわれ、私達は荷物を下ろした。
「ねえ、繭ちゃん。一緒に散歩しない?ちょっと相談したいことがあるんだ。」
私の隣に荷物を下ろしたナオミが私に話し掛ける。丸二日という短い時間ではあれ、苦楽を共にした私達は急速に親しくなっていた。
「いいよ。どうしたの?」
「実はね、私、タイに来る前にミャンマーを旅していたんだけど、そこで知り合った男の人のことを好きになってしまったの。」
ナオミは洋服の着こなしもしゃべり口調も上品でお嬢様タイプだ。派手さはないし、情熱的にも見えなかったので、私は少し意外な気がした。
「ふうん、いいんじゃない。」
「うん。でも彼はミャンマーの中でも特に田舎で、ぶっちゃけるとここみたいな山奥の部族の人で、だからその村から出られないくらい貧乏な人なんだ。ううん、貧乏っていうか、他を知らないっていう感じ。」
私は目の前に広がる光景を見渡した。木製の高床式住居と、その下で飼われている豚や鶏などの家畜。織物をする女性。円らな瞳の子供達。山の中にぽっかりと開いた土地にひっそりと暮らす少数民族。平和でのどかな光景だと思えるのは、私が今日を楽しむためだけにここへ来た先進国の観光客だからだ。
「それでね、その彼が私のことを好きになったって言って、それからずっとお金もないのに村から出て私の後をついて来たの。だけどやっぱり色々あるし、絶対私は彼のことを好きになったりしない、深入りはしないと思っていたのに、信じられないほど純粋な人だから、どんどん彼に惹かれていく自分自身に気付き出した。一緒にはいられないと何度も話してみたけど、彼の情熱は冷めなくて。育った環境も違うし、お互いあまり英語も話せないから意思の疎通だって大変なのに、その上金銭感覚のギャップというものが大きくちゃ普通は無理だよね。でもね、そんな問題を上回るほど彼の優しさと純粋さは本当に凄くて、どんどん自分の気持ちが抑えられなくなって、自分で言うのも何だけど結局日が経つごとに悩んで毎日泣いてた。泣いても泣いても時間だけは容赦なく過ぎていくしね。それでいよいよミャンマーを出ないといけないっていう日、彼の「いつまでも待っている」という率直な気持ちに、とうとう「一年間だけ待って。」と約束してしまったの。私、春からは北海道で介護師になることが決まってるんだ。正式に就職したから、最低でも一年は頑張りたいって思ってる。でも、電気も通わない土地に住む彼には当然電話なんて出来ないし、それどころか手紙を送る手段もないから、唯一の方法は私がもう一度彼を訪ねることだけ。でも、なんかね、今はまた会いたい気持ちは山々だけど、行かないほうがいいのかもとも思うんだ。かと言って、もし行かないと私は彼に嘘をついたことになるし、彼の気持ちを物凄く傷付けるよね。離れてみて、やっぱり彼のことを好きだという自分の気持ちは確かに分かったんだけど、その気持ちだけでいいのかな。私、この立ち塞がる障害を乗り越えられるかどうか、自信がないんだ。」
話し終えて、彼女は自分の足元に視線を落とした。今にも泣きそうだった。
もしも私が彼女だったら。私も彼女と同じように悩んだだろうか。打算が働いたり悲観的に考えれば状況はいくらでも悪くなる。気持ちが開放的になっている旅の間の恋は、確かに普段より簡単に落ちていく傾向があるだろう。外国の刺激的な環境の中で起きたその感情は、一時の情熱だけで長続きしないものなのかもしれないし、もしもそれが本気だったとしても、彼との間に明かるい未来はあるのだろうか。日本人同士であったって意思の疎通がうまくいかない状況は多々あるのに、常識や感覚が違う外国人だったらなおさらのこと。その上更に、彼女の言う国際的な金銭感覚の違うというのは決定的な駄目押しだ。買いたい物が買えて行きたい所に行ける、そんな当たり前に感じている裕福な生活を捨てられるだろうか。逆にそんな日本人の持つ金目当てに近付かれているのではないかという不安が心の片隅にはないだろうか。見極めが肝心なのかもしれない。もし彼との出会いを、旅の間に起きた一つの大きな恋の事件として心の中だけに留めておいたとしても、これからの恋愛の良い教訓になるだろう。国際的な背景や彼に関わるバックグラウンドを先入観なしに見ることが出来、“好き”という純粋な恋心のみを貫ける人はそう多くはいない。
「とりあえずナオミがこれからしなければいけないことは、日本に帰って仕事をすることなんだよね?それが一番なんだよね?だったら今、出来ないことを悩んでもしょうがないじゃない。冷たいようでごめんね。この恋については、未来に不安を抱かないでナオミが感じていることに確かな自信が持てたら、その時それに向かって行けばいいよ。彼への思いが一時的なものだったって悪いことではないし、一年後にまだ好きでも彼と一緒にいられないと思えばそれはそれでしょうがない。一年経っても純粋に彼を好きっていう気持ちを尊重したいと思ったならそれに向かってさ。実際今出来ることを一生懸命やってみて、それで結果は結果。人を好きになる気持ちっていうのはコントロール出来るもんじゃないし、一方通行になることだってあるよ。そうなれば必ずどっちかが傷つくものなんだよ。」
彼女は私の目を見ながらぽろぽろと涙を流した。彼への思いを溜め込み過ぎて、爆発寸前だったのかもしれない。私は恋に夢中になっているナオミを可愛いと思いながら、東京に残してきた彼を思った。プライドだけは人一倍高いくせに、普通に生活出来るだけの金を稼げない男。束縛と価値観の違いに窮屈になっていた私には、純粋に彼を好きだと思う気持ちはもうなかった。

コメント(4)

出会った当時が刺激的じゃなかったら始まらないでしょー。
純粋に好きって気持ちは続かないね。それってパッションだもんね。
続くほうがおかしいんだよ。
でも、ほんわかとやっぱこの人好きだなーって思う時とかは今でもない?
あるでしょ?あるように見えるけど。
志穂ちゃんとGo丼はめちゃめちゃナイスカップルに見えるよ。
(奴が運転している時を除く)
志穂さんのコメントに笑ってしまった。

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