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アフターパーティーコミュの27

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27

ディープな夜はやがて朝になり、明るくなっても体を支配しているマイクロドットの後味と疲れが、翌日の私を抜け殻にした。あれからあまり精神については悩まなくなった。パーティーで何かに気付けたのもあるが、それより頻繁にかかってくる浩二からの電話の口調が、普段と全く変わりないからだと思う。病院の公衆電話から、彼はいつも早く出たい、早く繭子と一緒に暮らしたいと、そればかりを口にしていた。私達は、どうやったら早く一緒に暮らせるか、早く東京に戻れるかの相談を日々重ねていった。

そしていよいよ退院の日。その日は雨が降っていた。私と芳江は、病院に最寄りの駅で待ち合わせをしていた。あまり芳江と二人っきりになる時間は避けたかったから、最初彼女が病院で会いましょうと言ってきた時はそれでもいいと思ったのだが、私が駅を指定した。今日は退院の日ではあるが、それと同時に検査結果が明らかになる日でもある。つまり薬物問題にはっきりと触れる日になるだろう。先日パーティーで摂った薬物が私に後ろめたさを思い出させる。あそこにいると、これ以上に普通なことはないとばかりに軽々と薬物を摂取しているし、まして後ろめたさなど微塵もないのに。薬物問題について、これ以上ああでもないこうでもないと彼女と話しをするのは嫌だった。だからなるべく芳江と二人っきりになる時間は持ちたくなかったのだが、それよりもあの病院に一人で入るのはやっぱり少し怖かった。駅から病院までの道のり、お互いのさす傘が私達二人に適度な距離を作ってくれる。雨の音が私達に不必要な会話を遮ってくれる。そして院内散歩をする入院患者もいなかった。私は雨に感謝した。

第一印象で嫌いになってしまった根本は、今日も陰湿な視線と口調を保っていた。浩二のカルテを机に広げ、私達に状況を説明する。
「えーっと。まず検査の結果をお伝えします。彼の採取した尿から、これは大麻ですね。非常に微量ではありますが、大麻に含まれるTHCという麻薬成分が検出されました。明らかに大麻を吸引したことの裏付けになると思います。なので、彼の症状は医学的な脳の病いなどではなく、薬物依存症ということです。本来ならばこういったことは警察に連絡する必要があるのですが、検出された量がアメリカでいう基準値、まあ日本にはそういう基準がないのですが、要するにお酒で言う飲酒か酒気帯びかのレベルみたいなものですね、その酒気帯びにも満たない、アメリカの逮捕基準に満たない程度のものなのでね、こちらからの連絡は致しません。本人も十分反省しているようですし、この件はご家族にお任せします。」
「そうですか。分かりました。申し訳ありません。」
芳江が辛辣に頭を下げる。分かっていたことだ。ただ、間違いであって欲しいという微かな希望は砕かれた。覚悟はしていたつもりでも、しっかりとした科学的証拠を目の前に突き付けられたショックが芳江を襲う。
「薬物もお酒と一緒で、体質に合う合わないがあります。結構な量を摂取しても体に影響も少なく長く続ける人も中にはいるでしょう。摂取したのがいつかという時間にも比例するのではっきりとは言えませんが、この程度の成分量で錯乱に至ったとなると彼の場合はあまり強い体質ではないと思われます。以前にもお話したかと思うのですが、アルコール依存や薬物依存によって症状が出る方は、それを絶てば治ります。しかし現実なかなか止められない。まあほとんどの場合、本人の自覚がなくそれを発症している時の記憶がないというのが、止められない原因の1つと言っていいでしょう。ついまた手を出してしまって病気を再発させてしまう方が非常に多いのです。いいですか。ほんのちょっとだけ、とか、そういうのもダメですよ。一度回路が出来てしまうと、体はそれを覚えるのです。だから、次はもうほんの少しだけで、今回のようなことになりますよ。悪い仲間とも縁を切ることです。本人はやらなくても周りでやっている人がいるという状況も絶対にダメです。直接的に摂取しなくても、煙りやその臭いを嗅いだだけで刺激になり興奮してしまうというような方もいるくらいですから。今後は全く、きっぱりとそういうこととは縁遠い生活をしなければなりません。周りの方が彼をしっかりとサポートする必要がありますよ。」
初め芳江に向けて薬物の説明をしていた根本だったが、今後のことについて話し出した所からほぼ私に対して説明しているように感じられたのは、私に後ろめたさがあるからだけではないような気がする。人の心を見透かすような彼の目付き、また精神科医として培われた長年の勘が、私を共犯者と見抜いている。見抜かれていると気付きながら、私はなお神妙な表情で彼の話を聞き頷いた。恐らく芳江だけが、この猿芝居に気付かず全てを真正面から受け止めて苦しんでいたのだろう。

根本が一通りの説明を終えた後、身支度を整えた浩二が通された。表情は固いが最初にここで会った時のような嫌悪感は感じられない。彼はとうとう解放されるのだ。
「いいね、有坂君。もう二度とこんなことは繰り返さないように。暫くは毎週検診に来ることと、薬は続けること。絶対に自分の判断で薬は止めてはいけないよ。いいね。」
強い口調で念をおされたが、浩二の気持ちはすでに先へ先へと移っていた。早く、一刻も早くこの病院と親の目の届かない東京へ戻るんだ。

降り続ける雨の中、私達3人は浩二の生まれ育った家に言葉少なに帰宅した。これから暫く私が監査役として彼の実家で一緒に暮らし、二人で試練に立ち向かう姿を彼の家族の前で演じる。そして早々に回復への信頼を勝ち取り一緒に東京へ戻る、それが何度も電話でシミュレーションした私達の次なる作戦だった。

コメント(2)

やた〜、続きありがとうございます!いつも楽しみに読んでます。
作戦どうなるのかな〜〜〜
はにゃちゃんコメントありがとう!
なんかさー毎年暑くなるとめっきりやる気なくなっちゃってねー。
先に進めるように頑張るね。

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