ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

Angel's Companyコミュの彼女が望んだ笑顔(メモオフ 2次)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「…智也さん」

「ん?」

病室の中。
彼女はベットの上から俺に声をかける。
伊吹みなも…。
彼女はまた入院していた。
彼女によれば、検査入院とのこと。
だから、俺はそれほど心配していなかった。
しっかりと彼女の手を握る。

「夜の海、連れてってくださいね?」

「…ああ。明日、一緒に行こう」

「約束ですよ?」

「約束だ」

「えへへ。やったぁ」

明日、彼女は退院することになっていた。
みなもは検査も順調に終わり、昨日、医師から退院許可がおりたのだった。

「それじゃ、そろそろ帰るよ」

「うん、バイバイ」

俺はみなもに手を振り静かに病室を出た。
夜の海…。
みなもと初めてデートした日…。
俺達は、一緒に夜の海に行くと約束をした。
絵を描くために。
しかし、その直後にみなもは入院してしまい、その約束は果たされぬままだった。
それが明日、果たされる。
俺は家に戻ると、すぐに眠りについた。




「いままで、ありがとうございました」

みなもが、医師や看護婦にあいさつをしていた。

今日は、みなもの退院日。
そして今日、あの約束が果たされる。

「それじゃ、智也さん…」

「ん?もう、いいのか?」

「はい」

「それじゃ行こうか?」

「はいっ!」

みなもは笑顔で返事をした。
今まで俺が見たことのないほどの…。
だけど…。
それを見送る医師達の顔は、どこか儚げだった。
俺は、その顔がいつまでも頭の中に残っていた。





潮の香り。
一定の間隔で聞こえる波の音。
まわりは月明かりで照らされている。
夜の海…。
俺は、みなもと海岸へ来ていた。
隣でみなもが絵を描いている。
唯笑が企画していた退院パーティー。
その後、俺達はここに来ていた。
俺は隣のみなもに目を向けた。
真剣に海をながめ、筆をはしらせる。

「どうしたんですか?智也さん」

みなもがこっちに顔を向ける。

「いや、なんでもないよ」

そう言うと、みなもはまた海へと顔を向けた…。



「出来ましたっ!智也さんっ!」

そう言って、みなもが絵を向ける。
あれから数時間。
みなもは一言も話さず絵に没頭していた。

「どうですか?」

夜の海、そして秋の空…。
みなもの絵は、どこか懐かしかった。

「うん、いいと思う」

「…………」

「…………」

「…それだけだけですか?」

「えっ…?」

「智也さんらしいです」

そう言って、みなもは笑った。

「それじゃそろそろ帰ろうか。送るよ」

「……」

みなもの様子は、どこか変だった。

「どうしたんだ?」

「…あの智也さん」

「ん?」

「智也さんの部屋に泊めてほしいなぁ…なんて」

「えっ!?」

「ダメ…ですか?」

「いや、両親とか心配するんじゃない?」

「お父さんとお母さんには、もう話はしてあるんです」

「……」

「……」

「わかった…。いいよ」

そう言って手をとり、俺達は家へと帰っていった…。





………一ヶ月後。
この一ヶ月、俺はずっとみなもと一緒にいていろんな話をして、いろんな事をした。
俺とみなもが新しい携帯を買って毎日、話をしていたこと。
みなもと、一緒に遊園地に行ったこと。
みなもが絵を描いているのを、ただ見ていたこと。
こんな話もした…。



「智也さん…」

「ん?」

「黄金色の海…」

黄金色の海…。
あの落ち葉見の時に言っていた事だ。

「…うん」

「一緒に見たいですね」

「うん…。一緒に見よう」

「…約束ですよ」

「…ああ、約束だ」




そんな日々が俺には幸せだった。

そんなある日、俺はみなもに電話をかけた。
別に用事があるわけじゃない。
ただ、みなもと話がしたかった。
アドレス帳から、みなもを探し通話ボタンを押す。
しかし…。

「現在、この電話は電波の届かない…」

聞こえてくる機会的な声。
俺はその時、まったく気にとめなかった。
特に用があったわけでもない。
俺はそのまま、ベットに倒れこんだ。




…翌日。
俺は、またみなもに電話をかける。
結局、昨日はみなもから連絡がなかった。
連絡がないなんて、初めてだった。
もしかして、また体調が…。
そんな考えが頭をよぎる。
そして…。

「現在、この電話は電波の届かない…」

昨日と同様の機会的な声。
俺は電話を切り、みなもからの電話を待つことにした。
すると…。
すぐに携帯が着信を知らせる。
俺は誰かも見ずに通話ボタンを押した。

「もしもしっ」

「…智ちゃんっ」

だけど、それはみなもじゃなかった。

「なんだ唯笑かよ。今電話待ってんだよ。じゃあな」

俺が電話を切ろうとした時。

「智ちゃんっ!今、どこにいるのっ!?」

唯笑の声は普通じゃなかった。
悲しみをおびた怒りの声。
声が鼻にかかっていた。
もしかして……泣いてるのか?
電話を切ろうとしたが、その声を聞いたら切るなんてことはできなかった。

「…家だけど」

「なんで、家なんかにいるのよっ!」

「……」

唯笑がなぜ怒っているのかわからなかった。
唯笑とは、なんの約束もしてないはずだ。




「今日、みなもちゃんのお葬式じゃないっ」




……。
………。
…………。
……………えっ……。
おそうしき…。
オソウシキ…。
お葬式…。

「…ハハッ。お前、言っていい冗談と悪い冗談があるだろ?」

「こんなこと、冗談で言うわけないじゃないっ!もしかして智ちゃん…知らなかったの…?」

俺は、そこで電話を切った。
みなもが死んだ…?
みなもが亡くなった…?
今日がみなもの葬式だって…?
信じられなかった…。
信じたくなかった…。
それから何度もみなもに電話した。
だけど…。
それが、つながることはなかった…。



…一ヶ月後。
俺は幾度となく、みなもに電話をかけた。
だけど、それはつながらなくて…。
それに、何度も電話がかかってきた。
だけど、一度もでていない。
インターホンも、何度もなった。
だけど…。
俺は今、玄関の前にいる。
唯笑と話がしたかった。
毎日、電話をくれて。
毎日、俺の家に足を運んでくれていた。
今なら唯笑と話ができるかもしれない。
俺はそう思っていた。



ピンポーン…。
玄関のチャイムがなる。
俺は急いで扉を開ける。
だけど…。

「三上さん、お届け物です」

それは唯笑じゃなかった。
俺は、さっさと印鑑を押した。
あきらかに不機嫌な俺を見て、宅配業者は何も言わず去っていった。
あらためて、宅配物を見る。
それは日付指定の物だった。
本当に出されたのは一ヶ月半以上前のことだ。
そして…。

「三上 智也様」

それは、俺に宛てられた物だった。
俺は送り主の名前を見る。
そこには…。

「伊吹 みなも」

…えっ!?
伊吹みなも…。
もう一度、確認する。
それは確かに彼女からの物だった。
俺は急いで、それを開ける。
中には、もう一つ、箱と…。
手紙が入っていた。
俺は、その手紙を開く。
そこには…。



『三上智也様


お元気ですか?
この手紙を読んでいる時、私はもうこの世にはいないと思います。


私は智也さんに謝らなくてはいけません。
私の退院が決まった前日。
私は医師の話を聞いていました。

「君はもう、一ヶ月しか生きられない」

そして、ずっと入院して延命措置をするか…自由に生きるか…。
私は、自由に生きることを選びました。
智也さんと一緒にすごしたかったから…。
黙っていてごめんなさい。
だけど……。
智也さんに心配かけたくなかったんです…。


智也さん…。
智也さんは、これからもずっと生きていくと思います。
いろんな人と出会っていろんな事を経験すると思います。
私の事を忘れてくださいなんて言いません。
ただ、いい想い出にしてくれたらなって思います。


智也さんは、ずっと笑顔でいてください。
私も…そして彩ちゃんもきっと、それを望んでいますから。


最後に…智也さん…。
私は…智也さんが、ずっとずっと…好きでした。
大好きです、智也さん。

                   伊吹みなも』



俺は、いつの間にか泣いていた。
止まることなく涙が頬を伝う。
だけど、泣いちゃいけない。
それは、みなもが望んだことだから。

「みなも…俺も…愛してる…」

そして俺は、もう一つ箱があることを思い出す。

その中には…。

「あっ…」

それは一つの絵…。
そこに描かれていたのは…。

「黄金色の海…」

それは黄金色の海だった。
二人で見たがっていた黄金色の海…。
約束していた海…。
俺達は見れたんだ…。
みなもの絵の中で…。

「ありがとう、みなも…」

涙が頬を伝った…。






三年後…。
春。
あれから、もう三年がたつ。

「どうかな?みなも」

ここは、みなもの墓の前。
みなもに向かって絵を見せる。

「みなも程じゃないけど、俺がんばるからさ」

俺は今、大学生をやっていた。
千羽谷大学、芸術学部2年。
俺は、そこで絵を学んでいた。

「まだまだヘタだけど…」

『絵には、うまいもヘタも関係ないよっ』

そんな声が聞こえたような気がした。
…みなもが望む通り、まだ想い出にはかえられそうにないけど…笑顔なら。

「ああ、ありがとう。みなも」

そして笑顔。
君が望んだ笑顔。
春風が桜の木の枝を揺らす。
今、みなもの笑顔が見えたような気がした…。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

Angel's Company 更新情報

Angel's Companyのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング