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Angel's Companyコミュの終わりと始まり 後編

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 11月──。
 三年生の生徒会が引退し、新生徒会の役員を決める選挙が迫っていた。その選挙を運営するため、クラスから1人、選挙管理委員を選ばなければならない。もちろん、僕が選挙管理委員に立候補した。理由は……例の不純な動機だけど。
 みんな、部活が忙しかったり面倒だったりで、立候補した人は僕だけだった。

「それじゃ清水、早速今日の放課後に生徒会室に行ってくれ。集会がある」
「はい、わかりました」

 それで朝のHRは終わった。
 先輩がやるとは思えないけど……。それでも、できるかぎり一緒の時間を作りたかった。
 早く放課後にならないかな……。
 授業中。僕は、そのことしか頭になかった。授業に集中しなかったせいで一時間に一回は怒られてしまったけど、僕には授業なんかよりもそっちの方が重要なんだ。
 そして放課後。僕ははやる気持ちを抑えながら、生徒会室のドアを叩いた。

「失礼します」

 そう言って、ドアを開けるとすでにある程度の人数は集まっており、残りは僕と数人くらい。どうやら、ほとんどのクラスは放課後ある選挙管理委員のためにHRを早く終わらせていたらしい。僕は密かに通常通りのHRを行なった担任を恨んでいた。

「よっ、太一」

 その声に、ビクッと体を震わせる。一言で僕の全てを支配するあの人の声。僕は、ゆっくりとその声の方向へ顔を向ける。

「遅いよ、太一。すぐ座る」

「は、はいっ。すいません」

 少しだけ声が上ずりながらも、言葉を搾り出す。先輩は、一番前の真ん中の席に座っていた。
 爆発しそうな心臓の鼓動を聞きながら、指定された席へと僕は足を伸ばす。僕が席につくと、すぐの残りの2人も生徒会室に入り、選挙管理委員会は始まった。

「んじゃ選挙管理委員始めます。私は三年の橘 花桜里。一応、選挙管理委員長」

 いつもとは少しだけ違う雰囲気で先輩は話し出す。ただ、僕は真剣に先輩の声に耳を傾け、先輩をじっと見つめていた。

「2、3年生はわかると思うけど、選挙の立候補者受付は昼休みと放課後。その受付の係りは二人組みを作って日替わりね。出来るだけ同じ学年同士では組まないでね。同じ学年だと行事とか重なって出られなくなるときあるから」

 ということは、僕は3年生か1年生と組まなくちゃならないってことか。

「っていうか……ぶっちゃけ、私が決めちゃって良いかな?一年生とかは、そのほうがいいでしょ?」

 僕の前に座っている一年生は静かに頷いた。
 と、そのとき。一瞬、先輩と目が合う。僕は恥ずかしくなって、すぐに目をそらしてしまった。

「んじゃプリント配るから、それで自分が受付する日と自分が組む人の名前と学年、クラスを確認してね」

 前から順繰りにプリントが配られていく。僕はプリントを受け取ると、早速自分の名前を探す。
 清水……清水……清水……。

「あっ」

 見つけた瞬間、思わず声を出してしまった。周囲の視線が全て、僕に集まってるのがわかる。
 かなり恥ずかしい……。

「太一〜……あんまり恥ずかしいことしないでね〜……」

 先輩が少しだけ微笑みながら、僕にそう言った。

「すいません……」

 でも……これはしょうがない。だって……僕と組む人は先輩だったんだから。

「それじゃみんな、確認してもらえたかな?それじゃ受付の仕方だけど……」

 そして、その日の選挙管理委員は終わった。僕の心臓は休むことなく激しく脈打っていた。僕と先輩が一緒に……。
 その日の夜、僕はなかなか眠れなかった。






 それから3日。
 待ちに待った僕と先輩が受付をする日。4時間目の終わりのチャイムが鳴ると、僕はすぐに教室を飛び出し受付会場である生徒会室へ向かう。
 生徒会室の前に行くと、ちょうど先輩が部屋の鍵開けているところだった。

「お、太一。今日は早いね」

 先輩がイタズラっぽく笑ってそう言った。先輩の後ろに続いて、生徒会室に入る。

「ま、本気でやる気ある人はもう受付来てるから、今日はそんなに人来ないと思うよ」

 受付の席に座り、先輩はそう言った。先輩は僕の隣に座り、ボールペンを指でクルクルと回している。
 バス以外で、僕と先輩が隣で座るなんて今日が初めてだ。隣の先輩に聞こえるんじゃないかと思うほど、僕の心臓はバクバクと鳴っていた。

「というわけで、気楽に行こうっ」
「はい」

 先輩の笑顔に僕も笑顔で返す。昼休みの40分。僕と先輩は隣同士で座り、いろんな話に花を咲かせた。
 バス以外で、こんなに話したことのなかった俺は物凄く楽しくて、40分という時間はあっという間に過ぎていった。

「〜〜〜〜っとぉ……」

 先輩は背もたれに思いっきり体重をかけながら、背伸びをした。もう昼休みは終わりの時間だ。

「それじゃ先輩、放課後、また」
「うんっ、よろしくぅ〜」

 生徒会室の前で僕たちは手を振って別れた。放課後までの授業2時間。それは無限とも思えるような長い時間だった。
 ある種の拷問、そんな風にまで思ってしまう。僕は、その拷問を必死に耐えるだけだった……。





「あ、太一。今日、これから時間ある?」

 放課後の受付時間が終わり、席を立とうとすると先輩が僕を引き止める。

「ええ、大丈夫ですけど?」

 先輩の頼みなら、時間がなくても断るわけがない。

「ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど……」

 先輩は、そう言いながら棚の中から何百枚もの紙を取り出した。それはワープロで打たれた投票用紙だった。

「これに選挙管理委員の判を押さなくちゃならないんだけど、手伝ってくれない?」

 投票用紙と一緒に、2つの朱肉と判を取り出す。もちろん僕には断る理由がない。先輩と、出来るだけ長い時間を過ごしていたいから。

「ぃよっしゃ♪それじゃがんばろうっ!!2人でやれば、すぐ終わるってっ♪」
「はいっ、そうですね」

 そして僕たちは作業没頭した。何百枚もの紙の束を、半分にわけ次々と判子を押していく。
 真剣な先輩の横顔。しばらく見とれてしまっていたが、ハッと我に返り僕も作業を続けた。




「お、終わったー……」

「……さすがに多かったですね…」

 あれから2時間。外はすでに真っ暗だ。
 僕たちは、ほとんど会話を交わすことなく作業に没頭し、全ての投票用紙に判を押した。
 判を押していた右腕はパンパンだ。

「それじゃ太一、帰ろっか」
「はい」

 投票用紙と判子を棚にしまい、僕たちは学校を出た。いつものバスに乗り、いつもと同じように隣に座る。相当疲れていたんだろう。お互いにいつもより口数は少なかった。

「それじゃ太一、またね」

 気がつけば、先輩が降りるバス停はすぐそこに迫っていた。俺は、先輩と一緒にバスを降りる。

「あれ?太一、ここで降りてどうするの?」
「……暗いので、送ってきます」

 もう辺りは真っ暗。先輩に何かあったら……。僕が役に立つかどうかはわからないけど、それでも僕は先輩が心配だった。

「あははっ、マジで?それじゃお願いしちゃおっかな〜」

 先輩は笑って、歩き出す。僕も先輩の隣に並んで、歩き出した。夜の空気は冷たく、寒い。
 この前まで暑いくらいと思っていたが、やはり冬に近づいているようだ。

「ってか、私んち、そこなんだけどね」

 バス停から歩いて5分。まさか、こんなに先輩の家が近いとは思わなかった。

「結構近いんですね」

「ふふん、まぁね。でも……」

 先輩は、家のドアノブに手をかけながらこう言った。

「今日はありがと。今日の太一カッコよかったよ。じゃあね」

 先輩は、それだけ言って家の中に入っていった。夜の空気の冷たさを全て吹き飛ばすような先輩の、その言葉。
 その日、僕はなかなか眠ることが出来なかった。
 会うたびに、先輩を好きになってく。
 話すたびに、先輩を好きになってく。
 そう……僕はやっぱり先輩が大好きなんだ。






『卒業生退場』

 体育館にその声が響きわたる。長かった卒業式も、もう終わりらしい。僕たちの前に座っている三年生が一斉に立ち上がる。
 僕の目に映っているのは1人の女性だけ。ふと、先輩と目が合う。先輩は軽く俺に手を振ってくれた。
 そして卒業式はつつがなく終了した。それから教室に戻ってHRの時間。卒業式ということもあり、担任の長々とした話。
 早く終わって欲しいと思うのに、なかなか担任は話をやめようとしない。
 早く先輩に会いたいのに。先輩に会って…僕は……。僕は……っ。

「それじゃ今日はこれで終わりだ。明日は会場の後片付けがあるからな」

 担任のその声を聞いた瞬間、僕は教室を飛び出した。今、先輩はどこにいるんだろう……。とりあえず、僕は先輩の教室に向かうことにした。
 だが、そこには人影はない。
 先輩……一体、どこに……。もしかして、もう帰ったんだろうか……。

「太一っ!!」

 後ろから声がかかる。それは間違えるわけもない……先輩の声。

「先輩っ」
「ったく……太一ってば、教室に居ないんだもん。探しちゃったよ」
「………え?」

 先輩が……僕を探してた?

「太一、第二ボタン、私にくれない?」

 先輩は笑って、右手を差し出す。僕は、あまりに予想外の発言に呆気に取られていた。

「だーかーらー、第二ボタン。くれるの?くれないの?3、2、1、ハイ」
「あ、あの先輩……これっておかしくないですか?」

 そう言いながらも、僕は制服から第二ボタンを外して先輩に手渡した。

「なぁんでよ。卒業式に第二ボタンもらうのって普通じゃない?」
「いや、普通は在校生が卒業生の第二ボタンもらうんじゃ……」
「いいのっ。私が欲しいんだから」

 そう言って、先輩は微笑む。つられて僕も笑った。

「それじゃ太一、帰ろうぜぃ」

 先輩が、僕の右手を掴み走りだす。僕は転びそうになりながらも、先輩についていった。

「せ、先輩。同じクラスの人と予定とかないんですか?」
「いいのっ!!私は太一と過ごしたい。……この意味……わかんない?」

 え……。僕の頭の中は真っ白になる。えっとぉ……それはつまり……??
 思考の整理が追いつかない。でも体は正直で、自分でもわかるくらいに顔中が熱を持っていた。

「あははっ。太一、顔真っ赤」
「先輩……」

 僕は静かに立ち止まる。先輩も、手をつないだまま立ち止まった。

「ん?なに?」
「僕は……先輩のことが好きです」
「ふーん……それで?」

 先輩はイタズラっぽく笑って、そう言った。

「好きなだけ?もうちょっと、ほら、なんかないのかな〜〜?」
「け、けけ結婚したいって思ってますっ!!」
「ぷっ、あははははは!!」

 学校中に聞こえるんじゃないかってくらいの大声で、先輩が笑いだす。
 え……僕、何言って……あれ??
 自分の発言を思い出し、さらに顔中に熱が走る。

「はぁ〜……やっぱ太一、君おもしろいよ。うん、ま……それも悪くないかもね」

 先輩はニカッと笑った。印象的な八重歯を覗かせて。

「結婚を前提としたお付き合いってやつで。ね?太一」
「は、はいっ」

 手をつなぎながら、僕たちはゆっくりと歩き出した。
 卒業式……。
 この学校での先輩との生活は終わった。だけど、僕と先輩はこれから始まっていくんだ。
 これからは、もっと楽しい時間になる。
 先輩の笑顔を横目に見ながら、僕は漠然とそう思っていた。

「これからもよろしくね、太一」
「よろしくお願いします、花桜里先輩」
「……せ・ん・ぱ・い〜〜?」
「……ダメですか?」
「愛しのハニーに向かって先輩ですか?へぇ〜、太一って薄情なんだ〜〜〜」
「う……それじゃ何て」
「さぁて、マイダーリンは何て呼んでくれるのかな〜〜?」
「そ、それじゃ……か、花桜里」
「うんっ、よくできましたっ♪」

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