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オリバトコミュ【第四部】コミュのshort story.7〜どん底〜

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1.RATT
2.へなちョコヲ
3.まっく
4.神威 咲
5.blue baloque(・u・)
6.いちーこォ
7.Gaya
8.もりし( ゚Ω゚)
9.鉄雄
10.天体観測☆彡
11.ヤマノフ王朝
12.へなちョコヲ

コメント(12)

キキッキーーーーーーッ!!


「やっちまった…」
久しぶりの彼女とのドライブデート。気分が薔薇色ハッピーで、お喋りに夢中になっていたら、突然に男が視界に現れた。

倒れた男はムクリと起き上がり額から血を流してボンネットに再び倒れこんだんです。
「だ、大丈夫ですか?きゅ、救急車を…」

すると、中年の男が現れて、
「ありゃ、エライことだ。大したことはなさそうだが、入院物だなこりゃ。」
なんて言う。
彼女は不安そうに私を、ジッと見つめています。
「ど、どうしよう…。」

「わかりました!!ここは私が仲介しましょ。裁判沙汰になったら後が大変だ。ただ…10万円それくらいはないとこの人も納得ができないでしょ。それで私がなんとかしましょ!!」

「10万円………それじゃ、あまりに申し訳ない…。」

「ねえ、10万で済むのなら…。私、嫌よ。裁判なんて…。」

彼女が、そうして急かすから私も決心をつけ、横目に血を流し倒れる男みながら金を渡し、その場を任せて後にしました。



人を轢いた高級セダンは現場を後にする。



「おい、ゴーリキ!!お前にゃ2万だ!!」

血まみれの男は起き上がり金を受け取る
「ちっ、こっちは命がけだってのによ。」

「お前の能力じゃ死ぬこたねえ。落ち葉みたいに風圧で飛べばいいだけだろが。嫌なら辞めりゃいい!!」

【ゴーリキ/ミニマム・マキシマム】
自分の体重を自在に操れる。


「ほれ、また来たぞ!!飛びだせっ!!!」

ゴーリキと呼ばれた男は再び、高級セダンの前に飛び出した!!



【OSBss 第七話 どん底 】


この時、その瞬間まで、当たり屋の二人は自分達が失敗することなんて考えていなかったのだろう。
見通しの悪いカーブを越え、その先の信号のない直線へと走り抜けるためにカーブの中腹から加速を始める乗用車を狙って飛び出し、運転手の不安を煽って金を毟り取る。

特異な能力のちょっとした活用と、巧みな話術だけで労せずして金を得るのだ。
まして彼らが『仕事場』としているそこは、その街の富裕層の住む高級住宅街へと続く抜け道だ。そのあたりの住人はよく知るが、それ以外にはほとんど知られることのない、私道のような細い道。
まるで宝石の鉱脈を二人で独占しているような気楽さがあった。ツルハシを振りかざす力を必要とせず、そこかしこから金が湧いてくる。
必要なのは、それを掬う網と、零さずに桶に入れる腕だけ。

それゆえに、彼らは想像だにしなかった。
網を食い破り、桶を破壊するほどの力を持った存在を。



***



ドンッ



ゴーリキが車道に飛び出し、迫ってきた車に跳ね飛ばされたことを確認した相方の男、マクシムはその車を見て「しめた」、と口角を持ち上げた。
思い切り低い車高、菱形を押し潰したような独特のフォルム、猛牛のエンブレム。

どこからどう見ても間違えようのない、カウンタックだ。おそらく金持ちの道楽で乗っているんだろう、今度は十万ぽっちじゃあねぇ、うまく言いくるめて百万は取ってやる。

マクシムの頭の中は金のことしかなく、急いでカウンタックへと駆け寄る。
ゴーリキが青い顔で首を横に振っているが、タイミングを間違えたのかこのマヌケッ!としか思わなかった。

ドアが上へと持ち上がり、不機嫌そうな運転手が姿を現す。

(若い!騙くらかすのは簡単だ!デカイ原石が顔を出しやがった!!)

、とますます上機嫌になったマクシムはスキップでもしたい気分で運転手に話しかけた。


「コイツはひでぇ!こりゃすぐにでも病院に担ぎ込まないと手遅れに…」

「クソッ!めんどくせぇことになった…めんどくせぇことは好きくねぇのによォーッ!」



ド ド ド ド ド ド ド ド ド



カウンタックから降りた男――バーレルは手にしていたコーラの瓶を投げ捨て、不機嫌そうにゴーリキを睨みつけた。


【バーレル/Bulls・Eye(ブルズ・アイ)】
触れた物を二つに『分ける』。任意で『戻す』こともできる。

「…あーあ、へこんじまってる。」

バーレルがカウンタックのボンネットをさすりながらつぶやく
ゴーリキはボンネットの前で相変わらず青い顔
けが人と演じている以上、この場からは動けない

いや、この男の前で下手な真似はできないと感じていた


一方、いまだ上物がかかったと考えているマクシムはにやけながら声をかける

「なぁ、おたく聞いてるのか!?人を跳ねちまったんぜ!?こりゃあ色々とめんどくせぇよなぁ。なんだったら俺が仲か…」
「跳ねた?…あぁ、確かにこの男は跳ねられたみたいだな。……おい、誰に跳ねられたんだ?」


「…はい?な、なぁ、おたくおかしいぜ。俺はソコの道から見てたんだ。アンタだよ ア ン タ 。そのカウンタックのへこんだ後が何よりも証拠じゃねぇか。もしかして、言い逃れようといているんじゃぁ…」

「 あ? テメェこれが俺の付けた傷だって言うのか?冗談じゃない。これはこの男に付けられた傷だ。…コイツが、俺の愛車に自分から突っ込んできたんだからな。」

そこまで聞いてマクシムはやっと状況を把握した
この男は金持ちの若いボンボンでも、気の弱い中年でもない

本物だ

本物の男だ


「う、うぅ…。」

ゴーリキが声を漏らす

「な…なぁ。そこの男、自分から突っ込んだとしてもひどい怪我だ。お、俺が病院につれて行くよ。」

マクシムの計画は変更、この男から金を巻き上げる事は出来ない
今回は無事にこの場を離れること
次の車から、またやり直せばいいのだから

マクシムがゴーリキを担ごうと近づく


「待て。…その男…」

カウンタックの男がゴーリキを睨んで呼び止める

「怪我…してるのか?見せてみろ。なんだったらこの車で病院まで連れて行くぜ?」


ドク ドクゥ ドク ドクゥ


「ほら、乗せてやるよ。ただし車内は汚すなよ。」

バーレルはドアをあけて催促する動きをする


「…どうした?こっちこれないのか。…まさか 無 傷 なんて事はないよなぁ?」


ドクドクドクドクドクドク
ドクドクドクドクドク

「おい、面見せてみろよ…。怪我、しちまったんだろ。俺のカウンタックに当たって。謙遜するな、誰だってミスはするし間違いは犯すさ。だから早く病院に行って怪我を治すんだ。 

…怪我が治ったら弁償して貰わなきゃならねぇんだからなぁ。」



マクシムとゴーリキの背中に冷たい汗が流れる

(こいつはッ!俺たちよりも上の人間!!
食物連鎖でいう所の捕食者!!

まずいクジ引いちまった…!)
(どうする……どうする!?)
マクシムは、かつて体験したことがないほどのプレッシャーを感じていた。
全身の毛穴が開き、冷や汗が止まらない。
自然、呼吸は荒くなり、身体の震えを抑えるのが精一杯な状態だ。
それでもなんとかこの場を切り抜ける方法を、思考回路をフル回転させて導き出そうとしていた。
「ハァ……ハァ……」と、まるで潰れたカエルのようにカウンタックの前で蹲るゴーリキの荒い呼吸音がはっきりと耳に飛び込んでくる。
そしてその呼吸音よりも自分の呼吸音のほうが大きい事に、マクシムは気付いた。 ダメだ、焦るな……焦ったらマジで終わりだ……!!

「なぁおい……そんなとこで蹲ってないで、何とか言ったらどうなんだ……?」
バーレルはそう言いながらカツン、とアルティオリのシューズを鳴らして半身に構える。
パターンオーダーの高級品は何故か、今にも獲物に飛び掛らんとする肉食獣のしなやかな脚を当たり屋の2人にイメージさせた。
スッ、と一歩踏み出すバーレル。
ヤバイ……!! 2人がそう思った瞬間。


とぅるるるるぅんるんるんるん♪


緊迫した場面に似合わぬ、携帯電話の着信音が周囲に響く。
チッ、と舌打ちしてバーレルは胸ポケットから携帯電話を取り出し『ちょっと待ってろ』と言わんばかりの視線をマクシム達に投げかけて通話ボタンを押した。
「俺だ。 ……なんだ、林檎か……あぁ、もうすぐ到着するところだったんだがな。 ちょっとしたトラブルに巻き込まれちまった」
会話をしながらも、2人の様子をジッと見据えるバーレル。
「大丈夫だ、すぐに片はつく……何だと?」
不意に、バーレルの声のトーンが変わる。 何事かと思いマクシムはその様子を窺うと、徐々に2人を見つめるバーレルの視線に剣呑な色が見え始めたのに気付いた。

「なるほどな……そうか、『2人組の当たり屋』がこの辺りで悪さしてるのか……あぁ、解ってる。 トラブルが解決したらすぐに行くから、もう少し待ってろ」
そう言って、会話を終了したバーレルは……野獣のようにギラギラと燃える瞳で2人を見つめ、酷薄な笑みを浮かべていた。

「なぁ……この辺『当たり屋』が出るらしいぜ……物騒なもんだよなぁ? ところでソイツ、さっきからブルブル震えてるが……大丈夫か……?」
コツ、コツと足音が響く。
生きた心地がしない、と言うのはこういう時に使うのか……2人は恐怖の渦中に叩き落された子羊のように、野獣のような男が近寄ってくるのを震えながら見つめていた。

マズイ。
ヒジョーにマズイ。
何だ今の電話、タイミング出来すぎだろ?

底なし沼にはまったかのような感覚が、二人の頭を過る。
抜け出そうとしても抜け出せない、ドツボにはまった最悪の展開。
マクシムもゴーリキも、予想外のこの状況に辟易するしかない。

この辺りで悪さしている2人組の当たり屋?イェ〜イ、オレ達だから。
……二人とも万事休す。最早何をどう足掻いても手遅れなこと、この上ない。



(…………どうしたもんかな)
絶望に打ち拉がれて思考が停滞しそうになりながらも、マクシムは足掻く。
見るからに尋常ではない男に、真っ向から立ち向かうという選択肢は無い。

二人とも、争いごとの類は苦手といっていい。戦闘に関してはズブの素人だ。
スタンド使いであるとはいえ、今までそれを使っての戦闘など殆どしたことが無い。
それに、自分のスタンドに関しては論外だ。戦闘は全く役に立たない。
ゴーリキのスタンドなら、敵を押し潰すことくらいはできるかもしれないが……。

(……………あ)

押し潰す。そうだ、それが出来れば、あの男を倒すことも出来るんじゃないか?
マクシムの思いつきは、そのときは一筋の光明にも思えた。
よっしゃ、YESYESYESそれサイコー!!一気にテンションが回復するマクシム。

この状況、これを上手く利用すれば、この窮地を脱することが出来るかもしれない。
いや、出来る。既に絶望することは無い。今、マクシムは逆転の一手を思いついたのだ。




「当たり屋? そういう風に疑うなんて失礼だなアンタ。この人は怪我してるかもしれないんだぞ」
『あー、マイクテスッ、マイクテスッ!ゴーリキ聞こえるか……聞こえるな』

マクシムの口から、二重に声が発せられる。


「『アンタが病院に連れて行ってくれる』なら、連れて行ってもらおう。
もしかしたら、内臓あたりがダメージを食らっていてもおかしくない」
『今は怪我した振りをしろ。外見何の異常がなくても、どっか痛いことにしとけ』

ゴーリキには二重に聞こえるその言葉も、バーレルには聞こえない。
バーレルには、ゴーリキを病院に連れて行こう、としか『言葉を選別されて届いていない』。


【マクシム/26&1(トゥエンティシックス・アンド・ワン)】
同時に複数の言葉を話し、その言葉を誰に聞かせるか選別出来る。

あの男はオレ達を『当たり屋』だと疑っている。十中八九クロと見ているに違いない。
ただし、確証は無い。オレ達を決定的に当たり屋だと証明する材料を持たない。
パッと見、何の怪我をしていないと思っても、病院に行くまでは分からないこともある。
だから、アイツは今オレ達を問答無用にボコったりはしない…………!
少なくとも、全てが明るみになるまでオレ達はつけいる隙がある……!!

病院に連れて行くと言ったのは、アンタだ。
なら、アンタは今からオレが言うことに、しぶしぶでも聞くに違いない。
たとえ思い通りにならなくても、次の考えはある。
怪我人に手を貸さないってなら、そこにつきいる隙が出てくる……!!


「ああ、アンタ。肩を貸してくれ……この人を車まで運ぶぞ」
『ゴーリキ、今からオレとアイツでお前を車まで運ぶ』

この状況で有利な点は、ゴーリキが車に轢かれた『被害者』だということ。
当たり屋だという証明が出来ない限り、アイツはいくら優位ぶっていても『加害者』だ。

「とりあえず、病院についてから色々この人と話した方が良いだろ……アンタも警察沙汰は困るだろうしな」
『アイツに全体重をかけて、あの男を能力全開で押し潰せ』


まずは、一手。
これを避けられたら、次はもっと酷い一手で追い詰めてやるぜ……!

バーレルの威圧で膝がガクガク震え、本当にフラフラしているゴーリキを立ち上がらせる。
マクシムだけでしか支えていないというのにやたら重い。
(コイツ…体重コントロール忘れてやがる!!)

「て…手伝ってくれ!!よっっと。しっかり立てよ!」
『俺に体重かけんじゃねえよ!全力で、全力でアイツを押し潰せッッ!!』


「おぉ??マジでヤバそうだな…」
やっとバーレルが片側を持ち上げる。


「もっとしっかり立てねぇのか」
マクシムの計画とは裏腹に、ゴーリキの肩を支えながらバーレルは然程難なく歩みを進めていく。

(…オイ?オイオイオイオイ…ゴーリキよぉ…完全にブルっちまってるってんのかよォー…)
顔を覗くと青ざめ、目は虚ろ。
勿論体重で押しつぶすなんてとんでもない。
マクシムの視線に気付いたゴーリキは、泣き出しそうな目でこっちを見たかと思うとその瞬間、



「ウゥァァァアアアアアア!!!!!……」


叫びながら逃げ出した!!!
逃げる時ばかりはちゃっかり体重を軽くし、風に乗ってあっという間に遥か彼方。


「あ、オイ!大丈夫なのかよ!?」
『テメェ!逃げ出してんじゃねえ!!』

この男相手に一人では分が悪すぎる。
マクシムもゴーリキを追って全速力で逃げ出すしかなかった…。



*************



「ハァハァッッ…こんなダッシュしたのは…ハァッ久しぶりだぜ…ッ」
やっと追いついたマクシムは肩で息をしている。相当の距離を走ってきたのだ。
さっきの男も追っては来ないようで、金を巻き上げることはできなかったが、危機は回避できたということにしてやろう、と逃げたことを許そうかと思っていた。
マクシム自身も計画を思いつきつつもビビッていた。内心ほっとしていた。
一方ゴーリキは木の上で隠れ蹲っている。

「だって…アイツ…俺の耳元でドスの効いた声でこう言ったんだ…


“心配すんな、俺の知り合いの病院へすぐ連れてってやる”


って!!って!!!
ゼッテェー『ヤバい医者』だぜッッ!!」

「そ…そうか…あのカーブはもうマズい。暫くは大人しくするとしようか…」
「今日はツイてなかったんだ…」


当たった人間が悪かった。ツイてなかったんだ。
ブツブツ腐りながらも、開き直ることにした。
ゴーリキはやっと木から下りてきて、景気付けに酒でも飲もう!と二人は街まで出て行った。

辺りはもう薄暗くなり始めてきていた。
暗闇と共に更なる恐怖が待ち受けることを知らずに…。

そう、ツイてない今日はまだまだ続く。
闇とネオンの街に惹かれて虫は飛び交う。

現代の人間は夜行性かと思わせるほど
昼間の顔とは違う表情豊かな様子を見せる。
しかし、その表面には見て取れない
闇に似つかわしい微かな毒々しいものが感じてとられるのだ。

『街』とはそういうものだ。


予想だにしない負傷から流血していたゴーリキは
その自身の能力で、自分の体重を増やすことで
血の巡りをわざと悪くさせ、止血を行い、
途中の目立たないビルのトイレで顔や目だった分の血のりを拭いていた。

一方マクシムは、持っていた金で安く、どうでもいい目立たない服を買ってきて
自分と自分の相方にそれを与えた。


「ハァ…ハァ…服なんか替えてもダメなんじゃあないか…?」

止血はしたものの、失血と極度の緊張から消耗したゴーリキがマクシムに問う。

「あぁ、あのヤバそうなヤツが『直接追ってくる』ならな…
 だけど、アイツには誰か仲間がいただろう?電話のヤツだ。
 あのヤバい奴は俺らなんざ眼中にないかもしれない。
 あってもあの車の弁償しろって話になるかもってえくらいだ。
 だが、他のヤツはわからねえ…
 あのシマで随分とやっちまったからな。俺たちは。
 近所でウワサになってるかもしれないし、そろそろどこかで『漏れてる』かもしれない。
 さっきの電話の相手がヤツに問い詰めたとき、
 追ってくるのは『警察』だ。
 めんどくせえもんは避ける。それが俺のやり方。
 可能性は限りなくゼロに近い方がいいが、ゼロにこしたこたあねえ。
 着替えろ。」

そういうと、屋内のトイレだというのにマクシムはゴミ箱に捨てようとした上着から
タバコのパックを取り出し、おもむろに1本火を点けた。

「さ、さすがマクシム…俺にはそこまで頭まわんなかったよ…
 けほっ、ちょっと煙いんで、それ消してくれる?」

ひ弱で、頬もこけ気味のゴーリキは尊敬の眼差しをマクシムに送り、早々と渡された衣服に袖を通し始めた。

(まったく、名前とまるっきり反対に育ちやがって。。。親御さんも悲しむぜ。)

そう頭の中でため息をつくと、火の点いたままのタバコをトイレの窓の外へと指ではじき投げた。


「熱ッッつッッ!!!」


マクシムはその声に尋常じゃない程驚いた。
窓の外にタバコを投げたら誰かに当たってしまったことにではない。
このトイレはこのビルの7階だったからだ。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ………



驚くマクシムは無言のまま窓の方をジッと見据える………

すると、窓に手が掛かり見るからにガラの悪そうな男が姿を表した……


「おい……さっきのはてめぇの仕業か……?」

【ジョーイ/ブローイン・イン・ザ・ウィンド/3部】



「てめぇの仕業かって聞いてんだよぉ……人の空中滑走を邪魔しやがって……」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ………



……空中滑走だと?……こいつ…スタンド使い………しかも相当使い慣れてやがる………

「……え?ええっ??僕じゃないですよ??……ってかなんで人が入ってくるですか!?」

ここはしらばっくれるのが一番だ…ヤバい臭いがプンプンしやがるぜ………



ガラの悪そうな男の静かな怒りが必要以上に二人を圧迫する。

マクシムの額に再び冷や汗が滲み出る……



「じゃあ……もう一人の…てめぇで決まりだな……すぐ終わる、ちょっと面貸せや……」

怒りの矛先が絞られゴーリキに以上なまでの威圧で押し潰されそうになる。


『ゴーリキ!しらばっくれろ!!さっき出てった奴だとか適当に言え!!』

マクシムはゴーリキにすぐさま指示を出す。


「あぁ……ちが……えぇ……あの…あっと……マクシ…うぅ………」

ゴーリキはしどろもどろになりながらマクシムの方を見詰める。


「おぉ?おめぇらツレか……じゃあ面貸さなくていいや……ここで済ますか……」

だぁぁぁぁぁ!なにやってんだよぉぉぉぉ!!




ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ………




「おいおい待てよ………俺らがやったって証拠が何処にあんだよ……えぇ?あぁぁ…そういやさっき出てった奴がいたような気がするぜぇ……」


やってやるぜ……昼間の奴に比べたら楽勝だ……やってやるぜぇ………


ドクゥ ドクゥ ドクゥ ドクゥ


「ほぉ……証拠ねぇ……じゃあ聞くが……」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ………



「てめぇらじゃねぇって証拠はあんのか??」




……は?



えぇぇぇぇぇ!!!???



「いやいやいやいやいやいや!そうじゃないだろぉよ!!俺らじゃねぇって言ってんだよ!さっきの奴だって!聞いてた??」

焦るマキシムと既に緊張の連続で放心状態のゴーリキ。

ガラの悪い男は当たり前のように落ち着き払いさらに続ける。

「さっきの奴?誰だそりゃあ??まぁいい、ならなんで止めなかったんだぁ?あぁ?」



「えぇ!?なんだよそりゃあ!!おいおいあんまりだぜ!煙草捨てるのを止めなかった俺らのせいってか??勘弁してくれよ!!」

マキシムは身振り手振りし、全身でアピールしながら畳み掛けるように弁明する。




ド ゴ ォ ッ !!!




「やっぱりてめぇだな、間違いねぇ……」

ガラの悪い男の鋭い右腕がマキシムの頬を捕らえる!!


「ガブェッ!!……ちょ……ガフ……ちょまて!俺らじゃねぇって言ってんだろう!!」

マキシムが必死に止めるように両手を前にだしガラの悪い男と距離を取る。



「まだ言ってやがるのか………、誰が煙草捨てたって言ったぁ?おめぇが勝手にゲロってんだろうがよぉ!!わたしが犯人ですってなぁ!!」



がぁぁぁぁぁぁ!!しまったぁぁぁぁぁぁぁ!!



「いや!ちょ!ちょ待って!!落ち着こう!!落ち着いて話し合……
ド ゴ ォ ォ !!!


さらに今度はマキシムの横腹を左足が捕らえる!!


「まだまだこんなもんじゃあ済まさねぇぞ!服に灰が付いちまったからなぁ……」

腹を押さえうずくまるマキシムにガラの悪い男が見下ろす。

「まぁ…立てよ…」


マキシムの髪を掴み無理矢理マキシムを立ち上がらせる。

や……やばい……いてぇ………一体何なんだよ………あぁ………


「か……勘弁してくれ!…もう気は済んだだろう!!」


「いやいや嘘つきは良くないよなぁ?しっかり懲らしめてやらないといけないだろぅ??」

ガラの悪い男は不気味な笑みを浮かべ、マキシムの髪を掴んだまま思い切り振りかぶる。



ブ ォ ォ ォ ォ !!!


あ……駄目だ……終わった…………


トゥルルルル…トゥルルルル……



ガラの悪い男の拳が寸前で止まる。



「あ゙ぁ゙!?誰だよ!ったく……」

いきなりの電話に悪態を付きながらも電話に出る為にマキシムの髪を放す。

髪を放されたマキシムはその場にへたりこむ。


「誰だぁっ!?……あぁ…純か………あぁ…すまん…ライブに行く約束だったな………わかった……あぁ………」



ガラの悪い男は電話を切ると窓に足を掛け、クソが……と一言言うと何事も無かったかのように外に飛び出して行った。





残された二人は放心状態のまま遠くを見詰めていた……。

マクシムとゴーリキは中学時代からの仲であった。
「仲」といっても「仲良し」というわけではない。
マクシムは中学でも抜き出た不良グループの一人。
ゴーリキはそのグループのパシリ。
「いじめっ子」と「いじめられっ子」の関係であった。

グループの中でも、マクシムの「いじめ」は特に酷かった。
強奪、暴力、とにかく執拗にゴーリキをいじめた。
それはマクシムがそのグループではゴーリキの次に下っ端であり、
ゴーリキに力を誇示しなければ、次に対象になるのは自分だったからだ。

修学旅行の時は、グループ全員でゴーリキを丸裸にして女風呂に放り込んだ。
それをきっかけに、女子からも蔑まれていき
もともと孤立していたゴーリキの居場所は、不良グループしかなくなった。
自分を苦しめる場所が、自分の居場所。
奇妙な話だが、ゴーリキにとってマクシム達といるときだけが心の救いだったのだ。
それほどゴーリキにとって、孤独は恐ろしかった。

ある日、グループをよく叱っていた桂木という教師が飼っている
凶暴なドーベルマンをこらしめようとグループのトップが言い出した。
当然、実行するのはゴーリキになる。
「首輪とってこいよ」
ドス太い声を受けたゴーリキは、桂木の家に入っていった。

皆は桂木の家の外で、タバコを吸いながら待っていた。
彼らが現場を覗き見ないのは、賭けをしていたからだ。
『漫画のようにズボンのケツを食い破れてくるか』
勝ったらパチンコにでもいくか つーかマジにケツ破られてきたら・・・
グループはニヤニヤしながら待った。

ゴーリキが戻ってくるまで時間はかからなかった。
賭けは
無効になった。

彼はキチンと首輪を持ってきた。
犬の首ごと。
不良たちは「ひぃいいいい!!」とか「うぎゃあーーー!!!」
とか散々叫び声や吐しゃ物を撒き散らして四方に散らばっていった。
ただ一人、マクシムを除いて。

ゴーリキには、特殊な性質があった。
彼は「他人」というものには心から恐怖するが、
「それ以外」のものには全くの「無関心」なのだ。
「動物」「物」・・・・そして「自分の命」さえも
彼にとっては無価値なのだ。

ゴーリキは不良たちの行動のわけがわからず、
キョトンと首をかしげていた。
マクシムはニヤリと笑うと
「俺と組むぞ」と言った。
彼もまた、狂気の心の持ち主だった。
最高の「人材」
そして、意味のないただの特技と思っていた能力の「使い道」
同時に見つけた彼の心は喜びに満ちていた。

中学も高校も、常にトップに立ち続けた。
困難など無いと思っていた。今の、今まで。



「さっきからなんなんだ・・・。」
マクシムは苛立っていた。
今日は最悪だ。
次から次へと災難がやってくる。
まるで何かの力によって「引かれあって」いるように・・・。

「いくぞ。ゴーリキ!」

俺達は無敵なんだぜ・・・?
こんなとこで潰れてたまるか・・・。
俺たちはいつだって
「潰す」ほうなんだ・・・!
「なぁ、酒でも飲もうってあんたが言ったんじゃねーか…待ってくれよぉ」
ビルを出た後ただひたすらに歩くマクシムと、それを追うゴーリキ。


「Bull's Eye」のネオンが光るバーや、
何故か学ラン姿の男が入っていった小さな酒場など、
酒を飲む場所ならいくらでもあった。

が、マクシムはそれらに一瞥をくれる事もなく、不機嫌そうな面で歩き続ける。

酒なんか飲んだって、ちっとも気分が晴れる気がしねぇ。
ヘタ打ったままでいられるか。
「借り」はすぐに返さねぇと、気が済まねぇよ。

「ゴーリキ!もう1回やるぞ。今度はしくじるわけにはいかねぇからな」


--------------------


歓楽街を出てすぐの路地に身を潜める、二人の中年男。
程なく、1台の車が目に止まった。

制限速度なんてお構いなし、とでも言わんばかりのゆっくりとしたスピード。
それでいて挙動がどこかおかしく、ぎこちない。
どう見ても「初心者マーク」。
しかも、国内では最上級と言っても過言ではない高級セダン。

カ モ だ。


ド ン ッ !


いつも通りに倒れるゴーリキ。
駆け寄るマクシム。

これまで何百回となく、繰り返してきた動き。
加えてマクシムの脳内には、今まで培ってきた様々な言い回しの引きだしがある。

ああ言えば、こう言う。
バッチリだ。
さっきの失敗はただの偶然。ここから、また無敵の俺達の生活が始まるんだ。


「ふぅ、やはり無免許運転は無謀だったか。何事も経験だと思ったんだが…」
車から出てきた若い男は、じっとゴーリキを眺めている。

驚いている風でもなければ、不安そうなわけでもない。
じっと観察するようなその眼差しに、ゴーリキは何とも言えない違和感を感じた。


「おいおいアンタ。人を轢いといて助けもしないなんて、その態度はあんまりじゃないか?!」
マクシムが話し掛けると、男は奇妙な事を言った。

「話し掛けないでくれないか…僕は車に轢かれた人間をじっくり観察しているんだ」

「…ハァ?なに悠長なこと言ってるんだアンタ。人が怪我してるんだぞ、観察もクソもないだろーが!面倒な事になる前に俺が…」
いつもの口上をマクシムが言い終える前に、男が口を開く。

「面倒な事にはならないさ…キミは何も見ていないんだからね」


次の瞬間、目にも止まらぬ速さで男は虚空に絵を描いた。

それを見た瞬間、マクシムは「 本 に な っ た 」。


「『ヘブンズ・ドアー』…ちょっとばかりキミの人生を操作させてもらうよ」

【岸辺露伴(原作4部)/ヘブンズ・ドアー:描いた絵を見た者を本にする。本に書き込む事が出来、その内容が人物に反映される】


ま た か よ 。


相次ぐスタンド使いとの遭遇に愕然としながらゴーリキに目をやると、こちらもまた本になっていた。


「ふむ…人は車に轢かれるとどう感じるんだろうか。ちょっと見せてもらうよ…」

本になったゴーリキに近付き、おもむろに読み漁る若い男。

「…なにッ! …キミ達、グルだったのか」


ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン


ば れ た ッ !


本日最大の恐慌が、ゴーリキとマクシムに襲いかかった。
(ヤバい!!ヤバい!!バレた…チクショウ!!)

ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン

ハイペースで刻む心臓の音は今にも露伴に聞こえんばかりだった。
「ふむ…体重を自在にあやつるスタンドってわけか。なるほど、こうやって当たり屋を繰り返して金を巻き上げてたっていうわけだな。
なになに、『もうこれで3回目の失敗だァァーーッ、本当になんだよチクショウ!…もう嫌だ…』

なんだ…つまらないな。他には…『19XX年、犬の首輪をとって来いと言われて、ひきちぎって首ごと持っていったら、みんなが逃げていった。でもマクシムだけが逃げなかった。』

…ッッ!!?なんだコイツ、おかしいぞッ!!」

露伴が読みすすめていくにつれて二人の過去が、僅かな狂気の種が、明るみへと出て行く。


(ヤバい…完全に、バレた…もう…


殺 る し か ね ェ ッ ッ ! !)
(クソッ体が…どうする…)

策を巡らすマクシムを余所に、露伴はページをめくりゴーリキを『読んで』いく。
その表情は始めこそ驚き一色だったが、次第に複雑な色を帯びていく。一枚ごとに色を重ねたそこは複雑な油絵のようになっていた。

「4月 マクシムが「よくやった」と言ってくれた。
 ≪仲間≫がいるのはいい。
 7月 かっぱらった金庫のダイヤルを壊すと中からダイヤが出てきた。マクシムは大喜びだった。
 ≪仲間≫が喜ぶと俺も嬉しい。
 9月 金がなくなった。マクシムが転ばせた相手の上に俺が乗って、体重操作で脅すカツアゲを始める。
 ≪仲間≫のためだけど、男にしがみつくのは嫌だ。女なら大歓迎!
 12月……」

そこまで読むと露伴は静かにゴーリキを『閉じ』、【ヘブンズ・ドアー】から開放した。

岸辺 露伴は考える。ゴーリキと自分は似ている、と。

(自分も彼も、ただ一つのものだけを信じて生きてきた。自分は『漫画』という評価を得られるものに打ち込み、その努力が実った。自尊心の高さも手伝ったかもしれない。
 だが、彼のように形の見えない『仲間という絆』だとかを信じていたら?気弱な性格だったなら?彼のように落ちぶれ、他人に利用され、社会のつまはじき者になっていただろうか?)

露伴はしゃがみこみ、ゴーリキの肩に手を置く。びくりと跳ねる。害意はない、僕等はよく似ている、と露伴が口を開いたその時、

「なんなんだよぉ〜〜アンタはよぉ〜」
『ゴーリキ!コイツは全部知っちまった!殺すしかねぇ!』

マクシムの声が鼓膜を震わせた。その途端、露伴を猛烈な怒りが襲う。
多彩な色で塗り固められた油絵はキャンバスが歪むのと同時に剥がれ落ち、下地の色だけを残してシンプルな風景画となった。
その色は紅。燃え盛る業火のような、憤怒の色。

「貴様はッ!彼をなんだと思っている!?言わなくてもいい、書いてあるぞッ!!≪便利なヤツだ≫、≪俺と同じでブッ飛んでるから扱いやすい≫、≪バカとハサミは使いようだ≫、とな!!」

マクシムを車に叩きつけ、乱暴な手つきで露伴はマクシムを『読む』。時折ページが破れ、そこらに舞った。

「この岸辺 露伴の最も嫌いな事の一つはッ!貴様のように他人を利用するだけで自分は何もしないヤツだ!そのクセ調子に乗りやがって、このスカタンがッ!!」

「や、やめてくれよぉ〜〜」
『ゴーリキ!立て!早く立ちやがれッ!』

マクシムは怯えたフリをしながら【26&1】で叫び続ける。
と、二人の足元にひらりと紙が舞う。破れたマクシムの一部だ。どうやら現在の部分らしく、ページ半ばまでしか書かれていない。
マクシムの人生を象徴するかの如く軽いそれは、火を噴く露伴の怒りに煽られるようにマクシムの元へと舞い降り、もたれかかるようにして動きを止めた。

『押し せ!飛びか って掴 さえ ればこ ちのもん !怖ぇ ら目 つむれ!俺たち 未来の めに死ぬ で潰 !』

そこに浮かんだ文字に露伴は更なる怒気を乗せてマクシムを睨む。一瞬、怯んだマクシムだったが、ニヤリと口を歪めた。
何かを感じ取った露伴はゴーリキへと振り向く。彼は歓楽街のネオンを背に目を固く閉ざして露伴へと飛びかかっていた。

「うおぉぉぉ!【ヘブンズ・ドアー】!!」

露伴の顔に手が触れるそのギリギリで、ゴーリキの頬に文字が張り付く。

≪岸辺 露伴に触れられない≫

滑るように軌道を曲げたゴーリキはマクシムへと向かった。そしてその肩を掴んだ瞬間、

「うわああぁぁあぁぁあああぁぁぁッ!!!!」

ゴーリキは絶叫し、【ミニマム・マキシマム】を最大限に発揮する。今日ここに至るまでの恐怖と緊張の連続は、皮肉なことに彼を成長させていた。

「ぐぼぉあッ!違、ゴーリ…お、俺だ!マク…」

「うあぁぁぁッ!潰れろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

必死に車ごとマクシムを押し潰す。マクシムの訴えは届かない。目を閉ざしたゴーリキには相手が誰なのかわかっていない。この手を離すまい、と握りつぶす勢いで掴む。
マクシムは苦しみに暴れ、その足は露伴を蹴り飛ばした。思ってもみなかった状況に露伴はよろよろと後じさり、壁に背をつける。

「いぐあぁぁぁ!ぐ、うおえぇぇ!」

「仲間のためだあぁぁぁぁぁぁぁ!」


ガ ォ ン


奇妙な音が響いたあとは露伴だけが残された。
二人の当たり屋がいた場所には歪な穴が空き、膝をついて覗き込んでも底を窺い知ることはできなかった。

「残念だよ…僕と君は≪友達≫になれたかもしれなかった…≪仲間≫なんかじゃない、心から信頼し合える≪友達≫に…」

ゆっくりと立ち上がり、ペン先の形をしたピアスを一つ外して穴に投げ入れ、その場を後にする。

ピアスが底に当たる音は、聞こえなかった。



OSBss 第七話 【どん底】 完

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