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オリバトコミュ【第四部】コミュのshort story.3〜奇妙なる酒場〜

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1.ヤマノフ王朝
2.RATT
3.鉄雄
4.へなちョコヲ
5.天体観測☆彡
6.もりし( ゚Ω゚)
7.Gaya
8.blue baloque(・u・)
9.いちーこォ
10.のりくん
11.まっく
12.ジュン
13.はるや
14.Gaya

コメント(14)

カラン。
グラスの中の氷が溶け、小気味良い音が店内に響き渡る。

彼は開店少し前の、この静かな時間を、

『だれよりも』ただ一人楽しんでいた。


【マスター】
スタンド名:アウトサイダー
能力:人間の感覚を極端に鈍らせる。


【OBSss〜3rd/奇妙なる酒場】


女性が一人。
この小さな酒場の、カウンター席でモリモリと酒を呑んでいる。ハッキリ言ってあの量は病気だ。
重度のアルコール依存症としか思えない。

…などと考えつつも、私は大事な大事なお客様に、良い酒を提供する事に専念した。


【シバミ】(3部)
スタンド名:シバミティア
能力:アルコールを自在に操る。


「プハーーうまいッッッ!!やっぱり酒は命の水だねッッ!!
しかも!!こんな珍しい銘柄まであるなんてッッ!!
マスター……あんたやるねェッ!!」

シバミが顔を紅くしながらマスターにそう叫んだ。

彼は軽く会釈して、

「…感謝の極み。」
と一言漏らすだけであった。



カランカランカラン。

「…いらっしゃいませ。」


小さな酒場の、少し大きな扉が開いた。



大きめの扉から、少し背の低い男が顔を覗かせた。
男は軽く会釈をすると、男には少し大きめの灰色のコートを脱ぎ、入り口の扉近くにあるコート架けにそれを架ける。実に慣れている。常連だろうか?

男がカウンターの席に座るとマスターは少しだけ怪訝な表情を浮かべた。
いつも無表情で瞬きさえしないようなマスターにとっては、とても珍しいことだ。
「また、来られたのですか…。」
「えぇ、あなたから良い返事がもらえるまで何度でも。」
「何度おいでいただいても、貴方の望む答えをだすことはできません。うちの店は取材を一切、お断りしていますので。」


男は雑誌記者だった。
『Leopard』30代からの大人の男性をターゲットにした情報誌。
ファッション、ホビー、グルメとトータルな情報を発信する中でもグルメ記事には定評がある。
紹介されれば平日でも行列のできる店になる。

「あなたは解っていない!うちの雑誌に紹介されれば一躍、有名店の仲間入りだ!!大きな利益だって得られる!!!」
男はなかなか進展しない交渉に興奮し語尾を荒げた。

「他のお客様もいます。あまり、大きな声は…。せっかく来られたのです。これを呑んで気を静めてください。」
男のカウンターにマティーニが置かれた。
男は一気にそれを飲み干す。

「うんまぁーい!!」
マティーニを呑んだ途端、男は別世界に飛んでいった。
四肢の感覚が空気と混ざりあうような幸福感。
目に移る景色が揺らいで見える実にサイケデリック!!
気持ちがいい!!!!!!!!!!!!!


男はいつの間にか店の裏の路地に倒れていた。
「しばらくは、感覚が鈍り動くこともできないでしょう。今夜は冷えます。コートには少し大きいが、布団には丁度いい。」
マスターは男にコートをかぶせると空を見た。
「雪でも降りそうですね。」
そう言うとマスターは、いそいそと裏口から店に戻っていった。


ここは、小さな酒場。
オススメのカクテルは『マティーニ』…
カウンターに戻ると、大酒飲みの女性はいつのまにかグッスリと眠っていた。
オークの重厚な木目の上にカエルのように突っ伏し、口からは小さなイビキが聞こえる。

戻ったマスターを、聞きなれない声が出迎える。
「こんばんわ。大丈夫?」
潰れたカエル・・・もとい女性の隣に新しい客が座っていた。
男のジャケットはほのかに冷気をまとって、男の肩をすくめさせている。
「すみません・・・少し立て込んでまして。」
「大変だろうね。こんなのばっかじゃさ・・・。」
男はチラリと隣の女性を見る。
コレだけ熟睡しても、片手のジョッキは離さない。
さすがの貫禄だ。
「いえいえ。かわいらしいお客さんばかりですよ。」
ニコリ と笑いながらマスターはうそぶく。

「さて、何をお出ししましょう。」
男は寒そうに手をこすりながら、マスターを見た。
「そうだな・・・今日は僕の誕生日なんだ。」
「そうなんですか!それはおめでとうございます・・・」
男は少し照れくさそうに笑ってうつむく。
「ありがとう。ってことで今日は・・・オリジナルの奴を頼むよ。僕にピッタリな、さ。」
マスターはムムッと顔をしかめる
「おや・・・これは難しい注文ですね。」
「無理・・・かな?」
マスターは酒棚を見ながら少し考え、振り返っり、笑顔で答える。

「かしこまりました」

グラスに通常の氷を3つほど入れる。その上に・・・

『チェリー』を乗せる。

シェイカーにカルーアとミルクを3:1。
さらに砕いた氷を入れ、シェイクする。
それを先ほどのグラスの上から注ぐ。
最後に、砕いたチョコレートを3つほど刺す。

「どうぞ」

派手な格好をした猫のプリントがされているコースターにグラスを置き、スッと男の前に差し出す。
「へえ・・・変わってるね。名前は?」

マスターは静かに微笑む。




「名前は・・・・

 『モンスター・オブ・グラス』です」



「ずいぶん…変わったカクテルですね」

男は『モンスター・オブ・グラス』を覗き込んで呟く。
そしてトップに飾られたチェリーを指差し、マスターに訊ねた。

「ガッつくようですが…このチェリーからいただいても?大好物なんです」

「構いませんよ」

マスターの言葉を受けて男はチェリーを手に取った。
その味だけを楽しみたいのか、紙ナプキンでチェリーについた泡を拭いてから口に運ぶ。


レロレロレロレロレロレロ


「独特の食べ方ですね」

「失礼…そんな顔しないでください。癖なんです」

若干ヒキ気味のマスターは後ろの棚からブランデーとショットグラスを取り出し、

「ちょっとした演出を。このブランデーに


トクトクトク ボッ


火をつけて落とすと」

「なるほど…比重で青い炎が揺らめいて、まるで」



「「鬼火のようだ」」



綺麗に重なった声に、二人は微笑み合う。その横でシバミはアルコールの香りに鼻をヒクつかせていた。
炎で飛ばされた泡が霧のように消し飛び、溶けたチョコレートが底へとゆっくり沈んでいく様は涙のようにも見える。

「では、どうぞ」

満足気な表情でマスターは棚にブランデーを戻す。
男はその背中に語りかけた。

「やはり…バーのマスターという職業は豊富な知識がなければなりませんか?」

「お酒に関してはもちろん…でもお客さんから教わることも多いですよ」

「そうですか…では僕のことは誰から聞きました?」

マスターの手が止まり、背中が小さく揺れた。

「トップに飾ってあったチェリー…僕が最初に食べなければ演出はどうするつもりでしたか?答えていただこうッ!」

男――花京院 典明は立ち上がり、『ハイエロファント・グリーン』を発現した。



【花京院 典明/ハイエロファント・グリーン】
宝石のような形をしたエメラルド・スプラッシュを放つ。
ひも状になり、結界を作ることもできる。



カウンター席だけの、小さな酒場。
広さにすれば、10帖程度といったところか。
まさに、「男の隠れ家」といった風合いを漂わせている。


その酒場の空気の色が、一変した。


「ヘンな気を起こさない方がいい」花京院は言った。

「既にこの店全体に結界を張り巡らせている」

事実、その通りだった。彼のハイエロファントグリーンは店の入口と勝手口、その外側にまで延びていたのだ。

「僕にはあなたの動きが手に取るように分かる。さぁ、答えてもらおうか」


背を向けたまま、マスターは答えない。代わりにただ一言、

「vodka martini,shaken,not stirred」

とだけ呟いた。


(カジノ・ロワイヤル…ジェームズ・ボンドか。 …ハッ!)



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



花京院の目の前には、いつの間にかウォッカ・マティーニが置かれていたのだ。


(そんな…ハイエロファント・グリーンは何も感じなかったぞ…なにッ!)


今度は背を向けていたはずのマスターがこちらを向き、ニヤリと笑ったのだ。



(これは… 僕 が お か し く な っ て い る の か ?)



張り詰める空気の中、唯一変わらずにシバミの寝息だけが続いていた。


マスターが不意に口を開く。

「ところでお客様………」



(このマスター……ただ者ではないな……)


考え込む花京院の耳にマスターの声が一瞬遅れて届く……。

「な、なんだ!!」


焦る花京院を尻目にマスターは話し始める。


「ところでお客様……お客様の方こそ……」

ゴゴゴゴゴゴゴ…………


「どうして私が『スタンド使い』と解ったんですか!?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………


(………はっ!何故だ!?何故だ!!)


ガタンッ!!


その時、店の扉が勢いよく開いた。

「マスター!!さっそくですが取材させていただきますよ!!」

そう言って入って来たのは背の低い小柄な人物と身長が軽く2mはあろうかと言う大男と。



「………いらっしゃいませ。初めてお見えになるお客様には大変失礼なのですが……」


マスターはため息をつき。


「他のお客様がいらっしゃいますので少し静かにしていただいてもよろしいですか。」

少し強い口調で答えた。


「おっと、こりゃ失礼しました。私『Leopard』の記者、オダキリと申します。以後お見知り置きを。」

反省する様子も無く大男オダギリは大きな声で答える。

【J・オダギリ/サトリ】
サトリの半径10メートルにいる限り、お互いの思考が解る。ただしJ・オダギリの思考はわからない。



「私の同僚が先に店に来てるはずだったんだが……まぁいい。取材させて頂きたいんですよ!質問には答えなくていい…ただ考えてくれれば解りますから。」

大男はカウンターに座るとマスターの顔をじっと見た。


「なるほど、貴方のスタンドのせいだったんですね……ですが質問にはお答えできません。」

マスターは落ち着いた素振りを見せじっとオダギリを睨み返した。


「おぉ!貴方もスタンド使いでしたか!!ではさっそく質問させて頂こう!!」

オダギリはマスターの言葉など聞こえていない様子で質問を始めた。


「ちょっとまってくれ!!」

花京院はおもむろに口を開いた。

「さっきから君、礼儀がなってないんじゃないか?」


店の空気が再び張り詰めだした………


「ふふ、威勢のいいお客様がいらっしゃるんですね・・・。
 そのハクい学生服は衣装ですか?
 学生が、バーに入り浸って飲酒する店・・・
 これはこれで記事になりそうですよ!」

オダギリは相手の高位に立った勢いで鼻を鳴らす。
その顔をキリっとした表情で見据える深緑の学生服を身にまとう花京院。

「僕は未成年の飲酒で捕まるとか学校に通報するとか
 そんな脅迫には屈しない・・・けれどこのバー・・・」


「けれどこのバーに迷惑をかけるワケにはいかない。
 あなたの次のセリフはこうですね?」


「・・・ハッ」

自分の思考を読まれ、先の行動を事前に踏まれるということは
非常に奇妙で不可解な感情が沸き起こるものだ。
花京院だとてその例外ではない。
その理解はしようとしていた驚きに一瞬動きが止まる。


「おっっと〜〜〜ォ、あなた、今少なからず恐怖を感じましたね?!
 この私の『サトリ』の能力。
 何もパワーはありませんが、人を知ると書いて人知の術。
 それは王にふさわしき力!
 だけど私は富や名声に興味はない・・・。
 ただ私は私の考えたことを絶ッッッッ対に実行するッ!
 それこそこの『サトリ』の世界で最も孤独で偉大なる覇道の力!
 その道を阻むものは全て思考なき石コロでなければならないんだァーッ!
 邪魔するものは路傍へと蹴飛ばさせてもらうぞッ!」


「いいだろうッ!
 しかし、この僕の法皇の緑は君の半径5mに結界を張り巡らせている・・・
 動けば僕の思考とは関係なく、『反射行動』から法皇の緑の
 エメラルド・スプラッシュが君の身体を直撃させるッッ!」


互いに動けばやられる。
先手をとられた方が二手目から圧倒的不利。
両者はそれぞれ相手動きの読みあいから全く動けない!


「ぐがー・・・・・・千年戦争・・・・・・ぐーZZZZZzzzzzz......」

隅でつっぷしていた酔いどれ女の寝言。




「そこまでッ!」


正面同士に大きな力で押し合いをしていた力は
その真横からの力に弱い。
そのハッとさせる大きくは無いが力ある声に
両者の均衡は解かれた。


「この店は私の大事な場所だ・・・
 そしてこちらはこの店の大事なお客様でもある・・・
 あなた、オダギリさんと言いましたね・・・
 取材は受けられませんが、あなたが一人の客であるならば
 話好きなマスターのように、この場所で出会った奇妙な話を
 つまみとしてお出ししましょう。
 フ・・・もちろんお二人のおかげでまた話が増えましたがね・・・」



「グッド!」


「いいでしょう。」


「オ・カピートゥ(かしこまりました)
 では改めていらっしゃいませ。
 そちらはまず何にいたしますか?」


オダギリはざっとカウンター奥の棚を見やり、
「マスターのカクテルを頂きたいところですが
 話をしっかり覚えるためにも、甘いものは避けましょう・・・。
 シーメイ・レッドありますか?」

聞くや否や、オダギリの前に口のすぼまっていない
ブランデーグラスのような容器が置かれ、
音も無くそこに濃厚なビールが注がれていく。
静かに注げば、その泡の表面張力により、
一本分がそのグラスに収まるのだ。


「僕はおかわりをもらおうか。
 今の騒ぎで氷が溶けきってしまったからね。」

またもまるでそよ風がそっと店内に流れたかのような
静かな動きでシェイカーを振り、ただただ氷が砕かれる音が響いていた。



「・・・さてまずはこの奇妙な出会いに乾杯し
 そして私の話を始めましょう・・・」



「それはもう、何年も前の話になります……。そう、私がこの店を始めたばかりの頃……」








時代は戦後の少し後、1960年代の最中まで遡る!!
敗戦による荒廃や混乱がようやく復興し、人々が活気を迎えていた時代!

人は後にその時代をっ、高度経済成長と呼んでいたッ!!!!




「そのときは、学生運動も盛んでしてね。
あと、ビートルズも大きなブームを巻き起こしていた頃でしたね……」

昔日を思い返すように、マスターは言葉に小さな高揚を隠せない。
それは、本当に眩しかった時代。
そして、戦争の名残を覆い隠すような、悲しい時代。
いまさらながら思うと、とても懐かしい時代のことだった。



「……マスター。失礼を承知で聞くが、年齢は?」

マスターの話を一旦遮るように、花京院が年齢を問う。
誰がどう見積もっても四十代後半、精々五十初めの外見にしか見えないマスターは、

「さあ? 私は年齢を数えることを、それこそ遠い昔に忘れてきてしまったので」

本日誕生日の花京院のグラスに、先程のモンスター・オブ・グラスを注ぎながら、そう静かに言った。



「…………すまなかった、話の続きを」

「…………わかりました。続きを話すことに致しましょう」





店を始めたばかりの頃、でした。
多分、本当に一ヶ月も経っていなかったと思います。
自分の店、というものを持って一番大変な時期でもありました。

そんな頃に、奇妙な出会いがあったのです。
奇妙、というには少しばかり語弊があるかもしれませんが。
そうですね、それでも、あの御客様はどこか奇妙な人だった。


その日は、強い雨が降っていた夜でしてね。
今日は御客様はいらっしゃらないだろうと、少し早めに店を閉めようかと思っていたんです。



グラスを片付けている間に、その御客様はやってきました。
外の雨は止んでもいないのに、その人は傘も差さずに。
それでいて、『全く、濡れていなかったんです』。
『髪の毛も、身に纏う和服さえも』、何一つ水気に滴ることないままに。
ただ、どこか灰々しい薄霧に纏われていたようにも、今には思えます。


それは美しい、女性でした。
歳はそう若くはなかったでしょう、四十〜五十くらいだったと思います。
黒一色の着物――――喪服が、粛と似合っていました。


場違いといえば、とても場違いでした。
一瞬、声をかけることすら忘れてしまうほどに。
彼女はそんな私を余所に、どこか凛とした姿勢でカウンターへと座って、こう言いました。





「悲しみを忘れさせてくれる、そんなお酒を作ってくれませんか?」





典雅な立ち居振る舞いや、貴とした威厳が、今でも印象に残っています。

今から思うと、あれこそが『淑女』というべき女性だったのかもしれません。




【昔日のトメ/ジュール&カロリー】(3部)
能力:微生物サイズの超小型スタンド。
生物体内以外の水に入り込み、急激な放熱や吸熱を行うことができる。

「・・・・・・かしこまりました。」


当時の私はまだ若かった。
あのような淑女に対してどのように接すればいいのかとまどいながら、何とか「悲しみを忘れさせる」カクテルをお出ししようと頭を悩ませました。


悲しい事に出会ってしまったとき、私なら時の流れが癒すのを待つ。
若い女性なら思う存分泣くなり、誰かに慰めて欲しがったりするのでしょうか。

・・・この御客様は・・・




ツーー

プツッ
プツッ


ー・・・



場を持たせていたビートルズのレコードが終わり、レコードを変えようとすると
「このままで・・・雨音を聞かせて下さい。」



ふと思い出したのです。
雨に打たれていない彼女を。

雨に隠れて泣けない彼女を・・・




「お待たせ致しました。ホットジン・スリングをご用意させて頂きました。」
ボンベイ・サファイアを使った、水色が美しい気品のあるカクテル。

御客様の心を少しでも暖めてくれます様に。
涙を飲み込んで仕舞って下さる様に。



「悲しみを忘れさせてくれる、優しさ・・・ですわね。」



座っている、視線を動かす、グラスを傾ける。
たったそれだけで余りにも優雅でした。
失礼とは分かっていながらも、私は目を離すことが出来ず

「女性をそのように見つめるのは如何かと思いますわ。」


と窘められてしまいましたよ。

慌てて視線を外した勢いか
照れ隠しか
聞いてしまったのです。


「誰かお亡くなりになったのですか?」




「ええ、そうですわ。


私。私が・・・死んだのです。」


――――――

「ちょっと待ってくれ!」

オダギリが話を途切らせる。

「私が死んだってどういうことだよ!?死んじまっちゃあ、あなたに会う事は出来ないでしょ!?」




マスターは人の話を聞くことをしない男をチラっと見ると軽くため息をつき、続ける。

――――――

「私が・・・死んだのです。」



彼女は確かにこう言いました。私の耳と記憶に寸分の狂いもありません。


当時の私は耳を疑いました。

非常に動揺していて、先の質問を投げかけた事も後悔しました。

『私が…死んだとは?』


という言葉を喉の部分で深く飲みこみます。

お客様の事を詮索するような真似はしない。っというのが私の…スタイルだったからです。

お客様が涙を流していようと、私の方から手を差し伸べたりはいたしません。

私はただ、お客様の話を黙って聞く。それだけでいいのです。


助言もせずに、黙って話を聞いて、お客様の望むお酒をお出しする。

それだけで十分なのです。


私はそれ以上何も聞きませんでした。


その女性は、もう2杯同じものをお代わりされると、雨の降る中へ去って行きました。





次の日、そのお客様は前日と同じ席に座られました。



「こんばんは。」

私はオーダーをあえて聞かず、昨日と同じ しかし、少しアルコールを多めにシェイクしたものを作り、そのお方のグラスに注ぎ込みました

「ありがとうございます。しかし、今日は別のお酒を頂きたいのです。マスター。」

「これは申し訳ない。…お気に召されませんでしたか?」


あの頃の私はまだ浅く、その時はそのお方が真に求めているモノを差し上げる事が出来ませんでした
そこで、私はすぐに別のお酒を作ろうと考え、再度最適なアルコールを選び始めましたのですが…

はたして、何を差し上げればよいのか


「お酒には不思議な力がありますね。それは時に私たちを励まし、笑わせ…時に哀しませ、忘れさせる……」
「……。」

ふいに、そのお方は空のグラスを手にとってそうおっしゃられました
その言葉に私はボトルを選ぶ手を止め、黙ってその言葉の続きを待つ事に

「昨日のお酒は美味しかったですわ。自棄にさせるでもなく、無理矢理忘却させるでもない…」

その方は、カウンターに置いてある氷を一つ摘まれると

「まるで溶かす様に…そう、ゆっくりと私の中で悲しみを暖めて下さいました。」

そう言って微笑みました
憂いを残したまま、だけどどこまでも信念を通した瞳が私を見る

手に持っていた氷を空のグラスに移し


「今日は、貴方との出会いを祝うお酒にお願いしたいと思います。一日、遅くなってしまいましたが。」

二人分のグラスを私の前に置かれました


「…なんとも、素敵なお方だ。」
「出会いを祝福する事は当たり前の事でしょう。」


カラン

トク トク トク

カラ カラ

キン


ベースになるアルコールにこの場を飾る様なフレグランス
派手すぎなく しかし気品と喜びを表現した様なアクセサリのフルーツを添える

スパイスはもちろん……


私は出来上がったカクテルを互いの目の前に注ぎました

店内のライトが照らす中それは、いつも以上に光を反射し輝く


「…レイニング・モンド。雨の中現れた貴女との出会いに。」

「恐縮ですわ。私をダイヤと言って下さるの?」

グラスを静かにあわせ、互いに口に含む

自分で言うのも何ですがあの時お出ししたお酒は本当に美味しかった
きっと私にとってせの時限りの…最初で最後の作品だったでしょう


「美味しいわ。」
「ありがとうございます。」

グラスをカウンターに置き、ハンカチで口を軽く押さえる

「…私が……死んだと申しましたわね、昨日。」
「……えぇ、その様に。」

ふいにそのお方は、昨日心の奥に飲み込んだ私の探求心が求めるモノをダイレクトに、口にだしておっしゃられました
「深く聞いてはいけない」、そう分かっていたのですが
そのお方とお酒を共にした心の緩みか、私はつい聞いてしまったのです

「……どうして、お亡くなりに?」



しばらく その方はグラスを見たまま黙っていました

そして私の方を見上げたかと思うと……



パァァン!!!パリン!パリン!!

「!!??」

瞬間、入口から店内の奥まで、照明という照明が次々に砕け
辺りは壮絶となりました
幸い、早い時間だったので他のお客様はおられず騒ぎにはなりませんでしたが、その方は決して慌てたりはせず

「……騒がし輩ですね。」

一言そう言うと、私が今まで自分だけだと思っていたビジョン…光り輝く小さな精神を発現されました

「…あ、貴女は……」

目を丸くした私に向かって、そのお方は

「屈みなさいッ!!」
「ッッ!!?」

パリパリンパリンパリンパリパリパリンパリンパリパリンパリンパリンパリパリパリンパリンパリパリンパリンパリンパリパリパリンパリン!!

背後にあったボトルが一斉に弾け、私目掛けて無数の凶器と化したガラスが降り懸かりる

「ッッ!  …………?」

しかし、屈んだ私の背中には何もあたってはきません

私は思わず振り返りました

「こッ…これはッ!!」
「 ジュール&カロリー 昨日…私、こう生きていくと覚悟致しましたの。」


降り懸かるはずのそれは、ドライアイスの様に冷気を地面に落としながら
私の背中の手前で見事なアルコールとガラスのオブジェとなっていたのです

「…貴方も」

私は、自分以外に能力を持った人間がいた事に感動し、らしくもなくそのお方のお名前を伺いました

「トメと申します。貴方もよいスタンドをお持ちで。お酒に紛れてかわいらしい事、お陰でとてもいい気持ちを味あわせて頂きましたわ。」

「話に割り込んで来るなんて、無粋な方ですわ」

そう言って彼女、トメはバーの入口に鋭い視線を走らせた。

「先ほどの質問の答えがまだでしたわね。私が死んだという言葉の意味の…」

その視線を外さないままに、カウンターの影に隠れながら、
恐る恐る外を窺う私にこう言ったのです。

「今までの守られているだけの私は、もう死んだのです」

そう言った彼女は、先ほどまでの雰囲気とは違っていた。
淑女としての立ち居振る舞いを崩さないままに、
どこか勇ましく、戦い抜いていく覚悟を決めた戦士のようでもあった。
そしてその姿はとても美しく、荒れ果てた店内の中で一時状況を忘れ、私は彼女に見惚れてしまいました。

「私は決めたのです。もうこれ以上誰も傷つけさせない。
 自分の力で守り、戦い抜いていくという覚悟を。」

その口調は穏やかで静かだが、言葉には決意を秘めた力があった。

「やぁっと見つけたぜ、このクソアマッ!」

そんな怒鳴り声と共に、ドアを蹴破って一人の男が店内に入ってきた。

「さァ、あのクソヤロウの持っていた石仮面をどこに隠したのか、
 吐いてもらうぜッ!」

その男の言葉を意に介した風もなく、トメは答える。

「生憎ですが、あなたのような方と話す言葉は持ち合わせておりませんの。」

男はトメの言葉に激昂する。

「ンだとテメーッ!クソッ!あのヤロウといいムカツクぜッ!
 あのヤロウ、とっとと吐けばいいものの、あんまりにもムカツクから、
 思わずブッ殺しちまったぜェ。
 テメーもあのヤロウと同じにならねえよう、とっとと吐くんだなァッ!」

そう言って男は高笑いをする。

その男の言葉を聞いたトメは、突然真っ青になり言葉を失ってしまっていた。
よく見ると手は握り締められ、汗が滲み、微かに震えている。
それを見て私はようやく気づいた。
今まで気丈に振舞っていたが、本当は恐ろしいのだろう。
いくら決意し、その決意に揺らぎはないと言っても、
まだ若く、それも女性なのだ。
しかしその目には恐れなどなかった。
決意を宿したその瞳で、男を鋭く睨む。

「あら、あなたこそあのお方を殺した報いを、
 受けて頂きますわ。」

「殺した報い?
 こりゃあ面白いコトをほざくババァだ!
 教えといてやるがよぉ…
 人を何人殺したところで報いなんざこねーんだよぉ!!」

醜い…醜い小男でした。
なによりその目つき…瞳の奥にドロリとした醜悪なものを感じたのです。

「今まで何台もの電車やら船やら飛行機やらを事故らせては皆殺しに…おっと、『事故死』だな…
 …させたことはあったが、報いなんてありゃしねぇ。
 報復をと狙うヤツはみな返り討ちにしてきてやったさ…
 この『タワー・オブ・グレー』でなぁ!!」

男の背後から奇妙なクワガタ虫のような生物があらわれ…そして消えたのです。
いえ、正確にいうなら、『目にも止まらぬ速さ』で移動した…

先ほどの照明やボトルを割った攻撃もおそらくは…



「ちょっと待ってくれ」
今度は花京院が話に割って入る。

「どっかで聞いたことある名前だな。
 その『タワー・オブ・グレー』…
 まぁいいとするか…続けてください。」


【本体名:グレー・フライ
 スタンド:タワー・オブ・グレー
 能力:凄まじいスピードで動き回る虫型のスタンド
    人の舌を好んで食いちぎる】

「ヒャッハーッ!関係あるヤツぁ皆殺し(MASSACRE)だァァァァァッ!
 ババァに酒屋ッ!オメェ等の人生の旅路もここでジ・エ〜ンドッ!」

プンッ プンッ

クワガタ型のスタンドが超スピードで視界に現れては消え、消えては現れる!
段々と間合いを詰め、確実に一撃必殺を狙う灰色の服に身を包んだ男を余所に
あの方はカウンターの椅子に座ったまま、グラスを傾けてこうつぶやいたように私には聞こえた。


「雨が・・・止みませんわね・・・」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ





「死ねェェェェェッ!・・・・・・・・・?!」

そのクワガタの大きなアゴから昆虫界にはない触手が伸びたかと思った瞬間、
襲い掛かってきていた男のひざががくっと折れた。

「あ・・・?あぁ・・・?」

何が起こったか全く理解できず、その場に倒れこむ暴漢。
すでにクワガタは消え去り、二度と現れなかった。

「お強いんですね・・・」

私はそういうと店の赤電話を3回まわした。

「いえ、あなたの能力のおかげですわ。人の感覚を鈍らせるか何かかしら。」

私は空になった彼女のグラスをみて「何かおつくりしますか?」というそぶりを見せたが
彼女は首を縦に振りはしなかった。

「そこに転がっている男はグレー・フライ。傘も持たずに私を追ってきた愚かな男・・・。
 私のスタンドで、その男の灰色のスーツを黒に染め上げるまでに濡れた水分を急激に蒸発させて体温を奪ったわ・・・。
 それでもあなたのお力添えがなければ、途中で気づかれてもっと大騒ぎになったでしょうけど・・・
 あら、いけない。割れたボトルのお酒弁償させていただけない?」

そう言って着物の裾を探るあの方を私は制して言った。

「いえ、お代は結構です。その代わり近くを寄ったらまた必ずいらしてください。」

淑女である彼女は、そこで無理矢理にでも代金を払おうとすることはせず、
すっとごちそうさまと一言残し去っていった。
男に恥をかかせぬ、『いいおんな』でしたよ・・・。
もちろん、そのあと警察に逮捕させた凍えた男に全て弁償請求しましたがね。

あの時代はね、男が女を守り通す。正に『紳士』と『淑女』の時代でした。
今では『紳士』にも成り得ぬ、少数の愚かな男性たちのせいで、
男尊女卑という言葉でひっくるめられますが、人々の多くはそうだったのですよ。
あの方は、愛した男性に全てを捧げて生きてきたのでしょう。

守ってくれる人がいなくなった今、自分が独り強く生きねばならぬと。
その為のスタンド。使命感をお感じになったのでしょう。
スタンドなど無ければきっとそうは思わなかっただろうな・・・。


おっと、お客さん。二人とも居眠りですか・・・?
フフフ、呑み過ぎは危険ですよ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




ビィィィィィーッ


録音用にとグラスの横に置いてあったボイスレコーダーのテープをマスターは取り出すなり
その磁気テープ部分を引っ張りあげた。

「ここはあの方との大事な場所。あの方がまた戻ってくる日まで何物も変えるワケにはいかないのですよ・・・」


「あぁーーーーーッ!!!!
 マスター!グラスにすっごい強いお酒いれて、スタンドで感覚鈍らせて二人に飲ませたでしょ!
 ヌナァァァァーーーーッ!」

「?!」

その的を得た言葉と近年聞いたこともないような大声にマスターは振り向いた。

「それから天狗舞もういっぱい・・・・・・むにゃ・・・ZZZZZzzzz」

「寝言か・・・。困ったお客様ばかりだな。それに日本酒は置いてないよ・・・。」

そういってマスターはひとつだけずいぶんと古びたグラスを棚から取り出し
ひとつのカクテルを作った。


ジンにホワイトキュラソー、そしてレモンジュース。


その真っ白で雪のようなカクテルの名は『サイドカー』。


別名『ホワイト・レディー』



あの頃の、誰にも触れえぬ純白の思い出に。



マスターは誰に言うわけでもなく、そのカクテルの入ったグラスを持つと少し挙げ
口をつけずにカウンターに置いた。



Original stand battle Short Story
【奇妙な酒場】―完―



【オマケ】


「お客さん、もうお昼前ですよ。」

二人が怪訝な顔で帰ったあと、店の隅でずっと突っ伏していた
淑女とも最も遠い女性を起こしてやれねばならなかった。

「う〜ん、むにゃむにゃ・・・あったまいった〜・・・ハッ!こ、これはッ!」

彼女は自分が顔を伏せていたカウンターを見て驚愕の表情を見せた!

「こ、このあたしのヨダレ・・・MA・・・S・・・TE・・・RST・・・AN・・・D?

 MASTER STAND?!
 『マスター、スタンド』って読めるわっ!」


「まぁ、立ち仕事ですから。」


おわり

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