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オリバトコミュ【第四部】コミュのshort story.6〜狙われたお嬢様〜

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1.へなちョコヲ
2.はるや
3.まっく
4.のりくん
5.もりし( ゚Ω゚)
6.いちーこォ
7.鉄雄
8.Gaya
9.RATT
10.はるや
11.blue baloque(・u・)
12.神威 咲
13.いちーこォ
14.へなちョコヲ
15.ヤマノフ王朝
16.blue baloque(・u・)
17.鉄雄

コメント(17)

暗い路地裏を通り抜けていくと二階建ての古ぼけたアパートがある。
一階には三つの扉があり、そのどれもが錆びて赤茶けていた。
二階にも扉はあったが、そこへと続く階段は朽ち果て、そこに住む者がいないことを如実に語っている。

その前に、見るからに場違いな上等なスーツを着た男が一人佇んでいた。

男は手帳を開き何事かを呟いた後、一階の真ん中に位置する扉の前に立ち、一つ大きく息をつくと意を決して扉を叩いた。


トン トトン トン


こちらが『依頼人』であることを告げる合図。ほどなくして扉はその外見とは裏腹に音もなく開いた。

「…入れ」

促されて足を踏み入れたそこは、アパートの外観からはまるで想像できない世界だった。
コンクリートに四方を囲まれ、ベッドと冷蔵庫のみが置かれている。

「…用件はなんだ」

前置きもなく部屋の主は切り出した。男は慌てて写真を取り出し、

「こ、この女ををを、ここ、殺して欲しいんです、いい、一流の殺し屋と名高いゲルトさん、あなたに」

と付け加えて震える手で差し出した。
ゲルトと呼ばれた男はそれを奪い取って一瞥すると、「…わかった」とだけ呟いて着替え始める。

「え、あの、情報は」

「…必要ない。…自分で調べた方が確実だ。…わかったら、」

ひらりと舞わせた写真を拳で叩く。
ドォン、という音が部屋に鳴り響き、額に風穴を空けた写真が撃ち落とされた。

「…さっさと出ていけ。…同じ目に遭いたくなければな」


【ゲルト/デッド・バイ・ガン】
拳で殴った部分を銃で撃ち抜いたように貫通させる


「ひ、ひぃぃぃッ!!」

依頼人の男は真っ青な顔で慌ただしく扉を開け、脱兎の如く逃げ出した。

「…逆恨みの類か企業の諍いだろうが、運が悪かったと思って諦めるんだな。…お嬢ちゃん」

床に落ちた写真を見てゲルトは歪んだ笑みを浮かべる。
写真の中では、見るからに裕福そうな女性が日傘を差し、淑女然とした顔で微笑んでいた。


【OSBss 第六話 狙われたお嬢様】
まいったなぁ〜。
こんな点数じゃ運転免許なんてとれっこないよ…

受け取った模擬の学科試験の答案を見てとても残念な気分になる。


ボクは今、山梨県にある免許取得合宿場に来ている。
車の免許を取るのには短期で合宿で取るのがいいって間田君がすすめてくれたから。

地元の杜王町から離れて旅行(じゃないんだけど)だなんて、数年前にイタリアに行って以来だからドキドキするなぁ。

そういえばあの時はスタンド使いの少年と出会ったけど、
また旅行ともなるとあのジンクスに当たるかもしれない…

そう、『スタンド使いとスタンド使いはひかれあう』…


【広瀬康一/エコーズ …原作四部】




今日の午後からは三人一組になっての路上練習。
この組んだ三人で免許取得までずっとやってくわけだから、怖い人とあたらなければいいなぁと思っていたのだけど…


一人は綾瀬さんっていういかにも品の良さそうなお嬢様って感じの人。
免許なんてなくても運転手とかがいそうな感じ。

「まぁ。あなたみたいな小さな方が車を運転なさるというの?
 大変かとは思いますががんばってくださいましね」

む…なんかちょっと失礼なことを言われたぞ。

「あなたも私の美しさに惑わされないでくださいまし。
 もう殿方を狂わせてしまうのは心苦しいんですの。」

か…変わった人だなぁ〜



もう一人は長瀬さんっていう、背の高い長髪の男の人。
なんか仏頂面で無口で近寄りがたいなぁ…

「…話しかけてくんじゃねェぞ。
 このウジ虫がァ〜」

ええ!?
い…今もの凄く失礼なことを言われた気がする!

気のせいだ。うん、きっと気のせいだ。




その長瀬さんの運転で僕たちは路上に出る。
助手席には指導員のおじさん、後部座席にはボクと綾瀬さんだ。

長瀬さんの運転は言っちゃ悪いがまるで下手で、すごく車内が揺れる。

「チッ… バイクなら余裕なんだけどよォォォオ」


長瀬さんが呟く。
そうかこの人は普段はバイクに乗る人なんだ。


「こちらの下賤な方の運転は荒々しいのですね。
 私、とてもじゃありませんが……」


プァァァァァァ……!!


突如響いたクラクションに綾瀬さんの言葉が遮られる。


綾瀬さんは「あらあら」といった顔をしている。
指導員の先生も驚いているようだ。



ボクの能力… エコーズによって出したクラクション。
綾瀬さんの言葉で長瀬さんがキレちゃうとまずいかなーって思って。

しかしそれはマズいことだったんだ。

そう、スタンド使いとスタンド使いはひかれあう…



「てめぇ… スタンド使いだな!?」

【ナガセ/ムーンライダー …本編三部第一話】
「え!?」


しまった! エコーズを出したまま能力を使ったのは、間違いだった!
ま、まずいぞ!長瀬さんすごくこっちを睨んでる!

「おい!テメェ何とか言えよッ!! この 文字 はテメェがやったんだろ!なんのつもりだ!!俺の運転にいちゃもんでも付けようってのかァ!?」

ハンドルや車内一杯に貼り付けられた文字を指さしながら体を乗り出して僕に迫ってきた


「え、いや〜、僕は…」
「下手くそって言いたきゃ正面から言いやがれ!」
「い、いえ。僕はそんなつもりでやったんじゃ…」
「そんなつもりって事は、やっぱテメェがスタンド使いだな!!?」


しまった〜〜!!


「容赦しねぇ!」
「うわわ!」

座席シートを倒して長瀬さんが突っかかってきた



…嫌だなー。もう、僕はただ免許を取りに来ただけなのに…

「エコーズ!act3!」
「!!?」



ズン


「な…重い!?」

「 …別にアナタに文句を言った訳じゃないよ。僕はただ、そこの子に気をつかっただけだ。下手くそだって?当然じゃないか、だから習いにきてるんだろ?」



(な…コイツ。雰囲気がガラリと変わりやがった…!

……へへへ いい顔してんじゃねぇか )


「重くもできんのかよ…。”音”だけかと思ったのによー。だが面白れぇぜ。 俺の 『ムーンライダー』 能力、”引き上げる”力とどっちが上だろうなぁ…」



長瀬さんが不敵な笑みを浮かべて僕を睨む
手はシートの枕に、上半身はほぼ後部座席に乗り出しており、足はペダル…

ペダルは…しっかりと踏み込まれたまま……


「危ない!長瀬さんブレーキッ!」
「あん!?…おわッ!!アブねッッッ!」



キキキキキィィッッッッ!!!!!


「ふぅ、ちっと焦ったな。」


カラ  カラ

カラ



長瀬さん(本当は指導員のおじさんだけど、長瀬さんが「俺が見事に止めてやったんだぜ!」って言っていたから言わないでおく)のブレーキでようやくとまった僕らを乗せた練習車両は…


40M程の崖っぷちに車体を1M程つきだして止まっていた


「あら、あら。これは降りるのが大変ね。」
「あ!綾瀬さん駄目!今降りたらッ!」

後ろの座席から綾瀬さんが普通に降りる
後部座席の重量が少なくなった車体…


「うおおおおお!?」
「djfkg!!??」
「長瀬さん!指導員のおじさん!」

ぐらり と重たい頭をもたげて車体が傾いた


「まずいぞ!重くしろ!!エコー…ッ」
「 おい、今度は俺に良いカッコさせろよ。 」
「!?」


長瀬さんが笑いながら振り向く
その姿はだんだんと見覚えのある姿に…


「アッォオオォォォーーーン!!」


ドゴオオーーーーン



可哀想な事に大破した練習用の車

何事にもあまり動じないのか、ガードレールにもたれて「まぁ」って言ってる綾瀬さん

腰を抜かした指導員のおじさん


そして

僕も小学生くらいまではよくテレビで見ていた、何処か悪そうな表情の懐かしいヒーローみたいなカッコをした長瀬さん

そんな長瀬さんに変に気に入られたらしい 僕




免許をとりにきただけなのに

なんだか大変な事になってきた気がする。


 
崖から落ちそうな車が大破したのを更に高い位置にある崖から双眼鏡で確認する男がいた。車に乗っていた人間は皆既に避難していて、ギャーギャーと騒いでいた。男はグスっと鼻をすすると、懐から穴のあいた写真を出して何度か確認する。

「おやおや、俺が手を下す前に死なれちゃあ困ると思ったが…近くにスタンド使いが二人もいたなんてな。しかし…このゲルトは『ギャーギャー騒ぐ小僧ども』が大嫌いなんだよォォ…。イライラしてきやがる。」

ゲルトの手がゆらりと動くと、彼の『スタンド』の拳が”ズドン!”と写真を突く。その拳が写真に映っている女性の首に命中すると、半径5mm程の小さな穴があいた。頭部にも同じような穴があった。きりもみ回転の弾丸が貫通したようなその穴をひとさし指と中指でギチギチいじりながら、ゲルトは再び観察を開始する。…不意に、4人の中でひときわ背の低い男と目が合った気がした。

「そんなはずはないな…こことあそこじゃあ50mは離れている。そうやすやすと見つかるはずが…」

『50m…なら僕の『エコーズ』の射程距離内だ。それにのぞき見するにはどうにも近すぎると思うよ。そんな距離なのに双眼鏡で僕たちの事をのぞいている…ひょっとしてあなたは目が悪いのかな?』

自分の後ろからの声。ゾクッとした。まさかと思っていた。背後をとられたのなんて数年ぶりだ。後ろを向くと、何かの幼虫のようなスタンドがこちらを向いていた。気のせいではなかった。これは『背の小さいヤツ』のスタンドだ。

エコーズだと名乗ったスタンドが喋っているのではない。脳の中に直接声が響いてくる。恐らくそういう能力をこの『エコーズ』は持っている、とゲルトは理解した。そして『自分の視力が低い』という事を言い当てた観察眼に感心させられる。相当場慣れしている人間だということだ。

『この声が聞こえてるってことは、あなたもスタンド使いなんでしょう?僕と『エコーズ』が離れすぎているからきっと闘っても僕は勝てないだろうけど、少し悪あがきはさせてもらうよ。』

そう言うと、エコーズはゲルトの顔のすぐ横を『ドヒュン!』と飛びぬけて『背の小さい男』の所へ戻って行った。

「(ドヒュン!)もう少し距離を取るべきなんだろうが…、(ドヒュン!)この双眼鏡ではこれ以上離れると良く見えなくなる。(ドヒュン!)視力が低いというのはこれが(ドヒュン!)なかなか厄介だ。(ドヒュン!)」

何かがおかしい。妙な音が聞こえる。先ほどエコーズが飛び去った時の音が、耳に反復する。音量はそれほどでもないものの、耳障りで集中力を削がれた。

「(ドヒュン!)チッ…これが『悪あがき』って訳か…どうにも難儀しそうだな…(ドヒュン!)(ドヒュン!)(ドヒュン!)」

ゲルトは、少し悔しそうにしたものの、変わらずに一定の距離を保って観察を続ける。あの2人のスタンド使いの能力を熟知しなければ、恐らく相当の苦労を強いられることになるだろうと思ったからだ。

それにどうやら『エコーズ』は、『探知』することはできないようだった。場所を移動して再び観察を始めると、『背の小さい男』はキョロキョロとあたりを見回し始めたからだ。

―――――――

『僕たちをのぞいていた男』を見失ってしまった…逃げたのか、移動しただけなのか…。

「長瀬さん、長瀬さん。どうやら、僕たち…いや『僕たちの中の誰か』がスタンド使いに狙われているようですよ。」

小声で長瀬さんにそう伝えると、彼は険しい表情であたりを見回していた。

指導員のおじさんが携帯電話で迎えを呼んだが、しばらくかかるらしい。この道はあまり交通量がなく、人通りもない。崖沿いだし、あまり安全な場所ともいいにくい。

(どうしてこんな所が教習コースに入っているんだろう?)なんて考えながらも、僕はあたりを見回しながら警戒することしかできなかった。

(スタンド使いから狙われるということは狙われているのはおそらく同じスタンド使いの長瀬さん……血の気も多そうだし…二人は狙われそうな感じでもないしな…まず間違いなさそうだな。よし、とりあえず綾瀬さんと指導員のおじさんを巻き込まないようにさりげなく非難させないと……)



警戒しながら辺りを見回している長瀬に康一は問いかけた。

「長瀬さん…誰かに恨まれるとか、誰か思い当たる人はいま「ゴラァア゙ア゙っ!!誰だゴラァア゙ア゙ッ!!出てこいやぁあっ!!」


「ヒィィィィィィ!!」

いきなりの大声に指導員は尻餅をつき腰を抜かし、一方の長瀬は康一の声など全く届いておらず怒鳴りちらしながらそこら中に睨みをきかしていた。



(……だ、台無しだ………)



「長瀬さん!!今は相手の事よりもとりあえず二人を少しでも安全な場所へ連れていきましょう!!」

(と、とにかく何故狙われてるのかは後にして今は一刻も早く二人を長瀬さんから離さないと……)


「つっても何処に連れてくんだよ!!相手をブッ叩いちまったほうが早いぜ!!」

長瀬は二人の事などお構い無しに既に臨戦体制に入っている。もう完全にヒーローの姿に変身が完了してしまっていた。



(だめだ、先に説得しないとこの人、今にも暴れまわりそうだ……)


「相手の能力が解らないのにむやみに戦わないほうがいい!!それに何人いるのかも解らない……今圧倒的に不利なのはこっちなんですよ!!」

「………チィッ!!……じゃあどうするつもりなんだよォッ!?」


康一の必死の説得に納得がいかない様子の長瀬は眉間にシワを寄せながら相変わらず辺りに睨みをきかせている。


「とにかく落ち着いてください!一般人の二人がわざわざスタンド使いから狙われる理由がない。おそらくは………狙われているのは長瀬さん、あなたの可能性が高いんです。今はとりあえず無関係な二人を避難させないと!巻き込むわけにはいかないでしょう!!」

「確かにいろんな奴に喧嘩をよく吹っ掛けられるがなぁ……二人を避難させるか、でもおっさんの方は腰抜かしちまってるがどうすんだ!?」


腰を抜かした指導員は目を白黒させながら口をパクパクさせている。綾瀬の方は路肩に咲いた花をしゃがみ込んで見つめている…相も変わらず落ち着いた様子…というよりも自分の世界が常に広がっているようだ……。



「う〜ん…………」

(どうする…とにかくエコーズで周辺を警戒しながら少しでも見通しのいいところに運ぶか……他に手はなさそうだしな……)


康一が考え込んでいると長瀬が先に口を開いた。


「…ん?待てよ…、要は俺が狙われてるってことはだな、俺がお前らから離れれば問題ないんだろ?違うか!?」

「…まあそうですが一人ではあまりにも危険すぎますよ、それに「追いつかれなければ問題ないっちゅう話だろ?任せとけって!!」


康一の話を途中で遮り長瀬は微かな笑みを浮かべると見る見るうちに再びヒーローの姿になっていく。


「まぁ、俺に任せとけ!!お前は迎えが来るのをここで待ってるんだな!じゃあな!!」


長瀬はそう言うと雄叫びをあげながら空高く跳びあがった!!!


「ちょっと待ってください!!…………!!」

康一が長瀬を止めようとしたその時!



ブ ル ル ロ ロ ゥ ゥ ォ ォ ォ ン … … … !!



どこからともなく爆音のエンジン音と共に一台のバイクが現れる!!


「さぁ!!俺について来いやぁぁぁ!!」

そう言いながら長瀬はそのままバイクにまたがる様に着地するとそのまま走り去って行ってしまった。


ブ ル ル ロ ロ ゥ ゥ ォ ォ ォ ン … … …


遠くの方で長瀬の雄叫びが聞こえた………。


(………バイクのスタンド…?……………行っちゃった………。)

康一は腰を抜かした指導員とマイペースな女性を見ながら茫然と立ち尽くした………。


(……え〜っと……………どうしよう……………)


“出てこいやぁあっ!!”

その叫びは、ゲルトにも聞こえていた。
双眼鏡を使うと視野が狭まる。しかし使わなければ状況が見えなくなる。『エコーズ』が探知できないのなら…!!

警戒する『背の小さい男』の視線を避け少し遠回りをしたが上手く中腹まで崖を降り、茂みに潜んで下を伺う。ここから、ターゲットのいる地点との高低差4〜5m。
距離は直線で約50m…数字的に結局違いは無いが、アクションを起こせるポジションに近づいている。


(ドヒュン!)ン?…(ドヒュン!)あの…よくわからん格好をした男の方が(ドヒュン!)狙われてると勘違いしているのか…(ドヒュン!)
奴は唇を読むまでもないな…



“アオォォーーン!!”
ブ ル ル ロ ロ ゥ ゥ ォ ォ ォ ン!!!

バイクが粉塵を巻き上げて走り去ったのが見えた。
何をせずとも邪魔者が減った。あの男のスタンドは纏うタイプ。戦闘力は高いだろう。
あの男が狙われているのは自分ではないと気付き、帰ってくるまで。
そして、さっき指導員が呼んでいた迎えの車が来るまで。

それがこの依頼を遣っ付けるリミットということだ。

武器も何もいらない。ただ拳で急所を狙うのみ。拳で急所を「直接」殴らなくてはならない。
車に乗られたりしたら厄介だ。益々距離が遠くなればまた近づく労力、デメリットが発生する。
殺しは速やかに確実に行わなくてはならない。それが美しい。



…(ドヒュン!)ギッ…
…(ドヒュン!)ギチ…

イラついてる。
しつこく鳴り続ける『エコーズ』の音にイラついている。
そのせいで最善のルートはどれなのかどうするべきか思考が纏まらず、写真に空いた穴を押し広げるようにイジり、紙質の所為でなかなか広がらない事にまたイラついている。

クソッ!

あの小僧!!!



意識が、背の低い男と写真にだけ向いていた。
気付かなかったのだ。
ふと、探した。いない。下を見た。


気付くべきだった。
単なる私怨。男女の関係の縺れ。
いかにも安月給。出世欲のなさそうなサラリーマン風の男の平凡な恨み。
それをはらすために振り込まれた金額は、1000万円。
何か妙だった。
俺は一流だ。一般市民に俺の名が耳に入ることはまずないだろう。
裏に精通していなければならない。
あの男が?
何か、妙だった。
あの日以来、仲介人と連絡を取っていない。
この頃同業の動きも、心なしか穏やかだった。
気付けるはずだった。
しかし、繰り返してきた殺戮と血の匂いが
俺の嗅覚を奪い、惰性を植えつけていたのだ−−−−


「こんにちわ」
崖の下。ターゲットが俺の方を見上げていた。
どうして気付かれた?あの小僧が俺の居場所を教えたか。
俺は写真と双眼鏡をコートのポケットにしまった。
「こんにちわ、お嬢さん」
ポケットに手を突っ込んだまま崖を飛び降りる。
ザッ
「まぁ すごい!あんなところから・・・。」
「大したことは、ないですよ。」
スマートではないが、この場で殺そう。
時間も無い。俺はターゲットの方に一歩踏み出す。
「あなた・・・殺し屋さんでしょう?」
すこし驚いた。自分が狙われていることも気付いていたのか。
しかし、もう気にすることも無い。既に少女は射程範囲内。
あとはスタンドで頬を撫でてやればいい。綺麗な穴が開くだろう。
「ああ。そうだ。」
ポケットの中の写真は既にビリビリに引き裂かれていた。

「よかった・・・『人違いじゃなくて』。」



−−−−−−−−−−



「じょ、承太郎さんですか!?い、いましたよ。この前承太郎さんの言ってた、『スタンド使いの殺し屋』!まさかこんなところで・・・オーマイガッ!って感じですが間違いないですッ!」
承太郎さんに言われていたスタンド使いの話。前に電話を受けたときは断っていたのだけど、まさか見つけてしまうなんて。長瀬さんもスタンド使い・・・間田さんの言葉を思い出す。僕らスタンド使いは、この因果から逃れられないんだ。
「・・・犯人の特徴を教えてくれないか。」
「ハイ!お、男です。長身で強面の・・・黒のロングコート!もういかにも殺し屋です!」
「・・・そうか・・・すまないが康一くん。それは『人違い』だ。」
「え?」
「スタンド使いの特徴、君はこの件から外れていたから伝えていなかったのだが・・・」

承太郎さんの話すスタンド使いの特徴。言葉が進むごとに体の震えが増していくいくのがわかった。そんな、まさか・・・。
とっさにあたりを見回す康一。
いない。

「エコーズact1ッッ!!!探せ!!『綾瀬さん』を!!」

−−−−−−−−−

頬を撫でられたのは俺の方だった。
抵抗することは出来なかった。両腕が完全に死んでいた。
コートの袖の中から、おびただしい血が流れている。

「カウンター・・・ハンター・・・」

蚊の鳴くような声だった。
「殺し屋」のみを狙う「殺し屋」。
気付くべきだった。
気付けたのだ。
気付くことが出来なかった。
いや、この女はそれさえも見通して・・・?




ゲルトはがくり、と膝を落とし、力なくターゲットを見上げる。
少女は一枚のハンカチを落とす。
ハンカチがゲルトの顔にかぶさった瞬間、はじける様に血がとびちった。


少女は返り血さえ浴びることは無く、綺麗な顔で少し微笑んだ。


「お疲れ様。『ゲルトさん』

・・・そして、初めまして。『エコーズさん』。」
「うっ!うわぁぁぁぁぁぁッ!
 Act3ッ!綾瀬さんを「重く」しろッ!」

うろたえながらもすかさず康一はエコーズを呼び出す!
すばやいエコーズの動きに対して綾瀬は、ゲルトに被せるように
かかっていたハンカチを取り上げ、まるでそのハンカチを
自慢するかのように自らの顔の前にかかげた。

"Yeah! Baby! C'mon! Act 3 Freeeeeeezeeee!"

幼児体型のスタンドのエコーズがその拳をハンカチもろとも
綾瀬を「重く」するはずだった!


ズンッ


「え・・・あ・・・う・・・?」


地面にめり込む程「重く」なるのは不思議少女の綾瀬のハズだった。
しかし、実際に強力な重力にひっぱられているのは
康一の方だった。

(こ・・・これは・・・)


「うふふ・・・。かわいいスタンド・・・
 でも・・・見られたからには・・・
 たんぽぽの綿毛のように・・・ふっと・・・

 飛 ん で も ら い た い わ 」

そう言いつつも綾瀬は攻撃も何もしかける様子はなく、
目の前を横切った、少し季節に早いモンシロチョウを目で追いかけていた。


(うぐ・・・この状態・・・確か・・・
 ジョルノ君と初めてあった時の・・・

 スタンド攻撃をそのまま・・・返す・・・?!)

すぐさまエコーズの能力を解除し、その場からなんとか立ち上がる康一。

(冗談じゃあないぞッ!今はギャングのボスになったジョルノ君とは
 メールで文通してるけど、あんな能力誰にもかなうわっきゃないッ!
 第一なんで僕はいっつも変なことに巻き込まれるんだッ!
 僕はただ免許をとって由加子さんをドライブに連れてってあげたいだけなのにッ!)


「うふふ・・・あはは・・・」


そよ風に揺られる草木が綾瀬の顔を撫で、それに対し無邪気な笑顔を見せる彼女に
康一はどこか不可思議なデジャヴを感じた。
そう、数年前に出会った『穏やかな心をもった殺人鬼』・・・。


(とっ、とりあえず逃げなきゃ!
 あのゲルトって呼ばれた人を倒すのに、目の前に現れて
 僕のAct3を跳ね返すほどのスタンドだ。
 きっと射程距離は短いハズだッ!
 とにかく距離をとって承太郎さんに連絡しなきゃ!)


「エコーズッ!Act2ッ!」

そう叫ぶと胎児でもありぬいぐるみのような一頭身のスタンドが現れ
尻尾の先の立法8角形のクリスタルのようなものをこね始め、
『ばいーん』と読める造形物を作り出した。
康一は、それができるや否や、自身のスタンドに、
近くの突出した岩にその完成したものを投げさせ、同時に自分の身体ごと
落下するようにそちらへ飛び込んだ。


ばい------------z_______________ん

「まぁ、楽しそう。」

綾瀬はニコニコと微笑むとばい-----------z_______________んと康一を彼方へ飛ばした岩に歩みを寄せ、それに触れた。

「あら、もうトランポリンはできませんの?私も少々、遊んでみたかったのですが・・・。エコーズさんを探し出してお相手していただかないと・・・。あの小さい方が敵意を私に向けているかぎりは、死んでいただかないといけませんし・・・。」


【綾瀬 /アズ・アイ・アム】
綾瀬に向けての敵意ある行動はすべて撥ね返される。
その際、綾瀬は相手と目を合わせる必要がある。





















グゥゥオォォー---ゥオン オン オ−------ン・・

風が気持ちいい 普段アポロで走ってる空の下を『ムーンサイクロン』でかっ飛ばす。
300kmの超高速マシンが真昼間から走れるなんてことは、そうそうない。

アオォォーーン!!

ムーンサイクロンのレーダーが強く反応する。

『近い、ちかいぜぇぇ!!!』

レーダーに映った、もうひとつのスタンド使いの影にむけ全速でせまる長瀬。

『あの小僧の方にもスタンド使いの影が映ってやがるが、そいつは任せるぜ。あいつは、強い・・・・だろう。』

数分後、長瀬は別荘地にいた。
季節柄、観光客で賑わう雰囲気。

「チャラチャラしやがって。こう、人が多くちゃ・・どいつがスタンド使いかわからねぇ。片っ端から蹴りたおしてくか!!」

その、ヒーローならとても吐かないであろう台詞を長瀬が漏らすとその体が剥き出しの鋼のボディスーツのようなものに包まれていく。ヒーロー見参っ!だっ!!

「ライダーだ・・ねぇ助けて!!」

突然、少女が目の前に現れた。
長瀬はスタンドを発現の際、物陰に隠れて。人の目が無いことを確認した。
そこに少女はいなかった。
確かに、いなかった!!
「てめぇ、どこにいやがった!!???」

「ねぇ、ライダーのお兄ちゃん。私、パパの代わりに康一君を助けないといけないの。留守番電話にね承太郎さんから『ジジイ!!てめぇの近くで康一君が危機に曝されてる!!余裕はねぇ。これを聞いたら、すぐだっ!!すぐ助けに向かってくれ!!』って伝言があったんだけど、パパは朝からおでかけで・・いつ戻るか解らないから私がいかなくちゃ!!」

幼い少女は希望に満ち溢れた瞳で長瀬を見る・・・。

【静・ジョースター /アクトン・ベイビー…原作四部】
自分と自分の周りの物を透明にすることができる。
ジョウタロウ?

パパ?

突然ワケのわからないことをヌかしやがるが…

状況から見てもこのチビガキこそがオレを狙うスタンド使いに間違いないッ…!



静に突っ込み殴りかかるナガセ!

「アオォォォォォォオオンッ!!」

ボガァッ!




確かにクリーンヒットの手応えがあった…が、

「き… 消えやがった!?」


パンチがヒットする数瞬前、スゥゥっと透明になって消えてゆくのを確かに見たのだった。

それでもいちかばちかで殴りぬけてみたら問題なくヒットしたのだ。



今、ガキの姿は見えない…

おそらく「透明になる」のが能力か…


だとしたら…


「 問 題 は ね ー な 」





ピコーン ピコーン ピコーン

ムーンサイクロンのレーダー!!



わかる…わかるぞ… 貴様の位置が…

こんな近くにいやがった…

そこの電柱の裏だなッ!


ナガセはレーダーの示す位置に襲いかかるッ!



ゴッ!

「!?」

足元に衝撃!
ナガセは派手につんのめってすっころんだ!


ゴガァンッ!


すっころんだ先で見えない何かに思いっきり突っ込み頭をぶっつける!


「ぐぅッ……!?」


スゥゥ…

姿を現す幼女…

「私はなんにもしてない。
 ただ、透明にしただけだよ。

 そこの自転車も、ポストも…」


ナガセがつまづいて転ばされたのは倒れた透明な自転車、
そして頭から突っ込んだのは透明にされたポストだったのだ…


ヤバい…
オレが起き上がるよりコイツがトドメをさしにくる方が早いッ!




「私は敵じゃないよ!!
 それより危険なヤツがいるんだってば…」


「……敵じゃ…ないだと?」

ナガセは立ち上がる。


「広瀬康一くんを助けないといけないの!
 お兄ちゃんも助けて!!」


広瀬…?
聞いたことある気がするが…

そうだ!
さっきの小僧か!


するとさっきのレーダーの反応…

危険なヤツ……






「オレのバイクの後ろに乗れや。

 どうやら誤解でぶん殴っちまったからな…
 詫びは行動で示すッ!」





二人を乗せたバイクは来た道を引き返す…



緑萌え繁る山中を逃げ惑う康一と、それを猟師の様に追い詰めていく綾瀬。

いや言葉として、それは適当ではない。

康一はただただ逃げ惑っているわけではないし、
綾瀬も猟師というよりも、天性の感覚で逃亡者の跡を尾行ている。


視界を遮る木々が周りを取り囲む山中で、二人は互いの思考を読みあって動く。


日暮れと共に淡い橙の光が、緑の葉々を照らし出していた……。





「オジサン遅い!もっと速度出ないのッ?」

静の声が長瀬の背後から聞こえる。
風を切る音で気持ち小さな声に聞こえたが、実際は全力の大声だろう。

「時速300オーバーしてまだ遅いってかッ!!
ってか、黙ってろ舌噛むぞ!!!!」

「別に平気だよ、これくらい!
仗助君よりは圧倒的に速いけど、承太郎さんと比べたら操縦が甘いね!」


ぴくん、と、長瀬の心の琴線に触れる一言。

「時速300km越えるマシンが、ムーンサイクロン以外にあるとは思わなかったなッ!
それを運転できるライダーもな!」

「SPW財団の科学力は世界イチィー!だもん!
あ、次のコーナーはガードレール飛び越えてショートカットしよっ!」


静が言ったのは、あと十数秒以下で到達する、遥か眼前向こうの急コーナー。
そのコーナーの外周を取り囲むガードレールの向こう側は、ごく普通の崖。
然程高低の落差はないが、事故が起これば、まず普通の車両は助からない程度の断崖だ。

それを、『飛ぶ』。

その一言に、尚更長瀬は気分が爽快になった。


「は、すげえなお嬢ちゃん。
小さいなりのくせに、度胸座ってんだな!」

「小さいは余計!で、出来るよね?」

拒否を赦さない問答。
無論、拒否する理由もない。


「しっかり捕まってろッ!」

「ライダーのお兄ちゃんも、失敗しないでねっ!」


静が長瀬の身体にしがみつく。


直線を空気を切り裂くように、なお加速するムーンサイクロン。

秒単位で視界が動くその視界はまるで超高速再生のフィルム映像。

ガードレール手前のごく小さな段差を基点にして、重心をずらす。

あとは勢いを前方斜め上に突き進めれば、飛べるッ!着地も、オフロードの要領でなんとかなるッ!

3、2、1、


「とべえええエエエッ――――!!!!」





夕日を背に、大跳躍。



(……よし、やっと辿り着いたぞ)
康一は、四方八方が木々で囲まれた山小屋のある地点までやってきていた。
綾瀬の姿はまだ見えない。 この鬱蒼と木々が生い茂った山の中であの格好では、そうそう早くは移動できないだろう。
それに綾瀬のあのマイペースぶりを観る限り、迅速に行動して対象を始末するという事はないはずだ、と康一は踏んでいた。

視界を遮る葉陰から周囲の様子を窺う。
ただでさえ身長の低い康一は、きっと綾瀬にも知覚は困難であるはずだ。 にも拘らず追跡を続けてこられるのは、彼女に生まれついての追跡者としての才能があるからなのだろう。
綾瀬は康一が草を掻き分け、葉を振り払ってやってきた道を正確に辿りながらゆっくりと迫りつつあった。

(ッ! 来たッ!!)
綾瀬を視界に捉える。
この緑色だらけの空間に、真っ白なワンピースはあまりにも目立ちすぎる。
彼女が康一の元へやってくるのには、まだ多少の時間がある。
その間に、やらなければいけない事があった。
「山小屋の中を調べる時間の余裕があってよかった……そして『これ』が置いてあって良かった」
康一は山小屋に合った物を利用し、綾瀬を迎え撃つ為の作業を始める。
そして ――
「エコーズ『ACT2』ッ!!」


**********


キョロキョロと、康一が居たであろう地点を見回す。
康一の姿は見当たらない。 しかしそこには割とこまめに手入れされているのだろう山小屋と、蜘蛛の巣のように張り巡らされた『ロープ』だけがあった。
「これは……罠、なのかしら?」
康一の苦肉の策とも取れるそれを見て、綾瀬はクスッと微笑む。
「罠だとしたら、どんな罠なのか気になりますわね……」
そして何の迷いもなしに、この空間の中心に位置する場所に設置された『蜘蛛の巣の中心』に触れる。

次の瞬間。

ビビビィィィィィィィィィィィィンッ!!

ロープに貼り付けてあった文字が発動し、綾瀬の身体を振動させる!
「キャッ!?」
綾瀬はロープに触れたまま。 振動の波はロープを伝い、そしてその先、ロープを巻きつけられた木々の幹へと届く。
まだ震えている綾瀬は、ぶれる視線を木の幹へと移す。
そこには、爆発を思わせる文字が貼り付けてあった。
「あらあら、まぁまぁ……」
綾瀬が呟くと同時に、木の幹に貼り付けてあった文字が爆発して。
正に綾瀬の居る位置に向かって、周囲を取り囲んでいた木々が倒れこんだ!!


**********


「よし、巧くいった!! ……でも、まだ油断は出来ないぞ」
康一は山小屋の中から外の様子を見ていた。
白いワンピースで身を包んだ少女の姿は、もうもうと上がる土煙のせいで視認出来ない。
流石にブルブルと振動している状態から木々を回避するのは困難だと思われる。 だがそれでも、綾瀬には通用していない気がしないでもない。
とにかく、康一はもう少しだけ山小屋の中に身を潜めておくことにした。


**********


私の名は『山田』。
自動車教習所で勤務する、しがない指導員だ。
全く、今日はツイてない。
指導員になってから、早35年。 指導員生活始まって以来の、とんでもない事だらけな路上練習になってしまった。
いきなり聴こえてきたクラクションから始まり、大柄でゾクっぽい若造が暴れたかと思いきや崖から落ちそうになるし、その若造が突然特撮ヒーローの姿になって車を滅茶苦茶にするし……

そして気付いたら背のやたら低くて礼儀正しい子(指導員のおじさん、なんて呼ばれたのはショックだったが)と、自動車教習なんかとは無縁な感じのするお嬢様然とした少女の姿が消えていて。
更にパニックになる私の前に今度は……今度はさっきのヒーローの姿になった若造がおよそ50mはあるだろう対岸のガードレールをバイクで突き破り、夕陽をバックにこちらに向かってくるではないか!!
間違いなく、特撮番組ならばここで番組のタイトルがテレビ画面にでかでかと表示されているだろう。

もはや唖然とするしかない私の眼前に見事着地したヒーローは後部にまだ幼い少女を乗せたまま、バイクを疾走させて山の中へと消えていった。

「……明日が定年で良かった……」
私は、心の底から安堵した。

ギュギギギ!!!!

時速300km出していたバイクが急停止する。
かなりの圧力で静は思いっきり振り落とされそうになったのだが、そんなことより
「ちょっと!何で止まってるのっ!?」
と詰め寄るあたりは流石、と言おうか。

長瀬は(静からは見えないが)困惑した表情でレーダーとどこか遠くを見比べている。
「あぁ??こっち…か」

レーダーの示す方向は木々が生い茂り道とは決して言えない無い。獣道ですら無い。
このまま道路を使い回り道をするか…それとも…
少しの間長瀬がだんまりしていると、考えている時間も惜しいのか

「決まってるじゃない」

と間髪入れず、静がジャケットの裾を引っ張る。


「腹くくれぇぇぇぇーーー!!」
「いっけーー!!」


ブオォン!!
ズザアザザザザザザーーーッッ!!


低い草木をなぎ倒しながらムーンサイクロンを突き進めていった。








(……ダメージが…僕に返って来ない!!)

綾瀬にロープ攻撃を仕掛けた後、康一は肩透かしを喰らっていた。
ダメージを受ける覚悟と構えを取っていたのに、何も起こらないからだ。
先ほどのAct3による綾瀬への攻撃はそっくりそのまま自分へ返ってきた。
それを危惧して直接の攻撃は木々に任せたのに、その誘導となったロープからの振動と爆発による衝撃は…?

(…もしかして、攻撃を返すには「条件」があるのかな…)


康一は小屋から様子を伺う。
綾瀬はまだ木と木の間から抜け出せてはいないようだ。

(少し、試してみよう…)




こっそり小屋を抜け出し、エコーズをそろりそろりと近づけていた時だった。







…グォオォォグオォォォォーーーン

「オラァーー!!!」


ドカァーーーン!!!!



「な!長瀬さん!!???と静ちゃん??」

ド派手に倒れこんだ木々を吹っ飛ばして、ムーンサイクロン見参ッ!




(…折角綾瀬さんを閉じ込められてたのに…さ…作戦もあったのに…)



「間違いねぇ!敵はここにいるッ!オラアァーッ出てこいやぁー!!」

ムーンサイクロンから飛び降り、長瀬は背を反らしあらん限りの声で叫ぶ。その背中に張り付いている静を見た康一は、それまで警戒してソロリソロリと歩いていたのをやめ、

(綾瀬さんに反撃を喰らうかもしれない…もしそれが静ちゃんに当たったら…)

という恐怖を打ち払うように駆け寄った。

「静ちゃん!」

「広瀬くん!良かった、無事なのね!」

「だから『くん』じゃあなくって『さん』でしょ…ってそんなことを言ってるヒマはないんだッ!
 どうして静ちゃんがここにいるの?とにかくマズイ!綾瀬さんっていう『スタンド使いの殺し屋』が僕を狙ってくるんだ!長瀬さんも早く逃げてッ!」

「なに!?あの嬢ちゃんが!!?」

長瀬が吹っ飛ばした木々を注視しながら康一は必死に訴える。
ジョセフの養子である静を危険なメに遭わせるワケにはいかない。猛スピードで突っ込んできた二人は、おそらく綾瀬にはしっかりと認識できなかっただろう。
そう考えてこその訴えだったが、

「嫌だね」「イヤよ」

二人の答えはキッパリと『NO』だった。

「どんなヤツが相手だろうが俺がブッ飛ばしてやる!テメェこそ逃げた方がいいんじゃねえのか!?」
「私は承太郎さんから(本当はパパにだけど)広瀬くんを助けて、って頼まれたんだもん!逃げたりなんかしないわッ!」

育った環境のせいなのか、長瀬はもとより静も気が強い。
康一は人生相談所に駆け込みたい気分でいっぱいだった。
が、気の強さでは負けはしないキツイ性格の彼女を反射的に思い浮かべてかぶりを振った。

(今はそんなことを考えてる場合じゃないッ!)

「とにかく、ここから離れて!早くしないと…」


ズバババババッ


「あらあら、お友達をお呼びになられましたの?」

先程までそこにあった木々を粉微塵に切り裂いて綾瀬が姿を現した。
その背後には腕が剣のような鋭利な刃物になっているスタンド…目にあたる部分は鏡のようになっていて、風景を映し出している。

「気を付けて!あの腕で男の殺し屋を返り討ちにしたんだッ!それに能力もまだよくわかってな…
「アォォォンッ!」

康一の注意を聞かず、長瀬は綾瀬に飛びかかる!

「うぐぅッ!?」

だが、その体は飛びかかった姿勢のまま地面に垂直に叩きつけられた。

「ACT3…」
「ちょっと!広瀬くん、お兄ちゃんに何するの!!?」

『3FREEZE』によって地面に叩きつけられた格好になった長瀬と康一を交互に見て、静は噛みつかんばかりの勢いで康一を怒鳴りつけた。
だが、康一は綾瀬の一挙手一投足に注意を払いながら過去を思い出していた。

(あの殺人鬼と…『靴のムカデ屋』で戦った時の承太郎さんはこんな気分だったのかな…チョッピリ成長したくらいで調子に乗ってた僕を見ていた承太郎さんは…)

「テメェッ!何しやが…」

「長瀬さん…生き残りたいのなら、『注意深く観察して行動しろ』ってのを肝に銘じてください…」

『3FREEZE』を解除し、長瀬を助け起こしながら康一は続ける。

「いいですか?『観察しろ』ってのは見るんじゃあなくて観ることです…そして、聞くんじゃあなくて聴くことなんだ…
 そうしないと長瀬さん、あなたは死ぬことにかる…静ちゃん、君もだ…
 そうでなくても、とんでもない後悔をすることになる…」

苦い顔で言を落とした康一に、長瀬と静は押し黙った。
そのたった一瞬の静寂をぱきっ、という音が破る。

小枝を折り、音を立てることを意に介さず。
鞄から日傘を取り出し、木々の合間を縫って差し込む西日を避けて綾瀬は悠然と、そしてたおやかに微笑んだ。

「では、どなたから散らせて差し上げましょう?」
「へッ!!散らすだァァ!?ぬかすじゃあねぇかよ…やってやんぜッッ!!」

激を飛ばす長瀬をコーイチが言い止どめる。

「ちょっと長瀬さん!!僕の話聞いてましたッ!?もっと慎重に…」

「…俺に考えがある。
二人とも耳貸せ…

【ボソボソボソボソボソ】
…頼むぜ。」



康一は考えた。

「長瀬さんは、ツッパてて、喧嘩ッ早く見えるけど…実はスゴく頭の回転が早いんじゃあないか!?
僕たちの能力をもう既に『理解』しているんだッッ!!
そのうえで……」

「…わかった。
でも、二人ともくれぐれも無茶はしないで!!」

二人は無言でOKサインを出した。


目の前で日傘をさしながら静かに笑みを浮かべる綾瀬。

確かにあの殺人鬼を彷彿とさせるこの空気。

怖くないわけじゃあない…でも、

勝って必ず帰るんだ。



「ッしゃあ!!ハラくくるぜェェッッ!!

アォオォォォォンッッ!!」

そうして、

長瀬の雄叫びが森の中に響いた。
全員が動き出す。
まず最初に綾瀬に接近するのは、超高速でバイク突撃する長瀬ッ!


(しっかりやってくれ、二人ともッ!
一瞬だけ、まずはアイツの気をコチラにそらすッ!)


ここからは綾瀬に真意を悟られない為にも、それぞれが言葉を使って意思を伝えることは最早出来ない。

だが、康一はエコーズを使って、二人だけに綾瀬の『反射』に関して己の推測も交えて説明を送る。

(綾瀬さんのスタンド能力は反射です)

推測が外れている可能性は否定できない。
しかし先程の倒木攻撃から、その大体の条件は理解した。

(反射の条件は、『認識』。
つまり、攻撃がどこからくるか、攻撃者がどこにいるか、それが分かっていない限りは反射は出来ないはずですッ!)


それを聞いた長瀬は、瞬間に理解し、思考する。
長瀬の思考速度は尋常じゃなくブッ飛んでいる。
でなければ300キロオーバーのマシンを、軽く運転できるものか。

康一のスタンドは音と重力。
静のスタンドは透明化。

康一のスタンド能力は既に綾瀬に露見している。
しかし、静のスタンドは綾瀬には知られていない!

まず長瀬が取った行動は、静がスタンドを使うところを綾瀬に見せぬよう、こちらに注目させることッ!


猛然と迫るムーンサイクロンと、それに跨る長瀬に焦ることなく、綾瀬はハンカチを右手に、日傘を左手に悠然と立っている。


「まず一人」


秒を待つまでもなくバイクと綾瀬の衝突は避けられない。
ただし、綾瀬は笑う。

敵意をもって私にぶつかれば最後、そのダメージは『全て相手に撥ね返す』。

それが出来るのが彼女のスタンド、『アズ・アイ・アム』!!


「そいつはどうかな?」

無論長瀬もその事実を無視しているわけではない。
超高速のバイクで衝突すれば、内臓はミートパイの如く拉げ潰れるのは必死。
反射されればそうなるのは自分自身。
そして普通ならば、そのようなマシンでありえざる程の速度を出せば、急ブレーキでも勢いは殺せない。


だが、その不可能を実現してこその『ムーンライダー』……!!


それは的確な機体制御と、運転技術が成せるワザ!

衝突すれすれのチキンレースよろしく、ぶつかる寸前に前輪ブレーキングと重心移動、ハンドル切り返し!

それらのテクニックによってムーンサイクロンが突如、綾瀬の視界から瞬間に消え失せるッ!

だが、刹那の瞬間を綾瀬の眼は見逃さない。
綾瀬の前方僅か数十センチを中心に、ムーンサイクロンが前輪を軸にして、背後にアクシデントスピンにも似たターンで回ったことを、綾瀬は見逃さないッ!

背後を振り向く。当然だっ!
でなくては一切の攻撃を撥ね返すことが出来ないッ!

背後からの攻撃はッ、アズ・アイ・アムの能力射程外だッ!!!!



「やはり、反射出来ない攻撃は反射できないらしいな」


長瀬が笑う。
目は口ほどに物を言う。
彼も今ようやく確信を得た。
そして、こちらの目的も達成した。

「余所見してていいのかい?」

綾瀬がまた、ちらりと元の方向を振り返る。
そこには無論、康一と静の姿はない。

あの一瞬で。
今度は二人を同時に見失う。


「狙われろよ、お嬢様」

長瀬が思い付く皮肉を込めて、言葉を吐く。
それは、どこか昔に見たヒーローのように。

「テメェのことは知ったこっちゃないがな……ナンカ気に入らねえ。
ブチのめさせてもらうぜ、徹底的にな」

もとい、どこか昔に見た悪役のようだった。

「テメェのことは知ったこっちゃないがな……ナンカ気に入らねえ。
ブチのめさせてもらうぜ、徹底的にな」

長瀬の方に向き直る綾瀬。それさえも、今の綾瀬には精一杯だった。

「S・H・I・T .『3・FREEZE』射程距離内デス。奴ハモウ身動キハ取レマセン・・・。ゴキブリノヨウニハイズルコトサエモ。」
ジジジ とノイズ音を立てながら、綾瀬の背後にある空間からその姿を現した康一。
その足はちょうど5m・・・エコーズの射程範囲に踏み込んだところだった。脇には、眠る静を抱えている。
「良くコントロールしたね・・・。でも大丈夫、もう、アクトン・ベイビーは『必要ない』」
ガクリと膝をつく綾瀬。康一が近づいてくるにつれ、その重力は力を増し、綾瀬にのしかかる。
見下す長瀬。
「さあ、どうするよお嬢様?俺のほうを向いてたら重力で身動きが取れずに、俺の鉄拳制裁・・・。
 おっと!あのガキのほうを向いても、能力発動する前に俺の鉄拳制裁だ・・・。

『チェックメイト』だ。さて・・・トドメをささせてもらうぜ」
拳を振り上げる長瀬。
「だめだ!長瀬さん!殺しちゃあいけない!もうすぐ仲間がくるからそれまで!!」
それを聞いた長瀬は、イラッとした表情で康一を睨む。
「うるせえ!そんなもん関係ね・・・・あ・・・?」
視線を戻したその先。
ドクン、と心臓が高鳴る。


「気にい・・・らない・・・?フフ・・・」
綾瀬は立ち上がっていた。


「ソンナ・・・奴トノ距離ハ2m・・・キイテイナイナンテ・・・ソンナハズ・・・」
慌てふためくact3

きいてねえ?違ぇ・・。
バキッ!!
骨の折れる音。アチコチの血管、筋肉が断裂し、内出血を起こしている。
ブチブチブチ!!!
痙攣を起こしているように揺れる体。重力と精神の闘いに耐え切れず、身体が崩れ始めている。
すでに腕は折れ、マリオネットのように動かない。
バキ!ボギャァ!
それでも綾瀬はジリジリと長瀬に近づく。踏み出すごとに身体のどこかを壊している。
綾瀬の目から、血の涙が流れ出す。
「長瀬さん!!逃げて!!」
しかしナガセの足はもはや動くことは出来なかった。大量の汗が噴出す。
綾瀬にのしかかる重力よりも重く
恐怖が、長瀬を包み込んでいた。

長瀬の目の前に辿り着く綾瀬
赤一色になった目が、長瀬を覗き込む。
同時に現れるアズ・アイ・アム。
微笑む、綾瀬


「わたくしもですわ。」


---


綾瀬。
富豪の娘で、幸福な生活を送っていたが、
ある朝目を覚ますと一家は惨殺されていた。
金品を盗まれていたため、財産狙いの強盗であることは明らかであったが、
問題があった。
45口怪で打ち抜かれたような大型の穴が頭にあきながら、
肉のはじけた後は無し。銃弾も無し。
不可解な死に、警察当局も捜査を断念せざるおえなかった。
この頃から綾瀬は姿をくらます。
多額の遺産をエサに、彼女は多くの殺し屋に自らを狙わせ、返討ちにしていった。
そして、とうとう手がかりに辿り着く。
「穴を空ける能力者」・・・。

承太郎との電話を終えると、康一は携帯を閉じた。
ここで待っていれば、いずれSPW財団の人たちがきてくれるらしい。

「復讐・・・か」
康一は目の前に横たわる綾瀬の無残な死体を見てつぶやく。
彼女の孤独と、力が、きっとそれ以外の道を与えなかったのだろう・・・。
「チッ」
軽く舌打ちをすると、長瀬はバイクにまたがる。
「あ、長瀬さん!待ってくださ・・・」
「じゃあな、康一。もう会うことは・・・
 
 多分ねえよ。」



風を切るムーンサイクロン。
長瀬は思う。

アイツが気に入らなかった理由がわかった。
アイツは、俺だ。
俺のなろうとしているもの。
復讐を終えた、復讐鬼。
「完成系」だ。
嫉妬していたんだ。
仲間を懐かしんで、教習所にきちまった俺。
康一を、ガキを、仲間だと思っちまった俺。
俺はまだ、まだ「人間」なんだ。
「不完全」な「復讐鬼」。
「完全」なアイツはさぞかし俺にイラついただろう。
自分と同じ匂いを放ちながら、あまりにも未熟な俺に。
まだ「人間」だった頃の自分を見て・・・。

俺は・・・

そうだな・・・

「俺はもう戻れねえ。」

そうだよな。お嬢様。



−−



静かに電話を閉じ、椅子に腰掛ける承太郎。
その手には数枚の資料。
「アヤセ」と書かれた一枚をめくる。


再び電話を開く承太郎。
「もしもし・・・赤倉か・・・」

めくった先にあった二枚目の資料。
そこには

「ナガセ」

と書いてあった。


【OSBss 第六話 狙われたお嬢様】〜END

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