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オリバトコミュ【第四部】コミュの第二十話 『本当の嘘、偽物の嘘』

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コメント(22)

今より500年以上昔、中世終期のフィンランドに一人の男がいた。
彼の名はトニー。

当時のフィンランドは、近隣諸国からの圧政に苦しんでいた。
16世紀初頭のスウェーデンの独立に伴い、属国となることで他国からの圧力からある程度逃れることに成功したが、18世紀にナショナリズムが対等するまでは国内には鬱屈としたムードが漂っていた。
そんな時代に、トニーは生きた。
彼の職業は船乗りで、一年の多くを海上で過ごした。
だがいつしか、そんな自由の無い生活に嫌気が差していた。
トニーには家族がおらず、彼の帰りを国で待つ者はいない。

一生懸命働いて働いて、唯一の楽しみといえば酒くらいだ。
船乗りが仲間内で馬鹿みたいにギャンブルに熱中しているが、トニーはそんなものにも飽き飽きしていた。
胸の中に居座り続ける、虚無感。

――自分は何のために生きているんだろう?もっと楽しくおかしく笑って暮らしたい。もっとハッピーに自由に生きたい。

そんなことを考えながらいつも水平線を見つめていた。

そして、トニーの乗る船がスウェーデンに寄港したある晩。

彼と同じような思いを抱いていた数人の仲間と共に、小型の船をかっぱらって海に出た。
この海の向こうに、水平線のかなたに、必ず自分が楽しく暮らせる新天地があると信じて。




どれくらいの日数が経っただろうか。

彼らは新天地を未だ見ていない。いや、正確には『彼ら』ではなく『彼』になってしまった。
今や生き残っているのはトニーだけなのだから。
しかし彼の命ももはや風前の灯である。今彼を支えているのは、食料が尽きて仲間の肉を喰らってまでも生き延びようとしたその精神力のみ。

甲板でしゃがみこみながら、その眼は遥か彼方の水平線を見ていた。


――俺はここで終わるのか、新天地なんてものを求めて飛び出したあげく、海の真ん中で人知れず死んでいくのか。俺は間違っていたか。いいや違うさ俺は間違ってなんかいない、楽しくハッピーに暮らしたい、そう願うことの何が悪いってんだ。神様は俺を見捨てちまったのか。
嫌だまだ死にたくない、死にたくない、面白おかしく自由に生きたいんだ。

波に揺られながら、トニーの意識は薄らいでいった。


次に眼を開けたのは、やはり船の上であった。しかし自分の船ではない。
大勢の人の声が聞こえる。
ふと横を見ると簡単な食事――パンとスープが置かれていた。
強烈な空腹感が一切の思考を排除し、食物を腹に流し込むことを優先させた。
ものすごい勢いで胃を満たしてからやっと感じたのは、まだ生きているという現実。

トニーは幸運にも、通りかかったポルトガル船に助けられたのだった。

――なんてラッキーなんだ俺は、最高についているじゃないか。ああ神は俺を見捨ててなかった!


一旦ポルトガルで下ろされたが、言葉は通じず、どうすれば良いか見当もつかない。
貿易船に乗ってフィンランドまで戻るか?いや、それでは意味が無い。これは自らに与えられたチャンスなのだ。

だが結局のところ、働かなければ暮らしていけないし、船乗りであるトニーができることといえば、船に乗ることしかなかった。


そして再び、トニーは船に乗って海に出た。
しかし、ポルトガル船の中でほとんど言葉の通じない彼はもっぱら雑務を押し付けられた。
元々フィンランド船の中ではそれなりの立場ではあったが、ここでは下っ端の下っ端だ。
次第に、異質な存在への『いじめ』も始まる。


船の中での生活はトニーにとって辛く苦しいものだった。だが彼は信じていた。
自分自身の幸運を。必ず道は開ける。明るく愉快でハッピーな生活が自分を待っているはずだ、と。

だが彼に再び幸運が訪れることはなかった。

甲板の掃除中に彼は、飛び出ていた一本の釘で右手を切ってしまった。
過酷な労働と栄養不足で弱っていた彼の体は、そこから入った雑菌に蝕まれていった。

高熱に襲われ、動くこともままならず、充分な看護も受けられず――

傷口が腐りはじめ、やがて腕全体が腐っていった。
こうなると誰も近寄ろうとしない。船の隅に追いやられた。

そしてポルトガル船が『日本』という国に到着した(史実では1543年に初めて到来したことになっているが実際はもっと早くに辿り着いていた)その日、

トニーは死んだ。


本当ならばもっと早くに死んでいたのだろうが、ここまで彼の命を持たせたのは、やはりその精神力であった。


そしてその精神力は、彼の死と引き換えに スタンド を発現させた。


その名は『アークティカ』


アークティカは初め船員に取り憑き、次に『日本人』に取り憑いた。
トニーの分身であるアークティカは、ただ『楽しくてハッピーな自由』だけを求め、
やがて辿り着いたのが現在の『織鳩町』である。


そして今、アークティカは姿を変え、
『スモーキン・ビリー』となり、未だ自由を求めていた。
アークティカはいなくなった。

それは確実なこと。

なぜなら、私自身が彼の最期をこの眼で見届けたのだから。

もう、ストーカーよりも下衆なあの存在に生活を侵害されることもなくなった。この際だから、馬鹿の演技もやめてみようかしら。

………。

なのに…なのに…。
不安が消えない。
何故?
どうして?
何か、大切なことを見落としている気がする。

解らない…。

でも…何かがひっかかるわ。
何かが……。






一芙美ソナタ。
新房聞多。
能田嶋栄政。
蓮麗。

4人は織鳩クリニックいた。
あの戦いの後、緊張の糸が切れ、気を失った新房と、肩に怪我を負った栄政が、病室のベッドに収まっていた。

「…んッ、う〜〜ん…」

新房聞多が目を覚ました。

「えと、確か僕は…そ、それよりも、此所は何処だ…?

え………。

ッッ!!?」

ズキュゥゥゥゥゥゥンッ!!

一瞬思考が停止した直後、彼に電撃が走った。

(すやすや…)

「い、い、一芙美さんッッ!?」

彼のベッドにもたれかかるように、彼女、一芙美ソナタがなんとも無防備な寝顔を晒し、小さく寝息をたてていた。

「僥倖ッ!?
なんという僥倖ッ!?
僕の目の前でッ!!
憧れの一芙美さんがッ!!
すやすやと眠っているなんてッッ!?

ぼ、僕ァなんて幸せなんだッッ!!

ムーンライダーチップスのシークレット・カードなんて、『今、この時』に比べたら、
なんと矮小な事かッ!?
あゥゥ〜〜!!いるのか解らないけど神様ありがとうゥゥ!!」


新房は、この刻まれし時を、一瞬一瞬の空気を噛み締めていた。

…が、そうは問屋が卸さない。

「能田嶋さーん!
新房さーん!
検温の時間ですよ〜!」

きゃらきゃらと、器材を積んだワゴンの音と、看護師の声が病室に響き渡った。
「あら、もう起きてたんですね、新房さん。今から検温ですから。」

そう言って看護士はカートを運び入れ、その中から必要なものを取り出そうとしている。
この看護士もまた、なかなかの美人なのだが、ボブの目には映らなかった。

(だあぁぁぁ畜生! なんでこんな時に検温なんて・・・。
 よし、こうなったら!)


そう言ってボブは己のスタンドを発現させ、その仮面を被る。

「よーく聞け! おr」

ボスッと言う音と共に柔らかい何かが新房の頭に当たる。思わず手に取ったそれは枕だった。

「・・・面倒なことしないで下さいよ。」

苦痛に顔を歪ませる能田嶋が、そこにいた。痛めてない方の腕で投げたのだが、やはり大量の出血による全身への影響が大きいのか、
とてつもない激痛が走る。一瞬にして汗が吹き出るぐらいだ。

「能田嶋さん、無理しないで下さい!やっと身体が動かせるようになったばっかりなのに!」

「ああ、もう何日目なんだろう・・・。クビになったりしないよな・・・。」

そう考えると、看護士の声に反応する気にもなれない。能田嶋はそう思っていた。

「能田嶋さん、僕は」

その時、ボブの視界にスッと検温計が差し出される。

「わわッ!」

「じゃ、検温お願いしますねー。」

そう言って看護士は微笑んだ。

「は、はい。」

ビクッとして思わず受け取ったボブは「この看護士も結構美人だな」と今更に気付いた。



少し落ち着いた。ソナタさんは相変わらず眠っている。ま、また見たら落ち着けないから視線は向けないでおこう。


あれから数日が経った。
麗は個人部屋を希望して、そこで休んでいる。「また暴れだしたらたまらない。」だそうだ。
ソナタさんは足の怪我だけだったので、すぐに退院できた。今は俺達のお見舞い・・・かな?


入院してすぐ、ソナタさんに説明をしてもらった。あの時、俺のこの仮面―スタンドと言うらしい―から聞こえた声は、
彼女のスタンドであったアークティカのものだろう、と言うこと。
そして、能田嶋って人のスタンドがソナタさんを襲ったのもアークティカの仕業らしい、と言うこと。
そのアークティカは今、麗のスタンドによって消滅した。
それから、あの仮面から声がすることは無くなった。
それよりも驚くべきことは、ソナタさんは、実は頭が良かったんだ。
あの時俺に叫んでいた時、今思えばだけど、いつものソナタさんではなかった。
普段は隠していたらしい。あのスタンド・・・アークティカに隠すために。

アークティカはもういなくなったけど、まだこの事は他の人には内緒らしい。あのサクヤ君にも黙っててくれってさ。
そういえば今日は来ていないな。

俺たちだけの内緒。
俺とソナタさんだけの。

・・・

憧れのソナタさんが今、目の前に寝ている。

辛 抱 出 来 る わ け が 無 い !
 
「ソ、ソナタさ「ジャック!」

ドガッ

「ああ、トイレ行かなきゃ。」

ボブはふらっと立ち上がるとそのまま病室を出て行った。

「まったく・・・。」

スタンドを発現するにも物凄い激痛が走る。身体を起こすだけでもこんなに苦しいなんて。
能田嶋は枕のないベッドに横たわった。・・・それにしても、最初彼に出会ったときとまったく同じ事をしているような気がするのは、気のせいではないはずだ。
その時、もたれるものが無くなったソナタが目を覚ました。

「あれ、新房君は?」

「・・・トイレへ行ったみたいだね。」

「そう。」

「えーっと、蓮くんから伝言なんだけど。」

「蓮くんから?」

「ああ。話したいことがあるから、こっちまで来てくれって。看護士さんがそう言ってたよ。」

「そう。分かった。ありがとう、能田嶋さん。」

そう言って微笑むソナタ。
すっと立ち上がると、ソナタは病室を後にした。



その数分後、ボブが帰ってきた。

「あれ、ソナタさんは!?」

「今すれ違わなかったかい? 君がトイレに行っている間に帰っちゃったよ。」

「な、なんだってぇぇぇぇェーーー! お、俺のばかァァぁああ!」

ボブの叫びに、廊下から看護士が顔を出した。

「新房さん!うるさいです、静かにしてください。」

「は、はいィィ!・・・すいません。」

急に後ろから声をかけられたため、驚いたボブは、情けない声を上げ、謝った。

能田嶋はそれをみて、ため息をついた。
「しかし、こんな平和ボケしてていいんだろうか。
 俺は俺自身の本当の優先順位をこのラブコメじみた
 一時の平穏に隠していないか・・・?」

能田嶋は考える。
他人の優先順位を変える力。
それだけに自分自身の本当の存在意義を疑うこともあった。
人間の意識は個々で動いてはいない。
意識はまるで小川のようだと能田島は思う。
何かを考えている間に他の小さな何か別なことが
それを取り巻き、絡みつくように流れてゆく。
だから、自分の能力はその小川の中で、岩にブチあたっときに

盛り上がる波のように、その瞬間、大きく、確固たる意識が
あるときにだけ、その波の位置、岩の位置をずらすことができる。
そこで意識の流れは向きを変えるのだ。

同じくして能田嶋の小川も例外ではない。

自分自身の力の意義を考えるとともに
ボブは一生モテないないや案外年くったらかわいいとかいわれたりしてなんてかわいいっていったらあの看護士さんかわいいよな白衣の天使っつーか恋人とかいるのかなって俺もまたラブコメしたいのかってまあ今度きいてみようかなああ花がちょっとしおれてきちゃったよ高校の周りに咲いてた花も煙でしおれたのかなボブは枕だきしめてしおれて寝てるけど・・・

雑多とした意識。


そのとき、病室の小さな変化が意識の流れに一石を投じた。


「あれ。これなんだ?」



自分のベッドにフックでひっかけられていたクリップ付ファイル。
自分の食事の量や体温などが書き込まれている。
A4の白い用紙の上に一緒になって一枚のカードが挟まれていたのだった。


「なんだこれ?」


体を起こし、挟んでいるクリップを少し浮かし、
爪をつかって表紙にクエスチョンマークのついたカードをめくる。



−−− このカードをひいたものは


   自 殺 す る −−−



「なっ、なんだこれ?!いたずらか?!
 クリップファイルに触ってたのは看護士さん・・・
 ちょっとォーッ!看護士さーんッ!」


叫ぶと同時にナースコールを押した。

ぱたぱたとリノリウムの床をスリッパて軽く叩く音が近づく。


「どうしました?能田嶋さん?」


看護士はいつもの癒すかのような笑顔を覗かせる。


「ちょっとこれ、看護士さんでしょ?
 ケガ人にこの冗談はキツいでしょー。こういうの。」


看護士はぴらっと能田嶋が手渡したカードを受け取るが
その書かれた内容を一度見てもその笑顔は変わらぬままだった。


「何言ってるの?あなた・・・自殺するんですよ。これから。」


小川の底で石が転がりはじめる。


「はぁ?!」

能田嶋は恐らく人生で一番間の抜けた声をあげた。


「『よく見て観察しろ』誰かに聞いたわ。
 すごく・・・いい言葉・・・。
 あなたたちがここに来たと聞いてからというもの
 あなたたちをずっと『観察』させてもらったわ。
 『看護』という言葉もいいわね。
 『医療』という言葉も・・・。」


「何言ってんだ?!看護士さん?」


能田嶋は気づいた。自分が入院して意識がはっきりとしてからというもの
この看護士の名前を知らないのだ。


「『看護』は看て護る。いいわ。いいわ。
 自分が外敵に向かうわけではなく、世話をして見やることが守ること。
 『医療』もいいわね。人の命を自由に操る至高の技。
 今回、看護士というカタチであなたたちに近づいたわたし・・・
 おっと、もうウチ。でもういいわね。
 ウチの選択はやはり運命が味方してると言っていいわね・・・」



石は転がり続け、ひとまわり大きな石に当たり、
その大きな石がその役目を受け継いだかのように
また川底を転がり始める。


「あ・・・あんた敵・・・ッ!しかもスタンド使いじゃ・・・ッ!」


「ところで、手品のタネって知ってる?
 髪の毛ほどもない細さのピアノ線だとか、
 実は双子だったとか、そんなものはどうでもいいわ。
 手品のなによりものタネは・・・『思い込み』よ・・・
 
 人の心を操る技。手品こそ奇術と言われる所以だわ。
 だけど、ウチが望むのは奇術じゃあない。
 人の心によってこの世界全てを操る魔術がほしい。

 すでにあたなの心はウチの手のひらの上。
 ホラ、自殺してごらん?」


転がった石は川底の石にひっかかり、その頭を川面に見せた。



波が

起きる。





「なんだァァァーッ!こいつッ!
 プライオリティ・ジャックッ!
 こいつの俺に対する優先順位を変えろッ!」



ズキュンッ!




能田嶋が最期に目にしたものは
すべてのものが逆さに映る景色だった。
織鳩町の町並みや緑、そして三つ子山の際に沈もうとする夕日。
それに反射するガラスの破片がきれいだった。


【能田嶋:死亡】
ボブは途中から全てを見ていた。
能田島が叫び声をあげたところからだ。
全てを見ていたのに何もしなかったのは
ボブは恐怖を感じていたからだ。
すくんで体が動かなかったからだ。

「あら?起きたの?新房くん?」


くるりと振り返った看護士は何事もなかったかのように
いつもの笑顔でボブのベッドへと近づく。


「あ・・・ぁ・・・」

病室で時間が止まっているかのようだった。
恐怖で脳が色んなことに反応できないからだ。
突然、能田嶋が『自分で飛び出した』せいで
割れた窓からそよ風が吹いていることと
純粋無垢な笑顔で近づいてくる看護士しかボブの脳は認識できなかった。


「怯えているのね・・・フフフ
 ウチがやったっていうのがわかったのね・・・?
 臆病者ほど勘がいいって言うわ。
 いいわ。『タネ』を教えてあげる。
 彼はね、ウチの力と似すぎてるから消えてもらったの。
 『思い込み』は『恐怖』と表裏一体。
 だけど『思い込み』で人を殺すことは無理。
 だから自分の力で自分で死んでもらったの・・・。
 
 わかってるんでしょ?

 ウチのスタンドはあのカード。
 本当はただの真っ白なカード。
 だけどこういうメッセージを書いておいただけで
 彼の心は動いたわ。
 『自分が自殺なんかするハズがない』
 っていうどんな意識よりも大きく堅い意思が生まれた。
 それは裏を返せば『本当に自殺するのかもしれない』っていう
 恐怖と同じこと。
 そして自分の力で自分の『絶対死なない』っていう優先順位を変えたのよ。
 ウチはウチの能力で唯一やったことは、そのスタンド能力を自分自身にかけてしまわせることだけ。
 箍が外れた水門には一気に濁流となった水が押し寄せる。
 彼は本当に自殺したのよ?わかる?」


ボブは理解していなかった。
看護士の放つ言葉を言葉として認識していただけだった。

ふうと一息呆れたように看護士は小さなため息をついた。

「ダメなようね。
 ウチの能力は恐怖心で相手を煽るスタンド。
 スタンドは精神力とはよくいったものね。
 ウチの能力そのものには力はまったくないわ。
 世界最弱といってもいい。
 だけど

 最弱が最も恐ろしい。

 恐怖で人の心を煽ることは難しいわ。
 まずは観察して心の動向を読む時間が必要だもの。


 だけどウチはそれ以外何もしなくていい。
 みなが『思い込み』で全てを動かし祭り上げる。
 あの『魔女狩り』もそう・・・意思の弱い民衆が祭り上げた、強大な思い込み・・・」


ボブはソナタをおもった。恐怖によってしぼりだされた一片の思考。
ソナタに伝えるべきだとおもった。この事象を。

「お・・・お前は・・・」


ふっとボブに目線を合わせる看護士。

「ウチは本当の名前も忘れてしまった一人の女・・・。
 でもウチはウチで自分をこう呼ぶわ。
 ジャスティス・・・裁定者・・・」


「さい・・・て・・・い・・・?」

息は荒くなるが、ほとんど呼吸はできていないボブは
か細い声をヒュウという喉を鳴らしながらつぶやいた。

 
 「あら、こんな話してもわからないわね。
 最後にウチの本当の顔見せてあげる・・・」



バリメリっという音を立てて、ジャスティスと名乗る看護士は
自分の顎に爪をたて、皮膚を割き始め、仮面レスラーがそのマスクを剥ぐように
その笑顔の顔っ面を剥ぎ取った。



ぎゃあああああああああああああああああ



【ボブ:精神的ショックにより再起不能】



その後、ビルの下で首の骨を折った青年が発見され、
通報を受けると同時に、飛び降り者と同じ病室であった少年は
まったく口をきけなくなっているという騒ぎに
怪事件として町は再び不安の雲が立ち込めた。

また不可解な点として、ふたりの病室を任せていた看護士が行方不明なこと。
そしてその看護士は、そのふたりが入院してくると同時にクリニックに採用され、
その病室の担当にすぐさま当てられたのだ。

なぜそういう措置を執っていたのかクリニック関係者は
「よくわからないが疑問さえ抱かなかった」という。
蓮との話を終えたソナタはボブ達の病室に寄る事もなく、病院を後にした。
一言かけるべきだとは思ったのだが、蓮の病室を出た際に看護士から「あなたがいると病室がうるさくなってかなわない」と言われてしまったのだ。
それにどうやらこれから検温のようであるし、今日は大人しく帰ってまた日を改めて顔を出そう、そう思ったのだった。

病院からの帰り道、なんだか今来た方角が騒がしかったようだが、
それよりも蓮麗の話の内容が気にかかっていた。

『DARK TRAILは卵を産む』

卵がその先どうなるかは、蓮麗は知らなかった。
彼のスタンドDARK TRAIL が昔、スタンド使いであった友達を襲い殺してしまったことがあり、DARK TRAIL はスタンドを食い尽くすと卵を産み出したのだが、その先を見届けることはできなかったそうだ。

『だけどアレは確かに卵だった。
今回は卵を産むところを見たわけじゃないけど……やっぱり卵は産み出されてしまった・・・俺の感覚がそう言っている』


卵という表現があてられるからには、それは孵化し、何かが誕生するということなのか。
その疑問を蓮麗に向けたとき、彼は短く『多分』とだけ答えた。

スタンドを喰らったスタンドが産み出すのは……
やはりスタンドだろうか。
だとしたらそれはどんなスタンドなのだろう。喰われたスタンドの性質を継ぐものかもしれない。ならば意志はどうか。もしアークティカそのままの意志を継いでいたとしたら……考えるだけでも恐ろしい。

早く手を打たなければならない。だが、ソナタはスタンド使いでは無い。
今までアークティカ以外のスタンドを見たことは無いし、それだってアークティカが自分に取り憑いていたからこそ見えていたに過ぎない。
今目の前に卵から生まれたスタンドが現れたとしてもソナタにはわからないし、そもそも本当に生まれるのかということでさえ確認する術がない。

今まではアークティカを自分の下に留めていることが街の平和に直結していたから、天然マイペースを装って誰かに頼るということもしなかった。
だが、こうなれば誰かに力を借りねばならないかもしれない。

誰に?

(秘密を打ち明けた新房くん……?いや、こう言っては悪いけど、彼は頼りにならないわね)

それならば、自分に一番近くにいるスタンド使いといえば

(サっくん。いつも貧乏くじ引いてる彼だけど、よっぽど頼りになりそうね。でも……)

サっくん――ムトウサクヤは何か大きな『目的』を持っている。そうソナタは勘付いていた。それがどんな内容なのかということまではわからないが……
しかしわからないからこそ、安易に秘密を打ち明けるのは危険である。


これからどうするべきか。考えあぐねたソナタは星の出始めた空を見上げ大きくため息を吐いた。
――同じ頃、サクヤもまた、くま公園で空を見上げていた。
彼のスタンド、『ワンライフ』は触れたモノの記憶を読み取る能力。
これまでにこの街の数多のものに触れ、様々な記憶を読み取ってきた。そして断片的に得た記憶の数々はやがて一つの線となり、この織鳩町の歴史となっていった。

そしてジョバンニの手帳から得た『ポスト』の内容。


サクヤはぽつりと呟いた。



   「『裁定者』……か」








窓一つ無い部屋。ひんやりとした空気が流れ、中央に小さな電灯が燈っている。

部屋に二人の声が響く。
「先の高校の件では良い仕事をしてくれたわね」
こちらは女性。対して答えるのは男性の声。
「ああ、誉めて頂けるとは、なんというコーエー。拙者大変感激でござる」

「ふふ……。あなたにはいつも本当によく働いてもらっているわ」

「拙者は、大切な時間を、世界を終わらせたくない、それだけでそうろう」

「そう、だから通さなければならない。『正義』を。わかるわね?」

「モチのロンでござる。世界が乱れるのは『悪』がいるから、だから『悪』はデリートする」

「そうよ。楽しく暮らしていくためには平和が必要、平和を維持するには正義が必要。
……やはりあなたは素晴らしいわ。
真古理もできる子だったけど、あなたには敵わないわね。

ねぇ、ヌーノ。」

「ミニアニマルお言葉でございますよ。」

「身に余る、と言いたいのかしら?

さぁ、あなたにまかせっきりではなくウチも動かないとね。
それじゃあ、また」

「あっはい、ごきげんよう、ジャスティス様。」


部屋の二箇所のドアがほぼ同時に開き、それが閉じると部屋は静寂に包まれた。
ピリリリリリリリッ…ピリリリリリリリリリリリリ!!!

カタカタと軽快にキーボードを叩く音の中、突然携帯電話が鳴り響いた。

最初は無視して仕事を続けていたものの、あまりにも鳴りやまぬその音に電話の所有者、早岐有人はプッツンした。

「ただ今仕事中でクソ忙しいッつッてんだろがァァァァ!!こんな時に電話かけてくるなんてなぁマジに …

ありえねェェだろうがァァァァーーッ!!


…なんだ、がやか。
おう。どうした?」

「開口一番で怒鳴るやつがあるかッ!!」

「悪ィ悪ィ仕事中だったもんでつい…な。」
「それよりも、少し話したい事がある。今日空いてるか…?」

「ん、あーー今日かぁ。午後からなら…まあなんとかなりそうだな。
で場所はどうする?」
「そうだな。

ザザッ…時に…ザザザザザ…園で…ザザザザザザザザ…しよう…ザザザザザザザザ

ザァーーーーッ…

……ブツッ…」


「はァァ!?
ちょっと待てッ!
なんだって?」

「ツー…ツー…」

「…チッ!!
ありえねェぜ。切れやがったよッ…」

有人は再びがやの携帯にかけなおすも、彼に繋ることはなかった。ただ、返ってくるのは聞慣れた機械の案内音声のみ。


聞き取れた情報は、
『公園』のみ。

なんて事はない。
どうせまた向こうからかけなおしてくるだろうと、いつもならそう考えるところだが、

今回は違った。

妙な予感。
早岐有人の中で長年培われた勘が叫んでいる。


これは何かある、と。


「ああーあー、織鳩の公園全部を虱潰しってかァァ?」

軽口を叩きながら少し思考する。
が、答えは既に決まっていた。

「ッッたくよォォ、人様の貴重な時間を無駄遣いさせやがって!!」

そう言うと有人は早急に仕事を切り上げ、自宅を後にした。
「しかしよォ、最近街ん中ありえねェ事ばっかじゃあねか!!

いくら俺でもデバッグしきりねーぜ!」


なんて事を考えながら、有人は街を歩いていた。

「えェーっと、この角を曲がりゃあ一つ目だな。
確か…そうだ!くま公園だ!」

くま公園に到着。

腕時計で時間を確認すると、今は御前11時を回ったところだった。

ここで、再びがやに連絡をするも、反応は全くなし。

「はぁ、とりあえず待つか。」

一抹の不安を抱え家を出たものの、よくよく考えれば自分の取り越し苦労、少し早計過ぎたのでわないかと有人は思いはじめていた。

公園をグルグル回ったり、年甲斐もなく遊具で遊んでみたが、有人すぐに飽きた。


「…はあ。暇だ…」


出て来るのは溜息ばかり。これで何回目だろうか、なんて事を考えていたら突然後ろから声をかけられた。

「あッ!?有人さんじゃあないですかッ」

「あんたは確か…」


有人の前に現れた女性。奇抜なファッションに、顔を覆う仮面。



…間違う筈もない。
ジャスティスだった。
「こんにちは。有人さん。
 聞きました?クリニックの話・・・」


仮面の奥から穏やかで且つ、不安げな声が漏れてくる。


「あぁ、知ってるよ。
 また死者だ。」


「本当に・・・でも不可解なことがたくさんあって・・・
 これはやはりスタンドによるもので、ウチたちも何か・・・」


「いいよ。」


有人はジャスティスの言葉を遮るように言い放った。



「俺はよォ・・・。あんたと初めて会った時から
 悪ィがあんたのことが気にくわねぇんだ。
 ど〜〜〜もイケ好けねェ。
 あんたの千人が感心するお話と、万人が頷く正論を
 俺のひねくれまがった根性様が受け入れてくれねぇんだよ。
 だから俺は人が亡くなったということだけを悔やむ。
 それ以外に何かあんのか?え?」


垂れる前髪の間から上向きにジャスティスの仮面を覗きこむように有人は巻き舌で話す。
下から見るとジャスティスの仮面が、
三日月のように、「にぃ」と不気味に笑っているようだった。


「そ・・・そんな・・・ウチはただ・・・」


ジャスティスの白い手袋がひらひらと胸の前で小振るいする。


「第一あんた何者なんだ?!
 この町のことは知り尽くしてる。
 だけどそこに住んでる俺らのことは出会うまで知らねぇ。
 ずいぶん長いこと住んでるような素振りを見せるが、
 俺らもあんたみたいなド派手なカッコ決めたヤツなんて
 実際会うまで見たことも聞いたこともなかった。
 
 あんた、織鳩町のどこ住んでんだ?

 しかも俺たちの前までその仮面する必要あんのか?」


楽譜にして16分休符、時間にしてワンテンポにもみたない
一瞬を置いてジャスティスは答えた。


「ウチはこの通り手品師なんです。
 でもそんな生業を始めたのもつい最近。
 それまでは静かに暮らしていただけなんです。
 ウチ、どうもあがり症で、普段からこんな格好に身をつつんで
 人の目に慣れようと思って、この衣装をきて
 大通りから住宅街までたくさん歩きました。
 そんなことをしてると人が自然に集まってくれるんですよ。
 これはちょっと驚きでした。不審者がられるなんて心配したんですが、
 おもしろがって寄ってきた子供たちに手品を見せたら
 その親御さんから通りかかりの人などなど。
 そんな人たちと親身になって話してたらこの町のことなんか聞かせてくれたんです。」


「ずいぶんと手っ取り早くたくさんしゃべるな。
 だからって俺らの前でもその仮面つけてるなんて理由にゃなんねえぜ。」


そう問い詰めるとジャスティスは意外にも簡単にその仮面を取った。
美人と言われる美しさと、同姓からも好感が抱かれそうな可愛らしさを備えた素顔を有人に見せた。
有人はその美貌に歓心するよりも、仮面の下のこの美貌を見抜くがやの本能に感心した。

「自分で言うのも変ですが、この顔を見て手品を評価されたくないんです。
 無言で無表情でもできる手品だからこそウチは顔を隠しました。
 どんな瞬間でも手品師であろう。そう決めて人には自分の素性をあかしたことはありません。
 手品師が自分のプライベートを見せることは、
 ショウである手品の全ての『タネ』を明かすのと同じことですから・・・」


有人はそんなことはどうでもいいと思った。
重要なのは理由ではなく今現状の結果だ。


「それでも有人さんは納得してくれないでしょう・・・
 でもウチもウチで折ることのできない信念があるのです。。。

 そこで、ウチと賭けをしませんか?」


突如ゆっくりとじりじりとした感触に冷や水がかけられた。


「賭け?バクチ?」


睨み目だった有人の瞳が丸くなる。


「そうです。賭けです。
 有人さんはウチの正体を知りたいという。
 ウチは商売柄教えたくない。
 だったらそれを賭けてみませんか?というのです。

 例えば、このトランプ。」


というと、ジャスティスはどこに隠しもっていたのか
左手を右腕の肩口にかざし、そのまま手首の方までずらすと
びやーという感じできれいに並んだトランプが現れた。


「有人さんが一枚ひいて、それが黒いマーク、
 つまりスペードかクローバーだったら有人さんの勝ち。
 ウチの住所でもなんでもお答えします。
 もしひいたカードが紅いマーク。つまりハートかダイヤだったらウチの勝ち。
 この話はなかったことに。というので。

 あ、これは手品師のプライドとしていいますが、
 この賭けにトリックなんて使いません。
 純粋な賭けです。」


全てのカードがジャスティスの手の下に戻ったかと思うと
一瞬でカードを扇のカタチに広げた。



「さあ、どうぞ。」




有人はその妙技に魅せられたせいか、その腕は既に伸びていた。










「さあ。」













ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ














有人の指が1枚のカードに触れ・・・

















「いや!やめやめ。アホクサ!
 第一俺は死んだジジィの遺言で盗みとバクチはするなって言われてんだよッ!
 あんたにそこまで言われて、こんなことさせるほど
 俺も野暮じゃねぇよ。
 ちょっと気になることがあってな。行かなくちゃなんねえ。
 あんたがここにいるってこたあ、あいつもここにはいないってことだしな。
 急ぐからよ。じゃあな。」


そう言って有人はくるっと背を向けくま公園を去った。








-----嘘だ-----


大バクチ好き。
人と人の精神の読みあい。
自分の能力にだってとても必要な駆け引き。
そんな有人は焦っていた。動揺していた。

自分にだけメリットのある賭けに逃げたのではない。
ジャスティスのかもし出す、甘く香る『安心』さに
急激な恐怖を感じたのだ。

冷や汗が止まらなかった。

早足で駆けているというのに
呼吸の乱れはその運動量ではなかった。

自分自身があの場で身を引いたことに奇跡を感じた。

がやだけでは無理だ。

戦力は申し分ないが、心が弱い。
誰か、他にも信頼できるダチを探さなければ。
出会わなければ。








-----嘘だ-----


あのカードにトリックはないというのは
嘘でもあり本当でもある。
それは技術でもなく、何物でもない
自分の能力(ちから)そのものだから。

どれをひいてもジョーカー・・・。

ふふ、そんなことに限らず全て嘘だ。


なかなかやるじゃあないの。
まだ観察が足りなかったウチの失敗か。

早起有人、面倒くさい。
ヌーノ・ベッテンコート、面倒くさい。
皆わたしの虜になって、
あの愚かな聖職者のように死んで土に消えればいい。


あの恋しかない男には悪いが、
そろそろわたしの『内(ウチ)』は身を隠した方がいいかもしれない。
少し急ぎすぎた。
またしばらく誰かの『表(オモテ)』になりすまそう。






この世界を











よ く 見 て 観 察 す る た め に
ジャスティスから逃げるようにして去った後、有人はもう一つの公園、
中央公園に到着した。

「がやは」

いた。

しかし血を流し、服は至る所が破け、まさにボロボロといった状態である。

「なんだ?がやお前一体どうした!?」

「有人か、遅いぜ」
「遅いって、あんな電話じゃわかるわけねーだろがッ」
「あんな電話?そうか、スデにそん時から攻撃が始まってたんだな」

「あらァ〜お仲間かしらぁ?」
その声で有人は時計塔の脇に立つ一人の女に気がついた。女はオレンジのショートヘアで、バイオリンを抱えている。

「あ?誰だテメー」
「成瀬実花さんだそうだ。綺麗だよなぁ、オレンジの髪は奇抜だけど、それがまた良いアクセントになって……」
またこいつは……と呆れた眼でがやを見る有人。しかしそこにあるのは鼻の下を伸ばしたいつものアホ面ではなく、真剣な表情だ。がやは言葉を続ける。

「本当に綺麗だよ、正直めっちゃタイプだ……

だ が 、 敵 だ 」


その言葉にハッとして有人は実花に眼をやる。

実花はニコリと笑い、弓を構えてバイオリンを弾きはじめる。
すると辺りに転がっていた小石が揺れだし、浮かび上がった。

「気をつけろ、有人」
「え?」

実花がバイオリンを掻き鳴らすと、浮かび上がった小石が一斉にがや達に恐ろしい速度で向かっていく。

有人のスタンドには直接攻撃力が無い。
代わりにがやのスタンドが小石を弾き落とす。

しかし防ぎきれなかった小石が二人を襲う。
「ぐあッッ!」
小石の威力は高く、当たった部位に激痛が走る。

「うふぅ〜ふふ。
がやを始末しろって言われたんだけど、どうせならお仲間も一緒にヤってしまった方が良いわよねぇ」

【成瀬 実花/Violino Vivido(生命のヴァイオリン)
対象の固体振動数を発することで共鳴させ操ることができる】 

「なるほど、がやがボロボロなのはこの攻撃のせいか。能力は、音で物を操れるってとこか?
しかし……
おいがや、いつものテメーのスタンドなら今の攻撃くらい簡単に防御できんだろうがよ!?」

「ああ、そうだな、いつもならな……」


「はッ!

その覇気の無い眼……まさか、がやッッッ!」


「そうさ……



  振 ら れ た ん だ よ  
    ジ ャ ス テ ィ ス ち ゃ ん に ッ ッ !  」


【がや/Heartbreakers
フラれた瞬間から3日は無力無防備】


(こ……こいつッ!泣いてる!)


「……オレに電話かけた理由って、そのこと愚痴ろうってんじゃねーだろうなァ?」
「う……まァ、そういうことだけじゃないが、それもある。」
「……ありえねー」
「そして電話をかけてる最中にバイオリンの音がし始めて、段々携帯の調子がおかしくなって……
その直後だよ、実花ちゃんに話しかけられたのは」

(ジャスティスに振られてすぐ敵に襲われる……か。単なる偶然にしとくには少し怪しいな?)
「……とりあえず、目の前の敵をブッ倒さねーとなッ!」
「あなたにできるかしらぁ〜〜〜〜ッッ?」

(フン!がやはしばらく使えねーし、オレがやらなきゃだな……
サマー・メランコリックであいつのスタンドを封じてしまえば、ガチ喧嘩で女に負けるハズがないぜッ)
有人はサマー・メランコリック を発現させ、実花にしかけようとする。

「ああ〜〜〜〜っと!」
実花が声を上げた。
「何を仕掛けようとしているのかしらぁ?だめよ、だめだめ。あたしのViViは相手の心の中までわかっちゃうんだからぁ。
勝つのはこのあたしなのよぉ、絶対絶対絶対絶対絶対にぃぃ〜〜ッ!」

バイオリンを強めに弾くと、端にあったジャングルジムが大きく揺れ、崩れた。
そしてまた新たなメロディを紡ぎ上げていくと、ばらばらになったジャングルジムの一本一本の鉄の棒が浮かび上がり、有人とがやに向かって勢い良く飛び出した。

「うおおおおおおおおーーーーーーッッ!?」
二人はなんとか飛びのけるものの、鉄の棒は次から次へと襲ってくる。

「ちくしょう!いくぜ!『サマー・メランコリック 』ッッ!」

ズッギャァァァーーーーーーンン!

実花の手が止まり、浮かび上がっていた鉄の棒も全て地面に落ちる。

「サマー・メランコリック を発動したッ!
ルールは一つ、自分自身の一番大切なものを破壊するまで!
テメーはスタンドを使えない!」

「あたしの一番大切なもの……?」

「スタンドが使えなきゃァただの女だなあ、あ?
オレぁぶち切れてんだよ、ボッコボコにしてやんぜッッ!」
有人が実花に向かって走り出す。

しかし、その有人の足元に、一筋の

雷の矢。

轟音とともに、有人は転ぶ。靴の先が黒コゲだ。

「こ……この雷……まさか……」


二人の前に現れたのは、


  瑛人であった。
暗雲がたちこみ、空気が湿りはじめる。

二人は動揺した。
何故瑛人が俺たち狙うのか?何故?

「瑛人…俺だ!!がやだッ!!いったいどうしちまったんだッ!?」

がやが問い掛けるも、鋭く黒い瞳は一点を狙いすまし、揺らぎは一切なかった。

「瑛人ッ!!」
「馬鹿野郎ッッ!ぼさっとしてんじゃねェェェーーッ!!」

張り詰めた弓の緊張が一瞬にして解かれ、再び稲妻が二人を襲った。

間一髪で避けれたものの、有人はがやを庇ったために左腕に稲妻を直撃った。

「…すまない。」
「ッ痛ェ…。謝んだったら最初から避けろっての…。ところでよォがや、ひとつ聞きてーんだが、普通、『一人一スタンド』だよなあ。」

「ああ、確かそのはずだ。スタンドを2体持っているなんてのは有り得ないはずだ。」

「そうだよなあ、そんなの『ありえねー』よなァ。」

二人は同時に見た。瑛人の頭上に存在する奇妙な天使を。

「先からブツブツと何を言っておる!それに、おぬしら…一体何者だ?何故拙者の名を知っておる?答えよッッ!」
時代がかった喋りで瑛人が凄む。

「おいおい、あいつ何時から侍に転職しやがったんだッ?」

「有人…こんな時にまで軽口叩いてんじゃあないぞ。」

ふざける有人をがやが制する。

「こんな時だからこそ、だぜ。まあでもよォ、これで理解ったってェわけだ。」

無言でがやが頷く。

二人の推測は、確証に変わった。



「うーん…分の悪ィ賭だが、やってみっかな。おいがや、手伝いやがれ。」

「あ、ああ。でも一体何を…?」

二人が作戦を練り上げてる別のところで、一人の女性が土管に隠れて怯えていた。

「雷…コワイ…雷…コワイ。」


成瀬実花もまた、雷恐怖症だった。
「がや。テメーは囮だ。必死で瑛人の雷避けてくれッ!」

ニヤリと笑顔で有人が答えた。

「は…!?ちょ待て有人、どういうこ…」
「んじゃま、頼んだ」

「テメーーーッ!!」

「ごちゃごちゃ五月蠅い奴等だ!問答無用…いくぞッッ!!」

瑛人の掛け声とともに雷が矢継ぎ早に降注ぐ。

(チクショォォォーーーーッッ!!なんで俺ばっかりこんな目にィィィィ!?)

涙目になりながらも紙一重で避けていくがや。

「柄じゃあねえが…精神集中ゥゥっと…」

有人が精神を高めている中、何もないところで足がもつれ、がや転倒。

(クソーーッ!!有人…頼むッ!!はやくゥゥ…)

大気が震え、今にも雷が降らんその瞬間――


「やっぱよォォ、こうどっちに転ぶかわかんねェってギリギリ感があるからこその『博打』ッてやつだよなァァ…

いくぜ…

サマーメランコリックッ!!」

ズギャン!


瞬。
雷は降らかった。
そして瑛人は意識を失い、倒れ伏せた。
頭上にはもう、あの天使は見えない。

「俺ってば悪運強ェみたいだなァ。2体同時にスタンドを封じるってのは初めてだったンだが…なんとか成功だ。

ふぃー、焦ったぜ。」
「テメー有人!!」
埃まみれ、汗まみれのなんとも醜いがやがキレる。

「へへッ…『兵は詭道也』ッてな。瑛人にゃあ悪い事しちまったが…ま、お互い様か。」

「色々有りすぎて俺はもう疲れたよ…。」
「…ああ、俺もだ。」

二人は地面に寝そべると何も言わずに空を見上げた。

あんなにもうっとおしかった空は見事に晴れ渡り、雲一つなかった。
その澄んだ蒼さが、二人の心へとすっと染み込んでいった。
「・・・っつう・・・。」

「瑛人!」

倒れた状態から上体を起こし、頭を押さえる瑛人。
その声を聞き、立ち上がったばかりのがやと有人は、瑛人のもとへ駆け寄る。

その二人を見る瑛人の目は、いつもと違っていた。

「瑛人、大丈夫か?」

「・・・。」

「おい、返事ぐらいしろよ。」

「君達は・・・・誰だ?」

「・・・はぁ?」

有人はおもわず間抜けな声を上げる。

「いやいや、ふざけてる場合じゃないぜ、瑛人。」

「ふざけてなんかいない。まったく身に覚えがないんだが、君達は・・・うっ」

「瑛人!?」

倒れそうになる瑛人を有人が支える。
頭を押さえたまま瑛人はうめき声をあげる。

「ぐう・・・・頭・・・が・・・ッ!」

「おいおい、大丈夫なのか?」

「しらねーよッ!」





「・・・一時的な記憶障害って奴なのか?」

瑛人はそのまま意識を失ってしまい、がやは瑛人を背負って、二人は中央公園を後にしようとしていた。

「そうなのかもな。詳しくはわからねーがよぉ、出てきたときからおかしかっただろう。拙者とか言いやがってよ。」

「あの天使みたいなやつ・・・。アレが瑛人に何かしてたんだろうな。」

「そいつは間違いねーだろうな。記憶を弄くってたみたいだしな、その反動とかそういうもんなんじゃねーか?」

「・・・それって、本当に大丈夫なのか・・・?」

「だから、しらねーって。俺は医者でもなんでもねーよ。」

「そうだったな。しかし、男なんて背負いたくないぞ。実花さんみたいな子ならともかく。」

もうジャスティスはいいのか、と言おうとしたところで有人は先ほどの疑問を思い出す。

(この件にジャスティスが絡んでると考えて間違いねーだろうな。これで、がやは三日の間無力だからな。
 ったくよぉ〜! あと3日使い物にならねぇのは痛すぎるぜ? 瑛人もしばらく無理だろうしな。)

有人は心の中で舌打ちをし、
がやは空を見上げてため息をついていた。





「待ちなさい!」

突然後ろから大きな声で女性が叫ぶ。成瀬実花だ。
雷恐怖症で隠れていた彼女だが、いまや空は晴れ渡り、天候は収まった。
我に返った実花は、この場を去ろうとする二人を見かけ、すぐに追いかけたのだ。

声に振り向く有人とがや。

「テメー、今度こそ殴られたいのか? スタンドもつかえねーテメーなんかに負ける気はしねーぜ!」

そう言って有人は指の骨をパキパキと鳴らした。
「スタンドが使えない?何のことかしらぁ」

「サマー・メランコリックは対象にルールを付与する……
『一番大切なものを破壊しないとスタンドが出せない』だ。オレはさっきテメーに発動したんだぜ?」

「あら、おあいにくさまね」
実花はその手にスタンドを発現させた。
「なッ!?」
「大切なもの?あたしそんなもの無いもの〜」
「はあ?ありえねーだろ、大切なものが無いなんて……」
「さあ、知らないわそんなこと。あたしがしなくてはならないこと、それはあなたを殺すこと。そう命令を受けてるの。あなたを殺すまで帰れないのよぉ」

実花が弓を動かし始め、辺りに散らばる小石が浮かび上がる。

「(命令?こいつの上にはやっぱり誰かいるのか……)
なら!テメーにとってはその命令が絶対なんだろ?それは大切ってことだぜ……何故……」
「おい有人!もう俺のスタンドには力が無い、石なんか弾き切れない!」
一斉に小石が有人達に向かって飛んでくる。
「じゃあ避けろよ!」
辛うじて直撃を回避した。

「違う、違うわぁ。確かに命令は絶対よ、私にとって命令に従うことが生きることだものぉ。
例えるなら、そうね、息をするようなものよ。呼吸は絶対必要だけど、それはあまりにも自然なこと過ぎて『大切』だなんて意識に上らないでしょ〜?」
再び石のつぶてが三人を襲う。がやが避け切れなかった。瑛人を背負っているので動きが鈍い。
「うああッ!」
「ちっ!ありえねー女だぜ(洗脳でもされてんのか……?)」
有人が実花の頭の上に意識を向けると、はじめて実花の頭上にも天使がいることに気付いた。
(瑛人と同じ……しかし、まずいぜこれは)
実花がいっそう激しくバイオリンを弾くと、再び何本もの鉄の棒が浮き上がった。



中央公園よりいくらか離れたアジトで、実花に持たせた通信機により全ての話をヌーノは聞いていた。

(有人は勘違いをしている……自分でキューピーズ・デッドの能力を封じたと思っているようだが、こちらから解除しただけの話。
有人の能力は既に掴んでいたから、実花にはそれに対応できるようキューピーズ・デッドをかけた。
瑛人はもう少し部下のままでも良かったが……けしかけた方が面白そうだし、記憶を封じ込めたまま某の能力を解除すれば廃人同然。
その瑛人を抱えて、振られて力を失ったがやと、直接攻撃力の無い有人は実花の攻撃に抵抗する術を持たない。
全ては……計画通り)
通信機を通してヌーノは実花に指示を送る。
「実花さァん、さっさとKILLしちゃってクダサ〜イ」


「……さあ、さよなら皆様ぁ、ごきげんようッッ!」
実花が弦を掻き鳴らすと鉄の棒が有人達に襲い掛かる。
「くそがぁぁぁーーーッッ!!」
最初の数本はなんとか避けた。しかし一本が有人の頭部をかすり、脳みそが揺れた。
「うっっ……おッ!?」
目が霞み、脚がまともに動かない。
がやも瑛人を背負っていては満足に動けない。
二人は直撃を覚悟した。


しかし、次の瞬間、大きな音を立て、全ての鉄棒が弾かれた。
そしてそれらは方向を変えて今度は実花に襲い掛かる。
「え!?何?操れないッ!?いッいやああッ!!」
『実花サン?実花!?どうしたデスカ!?』
「きゃああーーッ!!」
一本が直撃し、実花は倒れそのまま意識を失った。そのはずみで通信機が故障し、ヌーノとの通信も途絶えた。

「一体何が……?」
苦虫を噛んだような顔でヌーノは通信機を握り締める。

有人達も何が起こったのかは理解できていなかった。
がやが公園の入り口に一人の男が立っていることに気付く。そしてその前には忍者のような格好をしたスタンドがいた。


鉄の棒が有人達を襲う少し前、如月奈涸が入り口を通りかかった。
「ああ、なんで俺は家に帰ってしまったんだ……一刻も早く妹を探さなければならないのに……コイツのせいなのか……」
ぶつぶつ呟きながら奈涸は自分に取り憑いたスモーキン・ビリーに目をやった。
しかしその眼に映ったのは、公園で三人の男性と宙に浮く鉄の棒であった。
次の瞬間、何本かの棒が彼らを襲った。
「な、なんだありゃぁ!?なんかよくわからないが……やばくないか?あの人達血が出てる……」
「助けたいのか?」スモーキン・ビリーが問う。
「できるのか?」
「貴様が望むのならな」

この街では異常な事件が起きすぎている。妹もその異常な事件に巻き込まれたのではないか。そして今自分も異常な事態に遭遇している……これはもしかすると、妹への手がかりになるかもしれない……
奈涸は瞬間的にそう考え、叫んだ。

「頼むッ!」

「 仰 せ の ま ま に 」


そして現在に至る。
「では早速貴様の『最優先する行為』を奪うぞ」
「え?

あれ、俺……何してたんだっけ」

「おい、今のあんたがやったのか?」がやが呼びかける。
「え、ああ、うんまぁ一応……」
「助かったよ。
それより、君…一体何者だ?」
がやが問掛けた。

「…俺は如月、如月奈凅です。」

「しかし…君のスタンド、スゴいな。」

「…スタンド…?
何ですか、それは?」
「ッ!?おいおい本当かい?その忍者みたいなヤツの事だぜ。
君のスタンドだろ?

―名前は、あるのかい?」

「えっ…と、スモーキン・ビリー です。」

「…渋いねェ!」

がやはシニカルに笑った。

「おいおい、お二人さん。このまま此所にいンのは、ちょっと危ねェんじゃあないか。
場所を移そう。
色々と聞きてェ事もあるが、話はそれからだ。」

二人の会話に有人が割って入ってきた。

「それもそうだな。如月くん…だっけ。
いいかな?」

「は、はぁ。まあ…」
(あれ…?俺、何か大事な事を忘れてる気がする…。何だっけ。

…まあいいか。)

流れに流されるまま、如月奈凅は二人と背負われる一人ととも公園を後にした。






―――歯痒い。実に歯痒い。

ヌーノは、奥歯をギリギリと力強くかみ締めていた。
どうしてもこうも計画が邪魔されるのか。
事が全て、うまくいくなんて思っちゃあいない。しかし…。

「クソッッ!!本ッ当にイライラしまァス!実ニクレイジーなことばっかり。
ウンザリでェす!!


…いやいヤ、落ち着くんでス、ヌーノ。
クールに、クレイバーに…。」

全ては予定調和。
歯車はまだ回りはじめてばかり。

「フフフ、まだ実花サンがやられただけじゃあナイですカ。

計画はノープロブレム!!

ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

拙者、楽しクなってきましたヨォォォォ!!」

狂ったかようにヌーノの嗤い声があたりに谺した。
織鳩町の中心街から少し東にはずれた
閑静な住宅街と瀟洒な空気ただよう飲食店が
気がついたようにぽつりぽつりと点在するエリア。

血統書のついた犬を散歩する住民は
お互いをその犬の名前の「お父さん」「お母さん」で呼ぶ
何が優位にあるのか、そして何が心を成長させるのか、
いたって平均的な市民にとってその区画は
境界線の張られた他所の国のようにおもわれた。



TRATTORIA  GRANCHIO
トラットリア・グランキオ


店の面に強い日差しを防ぐ
緑・白・赤に彩られた布製のひさしに
イタリア語で誰にも優しくなくそう表記されていた。
ちょうど赤い面積にあたる箇所には
凶悪そうにも見てとれる蟹のツメがふたつ
それそうおうに相応しくものは立ち入るなといった
様相を見せて交差させていた。



からん



静まりかえった店内に乾いた鈴の音が響いた。



「オー、すまないがまだCHIUSO(準備中)なんだ。
 日を改めてくれないかBambina。」


湯気が少し漏れる店の奥の厨房から
まるでイラストか日本人の偏見から飛んで出てきたかのような
鼻の下に銀杏型のヒゲを生やしたいかにも
イタリアかぶれの中年男が顔を覗かせた。
高いコック帽に白い調理服を纏い、
その上から黒い腰下だけのエプロンを身に着けている。
ということはどうやら一人でこの店を切り盛りしているようだ。


「あぁ?雇ってほしい?NO、NO!
 うちはいらないよ!第一お得意様だけに料理をお出しする
 この店に変なのが入っちゃあこの店の面子にかかわるんでね!」



そう吐き捨てると手の平をひょいひょいと追い払うように動かすと
再び厨房の方へと舞い戻ろうとした。



「・・・・・・・・・」



「え?何だって?」



聞き間違いだったのか、空耳だったのか。
いや、
本当はそもそも何も発せられなかったのかもしれない。

しかし、店主は聞き正さないワケにはいかなかった。


フー。


と、鼻でため息をつき、両肩をすぼめた店主は
夜の店内にもっともムーディに映えるであろう
おぼろげに点灯する貝や波の形をした傘がつけられた
照明のスイッチをいれた。

店の玄関は西に向いており、店主からは逆光になって見えなかったのだ。

飲食店において西日が差すというのは
いささか歓迎されることではないのかもしれないのだが、
営業時間である夕方になると、夕日を受けて店が黄金に輝いて見えることと
低い太陽が照らす白ワインの煌きが好きだったのだ。
彼はそんな自分をロマンティストであると認識すると同時に
ロマンティストの語源はローマンイズム(ローマ人らしい)だから
俺はやっぱりつくづくイタリアンなんだなと満足させた。



「ベ、BELLISOMO・・・!」



男は夕日にさらされたシルエットと、
その髪のすきまから漏れる黄金の光と、
点けられた照明による柔らかなオレンジの光によって
自分の目に飛び込んできたその姿を見て驚愕した。
思わず無理やりつけた付けヒゲが落ちるかと思った程だった。


人によって最上の美しさとは各々相違たるはずである。
大きく捕らえれば、アメリカ人が美しいと感じる顔と
日本人が美しいと感じる顔とアフリカ人が美しいと感じる顔は違う。
また、時代でも髪の毛が長いことが美しいとされる時代もあれば、
ふくよかな女性が美しいとされる時代もあった。
不良学生が好む顔があれば、アニメや漫画ばかり読んでいる者が好む顔がある。
しかもその細かな好みの違いたるや。

しかし最上の美しさとはなんだろう。
恐らく言葉で説明はできないであろう。

比較対象があって初めてあれがどうだ、これがどうと言い表せるものだ。
『最上』すぎるものは『最上』つまり「良い」としか表現できない。


今までに彼女にあった人間たちは
その心が願う最上の美しさを彼女の顔の表面に勝手に描いていたのだ。

美しい顔をみたい。

それは世界万人のささやかであるが、必ず根の張っている望みである。


能田嶋や、ボブ、がや、有人、ヌーノ、サム・・・その他全て彼女と対峙した人間は
全員によって全員違う顔を見ていたし、
全員によって全員美しいと感じていた。

すばらしい絵画を一目見て絶賛するか、
じっくりと何年にも渡ってじわじわと愛を感じるかと同じように
あまりの美しさにすぐさまに自分の感情が動かされるかどうかは個人の心の敏捷さによる。


多くの美しい芸術を生んだラテンの情熱に憧れる店主は
間違いなく前者の心を持っていた。

「LA BELTA・・・美しい人・・・
 ぜひ奥へ・・・」


テーブルの上におかれていたワイングラスの影がまた伸びた気がした。



第二十話 『本当の嘘、偽物の嘘』


・・・To be continued

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