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オリバトコミュ【第四部】コミュの第十九話『思い出の貴方は今を知らない・・・』

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コメント(23)

ボリッ、ボリッ。
短く刈り込んだ白髪混じりの頭を引っ掻き回す。
考え事をしている時の癖だ。

「ま〜たその帳簿とにらめっこですか、警部?」
「…あぁ。全くもって分からん事ばっかりだよ」
茶化すような若い警官の声に、苦笑いを浮かべつつ答える。

【織鳩町未解決事件File≪NO.7≫】

ここ数年、このファイルの占める割合がどんどん大きくなってきている。
不可解な事件ばかりが、異様なペースで発生しているのだ。

例えば、1年前に起こった摩天楼での集団殺人事件。
「アリス」と呼ばれた娘については、鋭利な刃物による刺し傷が原因と特定出来た。
しかし、彼女を取り囲むようにして倒れていた10数人のホームレスについては、一切外傷も見られなければ、何らかの中毒症状も見られない。
死因が全く特定出来ないのだ。
そして、全員が手を繋いだ状態で、何故か『干からびて』いた。


儂がこのファイルを開ける度、周りの連中は「またか」という顔をしやがる。
こいつらは、分からない事にもう「慣れて」しまっている。
全くもって、ふざけた連中だ。

儂は、違う。
刑事のプライドにかけても、必ず犯人を突き止めてみせる。
でないと、『彼』に合わせる顔がない。
そして…あやつにも。


「おーい!クソ親父!それから馬鹿面下げた給料泥棒ども!!
何か見つけてくれたかよォ!!」

(『おジョー様』のおなりですよ、警部)
「…分かっておる」
やれやれといった表情で、父親は娘の前に出る。

「お前の書いてくれた似顔絵だけが手掛かりだからな。みな虱潰しに探しておるよ。
しかし…その言葉遣いだけはどうにかならんか、慈悠宇よ」

「いっつもそれじゃねーか!毎週毎週おんなじ事ばっかり云いやがって。
どう見たって必死にやってるってるって感じじゃねーんだよ!」

週に一回繰り広げられる、同じ光景。
『カゲキなおジョー』の怒鳴り声は、もはや織鳩署の名物になっていた。
我関せずといった表情で、PCに向かう署員達。
そのしらけムードが、影城 慈悠宇の神経を逆撫でする。

「どうなってんだよ!もう5年だぞ、5年!!この無能どもがぁッ!!」

----------------------

今でも、忘れる事が出来ない恐怖。


愛する彼と、お腹の赤ちゃんの命を『抜き取って』いった、あの酷薄な笑顔。

あれが「スタンド能力」と知ったのは、三日三晩生死の境を彷徨った後だった。
目覚めた私には、親父や他の連中には見えないモノが見えるようになっていた。

彼が狙われたのも、正に彼がスタンド使いだったから…


スタンド使いなんて、みんないなくなればいい。

----------------------

2時間に亘って怒鳴り散らした後、織鳩署のドアを蹴破るように飛び出した慈悠宇。

そこで彼女は、『彼』を見た。

信じられない、といった表情を浮かべ、慈悠宇は無我夢中で『彼』の前に立つ。

「なんだよオバさん、邪魔だからどきなよ!」
突然行く手を塞がれ、露骨に不快感を示したのは空知 游気。
しかし慈悠宇は游気など眼中にないかのように、隣に立つ男から目を離さない。

そして、呟いた。


「…ネル、なの?」


呼びかけられた男、ジョバンニ。
今は亡き兄と瓜ふたつの彼は、全てを悟ったように慈悠宇に頭を下げる。

「初めまして、義姉さん」

ハテナマークを顔に貼り付けたまま、游気は二人を交互に見るしかなかった。
影城 慈悠宇が織鳩署で怒鳴り散らしている頃。


その男は、5年ぶりに吸う外の空気に辟易していた。

(全く…どこに行きやがったんだ、アイツは)


極度の人間嫌いである彼は、ずっと自らの殻に閉じこもっていた。
思春期を過ごした織鳩西高校でも、クラスメートと話した記憶などない。
ただひたすら、図書館で借りる古書とばかり向き合って過ごした。

そして、それは大学に進んでも一緒だった。
珍妙なものばかりを研究する集まりに参加してみようとしたが、自分以上に偏屈そうな連中の顔を見ただけで、すっかり気持ちが萎えてしまった。

ただひたすら、家と図書館を往復するだけの日々。


そんな日々を、一人の女性が打ち破った。

「こらぁ!俯いて歩いてるんじゃないよ!この考古オタクが!」

普通の神経で聞けば、どう聞いてもただの悪態に過ぎない。
しかし、彼はその悪態すら吐かれた事がなかったのだ。

ずけずけと人の領域に踏み込んで来る女性。
2歳年上の影城 慈悠宇が、彼の心の中に棲みついた。
いつしか彼は、知らず知らず彼女を目で追うようになる。

しかし、生来口下手で人付き合いが下手な彼は、彼女を見つめる事しか出来ない。

留学生のカムパネルラとかいう男と親しげにしている姿。
その男を「ネル」と呼んでは愛しそうに見つめる姿。
そして、二人が幸せそうに結婚式を挙げる姿も。

彼女が誰かのものになっていく姿を、ただ見つめている。
彼は本当に、「見ている」だけで良かったのだ。


そして、彼は見てしまった。

「ネル」と慈悠宇を襲った、犯人の姿を。
狂気に彩られた、その眼差しを。


ささやかな幸せが踏み躙られた日、彼の世界は再び閉じてしまった。


幸い、彼には妹がいた。
兄とは似ても似つかぬ快活で社交的な妹。
学校では生徒会長まで務め、代々続いている骨董屋ではいずれ劣らぬ変人どもを見事にあしらっている。
自分が出来ない事を、あいつは補ってくれる。


わざわざ、俺が外に出る事なんかない。


その妹が、帰ってこないのだ。
これまで一度たりとも連絡なしに帰ってこない事などなかった、あいつが。


世捨て人を気どっていた彼も、こうなってはさすがに篭ってなどいられるはずもなかった。


「一体どうしたってんだ、澪」



その男−如月 奈涸が『それ』と巡り合ったのは、偶然か。
それとも、運命が彼を引き寄せたのか。


一芙美ソナタが新房 聞多とともに能田島 栄政と蓮 麗を織鳩外科内科クリニックに連れていった、その数時間後。

奈涸が織鳩大学正門前を通った時、彼は確かにその声を聞いた。


(我を呼びしは、貴様か…?)


振り向いた先には、妖しく彩られた卵。
ピシッピシッと亀裂が入るとともに、その卵は強烈な光を発し始める。
あまりの眩しさに、思わず目を閉じる。






次に奈涸が目を開けると、そこには忍者の格好をした男が立っていた。

骨董品好きな奈涸から見ても余りに時代錯誤なその男が、口を開く。

「…ビリー」

怪訝そうな顔で見つめる奈涸に、男は言った。

「我が名は『スモーキン・ビリー』…貴様の忠実なる僕だ」
「何を言ってるんだ?意味がわからないぞ、お前…最近は『忍者カフェ』なんてものまでできたのか?」

奈涸は怪訝そうな顔をしてスモーキン・ビリーを眺めた。
その姿は忍者、としか言いようがなく、腕を組んで足を揃えた状態で微動だにしないのは少々恐ろしい。

こんなヤツとは関わらないことが一番だ、ちょっとでも興味を示そうものなら「今の光はなんたらの術で〜」とかブッ飛んだ説明を始めかねない。
あぁ嫌だ、これだから人間ってヤツは面倒なんだ。奇抜な格好をして注目されるのに快感を覚えたり、忍者の末裔だとか言い出すんだろう。

そう感じた奈涸は目を逸らし、そそくさとその場を後にする。
伊達や酔狂に付き合っている時間はないのだ。妹が、あの誰もが憧れるような妹が行方不明なのだから。

足早に過ぎ去っていく奈涸だが、やはりあの珍妙な忍者は気になる。ちら、と後ろを振り返ってみると、

「なんで付いてきてるんだよッ!」

5m程離れた場所でピタリと動きを止めるスモーキン・ビリー。
やはり腕組みをし、足は揃えたままだ。まるで先ほどの状態から何の抵抗も受けずに水平移動したような…

「貴様が我が主だからだ。これは我の意思ではない。我は貴様から『5m』以上、離れることができぬのだ」

「そうか、なら誰の意思なら離れるんだ!?とにかく『俺から離れろ!』」

「それが貴様の願いだな? お お せ の ま ま に 」


ギュンッ


スモーキン・ビリーはやはり姿勢を崩さないまま、奈涸がギリギリ見える所まで移動するとピタリと止まった。奈涸からの距離は『30m』ほどある。
それを見ていた奈涸はポカンと口を開けて固まった。

「な、なんだ、お前は…」

「我が名は『スモーキン・ビリー』…貴様の忠実なる僕だ」

聞き取れるかどうか、といった声で答えるスモーキン・ビリーはやはり微動だにしなかった。
「一つ願いを叶えた。では、貴様の『最も優先する行為』を奪わせていただく」

そう告げたスモーキン・ビリーの足元から、もくもくと煙が立ち込める。
それはこれといった形を成さないままあっという間に奈涸を包む。

「う、うわぁ!なんだよ、わかったよ、お前は立派な忍者だよ、認めてやるからこの煙をなんとかしてくれよ!」

「それはできない。その煙は貴様の『最も優先する行為』を奪うためのものだ。人は何かを望んだとき、何かを捨てなければならない。貴様の望みを叶えた代償として、キッチリと奪わせていただく」

煙の中でもがく奈涸には前半は理解できないが、後半はよくわかった。
自分もそうなのだ。極力、他人との繋がりを絶つことで己の求める平穏を得てきていた。
誰に何と言われようとも関係ない、それが例え『 』から言われたことだとしても………?

「俺は…なぜこんな所にいるんだ?」

煙がスモーキン・ビリーへと還っていき、奈涸もまた我に返ったが、何かが抜け落ちている気がする。
何だ?スゴく大切なことだったはずだ。人間嫌いの自分がこうして家から出るほどなのだから。だが、何だったのか?それがわからない。

自分が『何の』ためにあの快適な家から出て、『何を』するつもりだったのか。

それだけがスッポリと抜け落ちて、自分の中に穴を空けてしまっている。その周りをぐるぐると回って探ってみるのだが、やはりわからない。

「何だろう、全く思い出せないしわからない…クソッ考えるのが面倒だ。とりあえず家に帰ろう…」

一人ごちた奈涸は辺りを見渡すと、自身の家へと向かって歩き出した。その後ろをスモーキン・ビリーが付いていく。

「貴様はふとした拍子に思い出すだろう。『妹を』『捜す』ために意を決して家から出たことを。しかし、そんなことはどうでもいい。『最も優先する行為』に秘められた『精神の力』、これを十だけ集めれば、きっと我は自由を手に入れる。
 貴様から奪えるのは『あと二つ』だけだが…その後は別の宿主からいただくとしよう…」

口元を隠す布の下で、歪な笑みを浮かべたスモーキン・ビリー。
プライオリティ・ジャックの一端とアークティカの全てを喰らったDARK TRAILが生んだ卵から孵ったそれは、未だ自由を求めていた。
慈悠宇は瞬きひとつせずジョバンニを見つめる。

「ここじゃなんですから、・・少し歩かなければいけませんが、美味しいコーヒーをだす店があります。そこで、話しませんか?兄のことについて・・・。」

半開きにした口を閉じると、その顔を下にむけジョバンニに従った。
游気は理由もわからず、二人についていくしかなかった・・。


歩いている間、慈悠宇は今まで感じたことの無いような感情でジョバンニの背中を見つめていた。
そんな慈悠宇を游気は、なんだこのオバさん?という気持ちで見つめていた。
「さぁ、着きましたよ。日本で飲んだコーヒーではここが一番おいしい。」
ジョバンニが店の扉を開けて2人を迎え入れた。

『おかえりなさいませ!ご主人様、お嬢様!!』

メイドたちに出迎えられ。少し怯む游気。
それを意に介せずジョバンニと慈悠宇は席につく。

メイド喫茶に外国人と年増の女に女子高生の3人組。
実にシュールな光景だ。
一人のメイドが3人に近寄ってくる。
「お嬢様方、ご注文は何になさいますか?で・・・・てめえは何しに来たんだよぉ!えっ!?」
ガンッ!!とお冷をジョバンニの前に置くと名札に【イチコ】と書かれたメイドはツカツカとその場を去って行った。
流石に游気は面食らっている。
ジョバンニは笑いをこぼし
「はは、ツンデレの日なのかな?」
その言葉を聞いたとたん、今まで俯き加減だった慈悠宇が顔をあげ呟く。
「ツンデレ?」
游気は二ヤリと笑うと待ってましたと喋りだす。
「これだからオバさんはダメだねぇ。ツンデレも知らないの??ツンデレっていうのはね・・・。」

「知ってるわ。7年も前から・・・。」

「はあぁ?そんなわけないじゃん!!知ったかぶりもたいがいにしなよ!!オ・バ・さ・ん!!!」

***********7年前**************
幸せそうなカップル

「まったく慈悠宇は奈涸君に厳しすぎだぞ。俺と一緒にいる時の1/10の優しさでもいいから接してあげなよ。」

「私が私になるのはネルの前だけでいいんだよ!!」

「まったく、お前みたいなのをツンデレって言うんだろうな・・・。」

「??なにそれ??」

「近い将来に流行することばだよ♪」

「なにそれ、わけわかんない・・・。ネルって時々変なこと言うんだから」

****************************

「慈悠宇さん。では話しましょうか・・・。兄さんの能力について・・・。」
大きく息を整えるとジョバンニは話し出した。

「僕と兄さんは、イタリアの田舎町に生まれました。僕が2歳で兄が6歳の時に出稼ぎに出ていた父がカビに蝕まれるという奇病で死んだ。若くして母親になった母は女となり僕達を捨てた・・・。まだ幼かった僕達は施設に預けられ思い出したくも無い日々を過ごす事になったんだ。4つ上の兄さんは僕を守るため、それこそ人生をぼうに振ってくれた・・・。そんな、ある日僕らに不思議なことが起こり始めた。僕が触れた物は故障するようになり、人は疲労を感じるようになった。そして、兄さんの元には・・・毎朝、兄さんにしか読めない新聞が届くようになった。」

ジョバンニはコーヒーを一口飲むと話を続けた。

「その新聞には、数年後の未来が書かれていた。兄さんは、その新聞を【ポスト】と呼んでいた。のちに気付くことになるんだけど、それが兄さんの【スタンド】だったんだ。しばらくして、2人で無事に施設を出ることができた僕等。兄さんは元々、頭が良かったから奨学金で大学に進学・・・そして、日本に留学していった。ぼくは心底喜んだよ。やっと、兄さんが自分の人生を歩んでくれるってね。それからは、兄さんから来る幸せそうな便りが僕の喜びでもあったんだ。5年前のあの便りまでは・・・」

「5年前っ!!?」
慈悠宇はその言葉に席を立つ。

「えぇ、5年前・・・兄さんが殺された日に書かれた手紙です。その手紙には『私の元にとんでもないポストが届いた・・。お前は日本に来るな。たとえ、私になにがあっても・・・。』それからしばらくして、兄さんは死にました。僕は、兄さんになにがあったのか知りたかった。なぜ、兄さんは死ななければいけなかったのか。僕は日本に来ました。兄さんが殺された。この織鳩町に・・・。そして、僕は願いをかなえる岩に出会った。僕は願いました。兄さんが最後に見た『ポスト』の内容を見せてくれと・・・。」

再び、息を整えるとジョバンニはいつにも増して真面目な声で語りを続けた。
「これから、その内容を話します。一度しか言いません・・・。よく、聞いてください。」

游気は訝しげに口をあける。

「そんなに大切な内容なら何度でも言えばいいのに・・・。」

ジョバンニは優しく微笑む。
「そうだね・・・。」

ジョバンニ、神龍岩への願い。
兄の死んだ理由である『ポスト』の内容を知る。
ジョバンニの代償
『ポスト』の内容を人に伝えると『死』ぬ。
ジョヴァンニから感じられた優しい気迫に押され、固唾を飲む遊気と慈悠宇…


ジョヴァンニが何かを言いかけたその時…


ピリリリリリリリリッ!
ピリリリリリリリリッ!


ジョヴァンニの携帯からアナログな電子音がけたたましく鳴り響く。

画面には 『非通知設定』 …

「…出て…みます。すみません」

ピッ

「……もしもし。」

『……………』

電話の向こうは無言だが微かに感じる息づかいから人がいるのは分かる。



「……何とか言いなよ。」


『……無粋なことはやめてくださいよ…

 アンタがやろうとしてることは、僕にとって ツマラナイ事なんですよね…』


「……まずは名乗れよ。
 学校で教わらなかったのかい?」


『…忘れた。

 そんなことはどうでもいいんですよ…
 知りたければ追ってくればいい…』

パリーン!
ガシャーン!パリーン!ガシャガシャガシャーン!


突然、店内の窓ガラスが次々と割れる!

そして全ての照明が消え落ちる。
昼間とはいえ店内は薄暗くなり、メイドや他の客達は騒然となった。


「おいおい!何やってんだァ!?」
「何!何が起こったの!?」
「あわわわわ…」
「助けて!怖いよォ!」








タッタッタッタッ…

メイドカフェから逃げるように走る2人の男がいる。


「ぷはっはー!
 おンもしろかったよージュウト!
 こーゆーの、愉快犯ってゆーんだよね!?」

織鳩高の制服を身に纏う、外人らしき金髪を短く刈り上げた少年がにこやかに話しかける。

「あの客ズのビビりがもう!ぷふー!
 2、3人くらいキルしちゃった方がもっと盛り上がったんじゃないのー!?
 僕のアレならヨウイができたのにー!」


もう1人、茶髪にピアスで眉毛の細い、体格のいい男が走りながら答える

「もしかして『容易にできた』って言いたいんスか?クラウディオ君…」

さっきの電話の時の口調とは打って変わって、ずいぶんくだけた敬語になっている。
紫色のヒラヒラした服や長い紫のマフラーが足に絡まりそうで走りづらく見えるが、しっかりとした足どりだ。


「殺しちゃってもいいんスけど、
 別に一般人をビビらせるために接触したわけじゃないっスからね。
 それに、すぐにもっと面白いことになりますよ〜。」

「ンー?
 それは楽しみ!」


【本体名:黎明 沖斗
 スタンド名:ブラック・アイド・ピース】

【本体名:クラウディオ
 スタンド名:ダンサーインザダーク】
ざわめきだつ店内に、落ち着いてスッと立ち上がり、壊れたガラス窓に近づく慈悠宇。

「南側の窓は全て割られているが他は無傷。
 ガラスの破片は内側だけか。
 外から強い衝撃で…って感じだな。

 それに割れていった窓は全て同時じゃなくって、一枚ずつ順に…って感じだった。
 恐ろしく早かったが、同時じゃあない。」


遊気は破壊されたブレーカーを見上げている。

「これも何かの強い衝撃?
 飛び道具みたいなのかもしれない。
 壊された窓から狙える位置だもんね。
 
 まず窓を壊して、ブレーカーを壊したのか、窓を貫通してブレーカーを狙ったか…
 何か投げられたものが残ってないんだから、きっと『スタンド能力』…」



ジョヴァンニがつぶやく。

「電話の相手は、『知りたければ追ってこい』と言ってた…
 つまり、店の外から飛び道具的な能力でこの騒ぎを起こし、今は逃亡中ってことか…」




そのジョヴァンニの背後で殺気をたぎらせるメイド服の美少女…

「許せねーな…
 大事な大事な僕の店を、僕の店の僕のスタッフたちを…」

正確には彼女は一従業員であり、彼女の所有する店ではないのだが、そんなことは『イチコ』にはどうでもいいのだ。

「……ブッ殺死!」

窓から飛び出し追うメイド少女。


「私らも追うぞ!
 犯人をとっつかまえればなんか分かるかもしれないし、
 あのメイド女もほっとくわけにはいかない!」

「そーだね!」
「ああ。」

南へ店を飛び出す3人。



しかしどこに消えたのか分からない。
道は3方向…

「とりあえず3手に分かれて探すか。
 メイドさんかそれっぽい怪しいのに遭遇したらケータイに連絡だ!」

3方向に散る3人。



しかし彼らはその時はまだ気づいていなかった。

まだ互いのケータイ番号など交換してなかったことに…









「これだけわかりやすい『逃走』っスから、見つけて追いついてくれるはずっスよ。
 そしたらまぁ、殺っちゃってもいいっスけどね。
 ただまぁ、こんな目立つとこでってよりは…『織鳩座』に着いてからの方がいいっスね。」


「オゥ!
 そいつぁ『一件落着』だねー!」
クク… クククッ…

黎明 沖斗は笑う。


彼は、1年以上前の事は何ひとつ『覚えていない』。
気が付いたら19歳の春だった。
何ひとつ覚えていないにも関わらず「19歳」というのもヘンな話だが、とにかくそうだったのだ、としか言いようがない。

その19歳の春、たまたま居合わせたのが「活動写真館 織鳩座」の前。
自然の成り行きで、彼はそこに身を寄せ、アルバイトを始める事となる。

何ひとつ『覚えていない』。

それはすなわち、何ひとつ己の拠り所とするものがない、という事。
この事実が、黎明 沖斗の生き様に大きな影を落としていく。


何ひとつ『覚えていない』彼は、それからの日々をただひたすら情報収集に費やした。

自分が今存在する織鳩町の事。
自分の周りにいる人物の事。
町で起こる色んな事件や噂の類。
そして、遥か昔から連綿として続く、奇妙な物語の数々。

そうして貪欲に情報を集めるうちに、いつしか自然と情報の方が彼のもとに寄り集まるようになっていた。

「織鳩座の情報屋」黎明 沖斗の誕生である。


忽然と現れた情報屋のもとには、玉石混合さまざまな輩が訪れるようになる。
ナルシストのホストから全方位に暴言を吐く女、フリーライター、修道士、あるいはオカマなどなど。
時には町を代表する名家や、誰もが知る大企業の人間までもが、彼のもとに現れた。

数多くの人々と向き合う事となった時、拠り所のない彼が最初にとった手段。
それは「誰にも敵対する事も、味方する事もしない」という事。

情報というものは、ある側面からは正だが別の面から見れば負であったりもする。
それをどう使うかは、受け止めたもの次第。
事実のみを冷徹に伝える彼は、正しく「情報屋」であった。


『ある時点』までは。




クク… クククッ…


黎明 沖斗は笑う。


しばらく前に来た男…名前を『真坂』とか言ったかな。
やけに馴れ馴れしく、人の領域にずかずかと入ってくる男。
あのマヌケには「人柱岩」なんて情報を売りつけてやった。
あながち間違いというわけでもないッスが、焚きつけるにはあれで充分ッスね。


−この町は巨大なパンドラの箱なんです−


これは間違っちゃいない。
だから、僕は情報を僕の思うがままに転がす。
そうして転がった情報で、町はあっちこっちに転がっていく。
情報を司るッ!この何とも云えないほどの快感ッ!


だから、あの「ポスト」とやらの内容はちょっとばかり厄介なものだし、
それをあんな風にペラペラと喋られちゃあ困るんスよ。


つまらない事を排除すれば、面白い事だらけになる。
これくらい、猿でも分かる事ッスよね?
メイド喫茶「Great Escape」を飛び出したジョヴァンニ、游気、そして慈悠宇。
店の前の道に出て向かって左、すなわち南の方にまず走り出したのは游気。

「ちょっと待った!」
「何だよジョバ!考えてる間にどんどん逃げちゃうじゃんか!」
「…やべーやべー、まんまと騙されるとこだった」
一人呟くジョヴァンニ。
「どういう事?メイド服の娘はこっちに走っていったじゃない」
合点がいかない様子で、慈悠宇もジョヴァンニに尋ねる。

「さっきの女の子は左の方に飛び出していった。それを見て、僕らも間髪入れずに飛び出した。それなのに、もうあの女の子を見失っている。
もし彼女が真っ直ぐ南、神隠し工場の方に向かっているなら、こんなにすぐ見えなくなるなんて事はないよね?」
「確かに…じゃあ、どこに消えたっていうの?」
「…あっちさ」

振り向いた先、北側に見える踏切。
メイド服の娘がその手前の路地から飛び出してきた。
その後を追い、北へと踵を返す3人。

「ふーん、じゃあメイド娘はぐるっと路地を迂回したって訳ね」
慈悠宇はジョヴァンニの機転に感心している。
「何であの娘はわざわざ遠回りしたの?わけ分かんない」
游気は口を尖らせつつ、ジョヴァンニ、慈悠宇の後を追う。
「さぁな…でも、彼女にも何かあるのだけは確かだな」

メイド娘が踏切を渡り切る。
先頭を走るジョヴァンニが踏切にさしかかった、その時。


カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン…


けたたましい音とともに電車が通過し、3人の視界を遮る。
遮断機が上がった時には、メイド娘の姿は掻き消えていた。


「困ったなぁ…これじゃどっちに行ったか全然分かんないよ」
「よし!丁度道は3方向だ。游気は左、高校の方へ。義姉さんは正面を大学の方に行って下さい。僕は右、駅の方に向かってみます。メイドさんか逃げてる奴らか、どちらかを見つけたら必ず連絡して下さいね」

ジョヴァンニの提案に頷き、それぞれ走り出す游気と慈悠宇。
二人を見送ったジョヴァンニの表情が、変わる。
何かを確信したような顔で、彼は駅に向かって走り出す。


『……無粋なことはやめてくださいよ…
 アンタがやろうとしてることは、僕にとって ツマラナイ事なんですよね…』


電話越しに聞こえた、くぐもった声。
あの声には、聞き覚えがある。
僕の記憶が間違ってなければ、電話の主の逃げる先はきっと…あそこだ。


織鳩駅北口ロータリーの少し手前。
「しょー太郎」を横目に見つつ、ジョヴァンニは路地を左に入っていく。
居酒屋「テバサキ・ザ・ワールド」からは賑やかな声が聞こえてくる。
最近流行りの『3の倍数でアホになる』ネタを大真面目にやっている男と、
ショッキングピンクのボディスーツ姿が店内に見える。

さっきまで隣にいた慈悠宇、游気、そしてムトウサクヤの顔が浮かぶ。
あぁ、あんな風に馬鹿騒ぎするのも、悪くはないんだろうなぁ。



その数分後、織鳩座の前にジョヴァンニの姿があった。
『波というのはだな』
がやは歩いていた。
『結局、力の残滓というか余波……伝えずらいな』
崩落の中、傷を負うことなくがやは生還した。
『…とにかくだ、なんらかの行為を行って』
AVRILはといえば、別の病院に入院し未だに意識がはっきりとはしていない。
『そこに現れるものだと思ってほしい』
たまに意識が戻ると、時間軸がばらばらで、医者は頭を強く打ったからだという。
『波は二次的なものだ』
「こんなことじゃあな」
現実に目を向ける。
がやは携帯をとりだし、コールする。
「愛しのあの子に見捨てられる」
小さく呟き、瑛人へとかけ続ける。
…がやはジャスティスの電話番号をしらなかった。
しかし、この無駄に思える行為もがやには必要な行為だった。
どんな行為でもよかった。
波さえ起きれば、いつかは陸にたどり着く。
がやは鳴らし続けた、いつかは必ず繋がると、少しも疑わず。

身内を疑うことはできない。

がやの欠点であり、美点だった。
彼の作った波はスタンド使いに当たった。
がやは彼をしらない。
彼もがやをしらない。
彼はジョヴァンニ、がやの欠点を美点と感じられる人間。
がやは敵意を持たずジョヴァンニに近づいていく。
「なあ、あんた…」

「はい?」

織鳩座の前でいままさに突入しようと覚悟を決めたジョヴァンニは、がやの声を受けて振り返った。周囲に人はいない。話しかけられるとすれば自分だけだ。

「俺、ちょっと人を探してるんだよね。瑛人っていって、フリーのライターやってるんだけど、最近、取材受けたことないかな?」

「いえ、知りませんけど…」

ジョヴァンニは正直に答える。相対するがやからは警戒を促すようなものを感じられない。おそらくは本当に人を探しているのだろう。

「そっか、じゃあもう一つ質問していいかな?『織鳩座の情報屋』に会いにきたんだけど、どうやって会ったらいいか、あんたは知ってる?」

「…会わない方が、いいですよ」

『織鳩座の情報屋』という言葉にジョヴァンニの表情が変わる。
突然、雰囲気の変わったジョヴァンニに、がやは一瞬たじろぐが、こちらも既に八方塞がりなのだ。

瑛人には連絡がつかない、
有人は連絡がついても「忙しい」の一言で切られてしまう。
ジャスティスの電話番号も知らないし、
ヌマルやアベルとは病院で会ったきり。

大切な身内を襲い、自らの命も危険に晒したスタンド使い、【世良 円】。
そして彼の死と、同じくして起きた織鳩高校での凄惨な事件。
新聞で知った誰の死も無残なものだったが、『雷にでも打たれたような』状態で発見された一つの死体と、二人の重傷者にがやは一抹の不安を抱いた。

もしかしたら、これは瑛人の仕業ではないか、と。

すぐに頭を振って否定するが、どうにも心は晴れない。
それから、合間を見ては瑛人に連絡をつけようと携帯を手に取るが、一向に繋がらない。それも不安の一つになっていた。
ライターを生業にする彼が、情報の窓口となる電話に出ないなど、異常としか言いようがない。
いつも今一歩のところで気弱になる瑛人が人を殺すなどとは信じられないし、考えたくもない。単なる不幸な事故で、たまたま時期が重なっただけだと信じている。

だが、それなら何故、電話に出ない?

なんとか連絡をつけて真偽を確かめなければ。
しかし、どうやって?
瑛人はホテルにも戻っていないようだし、最近、修理に出したと聞いたバイク屋にも訪ねてみたが、それ以降は顔を出していないらしい。

万策尽きたかのように思えた頃に、AVRILの父親と酒を飲み交わしていた時に『織鳩座の情報屋』の話を聞いたことを思い出した。

がやは藁にも縋る思いで、織鳩座に訪れたのだった。
「会わない方がいい…ってことは会ったことがある、ってことだよな?
 頼む、教えてくれ!もうここしかないんだ!」

がやは両手の平をパン、と合わせて頭を下げる。
その仕草にジョヴァンニは呆気に取られた。

たまたま居合わせただけの人間にこうまで素直に頭を下げるということは、相当に切迫した状況なのだろう。

「…名前は?」

「あ?なに?」

「僕はジョヴァンニ、といいます」

「あ、あぁ、名前か。俺はがや、だ。いきなりどうしたんだ?」

顔を上げたがやの表情は訝しげだ。
こちらの質問に質問で返すとは、どんな教育を受けてきたんだ?と問い詰めたくもなったが、今は頼み事をする身。
相手も名乗っていることだしひとまずは名乗ってみよう、と口を開いた。

「がやさん…『織鳩座の情報屋』には、会わない方がいい。ヤベーことになります…これは警告です」

「…警告?忠告ではなく、警告か?一体どういうことだ?」




「な〜にやってんスかね…さっさと入ってくればサクッと楽にしてやるのに…」

織鳩座の窓にかかるカーテンを少し除け、外を覗き見た沖斗は呟く。
今、排除すべきは『ポスト』の内容を知るあの男だけだ。もう一人はどうだっていい。
適当にやり過ごして中に入ってくればいい。そうすれば、すぐに排除して、また情報を転がす毎日が戻ってくる。

カーテンを戻した沖斗はそのまま冷蔵庫まで歩いていき、キンキンに冷えたファンタグレープを手に取る。
どうやら少しイラついているようだ、落ち着かなければ。

情報に感情はない。それを司る自分も、感情的になってはならない。

栓抜きを手に取り、キュポッ、と音を立てて瓶を開ける。
瓶の口から微かに昇る、白い湯気。
風が吹けば消えてしまうようなそれが、排除されにノコノコとやってきたジョヴァンニのように思えて、薄く笑う。
そして勢い良く瓶を呷り、喉へと流し込む。
冷えたそれが自分に冷静さを取り戻させ、口の中で弾ける炭酸が頭の回転を促す。

「それにしても、なんで今更、5年前のことなんて…」

沖斗が『ポスト』の存在を知ったのは、ジョヴァンニによるものだった。

「義姉の居場所を知りたい」、と最近訊ねてきたジョヴァンニは、対人恐怖症だからと言って姿を見せない沖斗を信頼させて正確な情報を得るために、ポストの内容以外のことを話してしまっていた。
ジョヴァンニ本人からすれば、それで自らの欲する情報を得たのだからそれで良かったが、沖斗にとっては非情に憂える事態だ。

自分の知らない情報を、この男は握っている。
そして、それを義姉に伝えようとしている。

「面白くない!面白くない!全ッッッ然!面白くないッ!!
 そんな情報なんて大ッ嫌いだ!闇に葬ってやる!滅殺してやるッ!」

その時のことを思い出し、思わず叫んでしまった沖斗は、これではいけない、と新たなファンタグレープを冷蔵庫から取り出し、栓を抜いてすぐさま飲み干す。

これからの未来を暗示するようにひしゃげた瓶の王冠は不気味なほど静かに座っていたクラウディオの足元まで辿り着くと軽々と拾われ、その手の中で弄ばれた。
暗い部屋の中でカツカツと革靴をならす音がする。

ヌーノ・ベッテンコートは少しイラついていた。

「すこーしばかり遅いでございますね〜。慈悠宇さんわ。某、心配しちゃいますよ・・・・。ここが、ばれちゃわないか心配しちゃいますよ・・・・。」

ふざけたような言い回しだが、徐々に速さを増す革靴の音がヌーノの心情を表していた。

「ちょっと、見てきてもらえるかな〜。瑛人殿・・・。」

指示を受け瑛人は部屋を出る。
ヌーノに従う忠実な侍、瑛人は慈悠宇を探しに街に出た。

部屋に残されたヌーノは別室に移動する。
さらに薄暗いその部屋に人影がある。
まるで、人形のような少女の姿・・・所々に包帯が巻かれている。
ヌーノはその前に跪きその脚に頬擦りをする。

「あぁ、君を手に入れるために邪魔な奴はKILLしたよ。君は、あいつが死んだのを知ってから人形のようになっちゃたけど、拙者はこうして触れていられるだけでぇ、あぁ薫、美しい薫・・・愛しているよ。君とこれかも楽しく過ごしたいんだ。」

春日 薫は、魂のない人形のように空を見つめている。

ヌーノは立ち上がると後ろから薫を抱きしめる。

「今、この時が続かなければいけない・・・。5年前、偶然知ってしまった未来は変えなくてはいけない・・・。この時間を世界を終わらせなどしない!!」

ヌーノは五年前、一度この国に来ていた。

夏休みを利用しての家族旅行、以前から日本に興味あった、ヌーノは飛行機のなかでも『ニンジャ』、『ショーグン』、『サムライ』とはしゃぎきっていた。
それが災いして日本についたヌーノは日が出ているうちに迂闊にも眠ってしまった。折角、憧れの日本にいるというのに・・・。

ヌーノはその日を無駄にするのが嫌で両親が寝静まったところ、ホテルから抜け出した。
夜の街でヌーノはヘヴィなめに合う。
殺人現場の目撃・・・

見知らぬ街で道に迷ったヌーノが偶然に入った路地でそれは起きたのだ・・・。
銃声に倒れる男と女、女は妊婦のようだった。

突然のできごとにゴミ箱の陰に隠れたヌーノは銃を持った人物がその場を去ると倒れる二人に駆け寄る!!

男はうわ言のように何かを呟いている。当時、日本語にあかるくなかったヌーノはいくつかの単語と『ポスト』、『未来』などの単語を理解することができた。
男はそのまま息を引き取った。女が体を引きずり男に近寄る。

ヌーノは思わず不慣れな日本語で叫んでいた。

「いきて!!あなたは、いきる!!死なない!!!絶対!!死なない!!!」

「私は死なない!!」

その時、女のもとに天使が舞い降りた。ヌーノがキューピーズ・デッドを始めて発動した瞬間だった・・・。

その温もりの無くなった体に復讐の鬼、影城 慈悠宇が生まれた。
『織鳩座の情報屋』は危険な人物でありスタンド使い。。。



「がやさん、これがアンタには見えますか?」

ズズズズズ…

ザ・ビョークを発現させるジョヴァンニ。


「そうか、あんたも…」

ズズズ…

Heartbreakersを発現させるがや。
このジョヴァンニという男はスタンド使いではあるが、とりあえず自分に敵意はないというのはわかった。
それならば自分も出さないわけにはいかないだろう。


一方のジョヴァンニにはひとつの考えがあった。
もし目の前の男が一般人であれば『織鳩座の情報屋』に会わせるのは危険だろうし自分が守りきれるとも思えない(そんな義務もない)。

だが、目の前の男がスタンド使いだったら?
ありえないことではない。
この町のスタンド使いの数は異常だし、スタンド使いは引かれあうのだから…

これから『織鳩座の情報屋』と一戦交えるかもしれない。
相手がどれだけ危険な人物かもわからないというのに、たった一人で敵の巣窟に飛び込むのは心もとない。

この男がスタンド使いだったのなら、一緒についてこさせれば何かの役には立つかもしれない。
先にこの男をぶつけさせて様子を伺い、敵の能力を把握することだってできるかもしれないのだ。
自分は、今ここで死ぬわけにはいかないから。
伝えるべきことがあるから…


「『織鳩座の情報屋』ってのは、がやさん。ちょっとヤベー奴かもしれないんだ。
 俺は戦いを覚悟してここに入るんです。
 あんたにもその覚悟があるんなら、一緒にこの扉をくぐりましょう。」


…安い挑発だった。
スタンド使いが頭まで下げて請うのだ。
覚悟がないはずがないのはわかっていた。


「…かまわねぇさ。
 恋路の障害はいつだってこの拳で打ち砕いてきたんだ。」


単純バカそうなタイプだな。
友情が芽生えることはないだろうが、嫌いじゃないな…


「閉館大御礼フェア」なんていう古いポップの貼られたその扉を開く。
扉に鍵はかかっていなかったが、館内は外の光が差し込む窓も少なくとにかく暗い。

人の気配のない古い映画館に二人の足音だけが響く。

劇場の扉を開く…
スクリーンにはなにかヤクザものの映画が映しだされているが、音声は聞こえない。

「なぁおい、聞きたいんだが。」

背後からがやがジョヴァンニに訊ねる。

「初めて会ったばかりの俺に背中見せて歩いたりして、
 俺が危険な人物だったらどうするんだい?」

「…そんな人物なんですか?
 とてもそんな(知性的な)人物に見えなかったから、安心して背後を任せられるんですよ。
 ちゃんと後ろ警戒しててくださいよ。」

「あ、ああ。」


スクリーンにはコワモテのヤクザが何か叫んでいるのであろう。
大きな口を空けてど迫力で映る。

「『てめえらここが誰のシマかわかってのりこんだきてんのかぁ』…かな。
 まるでここのどこかで待つ敵のようだ…」

ジョヴァンニがそう呟いた時、どこからか大きな声が響き渡った。

「すっごーーい!
 知ってるよそれ!ドクシンの術ってゆーんだよね!」

響き渡る声と同時に真上からビュオンッという音が聞こえた。

「くっ!」

とっさに身をかわすジョヴァンニとがや。


ドゴォン!

さっきまでいた場所に拳大の破壊跡があった。


…さっき店を急襲した能力!しかし声は聞いたことない奴だ。
つまり敵は二人以上!

そんな思考がジョバンニを支配したその刹那…


ビュオビュオビュオンッ!!

「アブねぇ!」

ジョヴァンニを突き飛ばすがや。

ドゴッドガドゴォォン!

またしても二人はかろうじてダメージを避け…いや。

「く…痛くねぇ…。」

ジョヴァンニの身代わりとなったのだろうか、左足首にダメージをくらっていた。

「ボサッとしてんなよ!」「すみません!」
散る二人。

しかしスクリーンの上の照明と照明をつなぐはしごのあたりにいるクラウディオからは、映像から照らされる光を浴びた二人はまる見えであった。

次々放たれる衝撃波をかろうじてよけながら攻めあぐねるジョヴァンニとがや。

突如ジョバンニは場内の後方に向かってダッシュした。
映写機を…壊す!

「させないよー!狙いやすい背中だぁ!」

クラウディオはジョバンニの背後に衝撃波を放つ。

ドガァァ!!



ジョバンニは無傷!

「狙いやすかったか?実に守りやすい背中だったぜ!」

がやは館内の固定式椅子を凄まじいパワーで引き剥がし投げつけ衝撃波に当てたのだ。
今、Heartbreakersは過去最高ともいえるほどみなぎっている。。。
カラカラカラ…

空回りする映写機の音が、やけに響く。
ジョヴァンニの「ザ・ビョーク」が映写機本体を故障させ、織鳩座は闇に包まれていた。

「出てこい、情報屋!今の俺はハンパなくつおいぜッ!」

おいおい、と闇の中で思わずツッコむジョヴァンニ。
居場所を分かりにくくするために映写機を壊したっていうのに、なんでわざわざ叫ぶ?

ビュオン、ビュオン!
案の定、声を辿って衝撃波ががやに襲いかかった。
しかし、暗闇の中であるにもかかわらず、がやは全ての攻撃を紙一重でかわし続ける。
この身のこなしもまた、波流拳法のひとつの極みなのだ。

「すごいなぁ…読み切りってやつだよね?」
いや、見切りだろ。

その時、天井からぬらりと長い足が伸びた。
異様に伸びた爪先が、がやの鼻先をかすめる!
そしてそのまま、息を潜めるジョヴァンニの脇を貫き、映写機を破壊した。

…スタッ。

少しずつ暗闇に目が慣れてきたせいだろうか、天井から降りてきた異形のスタンドの姿ががやにははっきりと目に取れた。
両腕を胸元で交差したまま拘束され、その分脚が異様に発達している。
その後ろには、金髪の高校生がニヤニヤしながら立っている。

「ようやくお出まし、ってやつか…ブラァッ!」Heartbreakersが殴りかかる。

ガ シ ィ ッ !

ダンサーインザダークは、その拳を左足で受け止める。
そして、右足が浮いたと思った次の瞬間、延髄切りの要領でHeartbreakersの頭部を思いっきり蹴飛ばす!
咄嗟にガードしたものの衝撃を受け止め切れず、スクリーンまで吹っ飛ぶがや。

「フフッ。足だけだと思ってなめてもらっちゃあ困りますよ」
既にダンサーインザダークは、グッと力を入れて屈み込んでいた。
その恐るべき脚力を一気に爆発させ、今度はシャイニングウィザードよろしく跳びヒザ蹴りを繰り出す!

「ブラァッ!!」

ガ シ イ ィ ィ ン !

Heartbreakersが見事にその衝撃を食い止めた、かに見えた。

「ぐうぅっ?!」苦痛に顔を歪めるがや。
「フフッ、どうやらかなり痛めているようですねぇ。フンッ!」
がやの左足首を、ダンサーインザダークの右足が刈る。
「ぐああああぁッ!」
堪え切れず、がやは遂にその場にうずくまる。

「ハンパなくつおい、だって?口先ばっかじゃん」
クラウデイオの軽口に、がやは唇を噛み締める。

ゆ ら り。
ダンサーインザダークが左足を、大きく振りかぶる。
今この状態で踵下ろしを喰らったら、ひとたまりもない。

「さぁ、口先ばっかのヤツは…ゼェ、ゼェ…こい…つ…ハァ、ハァ?…こいつ、で大人…しく…グハアッ?」
クラウディオが突然苦しみ出す。

「ヤベー、ヤベー…たっぷり10秒は触ってやったかな。
こいつが目の前しか見えないヤツで良かった」
倒れ込んだクラウディオの後ろには、ザ・ビョークとジョヴァンニが立っていた。
「すまねぇ、助かったぜ。しかしお前のその能力は凶暴だな」
息も絶え絶えの様子で足元に転がるクラウディオを見ながら、がやはジョヴァンニに話しかける。
「あぁ、確かにヤベー能力だとは思ってるさ。こんな感じだからな」
そう言ってザ・ビョークが椅子を殴ると、たちまち椅子は朽ちてしまう。

「で、こいつに色々聞けばいいってわけだな…おい、情報屋!」
疲労困憊のクラウディオの胸倉を掴みあげるがやを、ジョヴァンニが諭す。
「がやさん、違いますよ。そい「そいつはクラウディオなんで、僕じゃあないッス」

割り込む声に振り向く間もなく、ジョヴァンニは何者かに殴られた。
痛みは一切ない。しかし、何か違和感がある。

「おい、今のは誰の声だ?」
がやはクラウディオを放し、ジョヴァンニの肩に手を伸ばす。

… ス カ ッ 。

がやの手が、僕の体を「擦り抜けた」。
まるで、水の中に手を突っ込んだみたいに。

…何だ?
どうなってるんだ、僕の体は?

「おい、どうしたってんだ、こりゃあ?」
がやの叫び声に我に返り、足元を見る。
突っ伏しているクラウディオの体を、がやの足が踏み抜いている。
しかし、先ほどと同様に全くクラウディオにダメージはないようだ。

そして、クラウディオの左手と僕の右足が「繋がって」いる。
テープや糊、接着剤の類でくっつけられたというのとは違う。
まるで溶接でもされたかのように、完全に結合しているのだ。

「10秒に1回ってのは、やっぱり不便なもんッスねぇ」
さっきの声だ。見ると、スクリーンの脇からたっぷり3mは伸びた手が今にもがやを殴ろうとしている。
「がやさん!危ないっ!」咄嗟に身をかわすがや。
目標を失った手が、僕に触れる。
再び違和感が全身を貫く。そして今回の違和感は、波のように連結されたクラウディオにも伝わっていった。

「情報屋…いや、黎明 沖斗。君の仕業か、これは」

「ボクのフォローがあってこそ、だけどね」
女の声。そして、スクリーンの後ろから、二人の人影が現れた。

「そうか…最初っからグルだった、ってわけか」
「そう。ボクにとっておきの情報をくれるっていうから、代わりにご注文に応えてあげた、ってわけ☆」
以前に来た時は対人恐怖症だとか言っていた男、黎明 沖斗。
そして、あの時のメイド娘がそこにいた。

「ジョヴァンニさん。アンタがやろうとしてる事は、僕にとってつまらない事なんですよ」
電話の時と同じ、表情のない声。その口調が、神経を逆撫でする。

「てめぇ、こいつに何しやがった!さっさと戻しやがれッ!」
状況を把握出来ていないがやが、沖斗に食ってかかる。

「いいんスか?友達の消息、知りたいんじゃないッスか?」
「−な…何でそれを…」
不意を衝かれて一瞬硬直したがや。

「ブラック・アイド・ピーズ」「ラブリー・ベイベー」
次の瞬間、イチコの能力で伸びたB・E・Pの手ががやに、そしてそばの椅子に触れる。
「な…なんじゃ、こりゃあ!」
がやの左手が、椅子と完全に一体化していた。

「僕の能力は『物体を液状化する』事。
液状化したもの同士なら何でも結合出来る…今アンタ達が体験している通りだ。
そして、液状化したものには僕だけが攻撃出来る。
液状化しているものには抵抗力がないんだ…そこに攻撃をしかければどうなるか。
猿 で も 分 か る よ ね ?」

その瞬間に沖斗が見せた酷薄な笑みを、がやは忘れない。
そして、その時のジョヴァンニの表情を。

「こいつを持っていってくれ」
ジョヴァンニが手帳をがやに投げる。古ぼけた、小さな手帳だ。
「そいつを義姉さんに渡してほしい。兄の形見だ」
「な…何言ってんだ?おめぇの義姉さんなんて、俺は知らねぇぞ」
「じゃあ、これでいい。サクヤというガキに持たせてみてくれ。それで、全て分かる」
「何だってんだ…そんなの自分で「頼んだぞ」

俺の言葉を遮ると、アイツはひどく哀しげな顔をした。
そして、襲いかかってくる沖斗に「ザ・ビョーク」をけしかけた。
「グッ…僕を疲れさせるってわけか…しか…し…もう止まらないぜ」
「僕のところで止まれば、それでオーケイだ」
B・E・Pの拳がジョヴァンニ、そしてクラウディオを引き裂く。
そして、力尽きたかのようにその場に倒れ込む沖斗。

「う…うあぁぁぁぁッ!」
カッコ悪かった。カッコ悪かったけど、そうするしかなかった。
B・E・Pの能力が解けた後もこびり付く椅子を無理矢理引き剥がし、左足を引き摺りながら、がやは織鳩座を飛び出した。

ジョヴァンニの義姉、手帳、そしてサクヤ。
この言葉だけが、ぐるぐるとがやの頭の中を回っていた。

【ジョヴァンニ、クラウディオ…死亡】
「ありゃりゃ、いっちゃった」

織鳩座のドアが閉まるのをイチコはさしたる興味もなく見送った。
沖斗に協力はすれど、ジョヴァンニが有し、がやへと託した『五年前の情報』に興味はない。
自分が知りたいのは『兄が誰に殺されたのか』、ただそれだけだ。

そのためならば何だってする。

優しく、強く。外見を始めとして自らへの自身に満ち溢れていた兄。
見栄っ張りで、虚勢ばかり張って、それに追いつく努力を人知れず続けていた兄。

その兄が、殺された。
鑑識が現場に残された血液と健康診断で採取してあった兄の血液のデータが一致したという報告に来たときは、本当に目の前が真っ暗になった。
ぐらりと揺れる体を奮い立たせ、事実をなんとか受け入れようと必死だった。できなかった。

葬儀は思い切り派手にした。誰にも忘れて欲しくなかった。


鑑識がズボラで、本当は兄は生きていて、ひょっこり帰ってくるんじゃないか


そんなことあるわけがないのに、そうあって欲しいと思って止まなくて、今も以前と同じ生活を続けている。

メイド喫茶でだって働く。
兄が見つけ、勧めてきた職場だ。最近ハーフのバイトの子が来なくなって忙しい。自分ほどじゃあないけれど、彼女目当ての客も来ていた。

高い家賃だって払う。
兄が遺したお金と、自分の収入を合わせても毎月赤字だけれど、それでもそこに住む。

高級車だってそのままだ。
免許もないし、駐車場代だってバカにならないけれど、兄が自慢にしていた車だ。

あのベッドで寝る。
兄が着ていた服を山のように積み上げて、そこに穴を掘るようにして潜り込んで寝る。淋しくなった夜に兄が抱きしめてくれたことを思い出しながら。


…兄が。

兄が…

兄が。

兄がッ!!


兄が誰に殺されたのか知るためならば、何だってする。
他人に触れたいのに触れることを恐れる、気持ちの悪い男にだって協力する。
何故か次々と恋をした相手を病院送りにしてしまうけれど、それまでには手練手管で情報を引き出す。

倒れたままの沖斗の襟首を掴んで引きずり、映写室の奥にある沖斗の自室に押し込んだイチコは薄暗い部屋の鏡に映る自分に笑いかけた。

大丈夫、まだあの頃のように笑える。
「あれ?こっちじゃなかったのかなー」

織鳩西高校の正門を前にして游気は立ち止まった。
たどり着くまでにメイド服を着た人は見ていないし、自分と同じ方向に走る不審な者も見ていない。
どうやら外れクジを引いたようだ、と少々の落胆を覚えたところで、走ったせいで弾む肩に背後から手がかかる。

(敵!?)


ドサッ


游気が自らの危険を察知した時には【エア・サプライ】が背後の空気の成分を操作していた。
二酸化炭素の濃度を極端に上げ、窒息させたらしい。肩にかかった手は背中をなぞるようにズルズルと落ちていき、倒れたらしい音に安堵して振り向いたそこには、

「…おーじ?何してんの、こんなところで寝てたら轢かれちゃうよ?ここには旗振りオバチャンいないんだから」

サクヤが青い顔で横たわっていた。
しゃがみこんだそこに落ちていた木の棒で突付いても反応はないが、おそらくは死んではいないだろう。
神隠し工場でお留守番を言いつけたのに、この男は何をしているんだ。

どうしよう、誰かに助けを求めようか、と周囲を見回しても誰もいない。
校舎の方からは部活に励む声が聞こえてくるが、正門を出たこちら側は時折通りすぎる車の排気音がするだけで、歩いている人は見当たらなかった。

「なんだか、僕達みたいだな…」

スタンド使いと、そうでない者。

その縮図をみたような気持ちになって游気はほんの少し寂しくなった。
信頼し、肩を叩き合って笑い合える友人達も、そのほとんどはスタンドが見えることすらない一般人だ。

彼らは凄惨な事件があっても三日もあれば忘れ、日常の中を生きる。
だが自分達スタンド使いは、命を脅かすような能力を持った者を相手に、町を奔走しなければならない。

どちらがいいとも言えない。言っても仕方ないのだから。

でも、校舎と町とを明確に区切る正門のように、自分達と友人をキッパリと分けられてしまうのは寂しかった。

それでも、立ち向かっていかなければ。
だらしなく寝そべるいつも三番手のサクヤの前で涙を流してまで覚悟を決めたのだから。

「くっ…なぁ、そこの、ハァ、女の子…」

その時の気持ちを思い出し、真剣な面持ちとなった游気は唐突に話しかけられて反射的にそちらを振り向く。
見ると、左足を引き摺りながら男が近寄ってくる。

「なに、オジサン?いくら僕がカワイイからってハァハァ言いながら近づいてくるのは気持ち悪いにも程があるよ」

「あぁ、ハァ、すまねぇ…ふーっ、なぁ!君は『サクヤ』って男を知ってるか?大人がガキ扱いしておいて信用するくらいだから高校生くらいかと思ってここまで走ってきたんだ!知ってたら教えてくれ!」

一つ大きく深呼吸をしたがやは普段の呼吸を取り戻すのと同時に先ほどの悔しさと情けなさを思い出し、勢い良く捲し立てる。
切迫した表情といまにも肩を掴んで揺さぶってきそうな勢いに驚いた游気だったが、その手に見覚えのある手帳が握られているのを見つけると、持っていた木の棒をサクヤの後頭部に向かって放り投げ、

「おーじはソレだけど…オジサンは誰?どうしてジョヴァの手帳を持ってるの?」

嫌な予感でいっぱいになっていく胸を握り締めた。
がやは倒れるサクヤを見るとそちらへ歩を進める。

「おい、だいj「おい、おーじに近寄るな!!」

游気は、がやの言葉を遮ると、がやの腕を力いっぱい引き寄せた。

「あんた、なんなんだよ?僕は・・なんで、ジョヴァの手帳を持ってるかって聞いてるんだよ!!なに、自分の質問だけ消化させて、おーじに迫ってるんだよ!!!」

がやは、その16,7の少女が出したとは思えない切迫した空気に呑まれそうになる。しかし、がやも波流の格闘者、平静をなんとか保つと游気の目をみた。

「すまない。ジョヴァ・・そうか、あいつは、そう呼ばれていたのか・・・。」

「なんだよ!?呼ばれていたのかって、なに過去形喋ってるんだよ!??」

游気はもう、悟っていた。その問いに対する答えを・・・。

「結論から言わせてもらう・・あいつは死んだ。この手帳はあいつから託された物だ・・。織鳩座で情報屋の男と、女にやられた。俺は、その場から、こいつを持って、その場から、あの場所から逃げるので精一杯だった・・・。まったく、かっこ悪い男だ・・。」

唇を噛み締め、顔を伏せる、がや。

バシィィィン!!!

游気は思いっ切り、がやの頬を叩いた。

「なに、正直に話してるんだよ!そんな話、もっと空気よんで包み込んで話せよ!!」

「な、お前が話せっ・・「そんなの、関係ないんだよ。女の子はワガママにできてるんだよ!!そんなの、そんなの・・うっ、うっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁばぁかぁ!!!」

游気は声をあげて、泣いた。
まるで子供のように大きな声で。
がやもつられて、涙を流してしまっていた。

「俺は・・・くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉ!!!」




慈悠宇はひたすらに走っていた。

眼前から、一人の男が歩いてくる。
その後ろ、30メートルくらい離れたところにスタンドらしき影をしたがえながら。
慈悠宇はとっさに、身構えると、スタンドを発現させる。

しかし、男は慈悠宇の横をブツブツとなにか呟きながら通り過ぎていった。スタンドによる攻撃の気配もない。

「あいつじゃ・・ないのか。・・・まったく、この街はスタンド使いが多すぎるわ・・・。」

もう目の前には大学の校門が、あった。
慈悠宇とジョヴァンニの兄にして慈悠宇の夫、カムパネルラの出会った場所。
慈悠宇は思い出に涙を浮かべていた。

「慈悠宇さん探しましたよ。」

突然の呼びかけに驚き、振り向くとそこには、瑛人が立っていた。
「ヌーノ様が帰りを待たれております。」

「あぁ、ごめんなさいね・・・。」

「慈悠宇さん、大丈夫ですか?」

慈悠宇は瑛人からの問いかけに驚いた。今や、ヌーノの人形である瑛人が自分を心配する声をかけてきたのだから。

「えぇ、大丈夫・・。この大学。少し、思い出があったものだから・・。」

「思い出ですか羨ましい・・・拙者はヌーノ様に仕えるためだけに生まれた存在・・。思い出というものは羨ましい。」

慈悠宇は胸を締め付けられる想いだった。自らが封じた瑛人の記憶・・。そして、ヌーノの趣味から忠義の侍と信じ生きている瑛人。

「もう帰りましょう。ヌーノ様に叱られてしまいますゆえ・・・。」

「えぇ、そうね。」

ジョヴァンニにはまた会いにゆけばいい。慈悠宇はそう思い瑛人と共にヌーノの待つアジトへと向かう事にした。




頭が痛い。
慣れなのか、気絶から目を覚ます期間が早くなっていたサクヤが目を覚ます。
「おぃ・・・」
目覚めと同時に怒鳴りつけようとしたサクヤは目の前の光景に勢いを失くす。
目の前には、大声で泣く游気と、一緒に泣いている見知らぬ男がいるのだから。

「お、おいどうしたんだ?」

游気は泣き続けて返事をしない。

「おい、ど「煩いよ!!空気よんで一緒に泣けよ。馬鹿おーじぃぃ」

泣いたままの游気に言葉を遮られたサクヤはいつもの台詞を言うしかなかった。

「馬k「だいたい、なんでこんな所にいるんだよ!お留守番しとくように言っただろー。」

いつもの、たった3文字の台詞さえ遮られたサクヤは憤りs叫んだ。
「お前が、あんまりにも遅いから心配して迎えにきたんだろうが!!」

游気は、はっと顔をあげる。ただ単純に嬉しかった隔離された世界にいるような感覚になっていた自分。でも、まだ心配してくれる仲間がいるという事実。

「おーじ、ごときに心配なんかされなくたって大丈夫だよ!!」

游気の顔にはいつの間にか笑みがもどっていた。

がやは・・まだ泣いていたが、高校生2人にマジマジと泣き顔を見られ、泣き止んだ。

3人は、ことが起こった織鳩座へと向かったが、やはり、そこは何事もなかったようにカラカラとフィルムの音だけが響いている。

スクリーンには『Fin.』の文字。

游気はそれを見て呟いた。
「まだ、終わってなんかないよ・・終わらせない・・・。」

がやは、ジョヴァンニの手帳を握り締めている。

今、この街は動いている。通常ではありえないバランスで成りたっている織鳩町・・・。誰かが無理にでも動かしたら壊れてしまいそうなバランス。
ありえない過去の構築でできあがっている。今なのだから。


第十九話『思い出の貴方は今を知らない・・・』

To Be Continued ⇒


第二十話 『本当の嘘、偽物の嘘』
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