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200×年映画の旅コミュの2007年5月下旬号(サイレント旧作)

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2007年5月下旬に侘助が観たサイレント映画

「サンライズ」(5月22日 アテネフランセ文化センター)
1927年/監督:F・W・ムルナウ(フリートリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ)

【★★★★★ ドイツ表現主義の伝統を通り抜けたムルナウの技巧が、シンプルな夫婦愛のために奉仕する愉悦】

 アテネフランセで定期的に開催される“映画の授業”と題された上映会。サイレント映画の名作が連続上映されるのですが、割りと最近わたくしが観た作品が並んでいる中で、この映画は30年以上前、フィルムセンターで観て感動して以来観ていなかったので、足を運びました。
 夏、都会から避暑のために向かう湖畔の田舎町。都会の喧騒を、中央駅から発車してゆく蒸気機関車や、町なかの車の交錯など、短いカットの畳み掛けとオーヴァーラップなどでテンポよく表現してゆく迫力に冒頭から引き込まれます。汽車が田舎に向かう絵と客船が水しぶきを上げる絵を、画面の二分割によって同一画面に収める工夫も、面白いと思いました。
 田舎町では、ホテルで退屈そうにしている派手な女マーガレット・リヴィングストンを登場させ、彼女が葦の茂る湖畔を歩く様子を長い移動撮影で捉えたのち、彼女が近づく一軒の民家の中で語らう若い夫婦ジョージ・オブライエンとジャネット・ゲイナーへと観客を導いてゆきます。
 ここで都会女リヴィングストンは口笛を吹き、これを聞きつけたオブライエンが家の中から出てきて、リヴィングストンがオブライエンを誘惑し、都会に行こうという話を持ちかけるのです。都会の夜の歓楽が冒頭のようなフラッシュ映像とオーヴァーラップで描かれ、うぶなオブライエンは難なく篭絡されてしまうのです。そして、リヴィングストンに唆されたオブライエンは、若妻ゲイナーを湖に突き落として事故死に見せかけることを決意するのです。
 翌日、都会に遊びに行こうと妻を誘い出したオブライエンは、危険を察知して吠えたてる愛犬をうっちゃり、小舟に妻を乗せて湖に漕ぎ出した上、湖の真ん中で妻ににじり寄るのですが、逡巡した挙げ句、結局彼は妻を殺害することができません。
 一方、妻のほうは夫が自分を殺そうとしたことに気付き、舟が都会近くの岸に着くと、彼女は夫から逃げ出そうと必死に走り、通りかかった市電に飛び乗ります。その頃夫は、妻の殺害などを計画した己を恥じ、妻に許しを乞おうと彼女を追いかけ、やはり市電に飛び乗るのです。
 小舟で夫に殺されそうになって以来、息が上がるように喘いでいたゲイナーが、市電のゆったりとしたリズムに揺られて落ち着きを取り戻したのか、許しを乞う夫オブライエンに対して次第に軟化してゆきます。そして都会に着き、ある教会で開かれている結婚式を覗いた二人は、頭上で鳴り響く鐘の音に祝福されるように、お互いの信頼を再び取り戻すに至るのです。
 夫婦の絆に目覚めた二人が、恋人同士に戻ったように都会での1日を謳歌する一連の場面の美しさと幸福感は、この映画の最大の魅力だとも言えましょう。
 夫が床屋で髭剃りを受けているのを待つ妻。彼女が人妻だと知らずに、接近を図ろうとする紳士。
 二人で入る室内遊園地で1匹の子豚と戯れる夫。夫婦で飛び入り参加するダンスの愉悦。
 この映画のために建てられたという街のセットや室内遊園地のセットが、ドイツから連れてきた美術装置家ローカス・グリーゼの手によって、ドイツ表現主義的に構築され、そうした舞台装置を活用すべく、ムルナウの指示によって長い移動撮影や斜めの構図が導入され、または細かなカット割りによる編集術なども駆使され、まさしくサイレント時代の技術の粋がここに結集しているとすら言えましょう。そうした技術が、シンプルな夫婦愛のために奉仕されていることが、なんとも美しいのです。
 幸福なる都会の夜を体験した若夫婦は、再び湖を渡る小舟に乗って田舎町に帰ろうとするのですが、皮肉なことに、湖上で猛烈な台風に襲われた小舟が転覆し、妻のほうは行方不明になってしまうのです。これまた撮影所内に建てられたセットだという湖上の場面は、見事な台風の猛威を再現するのですが、この台風が都会の夜を襲う迫力も凄まじく、室内遊園地も街角も、物凄い勢力の風によって表面をなぎ倒されてゆくのです。
 台風によって湖の中に呑まれた妻の死を確信した夫の怒りは、自分を誘惑した都会女に向けられ、再び口笛で自分を誘惑しようとするリヴィングストンへの殺意をたぎらせたオブライエンは、彼女の首を締め付けようと力を込めたその時、村人から「奥さんが見つかったぞ!」という朗報が届けられるのです。
 優れたサイレント映画は、音を視覚化することに長けているものですが、この映画も、誘惑する女の口笛、夫の殺意に気付いて妻に知らせるみたいな犬の吠える声、改心した夫を許した妻の頭上で鳴り響く教会の鐘、吹き荒れる嵐と雷鳴、朗報を伝える老婆の叫びなど、音が見事に画面として表象されていました。
 ドイツ表現主義の伝統を通り抜けたムルナウらしい技巧が、夫婦愛の謳歌のために結実するという愉悦。やはり傑作と言える映画でしょう。
 この映画と「第七天国」の演技によって第1回アカデミー主演女優賞を受賞したジャネット・ゲイナーが、純な人妻を可憐に演じて魅力的です。


「眠るパリ」(5月30日 門仲天井ホール)
1923年/監督・脚本:ルネ・クレール

【★★★ 光線で時間が止まってしまうという荒唐無稽な話だが、アヴァンギャルドと娯楽が癒合した快作】

 この日は、先日会員になった“無声映画鑑賞会”の定例上映会で、“無声映画に観るパリの情景!”と題された2本立てです。まずはルネ・クレールの監督デビュー作「眠るパリ」。
 昔、手塚治虫原作、太田博之主演で「ふしぎな少年」というTVドラマがあり、主人公が「時間よ止まれ」と叫ぶと世界がピタリと止まってしまうという話でしたが、「眠るパリ」は、この「ふしぎな少年」の魔法にかかったかのように動きを止めて(眠って)しまった状態のパリ中で、6人の男女だけが目覚めているという設定です。エッフェル塔のてっぺんにある小屋で寝泊りしている青年アルベールと、この日飛行機でパリにやってきた5人の男女だけは普通に動くものの、あとの人々はピタリと動きを止めているのです。
 アルベールたちは、入水自殺しようとする人にお金を握らせてみたり、レストランで食事途中のカップルから食べ物をくすねてみたりして、自分たちだけが動けることの快楽に興じてみせるのですが、すぐに彼らは退屈します。その結果、世界中で動ける女性は飛行機でやってきた乗客の中にいるたった一人であることに気づいた残り5人の男たちは、将来の子孫を残すには彼女をモノにするしかないと悟り、エッフェル塔の観覧台を舞台に醜い争奪戦すら始める有り様です。
 しかしその時、エッフェル塔に無線信号が受信され、動けるのは彼ら6人だけではないことが判明します。そして、信号が発せられている住所を訪れると、そこでは事件停止光線を発明したマッド・サイエンティストがおり、そも姪にあたる女性が、SOS信号を発信していたのです。この博士が飛ばした光線は、エッフェル塔の上や飛行機が飛ぶ上空には届かなかったため、6人だけが動ける状態だったのだと説明されるのです。
 カット割りのテンポのよさ、喜劇的センスなど、クレールの才覚はデビュー作から発揮され、シュルレアルなアヴァンギャルド映画的な要素と「イタリア麦の帽子」や「自由を我等に」に連なるコメディ要素を融合させた娯楽作に仕立てています。
 活弁は桜井麻美さんで、彼女は字幕の英語(フランス映画ですが、版は英語版でした)の直訳が日本語としてこなれていないという欠点はあるものの、テンポよく楽しませてもらいました。


「パッション」(5月30日 門仲天井ホール)
1919年/監督:エルンスト・ルビッチ

【★★★★★ 設定はご都合主義に見えますが、恋の囁きが歴史を動かすというルビッチに相応しい話に昂奮】

 “無声映画に観るパリの情景!”と題された“無声映画鑑賞会”の定例上映会、この日の2本目は、エルンスト・ルビッチのドイツ時代の代表作の1本と呼ばれる「パッション」です。
 フランス王朝末期、帽子屋の針子から成り上がり、国王ルイ15世の寵愛を一身に浴びるに至るデュ・バリー伯爵夫人を描く王朝絵巻。ルイ15世の息子ルイ16世が、マリー・アントワネットと結婚して、ブルボン王朝最後の王としてフランス革命によって倒される運命にあるわけで、今年1月に公開されたキルスティン・ダンスト主演の「マリー・アントワネット」でも、デュ・バリー夫人は、父王の愛人としてアーシア・アルジェントが印象的に演じていました。
 ルビッチは、ルイ16世やマリー・アントワネットは敢えて登場させず、デュ・バリー夫人こそがフランス革命の引き金になったという、大胆な歴史の読み替え(というより、省略と翻案)を加えた視点から話を組み立てており、一人の女性の性的魅力が国家元首を惑わしてしまうという、退廃と情熱のメロドラマに仕立てています。
 デュ・バリー夫人が靴屋の針子だった頃の恋人を狂言回し的に登場させ、彼はジャンヌと呼ばれた当時の彼女を巡ってスペイン公使を殺したかどで死刑が宣告されていたものの、ジャンヌによる国王への嘆願によって命拾いし、その後は近衛部隊に所属して王を守る兵士でありながら、国王が一人の女性の意思によって操られている現実に失望した彼は、結局王権打倒に向けて狼煙を上げることになり、いわばフランス革命の闘士になってゆくというお話です。でき過ぎた設定です。ご都合主義の極みと呼ぶこともできましょう。
 しかし、男と女が愛を囁き合うことによって国家全体の大黒柱すら揺らいでしまうという事態が、実際の18世紀末のフランスで起きてしまったというのが史実なのであり、その史実に基づいて、まさしく愛が世界を動かすというメロドラマほどルビッチに相応しい題材も、またとないでしょう。ご都合主義がどうしたと立ち止まる余裕もなく、わたくしたちはルビッチの綴る絵巻に、文字通り巻き込まれるしかないのです。
 主演のポーラ・ネグリが猥褻なまでの色気を振りまき、国王に扮した名優エミール・ヤニングスが髪振り乱す熱演を見せます。
 活弁は御大・澤登翠師匠で、さすがの声色使い分け。英語字幕の翻訳も、実にこなれており、文句なしの素晴らしさでした。

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