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200×年映画の旅コミュの2007年4月下旬号(相米慎二)

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2007年4月下旬に侘助が観た相米慎二作品


「セーラー服と機関銃」(4月27日 シネマアートン下北沢)
1981年/監督:相米慎二

【★★★ 荒唐無稽な話だが、周囲の老人たちを醜悪に描くことで、薬師丸の魅力を引き立てることに成功】

 下北沢のシネマアートンでは、相米慎二の全作品を回顧する特集が始まりましたので、連休前の会社を早引けして足を運びました。
 「セーラー服と機関銃」は、81年製作、相米の監督第2作にして出世作。公開当時、あまりにヒットしていたので観るのを躊躇していたら、友人に面白かったと言われたので観に行って以来です。
 冒頭、雨の中をヤクザたちが車を走らせ、親分の臨終に立ち会うというエピソードは忘れていましたが、父親が亡くなった火葬場で、薬師丸ひろ子扮する主人公が、身体をブリッジのように折り曲げて変なポーズをとっている場面はよく覚えていました。相米は、ロングショット長回しを多用しつつ、薬師丸にこうしたポーズをとらせたり、画面の中を四つん這いで動き回らせたりするのを、まるごとフィルムに刻み付けようとしていたのですが、そうした作劇からは、とにかく映画の生きた呼吸を大事にしようとする姿勢を感じたものです。
 今回四半世紀ぶりに観直して思ったのは、赤川次郎原作の設定や展開の荒唐無稽ないい加減さだったのですが、田中陽造脚本も相米演出も、そうした荒唐無稽さをむしろ利用して、三国連太郎のマッドサイエンティストや北村和夫のロリコンといった奇異なキャラクターを造形することによって、逆に薬師丸の若々しい溌剌さを引き立ててみせるのでした。
 そもそも、女子高校生がヤクザの親分に祭り上げられるなどという馬鹿馬鹿しい設定を、どうすれば映画にできるかと言えば、物語の筋立てなどはハナから無視して、ただひたすらアクションの畳み掛けとして構成するしかないことくらいは、相米も田中も熟知していたのであり、深みのある芝居はできないが肉体的な若さと存在感は際立っている薬師丸を、魅力的に引き立てることだけが要請された題材においては、前作「翔んだカップル」で試みたワンカット長回しによる肉体の躍動捕捉という方法を、今回も踏襲するしかなかったわけで、この映画では、周囲の老人たちの醜悪な奇異さや設定の荒唐無稽さを強調することが、逆に薬師丸の魅力を引き立てることにつながるのだと確信し、それをひたすら実践してみせたのでしょう。そしてその試みは見事に成功したのであり、だからこそこの映画は、当時として期待以上の観客を集めることができたのです。 わたくし個人は、薬師丸という少女に魅力を感じませんが、この映画がまるごと捉えた少女の躍動感はいいと思います。
 ラスト、繁華街の地下鉄通気孔の上に薬師丸が立ち、モンローばりにセーラー服のスカートを翻らせる脇には、サード助監督としてついていた若き黒沢清の姿が見えました。


「ションベン・ライダー」(4月27日 シネマアートン下北沢)
1983年/監督:相米慎二

【★★★★★ 初めて観たが、話は荒唐無稽なものの、アクションこそが映画だと再認識させられる。面白い】

 シネマアートンにおける相米特集、この日の2本目は「ションベン・ライダー」。実は初めて観る映画で、これで相米慎二の全作品をようやく制覇したことになります。
 噂には聞いていたファーストシーンにおける手持ち長回しキャメラが、道路からプールの柵を越え、さらに校庭に所を移して暴走族のバイクを追い、校門から再び道路に出て壁に書かれた「ションベン・ライダー」の落書きを示すまでのダイナミックな動きだけで、観る者をグイグイ引き込みます。
 “デブナガ”と呼ばれるガキ大将を誘拐した木之元亮と桑名将大のやくざコンビを追って、河合美智子、永瀬正敏、坂上忍の悪ガキトリオが、中年やくざ藤竜也の力を借りながら繰り広げるロードムーヴィー。こういう設定ですと、藤の役柄は分別や見識のある大人になることが多いのですが、ここでの藤は体力も気力も萎え気味なくせにシャブ中で暴れるという悪ガキのなれの果てとして描かれており、藤が若者たちを教育するという構図ではなく、世代を超えて共闘するというニュアンスが強調されています。教条主義的な大人像としては、何かというと「警察に行きましょう」を繰り返す教師・原日出子一人が担っており、藤とガキどもの共闘性が浮かび上がるように出来ています。
 熱海に藤たち一行が来て、ホテルで藤に薬物中毒症状が出てしまう場面における、窓の外に繰り広げられる花火大会の映像の露骨なオプティカル合成や、名古屋で遭遇するヤクザ組織の連中が着た中日ドラゴンズのユニフォーム紛いの衣裳をはじめ、主人公一行が繰り広げる珍道中は陳腐とすら言えるほど定型を破るものであり、荒唐無稽なデタラメさの域に達しているのですが、例えば運河の中に材木が浮かべられた貯木場の中で繰り広げられる追いかけごっこの愉しい遊戯性、名古屋のヤクザに招かれた宴席での歌え踊れのドンチャン騒ぎなど、アクションの連なりが観客をテンポよく乗せてしまうのであり、映画は理屈ではなくアクションこそが命なのだと思い知らせてくれました。
 そんな中で、自分は男だと言い張っている河合が、月経の訪れに失望して一人で海に入ってゆく場面や、ラストで“祭りの終焉”を察知したガキどもが、泣きながら近藤真彦の歌を歌い踊る場面などに、言葉には置き換えにくい情感が立ち昇るのでした。
 訳はわからないが滅法面白い映画。


「魚影の群れ」(4月30日 シネマアートン下北沢)
1983年/監督:相米慎二

【★★★★ 相米の古典的正攻法による凄味や、メロドラマ作家としての資質を開花させた。夏目雅子がいい】

 GWの真ん中、ちょっと暑いくらいの上天気のレジャー日和に、わざわざ映画館の暗闇に身を隠すこともあるまいと思いつつ、「あんた、また映画?」というカミさんの呆れた声を背中で聞き流し、下北沢くんだりまで足を伸ばして、相米慎二を3本観ました。いずれも公開当時に観て以来久しぶりの映画です。
 1本目は「魚影の群れ」。昔観た時は、「翔んだカップル」や「セーラー服と機関銃」のような“お子様ランチ”ばかりを見せられてきた相米にも、このように骨太な古典的物語を編む力があることに驚きを覚えましたが、今回久しぶりに観直して、やはり堂々たる直球勝負に引き込まれました。
 肌寒そうな風が吹きすさぶ海を横移動で捉えたキャメラが、そのまま砂浜に残る足跡を追い始め、その足跡の先には砂の上でデートをしている佐藤浩市と夏目雅子がいて、佐藤が夏目にプロポーズしつつ、自分は夏目の父親を見習って漁師になると宣言する様子を延々と描き出すファーストカットの長回しから、「ションベン・ライダー」のファーストカットに漲った運動感とはまた一種違った、堂々たる演劇的な押しの強さが出されており、まさに古典的な物語作家としての力強さを感じさせます。
 緒形拳扮する老練の漁師が、娘婿になろうとする青年・佐藤の存在をやや疎ましく思いながらも、佐藤のことを愛してしまっている娘・夏目のためにと、マグロ1本釣りの漁法を佐藤に伝授しようとする教育的物語は、これまで数多くの映画で使われてきたものでしょう。一方、教育者としては失格者でしかなく、マグロを目の前にすると佐藤の存在はおろか、ほかの何物も眼中からは消え去り、マグロとの格闘だけに全身全霊を賭けてしまう生粋の格闘者という題材もまた、多くの物語で使われてきたパターンです。さらには、青年がついに一本立ちしようとしながらも、老練なるヴェテランの力量の前では敗北を強いられるという設定もまた、ごくありふれたものだとすら言えましょう。従って、そうした古典的な結構を組み合わせたこの映画の物語にも、目新しい部分を見つけることはできないでしょう。
 しかし、そうした古典的なお話に対して相米演出は、ワンカット長回しの徹底という力業によって、圧倒的な迫力と説得力を付与させることに成功しているのであり、わたくしたちは、スタンドインなど使わぬ緒形本人が体長2メートルはあろうかというマグロと格闘する長回しを、手に汗を握りながら見守るのであり、キャメラが気持ち俯瞰気味になって、甲板に血だらけで瀕死状態の佐藤が横たわっているのを見せるまで、わたくしたち観客も佐藤のことなど眼中になく、マグロと緒形の一進一退の攻防のほうに集中させられるのでした。
 雨の中を、元妻の十朱幸代のことを緒形が延々と追いかける場面のグイグイと引っ張る力強さもさることながら、この十朱と緒形の元夫婦が焼酎をチビチビとやりながら昔話を呟き合い、次第に魂が寄り添ってゆく様を能弁に伝えてしまう、いい意味でのメロドラマ性も、相米の資質として特筆すべきものでしょう。
 夏目や緒形が再三歌う「涙の連絡船」や、十朱が口ずさむ「チャンチキおけさ」など、既成曲を巧みに物語に援用してみせる手法は、神代辰巳に連なるものでしょう。
 まさにワンショット長回しの教科書とも言える正攻法の演出に圧倒され、役者たちの文字通りの熱演に引き込まれます。マグロと対決する緒形の凄味もさることながら、可愛らしさと逞しさ、そして柔らかい包容力を見事に体現してみせた。夏目雅子はいい女優だったと、改めて思います。


「台風クラブ」(4月30日 シネマアートン下北沢)
1985年/監督:相米慎二

【★★★★★ 登場人物たちのストレスが台風という形のカオスに結実する様が、実にスリリングかつ映画的】

 この日の相米慎二2本目は「台風クラブ」。相米映画の中でも一、二を争う傑作だと思っていましたが、今回観直して、やはりガツンときました。文句なしの傑作です。
 夜の中学校。施錠された扉を乗り越えてプールにやってきた少女たちが、ロック音楽に乗って踊り出し、プールの中では男子が一人、そんな女の子たちの様子を窺っているというオープニングから、すでに映画内の湿度はどんどん上がり始めています。ここでの相米演出は、決してワンカットに拘っておらず、女の子とプールの中の男子を切り返しショットで繋いでいます。晩年の相米は、どんどんカットを割るようになってゆくのですが、この「台風クラブ」での彼も、偏執的な拘りの持ち主ではないことをサラリと示しつつ、題材にとってベストの選択をするという、作家としての正攻法を貫いてみせるのです。
 映画の物語は、“起”としての夜のプールのエピソード(木曜日)を示したのち、“承”の金曜日には、学業優秀な主人公・三上恭一、その幼馴染の工藤夕貴、三上に熱い視線を送る大西結花、その大西のことが好きで三上とは野球部の同僚である紅林茂という四角関係を中心に、担任教師・三浦友和が恋人・小林かおりとの間で結婚するの、しないの、といったトラブルを抱えている様子(石井富子が教室に押しかけて展開するドタバタは、映画の中で唯一浮いていた場面として、残念です)などが描かれ、さらに映画内湿度が上昇してゆくのです。
 そして“転”の土曜日。朝から辺りはどんよりと曇って湿度はさらに上がっています。朝起きたらすでに学校は遅刻だと気づいた工藤が、衝動的にプチ家出を決意して東京に向かってしまうことが、どうやら湿度を臨界点に引き上げる契機となったようです。そして嵐。
 ここでわたくしが言う“映画内湿度”とは、映画に描かれる空気内の湿度を指すと同時に、劇中に登場する人物たちが抱えたストレスをも意味しています。そうした“湿度”が臨界点に達し、一気に風と雨を伴って映画内に渦巻き、カオスを招来させるのですが、そのカオスの持つやりきれなさ、祝祭性、暴力性などが、相米得意の空間把握によって、見事にまるごと画面の中に描き出されてしまう点に、この映画の凄味があります。わたくしたち観客は、己の身の周りにもまとわりつく湿度を感じながら、ただただ息を詰めて画面を見つめるほかありません。その体験の、何と豊かで、刺激的で、スリリングなことでしょう!
 こうしたカオスに立ち会いながら思うのは、“造反有理”の4文字です。若者たちの異議申し立ては常に決定的に正しいのであり、大人の論理など、そこには通用しないという厳粛なる事実です。
 とはいえ、「いいか若造、おまえもあと15年もすれば俺と同じになるんだ」と、若さを失った三浦に言われたのに対し「俺は絶対にあんたにはならない!」と断言しながらも、ほかの子たちより理知的な頭を持ってしまった主人公三上が「種は生に先行するのだ」などと訳のわからぬ“大人の論理”に毒された末、自ら死を選んでしまうところに、彼らが生きる時代の危うさがあったと思われますし、この物語の悲痛さも、あの三上の悲劇に集約されていると思います。
 しかし映画は“結”の月曜日のエピソードとして、プチ家出のことなどあっさり忘れたと思しき工藤が、冒頭でプールに入っていた能天気な少年・松永敏行とともに、池のようになった校庭を嬉しそうに進む姿には、やはり力強い若さの躍動を感じたのであり、「台風クラブ」という映画は、わたくしたちに元気を分け与えてくれる映画なのだと思いました。


「ラブホテル」(4月30日 シネマアートン下北沢)
1985年/監督:相米慎二

【★★★★★ 石井隆脚本と相米演出の美点としての、いい意味でのメロドラマ性が最大限に発揮された映画】

 この日の相米映画3本目は「ラブホテル」。個人的には相米の中で一、二を争うくらい好きな映画です。
 レイプ紛いの出会いをした、決して若くない男女が、次第に純愛に至るという、メロドラマ作家としての石井隆脚本のいい意味でのセンティメンタリスムが、相米の長回しによって見事に浮き彫りになった映画です。
 ヒロイン名美の速水典子が、不倫相手にかけた電話を切られたあとも受話器を離さず、独り語りにこれまでの哀しい愚痴を延々とぶつけ、バックには山口百恵の「夜へ」が流れるという名高い名場面は、今回もじんわりと胸に沁みたのですが、そういえばわたくしが少女漫画の編集者をやっていた頃、この場面をパクったという恥ずかしい過去も思い出しました。
 風俗嬢を殺して自分も死ぬというヤケクソ状態だったところで、彼女の官能の喘ぎに直面して、エロス、すなわち生への希求を呼び起こし、以来、彼女のことを天使と呼んでしまう中年男・村木の純情も、石井隆らしいメロドラマを体現しているのですが、こうしたいい意味でのメロドラマ性もまた、監督相米の美点でもあると思え、その美点が最大限に発揮されたのが「ラブホテル」なのだと思います。メロドラマ好きな中年男としては、こういう映画にはコロッと参ってしまうのです。

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