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黒島物語-BLUTAL ISLAND STORY-コミュのイエローの亡きがら

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人は誰しもが幸せでありたいと願う…しかし、逆に誰かの幸せを妬み、憎悪で塗り潰された心を抱いてしまうのも人の性である。

そんな有り触れた人々の歪みを、正すことが人々の幸せを確固たるものにするだろう。

これは一人の成年の心の成長を描いた物語である。

コメント(5)

クリップイエローの亡きがら

波第一話:腐食の花園

俺はどうにも納得がいかない。夢であるなら最終場面まで早送りするかのように終わって欲しい。
世界の未来なんて背負いたくはない、でも俺はこの日を境に責任と言う足枷を付けざるをえなかったんだ。

2015年8月、夏の日差しと日本というモイスチャーカントリーの気候区分にうんざりしていた一人の学生がいました。

彼の名前は桐島京(きりしまきょう)。日本共立大学、日本文学部に通うものを覚える事だけが取り柄の20才です。
今年の2月に成人を向かえ、2年前に出て行った実家には一度も帰った事がありません。

「ああ…もうこんな時間か、二限目なんて到底間に合いっこないさ…。」

京は何度となく気分が乗らない日は大学の授業を休んでいました。
今日も昼頃まで起きる兆しは一向に見えません。

そんなさなか、アパートの窓を開け放って熱を逃がしながら気持ち良く眠っている京のもとに一本の電話が来た。
京は俯せのまま渋々携帯電話をとりました。

「はい…頼むから寝かせて下さい。」

「寝てる暇があったら私と付き合いなさいよ。」

電話の相手は園村絵梨子という京と同じ大学に通う一つ年下の女学生でした。
スポーツ万能、学問においてもある程度の成績を納める美貌の持ち主です。

「俺は忙しいの。」

京は絵梨子に付き合わされるくらいなら眠りたいといった様子です。

「寝るのに忙しいだけでしょ。ちょっと選んで欲しいの。」

半ば強引に絵梨子に呼び出された京は中浜通りまで足を運びました。

「暑い、怠い…。」

すると見飽きた噴水広場に絵梨子が立っていました。

「あっ…私の美貌に釣られてやはり来てしまったか。」

絵梨子は白い歯を見せながら屈託のない笑顔で京を迎えました。

「殺すぞ…。」

「まぁまぁ…そうかっかしなさんな。後でアイス奢るから。」

そんなこんなで京は絵梨子の誘いでとあるカジュアル・ショップへ連れて行かれました。

「ここはなんだ。」

京はぶつくさと文句を垂れました。

「なんだ、って…もうすぐ夏休みでしょ。水着を選んで欲しいの。」

絵梨子は水着を選んで貰うためだけに京を呼び出した訳ではない、等と読者はお考えのようだと思いますが、絵梨子は本当にそれだけの為に京を呼び出したのです。
世の中そんなにおいしい話しはそう転がっているものではございません。

とは言いましても、お盛んな年頃の男子にとって、大学のマドンナの晴れ姿を拝めるとなれば、それはそれでおいしいのでしょう。

「何故俺が選ばなきゃならんのだ。」

京は不満そうに答えました。

「客観的に見てもらうのが一番でしょ。」

「そりゃそうだが…。」

「じゃあよろしく。」

京は渋々、ファッション・リーダー絵梨子の水着鑑定を請け負いました。
様々な品を取り替え引っ返し、試してみるものの、絵梨子は意志決定に踏み込めず、結局購入には至りませんでした。

時刻は午後の四時になり、絵梨子は約束通り、アイスを奢りました。
中浜通りの駅前のカフェで二人はくつろいでいました。

「いいのかよ…結局決まらず仕舞いじゃん。」

京は少し申し訳なさそうに言いました。

「別にいいよ…何事も焦って決めるのは良くないわよ。」

絵梨子は見かけに寄らず、大人びた考えの持ち主です。

「それにしても、随分とアイスをトッピングするものだな、コーヒーが原型を留めてないぞ。」

京は絵梨子の注文したアイスコーヒーにトッピングされたアイスの数を見て、些か驚いておりました。

「一、二、三…五個だけだよ。いつもより少なめにしてあるの。」

絵梨子は平然と答えました。

「じゃあいつもは七個か。」

京は冗談混じりで言いました。

「八個。」

京は絵梨子の胃袋の構造を本気で分析して学会で胸を張って発表でもしてやりたいと思いました。

「取れてもノーベルストマック賞ぐらいか。」

京は一人呟きました。

「何をごちゃごちゃと言ってるの。そうそう、明日は経営実務のテストがあるからちゃんとやっておいた方がいいわよ。」

京はうんざりと言った面持ちでアイスを頬張りました。

その後、二人は別れ、それぞれが家路につきました。

京がアパートに着いたのは午後六時です。部屋の中に入るなりテレビの電源を入れ、夕方のニュースを見ていました。

「小麦の値上がりか…ビールが買えなくなっても対して困りはしない。」

京は明日に控えるテスト勉強などお構いなしに実家から送られて来た泡盛を嫌々飲んでおりました。

「それにしても、お袋はもう少し気の利いた物を送ってこないものかな。いくら成人したからと言っても二十代の若者が泡盛を好んで飲んだりするものか。」
京は一日に話す事の半分は不平不満です。決まり切っていない自分の将来に不安も無くはない、しかし代わり映えしない日常に飽き飽きしている所でした。

そんな京の目に一つのニュースが目にとまりました。昨日の深夜二十二時頃、中浜区西野川三丁目に住んでいた荒川達夫と言う四十五歳、男性が果物ナイフで刺され、死亡していたというニュースです。

犯人は同じ西野川三丁目に住む永山聡子、十二歳の女の子でした。

両者にはこれといったつながりは無く、証言によりますと、怯えた様子で「彼の言う事には逆らえない。」、と述べていたとの事です。

彼女の母親が言うには、犯行の三日程前から様子がおかしいと述べており、自分の部屋に閉じこもり、彼女以外に誰もいないはずの部屋で誰かと話していた、との事です。

補足をすれば、聡子は携帯電話は所持しておらず、コードレス電話も利用していなかったのです。

警察は聡子に達夫氏を殺害するよう働きかけた人物を追っていますが、全く特定出来る証拠が見つかっていないようです。

京は年端もいかない十代前半の女の子が殺害に及んでしまった事に僅かながら衝撃を受けているようです。

「どうなってんだよ…。」

京は結局、テスト勉強をおろそかにしたまま眠りの世界へと旅だってしまいました。

その日の夜、京は悪夢を見ました。
真っ暗な自分のアパートの部屋の真ん中に立ち尽くし、窓の外を見渡すと、灰色の空に渦を巻くようにしてどす黒い霧が立ち込めていました。

「ここは、何処だ…俺の部屋だよな。」

京は背後に何者かの気配を感じました。
振り向こうにも恐ろしくて振り向く事が出来ません。しかし、確実に自分に近づいて来ているのを感じました。

引きずるような物音をたてながら部屋の隅から悍ましい何かが湧き出て来ました。

京は勇気を振り絞って、その姿を確認しました。
その姿は体中が腐っていて、鼻をつんざくような異臭を放ち、腐食のためか黄ばんだような色をしておりました。
顔は潰れていて殆ど確認出来ない状態です。
その謎の屍は唸り声を上げながら徐々に京に近づいて来ました。

「く、来るな…あっちへ行け。」

「醜い…憎悪が…貴様の……願い。」

謎の屍は京に覆いかぶさるようにして襲い掛かりました。

「うわぁ…。」

気がつけば、京は大学の教室の中でした。
急に叫び出した京の様子を見ながら周囲の学生達は静まりかえっておりました。

「あれ…。」

京は夢であった事に安堵の息を漏らしました。

「君はなんだ…叫びたくなる程、私の授業は退屈なのかね。」

日本経済史の旭川教授は京の様子を見て言いました。
それを聞いた周囲の学生達は笑い出しました。

「すんません…。」

京は調子が悪いために、四限目をすっぽかし、大学を後にしました。

帰り道の虹山大通りの向かいの歩道を絵梨子が歩いているのを発見しました。

「おい…絵梨子。」

京が声をかけたら、絵梨子は気がつき、こちらに渡って来ようとしました。
調度大型トラックが通過しようとしていたので絵梨子は渡らずに通過するのを待っていました。

ところが、トラックは急に道を反れて歩道に乗り上げて来ました。
大型トラックはガードレールごと踏み潰し、絵梨子は引かれてしまいました。

「えっ…。」

京は一瞬何が起きたのか理解出来ませんでした。
絵梨子は大型トラックのタイヤに巻き込まれ、ばらばらに引き裂かれてしまいました。

京の目の前に絵梨子の腕が飛んで来て、僅かに動いておりました。

「うわぁ。」

すると、京は自分のアパートの部屋のベッドの上でした。
時刻は午前七時、日付は八月二日です。
京は体中に汗をかき、息が荒くなっていました。

「ふざけんなよ…悪夢にしてはリアル過ぎる。」

京はそのままベッドの上に倒れました。
すると、京の携帯電話に着信が入りました。
京は電話を取り、眠気を押し殺して話し始めました。

「はい…どちらさん。」

「おはよう、まだ寝てんの。」

電話は絵梨子からでした。
京の心境は、今すぐにでも抱きしめてやりたい気持ちで一杯でした。
それ程に今朝見た悪夢が現実でない事に安堵していたからです。

「どうかしたの。」

絵梨子は、京の様子がいつもと違う事に違和感を感じました。

「別に…なんでもないです。」

「あっそう…ついでだし一緒に学校行こうよ。」

京は急いで身支度をし、アパートを出ました。
二人は中浜通りで落ち合い、大学に向かいました。

「何だか疲れてるみたいだね。何かあったの。」

絵梨子は京の様子を見て言いました。

「いや…昨日徹夜でゲームやっちゃって。」

京は昨晩見た悪夢の事など到底話せないと思い、それらしい嘘をつきました。
「ダメじゃん。あれほど勉強しておけって言ったのに。留年しても助けてあげないからね。」

絵梨子は呆れた顔で答えました。

二人が虹山大通りを歩いていると、前に薄気味悪い色白の女性の和服を着た人物が立っておりました。
顔を見ようにも笠を被っているために確認出来ません。

「なにあれ…。」

絵梨子は京に寄り添うようにして歩き、その人物とすれ違いました。

微動だにしない謎の人物を不気味に思い、二人は早足で通過しました。

「あんまりね…偏見とか、良くないけど、怖かったな。」

絵梨子は京の腕を掴んだまま震えながら言いました。

「そうだな…それはいいんだが、いい加減腕を離してくれないか。」

絵梨子は顔を真っ赤にして慌てて京の腕を離しました。

「お前って以外と臆病なんだな。」

絵梨子は頬を膨らまして言い返しました。

「生意気言うもんじゃないわよ。」

「あのなぁ…言っておくが、俺はお前よりも一個先輩なんだからな。」

京は不満げに言いました。

「そうだっけ。」

絵梨子は惚けた顔で言いました。

二人は時間よりもいくらか早く学校に到着し、キャンパス内へ入るやいなや、校舎の入口に黒山の人だかりを発見しました。

二人は何事かと気になり、様子を見に行きました。

「いったい何があったんだ。」

京は人だかりの前列に居る学生に話しを伺いました。

「それが…四年生の大塚先輩が屋上から突き落とされたんだ。」

「なんだって…。」

「なんでも、突き落としたのは用務員のおっさんなんだよ。」

どうやら屋上で喫煙していた四年の大塚純也という学生を当大学の雇われ用務員が突き落としたとの事です。幸、足の骨を折り、軽い脳震盪程度で済み、命に別状はないようです。

屋上とは言っても高々四階建ての校舎であり、柔らかい草木の上に落ちたのが良かったのでしょう。

その後、純也は救急車で運ばれ、用務員の金橋孝雄は警察に連行されました。

そんな事件があったためか、その日のテストは全て中止となり、京は仕方なくキャンパスの指定喫煙場でタバコを吸っていました。
すると、今朝すれ違った謎の人物が京に近づいて来ました。

「な…なんなんだよ。」

京は驚いてタバコを地面に落としたまま謎の人物に見入りました。
謎の人物はどうやら男のようです。

「煙草…煙草をくれ…。」

次回へ続く…

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