ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

黒島物語-BLUTAL ISLAND STORY-コミュの黒島物語-蝦夷編-

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ひょんな事から阿希と、蝦夷へ妖怪討伐を共にすることと相成ったバサージン、京太郎。
いったい三人にどのような脅威が待ち受けているのでしょうか!
黒島物語新章の始まり始まり。

危険・警告コメントの方は、書き込みの都合上、ご遠慮下さいあせあせ(飛び散る汗)お手数をおかけして申し訳ございませんが、別途トピックを設けましたので、そちらにコメントをお願い申し上げます乙女座

書き込み専用トピック
↓
http://mixi.jp/view_bbs.pl?guid=ON&id=34833963&comm_id=2648578

Blutal Island Story 黒島芭蕉布

コメント(128)

巨大戦艦の甲板の上ではローペと靖榎、後方に隆平と護衛の松前潘士達、後から来た京太郎が居ました。

「下らん…実に下らん奴らだ。」

隆平は応戦する雷牙団員を船から見下ろし、嘲笑しながら言うのでした。

京太郎は言いました。

「あんたが何を考えているのか…理解できない、理解したくもない、私欲の為に何千何万という命が消えていった。あんたは命を弄び過ぎた。」

隆平は京太郎を嘲笑い、言いました。

「人間とは…絶対的な力の前に服従する他ないのだよ。そして、頂点に立つ者は唯一人…この私だ。」

隆平は後ろに腕を組み、話しを続けました。

「絶対的な力の前に、義理や人情は無力だ。人間の心など金と権力でいかようにも動かす事が出来る。どうだ…ここは一つ、私と手を組まないか。さいわい、貴様は権力者としての能力は十分に備わっている。私と組めばいかなる欲望も叶えられるだろう。どうだ…悪い話しではないだろう。」

京太郎は腹部を押さえながら不意に大声で笑い出しました。そして吐き捨てるように言うのでした。

「ぶははは…最高だ、最高に…くだらねぇ。」

京太郎は甲板に唾を吐き、ののしりました。

「確かに俺は頭も切れれば腕っ節も立つ、おまけに男前ときたもんだ。」

ローペは頭をかきながら首をかしげました。

構わずに京太郎は話しを続けました。

「だがなぁ…金や権力で得た力なんざ、惹かれ合った人間同士の絆にはかなわねぇんだよ。」

隆平は言いました。

「どうやら、交渉は決裂のようだ。靖榎…奴らを迅速に始末しろ。」

「待ってました。」

靖榎はブラックサバスを構え、狙いをすませました。

「それで…どっちが先に相手してくれんの。」

「うるがぁ…ママのかたきぃ。」

ローペは勢いよく靖榎に向かって突進しました。

「おい…ローペ、迂闊に飛び込むな。」

京太郎は飛び込んで行ったローペに忠告しましたが、時すでに遅く、靖榎の鉄砲がローペの右足を捕らえました。

「うぎゃはあ…。」

ローペは自慢の足を潰されてしまい、絶体絶命の危機に陥れられました。
京太郎は助けに出ましたが、ローペはそれを遮りました。

「まて…お前、手を出すな…ママの仇、俺が殺す。」

ローペは右足を引きずりながらゆっくりと靖榎に歩み寄りました。
靖榎は容赦なく鉄砲を撃ちます。
鉄砲は三発発射され、一つは右肩に、二つ目は腹部に、三つ目は右耳に当たりました。
それでもローペは止まる事なく靖榎との間合いを詰めて行きます。

見かねた京太郎はローペに言いました。

「ローペ…もう無理だ。」

「ママの仇…。」

靖榎はこれほどまでに重傷を負っているローペが徐々に近づいて来る事に恐怖を覚えました。

「おいおい…奴は化け物かぁ。これで仕舞いだ。」

靖榎はさらにローペの左耳、左足、左腕を打ち抜きましたが、やはりローペは止まりません。

「くそ…どうなってやがる。奴は不死身か…。」

そして気がつけばローペは靖榎の目と鼻の先に居ました。

「きしゃあああ…。」

「ふざけんな…。」

靖榎は二十連発火繩の弾を全て使い、ローペを打ち抜きました。
ローペはついに力尽き、その場に倒れてしまいました。
靖榎は息が荒くなり、顔中に汗が滴り落ちていました。

「この化け物が…。」

すると、死亡したと思われたローペの右腕が靖榎の足を掴みました。

「この…畜生めが。」

ローペは頭を打ち抜かれ、完全に息をひきとりました。

「ちっ…油断大敵ってやつか。」

「全く…その通りだ。」

「なに…。」

気がつけば靖榎のすぐ横に京太郎の姿がありました。そして、鋭い回し蹴りを靖榎の頭に見舞いました。
靖榎は右腕で守りましたが、その拍子に大きく飛ばされてしまい、さらに右腕の骨が折れてしまいました。
ブラックサバスを甲板に落としてしまいました。

「ぐわ…う、腕が…。」

京太郎はさらに握りこぶしを作り、靖榎の肋骨を折ってしまいました。

「ぎゃあ…。」

靖榎は床に倒れて悶え苦しみました。

「あんたに殺された人々の苦しみはこんなもんじゃねぇぞ。」

「ま、待ってくれ…何が欲しい、金か。」

「そうだなぁ…じゃあ、あんたの命をもらおうか。」

「ぎゃああ。」

京太郎は中華剣を振り下ろしました。
しかし、剣は靖榎の頭の前で止められました。
靖榎は泡を吹いて気絶し、失禁してしまいました。
京太郎は剣をしまい、吐き捨てるように言いました。

「どこまでも救えない奴だな……こんな奴に殺されたとなりゃ、ローペもママさんも浮かばれねぇよな。ごめんな…。」

京太郎は眠っているローペの目を閉じてやりました。

「残るは隆平…牙諏、虎之助、紗弥さん…無事でいてくれよ。」

次回へ続く…
晴れ黒島物語-蝦夷編20-晴れ

波覚醒の牙波

「倉正さん…。」

「おう…みのりか。」

「また、そんな所で寝てたら寝返って海に落ちますよ。」

「大丈夫だ…むしろ、このまま海にさらわれて外の国へ流れて行ってしまいたい気分だ。」

「そんな投げやりな。」

「投げやりじゃねぇよ…夢だよ、夢…海の向こうにゃ見た事も聞いた事もねぇもんが山ほどあるにちがいねぇ。」

「そうですね…外の世は広く果てしないものなのでしょうね。」


「ああ……果てしないな、いや…もう果てたかな。」

「茂嗣、みのり…俺もそろそろかな。」

「牙諏…。」

「なんだ…お前、牛か。牛のくせして口がきけるのかよ…やばいだろ。」

牙諏は目を覚まし、気がつけば見知らぬ船の上でした。
そして、目の前には芭蕉布と阿希、そしてカムイの戦士達がいました。

「おい…大丈夫か。」

芭蕉布は牙諏の鼻を摘んだり頬を引っ張ったりして遊び半分になっておりました。

「牙諏…よかった。」

阿希も牙諏が目を覚ました事で安堵の息を漏らし、牙諏に強く抱き着きました。
芭蕉布もついでに首をしめるように抱き着きました。

「ぐえ…わ、わぁかったから離せって。傷にさわるっつうの。」

三人でじゃれあっている中、カムイの戦士達の長、カルムが仲間の戦士達の奥から姿を現しました。

「おぬしが船の破片にしがみついたまま気絶しているのを発見してな、このものたちの同士だと聞いて直ぐさま治療にあたらせた。」

「そうか…礼を言う。」

牙諏は座り込んだまま深々と頭を下げました。

「それで…みんなは無事なの。」

阿希は不安な面立ちで牙諏に問いかけました。

「わからねぇ…黒炎丸に残された紗弥には虎之助がついてる。京太郎もそう易々とやられるような奴じゃないだろうが…急がなければまずいのは確かだ。」

牙諏は未だ治り切っていない怪我にも関わらず無理に立ち上がろうとしました。

「っつ…。」

阿希は胸を押さえて苦しむ牙諏に手を貸しました。

「まだ無理よ…とにかく、黒炎丸まで全速前進で向かうから、それまで休んでいて。はい…海豹の干し肉とお水よ。」

「悪いな…少し休ませてもらうぜ。」

牙諏はその場で大の字になり、眠ってしまいました。

「カルムさん、カムイの皆さん…御助勢感謝します。友の一大事です、どうかよろしくお願いします。」

阿希はうやうやしく頭を下げ、感謝の念を示しました。
「こちらこそ…礼を言わねばならぬ。賊どもに苦しめられている多くの民を救う為に立ち上がってくれたのだ。それは我々に一つの希望と勇気を与えた。心から礼を言う。」

「カルムさん…。」

カルムは芭蕉布の方に顔を向け、言いました。

「まさか…おぬしと共に戦う事になるとはな。」

「これも何かの縁ヤサ…。」

芭蕉布とカルムは向かい合い、拳と拳を軽くぶつけ合いました。

「待っててね…今助けに行くから。」

阿希は海の彼方を見つめながら思いを巡らすのでした。
琉球とカムイの連合軍は全速力で黒炎丸に向かいました。


その頃、ハッチャス崎西海岸では巨大軍艦ムステイン号率いる松前軍二万と黒炎丸率いる雷牙軍三万が凄まじい戦いを繰り広げておりました。

「撃てぇ…松前をかんぷなきままに叩き潰せ。雷牙軍先駆け部隊の力を奴らにしらしめるのだ。」

最前線で戦っている先駆け部隊を率いる、隊長の川柳俊輔は雷牙屈指の鉄砲使いです。
その統率力と指示能力は雷帆に引けを取りません。

俊輔は的確な指示を出し、迅速な動きで松前軍を突破して行きます。

その先駆け部隊の後から次々と雷牙軍の船が進行して行きました。

「おのれ…あの先駆けは手強いぞ。」

松前軍配下達は急いで迎え撃つために砲撃の準備を調えました、しかし、先駆け隊長の川柳は部隊に指示を出し、砲撃を停止させ、艦隊は左右へ散って行きました。

「どうゆう事だ…おじ気ずいて逃げ出したか。」

すると、先駆け部隊の後方から特殊装甲船が突撃をかけて来ました。

「いえ…違います、後方から船が多数近づいて来ます。」

特殊装甲船は船体の前部に鋭い鉄製の矛のようなものが取り付けられ、主に敵の船に体当たりをかけて破壊する戦法を取ります。
艦隊は見事、体当たりに成功し、松前軍に壊滅的な打撃を与えました。

「今だ…一気に畳み掛けろ。」

先駆け部隊の活躍により、首尾よくムステイン号まで攻め上がる事が出来ました。

「ようし…敵は目の前だ。野郎ども、印檄諱(インフレイム)砲の発射に取り掛かれ。」

「いえっさ。」

雷帆の号令と共に、乗組員達は黒炎丸に取り付けられた大砲、印檄諱砲の砲撃に取り掛かりました。

「ふん…随分と図体のでかい船だが、この黒炎丸と張り合おうなんざ四万年と十三月早えんだよ。」

雷帆は敵方のムステイン号を見て張り合うようにして言いました。
「小野塚さん…黒炎丸がムステイン号を射程内にとらえた模様。」

「そうか…もうそこまで攻め上がって来たか。」

配下の報告を聞いた隆平は不気味な笑みを浮かべながら言いました。

「己の無力さを思い知るがいい。人間ごときがこの私に刃向かう程愚かなものはない。」

隆平の不可解な言動に配下の一人は首を傾げました。

甲板の上で戦っている京太郎は、黒炎丸の砲撃準備の様子をいち早く察知しました。

「おいおい…何やらど偉いものをぶっ放そうとしていやがるぜ。」

京太郎の様子を見ていた松前潘配下達も黒炎丸の方にやっと気がつきました。

「まずいではないか。」

「なんとしてでも食い止めなければ。」

「駄目です…こちらの砲撃準備が間に合いません。」

京太郎はムステイン号から海の中へ飛び込もうと試みましたが、到底間に合う訳がなく、荒岸の砲撃号令と共に印檄諱砲が放たれました。

「畜生めが…。」

印檄諱砲はムステイン号に直撃し、広範囲に爆発が広がり、高々と水しぶきが上がりました。
他の松前潘船も幾艘が巻き込まれ、雷牙軍は松前軍に壊滅的打撃を与えたかに見えました。

しかし、立ち上がる煙の中には無傷のムステイン号の姿が有りました。

伏せていた京太郎は、事の状況がつかめずにいました。何故ならば、ムステイン号を包み込むように不可思議な結界が張り巡らされていたからです。

「馬鹿な…ありえねぇ。」

荒岸は黒炎丸の切り札とも言える印檄諱砲を直撃させたにも関わらずムステイン号に傷一つ負わせる事が出来なかった事に困惑仕切りです。

またもや京太郎は不幸中の幸と言える状況ですが、不利な状況である事に変わりはありませんでした。

「とにかく隆平は後回しだ、牙諏達を救い出さねば。」

京太郎は黒炎丸の甲板を遠目で見渡しました。
すると、後ろ手を縛られた虎之助と紗弥の姿を発見しました。

「居た…無事だったか。だが、牙諏の姿がない。まさか…。」

京太郎は急いでムステイン号から脱出しました。
その際、ローペの亡きがらを担いで甲板の隅に備え付けられた小船を切り離しました。

「おい…逃げたぞ。」

「撃て。」

京太郎は小船に乗り込み鉄砲をかい潜りながら黒炎丸へ漕ぎ出しました。

「くそったれが…どうなってやがる。」

荒岸はムステイン号の不可解な構造と謎の結界にいかようにして切り込むべきか選択に思い悩みました。
そんな中、黒炎丸の乗組員達がざわめきました。

「ぎゃ、逆賊の一味だ。」

「ローペ様を担いでいるぞ。」

荒岸と疔毘庵は騒ぎの先を見入りました。
そこにいたのはローペを担いだ京太郎でした。

「京太郎。」

「生きていたのか…。」

紗弥と虎之助は驚きの声をあげました。
京太郎は黙ってローペを担いだまま荒岸の方へと歩み寄りました。
すると助三郎が京太郎に向かって刀を向けました。

「聞いたぞ。姐さんを殺したのはお前だろ。」

京太郎は暫く助三郎の顔を見ながら悲しげな表情をしました。

「姐さんばかりか…ローペ様まで殺しやがったな。許さねぇ。」

「待てや…助三郎。」

荒岸は言いました。

「わざわざ殺した相手を担いで敵陣に乗り込む阿呆がどこにいやがる。隆平の仕業だな…。」

「さすがは天下の大倭寇、まともに話しを聞いて貰えそうだな。」

京太郎は荒岸にムステイン号での不可解な現象について話しはじめました。

「あれは間違いなく結界だ。不可思議な力を使って外からの攻撃を完全に防いでいた。」

「並の人間がそんなでたらめな芸を出来るものか。」

助三郎は言いました。

「そうだな、並の人間ならな…だが、人間以外なら可能だと言う事か。」

疔毘庵は言いました。

「つまり…隆平は人ならざる者か。」

虎之助が補足して言いました。

「そんな訳があるか。」

助三郎は断固信じようとはしません。

「まぁ…いずれにせよ、砲撃は無意味だという事だ…。」

京太郎はその場を納め、結論に入りました。

「そこで、少し手荒いやりかただが…この黒炎丸ごとムステイン号へ体当たりを仕掛け、船内へ乗り込み、隆平を直接討つ、というのはいかがかな。」

京太郎は荒岸に案を持ち掛けました。

「かまわねぇよ…一次休戦だ。言っておくが、俺はお前達の仲間を一人斬った人間だ、機を見計らって寝返りなんて真似は無意味だぜ。」

荒岸は鹿目面で京太郎に言いました。

「誓って言うが、そんな卑怯な真似をするような人間なら、とうに隆平に下っているだろうさ。条件は隆平を討つまで協力する。その次はあんただ。だから…そこの二人を離してやってくれないか。」

京太郎は曇りの無い眼差しで荒岸に訴えかけました。

荒岸はにやりと頬を綻ばせ、言いました。

「ふん…お前達のような仲間がいれば、世界なんざたやすく取れたのかもしれねぇな。」
そう言うなり、荒岸は縄を刀で切り離し、虎之助と紗弥は自由の身になりました。

「隆平を討ったら…次はお前の命を頂く。」

紗弥は睨みつけながら荒岸に言いました。

「ああ…解ってるぜ。」

荒岸は悲愴感の漂う表情を浮かべながら答えました。

「行くぜ、野郎共。狙うは隆平の首。」

「うおぉ。」

黒炎丸は全速力でムステイン号へ突撃を開始しました。

すると東の方角から黒炎丸へ砲撃をする船が幾艘現れました。
黒炎丸とそれを取り巻く雷牙部隊は不意の砲撃に対応出来ずに意図もたやすく態勢を崩されてしまいました。

「お頭、東の方角から砲撃を受けておりやす。」

「くそが…伏兵を仕込んでやがったか。…かまわねぇでムステインに突っ込むぜ。」

疔毘庵は急いで小雪姫を船内へ非難させました。

「小雪の方様、俺から離れないようにしてください。」

「承知しました。」

しかし、黒炎丸は完全に四方八方から包囲網を張られ、袋のねずみとなってしまいました。

「ちょっと…まずいんじゃないの。」

京太郎はさすがの黒炎丸もここまでかと考えていた所に突然、前方の松前船に火矢が飛んで来ました。

「ぐわ。」

「敵襲か。」

松前藩師達は飛んで来る火矢に悪戦苦闘しました。

「なんだなんだ。」

荒岸は西の方角に雷牙軍以外の味方の存在を確認しました。

「あれは…。」

紗弥は見覚えのある姿を目にした時、一筋の希望の光がさしました。

一艘のカムイ軍勢の船の先頭に芭蕉布と阿希、そしてカルムが立っていました。

その後に続いてカムイ軍勢が幾艘も陣を成しておりました。

「小野塚殿、カムイの軍勢がこちらに向かって来ております。」

宇治雅明は報告に来ました。

「潰せ…。」

隆平はカムイ軍勢に砲撃するよう雅明に命じました。
ムステイン号の大砲が芭蕉布達の乗っている船に向けられました。

「まずい…芭蕉布、逃げろ。」

京太郎の叫びも虚しく、カムイ軍勢に向けて砲撃が実行されました。

「うてぇ。」

三つ、四つと放たれた弾は全て命中し、激しい爆風と共に水しぶきがあがりました。

「くそったれ。」

京太郎は愕然と膝をつきました。
しかし、なんということでしょう、船は無事でした。

甲板の先頭で芭蕉布と阿希は手を繋ぎ、強力な妖気と霊気を合わせて結界を張っていました。

「芭蕉布、行くわよ。」

「…ああ。」

次回へ続く…
晴れ黒島物語-蝦夷編21-晴れ

曇り闇の咆哮曇り

「小野塚さん…こちらの砲撃が防がれました。傷一つ負っていません。」

松前潘配下、宇治雅明の心中は一つの迷いと疑心暗鬼にかられていました。
自分は何の為に松前潘に奉公しているのか、本当に正しい事とは何なのか、今自分がやっている事は真の意味で正しい事なのか。

報告を受けた隆平は小さな声でつぶやきました。

「ついに来たか…。」

雅明は隆平の様子がおかしい事を察しました。

「くくく…私が欲していた血の臭いがするぞ。」

隆平の体に異変が起きました。
体中から血管が浮き上がり、口から牙が、腕から大きな斧のような部位が生え、みるみる内に体が大きくなり、ノコギリのような背鰭の生えた真っ赤な鬼となりました。

身の丈は八尺八寸(二百六十四センチメートル)、物凄く発達した筋肉と鉄砲をも弾き返す程の丈夫な胴体を持ち合わせた妖怪です。

「おのれ…妖怪。」

雅明は果敢に隆平に挑みました。
しかし、隆平の肩を切り付けた刹那、雅明の刀はいとも簡単に折れてしまいました。

「ば、馬鹿な…。」

隆平は凄まじい勢いで腕に生えている斧で雅明を薙ぎ払うように斬りつけました。

「ぼがは…。」

雅明の腰から上が赤子を捻るが如く飛ばされてしまいました。

隆平は雅明の下半身を踏み潰し、唸り声を上げました。

「宮古御神(ミークヌウカミ)…貴様の血が欲しい。」

阿希はいち早く隆平からはっせられている悍ましい妖気を感じ取りました。

「こ、この妖気は…邪神・眸牙鬼(むがき)。」

阿希は二年前の忌まわしい記憶を呼び覚ましました。

時は二年前に遡り、安永五年(一七七六年)、首里での城内石畳での事でございます。
丑三つ時、首里城を突如襲った妖魔が居ました。その妖魔こそ小野塚隆平の真の姿、邪神・眸牙鬼でした。
国王は王室で寝床を襲われたために危うく命を落とす所でしたが、王の危機を察して警護にあたったノロ(巫女)達の活躍により、眸牙鬼を封印することに成功しました。
その際、呪縛を張られ、身動きが取れない眸牙鬼はノロ達に言いました。

「おのれ、人間ども…我は再び蘇り、この世を闇で覆い尽くしてくれるわ。」

当時、阿希は十八歳、一端のノロとして王宮に仕えて五年になりました。
阿希は琉球国隠密武術集団・乙樽(ウトゥダル)の戦士の一人でした。
「怖いのですか…阿希。」

聞得大君の照椰(ティーラ)は、目の前の恐ろしい妖魔に僅かに恐れを抱き、震えている阿希を見て言いました。

「いいえ…恐れなどございません、やしが…どんなに訓練を積んでも実戦においては半分の力も発揮出来ませんでした。私はまだまだ未熟でございます。」

阿希は己の無力さに苛立ちを感じておりました。

「何事も、力で押し込めようとしてはなりませんよ。時の流れを感じ、自然の理のままに生きる事がなによりも大切な事です。」

「聞得大君様、お言葉ですが…私には未だ理解するに至らない境地です。」

照椰は微笑んで言いました。

「あなたにも、すぐに解る事です。」


恐怖感というものは、己の潜在能力を余すことなく発揮するのに妨げにしかならない。
阿希にとって眸牙鬼の強大な力は照椰なくして抑えられるとは到底思えないのです。

「阿希…。」

芭蕉布は阿希の震える手を両手で握りしめました。
何やら温かい妖気が阿希に送られているようです。

すると、不思議な事に阿希の震えが嘘のように無くなってしまいました。

「そうね…私はもう一人じゃないもんね。」

阿希はにこりと笑い、芭蕉布は黙って頷きました。
そして、後ろから牙諏が阿希の肩を掴み、言いました。

「さてと…何やらややこしい事になっているみてぇだが、俺にはやる事が残ってる。早急にあの化け物を叩くぞ。」

「…うん。牙諏も無理しないでね。」

「朝飯前だ…。」

そう言って、牙諏は火繩を片手に船の先頭に立ちました。

カルムは全軍に指示を出し、ムステイン号へ突撃をかけました。

その状況を見て、雷帆もまた全軍に指示を出し、負けじとムステイン号に攻め入りました。

「何が何だか解らねぇが、奴らに遅れをとるんじゃねぇ。」

「うおお。」

双方の船はムステイン号に勢い良く体当たりをかけ、琉球蝦夷連合軍及び、雷牙軍の乗組員達が次々と甲板から甲板へと乗り移り、攻撃をしかけました。

「乗り込まれたぞ…迎え撃て。」

ムステイン号の甲板上は多くの軍勢が入り乱れ、乱戦状態となりました。

松前軍は奇襲をかけられた為か二つの軍勢に押し負け、次から次へと倒されて行きました。

「そら…一気に畳み掛けろ。」

雷帆、虎之助、紗弥の三人は次から次へと襲いかかってくる松前藩士達を素早い動作で倒して行きます。

「女ぁ…図にのるな。」
「まずいわ…。」

後方から不意を突かれた紗弥は短刀で受けようとしますが、僅かに反応が遅くなり、絶体絶命の危機に陥りました。
その瞬間、何処からともなく火繩の銃声が響き渡ります。

「なに…。」

後方から襲い掛かった松前藩士はその場に倒れ、銃声の向こうには鉄砲を担いだ牙諏の姿がありました。

「ああ…夢じゃないのね。」

牙諏はほんの僅かですが、紗弥に対して微笑みかけているようにも見えます。

「ちぃ…手間をかけさせやがる。」

相変わらずの憎まれ口を叩き、紗弥の下へ駆け寄りました。

「牙諏…生きてたのね。」

「ああ…お蔭様でな。」

牙諏は紗弥から落とした刀を受け取り、万全な体勢となりました。

「紗弥…手前にはこの俺が指一本触れさせやしねぇ。」

牙諏は紗弥の前に守るようにして立ち、前方に立ち塞がる松前藩士六、七人をいとも簡単に斬り倒してしまいました。

京太郎、阿希、芭蕉布、カルム達の善戦も効を成し、ついに眸牙鬼を追い詰めました。

「折角のお膳立ても台なしね…眸牙鬼。」

眸牙鬼の周りを取り囲むようにしてカムイ軍勢が弓を構え、雷牙軍勢は鉄砲を向けました。
阿希は冷静かつ強気で眸牙鬼に詰め寄りました。

「宮古御神…貴様は潰しておかねば。貴様の霊力は我々妖魔にとって脅威となる。」

京太郎は阿希が琉球の使者の中でも突出した能力の持ち主である事は薄々気付いていた事ですが、宮古御神とまで呼ばれ、恐れられる存在だとは露ほども思っていませんでした。

「阿希…宮古御神ってなんなんだよ。」

阿希は淋しげな目で京太郎を見つめ、言いました。

「ごめんなさい…今は多くを語れない。」

芭蕉布は眸牙鬼と対面し、互いに睨み合いました。

「貴様が、宮古御神の契約者か…。同じ妖魔が聞いて呆れるわ。ぐわはははは。」

「…その薄汚い面を近づけるんじゃない。」

「なんだと…。」

眸牙鬼は怒り心頭し、芭蕉布の頭目掛け、腕に生えた斧を振り下ろしました。
それを芭蕉布は片手に握った刀で受け止めました。

「…き、貴様。」

「…阿希は俺が護る。それが俺の生きる理由ヤサ。」

眸牙鬼は声高らかに笑いだしました。

「ぐわははは…愚かな。貴様は解っているのか、契約者とは主の傀儡人形に過ぎぬ存在だぞ。」

芭蕉布は言いました。
「否定はしない…やしが、阿希は、理由も無く生き続けなければならないこの俺に希望という名の光を与えた。」

阿希は芭蕉布の心中を聞いて、嬉しさに涙を堪えました。

「それだけじゃない…京太郎は友愛の精神を教え、牙諏は真剣の心得を授けてくれた。」

京太郎と牙諏は芭蕉布の後方に立ち、それぞれの武器を抜き、構えました。

「貴様のような己の欲望の為にしか生きれない存在は、哀れだという事だ。」

芭蕉布は吐き捨てるように言い、両の手に刀を握りしめました。

「おのれ…言わせておけば、いい気になるなよ。二年前の屈辱から目覚めた我が力、とくと味わうがいい。」

眸牙鬼は大きく息を吸い込み始めました。
阿希は危険を察知し、全員に注意を促しました。

「駄目…みんな逃げて。」

すると眸牙鬼は口から紫色の炎を吐き出しました。
火は広範囲に広がり、多くの戦員達を巻き込みました。

「うぎゃあ…。」

荒岸、疔琵庵の二人は高く飛び上がり、ムステイン号の太く丈夫な帆柱を眸牙鬼に向けて切り倒しました。
柱は眸牙鬼の頭部に直撃しました。口から吐き出された炎は止み、眸牙鬼は一瞬怯んだ様子を見せましたが、効果の程は無いようです。

「ぐぶふ…小癪な真似を。」

その隙に牙諏が眸牙鬼に飛び掛かり、素早く居合を抜いて見せました。

眸牙鬼の腕を落とそうと斬り付けましたが、牙諏の刀はいとも簡単に折れてしまいました。

なんと丈夫なことでしょう。これでは全く成す術がありません。

「刀等、この私には乾いた棒切れに過ぎん。死ぬがいい。」

眸牙鬼は両腕の斧を薙ぎ払うように素早く振り回しました。
牙諏は素早い身のこなしで避けて行きますが、刀を折られてしまい、しかも眸牙鬼の攻撃により、付け入る島がありません。

「者ども、放て。」

カムイの戦士達は、一斉に火矢を放ちました。
雷牙軍も鉄砲を一斉射撃し、火矢と鉄砲の波状攻撃を展開しました。
全て命中しましたが、眸牙鬼にかすり傷一つ追わせる事が出来ません。

「ぐわははは…無駄だ。」

虎之助と紗弥の二人は松前藩士と戦っている為に芭蕉布達の護詰に向かう事が能わず、疲労も限界に達しておりました。

「紗弥…大丈夫か。」

「ええ…何とか持ちこたえているわ。少し数が多いかしら。」

二人は肩で息をし始め、今にも倒れてしまいそうです。

その時です。
倒したはずの松前藩士達が次から次へと起き上がって来ました。
いったいどうゆう事でございましょうか。
雷牙軍、カムイ軍は顔面蒼白です。

「ひ、ひえ…化け物。」

「一部の松前藩士達は妖だったか。」

蘇って来た松前藩士達は、目はうつろであり、生気を帯びていない様子。
もはや人間の言語とも言い難い唸り声を発して雷牙軍、カムイ軍に襲い掛かりました。

手下の助三郎は恐怖のあまり、腰を抜かしてしまいました。

それを庇うかのようにして雷帆が立ち塞がりました。

「ひぃ…お、お頭ぁ。」

助三郎と雷帆を取り囲むように松前藩士が七人、迫って来ました。

「ったく…だらしねぇ、それでも雷牙の一員かよ。」

「し、しかし…。」

助三郎の握る刀が震えております。
それを見て、雷帆は言いました。

「討つんじゃねぇのか…。」

助三郎は雷帆の背中を見つめながら聞きました。

「討つ…。」

「鶴女、いや…ヤンネの仇だよ。」

助三郎は雷帆の言葉を聞くやいなや、立ち上がり、刀を構えました。

「その意気だ…しっかり付いて来いよ。」

「了解…お頭。」

二人は松前藩士達に果敢に挑みました。

虎之助、紗弥の二人も空前の灯といった状況ながら善戦しております。
紗弥は後方から襲い掛かって来た松前藩士の顎から上を携えて来た小刀で綺麗に切り裂きました。

「何度も同じ手に引っ掛かるとは思わない事ね。」

しかし、顎から上を落としたはずの松前藩士は再び立ち上がり、紗弥に切り掛かりました。

「紗弥。」

虎之助の呼びかけで辛うじて横へ跳んで避けてはみましたが、紗弥は右腕を深く切り付けられてしまいました。

「ああん…。」

虎之助は直ぐさま駆け寄り、容赦なく襲い掛かる松前藩士を切り倒し、紗弥を抱き上げ、敵が手薄な船室へ連れて行きました。

「大丈夫か…出血が酷い。」

虎之助は急いで消毒し、持ち合わせの晒しで傷口を覆いました。

「ごめんなさい…これでは戦えそうにないわ。」

紗弥は既に戦う気力を使い果たし、身動きが取れない状態となってしまいました。

「しばらくここで待機しているんだ…。」

虎之助はそう言い残し、部屋を出て行こうとしたら、紗弥は虎之助の手を掴み、言いました。

「お願い…死なないで。」

虎之助は黙って頷き、船室を後にしました。
ところが、虎之助が船室の扉を開けた、その前方の通路には松前藩士達が列を成して迫って来ておりました。

虎之助は背中に背負った鉄砲、種子島改を静かに構えました。

「ここから先は…ごきかぶり一匹通さない。」

一方、芭蕉布達は、眸牙鬼の強力な妖術の前に悪戦苦闘しておりました。

「おい…このままじゃ全員おっちんじまうぞ。」

牙諏は眸牙鬼に対して様々な物理的攻撃を加えてはみるものの、全く効果がないことに焦りを覚え始めました。

「刀や火器による攻撃は効果がないわ…眸牙鬼の魔甲気を打ち砕かなければ。」

阿希は幾度となく、霊気を放出し、眸牙鬼の魔甲気を打ち砕こうと試みますが、眸牙鬼の妖力の方が勝っているため、打ち砕く事が出来ないようです。

「どうすりゃいいんだ。」

京太郎は眸牙鬼の攻撃を避けながら阿希に問い掛けました。

「眸牙鬼よりも強力な霊気が必要、やしが、私一人の霊気ではそれが出来ない。」

牙諏は甲板上の樽や鎖を眸牙鬼に放り投げてはあがいて見せます。

「ありゃ…犯則だろ。」

阿希は考えを巡らせ、芭蕉布を呼びました。

「芭蕉布。」

直ぐさま芭蕉布は阿希の目の前に立ち、指示を待ちました。

「いい、良く聞いて。眸牙鬼の魔甲気を砕くにはあなたの力が必要よ。」

芭蕉布は頷きました。

「今から二人で眸牙鬼の懐に潜り込み、同時に突きによる攻撃を浴びせるわ。その際に気をつけて欲しい事は、一瞬の擦れもない完全な同時攻撃が必要となるわ。常に私と波長を合わせてね。」

芭蕉布はただただ頷きました。

「ぐわはは…この期に及んでまだあがくか、宮古御神。」

眸牙鬼は阿希に向かって突進してきました。

「血をよこせぇ…。」

阿希は突進をかけて来た眸牙鬼を迎え討つ為に薙刀を構え、芭蕉布と同時に駆け出そうとしたその瞬間、降り積もる雪に足を滑らせ、派手に転倒してしまいました。

「うりひゃ…。」

「阿希…お馬鹿。」

芭蕉布は阿希の下に駆け戻りました。
しかし、眸牙鬼は目前まで迫って来ました。

「やっぱり駄目…恐いよ。」

阿希は目を伏せてしまい、頭を抱えてうずくまりました。

「阿希…。」

その時です。京太郎が眸牙鬼の前に立ち塞がり、先ほど雷帆と疔琵庵が切り倒した船の帆柱に取り付けられた帆を眸牙鬼の顔に被せてしまいました。
「うお…前が見えぬ。」

眸牙鬼は一瞬うろたえました。

「芭蕉布、阿希、今だ…。」

京太郎は二人に呼びかけました。
それに気が付いた阿希は再び芭蕉布と共に立ち上がりました。

「芭蕉布…もう一度。」

「うう。」

二人は一瞬の擦れもなく駆け出しました。
それは、まるで鏡を見ているかの如く、僅かな乱れも有りません。

「おのれ…。」

眸牙鬼は帆を取り除き、体制を立て直しましたが、時既に遅く、芭蕉布と阿希の二人が目前まで迫っておりました。

「永遠の眠りにつくがいい、眸牙鬼。」

二人は刀と薙刀の突きによる完全な同時攻撃を繰り出しました。

「合体奥義…龍潭希蕉点睛(りゅうたんきしょうてんせい)」

「ぐわあああ…。」

眸牙鬼は悶え苦しみ、全身を覆っていた魔甲気が剥がれ落ちて行きました。

二人は直ぐさま眸牙鬼から間合いを取り、牙諏と京太郎に指示を出しました。

「今よ…とどめを。」

松前藩士に取り囲まれた疔琵庵が牙諏に向けて刀を放りました。

「あんた…こいつを使え。」

牙諏は刀を受け取り、京太郎と共に、眸牙鬼に鋭い一閃を見舞いました。

「てめぇは地獄がお似合いだ。」

牙諏は眸牙鬼に最後の言葉を投げかけました。
それに同調するように京太郎も言いました。

「俺も同感…。」

眸牙鬼はその場に倒れ、元の小野塚隆平の姿に戻りました。
蘇った松前藩士達も、次々と生命力を失い、倒れて行きました。

船室で体中に返り血を浴びた虎之助も、今にも倒れそうな状態の中、善戦し、紗弥を守り通しました。

「どうやら…助かったみたいだ。」

虎之助は疲労のあまり、その場に腰を下ろしてしまいました。
騒ぎが収まった事を察して船室から出て来た紗弥は、虎之助が通路に倒れてしまっているのを見て、肩を揺さぶって声をかけました。

「虎之助…嘘でしょ。死なないで。」

すると、紗弥は、虎之助がいびきをかいて眠っている事に気がつきました。

「もう…心臓に悪いわ。」


そして、生き残った松前軍は雷牙軍、カムイ軍の捕虜となりましたが、阿希の必死の交渉の末、斬首刑までは免れました。
松前藩士達は各奉行所に送還され、中には、生き恥を晒す事を拒んで自刃をする者もいた。

松前藩士の中には、まだうら若い十代の武士も居ました。
阿希にとって、自分と同じ歳の少年達が命を失って行く事は、非常に堪え難い苦痛だったのでしょう。

眸牙鬼は阿希とカムイ戦士長・カルムによって浄化されました。

しかし、これで全ての問題が解決された訳ではありません。
そうです、雷牙軍とカムイ軍の領土問題です。
そして、色丹半島への上陸を果たす為には雷牙の協力が必要になって行きます。

荒岸雷帆は芭蕉布達と、戦士長のカルムを黒炎丸へ招き入れ、ついに決戦が行われようとしています。

今回の講釈はここまで。次回に続きます。お楽しみに。
晴れ黒島物語-蝦夷編22-晴れ

曇り墓守り京太郎曇り


安永元年(一七七二年)、奄美大島での事でございます。

これは、島で流行した病により、最愛の妻を失った水夫の成年、京太郎が大和へ渡る以前のお話です。

季節は調度秋頃の九月、それでも気温の高いこの島では、活気に溢れた人々が日々、自給自足の生活を送っておりました。

暁烏が鳴く頃、京太郎の父清彦は歳に負ける事なく、いつものように漁に出る身支度をしていた時の事です。

「京太郎…引き網を持って来い。ぐずぐずするなよ。」

京太郎も今年で二十歳になります。体つきは日々の漁生活で鍛えられ、身の丈は五尺七寸とたくましい成年へと成長しました。

「親父はいつになったら引退を考えるんだろうな。」

京太郎は清彦の罵声を聞き流しながら、一通の手紙に目を通しておりました。
手紙は島田弘久からのもので、士官先の東喬(トンチン)での生活や京太郎との思いでの日々が綴られておりました。

「はは…元気そうでなによりだ。」

京太郎は思わず微笑みました。しかし、とある一文を見るなり悲しげな表情を浮かべました。


【お前も東喬で商いを始めてみないか、お前なら一流の商人になれるよ、私が保証する。もちろん、ナビーも共に。】

京太郎は手紙を懐にしまい込み、考えに耽りました。

「弘久にはまだ言ってなかったな。」

時は半年前に遡ります。

降りしきる雨の中、京太郎は急ぎ足でとある場所を目指しておりました。

行き着いたその場所はナビーの住む家でした。
京太郎は息を切らしながらナビーの家の玄関へ駆け込みました。

「チルー叔母さん…ナビーは…。」

チルーは黙ってナビーの居る部屋へ案内しました。

そこには流行り病にかかって床に伏せっているナビーの姿がありました。

「き…京…太郎…さ…ん。」

ナビーは今にも消えてしまいそうな蝋燭の火のように弱々しい声で言いました。

「ナビー…。」

チルーはナビーの症状について静かに語り始めました。

「一週間も前から体調を崩して…日に日に目も見えなくなり、声も殆ど出なくなってしまったわ。」

京太郎は、ナビーが発病してから解っておりました。何れの医者もさじを投げる程の重病であることに。
ただ、信じたくなかったのです。
この、地に突き落とされるような現実を。
「ナビー…。」

京太郎は痩せ細ったナビーの手を握り締め、ただ悲しみを表に出さないよう無理に笑顔を作って見せました。

「…京…太郎さん、こ…れ。」

ナビーは左手に握り締めていた首飾りを京太郎に手渡しました。島では珍しい発光石です。光を吸収し、暗闇で美しく輝く不思議な石です。

「大…丈夫、京…太郎さん…私は、独…り…じゃな…い。」

京太郎は己の感情を抑え切れずにナビーの肩を強く抱きしめ、泣きました。

「ふざけんなよ、何でだよ。何でお前じゃなきゃ駄目なんだよ。」

ナビーは震える手を静かに京太郎の頬に宛がい、すっかり弱った声で囁くように言いました。

「アマ…ミ…キヨ。」

そして、ナビーは永遠の眠りについた。京太郎に謎の言葉を残して。

京太郎は手紙を懐にしまい込み、漁に向かいました。

夕刻になり、本日も大漁という事で清彦は上機嫌で市場へ卸しに行きました。

「今日も大漁だったな、京太郎…お前はもう立派な水夫だ。後顧の憂い無くお前に後を継がせる事が出来そうだ。」

清彦は大笑いしながら泡盛を飲みました。
京太郎は何やら浮かない顔をしておりますが、淡々と清彦の話しを聞きながら、ある考えを巡らせておりました。

翌日の朝、生憎の悪天候により、漁は中止となりました。
横薙ぎに降り注ぐ雨が嵐の凄まじさを物語っていました。

「京太郎、京太郎。あんの野郎、一体何処にいっちまいやがったんだ。」

清彦は朝目覚めたら京太郎の姿がない事に気が付きました。

降り注ぐ豪雨の中、京太郎はとある場所を目指して歩き続けておりました。
このような雨の中、京太郎はいったい何をしようと言うのでしょうか。

清彦は思い当たる場所を一通り探しては見ました。チルーの家、加治木市場、白濁海岸、剣術道場等を巡りに巡り、すでに夕刻となってしまい、流石の清彦も豪雨の中では自慢の体力も底を尽きてしまい、仕方なく家に引き返しました。

すると、家の中には雨に濡れ、泥だらけの京太郎の姿がありました。

「…おめぇは、朝からこんな刻限まで何処をほっつき歩いてたんだ。」

京太郎は立ち上がり、黙って清彦を横切ろうとしました。
いつもの清彦ならば、二度三度、顔を殴ってはいましたが、今回は清彦も何かを察したかのように咎めるような事はしませんでした。

着物を洗い場に持って行く京太郎の姿を見ながら、清彦は一人呟きました。
「愛情なんてものは、時に残酷なもんだな…なぁ、カナイ。」

ここで京太郎の生い立ちについて語らせて頂きます。
京太郎は薩摩の国、唐妹(からいも)藩藩主・鱈羽宗之助(たらばそうのすけ)と、その正室のお里(さと)の方の嫡男としてこの世に生を授かりました。

宗之助とお里は大変中睦まじく、互いに助け合い、慈しみ、幸福の日々を送っておりました。

しかしながら、中々子に恵まれず、藩内でも、「お里の方様は未だに子を授かってはおりませぬ。このままでは藩の存続も危ぶまれるのでは…。」等と、お里を悪く言う者が後を立たず、お里はこの世で最も愛おしい宗之助との子供が出来ない事に悲しみを覚えました。

ある日の事です。宗之助がお里の事で思い悩んでいる所に、側室のお晴が屋敷内の庭に姿を表し、花を愛でておりました。

「宗之助様、いかがなされましたか。」

お晴は、屋敷の通路で腕組みをして考えに耽っている宗之助の姿を見て、心配になり、声をかけました。

「おお…お晴か、気が付かなんだ。」

「とても悩んでおられましたので…お里様の事でございましょうか。」

宗之助は大きく溜息をつき、お晴に一切を話しました。

「このままでは藩の存続が危ぶまれるのみならず、お里の立場もますます苦しくなってくる。しかし、幾度となく夜の営みを繰り返しても、一向にお里の腹には子が授からない。」

「まぁ…それはさぞかしお里様も心を痛めておいででしょう。お心お察しします。」

お晴は宗之助の悩みを親身になって聞いて差し上げました。
その日を境に、宗之助はお晴の下を訪れては話しをするようになりました。
お晴の屈託の無い笑顔と優しさに惹かれていったのです。

そんなある日の午後、お里が中庭をいつものように散歩していると、親しげに池の鯉に餌を与えている宗之助とお晴の姿を目の当たりにしてしまいました。

藩主が側室を設けるのは当たり前の事ですが、お里は一度も見た事がないような宗之助の笑顔を自分以外の女子に見せている事に、激しい嫉妬を覚えました。

その夜、いつもの寝屋での事でございます。
お里は何やら不機嫌な様子で宗之助と交わった後、仕切に次をねだりました。

「宗之助様、お里はもそっと抱いて頂きとうございます。」

「お里…今日はもうこのぐらいでよかろう。もう疲れ果ててしまった。」
宗之助はお里に背を向けて寝入ってしまいました。

「宗之助様…。」

お里はなおも詰め寄りました。

「ええい…しつこい、私はもう眠る。」

お里は何やら怪しげな念仏でも唱えるかのように独り呟きました。

「あの女…私の大切な宗之助様を…たぶらかしおって、…許さぬ。」

その翌年、宗之助とお晴との間に晴れて男の子が生まれました。
藩の配下達は大いに喜び、宗之助とお里の嫡男として大切に育てられる事になりました。
お晴も、宗之助が念願の子供を授かる事が出来、これでお里と共に末永く幸せに暮らせると考え、大変喜ばしく思いました。

しかしながら、それを良しとしない者がおりました。
正しくそれは、お里でした。

「あの忌ま忌ましい女の血が流れている子供…。」

お里は抱き抱えている生まれたばかりの赤子の足を力いっぱい抓りました。
宗之助は、お里の様子がおかしい事に気がつきました。

「どうしたんだ、新之助が泣いているぞ。」

お里は宗之助に感づかれないよう新之助と名付けられた赤子をあやしました。

「あらあら…お腹が空いたのね、ふふふ…。」

宗之助はいぶかしげにお里を見ました。

その日の夜は、宗之助は寝付きが悪く、外は激しい雨が降り注ぎ、雨の音で目が覚めてしまいました。

辺りを見渡すと、いつものように隣で眠っているはずのお里と新之助の姿がありませんでした。

何やら胸騒ぎを感じた宗之助は直ぐさま寝屋を出ると、お晴が通路をただならぬ様子で駆けて来ました。

「宗之助様…。」

「いったいどうしたと言うのだ。お里を見なかったか。」

「一大事でございます。お里の方様が…新之助様を抱き抱えて藩庭から抜け出してしまわれました。」

「こんな雨の中、いったい何処へ行こうと言うのだ。」

「とにかく…お里の方様を追いましょう。」

二人は急ぎ、お里を追いかけました。どうやら西を目指して、沖永良部島の見える海岸へ向かっていると解りました。

お里は、断崖絶壁に今にも落っこちてしまいそうな程近くに、ゆっくりと歩みよりました。
崖の下では勇ましく波打っております。
赤ん坊はお里の冷ややかな表情と強烈な雨の勢いに恐怖感を本能的に感じ取り、泣きわめいておりました。

「うふ…うふふ、泣かないで、もうすぐ…楽になれるから。」

その時です。
「お待ち下さいまし。」

お里は新之助を崖から落とそうとするやいなや、お晴の甲高い声が響き渡り、新之助は何かを察したかのように泣き止みました。
お里は手を止めました。

二人はやっとの思いでお里に追い付きました。

「お里、血迷ったか。」

お晴は宗之助を止めるようにしてお里に近づいて行きました。

「お里の方様…赤ん坊は、女の宝でございます。そして、母親は子の菩薩にあります。女の幸せとは、好いている殿方との子を産み育てる事と存じております。」

「お前の言う通りです…私は、他の誰でもない宗之助様との子を産み育てる事が夢でした。しかし、私の身体には子供は宿らない。だからこそ、私はこの子を受け入れる事が出来ません。」

「お心をお察しします。しかし、子供に罪はございません。後生ですから、その子の命だけはお助け下さい。私はいかなる処分も受けましょう。お里の方様にとって私が障害となるのならば…。」

宗之助はお晴の肩を両の手で掴み、反論しました。

「何を言う…おぬしが罰せられる理由が何処にある。」

「宗之助様…私はどうなってもかまいませぬ、お二方と赤ん坊の為なら。」

お里は二人の信頼関係にさらなる嫉妬心に火が付き、考えよりも衝動が先に動いてしまいました。

「私は、宗之助様をこんなにもおひたいしていたのに…。」

お里は新之助を崖へ放り投げてしまいました。

「いやぁ…。」

「お晴…。」

お晴は思わず駆け出し、新之助を抱きしめて崖の下へ落ちて行きました。
お里はその場にへたりこみ、崖の下を見下ろしながら言いました。

「うふ…うふふ、これで…邪魔する者は誰ひとりとしていない。あは、あはははは…。」

宗之助は膝をつき、降りしきる雨の中、絶望の渦に飲み込まれて行きました。

その後、奄美大島で漁業に従事していた威勢の良い水夫が浜辺に流れ着いた親子を見つけました。
母親がしっかりと子を抱き抱え、倒れておりました。

若い水夫は慌てて浜辺へ駆け降りました。

「おい…しっかりしろ。」

残念ながら、母親の方は既に息は有りませんでした。
しかし、突然赤ん坊が大量の水を吐き出し、泣き始めました。

「信じられん…待ってろよ、すぐに上手い物食わしてやるからな。」

水夫は仲間を呼び出し、母親と赤ん坊を連れて家に帰りました。
母親の方は、すぐに葬儀が行われ、手厚く葬られました。

「可哀相に…まだ言葉も解らないような子供が、母親を失うなんてな。」

水夫は葬儀の行列を見守りながら妻に言いました。

「きっと、顔も覚えていないでしょうね。」

「この坊やが大きくなったら、また会わせてあげよう。それまでは大切に育ててやるのさ。」

若い水夫の名は清彦といい、腕っ節が立ち、喧嘩っ早いが、正義感のある立派な水夫です。

清彦の妻・カナイは気立ての良い少し男勝りで、納得いかない物事に対してはとことんまで突き詰めます。

水夫仲間の寄り合いで、仲間と相談した結果、清彦は赤ん坊を引き取る事になりました。

清彦は赤ん坊の名前を京太郎と名付けました。

以上が京太郎の生い立ちです。

清彦は京太郎に告げなければならない時がやって来た、と考えました。
本当の母親の事をです。

翌日、晴天に恵まれ、絶好の漁日和となりましたが、肝心な京太郎の姿は朝から有りません。
同じ水夫仲間であり、京太郎と同い年のジルーは清彦に問いました。

「親方様、京は何処へ行ったのですか。」

「大方見当はついている。あいつの事は放っておけ、それよりも仕事だ、行くぞ。」

「はい……。」

ジルーもまた、京太郎が何をしに何処へ行ったのかは、見当がついておりました。
ジルーは漁が終わるなり、直ぐにその場所へ向かいました。

すると、墓を綺麗に磨いている京太郎の姿がありました。

「やっぱりここだったか。」

「ジルーか…悪いな、心配かけさせちまったみたいでさ。」

京太郎は手を止めてジルーに振り返りました。

ここは、ナビーが眠る墓が置かれている場所でした。
夕刻になると夕日が沈む水平線を拝める京太郎とナビーの思い出の場所です。

「それでまた、随分と過保護な普請を受け持ったものだ…殊勝と言うのか、お前らしいな。」

ナビーの墓には寄せ集めの木材を綺麗に加工して作られた屋根のような物が置いてありました。

「まぁな…あいつは昔からそそっかしい所があったから、他界した後も向こうでちゃんとやれてるか心配でさ。」

二人は暫くの間、沈黙しました。京太郎という男はこんな時でも強がりを言う男です。ジルーは長い付き合いでその事は誰よりも理解しておりました。

「お前に話しておきたい事がある。」
「そりゃ、また急だな。いったい何だって言うんだい。」

京太郎は改まって話し始めました。

「いずれ親父にも話すつもりだったが、俺は東喬で商いを始めようと思っているんだ。」

ジルーは少しばかり戸惑いましたが、直ぐに立ち直り、引き続き、京太郎の話しを聞きました。

「いつまでも、ナビーに甘えてばかりはいられない、常に前を見て歩き続けなければならないんだ。そして、同じ女を愛したあの男に伝えなければならない。」

「弘久殿か…。」

「ああ…弘久から手紙が届いてな、東喬で商いをしないかってさ。実の所、俺は書物がめっぽう好きでな、東喬でうろんな国の本を扱う貸本屋を始めようかと思っているんだ。」

「お前は昔から本が好きだったもんな。こちらとしては些か淋しくもあるが、お前がやりたいようにやるのが一番だよな。」

ジルーは水平線の向こうを眺め、沈み行く夕日を見つめておりました。
京太郎は、自分の気持ちを初めて誰かに伝える事が出来た事で、いよいよ決心しました。
これもまた、長年漁生活を共にしてきたジルーにだからこそ打ち明けられた事です。

「ジルー、ありがとう。」

「なに改まってんだよ、俺達は兄弟だろ。」

京太郎はジルーに感謝の気持ちを表しました。

「行き会えば、皆兄弟か…。」

「その通りだ…例え血が繋がっていなくともな。」

京太郎は、突然、後ろから響く野太い声の主を確認すると、そこには父・清彦の姿がありました。

「親父…。」

「二人ともついて来な。」

清彦はそう言うなり、二人をとある場所へ案内しました。

そこは白濁海岸をずっと北へ行った場所にある墓地でした。
清彦はその中の一番海に近い墓の前に立ち、会釈をした後、京太郎の方へ向きました。

「親父…その墓は。」

「お前のもう一人の愛すべきお方が眠っている。」

京太郎は清彦の言う事がおおよそ理解出来ました。

「お前の本当の母親が眠る墓だ。」

京太郎は一瞬戸惑いましたが、黙って清彦の話しを聞きました。

「お前がまだ言葉も解らない頃、お前を抱いて浜辺に倒れていた、その時には既に亡くなっていた。名前も解らない、何処から流れ着いたのか、いかなる理由でこの島に流れ着いたのか、少なくとも、解る事は、この島に流れ着くまで、必死にお前を守り続けて来たという事だけだ。」
京太郎は清彦の前を呆然と通りすぎ、実の母親の墓の前に立ち、墓を抱きしめながら泣き崩れました。

「…母さん、俺、俺は知らなかったよ、何も解らなかったよ…こんなにも愛して下さったのに、何も、何も出来なかったよ。ごめんよ、母さん。」

「京太郎…。」

駆け寄ろうとしたジルーを清彦は遮りました。

「今はそっとしておけ、気が済んだら帰って来るだろう。」

二人は、その場を立ち去りました。

そして、一週間が経ち、京太郎が東喬へ旅立つ日が来ました。
船着き場で、父・清彦、ジルー、ナビーの母・チルー、水夫仲間の面々や村の人々が見送りに来ておりました。

「それじゃ…親父、行ってくるぜ。」

父・清彦は何故か少しそわそわした様子です。

「ああ…しっかりやってこいよ。」

「漁の仕事は俺に任せてくれ、思いきりやってくるといい…まぁ、たまには帰って来いよな。」

ジルーが言いました。

「本当にありがとう。お前には感謝しても仕切れないぜ。」

「京ちゃん、体には十分気をつけるんだよ。」

「京兄…天下一の商人になってくれよ。」

「ありがとう、チルーおばさん、チャン坊。」

京太郎は村のがき大将、チャタン坊やの頭を捏ねくり回しました。

京太郎は全員に頭を下げて船に乗り込もうとした瞬間、一艘の船が調度、船着き場に到着しました。

「京太郎…京太郎。」

到着した船から大きな女の声が聞こえて来ました。
思わず振り向くと、そこには体格の良い女が立っておりました。

「はっ……誰?」

その女は勇ましい足音を立てて京太郎に迫って来ました。

「私よ私、覚えてないの?もうこんなに大きくなって。」

謎の女は京太郎を大木をもへし折りかねない物凄い力で抱きしめました。

「うぐへあ…!」

清彦は一人呟きました。

「これだから、会わせるかどうか悩んだんだがなぁ…。」

そうです、清彦の妻、カナイです。産科の医師を目指して世界各国を十年間もの間、旅をしておりました。
これでも、まだ三十五歳という若さです。しかし、十年前の麗しき容貌とは無残にも、おっと失礼、あまりにも変わり果てた姿に一同開いた口が塞がりませんでした。

「おいおい…間違っても絞め殺すなよな。」

清彦は呆れた口調で言いました。

「だ、誰か助けて下さい!」

京太郎の心の叫びが島全体に響き渡ったかのようです。

何はともあれ、めでたしめでたし。
晴れ黒島物語-蝦夷編23-晴れ

波魂の衝突波

侍は、己の信じた生き方だけを道標にする。不器用な生き物やさ。
人間とは、互いに破壊を繰り返し、また新たな命を創造する。
やしが、侍という生き物が、心なしか、一層輝きを放っている…この戦いで、そんな瞬間を見た気がした。

松前軍との合戦が終わり、いよいよ雷牙軍との決戦が行われようとしております。

視界を覆い尽くす程の大雪は既におさまり、次第に日の光が雲間から差し込んで来ました。
まるで、幕のような美しい光が降り注ぎ、黒炎丸を照らし出しておりました。

「さてと…今度は貴様の番だ。」

牙諏は居合を二度素早く抜き、首を回したり屈伸させて体を慣らしました。

「まだ生きてやがったか…急所を外した覚えはないんだがな。」

雷帆は腕を組み、仁王立ちして牙諏を睨みつけました。

「そうか…残念だったな、こちとら一度、死に目にあってんだ。急所を外すなんざ訳無い。」

牙諏は体を馴らしながら、言いました。

「そうかよ…侍は死に方から訓練しなきゃならねぇのか?対したもんだ。」

雷帆は嘲るように笑いながら牙諏に言い返しました。

「違うな…。」

「何がだ?」

雷帆は牙諏の言い分に首を傾げました。

「お前にも解るはずだ…心底浸っていた仲間を失う恐怖感だとか、その仲間を、己の命を張ってでも助ける事が出来なかった絶望感とかだな…。」

「それがどうした…そんなものは弱者の戯言だろうが。力こそ全て、って教えられなかったか?」

牙諏は、まるで身寄りの無い童(わらべ)を哀れむかのような瞳で雷帆を見ました。

「ならば、聞くがよう…お前は、その力で何が出来た?」

雷帆は一瞬戸惑いました。
松前との戦闘で鶴女を失い、ローペを失った。雷帆は己の野望の為に先立って行く仲間達の事を考えると、何度も自分を責めておりました。

「ただ、徒に力を振り回すなら、猿でも出来る。」

牙諏は一呼吸置き、居合の構えを取りました。

「来いよ、背負うべきモノの尊さってやつをお前に解らせてやる。」

牙諏の言葉を聞いた阿希は言いました。

「牙諏は変わったね。」

紗弥、虎之助、芭蕉布は何も言わず納得しました。

「人間とは、背負うモノが大きくなるほど、強い生命力を燃やすのか…。」

芭蕉布は呟きました。
「ははは…そうゆう解りずらい所は牙諏らしいな。」

虎之助は思わず吹き出してしまいました。
そんな虎之助をよそに、紗弥は一人、心の中で強く願いました。

「お願い…死なないで。」

阿希は、紗弥の様子を見て、震える紗弥の手をそっと握り締めてあげました。

「大丈夫…牙諏を信じてあげて。」

紗弥は、阿希の紅く燃えるように輝く瞳に思わず見入ってしまいました。

「あなたが言うのだから、間違いがあったら、それはそれで諦めがつくわ。ありがとう。」

紗弥は覚悟を決め、この戦いの全てを牙諏に託しました。
託してしまって良いものでしょうか、今はそのような悲観的な考えも巡らす余裕はございません。

勝敗条件が互いに定められました。

牙諏方が勝てば、雷帆は海賊稼業を捨て、国後島を返還しなければなりません。
また、雷帆方が勝てば、牙諏を含め、芭蕉布共々、海の塵と成ります。

「国がどうだ、とか、野望がなんだ、なんてのは興味がねぇ…手前と真剣勝負出来ると思えば、愉しくてしょうがねぇ。」

雷帆は今までに無い笑みを見せました。

「あれだけ愚弄しておいて、結局、お頭はあの男との仕合がお望みな訳だ…。」

疔琵庵は呆れた表情で立会人として向かい合う両者の間に立ちました。

「悪いが、負ける訳にはいかねぇ…あの男を斬るまではな。そして、馬鹿どもの為にも。」

牙諏は意味深な言葉を残しました。

両者の間に息が詰まる程の緊張感が漂います。

「いざ、尋常に勝負!」

疔琵庵は慣れない口調で仕合開始を告げました。

告げ終わるか、終わらないか、その刹那、両者の鋭い斬撃による金属音が一面に響き渡り、吹き飛ばされんばかりの風圧が巻き起こりました。

「アキサミヨー、牙諏の動きに更に磨きがかかったみたいだな。」

京太郎は煙草をふかしながら言いました。
余りの風圧により、京太郎のキセルが飛んで行ってしまいましたが、京太郎は気になりもせず、牙諏と雷帆の仕合に没頭しておりました。

「牙諏は、敗北を知っている、挫折を知っている、そして悲しみも全てを受け入れて生きている。サムレー(侍)は、敗北の数だけ強くなるようだ。」

芭蕉布は哲学者にでもなったかのようにつぶやき、その瞳孔は大きく輝いていました。
牙諏は絶えず、音速の居合を放ち、雷帆はひたすら身を反らせる等してさばいて行きます。

牙諏の居合はとどまる所を知らず、次第に速度を上げて行きました。

ついに、牙諏の居合が雷帆の頬をかすめ、雷帆は一度大きく後退し、牙諏との間合いを取りました。

「お…お頭が押し負けている。」

「おら、初めて見た。」

雷帆の子分達は動揺していました。
それもそのはず、雷帆は剣の道を極めてから一度も負けを知りません、それどころか相手に押される事ですら有り得なかった事です。

雷帆は頬の切り傷から滴り落ちる血を左手で拭いました。雷帆は、この極寒の地にも関わらず、額から汗がにじみ出て来ました。

「そうだよな…そんな具合の時もあるさ。」

己に言い聞かせるように雷帆は呟きました。
その様子を見るなり、牙諏は不意に宣言しました。

「お前は、次の俺の太刀で負けを認める…。」

雷帆は刀を握る右手を強く握り締め、言いました。

「寝ぼけてんじゃねぇよ、手前の剣じゃ俺には勝てねぇ…」

「いや…残念だが、そうゆう事になりそうだ。これは…傲慢でもなんでもない、確信だ。」

牙諏は淡々と遮るように言い放ち、それに対して、雷帆は怒り心頭しました。

「御託はいい…さっさと来やがれってんだ。確信だと、ふざけるな。」

「言われなくとも…そうするぜ。」

牙諏の素早い踏み込みにより、雷帆との間合いが詰められ、鋭い横薙ぎが雷帆に襲い掛かりました。

「へへ…残念だったな、今一歩届かずってか…うっ。」

雷帆の体が級に震え出し、思うように動かなくなりました。

「どういうことだ。力が入らねぇ。」

辺り一面に静かな些か肌寒い乾いた風が吹き、黒炎丸に乗り合わせていた者達は口をつぐみました。

「…お頭、俺達の負けだ。」

第一声を放ったのは疔琵庵でした。

そこへ、牙諏は刀を静かに納め、雷帆の目の前に立ち、言いました。

「あんたは確かに優秀な剣士だった。」

雷帆はその場に膝を付き、うなだれながら過去の記憶を思い起こしました。

フィンランド王国、王城下のとある一角での事でした。

「弱ぇ。弱ぇんだよ…どいつもこいつも。」

「…こ、この餓鬼。強いぞ。」

まだまだうら若い雷帆は町を闊歩するヤクザ者に喧嘩を吹っかけては強い者を求めて自身の剣の腕を試しておりました。

そこへ現れたのがディルでした。
「なんだ?おっさん…。」

「おっさん、とは随分な挨拶だな…小僧。」

雷帆は剣をディルに向かって振りかざしました。

「おっさんは出来そうだな、いっちょ手合わせ願うぜ。」

「いいだろう…。」

ディルは剣を抜き、構えました。両者はほぼ同時に飛び出しましたが、ディルの刃が雷帆の首筋を的確にとらえておりました。

「知無き勇気など、何の役にもたたない…。」

雷帆が剣を手から離した拍子にディルは雷帆を拳で殴りました。

「ってぇ!てめぇ、何しやがる。殺すなら殺しやがれってんだ!」

ディルは剣を腰に挿してある鞘に納め、雷帆に踵を返し、言いました。

「生きていたいと思うなら、あるいは勝負を捨てていないならば、たやすく剣を捨てるな…真剣勝負とは命の駆け引きだということを忘れるな…。」

雷帆は真剣勝負において、命の駆け引きの重さ、命の尊さを知らなかったのです。己の強さに溺れ、失う事の恐怖を知らなかった為に、背負うモノの重さ、挫折という壁、命の尊さを感じ取っていた牙諏に勝てるはずが無かったのです。

人の力とは、そもそも窮地に陥れられた時、最も大きな生命力を燃やす事が出来るのです。それを火事場のなんとやらと言いますが、死に目に会えば生きたいという人の心が生まれる。その強い精神力こそが人間の潜在能力を余すことなく発揮する瞬間であり、死を乗り越えるという事でございます。


「ぐっ…俺の負けだ。一思いに殺せよ。」

牙諏は膝をついてうなだれている雷帆の前に立ち、首に狙いを澄ませて刀を上段で構えました。

牙諏はしばらくの間、躊躇っているのか、何を思うのか読み取れない様子で構えたまま立ち尽くしていました。

「…。」

「あんだ、てめぇは…今更俺を生かして恩着せがましいうたい文句でも垂れるつもりか。」

辺り一面に冷たい風と共に粉雪が降り始めました。

「…なぁ、つまらねぇ事かもしれないが、人は何故、生きているんだろうなぁ。」

「はぁ、てめぇは頭のネジでも外れちまったのか。人なんてのはなぁ…何かの為に死ぬ準備でもしなきゃ生きて行けねぇんだよ。」

「その通りだ…何かの為に生きるっつうのは何かの為に死ぬって事だ。お前の後を見てみな。」
雷帆はゆっくりと後ろを振り向くと、疔琵庵を始め、小雪姫、助三郎、先駆け隊長・川柳俊輔、雷牙軍の面々が顔を連ねておりました。

小雪姫は思わず雷帆の下へ駆けて行き、庇うように前に立ちました。

「姫様!」

一同は慌てふためきました。

「後生です。雷帆の命をお救い下さい!皆には雷帆が必要なのです…そして、私も…誇りなど捨て、雷帆には生きながらえて欲しい。」

訴えかけるような熱く燃えるような強い眼差しを見た牙諏は雷帆に言うのでした。

「本当にこんな仲間を置いて、一人あの世へ旅立ってもいいのか?生きるっつうのはそういう事だ…掛け替えがねぇんだよ、本当に…。」

「…ぐははは!」

雷帆は似つかわしくない笑いと共に悔しさと情けなさを感じました。

「俺の負けだ!ちくしょうめが、お前の言う通りだ!ちくしょう…ちくしょう!」

「雷帆…。」

「お頭…。」

疔琵庵と小雪は雷帆の腕に抱かれ、今まで見た事もない笑顔を見ました。

「また、旅をしないか?今度は海賊としてではなく、未だ見ぬ世界をお前らと見ておきてぇ。来てくれるか?」

疔琵庵と小雪姫は笑顔で答えました。

「お頭、もちろんだ!」

「雷帆…ありがとう。気付いてくれたのですね。」

牙諏は刀を鞘に納め、後頭部を掻きむしりながらその場を立ち去ろうとしました。

「あの、牙諏さんとやら?」

小雪姫は詫びと感謝の気持ちを伝えようとした時には牙諏はカムイ軍の船の上でした。

「もう、貴様らの顔は見たくもねぇ!…達者でな。」

牙諏はいつもながらの憎まれ口を叩き、黒炎丸が離れて行くのを見届けました。

「牙諏か…食えねえ野郎だ。…さて、野郎ども!出るぞ、目指すはインカ帝国だ!」

「何故インカ帝国か解らんが、お頭…何処までも付いて行くぜ。」

約束通り、雷牙海賊団は解散し、国後島は返還され、再び島民は故郷の土を踏むことが出来るようになりました。
芭蕉布一行は瀬石村生田屋の下へ向かい、店主猪馬乃助に一部始終を報告しました。

「という事で、無事、雷牙海賊団を説得し、国後島を返還する事が出来ました。
この一件には松前潘までもが関与しており、阿片や鉄砲の密輸に荷担していたとの事です。」

阿希は流暢な大和口で猪馬乃助に伝え、どうにか借金の件を許してもらおうと心の奥底から強く激しく勇ましく訴えかけました。
「どうか…十五両の方はお許し願えませんでしょうか。」

阿希は頭を床に付くか付かぬか程に深々と頭を下げました。

猪馬乃助は両腕を胸の辺りで組み、真剣な眼差しで阿希を見下ろしておりました。

芭蕉布はいつものように阿希の背中を守るように後で刀のつかを肩に引っ掛けて胡座をかいております。

猪馬乃助は不意に強張った表情を崩し、にこやかな笑みを浮かべ、語り始めました。

「いやねぇ…あれは実は嘘だったんだよ。」

「はっ?」

阿希、京太郎、牙諏の三人は鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような顔をしました。

芭蕉布はそんな時でも袖の下に忍ばせた懐紙に包まれた干し芋を黙々と貪っておりました。

「つまりだ…あの海胆は十五両なんて横暴な値段はしないって事だぜぃ。なぁ、紗弥。」

「はいっ?」

すると、天井裏から花のような可憐な女子が音も無く舞い降りて来ました。

「こんにちは、拠度の戦は本当にお疲れ様でした。心から御礼を申し上げたい所、な・ん・だ・け・ど。」

「紗弥、てめぇ!急に行方をくらましたと思いきや、何処に行ってやがったんだ。」

牙諏はいきり立って言いました。

「いやん、そんなに耳元で騒がないで、私の繊細なお耳に障るわ。」

「ははぁ!何を隠そう、この俺、猪馬乃助と…。」

「のびのび紗弥は…」

猪馬乃助と紗弥は一瞬にして忍び装束に更衣し、しなやかな動きでとんぼ返りをしました。

しかし、天井の縁に頭をぶつけてしまいました。


「いたたたた…さ、相模藩お抱え忍び衆、松ヶ崎五月雨隊改め!」

猪馬乃助と紗弥は満足気な表情で踏ん反り返っておりました。
一同は一瞬にして静まり返りました…一名を除き。

「…、これ美味いぞ。」

芭蕉布は店の品物を勝手に失敬し、またまた貪っておりました。

「…何が改められたんだ、って言うか、お前ら、俺達を謀りやがったな。」

牙諏は右手を刀にかけ、怒りをあらわにしておりました。

「まぁまぁ、いいんじゃないの!これで色丹半島までたどり着けるってもんだぜぃ。結果往来(結果オーライ)ってやつだ、ははぁ!」

「何が、【結果おうらい】だボケ!許さん、お前ら、そこになおりやがれ!」

牙諏は鬼のような剣幕で二人を追い掛け回しました。

「ちょっと!牙諏、死なない程度にするのよ。」

阿希の若干外れた忠告が耳に入ったかどうか、牙諏は二人を追い掛けて行ってしまいました。
紗弥の実態は相模の国、相模藩お抱えの隠密であり、猪馬乃助と共に雷牙討伐の命を授かり、蝦夷へと赴いたということだったそうな。

生田屋は、その拠点として店を構え、旅の武芸者を招き入れては、雷牙討伐への人えりを兼ねておりました。

芭蕉布一行は、そこに偶然巻き込まれてしまったようで、とんだ災難とは言いつつも、旅の目的を踏まえれば、確かに結果往来であったと言えましょう。

何はともあれ、いよいよ色丹半島上陸を果たす事となる芭蕉布一行に待ち受けていたのは、狂気に満ちた混沌の世界であった。

次回、最終章・獅子王編に続く…
晴れ黒島物語-蝦夷編24-晴れ

波魂移し(タマウツシ)の陰波

豪雨の中に佇む一軒の痺れた山小屋の中に、芭蕉布が居た。

訳も解らず、身体中に震えが走り、口から唾液を際限無く垂れ流していた。

強風に煽られて物音を立てる引き戸が重々しい空気をより一層感じさせていた。

芭蕉布は誰なのかも知れない女とまぐわっていたのだ。艶かしい肌の質感に溺れ、欲望を掻き立てるような愛らしい声色に現を抜かしていたが、落雷の爆音と強烈な光に、芭蕉布は我に帰り、抱いている女の顔を凝視した。

「…ど、どういうことだ…阿希…。」

芭蕉布が抱いていた女は紛れも無く阿希であった。

「ふふふ…気持ち良いか?人間の肉の味はまた格別であろう。」

「人間だと…何かの間違いだ…半身畜生の身である私が…人間を抱く事など…許されないはずだ…。何故私は…。」

阿希は芭蕉布の後頭部に両腕を纏わり付くように回し、愛らしくも不気味な笑みを浮かべ、芭蕉布の顔を強引に近づけました。

「お前は人として生きたいと思うておるようじゃのう…何故なら、私の身体を欲しがっておる。人間とは好いた者同士で肉欲に溺れ、実にだらしのない声で鳴くものだ…。」

「違う…私はそんな事を望んではいない。」

「ふふふ…何を迷うておる。私のふぐりに孕んだ子は、お前と同じように、妖魔の血が流れておる。お前は逃れられない…畜生として生きる事も、人間として生きる事も叶わず、魔道の道へと堕ちて行く他、無いのだ…あはははは。」

すると、芭蕉布の左のこめかみに、強烈な衝撃が走りました。

芭蕉布は突然水の中に投げ出され、必死に浮かび上がって見れば、そこは国後島のとある旅籠の前の池の中でした。

端から見れば、はなふぃち(風邪)をひきかねない寒々とした蝦夷の池に落っこちてしまった芭蕉布は実に異様でした。

「あり?芭蕉布…どうしたの、朝からこんな寒い中、元気がいいわね。」

阿希は寝起きの良い顔付きで池の中の芭蕉布を見るなり、微笑んでおりました。

「…夢か。」

「何よ?私の顔に何か付いてる?いつまでもそんなところで遊んでないで、朝餉にしましょう。」

どうやら、芭蕉布は、三尺半ば程の感覚で布団を敷いて寝ていたにも関わらず、究極なまでに寝相の悪い阿希の真空横転蹴りをこめかみに食らわされてしまい、旅籠の外の池まで飛ばされてしまった模様です。

「芭蕉布?聞いてるの?」
「…ああ、今支度をする。先に行っててくれ…。」

芭蕉布一行は雷牙討伐の一件で国後島の島民から感謝され、是非にと至れり尽くせりのおもてなしを受けておりました。

色丹島への上陸のための拠点として国後島の旅籠で世話になっていた所でした。

「いよいよだな…。」

早朝の海岸沿いで色丹半島を見据えていた阿希は振り返り、緊張感のある態度を取った京太郎を見て、不意に目を背けました。

「話せよ…洗いざらいさ。」

珍しく京太郎は真剣な眼差しで阿希に問い掛けました。
阿希は俯いたまま語り始めました。

「私は、聞得大君の使いであることは既に話したわね。」

「ああ…それは聞いた。」

「それだけじゃない、私は次期聞得大君として、琉球隠密武術集団・乙樽(うとぅだる)の統括を任されている。国の政策にも携わる事になる、何故、私なのか…歴代のノロの中でも、秀でた霊力を秘めていたから…。千年に一人、生まれて来るか解らない極めて神の境地に近い存在…人々はそれを神人(かみんちゅ)と呼んだ、そして、それが私だと言われていた。」

京太郎は両手を皮膚が破けんばかりに強く握り締めました。

「それで…皆は、お前を神様と崇め奉り、勝手に決められた神という役職を真っ当させようと言うのか。お前はそれでいいのか?」

「…あなたには関わりのない事、私は私の指名を果たすだけ…。」

阿希はその場を立ち去ろうとした時、京太郎の左手が阿希の腕を掴みました。

「…ふざけんな、今更関係ねぇとか抜かしやがって。俺は…!」

阿希は京太郎の言葉を遮るように冷ややかな言葉を投げかけました。

「私が、あなたに気の迷いや情けから、迂闊にも肌を見せたから?私の体を些か弄んだくらいで、心を奪ったつもり?夫気取りも甚だしいわね。」

常が冷静な京太郎も、珍しく熱くなってしまいました。

「ああ……そうだよ!お前は良い体付きだからな…一度手合わせしたら、とっととずらかろうと思ってたさ!!不覚にも最後のお楽しみとまでは行かなかったがな。そうでなけりゃ…お前みたいな面倒で仏頂面で可愛いげもない女を一々相手になんかしやしないさ!」

阿希は京太郎の頬を、岩に砕ける波音すら切り裂くかんばかりの鋭い音を立てて叩きました。

「…あなたに、これ以上話す事はないわ。」
阿希は黙って走り去って行きました。

その表情は、僅かに悲しみを帯びておりました。

京太郎は暫く立ち尽くし、一人呟きました。

「ナビー…やっぱり、俺は駄目な男さ…。」

その後、芭蕉布、京太郎、阿希の三人は港へ向かう為に身支度を始めましたが、おや、牙諏と虎之助の姿が見えませんね。

虎之助に関しましては、雷牙との一騒動の後、未那との一件での借りは返した、と言い残し、大和へ向けて旅立ちました。

そして、牙諏は、と言いますと、松ヶ崎五月雨隊改を追いかけて行ったまま行方をくらましてしまいました。

最も、芭蕉布達は、気が済めば直ぐに戻ってくるであろう、と極めて楽観的でありました。

正午になり、港へと赴いた芭蕉布一行であります。
道中、京太郎と阿希は一言も会話を交わしませんでした。

後に続く芭蕉布は、そんな二人の様子に何かを感じるでもなく、何食わぬ顔で見守りました。
しかしながら、表情には出さずとも、僅かに気を使っているのか、二人とは幾分か間合いを取りながら付いて行きました。

芭蕉布一行は滞り無く乗船し、色丹半島を目指して国後島を発ちました。

空は快晴に恵まれ、前回の積丹上陸の際に嵐に遭遇するような心配はありません。

暫(しばら)く航海をしていると。思い詰めた面持ちの阿希が目的地の色丹半島を見据えておりました。

「芭蕉布…あなたって、笑わないのね。」

少し肌寒い風と、温かな日の光が優しく包み込み、心地よい船旅を満喫するはずでしたが、浮かない表情を浮かべた阿希は、不意に芭蕉布に静かに語りかけました。

芭蕉布は微動だにせず、ひたすら船の外の一点を見つめ、黙っておりました。

構わず阿希は話しを続けました。

「強い使命感に駆られて、…聞得大君様から妖(あやかし)の討伐をおおせ付かり、今、正に、目の前の敵を討ち滅ぼさんとしている。」

阿希は芭蕉布の着物の袖を掴み、俯いてしまいました。いかに強がりを見せていようと、とてつもなく大きな不安にかられている様子でした。

「でも、晴れて、目的を果たしたら…皆がそれぞれの帰るべき場所へ帰るんでしょうね。私には、帰る場所が無い…。目的を失った私は、何を道標にして生きて行くのか…解らない。」

芭蕉布は阿希の肩をそっと抱き寄せてやりました。
寒さに凍えながら、震わせる華奢な体を温めるかのように。
しかしながら、芭蕉布の持つ感情は、阿希に対する恋心ではないようです。

自分自身と同じような境遇に陥れてしまった、阿希に対する罪滅ぼし、などという軽薄なものではなく、それは洗練された偽りの無い人間愛でありました。

愛の形は、何も男女間に限らず、親子愛や兄弟愛、友情から生まれる愛など、愛とは言いましても、様々な感情が入り乱れた愛が存在するのは確かな事です。

芭蕉布は、妖(あやかし)に身を落とし、己とは異なる、人間という感情を持ち合わせた存在を理解出来ませんでした、しかしながら、今では少しづつなれど、確かな感情の変化を感じ取れるようになって来ました。

それでも、それをよしとしない男が居ました。
無論、京太郎です。
阿希に対する恋心は出会った頃以上に肥大して行き、無意識の中で、京太郎の芭蕉布に対する嫉妬心が大きくなっておりました。

深い信義の間に生まれる疑心暗鬼の念は、浅い関係以上に当事者間に不信感を感じさせ合うもの。

そうなれば、互いの友情や信頼は、計り知れない憎しみへと変貌を遂げてしまう事でしょう。

そんな二人をひそかに見つめていた京太郎は、複雑な心境にかられ、一人、沈思黙考(ちんしもっこう)するのでした。

やがて、船は色丹の港へと無事に到着し、一行は島に降り立ちました。

辺り一面に、悍ましい妖気が立ち上り、まるで、人間の立ち入るような場所ではないような居心地の悪い雰囲気を色濃く醸し出しておりました。

「…頭が割れそうなくらいの妖気を感じる。」

阿希は頭を抱えてしまいました。

「阿希…この島に、逃げ遅れた島民が集まる集落があるみたいだぜ。一先ずはそこへ聞き込みに行かないか。」

京太郎は提案しました。その提案に阿希は賛同し、島民が身を潜める集落へと芭蕉布一行は急ぎました。

東の方角へと歩みを進めると、容易には壊す事の困難な石造りの堀が見えて来ました。

山道を遮るように立ちはだかる堀を左回りに進んで行くと、やがて、石を積み重ね、研磨された粗末な造りの門が見えて来ました。

辺りには人の気配は無く、集落には冷たい風が吹き抜けておりました。

「誰もいない…やはり、皆殺されてしまったのかしら…。」

阿希は辺りを見渡し、人の姿を探して見ましたが、影一つ見当たりませんでした。

すると。
「何者だ…。」

鈴のような冷たい声が響き渡り、阿希の真後ろから首筋を狙って小刀をかざす者が居ました。

同時に、堀の上から複数のアイヌ民族が現れ、芭蕉布一行を狙って弓矢を構えておりました。

「動くな…誤って刺してしまっても良いのか。」

芭蕉布と京太郎は阿希を庇う為に携えて来た武器を抜き取ろうと試みましたが、謎の人物の一声で動きを封じられてしまいました。

阿希は武器を捨て、両手を挙げ、冷静、かつ慎重に、如才なく丁寧に身元を明かし、説得を試みました。

「私は阿希と申します。聞得大君の命により、島を脅かす妖(あやかし)を討つべく、琉球王国から遥々この蝦夷の地まで馳せ参じた次第にございます。」

謎の人物は、堀の上のアイヌ民族達に目配せをし、下がるように指示を出しました。

「ふふ…阿希、久方振りね。」

謎の人物は女であり、先程の冷たい口調から一変し、親しみのある温かい口ぶりで阿希に声をかけました。

阿希は振り向くと、目を丸くし、驚きの表情を浮かべました。

「キヨ、キヨなの。」

つづく…
晴れ黒島物語-蝦夷編25-晴れ

波渦巻く陰謀波

前回までの粗筋、色丹上陸を無事果たした芭蕉布一行は荒れ果てた色丹で唯一残された集落へと向かいました。

阿希の旧友にあたるキヨという女と出会いました。

人の息吹を感じられない荒れ果てた大地は、獅子王の手により妖怪の住化となった。

色丹に住む人々は村を守る為に各々が妖魔達と奮戦をしたが、あえなく敗退し、残ったのはキヨが結界によって守っているこの集落のみとなった。

集落に身を隠す人々の殆どが島民にあたり、家族を失った子供、妖魔と戦い、命からがら逃れて来たアイヌ民族の戦士達、逃げ遅れた夫婦が苦境の生活を余儀なくされていた。

キヨは阿希と同様に聞得大君(きこえおおきみ)の命により派遣された琉球隠密武術集団乙樽(うとぅだる)の一人である。

「随分と遅れてのお出ましよね。」

キヨの言葉に対して阿希は自責の念を抱きつつ、浮かない表情で答えました。

「ごめんなさい、私がもっとしっかりしていれば島の人々が苦しまずに済んだはずなのに…。」

キヨは深刻な面持ちの阿希を励ますように軽い調子で言いました。

「無理もないわよ。島の周辺では不粋な海賊どもがはびこっていたし、何やら良からぬ兆候もあったみたいじゃない。」

「獅子王の力が強まっているのか…。」

芭蕉布(ばさーじん)は割り込むようにして言いました。

「あなたは…。」

キヨは平然と構えつつも、どこか警戒しながら芭蕉布をまじまじと観察しました。

「よもや語るまでもなかろう…私は黒島を襲撃した悪名高き妖魔、黒島芭蕉布だ…。」

キヨは腰に挿してある大和仕込みの刀に手をかけました。

「その罪人が一体何をしにやって来たのか…返答によってはあなたを浄化しなければならないわね。」

京太郎は慌ててキヨを宥(なだ)めようと乗り出しました。

「おい、待ってくれ。」

続けざまに阿希が説得に入りました。

「キヨ、今は事情があって共に旅をしているの。芭蕉布の処罰に関しては私が考えておくわ。それよりも獅子王をいち早く討ち滅ぼす事が先決。芭蕉布の言う通り、獅子王は次第に力を強めているわ。」

キヨは刀から手を離し、芭蕉布を睨み据え、すぐに阿希の方へと向き直りました。

「さすがは阿希ね。次期聞得大君の候補だけの事はあるわ。妖魔までもを従える力があるなんて…私には到底真似出来ない。」
キヨは半ば皮肉を込めて阿希に言いました。

それを聞いた阿希は暫く複雑な表情になり、気を取り直してからキヨに問いました。

「それで、獅子王は何処に…。」

「北の果てにある八神(やがみ)の頂きよ。神木(しんぼく)に護られた霊験あらたかな地…故に妖魔は立ち入る事が出来ない。」

「なら獅子王って奴も神様の御加護によって立ち入るのは不可能じゃないのか。」

京太郎は至極真っ当な疑問をぶつけました。

それに答えたのは阿希です。

「妖魔ならね…でも、神の力を手にした獅子王ならば、聖域に踏み入れてもおかしくはないわ。」

「それにしちゃ、何でまた蝦夷の国、それも北の果てに居座る必要があるんだ。」

京太郎はなおも疑問から解放されない様子です。

「獅子王は自然の力を糧としている。人間の手によって汚されていない広大な蝦夷の国は力を蓄えるにはうってつけということよ。」

キヨは淡々と語りました。

「八神の頂きか…何れにせよ、牙諏(がす)の到着を待った方が良さそうだ。」

京太郎は提案しました。

「そうね…牙諏はとても頼りになるわ。」

阿希は快く了解し、一同は一端、集落で待機することにしました。

京太郎が辺りを見渡すと、年端も行かない小さな女子が目に入りました。

少女は、京太郎の腰に下げてある干し芋も物欲しげに見つめており、その少女の母親と思われる年増の女が頭を撫でながら諭しておりました。

京太郎は少女に歩み寄り、干し芋を幾分か分け、頭を撫でてやるのでした。

「おっかさんにも分けてあげなよ。」

京太郎がそう言うと、少女はにっこりと笑い、頷きました。

「ありがとうございます。」

母親らしき女はうやうやしく頭を下げ、礼を言いました。

そんな京太郎の真後ろで、もう一人の男が物欲しげに干し芋を見つめております。

言わずもがな、芭蕉布です。

「言っておくが、お前にはやらん、煙草もだ。」

「…物欲に溺れた悲しい男だ…。」

「遠慮も無くむしんするお前が言ってくれるな。」

「私は何も言ってはいない…。」

「ああ…そうかい。」

京太郎は大きく溜息をつきました。

そんな二人の問答を見て、親子はくすくすと笑うのでした。

「こんな事になってしまい、私達は生活に困ってしまいました。この子にも、いいものを食べさせてあげたいのだけれど。」
母親は芭蕉布と戯れるヒカリを見つめながら言うのでした。

「私はこの島の住民、ヤクと申します。あの子はヒカリと言います。妖怪の襲撃により、私もあの子も両親を失いました。」

どうやら、親子ではなく、共に獅子王と呼ばれる妖魔によって両親を失ってしまったなんとも健気な女子達でした。

「そう…苦しい思いをしてきたのね。」

阿希は雷牙との乱戦により、多くの尊い命を奪ってしまった事を思い出しました。

色丹の住人は琉球からの使者であるキヨの結界によって一次的に守られてはおりますが、結界を破られるのも時間の問題だと言う事です。

芭蕉布一行は日も暮れてしまった事もあり、見通しのきく明朝に獅子王の眠る八神の頂きへと向かう事にし、その日は集落で一晩を明かす事にしました。

その夜の事です、皆が寝静まる頃に集落の住民の一人が厠(かわや)で用を足していると、住民は吹きさらしの窓から怪しい人影が横切るのを見かけました。

「誰だ?」

住民は慌てて厠を飛び出し、一目姿を確かめようと試みましたが、既に姿はありませんでした。

そして、日が昇り、鳥の囀(さえず)りが聞こえない朝を迎えました。

「京太郎、京太郎。」

京太郎が眠い顔を擦りながら目覚めると、揺すり起こす阿希の姿がありました。

「朝からご苦労なこった。何かあったのか?」

阿希は深刻な面持ちで答えるのでした。

「バサージンがいないの。」

「何だって?」

「理由は解らないけど、木の上を寝床にして寝ていたはずなのに何処にも姿が無いの。」

京太郎は頭を掻きむしりながら暢気に言いました。

「大方、腹を空かせてどこかほっつき歩いているんじゃないのか?」

「そうだといいけど…。」

「あいつの事だ、何か考えがあっての事だろう。今は一刻を争う…牙諏の到着もこれ以上待っちゃいられない。」

「でも…。」

「キヨによれば、この結界も長くは持たないんだろ。幸いお前が無事でさえいればバサージンが命を落とす事は無い…。」

芭蕉布と阿希は永劫の契約という関係にあり、互いの共鳴力が極めて高く、契約者となった妖魔は強大な力と生命力を得るといいます。

ただし、霊能力者の霊力の一部を妖魔に分け与えるため、阿希の力そのものは本来の力の半分しか発揮出来ないという条件があります。
それ故に、契約者と霊能力者は共に行動することが望ましいのです。

離れてしまえば、それだけ共鳴力が弱まり、返って力が半減されてしまうのです。

確かに、京太郎の言う通り、芭蕉布の命は阿希が握っておりますが、力の弱まった阿希の身に大事があらば、芭蕉布も阿希も共倒れとなってしまいます。

「…解ったわ、このまま二人で獅子王の討伐に向かうわ。」

京太郎は何やら複雑な表情です。
阿希の不安に満ちた表情を見て思うのでした。

「阿希…俺はそんなに頼りないか…。
俺じゃお前を導いてやれないのか…。」

そして、朝だと言うのに、時間すら感じさせない黒々とした雲が覆い尽くす中、阿希と京太郎が集落を出ようとした時です。

「阿希さん、京太郎さん。」

集落の住人、ヤクが血相を変えて二人のもとに駆けてきました。

「ヤクさん、何かあったの?」

阿希はヤクの深刻な顔を見てただ事ではないと察知しました。

「ヒカリが…。」

阿希はヤクの握り締めた書状に目を通しました。

書状にはこう書かれておりました。

【集落の餓鬼を預かっている、助けたくば狼煙(のろし)海岸まで宮古から来た琉壮の女を連れて来い。】

阿希は書状を強く握り締め、怒りに震えておりました。

「誰の仕業なの…どこまでも下劣な存在。」

ヤクは泣き崩れました。

「いったいどうしたら…ああ…。」

その中にキヨは割り込むように淡々と言いました。

「阿希…分かってるとは思うけど、これは罠よ。あなたの血を欲している獅子王の手先に違いないわ。」

阿希はキヨを罵倒しました。

「解ってる…解っているけど…放っておけるはずがない…。」

阿希はヤクの肩に手をやり、力強く誓うのでした。

「こんなこと許さない…許されるはずがない…ヤクさん、絶対にヒカリちゃんを助け出して戻って来るから。」

「ですが、それでは阿希さんの身が危険に晒されてしまいます。」

「大丈夫、絶対に思い通りにはさせない。」

「阿希さん…。」

阿希はヤクを強く抱きしめてやるのでした。

「おい…そんな大変なお役目をたった二人で請け負っちまっていいのかよ。」

聞き覚えのあるその声の主は牙諏でした。

「牙諏。」

牙諏は頭を掻きながら何やら照れ臭そうに現れました。

「京太郎、なんてぇ顔をしてやがる。」

「牙諏…。」

「大事な女の背中を守ってやらなきゃならねぇんだろ?しゃんとしやがれ。」
京太郎は阿希の姿を見るなり、落ち込んでいた気持ちを再び奮い立たせました。

「ははっ…だよな、牙諏!頼りにしているぜ。」

こうして、牙諏が加わり、ヒカリ救出の為に狼煙海岸を目指すのでした。

続く…

ログインすると、残り88件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

黒島物語-BLUTAL ISLAND STORY- 更新情報

黒島物語-BLUTAL ISLAND STORY-のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。