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黒島物語-BLUTAL ISLAND STORY-コミュのじぇのさいどANGEL1

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あの原作・黒島一族の人気シリーズが待望のフルバージョンで連載開始ぴかぴか(新しい)ファンは見逃すなダッシュ(走り出す様)(とか書かれてみたいです)

コメント(55)

「ねぇねぇ、来歩ちゃん♪」

「その呼び方は止めろ(怒)」

「私、思ったんだけど。」

お前が何かを考えると決まって俺の精神が削られる結果になるんだがな。

「なんだ(怒)」

「そのぉ…やっぱりコンテストまでは女の子らしくなって欲しいからね♪今日から来歩には女子的生活を勉強してもらいたいんだよね。」

「ああっ(怒)俺様に愛想振り撒く雌ブ○になれと?」

「そうだよ♪」

雌ブ○も否定しないのかよ。

「なので、今から来歩のお家へ行って、いろいろ教えて、あ・げ・る♪」

「家、親がいるから…。」

「一人暮らしだよね♪男寡婦。」

どうやって調べやがった(怒)つーか、寡婦じゃねぇだろ。

とまぁ…そんな案配で、こんな有様なんだが、こいつらは一体何しにきやがったんだ。

そもそも、年頃の娘が揃いも揃って男の部屋に躊躇いなく上がり込むなんざ、日本の女も随分と大胆になったものだ。

もう少し貞淑で控え目だと聞いたが、それは童話の世界だけの話だったのか。

それとも、俺様が無教養なだけだったか…うん、後者ではない。

「すっげ!?壁とか床にギターが一杯だよ、つーか汚い〜。このドラムセット、ひび割れしてるよぉ〜。」

霜恵はジャクソンスターやらシェクター、アイバニーズなんかの使い込まれた俺のギターを触って、感嘆の声を漏らしてやがる。

勝手に触るな(怒)

「来歩がいつも使ってるギターは?」

浩子が聞いて来やがったから、俺は数あるギターの中でも、部屋の隅にJCM900(アンプ)と一緒にスタンドに綺麗に立て掛けてある白いギターを指さした。
「うわぁ〜、真っ白なギター、天使みたい♪」

浩子は腰を屈めてギターを眺めていた。


「日本の数あるメーカーの中でも独自の技術を持ったCaparisonのダウンチューニングモデル中の一つだ。Gibsonのようなアーチトップ等のディテールにヒール加工されたスルーネックが採用され、ブリッジも安定性に優れたテイルピースが使われている。
音鳴りも良く、レスポールのようなサウンドが得られる。」

「…シモ〜♪ドーナッツ皆で食べよう、開けていいよねぇ。」

全然聞いてねぇし!
「取り敢えずエロ本探すか。」

霜恵がベッドの下やら本棚の奥やらを探り始めた。

「はっ?エロ本だと…そんなものは雌に飢えた犬畜生の持ち物だろ。俺様には不要の長物だ。」

「女の私でもイラっと来るわ(怒)」

霜恵は行き遅れた中年キャリアウーマンみてぇな顔で文句垂れやがる。

「ええぇ〜、来歩はスケコマシ野郎だったのぉ〜!」

「スケコマシでもヤマアラシでもどうとでも言えばいい。」

何故かヒロはがっかりしていた。何だよ…お前が落ち込むような事でもねぇだろうが。

「はぁ〜あ…間違って私の着替えとか見ちゃった時にカマトト振った表情に萌え〜とか出来ないのかぁ〜(涙)」

「てめぇの趣味なんか知ったこっちゃねぇ(怒)」

「……リア充氏ね……。」

そう言えば神楽もいたんだったな。頼むから会話に混ざれよ。読者目線じゃいるのかいないのか解らねぇだろうが。

「ったく、神楽、お前は……ちゃんと目を見て話せ。悪い顔してねぇから、笑ってりゃ男の一人や二人寄って来るだろうぜ。」

神楽は決死の覚悟で俺の顔をまじまじと見やがる。
良く見ると、思った通り、色白で整った顔立ちだ。睫毛が影ってやがる。
なんだか俺まで恥ずかしくなってきやがった。

「意外と素直だな…。」

俺は柄にも無く、微笑んだ。
神楽は顔を茹蛸(ゆでだこ)みてぇに真っ赤にして、またそっぽを向いた。

「成る程…ふむふむ、そうやって数々の女の子達を落として来た訳ですね♪」

ヒロが身も蓋も無い、根拠もない、論理を語りだし、勝手に納得しやがった。

「あのなぁ…付き合った人数なんて自慢に値しねぇだろ。
逆にだ、そんな内容の薄い付き合いを転々と繰り返して女を散々泣かせておいてだ…偉そうに数を公言する馬鹿野郎ほど滑稽なものはねぇだろ。
探求心のない馬鹿は恋愛と言う長い階段の途中で挫折して、その先にある真実に辿りつかねぇまま上り下りを繰り返すのが関の山だ!」

「烏杜先生!私は目から鱗です。」

浩子が妙に関心しながら頷いていやがる…なんかムカつくぜ。

それからヒロは【来歩君、乙女化大改造計画】なんてふざけた大義名分で、また意味不明な事をレクチャーし始めた。
「毎朝6時起きで、シャワー浴びたらムダ毛の処理とヘアスタイリングに1時間かけて下さい。メイクは自宅でやってね♪電車の中なんて以っての外だよ!」

「おい(怒)女ものの制服で通学しろってか!」

ヒロはお構いなく喋り続ける。
肌の上に化粧水を塗って土台を作れだの、アイシャドーはナチュラルにだの、ファンデーションは控え目にだの、人生において無意味な技術を指南する。

俺は歌舞伎役者か(怒)

…つづく
◇ろすとプライド◇

ソングライティングっつーのは想像以上に難しいものだ。

特に、歌詞だ。

日本の口語表現やら文語表現、逆接やら反語やら…とにもかくにも日本語とは複雑で奥が深いもんで、俺は非常に悪戦苦闘している。

血管がぶちギレて市内の民家を片っ端からピンポンダッシュしかねない勢いだ!フハハハハ…。

「金木犀の香る…寂れた街道を行く……切ないね…僕の心は螺旋階段…。」

「うんうん…。」

「同じ場所に立っているはずなのに…そこには違った色があるんだ。」

「うんうん…。」

「白い吐息が零れる…静かに…それは、しっとりと溶けて行く……ぐぉおおお!!」

「そこでシャウトを入れちゃうの!?斬新だね!」

ヒロは両手を広げて驚きのポーズ…俺は頭を掻きむしっていた。
ビコーズ、こんなケツが痒くなるような詞を書かされ、あまつさえ、朗読させられているからだぁ!あがぁああ!

「歌詞はどんな感じ?」

いつもの放課後。

世紀末サキュバスどもの巣窟、軽音部部室の中で、俺達はセンチメンタルでファンシーでストレンジな歌詞と言う核保有国もむせ返るような新型兵器の開発を行っていた。

少なくとも俺様は穴があったら水の渇き切った井戸ですら入る!入る場所がなけりゃハラキリでもしてやる!

そんぐらい恥さらしだ!畜生。

俺は窓際の机に向かい、隣に指導員のようにヒロに監督されながら歌詞を書いている。

それを明らかに面白がって霜恵が身を乗り出して覗いていやがる。

「うわぁ〜、ライホっち、きもぃ〜。」

「黙れ(怒)」

霜恵は言うだけ言って、更にはどこかへ行っちまいやがった。

「ったく、態度と胸だけは無駄にデカイ奴だ!」

俺は力を入れる余り、シャープペンの芯を折っちまった。

「来歩君はオッパイフェチなのかな?」

ヒロの唐突な問い掛けに思わずシャープペンまでも折っちまった。

「断じて違う!」

「そうなの……触っていいよ♪」

暫く俺は黙ってヒロの顔を見入り、次第に視線を胸元に移して行った。

「来歩君…顔が真っ赤だよ♪」

「ち、違うもん!触りたくなんかないんだもん!……っは!?」

俺は反射的に姉さんと一緒にいた時の反応を見せてしまった!

辺りは一気に静まりかえった…部室にいるヒロと、今更だが神楽(会話に混ざらないから解り難い)は俺を黙って見詰めていた。
俗に言う、黒歴史っつーのはこんな風に出来上がって行くんだろうな。

「ら…来歩君…。」

「うわぁ…。」

俺は頭を抱えて、部屋の隅にうずくまった。
恥ずかしい…嫌だ…人生の汚点だ!どうせ、あいつら、馬鹿にするに決まってる。

そうだ、俺がシスコンだって事……絶対に気付いた。
今まで気をつけてたのに!
つい、こいつのペースに乗せられて…。

「来歩君………そんなんだったんだ……。」

「う……煩い煩い煩い(某人気ライトノベルのヒロインじゃねぇぞ。)」

「も……もう一回やって!!はぁはぁ…。」

「…はっ?」

ヒロは頬を紅潮させ、息をあらげていやがる。

「……ギザカワユス……。」
っと神楽も同調して言う。

むしろ、思い切り蔑んでくれた方が救われた気がした。
こいつらの趣味は常軌を逸していた事をすっかり失念していた。

「てめぇら……ふざけるのも大概にしやが…!?」

今度はヒロが強引に俺を絞め殺さんばかりに抱きしめ、俺はヒロの強大なFカップに顔を押し潰された。

「ぐはっ……もがは!」

「ごめん!もう我慢出来ない♪抱きしめちゃうもんね!ふぁああ…男の子のシャンプーの匂い♪」

堪らず、俺はヒロを引き離すと、その真後ろには神楽が待ち構えていやがった。

「……ラータソは俺の嫁……。」

神楽もまた、ご自慢の膨らみを押し付け、抱き着いてきやがった。

しかしながら、年頃の男子として、こんな出鱈目な状況で理性を保っていられる俺もすげぇとは思う。

いや…それはそれで大問題のような気もするが。

姉さん…俺はいったい何をやっているんだろう…。
対した感慨も無く、俺は時間を食いつぶして行った。

…つづく
◇まるちハイスクール◇

入学しておおよそ三ヶ月が経った。

俺はいつものように起床し、聞きたくもないまずい朝食を取りつつ、朝の恒例の星座占いなんかをチェックして(占いなんざ信じてねぇからな!)、乙女座が最下位な事に肩を落とし(信じてはいない!)、自宅を後にする。

通学途中の長い直線道路は、中央に川が流れ、対抗車線に挟まれている。

そんで、歩道側には電気屋やら呉服屋やら、明らかに10代の学生が好まないような店が連なっていやがる。

まぁ、交通量も少ねぇし、静なのは結構だ。

ほぼベッドタウンであるこの町にゃ都会程の賑わいは無く、さして寂れている訳でもない何とも中途半端なアメニティーであり、大掛かりなショッピングにでも行くなら5つ程隣の駅へ電車に揺られて行く必要がある。

そんな観光PRは置いといてだ…俺はいつものように黒鉄学園の教室に入り指定の席へ鎮座すると、ふと何か重要な事を見落としているような気がした。

なんだ?いつものクソで詰まらんスクールライフの始まり、なのだが…何かが引っ掛かる。

「烏杜君、おはよう♪」

「今日もバッチリね♪ノリが違うわ。」

恐れ多くも、この俺様にタメ口をきくとは対した雌ブ○どもだ。

ま、まぁ…帝王とは言え紳士でもあるんだからな…挨拶ぐらいは返してやろう。俺様の寛大な心に、週末まで踊り狂って飛び降り自殺する程感謝するがいい。

「おはよう♪今日も天気が良くて気持ちいいね、ハハハ。」

むしろ、こんな歯が浮くような台詞をほざいている俺が気持ち悪いがな…。

いや…それよりも、忘れていた重要な事はなんだったか。

「あっ…ソックスがズレて来た、あのさ、君。」

俺は隣の席の女に声をかけた。

「なに?」

「ソックタッチ貸してくれないか?忘れて来てしまってね。」

「ああ…いいよいいよ♪はい。」

「ありがとう。」

やっぱり、足を出すなら、ソックスがたわんでいちゃ、見映えも悪いからな。

足を出す?

はっ!?そう言えば、今更だが…俺は何の違和感も躊躇いもなく女モノの制服で威風堂々と登校していた。

何と言う事だ!?俺は完全に奴ら(軽音部の魔獣ども)に毒されてしまったのか!
つーかっ、何で今まで誰も突っ込まなかったんだよ(怒)。日本もついに仮染めの民主主義体制から一気にカオス主義にでも発展しやがったのか。
ヒ○ラーも青ざめて便所に200時間篭るだろうぜ。

「あっ!?言われて見れば、烏杜君、どうして女子の制服着てるの?」

なんと言うか…悲しさを通り越してビックリだ。
俺が隣の女に問い質すまで、誰一人としてこの姿に疑問を抱かなかったなんてな……はは…はははは…はーっはっはっは。

昼休み…

何の嫌がらせなのか、余程暇なのか、学園の理事長にあたるイエンス・ユングストロームが学内視察なんかを始めやがった。

ちっ…学園のヘッドめ!お高くとまるんじゃねぇ。

俺はいつものように屋上へ上がり、人気の無い貯水タンクの裏で煙草を燻らせていると、何の因縁だか、その理事長様が不意に俺様の煙草を奪いやがった。

「この国の法に乗っ取れば、私は君のような未成年がニコチン中毒者になるのを見過ごす訳にはいかないな。」

理事長様が俺様にいちゃもんをつけやがる。

「安心してくれ…もうどっぷり浸かっちまったからよ。」

そう言って俺は構わず屋上から見渡せる景色を眺めていた。
相手にするのが面倒なんだよ。この手の変人は。

空は昼寝するにはこれでもないって程に快晴で、遠くの町並みにはダニみてぇに走り回る自動車が見えた。

微かに鉄道のクラクションと線路の金属の音が響いて来る。

「なら仕方ない…君は随分と退屈そうな顔をしているね。」

俺は、すぐ隣で貯水タンクに背中を預け、右手をダブルスーツのポケットに突っ込んだまま取り上げた吸いかけの煙草を左手で燻らせている理事長様の顔を一別した。

理事長ってご大層な肩書の割には若く見える。
顔立ちは調ってやがるが、顎は少し発達していて、北欧人独特の堀の深い作りだ。
乳白色に近い金髪は短く切り揃え、渋味がかったグリーンの瞳が僅かに瞬いてやがる。

「そうだな…退屈通り越して生き地獄だ。少なくとも今はあんたに邪魔されずに昼寝がしたい心境なんだけどな。」

「これは失礼、君の貴重な時間を裂いてしまって恐縮なのだが、聞いていいかな?君は我が校の学園長の娘さんと仲良くしてくれているようだね。」
俺は理事長に向きなおった。

「何だと?」

理事長は万遍の笑みでもう一度口を開く。

「だからさ…君は学園長・三輪芳文(よしふみ)の娘さん、浩子さんと随分仲睦まじいようだね…と言ったんだよ♪烏杜君。」

そして、懐から妙な写真を取り出し、俺の顔の前でちらつかせていた。

「こ……これはっ!?」

またもや、理事長が取り出しやがったのは何故か霜恵が脅迫用に撮影していた浩子の低反発枕の体験写真だった。

「学園長が終始ご立腹でしたね。最悪の場合、暗殺しても構わないとまでおっしゃってましたよ、ハハハ。」

ハハハじゃねぇよ(怒)何処の世界に娘をたぶらかされた怨みに生徒の暗殺を企てる校長がいるんだよ。

「まぁ、それは冗談ですが…。」

当たり前だ(怒)

「暗殺はなくとも、退学処分は可能性としてありえますね♪上手く弁明するか、あるいは望みが薄くとも潔白を晴らさない限り、君の実りあるであろう学園生活に終止符が打たれてしまうでしょう。」

「……あっそう、願ったり叶ったりだな。そうなりゃ、俺は間抜けなコンテストとやらに参加せずに済みそうだ。学校なんざ行かなくても実力でどうにでもならぁ。」

俺は新しい煙草を抜きだし、再び火をつけた。

「ふふふ…君の成績は前から伺っていたよ。中々これで、どうして優秀なんだね。」

「今度は、お勉強の話か。やっと教師らしくなってきやがったな。」

「いえいえ、君の成績なら、国内でも上位の私立大学への推薦も可能だからね。その実力を無駄にするのも忍びないと考えているんですよ。それに、この国では中卒の職探しも難儀するでしょう。」

理事長は胸ポケットから三つ折りの紙を取り出して俺に手渡した。

「何だよ、早速訴訟でも起こそうってか、それとも俺宛のラブレターか。随分と準備がいいな。」

三つ折りの用紙を開くとそれは白紙の原稿用紙だった。

「俺にドストエフスキーのような文豪になれと?」

「期待はしなくもないですが、違いますね。謝罪文ですよ、我が校の学園長宛の謝罪文をその原稿用紙に認めるのです。」

俺は暫くその原稿用紙を眺め、そんで、にべもなく真っ二つに破いた。

「ハゲ頭に言っておけ、テメェに下げるような頭は持ち合わせていない、とな。」

理事長はトサカに来る程、不適な笑みをプカプカ浮かべて原稿用紙を拾い上げた。
「ふふ…それが君の答えだね。」

そう言うと、理事長は立ち去って行った。
昼休み終了の予鈴が鳴る。

数日後…

「ちょっと!お父さん、何勝手な事してるの。」

夜の三輪自宅にて、父親の書斎のドアを乱暴に開け放ち、憤怒の表情で浩子が入って来た。

「何事だ、浩子。」

「何事も秘め事もないわ!どうして烏杜君を退学にしたのよ。【食券乱用】、【お食事券】だわ!」

…つづく
◇BLACKめたるうぉーず◇

「ふん、浩子よ、私はお前を売春婦紛いの娘に育てた覚えはない。お前の友人が持っていた写真の男?はいったい誰だ!」

浩子の父、芳文はボトルシップの製作途中のようで、起用に瓶の中でピンセットを巧に操りながら組み立てていた。

「私の部活仲間、兼、玩具です!」

浩子は真顔で危ない事を罵った。

「確かお前は軽音楽部の部長だったな。その部活の一部員風情がお前にちょっかいを出しているのか!」

「違います!私がちょっかいを出しているんです!ふんす♪」

浩子は両手を腰に宛がい、胸を張って言った。
自信満々に言われても困るのだが…。

「そうか…話は解った、だが…。」

「だが?」

芳文は、はげ上がった頭を撫でながら提案した。
ヘアケアは若い内から継続的にやらなきゃ後で後悔する事を描いたような頭だ。

「退学処分に関しては目をつぶるとしよう…しかしだ、お前との交際を認めるかどうかは別だ!見所のある男かどうか試させてもらう!解ったな。」

「お父さん、有難う!私から玩具を取り上げないでくれるのね♪うれしい。」

かくして、俺は何やら勝手に浩子の許婚候補に吊し上げられてしまったようで、奴らは自分の意思を尊重し、他人の意見には一切耳を傾けないようである。クレイジーだぜ。
そして翌日、退学処分の通知書の内容通りに、俺は退学手続きの書類を記入し、封筒に纏めたモノを学園長に届けるため、学園を訪れた。

ノックもせずに校長室の扉を開き、中へ入ると、そこは、もぬけの殻だった。

「……誰もいない…学園長様〜、登頂部が残念な学園長様〜。」

人間は鍛練を積めば、視覚、聴覚、嗅覚、いずれの感覚から察知されないように近付く事が出来る。

俺は背後から襲い掛かる鋭利な物体を紙一重で避けて見せた。

それから高く跳び上がり、三回転してから体を捻って校長の机の上に着地を決めた。我ながら中々のパフォーマンスである。

「音も姿も【臭い】も無かったが…どうやら殺気までは消せなかったみてぇだな。学園長さんよ。」

薄暗い闇の奥から、学園長の姿が現れる。
手には日本刀が握られていた。

「ふん、今の一太刀を避けるとは…おぬし、ただ者ではないな。どうでもよいが、【臭い】とは何だ、【臭い】とは!私はこれでも加齢臭は極めて少ない方だ。」

俺は腕組みをし、長い長いダークブラウンの髪の毛をなびかせ、仁王立ちする。

「ふん、見事な暗歩(あんぽ)だったな学園長様よ!わざわざ、暗殺術習得の為に食事に気を使い、一日の摂取カロリーを2000キロカロリー以下に抑え、尚且つ、体臭や口臭によって感づかれないよう、脂っこい食品を控え、歯磨は一日に3度やっていると見た。
その研磨剤は火王社製のクリアクリニカだな。」

俺、説明ながっ!?

「そこまで見破るとは、中々の慧眼だ。敵ながらあっぱれだ。趣味でミリタリー系の本も読んでいるのでな。そこらのプロボクサー程度では私の相手にはならん!」

この頭皮が可哀相な黒鉄学園・学園長、三輪芳文は御歳52歳。
歳に相応しくない切れのある身のこなしは、若手の格闘家に引けを取らず、その存在感と見た目のギャップから教育界のキラーマシーンと呼ばれている(学校経営者目録20××年度改訂版・凶文社より)。

「それよりも、突然襲い掛かるなんざ、どういう了見だ、ハゲ頭!こうやって紙切れで遥々学校まで筋を通しに来たって言うのによ。」

俺は退学届けを床へ投げ付けた。
メンコのように叩く音が鳴り、僅かな埃が舞った。
「ふん、貴様の退学の件についてはもういい。」

「じゃあ何だってんだよ!まさか、気が変わって暗殺しようってんじゃねぇだろうな。」

「まさか……私がそのような蛮行に及ぶとでも?」

「そのジャパニーズ・ブレードはなんだ(怒)」

銃刀法違反も甚だしいな。

「ふん!知れた事。」

「いや、知らねぇよ。」

言動も型破りだ、究極のマザー○ァッカーだぜ。

「貴様が娘に相応しい男か試させてもらう!」

「尚更、解らねぇ!」

学園長様がガゼルのようなしなやかさで飛び掛かる。
首を掴まれた俺は窓ガラスに叩き付けられ、そのまま4階から学校のグラウンドへ放り出された。おい、PTAはどうした(怒)。

グラウンドの中央に巨大なクレーターが出来上がり、その中央から俺は起き上がった。

幸い、骨折はないようだ。フィクションって便利だな。

「今の攻撃に堪えるとはな、ただの【燃焼美少女】ではないようだな。」

「燃えねぇし、萌えでもねぇし、美少女じゃねぇ!こんな恰好(女子制服)で言うのも難だが…。」

何故律義に着て来ているんだ、俺は…。

グラウンドで授業を受けるクソどもの注目が集まる。

「あいつ、烏杜じゃねぇか?」

「確か退学を言い渡されたんじゃ。」

「何で学園長と戦っているの?」

つーか、そもそも、退学させられる理由だって常識で考えりゃ理不尽極まりないんだがな。

本当、フィクションって便利だな。

そんな色眼鏡ギャラリーなんざお構いなしに俺と学園長の死闘は夕方まで続いた。

校庭を駆け回り、廊下を歩きながら(学園関係者である以上、走る訳にはいかないだとか)攻防を繰り広げ、プールで水しぶきを上げながら、もみ合った(何が悲しくて50のオッサンと戯れているんだ)。
そして、疲れ果てた俺達は河原の土手と言う青春漫画の様式美とも言える場所で仰向けに倒れ、夕焼け空を見上げていた。

「ぜぇはぁ…貴様…中々やるではないか。この日の為に河原の前に学校を建てておいて正解であったな。」

「ぜぇはぁ…今後一切…役に立つ機会は…ねぇだろうな…。」

こんな状況でありながら、俺は何を思ったか、打ち所が悪かったのか、心にも無い事を口にしていた。

「あんたと渡り合える男は、この俺様だけだからな。俺は浩子とコンテストを勝ち抜く…絶対にな。」

「貴様……。」

案の定、何かを踏んでしまったようだ。
マジでファッ○ン・クレイジーだぜ。

「浩子だとぉおお!!貴様ごときが浩子呼ばわりとは、勘違いも甚だしい!そぉこになおれぇええ!」

「だぁかぁら、ちげぇっつってんだろうがぁあああ!人の話を聞きやがれぇええ!」

…つづく
◇ショーツ&コール◇

「あっ、もしもし?私だけど…うん、そう…あんまり時間取れないけど…うん、元気だよ。【ここ】で話すような事でもないかもしれないけど。お母さんは元気そう?そう…良かった。私はまだまだ【出て来る】まで時間がかかるかな。大丈夫、心配いらないから。あなたも無理をしないでね…じゃあね。」


~~~

初夏と言うには遅すぎる、かと言って夏本番と言うには早過ぎる7月上旬の頃。
俺は理由も告げられずに学園長から勝負を申し込まれ、激闘の末、退学処分を免れ(こちらは確定事項だったようだが)、また詰まらんいつもの日常に戻る。

今更言うまでもないが、女子制服での登校にも随分と慣れ(諦めたと言う方が正しい)、そもそも、こんな出鱈目な状況に陥ってしまった元凶は言わずもがな、あの三輪親子である。

先は読めねぇし、腹の中で何を考えているのかも解らねぇ。
真の悪魔とはあいつらの事ではないのか…なんぞと、物思いに耽っている俺だが、数日前のハゲ頭との一戦の後、ハゲ頭は妙な事をほざきやがった。

「お前が見所のある男だと言う事は身をもって知った。実に真っ直ぐでタフな心を持っておる。」

「ったりめぇだ…俺様は帝王になる男だ。ぬるま湯に浸かって生きて来た訳じゃねぇ。」

「そうか…それで、浩子をどう思っている?この際、どういう関係であるか、事と次第によって消し去ると言う事だけは多めに見てやろう。」

もう少し譲歩しろ…

「どういう関係も糞もねぇよ。俺はただのバンドコンテストまでの道連れ要員だ。浩子も俺を小間使いくらいにしか思っちゃいねぇよ。」

「貴様は…戦闘においては鋭いが、こと色事に関しては鈍いものだな。」

「随分な言われようだ。」

学園長は真っ赤な夕日を背に、輝かしい頭を誇示しながら言った。

「浩子は、高校に入学させるまでは内向的で誰とも話したがらなかった。ひがな一日、漫画やアニメ、ゲームばかり…そうやって広い世界から目を背け、一人、ただ…行き場を失っていた。」

空は半分が夜の闇に支配され、夕日は徐々に地平へと姿を消して行く。

それに従って、学園長の頭も輝きを失って行った。

「浩子を、優勝まで導いてやってくれ…長い空白の時間を…輝きで満たしてやってくれ。そうしたら、正式に交際を認めてやろう。」

~~~~
そもそも、はなっから交際なんぞ望んじゃいないんだがな。

どうしてこうも、あの早合点ハゲ頭は無意味に話を膨らましやがるんだ。

俺は…ヒロの事なんぞ微塵も気にならねぇ。

そうだ…あんなクソ女。

そんで、コンテストとやらが催されるまで後一週間を切った今現在、俺は気の進まない面持ちで放課後、部室へ足を運んだ。

「あっ、来歩。良かった、お父さんに勝ったんだね♪」

部室へ入ると開口1番に訳の解らん事をほざくヒロ。

「お前の親父の相手をさせられるなんざ夢にも思わなかったぜ。」

しかも、なんであんなに出鱈目に強いんだよ。

「ドリームマッチってやつだね。」

「10円ガムの当たり程度の夢も感じないがな…全国にどれだけ校長とバトル出来る学生がいるんだろうな(怒)是非感想を聞きたいね。」

そうこうしている内に、霜恵、神楽の残りのメンバーも集まり、数時間の間、演目の練習を行い、俺は全員の音量バランスや技法を事細かにチェックして行った。

どうでもいいが…ギャラはいくら出るんだ。

午後8時を回り、全員が帰り支度を始め、それぞれが学校を後にした。

ヒロとは途中まで帰りが一緒のようで、不本意ながら、二人で帰り道を歩いていた。

「今年もナツコミ行きたいなぁ。それと秋葉原でしょ、あっ、でも今年のフジロックも好きなバンドが沢山出るんだよねぇ。」

息継ぎもしねぇで話し続けるヒロの横で、俺は浮かない顔で歩いていた。

「ねぇ、聞いてる?」

「聞いてねぇ…。」

ヒロは困り顔で眉を潜めた。

「来歩って兄弟とかいるの?」

流石と言うか、あの時の失態を思い出したのか、はたまた、どうでもいい所で馬鹿に感が鋭いのか、余り聞かれたくない事を見事に聞いてきやがった。

「いたらなんだっつーんだ…。」

「お姉さん、お兄さん?妹、それとも弟?上、下、右、左、どれ?」

格ゲーの必殺コマンドか!右左って何だよ(怒)

「姉だよ、姉…。」

「お姉さん!」

何をそんなに興奮しているのか、両手を頬に宛がい、空を見上げていた。

「どうせ、また身勝手な妄想でも頭の中で繰り広げてたんだろ。」

「何故解る!?」

「否定しろ!」

川沿いの草村で牛蛙が鳴いてる。変な鳴き声だ。

「今お姉さんは何歳?何をしているの?」

「今年で20だ…刑務所にいる。」

「二十歳!?」

「驚く所そこかよ!」
~~~~

俺の姉、烏杜来華(らいか)は一年前に暴行罪で捕まった。
向こう3年間の刑務所生活を言い渡され、残り2年は出て来る事が出来ない。

そもそも、姉さんが捕まったのは俺が原因だった。

日本のジュニアハイスクールの卒業を控えていた俺は、ある日違う学校の不良学生どもに一人で挑んでいた。

事の発端は、道を塞ぐようにたむろしていたのを注意した事だ。

「邪魔だ…見せかけだけ凄ませてるカス程目障りなモノはねぇな…。」

「あんだとぉ!やきいれたろか!このチビ!」

相手は12人、こちらは一人、いくら有能な戦士でも、所詮は多勢に無勢、5人倒すのが限界だった。

「いてぇ!ほ…骨が。」

「次はどいつだ…一人で吠える度胸もねぇクソどもが何人集まろうが、俺様の敵じゃねぇ!」

挑発に逆上しやがったのか、残りの奴らは片手にナイフを取り出しやがった。

「もう我慢ならねぇ!ぶっ殺してやらぁ!」

絶対絶命って奴だ。八方からナイフで狙われりゃ、上手くかわしたとしても、無傷じゃ済むはずもねぇ。

そこに、無謀にも助けに入ったのが姉さんだった。

姉さんは無言で不良どもを一瞬にして叩き伏せてしまった。

その時、姉さんは過剰防衛で捕まったんだ。
でも、いつも冷静でおおよそ他人を傷付ける事をしなかった姉さんは、どこか必死だった。

それは…俺の命が危なかったからだ。
姉さんは守りたいモノのためならどんな犠牲も厭わない人だった。

あの時、俺が安易に不良どもに喧嘩を売らなければ、姉さんが罪を問われるような事は無かった。

姉さんが俺を助けてくれた時、俺は思い切り頬を殴られた。

「こんな争いに、どこまでの価値があるの…。」

姉さんは、ただ、そう言った。

まるで、透明感を失ったガラス玉のような悲しい目をしていた。

姉さんは、それから警察に連行された。
赤いサイレンに真っ白な車体は、姉さんを掠って行った。

~~~~

「そうなんだ…ごめんね、嫌な事聞いて…軽率だったね。」

ヒロは柄にもなく塩らしくなりやがった。

「気にすんな…むしろ、話してすっきりしたさ。」

そんな俺の様子を見るなり、ヒロは俺の正面に立ち、拳を握り締めてガッツポーズなんざ決め込み、宣言しやがった。

「よし!コンテスト優勝して、お姉さんの保釈金稼ぐぞぉ!」

歩道に立つヒロの側面を大型トラックが勢い良く通過し、スカートが派手にめくれた。中から桜色の布があらわになった。

「……黄色にしたら行けるかもな…。」

ヒロは思い出したかのようにわざとらしく恥じらって見せる。

「やだ♪ライホったら、このお姉ちゃんの下着泥棒予備軍!」

死んでもレギュラー入りしたくねぇな(怒)

…つづく
◇ブレイカーズFX◇

馬鹿でかい金属音が鼓膜を震わす。
それは、離れようにも離れられない理由があって、一歩後ずされば、壁に追いやられるからだ。

だが、問題なのは驚異的爆音ではない。

空間の問題だ。

ほのかな甘い香が鼻孔を擽り、平常心の枷が外されて行く。

それでも俺は、まけじと自制心で補強して行き、己の心が獣に変貌しないよう切磋琢磨していたんだ。

「何故だ…。」

ヒロはティアドロップのピックを口に加えたまま、俺を見下ろしていた。

「ほえ?ほうひはも?」

「…何故、もっと広いスタジオを取らなかったんだよ。」

俺は三人のメスに囲まれ、キャパオーバーした6畳のスタジオの中で唸っていた。

少しでも動けば、メンバーの誰かしらに触れてしまいそうな狭さだ。

「ひははまいほ…ほうほほみあっへはんはら。」

俺は真っ先にヒロの口からピックを取り上げた。

「だから我慢してね、テヘ♪」

「予約は最低、一週間前からしろ!貴様らの色香を退けながら演奏する俺様の身にもなれ。」

「色気を感じてくれてたんだ?」

ちっ…また墓穴を掘った。

今日は放課後に、週一で交代で使っている部室は他団体が使用しているっつう理由でスタジオを借りての練習だった。

コンテストも残す所、後4日、最終調整も含め、メンバーにはやる気がみなぎっていやがった。

せいぜい、間違った方向にだけは、やる気を出さないで欲しいものだ。

コンテストは都内の会場で予選を行い、勝ち残った3団体が全国大会へ出場する。

なにやら、全国の会場は横浜サントリーホールのようで、えらく音響の優れたホールが選ばれていやがる。

全国ともなると、様々なプロダクションの関係者が来場するみてぇだ。

商売道具を見物するにゃかっこうの餌場と言えるだろうな。

優勝賞金は300万、一枚のアルバムを作るには十分過ぎる額だ。

そればかりか、大手メジャーレーベルの斡旋もしてくれるらしい、売り出しの枠まで用意してくれるたぁ、日本の業界も気前がいいと来たもんだ。
「いいじゃん、ホッピー、こんな美人に囲まれて、幸せ者じゃないか。」

ホッピー?霜恵のネーミングセンスはいまひとつ理解出来ん。

「あっ、ホッピー可愛い。」
ヒロが同調する。余計な事だけはスラスラと言葉が出やがる。

何度も言うようだが、神楽は会話に混ざれ。

「ほ………ほほ…ほほほほっぴっぽー!」

こいつは何処の診療所に連れて行けばいいんだ?精神科か、脳神経外科か?

その瞬間、急にスタジオ内のブレーカーが落ちやがった。

「あっ……真っ暗だ。」

暗闇の中、ヒロが呟く。

「ライホっお尻触らないでね♪」

「取り敢えず部屋を出るぞ(怒)」

俺は携帯のディスプレイの光を頼りに出口の二重扉を探した。

その時、俺はシールドに足を引っ掻け、派手に転倒してしまった。

「っつ…やってらんねぇ。」

そして、それからすぐに復旧したのだが、俺はとんでもない状況を目の当たりにした。

「ライホ!?大丈夫。」

ヒロが倒れている俺に駆け寄る。

「…マジかよ…。」

目の前には無残にシールド端子の先が折れ曲がって、床に横たわるミキサーの姿があった。

転んだ拍子に台座の上のミキサーを落っことしてしまったらしい。

「…これ、いくらくらいするの?」

ヒロが問う。

「……30万。」

「から20割る事の…。」

「割らねぇ!」

俺は頭を抱えた。
機材の置かれた調度上辺りに張り紙が張られ、【機材は丁寧に扱いましょう。万が一破損した場合はお客様の方で負担して頂きます。ご理解の方よろしくお願いします。】と書かれていた。

「マジで…私お金無いよ。」

っと霜恵。

「……諭吉キボンヌ……。」

今回初めて言葉を喋った神楽。

俺は暫く逡巡し、苦肉の策に出た。

「スタジオ終了まで後45分…悪いが、その間に30万かき集めるぞ。」

三人は仰天した。

「どうやって?」

霜恵は両手を交差させて身体を守る。

「どんな手を使ってでもだ!」

ってな訳で、俺達は30万を45分で稼ぐためにそれぞれが奔走した。

ヒロは、近くのゲームセンターへ駆け込み、ユーフォーキャッチャーの利用客に声をかけて行った。

「500円で確実に取りますよ。どうですか?」

客の男は訝しげに言う。

「はぁ?何言って…えっ……ええぇ〜。」

なんとヒロはたった百円で目当ての縫いぐるみを取って見せた。
「他に取って欲しい物はありますか?」

更に、ヒロは穴に棒を通すゲームから、懐かしのイライラ棒、バスケットゲームから体を左右に動かしてシーソーを傾けてボールをカゴに落とすゲーム、何れも景品が付いて来るゲームを代わりに攻略し、引き換えに代金を貰って行った。

霜恵は、街角でダンスを踊っていた。
頭を軸に回転したり、片手で逆立ちして見せたり、6個のボールをジャグリングするなどして聴衆を魅了していた。
もはやダンスと言うよりも曲芸である。
オーディエンスは小銭を箱の中に投げ入れる。

神楽はと言うと、デパートのごみ箱を漁っていた。
各フロアのありとあらゆるごみ箱を漁り、何やら紙切れを集めていた。
恥ずかしいから止めてくれと言いたいが、それ以上に、それが何になるのかが甚だしく疑問だ。

神楽は全てのごみ箱を漁り尽くすと、鞄一杯に紙切れが詰め込まれている。

それを1階のフロアでベルを鳴らしながら囃し立てるオッサンの所へと持って行った。

「しゃいませ〜、はい…ええと、これは抽選補助券ですね。」

どうやら何かの抽選の補助券らしく、三枚で一回抽選が受けられるようだ。

一等はグアム旅行ペア3泊4日のようで、そいつを金券ショップで売りさばくらしい。

神楽は124枚もかき集めて来たらしく、合計で41回引けるようだ。

「で…ではどうぞ、このレバーを持ってゆっくり回して下さい。はい、いっか〜い、にか〜い…。」

神楽は黙々と回し始めた。

そんで俺様は、ジャパンに渡って初めて遊んだマネーゲームで稼ごうと試みた。

紙幣か硬貨を銀色の玉と交換し、借りた玉を釘の打たれた盤の上から落として行く、シンプルかつ運に左右されるゲームだ。

右側にあるハンドルを回すと自動で玉が打ち出されて行く。

アタッカーの中へ玉が入るとリールが回りだし、抽選が行われる。

単純に1〜9の数字が三つ揃えば当たりなのだが、あれやこれやと複雑な予告や演出に加え、ディスプレイの周囲に仕掛けられた小物が動くなどして大当りの度合いや信頼性なんかを推し量る事も出来る。

そんで、見事当たれば、10分程度の大当り演出が始まり、おおよそ1400個くらいの玉が与えられるっつー流れで、大当りで蓄えた玉を交換所で金に換えるんだ。

俺は黙々と玉を打ち続け、たった30分で6000個の玉を獲得した。
そこで俺は順調に事を進め、スタジオ終了の5分前になり、ヒロから俺の携帯に電話が掛かって来た。

「ライホ、今何処にいるの?」

俺は一度席を立ち、外へ出て電話をした。

「もう少し待て!後10分待ってもらえ!もう少しなんだ!」

「えっ?でも…スタジオの…。」

「いいから!待て!」

俺は強引にヒロの電話を切り、自分の台に戻った。

「よし!これだけあれば10万は固いな……んっ?」

背後から店員が声をかけてきやがった。

「お客様、恐れ入りますが身分証を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「はぁ?何でそんなもんが要るんだよ!邪魔だ、どけ!」

「困りますねぇ、18歳未満のお客様はお断りしております。ですから身分証をお願いしているんですよ。」

俺は煙草を燻らせ、大柄な店員に背中を向けたまま黙っていた。

「お客様?」

「知らねぇ…邪魔だ、消えろ。」

その後、俺は10人の黒ずくめの男どもと揉み合いになり、警察も巻き込んでの大騒ぎとなり、今まで貯めた玉は全て無効となった。

ヒロ達はと言うと、ミキサーの件はスタジオ側のミスと言う事で免除してもらったようだ。

ちくしょう!

…つづく
◇あんにゅいセレナーデ◇

「お父さん…どうにかならない?」

葉巻の煙がまるで軟体な海洋生物みてぇに漂っていやがる。

間違って民家の壁に激突して、頭を出したまま天に召されたような生々しい鹿の剥製が無味乾燥な表情で飾られていて、煙にむせ返りそうな空気の悪い室内。

ここは、ヒロの父親にして私立黒鉄学園学園長である三輪芳文の書斎だ。

「悪いが、今回ばかりはお前の力にはなれないな…PTAや文部省の幹部達、マスコミが息を潜めている。学園長と言う肩書で生徒の非行を許してしまえば、たちまち私の立場が危うくなる。
最悪の場合、黒鉄学園は経営破綻で廃校に、あるいは、学園の経営権を他の者に譲らねばならん。
そうなれば、お前や母さんを養って行く事は出来んのだぞ。」

ヒロは俯いたまま、書斎を後にした。

「どうしよう…。」

昨日の事だ。俺様がスタジオの貸し出し用ミキサーを誤って破損しちまって、その弁償の為の資金調達に奔走したのだが、俺様が、未成年はご法度らしい賭博に手を出しちまった事が学園は愚か、世間にまで知れ渡ってしまい、一週間の自宅謹慎を言い渡されてしまった。

当然、今度と言う今度は俺から学園長に頭を下げなけりゃならなかったし、交番で身柄を拘束されてからの俺の引き取り人は居なかった。

何故なら、母さんは3年前に故郷で他界し、厳格で生真面目な親父は俺を日本に残して母国で証券取引の仕事に奔走しているからだ。

学費と生活費だけは出して貰えているが、それ以外の事は全部ほったらかしの姉任せだ。

肝心な姉さんはブタ箱の中で、出て来れない。

それに、姉さんには心配をかけたくはねぇんだ。

そんなんで、俺は引き取り手がいない為に代わりに浩子が迎えに来た。

結局、身内どころか、他人まで迷惑かけちまったのか。情けなくて何も言えねぇよ。
つくづく、自分のやっている事のくだらなさに嫌悪感を覚える。

あがいてもあがいても無力で取るに足らない自分に…。

自宅謹慎を言い渡されたのはその翌日だ。
俺は校長室に呼び出された。
今回ばかりは反論の余地もねえからな…大人しくハゲ頭の言う事を聞いた。

「貴様はもう少し賢い男だとは思っていたが…私の検討違いだったか。」

「…なんとでも言え。」

「もはや、貴様一人の問題ではないのだ。今回のコンテストは、浩子にとって…特別な思い入れがあったのだ。」
俺は大きく目を見開き、ハゲ頭を睨み付けた。眩しい。

「浩子は貴様を慕っているのだよ…貴様が思っているよりもずっと前からな…。」

時を遡る事、おおよそ2年前、浩子が中学2年の頃だ。
良くある話だが、浩子は中学のクラスメートから虐めを受けていた。

人一倍凝り性で努力を絵に書いたような人格、その上容姿端麗と来て、浩子は必然的に学校中の注目を集める訳だ。

温厚だが奇妙、愛嬌があり、男女を問わず、人気があったようだ。

だが、そんな浩子の存在を妬ましく思う輩もいた。

秋頃、文化祭やら体育祭なんぞ、混沌とした茶番劇のような行事が終わると情け容赦なく期末テストが行われた。

担当教員が解答用紙と問題用紙の束を最前列の生徒に手渡し、生徒は忙しく真後ろの生徒に回して行った。

「机の上には鉛筆と消しゴム以外の物は置かないように、机の中には何も入ってないのを確認して下さい。」

そんな事を注意し、予鈴と共にテストが開始された。

中盤に差し掛かった辺りで、不意に浩子の右斜め後の席の生徒が手を挙げた。

「先生。」

「どうしたの?」

担当教師がその生徒に歩み寄る。

「三輪さんの机の中に紙みたいのが見えるのですが。」

「えっ、三輪さん、ちょっといいですか?」

浩子はテストに集中していたためか、教師に声をかけられて驚いたように顔を上げた。

「はいっ、何ですか?」

他の生徒も同様にテストに全精力を注いでいただけに二人のやり取りには見向きもしなかった。

教師が浩子の机の中を確認すると、机の中の天井部分にB5の紙がセロハンテープで固定されているのを見つけた。

それを剥がし、見てみると、今日のテストの内容であろう英単語の羅列や、構文の内容が記されていた。

「……三輪さん…ちょっと職員室まで。」

担当教員の女は落ち着いた声色で浩子を教室から連れだした。

教室を出る前に他の手の空いている教員を捕まえ、自分の教室の監督を代行してもらっていた。

「三輪さん…解っているとは思うけど、これは立派なカンニング行為なのよ。」

浩子は職員室の応接間にあるソファーに腰掛け、肩を竦めて教師を見上げていた。

「……私…知らないです。」

「先生も解っています。あなたがカンニングをする動機が全く見当たらないからね。」

教師はすべらかな足を組み直し、続ける。
「あなたはクラスの子達にも勉強をとても上手に教えていたわ。時には私の仕事が手に付かない程、勉強の事から、テストの範囲外の事、更には勉強以外の事まで、のべつ幕なしに熱弁していたのだもの。」

「は…はぁ。」

「でもね…あなたの潔白を晴らす事が出来ないのよ。」

浩子は俯いた。

「私は……テストの始めに、【机の中を確認して下さい】と言ったからよ。例え、あなたが故意にやった事でなくても、机の中の確認を怠ったと言う過失があるから…私はあなたを助けてあげることが出来ないの。」

教師は悲しげな表情で浩子に告げた。

「だから…今まであなたが受けたテストは無効となってしまうの…悪く思わないでね。」

浩子はビー玉みたいな涙をボロボロ流しながら両手でスカートの裾を握り締めていた。

それから、浩子はクラスメートから虐めを受けるようになった。

クラス内のネット掲示板なんかには【カンニング常習犯】だの【浩子はクラスの男子に体を売って宿題を済ませてました】だの根も葉も無い噂や悪評が書き込まれた。

机の上には異臭を放つ雑巾だの、破れた教科書だの、正に中坊の餓鬼が考えそうな悪戯をされた。

浩子も、虐めに耐えられる程の精神も人間も出来上がってはいなかった。
やがて、浩子は不登校になり、自分の部屋に閉じこもり、漫画やアニメ、ゲームばかりの生活を始めた。

「三輪さん…頭いいなぁ〜って思ってたけど、なぁんだ、カンニングだったんだ。」

「ズルして良い高校に進学したかったのね。最低よ。」

浩子は自分の部屋の中で、クラスの連中から言われた事を思い出す度、うずくまって泣いていた。

そんな浩子は、ある日、小学校の時の親友からインディーズのライヴに誘われたようだ。

「もしもし、浩子?今日、クラブ・サナトリウスでインディーズのライヴあるんだけど行かない?」

「…ライヴ?」

「そうそう、私の好きなギガブリードの自主企画なんだけど、一人だとまだ入りづらくて。夜遅く一人は危ないってお父さんが煩いの。」

浩子は電話ごしで暫く逡巡し、断ろうとしたが、それを遮るように親友は強引に言い放った。

「ねっ、いいでしょ。人助けだと思って、じゃあ来週の土曜日、午後6時に駅前のバンプスでヨロシク♪」

「えっ…ちょっ!?」

…つづく
◇バスタードサーペント◇

「ごめ〜ん、待った?」

「ううん、かなり待ったよ。」

「面目次第もございません、ぎゃは。」

浩子は約束通り、駅前のコンビニチェーン・バンプスで待っていた。

「元気ないなぁ、まっ…今日のライヴを聴いたら、そんな気分もぜーんぶ吹き飛ばしてしまうかもねぇ〜、きゃはは。」

浩子は僅かに微笑んでいた。
学校であった出来事については親友の細田麻茂(ほそだ・まも)には直接話した訳ではなかった。

だが、麻茂は、長年の付き合いもあり、浩子が元気が無い事は容易に察する事が出来た。

浩子はあえて追求しない麻茂に感謝の念を抱いていた。

肩まで短く切られた、波打つくせ毛が無造作に散らばり、おおざっぱ、服装も白地のパーカーにミリタリーのカーゴパンツが裾を紐で締めて上げられた恰好だった。

浩子は、はき潰したダメージジーンズに革製のベルト、タンクトップの上に破れた加工が施され、黒い髑髏が描かれたロングシャツを重ね着していた。

二人が会場へ着くと、バンド関係者であろうメンバーがビラを配っていて、浩子はそれを律義に受け取って行った。

地下へ続く階段を降りると受け付けがあり、オカッパ頭の七色の女が立っていやがった。

「こんにちは、今日はどのバンドさんを見に来たんですか?」

質問に対して、麻茂は慣れた口調で答える。

「えっと、ギガブリードで、細田と三輪で予約しました。」

「解りました。チケットはワンドリンク券とセットになってます。お一人1500円になります。」

二人は料金を支払い、チケットとチラシを受け取り、会場の中へと入って行った。

薄暗い室内は煙草や塗装の臭いが充満し、正にアウトローと言う言葉を表現したかのような、くたびれた建物だ。

最大動員数は120人と言う規模で、客席側はやたらと細長い部屋構造だ。

錆び付いたミラーボールがグルグルと回り、無数の光の粒が壁に映し出され、まるで流星郡のようだ。

「ここがライヴハウス…。」

浩子は慣れない環境に気後れしていた。

「凄いよね。色んなお客さんが集まって盛り上がるんだよ。ライヴが始まると、激しく動き回るから時には死人も出たりするんだよぉ〜。」

「私…運動は苦手だな。」

以前から浩子は懸念すべき点がズレていたようだ。
そうこうしていると、ギガブリードの前座バンドがステージへと登って来た。

さっきまでかかっていたツェッペリンのコミュニケーション・ブレイクダウンのBGMが止み、演奏が始まる。

編成は、ギター・ヴォーカル、サイドギター、ベース、ドラムの4人編成だ。

激しいドラムソロから始まる疾走曲が鼓膜を震わす。

浩子は始め、耳を塞いでいたが、次第に慣れ始め、曲に聴き入っていた。

1曲目が終わると次の曲がすぐに演奏される。

浩子は、ただ一点を見詰めていた。

スポットに反射して輝く白いギターを弾く男を。

2曲目が終わり、間にマイクセレモニーが入った。

「帰って来たぜぇええ!クラブ・サナトリウムゥウウウ!」

会場を埋め尽くす観客が一斉に声を上げる。

「センキュー!バスタードサーペントだぁ!今日はギガブリードさんの自主企画と言う事で、目茶苦茶アグレッシブな奴らが集まってる。心してかかれぇえい!」

耳をつんざくようなダミ声で喋り散らすヴォーカル。

「それとぉ!今日は、新メンバーを紹介するぜぇ!ドイツから直輸入、なりは小さいが鳴りは馬鹿デカイ、ギターの来歩だぁ!」

そう、俺様が所属していたバスタードサーペントがギガブリードの前座で参加していたんだ。

日本ではまだまだ市民権を得ていないメロディック・デスメタル。

北欧発祥であり、大々的に普及に貢献したのはアメリカである、劇的で攻撃性を持ったこの音楽は、日本で受け入れられ難い代物だ。

それでも、俺様以外のメンバーが全員日本人であるバスタード・サーペントは果敢にメロデスを貫き、売り込んで行った。
「それじゃあぁ!次の曲行くぜぇ…お前ら付いて来いやぁ!ブレイク、オアコンストラクション!」

会場は狭いながらも、屋内のキャパシティーなんぞ簡単に越えてしまうほどの熱気に包まれた。

ライヴが終わったのは夜10時を回った頃だ。

浩子と麻茂の二人は帰りの駅までの小道を歩いていた。

「うん、やっぱ熱いわ!メロデス。」

麻茂は上機嫌で余韻に浸っていた。
その横で歩いている浩子は、何やら考え事をしていた。

「どうしたの?浩子。」

「私…ギター始める。」

「はい?」

麻茂は訝しげに浩子を見ていたが、すぐに理解し、黙って話を聞いていた。

「それで…ビルの16階からダイブして車のボンネットに穴を空ける。」

「それ…凄くクールだよ。寒気がする方で、ぎゃはは!」

「自殺志願者じゃないよ、突発的反抗期だよ。だって、その方が中学生みたいじゃない?生きてる感じ。」

「…浩子が元気になって良かった。」

麻茂は微笑んだ。

「でもね…16階は無茶だよ。生きてる感じがしても死んでたら意味ないもん。」

「じゃあ20歳になるまで我慢する。」

「そうだね、その時、身長が50メートルまで伸びてたらやってみるといいよ。」

…続く
◇パーフェクトでぃぱぁ〜ちゃ〜◇

「退屈だな…。」

鉄とコンクリートのジャングルのような室内で、俺、烏杜来歩は何度も何度も溜息を漏らし、途方もない静かな時間を過ごしていた。

自宅謹慎を言い渡されたからと言って、近所のコンビニへ出掛けられない訳ではない。

ましてや、俺一人の為に監視役をおおせ付かるような可哀相な暇人もいないだろうしな。

ただ、謹慎中に大掛かりなコンテストに出ようものなら、瞬く間に通報され、学園関係者、あるいは身内がすっ飛んで出て来るに違いねぇ。

最も、前述したように、俺の家族は事情により、誰も駆け付ける事が出来ない。

俺は孤児ではない、ただ、人間っつーのは独りでは言葉にならない寂しさみたいなモノに駆られるもんだ。

俺は一人考えていた。

「悪い事をしたかな…元々やる気なんざ無かったが、一度乗り出した船を沈没させるような真似をしたかな。」

そんな事を考えながら、ベッドの上に仰向けに寝転がり煙草を燻らせ、天井を見上げていた。

俺は柄にもなく、奴らの事を考えた。

ふと、姉さんの言葉を思い出す。あの頃は生産性のない暴力で弱者を捩伏せるような行いをする度に姉さんから叱責を受けていた。

姉さんは本当に強かった。それは精神的な部分も体力面も、おおよそ女とは思えない澄み渡った強さがあったんだ。

おまけに美人と来たもんだ。我が姉ながら、中々の器量だ。

「来歩、また喧嘩したの。」

「……俺は悪くねぇ…。」

誰かが悪くなけりゃ、善悪の判断なんざつかねぇだろうさ。

「…はぁ、お姉さんは辛いのよぉ。あなたが誰かを傷付けた分だけ、私は頭を下げなければいけないの。下げる頭が足りなくて、ヤマタノオロチの頭も借りたいぐらいよ。」

「下げなきゃいい…頭なんか下げるから立場が悪くなるんだ!」

腹が減ったな。

「…来歩……。子供は子供の物差しだけで、大人は大人の物差しだけで考えては駄目だわ。もっと頭を柔軟にするの。そうすれば必ず人が集まって来る、新しい道が切り開けるわ。」

「子供は子供だろ…大人は子供のやる事なんか小さくて何の役にも立たないと思ってる。」

姉さんはいつだってくそ真面目だ。
「そうね…子供は無力で、大人の力を借りないと生きて行けないものね。だけど、無力な子供が有力な大人になるには、相手の心を思いやり、自分の力を理解させなければならないわ。徒に振り回す力は、いずれ憎しみを生み出し、自分自身に災いをもたらすわ。」

心を思いやり、自分の力を理解させる。

俺はある日の部室での練習を思い返した。

「来歩ってさぁ、本当は淋しがり屋なんだねぇ。」

浩子はそう言った。

「根拠だけは一応聞いてやる。」

「だってね、悪態を付くにはちゃんと理由があるんだよ。人に深く踏み込んでしまうとね、いざ離れ離れになってしまった時……傷痕がその分だけ深く残ってしまうからだよね。」

「だからなんだよ…。」

浩子は少し淋しげに、微笑んで言った。

「私はいつも来歩の傍にいるよ。ずっと前から、そして、これからも…だから、珠には、笑顔を見せて欲しいな。」

あいつはいつもそうだ…俺様の一歩先を鋭く読み取りやがる。
何だか主導権握られたみてぇで腹立たしい、だが…取り分け不快でもなかった。

嘘八百でも、建前でも、おべっかでも、あいつの言葉はどれも暖かみがあった。

いつしか、あいつの為なら、多少の苦労も生き恥も受け入れてやっても良いと思い始めた。

それは、信頼と言う奴で、あいつの音楽に魅了され、俺様ともあろう者が、まんまと乗せられてしまったのかもしれない。

「今となっては…乗せられた船から見事に飛び降りてしまったがな…。」

俺は深くため息をついた。

そして、深い眠りについた。
それから何時間が経っただろうか。

俺は不快な夢を見た。

テレビの修理を依頼したんだ。
その業者の修理工が何故か浩子と霜恵だった。
滞り無く修理を終えると、電源を入れてもいないのに勝手にテレビの画面が映し出され、深い森の中に冷蔵庫が置いてある不気味な映像が浮かび上がって来た。

冷蔵庫の扉がひとりでに開き、中から黒髪の女がはい出て来やがった。

段々とこちら側に近付いて来て、奴の、生気の無い、だが妙に整った顔が画面一杯に覆い尽くされた瞬間に目を覚ました。

目を覚ますと、目の前に白目を向いた、いや、正確には白のカラーコンタクトを付けた神楽の顔があった。

「…ここは精神科じゃねぇぞ…。」

俺はたった一言そう言った。

「…む……迎えに来た…。」

神楽は霞んで消え入りそうな声で返答した。今思えば、まともな会話をしたのはこれが初めてかもしれない。

「なんで白目なんだよ…馬鹿だろ…ぷっ…おまえ…。」

俺は笑った。笑ってしまった。

‐

このクソ融通のきかない偏狭な世界で、もう色々な意味で、なにもかもをぶっ壊してくれそうな奴が、こんなにも身近にいたなんて、どうして気付けなかったんだろうな。

「来歩っち、時間押してるよ。」

今何時なのか黙認すると、朝方の8時だった。
どうやら俺はふて寝して、朝まで時間が経過していたらしい。更に今日はコンテスト当日だったようだ。

霜恵が窓の下を指差すと、道路に黒塗りのBMWが停まっていて、ドアに寄り掛かりながら浩子が見上げていた。
運転席にいるのはバゲ頭だった。

「開始は何時からだ?」

俺は霜恵に聞いた。

「9時ジャストだよ。」

「急いで支度する。」

俺は身支度を済ませ、BMWに乗り込んだ。

…つづく
◇天使と悪魔の誓い◇

軽快で無駄の無い走りを見せるBMWの中で俺達は無言だった。

4人乗りにも関わらず5人で搭乗している。

大丈夫なのか、学園長ともあろう者が堂々と交通法を無視して。

だが、幸い、俺様は155センチと言う忌ま忌ましい背丈のお陰で調度良く、車窓から姿が見えないように座る事が出来た。

最も、二人のメスに挟まれて匿われるように座らなければいけないのだが。

「おい…胸を押し付けるな。」

「我慢してよ、大人数で乗る車じゃないんだからさ。それに、元はと言えば、ライホっちがパチンコなんかやるからいけないんだよ。」

何も言い返せなかった。
どんな状況でも霜恵は饒舌である。
そんで俺の左隣で同じく、俺様の顔に胸を押し付けながら一言も喋らない神楽が大事な人形でも扱うように俺の左腕を両手で掴んでいた。

こんな事を言っていると読者の面々(特に野郎)は羨ましいなんぞと思うかもしらんが、諦めろ、この手の学園モノ・ラブコメディーにおける主人公の特権ってやつだ。それに俺様は帝王(自称)で博識で優秀で、端正な顔立ちをしているんだから、メスの一人や二人、はべらしていて当然だ。(読者の皆様、申し訳ありません。「筆者」)

「貴様…私の手を煩わせるな。」

ハゲ頭、学園長は流れるようなハンドル捌きで愛車を操っていた。

「いいのかよ…この俺を野放しにして。」

「ふん、何を勘違いしている。貴様の為にリスクを犯している訳ではない。貴様の下らん過失で娘の大事な青春時代を無に帰さんがためだ。」

俺は助手席に座る浩子に目をやった。
バックミラーに僅かに映っていたが、どうやら外を眺めているようだった。

「…済まなかった、この借りは結果で返す、必ずな。」

俺は珍しく浩子に謝った。

「借りなんて無いよ。」

浩子は神妙な顔で言った。

「仲間が問題を起こしたのを仲間がフォローするのは当たり前だよ…その代わり、私達が困った時は、全力で助けてね。借りではなく、仲間として…。」

浩子らしいと言えば浩子らしいのかもしれない。貸し借りやら利害関係やらで、物事を解決したくない。そいつは、俺に対する、霜恵や神楽に対する友愛の精神なのかもしれないな。

そして、コンテストに対する強い思い入れと言うやつだ。

「ああ……約束だ。そん時は俺様が全力で助けてやる。」

浩子は微笑んだ。
やがて会場に着くと既に受付が行われていた。

ハゲ頭は「油断するなよ。」と一言、車を早々と出して、会場を後にした。

俺はハゲ頭の言葉の意味を深く理解せずに会場へと入って行った。

しかし、その油断が正にとんでもない事態を招く事なんぞ、その時の俺様は考えも及ばなかった。

控室でコンテストの予選の説明を大体頭に叩き込み、一通り説明が終わると、ステージに案内され、使用機材についてや、演奏時間についてレクチャーされ、再び控室へと戻る。

「そう言えば、団体名はどうなっていやがるんだ?」

俺は当日になってしょうもない事を浩子に聞いてしまった。

「ふぇ?」

「笛、じゃねぇよ。」

「はぇ?」

「決めてないんだな…。」

俺は深く嘆息した。
しかしだ、俺が原因で慌ただしくもあったし、ここは俺様が考えるとするか。

「ブレーンバスター・ドールズ。」

→浩子

「多重債務。」

→霜恵

「……ふが…。」

→神楽

「ジェノサイド・エンジェルだ。文句は言わせねぇ。」

俺は使えない三人の抗議の声も押し殺し、強引に決めた。ふが、って何だよ。

そんで滞りなく予選が開催され、参加団体が次々と演奏を終えて行く。

ちなみに俺達、ジェノサイドは全13団体中、最後から3番目の演奏だ。

一団体2曲の演奏をし、演奏、パフォーマンス、柔軟性なんかを評価して行くみたいだ。

控室で浩子が震えていた。

「どうした?今更緊張してんのかよ。」

「うん…やっぱさ、こういうのってさ…怖いのが半分、楽しみなのが半分で、ちょっとしたスリルだよね。」

「そうだ…そんで、お前らは今、とんでもなく貴重な体験をしようとしているんだぜ。」

「うん…それもこれも、霜恵や神楽ちゃん、来歩のお陰だよ。ただ音楽をする…それだけの事がこんなに掛け替えのない時間になるなんて…きっと君に出会えていなかったら気付けなかったよ。」

俺はそれ以上、触れなかった。
気を使っていたのかもしれないし、あえて追求しなかったのかもしれない。

俺は、無力だと思っていたし、それの跳ね返りのように絶大な力を持って抵抗してやりたかった。

ただ、こんな些細な事でも他人の役に立った事に悪い気はしなかった。

そうだ、あの2年前のライヴが浩子を勇気付けたように。

「…礼を言うのは俺の…。」

「えっ?何…。」

俺は何故だか次の言葉が出ない。

「なんでもねぇよ!」
「さてと、皆様!お色直しの時間でございます。ふふふ…。」

霜恵が妙な笑顔を見せながら不意に立ち上がった。

神楽が前にも部室に持って来たメイク道具の入ったラックを取り出し、メンバー全員のヘアメイクを始めた。

本家本元のメイクアップアーティストも真っ青の巧みな技術で、女の顔を3倍にも4倍にも艶やかにした。

「まぁ…俺もやるんだよな。」

「……うほ……。」

「新種の霊鳥類か、てめぇは…。」

神楽は上機嫌で俺様の顔を弄り始めた。

「うんと可愛くしてね。神楽ちゃん。」

ちなみに、これは浩子の台詞だぞ。

「ちょいと気合いが入り過ぎやしねぇか?それに、何だよ…この衣裳はよ。」

俺は神楽のデカイ鞄の中に入っていた黒地のドレスを掲げた。
レースアップだの三段フリルだの、いかにも乙女が好みそうな代物だった。

「神楽ちゃんの力作です!」

っと浩子が宣う。

「神楽は手先が器用だからね、性格は暗くて近寄りがたいけど服作るの上手なんだよ。」

霜恵は相変わらず遠慮のない物言いだ。
確かにディテールが凝っているな。縫い目なんかも細心の注意を払って目立たないようにしてあるしな。

「例によって俺も着るのか。」

俺は心底嫌そうな顔をした。

「当たり前だよう…ぶふふっ…謹慎中の身分で変装もなしに参加する訳にはいかないでしょ。」

浩子は、毛穴が全開しそうなくらい気持ち悪い笑みを見せていた。

そこへ霜恵が俺の肩をポンと叩く。

「大丈夫、きっと似合うよ。」

「そうかよ。これ、フィクションじゃなかったら俺は単なるクロスドレッサーだからな。」

「えっ?これフィクションなの?」

「登場人物、団体名なんかは実在しねぇっての!」

「そんな…私達って創作物だったんだ、さりげなくショック〜。」

そんな物語の本質をぶち壊すトークは早々と打ち切り、俺達は神楽手製の衣裳を身に纏い、待つ事40分、いよいよ俺達の出番が来た。

「それじゃ、派手に打ち噛ましますか。」

浩子は声色には似つかわしくない言葉遣いで気合いを入れた。

俺は、今ここで何をすべきなのか、いや…何がしたいのかを導き出してやろうじゃねぇか。

姉さん…音楽って凄いぜ。

…つづく
◇墜ちてもなお我々は…◇

「押切さん、今日はお忙しい中、お越しくださいまして、ありがとうございます。」

「そんな…かたっ苦しい挨拶は結構だよ。忙しいのは金が必要だからね。自業自得さ…ははは。」

「またまた、本当に今回のコンテストへの審査員としてのご参加には感謝しておりますよ。80年代の日本のロックに多大なムーブメントを起こし、現在もソロで精力的に活動されている押切さんが自ら音楽界の未来を担うティーンエイジャーを選び抜いて下さるのですから…きっと参加者は伸び伸びと演奏してくれます。」

「そう言うものかな…私は所詮、好奇心だけで動き回るあらぶれた獣だよ。」

「だからです。フリーダムな発想で、型に嵌まらず、有りのままに表現するからこそ多くのリスナーが貴方を支持するんですよ。」


押切圭太、若くして単身ロンドンに留学し、ブリティッシュロックを通して独自の奏法を編み出し、日本のキッズを沸かせたベーシストだ。

そんな奴が今回のティーンズ・ガールズバンド・コンテストの審査員として駆り出された。

「今更だが…何かが引っ掛かる。」

俺はそう呟いた。

俺達四人が控室を出て、廊下を伝って大ホールへと歩いている途中の事だ。

そん時に押切とすれ違った。

奴は俺の姿を一別し、頭を軽く下げ、また視線を前に向けた。

「あの人、知り合い?」

浩子が俺に聞いた。

「知らないのか…日本を代表するベーシスト、押切圭太だ。この世界じゃ有名過ぎて名前を知らねぇ奴を捜す方が大変なくらいだ。グラミー賞にも受賞してるぜ。」

浩子は首を傾げていた。同じくして霜恵や神楽も…。

「むしろ…ここに例外が三人もいやがる方が驚きだ。」

大ホールの裏片へたどり着くと、俺達の前の団体が演奏をしていた。

予選とは言え、中々のレベルだった。

悪魔で技術だけを見ればの話だ。

この世界はそれだけで喰って行ける程甘く出来てやしない。

音を埋めるような早弾きからスローテンポによるグルーヴのアプローチ、一つ一つの音に、はっきりとした表現と独自性が備わって初めて音楽は生きて来るもんだ。

とにかく、完全無欠では成り得ない曖昧で不安定な魅力を持った世界。

音楽を紡ぐ者にゴールは無いんだ。

そんな俺達、音楽家は永遠のロマンチストであり、恐るべきマゾヒストなんだろう。
たった一度のステージ、数分間の為だけに血の滲む努力をするんだ。

それが俺達の誇りだ。誰にも文句は言わせねぇ…無意味だとか非生産的だとか、取り澄ましてお高くとまる歪み切った奴らを叩き潰す究極の特効薬なんだからな。

「今演奏してる娘達、凄く上手いね。」

浩子が小声で俺に囁きかける。

「ああ…国内のプロミュージシャンを名乗る奴らよりも遥かにレベルが高い…更に、サウンドデザインにもこだわりがある。」

だが、それは音楽業界にとってもミュージシャンにとっても喜ばしい事だ。

衰退を見せている国内の音楽状勢に活力を与えてくれるからだ。

「今やっている、ことだまシンフォニーの次が私達だね。何だか緊張して来た。」

霜恵が胸元を両手で押さえて言った。

「霜恵…ここまで付き合ってくれて有難う。本当はDJ志望だったんだよね。」

今更だが、こいつはドラム初心者だった。

「いいっていいって、クラブミュージックサークルよりもこっちの方が面白かったし。着せ替えとか…。」

主に被害者は俺だ。

それにしても、初めてでよくもまぁ、プロ顔負けのレベルまでスキルアップしたもんだ。

霜恵は以外と感がいいのかもしれないが、出来すぎだ。

「霜恵ちゃんは最初話しかけるの怖かったんだよねぇ。なんて言うか、校舎裏に呼び出されてお小遣いせがまれそうだったからさぁ。」

どこの国のいじめっ子だ。

「私も、浩子って学園長の娘だって聞いたからもっと硬派でかしこまってんのかと思ってたよ。でも実際は荒唐無稽で頭の中がパラレルワールドで構成された愉快な娘だったね。」

「いやぁ、それほどでもないよぉ〜。」

それ程以上だし、褒められてねぇぞ。

「神楽ちゃんも率先して協力してくれて有難うね。メイクや衣裳(来歩君の着せ替え)も楽しかったし、今度メイクの仕方教えてね(来歩君を弄る為に)。」

率先してねぇし、半ば強引だったし、なんか()の内容がそこはかとなく不快なんだが、もうこいつ(浩子)にあれやこれや突っ込んでも無駄だと経験から学習しているからな。
結果的に目的が形として成立してりゃ誰も文句は言わねぇよ。俺様優しい…。

そんで、いよいよを持って俺達の出番だ。
演奏開始前から浩子のサウンドデバイスが機能停止したり、俺様の付け睫毛が目の中に入ったり、ブーツの踵がシールドに引っ掛かったりと危機的状況だったが、なんとか乗り切り、霜恵のカウントでスタート出来た。

俺達の演奏は、正直難しい。難しいと言うのは、それぞれがそれぞれの個性が主張し過ぎて曲として成り立っているのかすら危うかった。

完全とは言えなくもそれに近い楽器と奏者のマッチングに対して、やはり奏者個々の息は合っているとは言い難い。

だが、それでも不思議と心地が良かった。奴らと過ごした数ヶ月、俺様の目的は達成されなかったが、もはやジャンルなんぞどうでもよい。

今ここで紡いでいる音楽が最高に楽しい、それだけで十分過ぎるんだ。

浩子、そして霜恵や神楽、奴らは呆れる程に探求心が強く、音楽と真っ直ぐ向き合っていた。

だからこそ、奴らは音楽性の枠を越えて理解しあい、求め合った。

浩子の直感や霜恵の軽快さ、神楽のおどろおどろしさ、おまけにヘアメイクやら衣裳デザインなんかを互いに無いモノを補完し、今ここに面白おかしい科学反応が起きている。

さぁ、どうなるかな…この奇妙で底知れない俺達の音楽はどれだけの人間を魅了するんだ。

もう結果なんざどうでも良くなって来る。

何故かって?俺様は今、これ以上ないくらい愉しいからだ。

そんで…

「一つ聞くが…仮に予選をパスして本選まで行くとするぜ。俺様はいつまで騙し続けりゃいいんだ?」

演奏が終わり、控室で缶ジュースを片手にメンバーがぐったりとしていた。

「そうだね…皆の演奏を聴いていて、凄く本気なのが伝わって来て、やっぱりルールを守らなければいけないって思えたよ。」

浩子はそう言った。何を今更と言いたい所だが、こいつは後先を考えるような奴ではないし、そもそも、それを解っていて荷担していた俺も同罪だ。

半ば強制とは言え、本気で断りゃこいつも理解してくれたはずだし、それをせずに最後まで付き合ったのは紛れも無く俺はこいつらに期待していたって事だ。不本意ながらな…。

「私もそう思うね。結果次第では本選への出場を辞退するしかないね。」

霜恵が言う。

「……う。」

神楽も頷いた。

そんで、その結果とやらなんだが、半分は無理だと考え、半分は本選入りを期待していた俺達は残念ながら通過しちまった。
規定を遵守していたのなら喜ぶべき結果だが、前述したように俺様はイレギュラーだからな。胸を張って本選へは参加出来ない。

若気の至りって奴で、後先考えないと上手く行かないもんだ。

ただ、奴らは満足しているみてぇだし、そう悪い事ばかりじゃない。

そう…このまま辞退を申し出れば良かったのだ。

コンテストは閉幕し、俺達は控え室から荷物を持ち出し、会場を出ようとした。

「悪い……トイレへ行って来るから先に行っててくれ。」

俺は浩子達を先に行かせ、用を足しに行った。

「いけねぇ、危ない所だったぜ。」

「おや、参加していた娘だね。」

俺の立っている位置から一つ飛ばした位置に審査員の押切が居た。
「先程の君達の演奏は素晴らしかったよ。近年稀に見るハイレベルなプレイだったね。」

「どうも。」

「本当に素晴らしかった………君が【女性】であったらね。」

俺は顔面蒼白になった。

何たる失態。慎重に行動しておけばこんな馬鹿なミスはしない。

俺達は真っ先に主催側から呼び出しを受け、控室に連れられた。

「まさか…君が男だったとは、全く気が付かなかったよ。」

「申し訳ありません。」

浩子は深々と頭を下げた。

「私は出来る事なら咎めたくはない。実際君達のプレイはプロでも十分通用するからね。だけど、参加者はルールに従ってしっかりとした目標を持って取り組んで来たんだ。違反を認める訳には行かない。」

「本当に申し訳ございません!」

浩子は何度も頭を下げていた。
押切は控室のパイプ椅子に深々と腰掛け、腕組みをしながら更に続けた。

「残念だけど、君達の本選出場は取りやめだ。それから責任者の方にも連絡を取ってある。もうすぐ到着するだろう。本選参加者の審査は繰り上げで別の団体にお願いするとしよう。」

押切が席を立ち、控室を後にしようとした時、俺は立ち上がり、哀願した。

「こいつらは……本選に行かせてくれ…。」

一同が俺に向き直った。

「我が儘は承知の上だ……盗っ人猛々しいと笑ってくれ…だけど、こいつらは俺がいなくとも、期待に応えてくれる…納得の行く結果を出してくれる……。」

押切は踵を返したまま黙っていた。

「咎められるのは俺だけだ……俺が…無理矢理参加しただけだ…こいつらは関係ない…頼む、こいつらの努力を無駄にしないでくれ。」

我ながら無茶な願いだった。違反を犯した上に、バレなきゃ問題ないなんて浅はかな考えで参加したんだからな…それに、元々本選出場辞退を考えていたし、それもメンバー内の同意の上だ…ただ、そうまでしても、こいつらには本選に出場して欲しかった。

「来歩君…それは私が許さないよ。」

浩子は物凄い剣幕で言った。
「私は…君を学校で見かけた時から、一緒に演奏がしたいと思ってた。コンテストへの参加が決まってしまっていたから凄く無理に誘ってしまったけど、私はズルをしてでも君に参加して欲しかった。」

浩子は肩を震わせ、スカートの裾を握り締めていた。

「だって、私は君のギターが好きだから……バンドで一緒に出来たらどんなに楽しいか、考えただけで居ても立ってもいられなかった。」

押切は控室の扉から出て行こうとしていたが、再び振り返り、ゆっくりと語り始めた。

「私はそういうのは嫌いじゃない、むしろバンドには不可欠なモノだ。とは言え、やはりルール無視は見過ごせない。だけど、君達にはチャンスが必要だとは思うよ。」

押切は一呼吸置いて続けた。

「今度はちゃんとした大会で腕を振るってみるといい。来年の春頃にはなるが、それまでどれだけ精度を上げられるか試すのも青春だろう。」

そう言うと押切は控室を後にした。

……数日後。

「日本の夏は湿気が酷いな。」

俺は部室で団扇を自分に向けて扇ぎ、嘆息していた。

「ホームシックかな?」

浩子が忌ま忌ましい笑みを浮かべて呟いた。
部室内は俺と浩子の二人だけだった。
霜恵と神楽は掃除当番だとか。

「殺すぞ。」

「怖い怖い。」

浩子はパックジュースを片手に反対側の手で自分を扇いでいる。

「男子の制服も似合うね。」

「あのなぁ、それが普通なんだよ。さも俺が男装している女みたいな扱いをするんじゃねぇよ。」

「違ったかな。」

「付き合い切れん。」

日本の夏が肌をしっとりと濡らしやがる。
長く伸ばしっぱなしだった金髪を一思いに切ってやった。
なんでかっつーと、そこにいる頭が愉快な女に少しは男を見せてやりたくなったのかもしれねぇ。不本意にもな……。

「浩子。」

「なぁに。」

「ありがとな。」

堂々と言えるぜ。俺様の笑顔は、真夏の太陽以上に輝いたものに違いねぇって。それもこれも、お前のお陰だ…浩子。

END

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