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生活保護者の集いコミュの身を削る生活苦から立ち上がった、元公務員ワーキングプア女性

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生活保護のリアル みわよしこ

ダイアモンドオンラインhttp://diamond.jp/articles/-/105322

生活保護基準引き下げ反対訴訟は、全国で約900人の当事者が原告となった史上最大級の行政訴訟だ。原告となった当事者は、生活保護の「いま」「これから」をどう見ているのだろうか?

生活保護引き下げ反対訴訟
原告に投げかけた「6つの質問」


生活苦に喘ぐ「元保健室の先生」が語る、生活保護基準引き下げ反対訴訟に立ち上がった理由
 2013年から実施された生活保護基準引き下げに対し、全国で生活保護を受給している当事者のうち約900人が原告となり、国に対する違憲訴訟を行っている。連載第66回は、訴訟を支える弁護士の思いを紹介した。今回は、原告となったご本人の思いを紹介する。

 ご登場いただくのは、北海道に住む平田明子さん(仮名・47歳)。もともと公立小学校の「保健室の先生」こと養護教員だった平田さんは、紆余曲折の末、40歳を過ぎる時期には非正規雇用の公務員となっていた。

「公務員ワーキングプア」そのものの不安定な身分と低賃金労働に、さらに職場のパワハラが加わり、平田さんは精神疾患のため就労を継続できなくなった。傷病手当金・失業給付など社会保険による所得補償が尽きた後は、生活保護のもと、病気の治療・療養を行いながら生活している。

 精神疾患の症状は、徐々に軽快しつつある。平田さんは、年間数日ではあるが、「慣らし」的なアルバイトも自発的に開始し、継続している。いったん、非正規雇用ながらフルタイム雇用での就職もしてみたが、精神疾患の悪化により、1ヵ月足らずで退職することとなった。

 平田さんの心身は現在もなお、日々生活し、心身の状態を維持し、可能ならば少しでも良くしようとするだけでも大変な状況下にある。それでも平田さんは、生活保護基準引き下げの原告となる決意をした。

 私が用意した質問は、以下の6項目だ。

【Q1】生活保護基準の引き下げ反対訴訟が、第一次水俣病訴訟の約7倍という規模(原告約900名)になったことに対して、どう思っていますか?

【Q2】生活保護基準が引き下げられて、ご自身の生活はどのように変わっていきましたか?

【Q3】生活保護基準の引き下げが、日本のすべての人々の生活に波及する可能性について、どう考えていますか?(注:税金や社会保険料が減額・免除される所得も、連動して引き下げられる場合が多いため。参考:読売新聞『ヨミドクター』記事、日弁連パンフのQ7。また「地域にお金が流れにくくなる」という見えにくい影響もある )

【Q4】「生活保護のくせに国を訴えるなんて、分をわきまえろ」「そもそも過去の生活保護基準はゼイタクすぎた」というネット世論が、少なからず見られます。どう思われますか?

【Q5】これからの生活保護は、どういう制度になっていくと思いますか? 「日本政府の考え方が現在のまま」と仮定して、東京オリンピック後、2025年頃までについてお答えください。

【Q6】現在の生活保護制度に代わる、もっと良い公的扶助制度があるとすれば、どのようなものでしょうか?「良い」の内容は、ご自分なりに考えていただいてかまいません。

 これらの質問に対して、現在生活保護を「命綱」としている平田さんは、どう答えるだろうか? Q&A方式でお伝えしよう。

第一次水俣病訴訟の約7倍!
生活保護訴訟約900人の仲間は「誇り」

【Q1】生活保護基準の引き下げ反対訴訟が、第一次水俣病訴訟の約7倍という規模(原告約900名)になったことに対して、どう思っていますか?

【A1】報道を見ていて、全国でたくさんの生活保護の方々が訴訟に立ち上がっている様子がわかり、とても心強くなりました。さらに「たくさんの方々が、私と同じように、生活保護引き下げで困っているんだ」ということに気づきました。それで、私も原告となる決心をしました。似た気持ちを持っている方々が全国に約900人いらっしゃると考えただけで、心強いです。全国にそういう方々が約900人いることを、誇りに思っています。

 ただ、「原告約900人」といっても、生活保護の方々の中では、ごく一部に過ぎません(筆者注:約0.04%)。「もっと多くの人たちに、立ち上がってほしいなあ」という気持ちは、あります。

 シングルマザーの方々の場合、影響はお子さんにも及びます。また、老齢年金を受給しているけれども生活保護という方々は、年金の支給額削減と生活保護基準削減のダブルパンチを受けているわけです。シングルマザーの方々、低年金で生活保護の方々が、もっと訴訟に立ち上がれたらいいのに、と思っています。

筆者コメント】

「老齢年金を受給しているけれども期間が短く低年金なので生活保護」「老齢基礎年金を受給しており、厚生年金ではないため生活保護」という人々は、年金保険料を支払ってきたから受給できている。「生活保護(年金収入あり)」ではなく、「年金生活者(低年金のため生活保護を併用)」と認識すべきだろう。法的にも制度上も、生活保護は「足りない分の補填」である(参照:生活保護法 第4条(補足性の原理))。

「自分自身」を削らざるを
得なくなった生活保護の暮らし

【Q2】生活保護基準が引き下げられて、ご自身の生活はどのように変わっていきましたか? 今後、さらに引き下げられたらどうなると思いますか?

【A2】私は文化を大切にしてきましたが、その部分を削ることになりました。本・音楽・映画を楽しむためのお金の余裕がなくなりました。また、大きな建物がほとんどない田舎に住んでいるので、ときどきは大きな街に出かけることを楽しみにしていましたが、交通費をひねり出す余裕もなくなりました。

 今、友人たち・知人たちとの交流は何とか行えていますが、これからさらに生活保護基準が引き下げられたら、その部分を削るしかなくなります。社会生活ができなくなるということです。

 私の住んでいる地域は、もともと3級地(筆者注:生活保護基準は、その地域の生活コストに合わせて、地域別に定められている。東京は1級地)です。それ自体が、「そもそも削られている」ようなものです。

 ちなみに今日、ベランダに置いてある温度計は、朝、起きたときに見たら4℃くらい、最高気温は9℃くらいの感じでした。9月下旬から、暖かいタイツも履いています。ストーブはまだ使っていません。

【筆者コメント】

 平田さんは、食費を極限まで節約しても、自分の中の「文化」を大事にしていた(政策ウォッチ編・第51回参照)。その平田さんが、文化にかかわる費用を犠牲にせざるを得なくなっていることに、私は大きな衝撃を受けた。

しかし平田さんが住んでいる地域は、寒冷な北海道の中でも寒さの厳しい地域である。生活保護基準のうち生活費分(生活扶助)が削減されただけではなく、2015年から暖房費分(生活扶助の冬季加算)も削減されていることが、大きく影響しているようだ。2015年度の冬季、幸いにも灯油価格は下落していたが、冬季に購入する必要があるものは灯油だけではない。冬物衣料も雪靴も必要だ。

 また地方では、生活保護のもとでは自動車の保有・運転ができないことにより、様々な「アクセス」のコストが増大し、「郊外の安売り店には行けないので高い買い物をする」ということにもなりやすい。最低限、このようなことを総合的に考えるために何が必要かを考え、判断の「素材」や「道具」を揃えた後でなければ、生活保護基準の「高い」「低い」を判断することはできないだろう。

生活保護費は日本社会の
「地下水」「土の栄養分」では?

【Q3】生活保護基準の引き下げが、日本のすべての人々の生活に波及する可能性について、どう考えていますか? 税金や社会保険料が減額・免除される所得も、連動して引き下げられる場合が多いのですが(参考:読売新聞『ヨミドクター』記事、日弁連パンフのQ7)、「その方々の住む地域にお金が流れにくくなる」という見えにくい影響もあります。

【A3】家計のやりくりは厳しくなりました。食材の野菜は、秋冬なら、青物を買うくらいです。タマネギ・ニンジン・ジャガイモなどは、産地なので安く買えます。家庭菜園をお持ちの方や農家の方にいただいたりすることも多いです。でも夏場は、買わなくてはならない野菜が多いです。5月〜9月は、全体的に購買意欲がなくなります。自動的にセーブされてしまう感じです。

 人混みの中にいるとパニックを起こすので、バーゲンにも行けません。生活リズムを崩さないよう、夜の外出は控えているので、スーパーのタイムセールで安くなった食品も買えません。

 卵は、近くのスーパーで安くなって、10個入りの1パックが140円くらいのときに買っています。日曜日にバーゲンがあり、1パック98円になるのですが、とても混み合っているので行けません。

 生活保護だと自動車が持てないので、使えるお金が少ない上に「買い物弱者」になります。低所得の方々が、見切り品を買ったりバーゲンを狙ったりしているんだと思うので、まずはそういう方々が、普通の価格のときに買えるようになってほしいです。そのためにも、生活保護基準を下げさせないように、上げられるようにと思っています(筆者注:最低賃金は生活保護基準を参照して決定される。参照:最低賃金法 9条の3)。

「あたりまえ」の付き合いにさえ
必要な生活保護ゆえの努力と工夫

【Q4】「生活保護のくせに国を訴えるなんて、分をわきまえろ」「そもそも過去の生活保護基準はゼイタクすぎた」というネット世論が、少なからず見られます。どう思われますか?

【A4】私は生活保護に対して、暗く考えたりマイナスに考えたりしていません。スティグマ(烙印・恥の意識)とは思っていません。生活保護でできている今の暮らしを、大切なものだと思っています。引き下げで、大変な暮らしになりましたけど。

 8月末の「貧困女子高生バッシング」のとき、「本当は貧困ではないのでは」「これを貧困とは言わない」という意見が数多くありましたけど、私はそう言われた方々に「あなた自身はどうなんですか?」と聞きたいです。自分が必要だと思っているもの、大事に持っているものを、他人に「不要なはずだ」と言われたら、どう思いますか? と。

 今、私の周辺にはそんなふうに批判的に叩いてくる人はいません。勝手に自分の家に入ってきて荒らしていくようなイメージの人は、ネットでもお付き合いしないようにしています。そうしないと自分を守れませんから。

 今、ネット上で交流できている人たちは、私がSNSで「自分は生活保護」という話をしても、特にどうということはなく、そこを叩いてきたりすることはありません。ゴタゴタしたり、ネットトラブルになったりすることは、今はありません。

【筆者コメント】

 本人にとって何が必要なのか? その必要な何かが入手できないことでどのように困るのか? 困り方の程度は? いずれも、本人にしか判断できない。

 ただし、生活保護基準のような公的給付の基準を決定するためには、貧困の質と量を測定するための何らかの指標が必要になる。また「必要」の程度や内容の判断も必要だ。「自家用ジャンボジェットが必要」というニーズを、貧困層のための公的給付で満たすわけにはいかないだろう。

 現在の日本は、それらの指標づくりのための試行錯誤が行われている段階である。「生活保護基準はどう決められるべきなのか?」「健康で文化的な最低限度の生活とは何なのか?」という問いは、「生活保護基準は厚生労働大臣の裁量で決める」という生活保護法の規定によって、現在の制度が成立した1950年以来ずっと、「はぐらかし」をされ続けているようなものなのかもしれない。

末尾、現在のネット上での付き合いについて「そうしないと身を守れない」「(現在付き合いのある相手たちは)叩いてこない」という平田さんの言葉に、私は胸がつまった。むやみに他人を攻撃しないことは、人間として、当たり前の行動ではないだろうか?

「生活保護を利用したら、
即、人生詰んだ」でよいのか?

【Q5】これからの生活保護は、どういう制度になっていくと思いますか? 「日本政府の考え方が現在のまま」と仮定して、東京オリンピック・パラリンピック後、2025年ごろまでについてお答えください。

【A5】現実の問題として、「生活保護になったら人生終わり」というような制度になりつつあると思っています。

 生活保護を必要とする人がいない世の中にはならないでしょう。今でも、生活保護以下の暮らしだけど生活保護は利用していない「漏給」の方々が1000万人以上はいるだろう、と言われていますから。

 2020年、東京オリンピック・パラリンピックが終わったら、貧困層の人々がたくさん生まれる予感、あります。なんとなく、ですが。オリンピックに関わっていた方々が、生活をその後も維持できるのかどうか、不安になります。今でも、公園からホームレスを追い出して、かと言って生活保護の対象にするわけではない現状がありますから。

【筆者コメント】

 生活保護に関する法改正や運用変更の数々に、私は「利用したら、死にはしないけれども、即、人生詰み」という将来の生活保護の設計コンセプトが描かれているように感じることが多かった。生活保護で暮らしている平田さんも、同様に感じていたようである。ただし切実さは、まったく異なるだろう。

「漏給」の反対語は「濫給」である。しかし「濫給」より、「不正受給」という用語の方が一般的だ。「漏給」を現す「不正受給」のわかりやすい反対語をつくり、普及させてみたいものだが、内容の複雑さが全く異なるので困難だ。「濫給」または「不正受給」は、給付を受ける側の悪意・不注意・無知によって起こるが、「漏給」という結果をもたらすものは「世間の風」「スティグマ感(恥の感覚)」を含め、非常に数や種類が多い。わかりやすい悪者や責任者は、いるようでいない。

 自治体が生活保護を申請させないこと、正当な理由なく打ち切ることに対しては、「公的な申請(書)の不正処理」「不正不給付」などの呼び名が考えられる。しかし、漏給の圧倒的多数は、そのようなわかりやすい理由によるものではないだろう。まず、漏給状態の人がどこに何人いるのかを調べる必要がある。さらに、何が生活保護利用の妨げになっているのかを調べる必要もある。
合言葉は「生活保護プラス!」
「補足性の原理」はジャンピングボード

【Q6】現在の生活保護制度に代わる、もっと良い公的扶助制度があるとしたら、どのようなものでしょうか? 「良い」の内容は、ご自分なりに考えていただいてかまいません。

【A6】生活保護を、マイナスのネガティブな何かとして捉えるのではなく、プラスの何か、ポジティブなものにしていきたいです、当事者として。

 現実には、わざと使いにくい制度にしていると思います。今でも「ひどすぎる」と思っていますが、東京オリンピック・パラリンピックの2020年、現状の延長のままでは、さらに使いにくい制度になりそうです。

 今、漏給状態の方々が、気軽に、簡単に、よりよく使える制度にしていかないと、今の生活保護のマイナスイメージは、払拭されないんじゃないかと思います。

「お金がない?だったら生活保護だ!」が当たり前になったら、イメージは変わるでしょう。「お金がない」と言いながら明るくやっている自分みたいな人間がいて、病気や体調と相談しながら堂々と訴訟で闘っているということ、さらに自分のできる形で発信することで、生活保護のイメージを変えていきたいと思っています。もちろん、生活保護の暮らしがなかなか大変だということも伝えていく必要はありますが。


本連載の著者・みわよしこさんの書籍「生活保護リアル」(日本評論社)が好評発売中
【筆者コメント】

「生活保護プラス!」というキャッチコピーを思いついた。まず、生活保護そのもののネガティブイメージを払拭することが、容易になりそうだ。「補足性(不足の底上げ)」という生活保護制度の性質を伝えるために、言い換えれば「何か生活保護に加えられているものがあるようだ」という理解を世の中の常識にするためにも、「生活保護プラス!」は使えるだろう。

「生活保護に加えられているもの」とは、ご本人による「出来ることはする」「使えるものは使う」「自分が納得できる生活をイメージして少しずつでも近づく」といった努力だ(参照:生活保護法 第4条(補足性の原理))。自分の努力だけでは最低生活というスタートラインに届かない人を、最低生活まで押し上げるジャンピングボードが、生活保護費なのだ。

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