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個人的作品置き場コミュの彌久抄

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【注】この小説には過激な内容が含まれているため、15歳未満の方にはお奨めできません。

以前書いた物の書き直しで、原稿20枚程度の短編です。表現には直喩を避けております。

コメント(6)

 おなかの上でなにやら動く生暖かい肉がある。
 隣では無心に腰を動かす慎治と体を反らせて捩じる香奈。私は虫の動きを観察する目でただそれを眺めていた。六畳の部屋は昼なのに雨戸を締めきっていて、どこまでも終わらない夜のまま。汗とか息とか煙草とか、色んな匂いが混ざり合って漂って、でも吐きそうなのはむしろ非合法な葉っぱを吸ってたせいだった。冷たい板の間に寝かされて頭は醒めるばかり。今私にしがみ付いているのは誰だろう。頭を撫でているのは誰? どーでもいいか。視界の端で力尽きた慎治が、こんな私をニヤけた顔で眺めてる。こーゆーの乱パって言うんだろうな。香奈に聞こうと思ったけど、私の手を舐めるのに熱中しててそれどころじゃないみたい。やがて私の体はみんなの手で曲芸師みたいにねじ曲げられた。それを見て慎治は、いや、香奈も一緒に、奇声を上げながら馬鹿笑いする。当たり前か。こんな間抜けな格好。
 慎治の部屋にはいつも同じ顔ぶれの男友達がいた。やがてみんな疲れてSEXに飽きた頃、狭くてカビだらけのバスタブに香奈と体を寄せ合ってシャワーを浴びる。香奈はいつも私の体を隅々まで綺麗にしてくれた。私は子供みたいに言われた通り手を上げたり足を上げたりする。足の指の間に指を滑り込ませて洗ってくれた時、擽ったくて、背中が壁にくっついて、冷たかったけど気持ちよかった。
 でも私は、こんな毎日、もう終りにしなきゃって思う。

 夕日色に染まるモノレールは、バス通りの渋滞の上を滑るように走る。さっきの葉っぱがまだ残っているのか、ちょっと気持ち悪くなった。私はぼんやりとした頭で、肩を並べて座る香奈を見た。香奈は窓の外を流れる竹藪をじっと見つめている。
「あのさぁ、もうあの人たちと遊ぶの、よさない?」
 思い切って口に出してみた。振り向いた香奈の視線が刺さる。
「やっぱ良くないよ。いつも葉っぱ吸って、みんなでエッチな事ばっかして」
「彌久は、嫌なの?」
 香奈が私の手を握った。私はそれを強く握り返す。イヤじゃないけど……。
 高校の仲間たちと遊んでもつまらないからと言って、大学に通う慎治たちを紹介してくれたのは香奈だった。街でナンパされたらしい。私も彼らと遊んでいると、大人になった気分で悪い気はしなかった。
「それよりさぁ、このまま真っ直ぐウチ帰ったらヤバくない?」
「うん。まだちょっと、葉っぱ残ってるみたい」
「そうだ、彌久。このまま海行こっか」
「え? 今から?」
 加速するモノレール。窓から射し込んでいたオレンジ色の光が、突然闇に遮られる。トンネルを抜ければ私たちの住む西鎌倉に出て、その先はもう海も近い。
「卒業したらさ、絶対いっしょに東京行こうね!」
 潮風の中で香奈が言った。茜色の空が遠く富士山の稜線をくっきりと浮び上がらせている。灯台の光が島影の上で静かに点滅する。
「大学受かったらね」
「え? 聞こえなーい」
「大学受かったらっ!」
 実際、彼らと付き合うようになってからというもの成績は下がる一方で、受験もかなり危なくなっていた。私も香奈も校内では優等生で通っていたから、親も先生も口を揃えて失望したと言う。でもいいんだ。私のことをちゃんと見てくれたのは香奈と慎治たちが初めてだったから。
「落っこちたとしても行こーよ! 彌久、家出て一人暮らししたいって、さんざん言ってたじゃん。フリーターでもなんとかやってけると思うしさ」
 香奈はそう言うと、笑いながら波打ち際へと駆けて行った。寄せる波を蹴って飛沫を上げる。
「キャハハハッ! 冷たぁーい」
「香奈、ちょっと香奈ぁっ! 靴びしょびしょ!」
「ねぇねぇ、彌久もおいでよ、気持ちいいから」
「もー……」
 葉っぱが残ってるせいなんかじゃない。きっとこれが香奈なんだ。暮れの空を映した濃紺の海へと私も靴のまま駆けだし、そして腕を掴んだ。
「香奈ってば!」
「アハハッ! 冷たくて気持ちイイでしょ」
 真っ直ぐと私を見つめる視線。そして次の瞬間、目の前の視界が唇とともに塞がれた。あまりに突然の事で頭が真っ白になって、重ね合わされた唇と握り返された手が、まるで自分の物じゃないみたい。顔を背ける。でもなぜだか胸がドキドキしている。
「な、何……いきなり」
 飛沫が膝っ小僧を濡らす。
「ごめんね、彌久……」
 香奈は微笑みながら私の頭を撫で、そして強く抱きしめた。どうしたらいいのか判らなかった。足許はどこまでも黒い砂と海。反す波に足が掬われ、踵が砂の中へと沈んでゆく。一面に広がる灰色の気泡が寄せては反し、立っている気がしなくて、なんだか急に怖くなって、香奈の体に強くしがみついた。
 日も落ちて、空と海との境目も曖昧になった宵闇を、灯台から延びる光の筋が音もなく撫でる。私と香奈は砂浜へ上がって、防波堤の下の闇溜りに腰を降ろした。濡れた足とスカートの裾に砂がひっ付いてなかなか取れない。
「なんか帰りたくないなぁ」
 香奈が言った。彼女の家庭は私ん家以上に冷めていると思う。だけど、最近では私まで家に帰らない事が多くなった。落ち着く場所。私たちには今のところそれがない。東京に出ようって香奈が言い出したのも、たぶんそんな私と同じ気持ちだったからに違いない。
「このまんまさ、朝までこうしてようか」
 それもいいかも。海岸通りを走る車や人は、きっと私たちには気づかない。闇に沈む浜辺で息を潜めれば、箱根の山稜から顔を覗かせた月だって私たちには気づかない。もしかしたら、この世界でただひとつ落ち着ける場所はここなのかも知れない。今度はごく自然にキスをした。口の中に香奈と温かさと海のしょっぱさが広がる。太陽の名残りで砂は暖かい。寝そべって髪や制服が砂だらけになっても誰も咎めない。時折頭上を通り過ぎるヘッドライトとエンジン音。気にしない。含み笑いは防波堤のコンクリート壁に吸い込まれる。指を絡めあっても、脚を絡めあっても、誰にも怒られない。
 仰向けになった時、目の前には宇宙が広がっていた。隣では香奈も仰向けになっている。上に墜ちるような不思議な感じがして、私たちはいつしかケラケラと笑いだしていた。
 頭がガンガンするし気持ち悪い。浜辺? ……にしてはカラスの鳴き声しか聞こえない。防波堤はどこ行っちゃったんだろう。香奈はどこ? それより私は幾つ? 高三だっけ。……にしては体の節々が痛い。ひょっとして私は二十歳かもしれない。
 やけに腕が痛いと思っていたら、カウンターに突っ伏していた。腕が濡れているのはなぜだろう。涙? ……いや、ヨダレかも知れない。今日は何日だっけ? 大学の入試はいつだっけ? ……ああそうだ。高校なんてとっくに卒業したし、大学だって落ちちゃったから、もう勉強なんてしなくてもいいんだ。この気持ち悪さは葉っぱのせいじゃない。ただ単に飲み過ぎただけだ。その証拠に酔いがまだ残っているみたいで……、
「えへへ、うちゅうが見えたのー」
「あら、あんた起きたのかい?」
 あれれ? ママ以外誰もいないぞ?
「うちゅうだよ?」
「ん、はいはい」
 って、チャーハン食ってるし。ひとの話聞いてないし!
 薄暗くて、朝なのか昼なのか夜なのかすらわからない。新宿二丁目のオカマバーの、いつも座るカウンターの一番端で、バイトクビになったから何処にも行くところが無くて、だからいつまでもお酒飲んで寝ていてもいいんだ。
「ほら彌久、いい加減ちゃんと起きてちょうだいよ」
 ママの声で現実とおぼしき今に引き戻される。
「……今、何時?」
「そろそろ店閉める時間だよ」
「んんー、もぅそんな時間なのぉ?」
 そう言えば、今日は行かなきゃいけない所があったような。
 夜の熱気を一気に冷ます朝の新宿はTシャツ一枚では寒いくらいで、私は自分の肩を抱きながら靖国通りを歩く。早朝の空気は酸素が少し多いような、そんな気がする。肺に流し込めば、アルコールでふやけた脳味噌がいくぶんか覚醒する。重い足を引き摺りながら歌舞伎町の前に差しかかれば、眠そうだね。と、目の前を横切るカラスが呟いた。朝の街は彼らの縄張りで、人間の吐き出しの余韻を求め、澄んだ青空を黒い影で覆い隠す。見上げればてっぺんだけオレンジに染められた高層ビル。通り道を塞ぐ生ゴミに彼らが群がり食い散らかす。昨日の夜みたいな賑やかさだな、と思って、私はそっとその群れに近づきつつ……、
 だんっ!
 バサバサバサ……

 新大久保のアパートに戻っても昨夜の酒が残っているのか、まだちょっと気持ち悪い。ぼんやりひとりシャワーを浴びていると、携帯の着信音が二日酔いの頭を叩く。
「今シャワー中!」
 意味も無く声を張り上げた。髪を拭きながら着信履歴を見てみると慎治からだった。思い出した。今日は彼と待ち合わせをしていたんだ。江ノ島まで、香奈のお葬式に行かなきゃ。
 さすが日曜だけあって、新大久保の駅前も人通りはまばらだった。
「おまたせ」
 喪服とはいえ慎治の背広姿を見るのは初めてだ。駆け寄った時、樟脳の臭いが鼻を衝いた。
「あーもぅ! 頭ボサボサじゃない。ワイシャツだって皺だらけだし」
「うるせぇなぁ、オメェだって目の下に隅が出来てんじゃねぇか」
「ええっ、嘘っ!」
 手鏡を取り出して前髪を弄る。化粧の乗りが悪くて、腫れぼったい目も隠せない有り様な私。半分諦めてはいたが、確かにこれはひどい。
「ほら、いつまで鏡見てんだよ。さっさと行くぞ」
 慎治とはそこで会話が途絶えた。お互い口を開こうとしない。振り向かずに歩き出す慎治の後を私は黙ってついていった。
 香奈が飛び降り自殺したのはつい先週の事で、精神的に参っているだろう彼。反面いまいち実感が掴めないでいる私。慎治は香奈と一緒に住んでいたから嫌でも現実を突き付けられていただろうけど、私は二人の部屋に遊びに行くだけだったから、今香奈からメールが届いても驚きはしない。

 新宿から快速電車に乗り一時間。大船駅で乗り換えたモノレールは、鎌倉の丘陵地帯を擦り抜けるようにして走る。山の斜面や崖の上に張り付くようにして建つ家々。緑の深まった雑木林。懐かしい景色が窓の外を流れる。四年前まで毎日眺めていた車窓。高級住宅と坂道と竹藪ばかりの沿線。閑散とした車内にはモーター音だけが静かに響く。隣に肩を並べて座る慎治は、ずっと口を閉ざしたままだった。
『次は、西鎌倉ー、西鎌倉です』
 高架レールから宙吊りになって走る車両。床の下には何も無く、なにやら不安な気持ちにさせる。ふいにモーター音が大きくなり、同時に車内が暗くなった。トンネルに入ったのだ。
 そこで私は見てしまった。向かいの席に座る二人の女子高生は、私の母校である片瀬女子の制服。そして懐かしい顔。それは紛れも無い、高校時代の私と香奈だ。声がでない。目の前で二人は手を握り合っている。そうだ。あの頃から私と香奈はとても仲がよかった。故郷が近くなるごとに遡る記憶。
 キャハハハハッ
 香奈の馬鹿笑いと同時に窓からは白い光がなだれ込む。気がつけば、向かいの席には誰もいない。
「ね、ねぇ慎治……今の」
 言いかけた時、慎治は突然立ち上がり網棚から荷物を降ろした。
「え? あ、ちょっと」
 彼は減速に足を取られながら、青ざめた顔でドア口に向かう。
「ちょっと!」
 少ない行楽客と一緒に高架プラットホームに降りれば、光る羽虫と潮の香り。反対側には殆ど乗客の乗っていない大船行きのモノレールが、モーターを唸らせながら滑り込む。
「待ってよ、お葬式行かなくていいの? 今日は香奈のお葬式なんだよ!」
「誰が行くかよ! あんな奴の葬式なんかに」
 残暑の日差しが背中を熱する間もなく、慎治は反対側のモノレールに飛び乗った。私もそれを追う。
『大船行き、間もなく発車いたします』
「……あいつの死に顔なんか見たら、ツバ吐きかけちまうよ」
 前髪の隙間から覗く彼の目は落ち着きが無く彷徨っている。
「信じらんない、あんたの彼女じゃない。悲しいとか、そういうのって無いの?」
「ムカつくんだよ自殺なんかしやがって。勝手によ!」
 ため息しか出ない。でも慎治をこのまま放っておく訳にもいかない。放っておいたらこの男はどうなってしまうんだろう。悲しくて、やるせなくて、けどムカつく。その気持ちは痛いほどわかる。私だって……。
「……いいのね? 本当に行かなくて」
 慎治は何も答えなかった。
 よく学校を抜け出して丁度このくらいの時間のモノレールに乗り、都会まで遊びに行ったことを思い出す。いつも私の向かいには、慎治と香奈が肩を並べて座っていた。最初は私も慎治の事が好きだった。でも、私の初恋だったっていうのに、その思いは遂げられないまま終わってしまった。
 新大久保の駅前は影の短い真昼の街で、学校サボった時の気まずさを思い出す。慎治は無言で歩き出した。学校に、いや、火葬場にいなきゃいけない時間なのに。私は黙って付いてゆく。駅前を横切る大久保通りを渡ると、左手のビルの脇へと入ってゆく。表から見え辛い場所にエレベーターがあり、四階に上がると「コバヤシ」というビリヤード場がある。私と香奈と慎治の三人で上京してきた頃から、よく遊びに来ていた場所だ。
 テーブルに的玉を並べると、鬱憤を晴らすかのような激しいブレイクショット。私はただじっとテーブル脇の席に座り、それを見ていた。彼のショットは力が入りすぎて、思い通りのラインを描けない。何度も何度も前髪を掻き上げながら乾いた音を店内に響かせるが、的玉は一向にポケットには沈まない。私はコーラを飲みながら掛ける言葉も見つからず、そんな慎治をただ静かに眺めているしかなかった。

 私は、香奈と二人で上京するとばかり思ってたし、だから二人で家賃出し合って一緒に住む事も考えてた。でも違った。香奈の隣には慎治がいて、それは私にとって裏切りに近かった。鎌倉の生活から抜け出して来たつもりが、たいして変わらなかった事実。結局毎日のようにラリって、三人でエッチばかりして、葉っぱを買うお金のために香奈と一緒にキャバ穣やって、ダラダラと過ごして二年。

「痛ってぇな」
 ふと、声がした。見ると、慎治は隣のテーブルにいた男とぶつかったらしい。
「ぶつかってきたのはアンタのほうだヨ!」
 韓国人だか中国人だか。慎治はキューを無造作にテーブルへと放り投げる。
「ちょ、ちょっと!」
 私は慎治の袖を掴み、その外国人男性に「すみません、すみません」と謝りながら彼を強引に引っ張って行った。いけない。この人、自棄になっている。
「放せよ!」
 大久保通りまで連れ出した時、彼は手を振りほどいて怒鳴った。自転車カゴにネギを挿してるオバチャンが振り向く。
「あんなところで暴れてどーすんのよ」
 彼は落ち着かない手つきで煙草に火をつけた。
「とりあえずウチ来て休んだら?」
「……すまん」

 夕焼け小焼けが街中のどこかにあるスピーカーから流れてきた。さっきから気分が悪い。香奈のお葬式だって言うのに、こんなところで何やってるんだろう。とにかく私は慎治をアパートに連れてきた。休ませても無駄だって解っているけど、このまま一人にはしておけない。部屋に入るなり冷蔵庫を開けた。
「あ、ビールしかないや。いい?」
「あぁ」
 キンと冷えた缶ビールを渡すと、私は上着を脱いだ。今年の東京はまだ残暑が厳しく、日中冷房を切っていた部屋の帰ると、座っているだけでジワリと汗が滲み出る。窓を開けようとカーテンに手をかけた時だった、突然後ろから慎治の手が伸びてきた。
「ちょ、ちょっと、何すんのよ!」
 背中から抱き付かれて、思うように動けない。動けないことよりも、この暑っ苦しさがたまらなく不快だ。
「いいじゃねぇか、な?」
「何考えてんのよ! 香奈が死んだばかりじゃない」
「自殺するような奴の事なんか知らねぇよ。お前だって最初は俺のこと好きだったんだろ?」
 もうずっと昔のことだ。
「あいつが死んでお前も喜んでんじゃねぇのか? 邪魔者が居なくなったってよ」
「ふ、ふざけないで」
 なんて身勝手な男。確かにうらやましかった。綺麗で明るい、香奈になりたかった。気持ち悪いくらい静脈の見える私の腿が、薄暗くなってきた部屋で露わになる。
「お前は、自殺なんかしねぇよな?」
「馬鹿……当たり前じゃない」
 汗ばんでいて生ぬるい肌の感触が体中に纏わり付く。息の匂いと体臭に眉をひそめながらしかし、頭の中のどこかに醒めた自分がいる。本当に好きな相手なら、こんな匂いなんて気にならないんだろうな。でも香奈は違ってた。いつも私の隣で全身を震わせ気持ちよがってた。なんでこんなに醒めているのか考えていたら、そうだ、香奈が居ないからだ。香奈が私の手を、体を触ってくれていないからだ。
 やがて下腹部の異物感が膨らんで、同時に意識が萎縮してゆく。
 おなかの上で虫みたいに運動する生暖かい肉。
 滴る汗と言う名の体液が、おへそに小さな池を作る。
 虫の下でいいようにされている私が可愛そうで、可愛そうで、胸が締め付けられて、気持ちが体と反比例し醒めてゆく。
 体は反応しているのに、気持ちよくない。
 こんなに叫んでいるのに、感覚は、無い。
「……っ! もっと!」
 私じゃない。私はそんなこと言わないし、腰を突き出したりもしない。
 はずなのに、何かに腰を動かされている可愛そうな私。
 いつも香奈たちのお人形さんで、
 みんなに濡らされて、
 遊ばれて、
 何度もイかされて、
 嬉しくて、
 恥ずかしくて、
 可愛そうで、
 ……でも、幸せだった。

 ぶるん。

 喘ぎとともにおなかの上の臭い肉が脈打つ。と、同時に全身にのしかかり、重くてしょうがない。その重い肉が、肉のくせに泣いている。
「……馬っ鹿みたい」
 体の感覚が蘇った。気だるい。汗がぬるぬるする。焼けたように喉が乾いて痛い。目と鼻の間がジンと熱くなり、目尻に溜った涙で視界がぼやけた。ムアっとした熱気で息が詰まりそうだ。
 でも、香奈は今頃、もっと熱い焔に焼かれて灰になっているんだろうな。
 台所の上の摺り硝子は歌舞伎町のネオンでぼんやりと赤い。カーテンの隙間から、すっかり陽が落ちてしまった夜空を眺めてみたけど、もう、宇宙は見えなくなってしまった。
 遠くで、二十四時間営業の眠らないカラスが鳴いている。
 耳の奥から、さざ波の音が聞こえてきた。


 −了−

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