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糸瀬茂コミュの巨額賠償だけで大和銀行事件を総括してはいけない 

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第49稿 巨額賠償だけで大和銀行事件を総括してはいけない(2000.10.02)


1988年12月から1991年7月まで、筆者はソロモンブラザーズNY本社の債券営業部にいた。当時、アメリカでの不動産投資や、債券トレーディングを活発化していた日系金融機関を担当していた。大手生保が米主要都市の名門ビルを買い漁ったり、銀行が米国債入札の過半を落札するという時期だった。毎日、セールスマン冥利に尽きるほどの巨額の取引を行い、緊張の糸が緩むことのない日が続いていた。

そんな中で、ひときわ「大口」の顧客だったのが大和銀行NY支店だった。もともと大和銀行NY支店で債券トレーディングを行っていたのは後に逮捕された井口氏一人だったのだが、90年春頃から、矢崎氏と田辺氏の二人(いずれも仮名)が活発にトレーディングに加わってきた。この二人が扱うのは、現物(30年物国債)も多かったが、それ以上にTボンド先物(30年物国債先物)の取引が多かった。そのボリュームは半端ではなかった。一回に500枚、1000枚(5千万ドル、1億ドル)という単位だった。当時、シカゴ先物取引所で取引高を競っていたのは、世界銀行、クライスラー年金ファンド、テューダー・ジョーンズ(大手ヘッジファンド)などだったが、大和銀行の取引高はしばしば彼らを抜いた。

筆者が担当していたのは、この二人の日本人のトレーダーである。日本語よりも英語が堪能な井口氏は、私とは決して取引しようとせず、私の部下のアメリカ人セールスマン、ロバート(仮名)としか取引しようとしなかった。その井口氏のところへは一度挨拶に行ったが、シャイというよりもほとんど無表情で、顔色は悪かった。

ある日ロバートと一緒に、井口氏を含めた大和銀行の三人を食事に誘うことにした。打ち解けた間柄になるべく、茹でたてのカニを何十匹も机にばら撒き、それを木槌で叩き割って豪快に食べるというレストランを選んだ。ところが、そこへ現れたのは、矢崎氏と田辺氏の二人で、井口氏は現れなかった。

「トシさん(井口氏の愛称)は恥ずかしがり屋で、遠慮してましてな」という矢崎氏の言葉は白々しかった。「井口氏は、矢崎氏や田辺氏と同席するのを避けている」と直感した。ロバートもそう感じていた。そう言えば大和銀行のディーリングルームの様子も妙だった。同僚であるはずの井口氏と、矢崎・田辺両氏とは、随分と離れた場所に座っていた。それこそ隅と隅で、お互いの取引内容が知られないような距離だった。日々のトレーディングの様子も不思議だった。例えば、矢崎氏は私に電話してきて、「今日はトシさん何してますか?」と聞いてくる。一方の井口氏はロバートに電話してきて、「今日はミスター矢崎は、何をしている?」と聞いてくるという具合だ。

こんなこともあった。ある日、矢崎氏は一日で(往復)千数百枚の先物取引を行った挙句、相当額のロスを出した。さすがに私も心配になって「大丈夫ですか?」と尋ねた。そうすると矢崎氏は、「これでいいんですよ」といささかも動じる気配を見せなかった。その日、マーケットの噂によると、井口氏はほぼ同額の利益を現物のトレーディングで出していたようだ。

筆者の「憶測」は次のようなものである(あくまで憶測である)。大和銀行は、事件が明るみに出る95年9月より5年以上も前から、井口氏の損失に気づいていた。そこで、とりあえず損失をそれ以上膨らませないために、優秀な日本人トレーダー二人を「特命チーム」として送りこんだ。二人は必死に井口氏の取引内容を調べて、損失をそれ以上膨らませないための「反対売買」を先物を使って行っていた。

さて、この大和銀行NY支店を舞台にした巨額損失事件を巡る株主代表訴訟で、大阪地裁は、9月20日、現・元取締役11人に対して、総額829億円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。新聞では、巨額の賠償額の妥当性や、株主代表訴訟のあり方ばかりが話題になっている。しかし、もっと重要なことがあるのではないか。それは、行政あるいは議会の場においてこの事件の全容を網羅的に総括するということである。11億ドルに上る損失が発生した経緯・原因・責任の所在等が、誰にでも解る形できちんと公表される必要がある。

アメリカでS&Lの大量破綻が起きたときには、議会の場で厳しい総括がなされ、膨大な報告書もまとめられた。イギリスのベアリングス社の事件に関しても極めて詳細な総括がなされた。ところが、日本では、住専問題、東京都の二信組問題、山一證券の問題、長銀問題のどれ一つをとっても、まともな総括がなされていない。だから、いつまでたっても同じ間違いが繰り返される。



筆者より一言

1ヶ月の休暇をいただき、読者の皆様にはご迷惑をおかけしました。実は、8月初旬に食道癌であることが判明し、8月下旬より慶応病院にて入院治療中です。食道癌自体は比較的早期の発見で、深さも浅い部類なのですが、リンパ節2箇所(内1箇所はかなり遠隔)に転移が見つかり、(初期治療としての)手術が行えない状態でした。そこで、現在「放射線+化学療法」を行っています。10月下旬には、この初期治療が終了し一旦退院する予定ですが、その後体力の回復を待って、外科手術を受けることも治療メニューに入っています。そんな事情で、年内は大学の講義も休講し、講演やテレビの活動も休止させていただいております。

幸い抗がん剤の副作用が軽微ですので、コラムを予定通り再開させていただきましたが、今後手術の前後には、また短い休載期間をとるかも知れませんが、どうぞご了承ください。

病院では、十分すぎるほどの時間自分と対峙することができ、これまでの生き方・考え方・人との関り方など、反省することしきりの毎日です。ひがな気功をやったり、宗教音楽を聴いたり、歴史の本を読んだりして過ごしています。ところが、一方で「シャバ」の情報に疎くなってしまい、あせり始めているのも事実です。そこで、読者の皆様にお願いですが、コラムのネタになりそうな金融・経済に関する面白い情報がありましたら、どうぞメールでお知らせください。私のメールアドレスは、次のとおりです。

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