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Arbeeの短編集コミュの靴は苦痛。(part2)

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『包丁は、包丁でも、日本の包丁は、刃の位置は、真ん中ではなく、端にある。普通、右利きの人が使いやすいように作られたが、左利き用の包丁もあるんだよ』とホームパーティーに参加する一人がご主人様に、説明した。ご主人様は、納得しているようだが、それ以上のことは、分からない。それは、日本の家に入る時に、靴を脱がないといけないから、ご主人様の足の緊張と匂いを感じ取ることが出来なくて、ご主人様と少しは、離れている感じがする。まぁ、玄関で、他所の人の靴さんもいるから、まぁまぁ寂しくはない。ただ、玄関は、やはり、寒い。こういう時は、ご主人様の足の温もりが頼りだ。
 ご主人様は、実は、まだ若い。若旦那である。しかし、なぜか、物思いにふけることが好きで、お爺ちゃんがやるコトをも好んで、大の駄洒落好きなのだ。靴の私には、よく分からないが、器だけが若いけど、中身が、老人だったりする。人の器は、足で、分かるが、中身は、よく分からないものだ。
 ここ数ヶ月間、最寄の駅を降りてから、物凄くうるさい所に、行くのが、ご主人様の新しい趣味だ。人たちは、機械の台に向かって、踊ったり、真っ先に丸いボールがついた棒で、台の中の画像を意のままに動かしたり、している。ご主人様は、実は、決まって、そのうるさい所の台について、50円と書いてあって真ん中が開いている丸い金属の板を入れて、動いている絵を操作する。後々、ゲームをする所だということが分かった。
 ご主人様は、実は、あまり、この類の遊びが得意ではないようだ。また、対戦が怖がっている。台に、人が遊んでいれば、その人が、終わるまで、待っている。そうだ。ご主人様は、人と戦いたくない。いや、人と比べられたくないのだ。靴の私が、偉そうにいうことではないが、なぜか、それだけが、『肯定文』で、言えるのか。
 今日も、実は、そうだった。いつも、遊んでいる台には、人がいた。チラッと、その遊び方を見て、『強そう』と思っているようだ。言葉には、決してならないが、足は、嘘を付かない。だから、ご主人様は、その台の後ろのゲームをやりながら、その人が去るのを待っている。しかし、その台では、ご主人様は、どうやら、強いらしい。度重なる偶然で、棒をああやってこうやって、どうも、技を身に着けたようだ。この時の足の緊張と匂いは、ご主人様の国の言葉の仕組みを発見したり、好きな人を食事に誘えたりする時の匂いと少し似ている。達成感!という類の気持ちだそうだ。
 ご主人様は、ゲームと勉強と人生において、区別をしていないようだ。納得のいくまで、やり続けるお方だ。だから、この年になっても、まだ出世はしていないのだ。その達成感!は、一度も、足が教えてくれたコトが無いからだ。ただ、過去を常に振り向けるご主人様の気持ちの変化を見れば、どうやら、今の国についた時の達成感のようだ。その時の靴は、もうお墓も気配も無いから、情報が無し。寿命の短い靴には、ご主人様の過去は、歴史となる。靴の私から見て、ご主人様の過去の出来事の点を繋げば、ご主人様の未来も見えるが、ご主人様には、見えないそうだ。ご主人様は、どうにもならない未来のことを悟っているようだ。しかし、どうにもならないことをどうにかしようとすることは、また、ご主人様の魅力でもある。
 過去を振り向くことは、過去にしがみ付く訳ではない。靴の私には、匂いと足の筋肉の微妙な動きしか分からないが、その動きとその匂いの形は、無作為だが、ある数まで行けば、バラバラになる点は、線となる。そして、それが、完成したら、未来の道が開くのだ。また、偉そうに言っているのだ。靴の癖に。
 台の遊びが終わったら、ご主人様は、一人で、帰る。実は、ここも、面白いのだ。ご主人様が帰る道が、いつも同じ。時々、違うけど、違う道を通る時に、やはり、足も重い。今日も、一人帰宅だった。下り坂が二つに分かれる信号の近くに、昼も夜も開いている便利な店がある。そこの店のノリ包み御飯をよく買っている。帰る途中で、食べている。食べている間、ご主人様は、様々な妄想をしている。冬の場合、お家まで、大体、早歩きして20分位かかる。この20分は、恐らく、ご主人様にとって、大事な20分のようだ。ありもしないことを想定して、自分が中心とした世界を作り上げたようだ。毎回、形が違うのだが、大体、ご主人様が、今、住んでいる国と昔、私がまだ生まれなかった時の国との交流話だ。実は、妙に、リアルに、描いている。思想家と妄想家の違いは、実に、微妙だ。やはり、ご主人様がいつも思っているように、それは、人の評価によるものなのかしら、まぁ、靴の私には、関係ない。ご主人様が履いてくれれば、それはそれで、いい。
 家についたら、直ぐに、付けっぱなしの パソコンに向かって、何時間も作業している。作業しているかどうか知らないが、考えてみれば、座禅よりも、凄い。同じ画面に向かってずっと座っていられるのは、まぁ、ご主人様ぐらいかしら。他の方にお仕えすることが無いから、分からない。そして、分からなくてもいい。短い寿命の中で、二つ以上のご主人様に使える学校の履物ではないから、まぁ、いいや。ご主人様は、ずっと私を使って下さったら、精一杯、お足をお守りする。これは、人であるご主人様と私の違いだ。私は、捨てられる運命だから、そして、最初から、分かっている。生まれてから、分かったのだから、逆に、安心する。捨てられてから、私は、どうなろうとも、それは、関係無し。私は、たぶん、リサイクルセンターで、バラバラされたかもしれない。そして、違うものになるかもしれないが、私は、靴である私を感じれるのは、今だけだ。そして、私の、今の形の使命は、ご主人様の御足をお守りすることなのだ。ご主人様は、生まれた時に、どこに向かおうか、知らされていないのだ。様々な経験を経てから、なんとなーく分かったような分かっていないような気持ちになる。また、死んでから、どこに行くかも、分からない。ご主人様は、色々悩んでいるそうだが、明るい。基本は、明るくて、悪戯好き。ご主人様の苦痛は、痛いほど、分からない。靴は、苦痛を感じる瞬間。ご主人様は、私のように、ただの靴であれば、全てを受け止めることが出来るであろうが、そのように、願うことしか出来ない靴の私は、苦痛だ。

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