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詩歌全般・日本古代史・たべものコミュの男女 恋の情念

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ー38−

忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな   右近 

<題しらず 『拾遺集』・巻十四・恋四> 
「をとこの、わすれじとよろずのことかけてちかひしけれど、わすれけるのちに言ひやりける」
* 「題しらず」とあり、実際に贈呈された歌かは疑問。

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あなたに忘れられるわが身のつらさは何とも思いません

ただ いつまでもと神に誓われたあなたの命が

神罰で縮められるのが惜しく思われることですよ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
男への思いをなお訴えずにはいられない女心と捉えるか、
男の偽善・身勝手へのあてつけとみるか、
作者の心底にどんな意図を感じるか、読者の品位も問われる一首か。
はたまた現代人の世では、男女区別することかと一笑に伏せられる?
ま そんなことわからん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
忘らるる 身をば思はず;

「忘ら」は四段活用動詞「忘る」の未然形。
「るる」は受身の助動詞「る」の連体形。
「を」は動作の主体を示す格助詞。
「ば」は強意の係り助詞「は」の連濁した形。
「ず」は打消しの助動詞終止形。
「思はず」気にかけない。主語は作者。
二句切。

誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな;

「誓ひ」永久に変わらない愛を神に誓った。四段活用動詞連用形。
「て」は完了の助動詞「つ」の連用形。
「し」は過去の助動詞「き」の連体形。
「人」は特定の相手。
「いのちの」の「の」は、主語を示す格助詞。
「惜しく」は形容詞「惜し」の連用形。
「も」は強意の係助詞。
「ある」はラ行変格活用「あり」の連体形で、補助動詞。
「かな」は詠嘆の終助詞。
述語の文節は「惜しくもあるかな」。
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この右近は艶聞の多い女であった。この歌の解釈は二通りあって「わすらるる身をば思わず」で切るものと「誓ひてし」までつづけるもの。切り方によって意味が少し変わってくる。

自分のことよりも、男の命の方を惜しむというところが、昔の男には受けたとみえて、下河辺長流あたりも「貞女の心なり」ときわめて満足そうである。昔の男は(昔に限らないか)女が自分のことはあとまわしにして、男に献身すると「憂い奴」と満足する。

しかし、裏切った男に尽くすなど嘘っぱちにきまっている。自分を裏切った男なんか死んでしまえばいい、というのが女の本音であろう。自分を美人と思ってくれない男の前に、一分でも座っていたくない、というのが女の本音ではなかろうか。

『梁塵秘抄』(王朝末期、後白河院の編で、当時のはやり歌をあつめた歌集)に
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「我を頼めて来ぬ男 
 角三つ生いたる鬼となれ 
 さて人に疎まれよ 
 霜雪あられふる水田の鳥となれ 
 さて足冷たかれ・・・」
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呪詛と憎しみに満ちた女の叫びである。

『大和物語』の八十一段から八十五段に右近のことが載っている。右近は藤原季縄という人の娘、この人が右近の少将だったので「右近」と呼ばれたらしい。醍醐天皇の皇后穏子に仕えた女房であった。れいによって実名も生没年もわからない。おおざっぱにいって十世紀始めのころの人である。

恋人の名はわかっている。藤原敦忠、百人一首にやはり採られている「あひみての のちの心に こらぶれば 昔はものを 思はざりけり」43番の作者である。左大臣藤原時平の三男、時の権力者の御曹司である。歌にすぐれ、音楽の才にも恵まれた風流貴公子であった。

だから右近との恋は、歌人同士、芸術家同士の恋である。ただ右近の身分は低い。そして一介の女房に過ぎない。二人の恋が燃えているうちはいいが、恋がさめるとバランスは崩れる。しかも右近は敦忠に恋しつつ、別の男、桃園の宰相とも噂があり、また頭の中将とも交渉があった。男に持てた女だったのだ。

しかし右近が本当に愛し、相手の心変わりでショックを受けたのは、敦忠であったようだ。『大和物語』には「忘すらるる」の歌を載せ、その前にこうある。

「男の『忘れじ』と、よろずのことをかけてちかひしけれど、忘れにけるのちにいひやりける」

男は「・・・君のことは忘れない」
といろんなことをいって誓ったのである。
「もし心変わりしたなら私は命を取られてもいい、神仏にかけて誓うよ」

「あたしもよ」と女も誓う。
「お互いに一刻でも忘れるようなことはないと誓おう。神も仏もご照覧あれ」

恋の最中は、上ずっているからいくらでもそんな誓いが出てくる。しかし男は、新手の恋にめぐりあって、右近を忘れたのである。

「やがて忘れられることを思いもせず、誓った私。私は愚かだけど、心がわりしたあなたには罰が・・」
「いえ、あなたにもしものことがあっては、いやだわ。でもあなたに何の罰も当たらず、ほかの女と幸福 になるなんて許せないわ・・・・・」

と、心の深奥での邂逅がえんえんとつづく女心というものは複雑である。
当時は、神仏にかけた「愛の誓い」は、破るとバチ、すなはち天罰がてきめんと信じられていた。
<藤原敦忠が返歌をなしえなかったことと、三十八歳で若死にしたという事実は興味ぶかい。>

『拾遺和歌集』
おほかたの 秋の空だに わびしきに 物思ひそふる 君にもあるかな
身をつめば あはれとぞおもふ 初雪の ふりぬることも 誰にいはまし
わすらるる 身をば思はず ちかひてし 人の命の をしくもあるかな  

【主な派生歌】
忘らるる 身をば思はで 龍田山 心にかかる 沖つ白波
 (寂蓮)
身をすてて 人の命を 惜しむとも ありし誓ひの おぼえやはせむ
 (定家)
誓ひてし 人の命を 嘆くとて わがたのまぬに なしてこそみれ
 (藤原為家)
しほたるる 身をば思はず こと浦に 立つ名くるしき 夕烟かな
 (少将内侍[新拾遺])
埋もるる 身をば歎かず なべて世の 曇るぞつらき 今朝の初雪
 (*後醍醐院[新葉])
恋ひ死なむ 身をば思はず 同じ世に あはぬためしの 名こそ惜しけれ
 (寂昌[新千載])
しづむべき 身をば思はず 涙川 ながれて後の 名こそ惜しけれ 
 (崇光院 〃)


【作者】
右近、十世期初めのころの人。右近少将藤原季縄の娘。醍醐天皇の皇后穏子に仕え、王朝貴族の御曹子にもてた。勅撰集入集歌九首

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