詩歌全般・日本古代史・たべものコミュの春の夜の　ゆめばかりなる　手枕に　かひなくたたむ　名こそをしけれ

春の夜の　ゆめばかりなる　手枕に　かひなくたたむ　名こそをしけれ　
周防内侍

＜二月ばかり　月のあかき夜　二条院にて人々あまたゐあかして物語などし侍りけるに　内侍周防よりふして枕をがなと　しのびやかにいふを聞きて　大納言忠家　これを枕にとて　かひなをみすの下よりさし入れて侍りければ　よみ侍りける　千載集・雑上＞

短い春の夜の

夢ほどのかりそめの手枕　　　　　　　

はかない契りのために

腕（かいな）をお借りした甲斐もなく　

つまらなくも立つでしょう浮名が　　

なんとも口惜しいことです

忠家の返し

　契りありて　春の夜ふかき　手枕を　いかがかひなき　夢になすべき

（深い縁があってこの春の深夜に差し出した手枕なのに、それをなぜに甲斐のない夢となさるのですか）
＊　「ちぎり」には、前世からの深い因縁の意であり、「深き」は「夜」と「契り」に掛ける。

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春の夜の　ゆめばかりなる　手枕に；　「春の夜のゆめ」きさらぎ二月、短く、はかないことをたとえる。「ばかり」は程度を示す副助詞。「なる」は断定の助動詞「なり」の連体形。「手枕」は腕を枕にすることで、共寝の意。「に」は理由を示す格助詞。（ゆめばかりなる手枕・情交を象徴）＜おたわむれの・・・＞。歌意で、二句切。

かひなくたたむ　名こそをしけれ；　「かひなく」は形容詞「かひなし」の連用形で、つまらない意。「甲斐」と「かいな・腕」は掛詞。「腕」は「手枕」の縁語。（かひな＜腕＞くたたむ名）＜妖艶な機知の、たわむれの応酬＞。「たた」は動詞「たつ」の未然形、評判が広がる意。　＜「枕」「立つ」は「夢」の縁語＞　「む」は婉曲を示す助動詞「む」の連体形。「名」は浮き名。うわさ。「こそ」は強意の係助詞、結びは形容詞「をし」の已然形。

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＊　二条院　道長から二条関白教通に伝えられた邸。
　　但し周防内侍が仕えていた後冷泉天皇の中宮章子内親王は
　　「二条院」の院号を宣下されているので、
　　その御所とも考えられる。章子内親王が「二条院」の院号を
　　宣下されたのは、延久六年(1074)。
＊　大納言忠家　藤原氏。1033～1091。俊成の祖父にあたる。
　　忠家が大納言に任命されたのは承暦四年(1080)。
＊　内侍は後宮女司の最高官司であり内侍司の女官の総称であった。
　　長官の尚侍（ないしのかみ）が女御・更衣と同様の性格を有するようになる。
　　勾当とは、＜事＞を専ら担当して取りはかる者の意で、勾当内侍は内侍司の長官の義となった。
　　第一位を一の内侍ともいい、天皇への奏請の取次ぎ、勅旨を伝達する伝宣を掌る、重要な職でもあった。
　

【主な派生歌】（千人万首より）

こぞもさぞ　ただうたた寝の　手枕に　はかなくかへる　春の夜の夢　　
(藤原定家)

たがかたに　よるのまくらの　雁のこゑ　名残もはるの　夢ばかりなる　　　　(三条西実隆)

みはつるを　おもへばあやし　春のよの　夢ばかりなる　ゆめの枕に　　　　　(中院通村)

春の夜の　夢ばかりなる　枕頭に　あっあかねさす　召集令状　　
(塚本邦雄)

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周防内侍すおうのないし生没年未詳(1037頃-1109以後) 本名：平仲子

父は和歌六人党の一人、従五位上周防守平棟仲。母は加賀守従五位下源正軄の娘で後冷泉院女房、小馬内侍と称された人だという(後拾遺集勘物)。金葉集に歌を残す比叡山僧忠快は兄。

後冷泉天皇代に出仕を始め、
治暦四年(1068)四月、天皇の崩御により退官したが、後三条天皇即位後、再出仕を請われた(後拾遺集雑一の詞書)。その後も白河・堀河朝にわたって宮仕えを続け、掌侍正五位下に至る。
天仁二年(1109)頃、病のため出家し、ほどなく没したらしい。七十余歳か。

寛治七年(1093)の郁芳門院根合、
嘉保元年(1094)の前関白師実家歌合、
康和二年(1100)の備中守仲実女子根合、同四年の堀河院艶書合などに出詠。
後拾遺集初出。勅撰入集36首。
家集『周防内侍集』がある。
女房三十六歌仙。小倉百人一首に歌を採られている。