宗教的対話ー「三つのL」ーコミュのやすいゆたかの『古事記』講読講座

やすいゆたかの『古事記』講読講座

第一回　あめつちのはじめのとき

　今年は『古事記』成立千三百年にあたります。『古事記』成立の経緯などに踏み込みますと、内容についての固定観念ができてしまうのも困りますので、本講座では、「序文」の部分は敢えて飛ばして、本文から検討していきたいと思います。

　『古事記』の文体は準漢文体です。つまり形式的には、漢文の構造に従いながら、国語的表現、つまり口語体で記述しているのです。『日本書紀』が純漢文体であるのと比べますと、正式な文書は純漢文体で書くことになっていたので、天皇家や藤原氏の立場で書かれた文書という面が感じられます。では具体的に見ていきましょう。

天地初發之時、於高天原、成神名、天之御中主神【訓、高下天云、阿麻。下效此。】
あめつちのはじめのとき、たかまがはらになりませるかみのみなは、あめのみなかぬし（くん、たかのしたの天はあまとよむ。しもこれにならふ）

　天地創造の時ですね。ただし日本は自然神信仰ですので、天地を超越した宇宙の外に天があって、そこに永遠の昔から唯一絶対の超越的な創造神がいたというような、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教的な超越神論は採用していません。

　それで天上の神々の世界である宇宙の外ではなくて、空の高いところで、高天原なのです。そこで最初に「成りませる神の名は」とありますように、最初の神は創られたのでもなければ、産み落とされたのでもなく、出来てきたわけです。一体何から、どのようにしてできてきたのでしょう。それは書いていないのですが、『古事記』や『日本書紀』は中国の道教説話の影響が強いので、おそらく渾沌（混沌カオス）状態から、次第に出来てきたということでしょう。

　中国では渾沌から卵状態になって盤古が生まれます。盤古が日に一丈伸びると、天は一丈高くなり大地も一丈厚くなります。盤古は天を手で支え、足で地を踏ん張っていたわけです。そして一万八千年を経て、極まったところで、盤古は化身してそこからさまざまな天地自然が生じたということです。この盤古はインドのヒンドゥー説話ではプルシァ（原人）です。盤古は死んだのですが、おそらく不死の部分があって、それは天に昇り、天帝になったと言われています。

　ところで天界を高天原の天を「あま」と読むところが要注意です。「海人」も「あま」と読みますね。天と海とは続いているようなイメージがあるわけです。それが天孫族が実は壱岐・対馬・加羅あたりの海洋民族であったのではないかという想像を誘うわけです。そうしますと高天原というのは天孫族の元々の領域が半島の南端から北九州にかけてであって、博多湾の奴国が倭の極南界であったという『後漢書』の記述が納得できます。

　それで最初に成り上がった神が天之御中主ですが、天の中心が出来てきたということです。おそらくカオスだったのがひとつの大きな渦に成って天に中心ができるわけです。この中心が北極星として現れます。中国でも天帝は北極星を化身とするわけです。そこで最初の神は北極星を化身とする天之御中主であり、これが元々最高神であったとも考えられます。

　後に太陽神信仰が中心になりますが、海洋民族だったころは北極星信仰が中心だったと想像できます。海洋民族や遊牧民族、砂漠を超えて旅をする商業民族などは北極星信仰が中心なのです。ところがイワレヒコ（神武天皇）が東征して大和や河内に中心が移りますと、農業中心になり、どうしても太陽と水の神を信仰の中心にせざるを得なくなって、大王家の祖先神を北極星から太陽に乗り換える大宗教改革があったのではないかということが、推測されます。

次高御産巣日神。次神産巣日神。此三柱神者、並獨神成坐而、隱身也。
つぎにたかみむすびのかみ、つぎにかみむすびのかみ。このみはしらのかみは、みなひとりかみになりまして、みをかくしき。

　次は高御産巣日神（高大な結びの神）、次は神産巣日神（神聖な結びの神）これで天御中主神も含めて三つの結び神がいることになります。これを神道では「造化三神」と呼んでいます。天御中主も結びの神だという理由は、中心が定まっていなければ秩序が成り立たないので、カオスに戻って何も生みだせなくなってしまうからでしょう。

　高御産巣日神と神産巣日神を夫婦神と解釈する人もいるようですが、記紀の中にはそのような記述はありません。むしろ高御産巣日神はイワレヒコ(神武天皇というのは奈良時代に後から作られた諡(おくりな)です)の東征に積極的に力を貸すので、天孫族の伝承した結びの神で、神産巣日神は出雲族の伝承した結びの神だと考えられます。

　これらの産みの神は自然自体の産む働きを神として捉えたものです。万物がそれぞれの働きによって、さまざまな物を産みだしているのが、三結びの神の働きなのですが、万物の働きがそのまま三結びの神の働きなので、物の産む働きの影に隠れてしまうのです。独り神だから対象化できないので、身を隠していると表現されています。陰陽などの対立などから生まれるのなら、見えてくるのでしょうが、そういう対照すべきものがないので、隠れているのでしょうが、結びの神の働きがなければ何も生まれないわけで、その意味では自然自体の湧き上がる力、エネルギーを指しているのでしょう。

　結ぶということは実を結ぶなど大地の産みだす働きと考えますと、高御産巣日神も神産巣日神も大地の産む働きに由来していると考えられます。ということはどの地方も土地の神を信仰していて、高御産巣日神も神産巣日神も元々は土地の神のことだったと考えられます。

　各地の土地の神を「産土(うぶすな)の神」と呼びます。この信仰は欠かせないので、各地のそれぞれの神が産土の神を兼ねることになっています。ですから、天神信仰の神社でも稲荷信仰の神社でも八幡信仰の神社でもそれぞれの土地では「産土の神」でもあるのです。

　なお天御中主信仰は、隠れたとはいえ、仏教と習合して妙見菩薩信仰として各地の妙見山信仰に継承されています。それに北極星は中国では天帝の化身であることに注目しますと、天帝は道教では天皇大帝(てんこうだいてい)と呼ばれていますので、天皇信仰に姿を変えたとも考えられます。

　海洋民族であった天孫族は天御中主信仰が中心だったのが、河内・大和中心の畿内王朝では農業が主産業なので、太陽神信仰に転換し、太陽神を祖先神にしたわけですが、それでは天御中主の祟りが恐ろしいので、皇帝の国内での称号として天御中主の言い換えとして天皇を採用したのではないでしょうか。その時期としてはニギハヤヒという太陽神をしていた物部氏が衰退した蘇我・物部戦争の後が考えられます。

次、國稚如浮脂而、久羅下那洲多陀用幣流之時【流字以上十字以音】如葦牙因萌騰之物而、成神名、宇摩志阿斯訶備比古遲神。【此神名以音。】次、天之常立神。【訓常云登許、訓立云多知。】此二柱神亦獨神成坐而、隱身也。上件五柱神者、別天神
つぎに、くにいとけなく、うかべるあぶらのごとくして、くらげなすただよえるときに、(流字以上十字は音で以てす)あしかびのごともえあがるものによりてなりませるかみのみなは、うましあしかびひこぢのかみ、(この神の名は音を以てす)つぎにあめのとこたちのかみ、(常は「とこ」とよむ、立は「たち」とよむ)このふたはしらのかみまたひとりかみになりまして、みをかくしき。うえのくだり、いつはしらのかみは、あまつかみとべつなり。

　次に、土地ができかかっているところで、浮かんでいる脂のようで、水母のように漂っている時に、あしかび(葦の若芽)のように萌えあがってきたものによってできた神の名は「美味し葦牙ひこぢの神(あしかびの萌えあがるようないせいのいい男の神)」です。要するに元気のいい若々しい伸びようとする力を自然自体がもっているということです。
　次に天常立神は、天である高天原を常に立たせている根源の神です。当時は高天原が存在するとしても、それがどういう力に支えられて存在するのか、何故落ちてこないのか、説明できないので、天常立神を作って、そのお蔭にしたのです。この二柱の神も独り神になって隠れてしまいます。隠れてしまうということは存在しないという意味ではありません。独り神なので対象化されず、したがって目には見えないだけで常に働いているのです。

　次成神名、國之常立神【訓常立亦如上。】次、豐雲(上)野神。此二柱神亦獨神成坐而、隱身也。
つぎになりませるかみのみなは、くにのとこたちのかみ(常と立はまた上のごとくよむ)次に、とよくもののかみ。このふたはしらのかみまたひとりかみになりまして、みをかくしき。

次に成りました神の御名は、国の常立の神です。この国というのは、国家としての機構を備えた国家のことではなくて、国土のことでしょう。後にイザナギ・イザナミの夫婦神が国生みするので、この段階ではまだ国土のことではないという解釈をする人もいますが、それは違うでしょう。イザナギ・イザナミは具体的に大八嶋を産むのですが、この段階ではその元になる国土をいつまでも成り立たせる神です。

　次は豊雲野の神です。「上」は声調を表わしていて、野にかかり、豊雲つまり雲が沢山かかる雨がよく降る野の神という意味になります。
　
　国土を永久に成り立たせてくれている神と恵みの雨をもたらす雲が沢山わく原野の神が、豊かな自然を約束してくれているのです。この二柱はセットで、夫婦のようにも見えますが、別にそういう指摘もなく、これらの神々も独り神になって身を隠すのです。

　次成神名、宇比地邇(上)神。次、妹須比智邇(去)神【此二神名以音。】次、角杙神。次、妹活杙神【二柱。】次、意富斗能地神。次、妹大斗乃辨神【此二神名亦以音。】次、淤母陀流神。次、妹阿夜(上)訶志古泥神【此二神名皆以音。】次、伊邪那岐神。次妹伊邪那美神。【此二神名亦以音如上。】
　上件自國之常立神以下、伊邪那美神以前、并稱神世七代。【上二柱、獨神各云一代。次　雙十神、各合二神云一代也。】
つぎになりませるかみのみなは、うひちじのかみ、つぎに、いもすひちじのかみ、(この二神の名、音をもってす)つぎに、つのぐひのかみ、つぎに、いもいけぐひのかみ。(ふたはしら)つぎにおおとのぢのかみ、つぎにいもおおとのべのかみ、(この二神の名、また音をもってす)、つぎにおもだるのかみ、つぎにいもあやかしこねのかみ、(このふたかみのなみな音を以てす。)つぎにいざなぎのかみ、つぎにいざなみのかみ。(このふたかみのみなまたもって上のごとく音を以てす)
　うえのくだりくにのとこたちのかみよりいか、いざなみのかみいぜん、みなならびてかみよななだいとしょうす。(うえのふたはしら、ひとりかみかくいちだいをいふ。つぎのならびにとおつかみおのおのふたかみあわせていちだいといふ)

　次に出来てきた神の御名は、初泥じつまり最初の泥土さんの神、つぎにその妻の砂と土さんの神です。書かれていませんがこの夫婦神が泥や砂を生み、それらを混ぜて豊穣な大地をつくろうとしたわけです。

　次は角形の棒杙(ぼうくい)の神、次にその妻の活き活きとした杙の神が出来て、田畑が作られたわけですね。もちろん人々の働きで田畑を作ったのですが、それは棒杙の働きでもあり、棒杙のお蔭で田畑ができているわけですから、泥や砂や棒杙も神様ですし、人々の田畑を作る働きも、それらの働きの現れであるわけで、別のことだと捉えてはいけません。

　次は大きな門口を守る親父さんの神、次はその妻の大きな門口にいる女の神、次は、満ち足りたようすの男の神、次はその妻のまあ恐れ多い女の神です。

　その上で農家ができて、門口では家を守る神がいるとされ、その妻の神がいるとされたわけです。つまりそれは家族の前に立って親父さんが家を守っているということです。そしてその側にその妻がいつもいるわけですね。人と神を別々に考えないで、生活から抽象してその大切な事象を神として捉え返しているわけです。

　「おもだる」は面足という意味で満足な表情の神ですね。その妻は、「ああ恐れ多い女」の神というのですから、これは男女の陰陽の和合を表現していると言われています。それで子供たちが生まれますし、日々活力がみなぎって自然が再生産されるということです。

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[1] mixiユーザー 07月19日 19:20

第二回　伊邪那岐命と伊邪那美命

於是天神諸命以、詔伊邪那岐命、伊邪那美命、二柱神、修理固成是多陀用幣流之國、賜天沼矛而、言依賜也。故、二柱神立(訓立云多多志)、天浮橋而、指下其沼矛以畫者、鹽許々袁々呂々邇(此七字以音)。畫鳴(訓鳴云那志)。而、引上時、自其矛末垂落之鹽累積、成嶋。是淤能碁呂嶋。(自淤以下四字以音)

ここにおいてあまつかみもろもろのみこともちて、いざなぎのみこと、いざなみのみことのふたはしらのかみにのりたまひて、「このただよへるくにををさめかためなせ」とあめのぬぼこをたまひて、ことよさしたまひき、かれ(接続詞それで)、ふたはしらのかみあめのうきはしにたたして(「立」を「たたし」とよむ)、そのぬぼこをさしおろしてかきたまひ、しおこをろこをろに(この七字音を以てす)かきなして(「鳴」を「なし」とよむ)、ひきあげたまひしときに、そのほこのさきよりしたたりおつるしお、かさなりつもりてしまとなりき。これおのころじまなり(「淤」より以下四字は音を以てす)。

ここにおいて天つ神がイザナギ、イザナミの命に命じます。造化三神は天つ神ではないということですから、国の常立の神からイザナミまでが神世七代と言います。独り神の国の常立の神と豊雲野の神はそれぞれ一代、カップルの神々は二つ神でそれぞれ一代です。国の常立神から妹アヤカシコネの神までの八神が天つ神だということになります。イザナギ・イザナミも含めれば天つ神は十神です。その命令は「この漂える国を修めて固めなさい」という内容です。

それで「天の沼矛」を賜って、言依(ことよせ)つまり命令されたのです。「故」は接続詞で「かれ」と読みますが、意味は理由を表わすので「それで、ゆえに」という意味です。それで二柱の神、神は一柱、二柱と数えます。「天の浮橋」これは天からの通路である空中の階段」です。そこに立ちまして、天の沼矛を指し降ろしまして、かき回したわけです。

「鹽許々袁々呂々邇」は塩を「許袁呂こおろ」という擬音を繰り返して「塩をこおろこおろに」かき回したということです。「塩」というのは海水のことでしょう。「潮(しお)」と言いますから。そして沼矛を引き上げた時に滴り落ちる海水が重なり積もって、島ができたということです。古代の製塩法は海水に浸したホンダワラを乾燥させるという工程を繰り返して塩分濃度を高めた「かん水」をつくり、土器で煮詰めて塩を採るというものでした。オノコロ島というのも海水が濃くなってできたのかもしれません。

[2] mixiユーザー 07月19日 19:21

於其嶋天降坐而、見立天之御柱、見立八尋殿。於是問其妹伊邪那美命曰、汝身者如何成。答曰吾身者、成成不成合處一處在。爾伊邪那岐命詔、我身者、成成而成餘處一處在。故以此吾身成餘處、刺塞汝身不成合處而、以爲生成國土。奈何。(訓生云宇牟。下效此。)伊邪那美命、答曰然善。爾伊邪那岐命詔、然者吾與汝行廻逢是天之御柱而、爲美斗能麻具波比。(此七字以音。)

ここにそのいもいざなみのみことにとひたまひしく、ながみはいかになれる、ととひたまへば、こたへたまはく、あがみはなりなりてな、いかりあわぬところひとところあり、とまをしたまひき。ここにいざなぎのみことのりたまひしく、あがみはなりなりて、なりあまれるところひとところあり、かれこのあがみのなりあまれるところを、ながみのなりあわぬところにさしふたぎて、くにうみなさむとおもふはいかに、とのりたまへば、(「生」は「うむ」と読む、以下これに倣う)いざなみのみことこたへたまはく、しかえけむとまをしたまひき。ここにいざなぎのみことのりたまひしく、しからばあとなとこのあまのみはしらをいきめぐりあひて、みとのまぐはひせむとのりたまひき。

その島に天降って、天の御柱を見立てます。見立てるというのは、霊的な能力で何もないところにぱっと出現させることを意味していたということです。そして「八尋殿」というのは八尋は身長の八倍ということですが、一般的に「大きな」という意味で使われているようです。ですから大きな宮殿を見立てた、超能力で作ったということですね。まあ材料もなく作るのですから、今風に言えば、バーチャルリアリティかもしれません。

　そこでイザナミの命にイザナギの命が訊ねます。「あなたの体はどのようにできているのか？」それに対してイザナミの命はこう答えます。「私の体はよくできていますが、出来上がってないところが一つあります。」とおっしゃいました。そこでイザナギの命がこう仰いました。「私の体はよくできていますが、出来過ぎて余っているところがあります。それでこの私の体のできすぎて余っているところをあなたの体のでき切らないところに刺して塞ぎ、国土を産むとおもいますがどうでしょう」と仰ったので、イザナミの命は、こう答えられました。「以為」は「おもへらく」で思うという意味です。

　これに対するイザナミの返答は「然」つまり「しかるべく」ということですからＯＫです。「善」は「えけむ」と読みますが、「ええよ」ということですね。「ええ」というのは関西訛りですが、昔は関西が畿内であり、これが標準だったのです。「そうですね、それはいいわ」と現代の標準語だとなりますね。

　そこでイザナギの命はおっしゃっいました。「それならあなたと私とこの天の御柱をぐるっと回って、みとのまぐわいをしましょう。」「天の御柱」というと地上から天界に続く柱ですが、それは巨木のイメージですね。高御産巣日の神は、高木の神と同一神と言われます。巨樹というのは宇宙の産むエネルギーを象徴する生命樹です。その周りを回りますと、産むパワーが無限に増幅されるという理屈です。ですから国生み、島生みとなると天の御柱の周りを回って、産む力を無限大にしなければなりません。

「みとのまぐあい」の「みと」ですが、「御所」で寝室を意味していたという解釈と「めおと」が訛ったという解釈もあります。「まぐあい」は、目が合うという言葉から来たらしいですね。うっかり目と目が合っちゃうと全身にビィビィーと来てということでしょうか？

[3] mixiユーザー 07月19日 19:22

如此云期、乃詔、汝者自右廻逢、我者自左廻逢。約竟廻時、伊邪那美命、先言阿那邇夜志愛（上）袁登古袁、（此十字以音。下效此）後伊邪那岐命、言阿那邇夜志愛（上）袁登賣袁、各言竟之後、告其妹曰、女人先言不良。雖然久美度邇（此四字以音）。興而生子、水蛭子。此子者入葦船而流去。次生淡嶋。是亦不入子之例。
かくいいちぎりて、すなわちなはみぎりめぐりあへ、あはひだりよりめぐりあふとのりたまひき。ちぎりをへてめぐりたまふときに、いざなみのみこと、まずいふに「あなにやしえをとこを（この十字は音を以てす、しもこれにならふ）」と。のちにいざなぎのみこと、いふに「あやにやしえをとめを」と。おのおのいいをへてのちに、そのいもにのりていわく、「をみなさきいふはふさはず」。しかれどもくみどに（この四字は音を以てす）おこしてこ、ひるこをうみたまひき。このこはあしぶねにいれてながしやりつ。つぎにあわしまをうみたまひき。こもこのかずにいらず。
このように「言いちぎって」、つまり口で契る約束する、決めるということです。そして「あなたは右より回って逢ってください。わたしは左よりまわって逢いましょう」と言われたわけです。そう約束してからめぐっている時に、イザナミの命がまず「ああとってもすてきよ、ええおとこやわ」といい、後にイザナギが「ああすばらしい、ええむすめや」と言われたのです。
　それでこの天の御柱はウッズ・サークルではないかという解釈もあります。それはこれが一本の樹だったら巡っている間は相手が見えないので、「いいおとこ」とか「いいおんな」という言葉は出てこないのではないかというのです。環状に十本ぐらい樹が植わっていれば、その外を回っている間も相手を見ているので、感情が高まってつい言ってしまうのが分りますね。
　ウッズ・サークルの中は特別の聖域で産むパワーは無限大になっています。そこでまぐわえばすぐに国とか島でも生まれてしまうという設定です。
　未開時代の祭壇というのはこういうウッズ・サークルの中で、男女の巫祝がまぐわって大自然の大いなる生命に融合し、そのパワーで何かを産んだり、大いなる生命の意志を感じ取っていたのかもしれませんね。
　お互いに言い終えてしまってから、イザナギの命は「女の人が先にラブコールしたらよくないのです」と言われたのです。それでも「久美度」つまり「隠し処」から「興して」これは「はじめて」という意味です。何をはじめたかというと、セックスでしょうか？お産でしょうか？「隠し処」というと陰部を連想しますが、寝所の意味にもとれるので、セックスをしたということになります。そうしますと、ウッズ・サークルの中で堂々と戸外でというのではなく、見立てでつくった御殿の中に、ウッズ・サークルも入っていて、その中が寝所だったということでしょうか？
　ともかく蛭子を御生みになりました。蛭の子を産んだという意味ではなく、骨なし子を産んだという意味のようです。まだ骨もできていない未熟児だったのかもしれませんね。流産ということでしょうか？なにしろラブコールのところで、女の方から求めるというマナー違反があったものですから、未熟児あるいは奇形児が生まれるという戒めですね。「雌鶏が鳴いたら国が亡びる」という男尊女卑の儒教の影響かもしれません。この子は葦でつくった船にいれて流されたのです。次に淡島（四国の阿波）を御生みになって、これも子の例（かず）に入れなかったのです。

[4] mixiユーザー 07月19日 19:25

於是二柱神議云、今吾所生之子不良。猶宜白天神之御所。卽共參上、請天神之命。爾天神之命以、布斗麻邇爾（上）。（此五字以音）ト相而詔之、因女先言而不良。亦還降改言。

ここにふたはしらのかみはかりたまひていふ、いまあがうめるところのこふさはず、なほうべあまつかみのみもとにまをさな。すなわちともにまゐあがりて、あまつかみのみことをこひたまひき。ここにあまつかみのみこともちて、ふとまにに（この五字音以てす）うらへてのりたまひしく、おんなのさきだちいいしによりてふさはず、またかへりあもりてあらためいへ。

そこでイザナギ・イザナミは、どうしましょう、私たちの間にできる子はどうもよくないわ、これは天神の御所に報告しにいかなくては、ということで、すぐに一緒に高天原に上がって、天つ神にどうすればよいか言ってくださいとたのんだのです。この夫婦神はまだできたばかりで、オノコロ島でのみとのまぐはひまでは性体験はなかったようですね。『日本書紀』の「一書」によりますと鶺鴒（セキレイ）が飛んできて番うのを観まして、それに学んでセックスをしたとなっています。

　天つ神は太占（ふとまに）で占ってくれました。鹿の肩骨を焼いて、できた割れ目の模様で吉凶を占うというやり方です。ともかく女が先にラブコールするのはよくないのだ、オノコロ島に還り降って、ラブコールから正しいマナーでやり直しなさいと言われたのです。

故爾反降、更往廻其天之御柱如先。於是伊邪那岐命、先言阿那邇夜志愛袁登賣袁、後妹伊邪那美命、言阿那邇夜志愛袁登古袁。如此言竟而御合、生子、淡道之穗之狹別嶋。（訓別云和氣。下效此。）

かれここにかへりあもりて、さらにそのあめのみはしらをめぐることさきのごとし。ここにいざなぎのみこと、まずいふ「あなにやしえをとめを」、のちにいもいざなみのみこといふ「あなにやしえおとこを」。このごとくいいおはりてみあいしまして、うみしこは、あはぢのほのさわけのしま。（別は「わけ」よむ、しもこれに倣う）

　それで早速オノコロ島にまた降りていきまして、さらに天の御柱の周りを先のように巡りました。でも今度はイザナギの命が先にいいました。「おおすばらしい、ええむすめやないか」後で妻であるイザナミの命がいいます。「まあすてき、いいおとこぶりよ」これでＯＫですね。その後でセックスをして産んだ子が「淡道之穗之狹別嶋」つまり淡路島ですね。阿波へ行く道の島ということです。オノコロ島がどこか確定できませんから、淡路島が最初にできた正式の島だということで、聖地ですね。淡路島にはイザナギ神宮とおのころ神社があります。

　ともかく夫婦神がセックスで島々を生むという発想がすごいですね。島々も大いなる生命の産む力で生み出されたものです。それを体現したのがイザナギ・イザナミの夫婦神ですが、それは何も我々の夫婦の営みと別ではありません。我々の夫婦の営みも子供だけ生んでいるのではなく、活力を生み、日々の生活を生んでいて、それが自然環境も再生産しているのですから、今も我々は島を生み、国を生んでいるということです。

[5] mixiユーザー 07月19日 19:30

次生伊豫之二名嶋。此嶋者、身一而有面四。毎面有名。故、伊豫國謂愛（上）比賣、（此三字以音。下效此也。）讚岐國謂飯依比古、粟國謂大宜都比賣、（此四字以音。）土左國謂建依別。

つぎにいよのふたなのしまをうみたまひき。このしまは、みひとつにしておもよつあり。おもごとになあり。かれいよのくにをえひめといひ、（この三字音を以てし、しもこれにならふ）さぬきのくにをいいよりひこといひ、あわのくにをおおげつひめ、（この四字音を以てする）とさのくにをたけよりわけといふ。

つぎに生んだのが「伊予の二名の島」つまり四国のことです。身は一つなのに面つまり顔は四つあって、面ごとに名前があります。伊予の国は姫を愛する意味の愛媛と言われ、讃岐の国は食糧をつくる意味の飯依比古と言われ、阿波国は穀物を作る大宜都比賣と言われます。そして土佐の国は頑強な男という意味の建依別と言われるのです。

次生隱伎之三子嶋。亦名天之忍許呂別。（許呂二字以音。）次生筑紫嶋。此嶋亦、身一而有面四。毎面有名。故、筑紫國謂白日別、豐國謂豐日別、肥國謂建日向日豐久士比泥別、（自久至泥以音。）熊曾國謂建日別。（曾字以音。）次生伊伎嶋。亦名謂天比登都柱。（自比至都以音。訓天如。）次生津嶋。亦名謂天之狹手依比賣。次生佐度嶋。次生大倭豐秋津嶋。亦名謂天御虛空豐秋津根別。故。因此八嶋先所生、謂大八嶋國。

つぎにおきのみつごのしまをうみたまひき。またのなはあめのおしころわけ。(許呂の二字音を以てす)つぎにつくしのくにをうみたまひき。このしまもみひとつにしておもよつあり。おもごとになあり、かれつくしのくにをしらひわけといひ、とよのくにをとよひわけといひ、ひのくにをたけひむかひとよくにひねわけといひ、（自久より泥に至る音を以てす。）くまそのくにをたけひわけといふ。（曾字音を以てす。）つぎにいきのしまをうみたまひき。またのなはあめひとつはしらといふ。（比より都に至る音を以てす。「天」は「あめ」と読む）つぎにつしまをうみたまひき。またのなはあめのさでよりひめといふ。つぎにさどのしまをうみたまひき。つぎにおほやまととよあきつしまをうみたまひき。またのなはあまつみそらとよあきつねわけといふ。かれこのやしまのまづうまれしによりておおやしまといふ。

次に隠岐の三つ子の島を御生みになったのです。隠岐の島は本当は四島から成っているのですが、航路からみれば三島しかみられないのです。天之忍許呂別という名の意味はちょっと調べてもわかりませんね。次に筑紫島つまり九州です。九州というのは中国でいうと中国全体を意味するらしいです。中国とか九州とかいう地名は多分に中国の世界概念の影響をうけているわけです。　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く

[6] mixiユーザー 07月19日 19:30

筑紫国は白日別という名前なのです。豊の国は豊日別、肥の国を建日向日豐久士比泥別と呼びます。クマソの国を建日別といいます。白日、豊日、建日というのは南国のイメージかもしれません。白い太陽は熱く感じますし、豊な太陽もいかにも南国です。建というのは頑健で屈強なイメージですから建日も南国的ですね。

　日や火は「ひ」と読み「霊」が「ひ」と読みますので、霊性豊かかな、霊性の盛んなイメージがあるのかもしれません。火の国熊本には阿蘇山があり、火山も多いですから。

　ただし霊性が盛んだということは、必ずしも霊が実体としてあって、それがつきものみたいに宿っているという意味ではありません。生命力が溢れているとか、命が輝いているとかそういうことを意味しているわけです。

　次に壱岐・対馬を生むのですが、壱岐は「天比登都柱」と呼び、対馬は「天之狹手依比賣」と呼びます。壱岐の一は天の一つ柱に由来しているのでしょう。高木の神の権化みたいな巨木があったのかもしれません。壱岐・対馬には「天」が付いていて、元々天孫族は壱岐・対馬に本拠を持っていたのではという解釈もあります。もっとも本州にも「天」が付いていますから、あまり説得力はないかもしれません。

　そしてその次に佐渡島を生み、その後に本州である「大倭豐秋津嶋」を生みます。別名「天御虚空豊秋津根別」です。

　「倭」で「ヤマト」とは読めませんね。おそらく「倭人住む山門」と呼びならわせていたので、「倭」だけで「やまと」と読むようになったのでしょう。同様の用法としては「飛鳥」で「あすか」と読ませますが、「飛鳥の明日香」から来るのです。「日下」を「くさか」と読むのは「日下（ひのもと）の草香」に由来します。谷川健一先生の『白鳥伝説』（集英社一九八五年）を読みますと「目からウロコ」です。

　「大倭」と書くのは倭国は元々朝鮮半島南端から九州博多の奴国にかけての海洋国家だったのが、高千穂に天降って日向に中心を置きます。この筑紫の倭国があって、その高千穂王朝の分流のイワレヒコが東征して畿内を本拠にした倭王朝を作ります。だから最初は二つあったのです。それが何らかの事情で統合し、時の情勢によって、主力が畿内であったり、筑紫であったりしたわけですね。だから九州の倭と区別して畿内の主力の倭という意味で、「大倭」と書き、それで「やまと」とか「おほやまと」と読ませたわけです。山門は山のふもとで、三輪山のふもとの巻向は山門に相応しいですね。そこに宮があったのです。筑紫にも香春岳のふもとあたりが山門で宮があったのでしょう。

　豊秋津島という名は秋津つまり蜻蛉（とんぼ）がたくさん飛んでいる水と緑の豊かな島という意味です。またの名は虚空豊秋津根別ですから、空気が澄んでいて緑豊かな蜻蛉の島ということで、素晴らしい名前ですね。虚空は「みそら」と読ませ、「美空ひばり」の「美空」に通じます。何しろ空気が清浄で、水が甘く、緑豊かな森林の国ということで、風光明媚なのは日本の大きな特徴で、それは『古事記』の著者たちにも強く意識されていたようです。

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