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こんな小説、書けましてん♪コミュのマイ・ウェイ

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 「どうしたんだ、ボウズ?」
 荷台に羊をたくさん積んだトラックの運転手が話しかけてきた。
 「.....」
 僕は何も言わずに通り過ぎようとすると、その髭面の男は笑いながら僕を追い越して去って行った。僕は未だ見ぬ母親を探して旅を続けている。果てしなく続くこの路を往く、今の僕に出来る事はそれ一つだけだった。
 「メェー」
 ふと後を振り向くと、先程の荷台に乗っていた羊が一頭僕を睨んで佇んでいた。
 「お前、どうして降りてきたんだ?」
 「メェー」
 僕は可笑しくなって、再び宛のない旅を。しかしそれでも羊はついて来る。
 「メェー」
 僕は勢いよく走り出した。しかしそれ以上に奴の足は速かった。
 「メェー」
 「うるさい」
 僕は諦めて、放っとく事にした。

 そして夕暮れ時になると、涼しげな場所を探して寝床につく。今日の献立はパンと牛乳。農家の人にお世話になった時に貰った、ほんの少しの食糧だ。
 「メェー」
 欲しがる羊に僕は嫌がらせをする。あげるフリしてあげない。でも結局、あげてしまうのだが。
 「仕方ねーな、これだけだぞ」
 「メェー」
 耳のついた食パンを与えると、嬉しそうに僕を見つめる。
 「お前の名前、考えてやるよ」
 「メェー」
 しばらく考えても、思いつかなかった。
 「うーん」
 「メェー」

 次の日、朝日が昇る頃には眼が覚めて、それでも奴はそこにいた。
 「しつこいな、お前」
 「メェー」
 重い重いリュックを背中に背負って、今日も宛のない旅を続ける。しばらく歩き続けると、動物たちを連れたおそらくサーカス一団だろう集団を見かけた。その動物の先頭の人に話しかけて、この先の事を聞こうと思った。
 「あの、すみません」
 「えっ?」
 振り返ると、その人は髪の長い女性だった。そして馬、犬、鳥、サルを連れていた。
 「どうしたの、こんな所で。ボウヤ一人?」
 「あの、ニューオリンズまではどれ位かかりますか?」
 「え、ニューオリンズ?まだまだよ」
 馬車に乗っている女性は、僕を不思議そうに見つめる。
 「かわいい子羊ね」
 「メェー」
 そう言うと僕の顔は真っ赤になっていた。そしてその彼女の顔をまともに見れなくなっていた。
 「乗っていきなよ、途中までだけど」
 「いえ、結構です」
 彼女は敢えて、もう一度同じ事を聞こうとはしなかった。僕がきっと断るだろうと眼に見えていたのだろう。
 「そう、頑張ってね」
 「はい」
 馬車が僕を通り過ぎると、隣りで羨むように羊は僕を眺めていた。
 「お前、乗ってけよ」
 「.....」
 どうやら本気で僕の旅に便乗するつもりらしい。
 「勝手にしろ」
 「.....」
 落ち込む羊を素っ気なくあしらうと、僕はすぐさま振り返った。
 「でも、ちょっと惜しかったな」
 「メェー?」
 そしてまた夕日が落ちてきた。

 次の日、僕がいつも以上に眠っていると、羊の奴もいつも以上にメェーメェー鳴き続けている。昼になっても夜になっても鳴き続けるのでしまいには羊の奴も疲れて眠ってしまった。
 しかし隣りの僕もいつまでも眠り込んでいる。再び羊が目覚める頃には僕はいつまでも羊の数を数えて止まない事だろう。


 「メェーメェー」
 誰のために鳴いているのか、もしくは泣いているのか。
 「そう言えば、名前決めてなかったな。そうだな」
 草ぐらいしかないこの辺に、珍しい雨が涼しい位に舞い降りた。

 そして宛のない小さな旅は、今でも羊の眼に映り泣いている。

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