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こんな小説、書けましてん♪コミュの好きからキミまでの速度

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電車に乗り込んで一眠りしよう、それがボクにとっての、大学生活の日課だった。



早足で乗り込んだ時には、手摺りのある端の所に腰掛けて、向かいの人の背中の窓の流れる景色をぼんやり眺めていた。

しばらく経ったその時間は、落ちた瞼と共に停止し、次に目を開く瞬間まで、そんなに長くは感じなかった。

うとうとしながらも向かいの人にふと目を遣ると、こっちの視線を避けるように終始横顔のまま、何かを睨みつけるようにジッと動かずにいた事が何となく違和感だった。

ボクもまた天井を見上げ、上下に揺れる吊り広告を眺めながら、ただただそんな時間を弄んでいた。





「次は中津、中津です」

車内アナウンスが辺りに響き渡る頃、ボクはまた向かいの人に目を遣ると、スッと涙が頬を過ぎったのに気付いた。

その向かいの人は自分と同じ位か少し年下の女性に思えたが、表情を変えず涙を拭う事もせず、ボクからの視線の中では横顔状態のまま誰にも気に止めない様子だった。

そう思った次の瞬間、彼女は突然席を立ち、見つめていた方向側の車両に移動し、扉は自動で開閉を続けた。

「?」

一見真剣な表情で一点だけを見つめていた彼女が気掛かりだっただけに、ボクは好奇心からか、隣の車両に移ろうと席を立った。

しかし、隣の車両に移るも、彼女の姿はそこになかったのだ。ボクはさらに隣に移動したのかもしれないという思い込みが過ぎり、そのままの足で足早に移る事にした。
「!?」

ボクは扉の向こうで唖然としたまま、足を止めていた。
何故なら、辿り着いた車両は一番端の車両だったにも関わらず、そこに彼女の姿はなかったのだ。

「どうして、いないんだろう、、」

目の前の現実を受け入れられないまま、ボクはゆっくりと振り返り、元いた場所へと引き返す事にした。



勿論停車する間もなく、僅かな時間しか経っていないのに、目の前にいた彼女が何処にも見当たらないのだから、口を開けたまま呆然と自分のいた場所に辿り着いた。

「何処に行ったんだろう、何かを思い出したように席を立ったように思えたけど」

確かに彼女は、あの時一筋の雫ではあったものの、確実に泣いていた。あれが涙でなければ一体何なのか、それくらい自信に満ち溢れていた。

「あの、」

突然、彼女のいなくなった方向の反対側の方から、見知らぬ女の子がボクに不意にも話かけてきたのだ。

「はい?」

ボクがそう言うと、女の子はボクの手を引いて、こう続けた。

「お姉ちゃん、見ませんでしたか?」

ボクはまさかと思いつつも、先程の彼女を思い浮かべた事実を否定するかのように、切り返した。

「お姉ちゃん?いや、知らないよ」

そして、白を切る事にした。



「そこに座ってませんでしたか?」

女の子が指差した先は、ボクの向かい側の手摺り席。何となく予感していた事は、良からぬ方向に向かっていくと、その時は知る由もなく。

ボクは席を立つ事をせず、お姉ちゃんの存在を隠すように首を振っていた。

「お姉ちゃんを探しに行きます、ありがとうございました」

女の子はそう言うとすぐに、先程向かった車両に移動した。

ともかく、今のこの状況がさっぱり理解出来ない。

もう一度女の子を追いかける事で、お姉ちゃんが現れてくれるかもしれないけれど、何処にもいなかったお姉ちゃんは、どうしていなくなってしまったのか、それだけが納得のいかない気持ち悪さで内心堪えられなくなっていた。



「きゃあっ!」

先程の女の子の悲鳴が戦慄のように響いた。ボクはすぐに隣の車両に移り、女の子の姿を探した。

しかし、女の子は何処にも見当たらない。というより、この車両にはボク以外誰もいないのだ。

「お兄ちゃん、こっち、こっちだよ」

女の子の慌てふためいた声が再度ボクの耳に届くと、更に奥に車両へと続く扉があるのに気付いた。しかし、先程ここに来た時には確実に行き止まりだったのに。

そんな記憶も、気が気でない状況が続いたからか、ボクは女の子の声がする奥の扉まで足を遣った。

「こっち、こっちだよ?」

扉の開いた奥に足を進めると、見た事のない風景が広がっていた。

そこは、電車の景色とは程遠い、辺り一面真っ白で何もない、虚無に溢れた空間だった。

「、、やっと、会えたね?」

そんな景色の中現れたのは、向かいにいた女性の姿と、俯いた先程の女の子だった。
「え?」

次の瞬間、扉は自動で閉まりロックのかかった音が聴こえた。

「私の事、心の眼でジッと見てたでしょ?」

「!?」

確かに彼女に目線を合わせないように、天井をぼんやり眺めていたのを思い出した。

「ここには私たち以外誰もいないよ、だから気にせず、私だけを見て?」

ボクは片手に繋がれた女の子が気になっていた。
しかし、よく見ると、繋がれた女の子の片腕は、女の子の方には繋がれていなかったのだ。

「うわああ!」

突如驚きふためいた後、腰が引けて立ち上がれなくなっていた。

「もう遅いよ?ここに踏み込んだら、一生出られないんだから」

彼女はそう言って、女の子の片腕を強く掴んで真横の壁に叩きつけるように女の子もろとも投げ捨てた。

「、、私、ね?人身事故で彼を亡くしてから、ずっと彼を探してたの。彼がいつになっても現れないから、いつしか彼に似た人を探すようになってね、今日はその夢が叶ったの」

「や、やめてくれ、冗談だろ?!」

ボクは、戦き震え上がっていた。

「ふふっ☆本当に彼によく似てるわ。あなたの眉や、にきびや、えくぼが、特にね?」



「!!」

「、、これでもう、ずっと一緒、だね」





真っ白な部屋の真ん中に、まるで真っ赤な水の入った水差しを勢いよく床一面にこぼしたような、そんな景色がそこら中に広がっていた。

そして、ボクの先程いた車両の天井の吊り広告には、こんな言葉が書かれている。



『真夏のホラー特集!御堂筋線を走る真夜中限定の、とある女性専用車両には要注意!怪奇現象に出くわした人に独占インタビュー成功!これは、前代未聞の大スクープだ!』










「お、おい、そっちは危ねえよ!」

ボクは隣の車両から女の子の悲鳴が聴こえたのを理由に、何を見つめていたのか、女の子の元へと急ぐように、車窓から身を半分以上乗り出していた。

「、、こっち、こっちだよ?」

女の子の声を頼りに、ボクは勢いよくそこから飛び出していった。

「きゃああっ!」





キキィィィィ!!



周りの人たちの悲鳴と、車輪と線路の擦れる耳障りの音だらけが、その電車の最後列からボクの憐れな姿を次第に遠ざけていった。

「やっと、会えたね?」

「、、、」





ボクのいないずっと遠くの方から、昔の彼女と彼の会話が聴こえてきた気がした。



「好きからキミまでの速度は、あまりの衝撃に落胆する速さと、実はイコールだって、知ってた?」

「何それ?どうゆう事?」

彼は、優しく笑った。



「ようは、、キミを、大好きって事」

彼女もまた、つられた。



「ばか♪」

「ばか、で結構ですよー」




二人。

優しく幸せそうに、笑って、笑って。

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