ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

こんな小説、書けましてん♪コミュの携帯ストラップ

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
『ねえ、キミのストラップ、何つけてるの?』

最近知り合った仲の良い彼女から、そう質問された。

『昔の彼女にもらったやつをさ、何となくつけっぱなしにしててさ』

『そう、なんだ』

携帯ストラップ、それは単に携帯の付属品でしかないもの。しかし携帯も今や個人になくてはならない大切なものの一つ。その大切なものを着飾るものとして彩れた携帯ストラップ。皆意識せず何気なくつけてるものかもしれないけれど、そこに自分の無意識な感情が込められているのだと、誰も知らない。

『私のをあげるからさ、それをつけてくれないかな?』

『え、でもキミの大切なものじゃあ』

彼女は笑った。

『ううん、いいの。キミにつけててほしいんだ』

ボクは半ば強引に渡されたそれを手の平の中で見つめていた。

『私のじゃ、嫌、かな?』

『あ、いや、そんな事ないよ』

『うん、ありがとう』

彼女と知り合って間もなくして距離が近づいていった。休みの日には二人で遊園地に行ったり映画館に行ったりして、一般的にいうデートという形で二人の時間を重ねていった。

『私ね、キミに恋をしてるの。それを認めた時に、それを証明する形に憧れがあってね、婚約したら身につける指輪や結婚した時に身につける指輪、そんな大切な時に至るまでに何か二人の形を表せないかなって思った時にね、携帯ストラップだったら自然かなって思ったの。私のわがままなだけなんだけど、それをしてくれるだけで私は救われるんだ』

二人を証明する形、彼女はそれを大切にしたいと願っている。

『キミの大切な携帯にいつもぶら下がってる、それが目に見えて嬉しいの。事実より真実を見ていたいから』

ボクは彼女の一方的かつ普遍なその思いに戸惑いを感じながらも、それをあまり意識せずに彼女との時間をさらに重ねていった。

そんな中、別れの時が訪れた。

『あのさ、ボク、明日上京するんだ。だからしばらくは、キミに会えない』

『え、明日から?』

彼女との時間を置き去りにして、ボクは夢を追うという決断に至った。

『これからいつ会えるかとか全く判らないから、キミにもらったこれを、返すね』

ボクは、中途半端な遠距離とかいう形を望むことをせず、勇気を振り絞って彼女にそう伝えた。

『今日で、終わり?もう、二度と会えないの?そんなの嫌だよ、近くにいなくても遠くにいても、ずっと一緒にいたいよ』

恋は長くは続かないもの。そして残酷だけれど、いつしか覚めてしまうもの。恋の終わりには二つの道しかなく、その決断を二人、もしくは片方が選択し納得しなければならない。恋として熟成された糸が、愛に代わって結ばれていくのか、そのまま片方によって途切れてしまうのか。決断という挟みの中で、ボクは言葉のハサミを取り出した。

『キミを嫌いになる訳じゃないけど、キミとの時間の中に一緒にはいられないんだ。ボクはなりたい自分になれるように、自分のために時間をあてたいから。だから、本当にゴメン』

彼女を嫌いになるとかの理由ではなく、時間を共有できないという理由からの決断だった。

『私、待ってるよ?キミがこれから過ごす夢の終わりまでさ、私ずっとキミの時間の邪魔をしないでここで待ってるから。それでもダメ、かな?』

恋という時間は、たとえ片思いという形でも成立する。それが時に残酷であっても、幸せであるという勘違いを受け入れる事で思い続けられるのだから。

『夢の終わりにあるボクの気持ちは、その時になってみないと判らないけれど、キミの気持ちまでボクは覆す事は出来ないからね、キミのしたいようにしてくれていいよ』

彼女は、テーブルの上のそれを手に取って、こう続けた。

『これ、夢の終わりまで私が持ってるね。それまでストラップはつけないの?』

『ここの場所は、それまでの間空けておくようにするよ』

誰もが皆、それぞれの思いの中で携帯にあらゆるストラップを着飾っている。何となく可愛いだとか良い感じだとかの理由をつけて無意識につけてるのかもしれないけれど、それを着飾らないように何もつけてないとそれはそれで物足りないと感じるのなら、もしかしたら何か大切な思いに飢えているのか、それ以上の理由があるのか、それ位原点に戻るのを拒んでいるように思えてしまう。人は時折、以前のような懐かしい原点に帰るべきなんだ。自分の周りにある恵まれたものを一度失ってみるとそれを実感する。携帯もそう、音楽ポータブルもそう、PCも鞄も、アクセサリーもそう。身の回りにある自分の大切なものを一度切り離してみる勇気はありますか?失って初めて気付く事を忘れないように、原点に帰る必要があるのです。ボクは今日、とても大切な人を拒絶した。

『夢の終わりがいつまで続くか判らないけれど、キミの思いがまだその時まで続いたのなら、その時にそれをもらっていいかな?』

『うん!』

そうして二人は、互いの納得の元、別れという形を迎えた。





それから、十年後。

ボクのその場所には、彼女のそれではないものがぶら下げられている。

夢の終わりを迎えた後、彼女との連絡は絶え、ボクは別の彼女との時間を共有している。どうして連絡が取れないのか、そこだけが未だ疑問のまま、ボクは以前のような大切な宝物を忘れようとしていた。

『ねえ?このストラップ可愛くない?』

『え、ああ、うん、可愛いね』

『これさ、もう飽きたから買い代えようよ』

『え、飽きた、の?』

ボクは忘れようとしていた大切なものをふと思い出した時、原点に帰ろうと思い立った。

『だってさ、今以上に可愛いじゃん。可愛いものをいっぱい身につけてたいなあ』

彼女の携帯ストラップは、彩りのキャパシティを越えた状態でたくさんついている。

『ボクにとって、ここはとても大切な場所、なんだ』

『え!?どういう事?ファッションの一部だよ、こんなの。それしかないじゃん』

人には大切にしたい場所が幾つかあるんです。他の人には知る事のない、目にも見えない、思いもよらない、大切な場所が。

『ゴメン、あのさ、話があるんだけど』

ボクに義務があるとしたら、きっと原点に帰るべきタイミングが、今だという事。今しかないという事なんだ。



そしてまた、別れという形を迎えた。





ボクは以前の彼女に会いたい一心で、気付いたら駅まで走りついていた。そのままボクは生まれ育った場所に向かい、列車の窓辺に佇んでいた。原点に帰る、というよりも、彼女の姿を一目見るだけで良かった。

駅からタクシーに乗り換え、当時の記憶を信じて彼女の待つ場所へと行き急いだ。
ようやく辿り着いた時には、辺りは夜を迎え静かに彩られた空間が今も尚残っていた。

ピンポーン。

彼女の家の玄関の前で、ただ立ち尽くしていた。空を見上げると僅かな雨が降り始めてきたので、ボクは耳を寄せる思いで彼女との当時の声を立ち込める雨音の奏に乗せて、しばらくの間思い更けていた。

『はい、どなた、、!?』

ボクは呆然としながら、彼女の姿を確認した。

『ママ、誰?』

彼女のそばには、一人の女の子の姿もそこにあった。

『あ、あの、、』

ボクは言葉を失ってすぐ、彼女もまた俯いて雨音の景色を見守っていた。

『夢、終わったんだ』

彼女は、涙を一つこぼして、そう言った。

『私を、待って、くれてた?』

彼女の家の表札は、もうすでに彼女の名前ではなくなっていた。

『あ、いや、ううん、幸せになったんだね』

ボクは彼女の幸せを、ただひたすらに祝福しようと思った。

『ボクも、さ、、今幸せだから』

そんな下手な嘘も、苦し紛れでしかないのに。

『キミに言われた通り、遠距離は続かなかったよ。片方の思いにも限界があって、恋は長く続かないものだって判って、いつしか覚めてしまってたの』

『うん、ボクが勝手夢を決断したんだからさ、キミは何も悪くないよ、むしろ今が幸せなら、それで』

『ゴメンね、わがままな嘘ついて』

そして、彼女との二度目の別れが訪れた。





それから、ボクのその場所には、今も尚大切だからこそ、何も付く事のない空っぽの状態のまま、原点に帰り続けている。

その場所に今度もし彩るとしたら、それは彼女の好きだったドット柄の赤い革のストラップという宝物ではない、もっと履き違えた突飛で異色なものを選ぶ事だろう。

そこに大切なものがあった事実を失う事で、原点に帰り、新たな自分を見い出すために。それに必要なのはそれと真逆で酷い形をしたものなら尚更、それを愛おしくも思うしかない、そんなストラップを。

彼女との思い出を一切思い出さなくてすむような、そんなもの選んでくれさえすれば。





『ねえ、ストラップ付けないの?』

『あ、いや、大した意味はないんだけど、どんなのが良いかな?』

三度訪れた、こんな状況に。ボクはまた震えと戸惑いに襲われた。

『んー、じゃあ、これは?』

ボクは笑った。
それはそれはとても突飛で、お世辞にも可愛いとはいえない真逆のもの。

『うん、良いね。にしても、悪趣味じゃない?』

『ええ、そっかなあ?』





忘れたいから、思い出さないように。
大切な場所だから、大切な場所のままで。

好きだから、好きでいたい。
幸せだから、幸せでありたい。
そんなごく自然なものでも、いつしか失う時が訪れる。だからせめて大切なものを失う瞬間に心がダメにならないように時折原点に帰るべきなんだ。身の回りのものを失う事で、その衝撃を少しでも緩和出来るように、慣れておかなくちゃね。

『そう、だから別れよう?』

『え?唐突じゃない?』

『大切なものを失う瞬間が怖いんだ』

『だから、衝撃の緩和を理由にって事?』

『ゴメン、、』

『いやさ、私大切なもの、じゃないの?』

『すごく、大切だよ』

彼女は笑った。

『大切なものを失う瞬間、なんですけど。笑』

ボクも笑った。

『あっ』

『あっ、じゃねーし』

二人は笑った。





大切なもののために、気持ち的に心掛けるって事もまた、大切な事。

仮に、周りにある人ではない大切なものにランク付けしてみた時に上位に来る三つを今から失ったと想像してみて下さい。
それが苦痛でなければ、原点に帰る事もまた苦ではないはず。しかし苦痛であれば、大切なものへの依存や執着は計りしれないものなはず。

失ってからこそ判る事に柔軟に感じ思えれば、世の中の視界もまた、違って見えてくるかもしれませんよ。



失いは必ずしも、要って事。

それをどうか、肝に命じて。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

こんな小説、書けましてん♪ 更新情報

こんな小説、書けましてん♪のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング