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こんな小説、書けましてん♪コミュの橙のパレット

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「あーあ、また占い外れた」

河川敷のほとり。
私はいつもの日課を済ませて、幻である理想の男性の到着を待っていた。

「今日のラッキーカラーは橙だなんて、ついてないな」

朝の番組で行われている見逃せない占いを信じて長い時間が経つけれど、私に関しては一度と当たった試しがなかった。
それもそのはず、白馬の王子様を願うのだから、まあ無理もないのだが。

「うん?」

朝焼けの後の地平線の向こうから、大きな乗り物が私の方に向かって来るのを、目を凝らしながらしばらく疑って止まなかった。

「な、何!?」

凄いスピードで迷いもなくこちらに来るので、私は河の方向を気にしながらそれが来るのを咄嗟に交わした。

「バ、バス??」

まるで河に飛び込もうとしていたかのような、勇ましくも無謀に満ちた佇まいであった。でも何故バスなんかが、こんな辺鄙な場所を訪れたのか、一向に理解出来なかった。
そう思ってすぐ、運転席付近のバスのドアが開いた。

「あ、いたいた」

バスの中から慌てた顔をした男性が、私を確認するとすぐにバスを降りて私の方に歩み寄ってきた。

「ひよりさん、ですよね?」

私は呆気に取られながらも、冷静に今を理解しようと必死だった。

「どうして、私の名前を?、、私は、あなたの事を知らないのですが」

そう言うと彼は頷いて、私にこう続けた。

「ボクはただ、キミに会いに来たんです。キミに会いたい一心で、バスを運転してここまで来ました」

「どうして、バスなの?」

私たちは河川敷のほとりで、バスと河の間に挟まれて何をしているのだろうか。

「やっぱり覚えてないよね、キミが小学校の文集に書いてた夢の話」

「え?」

文集に書いてた内容を、記憶の隅々を辿って必死に模索してみた。しかし、出て来ない。

「キミが書いた夢の内容。それは、誰もいない大きな乗り物の中で、大好きな友達と一緒にいつまでも手をつないでいたい、というもの。だからボクはキミに会いに、バスの運転手になりたかったんだ」

彼はストレートに私に想いを伝えつつ、とてもハッキリとした眼差しで私の心を捉えていた。

「それってつまり、私への告白?」

彼は笑顔で頷いた。

「そう、だから回送バスで迎えに来たんだ」

私は更に理解に苦しんだ。

「いや、あのさ、キミおかしいよ?私にそんな一方的に詰め寄ってきてさ、バスで迎えに来たよって言われても正直困るんだけど」

彼は少し黙って、こう呟いた。

「うん、知ってるよ、キミが困るのも。でもね、ボクにはあまり時間が残されていないんだ。だから、残された時間の最後に、キミに会いたかったから、ここまで来たんだ」

「残された時間?」

彼はちょっぴり真剣な顔をして、私の顔を見つめていた。

「ボクは小学校の時に、限られた生きてられる時間を医師から告げられたんだ。そしてボクはそれまでの生きる道を、バスの運転手として生きるって決めたんだ。みんなの行きたい場所までボクが連れてく事で、ボクは初めて、みんなの役に立てるかもしれないって思ったから」

「キミさ、小学校の時、休みがちだった、、安達くん?」

「いつもボクはみんなと同じような授業を受けられずに一人ぼっちだったから、せめて何か一緒に出来たらなって思った時に、キミの夢を聞いてボクはバスの運転手になろうって思わしてくれたんだ、キミがボクの夢のきっかけをくれたんだよ」

私は正直大して生きてる実感もなく、何気に今を生きている適当な人間の大勢の一人でしかなくて、ただそう痛感しても尚、涙が溢れて止まなかった。

「みんなの役になんか別に立たなくていいよ。キミはキミのために、自分のためにこそ懸命に生きててほしい」

私はどうかしてしまったのかもしれない、彼の中の私なんて、きっとどうでもよいのだ。

「それは違うよ、自分のために生きる程空しいものはないって、子供の頃に十分に痛感したんだ。一人ぼっちの時間なんか、みんな誰も望まないし、人らしくないんだよ。ボクは命の終わる最後まで誰かのために生きてたいんだ、その誰かの役に立つのなら」

人はいつからだろう、自分のために欲望のために生きていたいと思ってしまったのは。

「、、私の文集がきっかけでバスの運転手になって、みんなの行きたい場所まで案内する事で、みんなの役に立った事を、わざわざ私の所にまで、それを報告しに来てくれたって事?」

彼は改めて、笑顔で頷いた。

「キミにずっとお礼がしたくて、ずっと探してた。しばらくしてキミを見つけたから、今日早速キミに会いに来たんだ」

「こちらこそ、ありがとう。そして、私の方もね、願いが叶ったよ?」

彼は首を傾げて、私の言葉を待った。

「私の今日の占いカラーね、橙色なの。初めて、当たったわ」

彼は優しく笑って、バスのドアを開けて、私をバスの中へ誘導してくれた。

「いいの?この後、仕事は?」

「キミを連れてくまでは、このバスはボク専用の回送バスって決めたから大丈夫さ」

私もつい、つられて笑ってしまった。

「私を、連れてくの?」

「ああ、キミはこれから、何処に行きたいの?何処に向かいたいの?」

まるで夢が叶ったかのように、私は嬉し涙で彼の後ろの座席で俯いていた。

「私は、、」



彼と私しかいない、その橙色のバスは、朝焼けの後の河川敷から何処へと、向かうのであった。

「最後に役に立てた人がキミで、ホントに良かった」

「私なんか、キミの役にも立てないで、、泣いてるだけの弱虫なのに、、、」



そして、そのバスが次に停まる停留所は、私のどうしても行きたい場所。

彼の役に立ちたい一心でその場所を伝えたとしても、彼と一緒にそこを訪れる事は決して出来ないと判っていた。

彼に流れる時間より私の行きたい場所までの道のりが遠かったのが心残りではあったけれど、彼は最後まで私に笑ってくれていた。

だから、少しでもキミの役に立てるのならって、後になってそう思えてきた。



「私の行きたい場所は、ね?」

「うん」

そんなやり取りがとても和やかで、彼の深い優しさが、ただ悲しかった。





やがて、桜に包まれた、春が辺りを訪れた。

世の中のどれ位、自分のために生きてる人が多いか確かめたくもなるけれど、私はそれ以上に、彼がどの位人の役に立ちたがっていたのかが、単純に気になっていた。

「行きたい場所に連れてくよ?何処まで行こうか?」

彼に何度も同じ事を聞かれても、私は彼にその場所を伝える事はなかった。

「行きたい場所なんてないよ、私なんか何処へも連れてかないでいいよ」

そう、いつも私は彼に意地悪を言うんだ。
その後に、彼がなんでだよ、と私に言葉を重ねる度に、私にはそれがとても心地好かった。





だから、さ。

そこが、私の大好きな場所だったんだ。



キミといた、それだけの場所が。





「ありがとう」



彼は、最後まで、

私に、そう言い残した

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