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日詩会コミュの「1」から始まる物語、その第一話

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残りの一本(前編)

 お疲れ、お兄ちゃん。さあゆっくり飲んで。
 リエさんは? あ、そうか、お酒は飲めないんだよね。じゃあお茶にしようか。でも大きくなったねえ。あと二カ月だっけ。
 男かなあ女かなあ。お医者さんに聞いてないの。産まれた時のお楽しみ? リエさんはどっちがいいの? どっちでも。そうだよねえ、元気に産まれてくれればどっちでもいいよね。
 お兄ちゃんは? ビール。違うわよ、お酒の種類じゃなくて赤ちゃん。どっちがいいの? 男の子。そっかー、こんな可愛げのない妹みたいな女の子だと困るよねえ。
 あ、リエさん、お茶飲んだらゆっくりしていいよ。明日もあるし。ね、お兄ちゃん。そんな今さら遠慮するような間柄じゃないし。住んでるところが違ったって家族なんだからね。自分の身体のことだけ考えていいからね。あとはおばちゃんたちもいるし。ね、シズおばちゃん。上の部屋にお布団敷いてあるって。
 いいよいいよ、そのままで。うん。はい、おやすみなさい。
 お兄ちゃん、仕事の方はどう。
 ふーん……。でも、それはしょうがないんじゃないの。誰だって、そういう時ってあると思うよ。やりたいことがあっても、やれない時があるからこそ頑張れるんじゃないのって思うよ。
 あ、ごめん。なんだかお兄ちゃんに説教しているみたいだね。
 あたし? あたしは相変わらず。忙しいというよりも、わけのわかんないお客の相手ばっかり。成田についた途端、ゲイシャとフジヤマはどこだって聞くの。アメリカの教科書なんて、州によってはいまだに日本人は着物を着て生活してるなんてのもあるのよ。
 それこそ、自分でやりたいって選んだ仕事じゃないかって? ま、そうだけど……。
 そ、それよりさあ、さっきアキちゃんちのおばちゃん来てたでしょ。すっごい泣いてて。そうそう、あたしと小学校で同級生だったアキちゃんのお母さん。なんかすごく泣いてて変だなって思ったら、思い出したことがあったの。
 いつだったかなあ。ほら、あたしたちのお母さんが亡くなったのって。あたしが小学校の一年の時だったから、あたしはお母さんのこと、よく覚えてないんだけどさ。たしか、四年か五年の時だったと思う。あたしとアキちゃんと、お父さんとアキちゃんのお母さんとで、池袋に出かけたことがあったんだ。
 お兄ちゃん? お兄ちゃんは、多分朝から塾に行ってたと思う。夏休みだったと思うよ。塾の夏期講習っていうんだっけ。お兄ちゃんはそれに行ってたと思う。それで、あたしたちだけで出かけたのよ。水族館を見てデパートで食事をしたはず。
 今思えば、あれって、もしかしたらお父さんとアキちゃんのお母さんのデートだったんじゃないかな。
 そう。付き合ってたのかも……。
 不倫? そうだったかもね。お父さんはお母さんが亡くなってたからこぶ付きの独身だったけど、アキちゃんちはお父さんもお母さんもいたからね。……でも、あたしがまだ小さかったからわからなかったかもしれないけど、仲のいいお友だちみたいな感じだったなあ。でも付き合ってたのかなあ。だから今日のアキちゃんのお母さん、あんなに泣いていたのかもね。どう思う、お兄ちゃん。
 わかんない、って何よ。あの頃はお兄ちゃんの方が、そういうことを気にする年頃だったでしょ。えっ、オレは高校受験で忙しかったって。もう。
 でも、アキちゃんのお母さん、あんなに泣いていて、見ているこっちがなんだか気の毒になるくらいだったんだから。
 まあ、アキちゃんのお母さんにあらたまって聞くわけにもいかないしね……。
 でもなんか変な感じ。
 あ、そうそう。お父さんの机に、こんなものがあったよ。
 そう、煙草のケース。これ覚えてる?
 あたしが高校受験の時だったかなあ。お父さんがあまりにも煙草を吸い過ぎるので、あたしが「お父さん、いくらなんでも吸い過ぎ! あたしたち子どもへの影響も考えてよね。副流煙でも充分肺癌になっちゃうんだからね!」って言って、無理矢理お父さんに煙草を止めさせたでしょ。その時に、あたしが書いた〈もう煙草は吸いません〉って紙が貼ってあるの。覚えてた? まだ中に煙草が残っていたのに、この紙を貼ってケースごとあたしがセロテープでぐるぐる巻きにしたんだよね。
 お父さん、よく言ってたよね。オレが煙草を吸うのは、ちょっとしたストレス解消なんだ、って。あたしたちを育てるのにストレス感じていたのかなあ。
 えっ? それにしては巻いてあるセロテープが新しいって?

コメント(1)

残りの一本(後編)

 ほんとだ……、あたしの書いた紙はけっこう黄ばんでいるのに、テープは黄ばんでない。なんでかなあ。
 ねえ、テープ、はがしてみようか。
 ……。
 あれっ? 中になんか紙が入ってるよ。

〈子どもたちへ。
 これを読む頃、お父さんは多分、この世にはいないと思う。お父さんの言いたかったことを、ここに書いておく。
 煙草を止められて、お父さんは悲しかった。しかし、お前たちの健康をいちばんに心配していたのはお父さんだ。だから煙草もやめた。っていうのは建て前で、実はこっそりと吸っていた。
 お父さんには、もう先がないとわかったとき、こうして手紙を書き、そして最後の一本の煙草と一緒に、この箱に入れることにした。
 君たちはもう立派に暮らしていける。お母さんが亡くなってから、たくさん不自由な思いをさせたと思う。でもお父さんなりに考えて、頑張って、君たちの面倒をみてきたつもりだ。もし不満に思うことがあったら、お父さんを恨め。お母さんや、ほかの人を恨んじゃいけないよ。
 あとは、自分たちで考えて、自分の思う通りに生きていけばいい。
 もう手助けはできないけど、かんべんな。
 お父さんが死んだら、その時にはこの一本の煙草を、吸わせて欲しいなあ。そしたらお父さんは幸せに天国へ行くことができる。これがお父さんの最後のお願いです。かなえてくれるよな。
 強くなくてもいいから、自分の生き方で生き続けなさい。〉

 いつの間にこんなの書いたんだろう。
 お兄ちゃん、知ってた?
 ねえ、お兄ちゃん……。

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