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蛍の唄が響き渡る三次元コミュの『白の二人』

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1 ダウンタウン (深夜)
 女性特有の高音で“キッズ・ア・オールライト”のメロディーだけがそこでは鳴っている。後は、都会の音。視界は零。

ケイ(18)「ザ・フー。」

 少年の目線。少女は少し意外そうに彼を見つめパンを口にし、もぐもぐ。
 四本の足が、街であっただろうその場所に腰を掛け、膝を振っている。
 街は彼らを除けば皆、顔の無い人々で溢れている。幼虫からさなぎへ。さなぎから幼虫へ。
 なにかの写真を見ながら、鼻歌を鳴らしている少女は、気が付けば傷だらけの裸足で。親指サイズにちぎったパンを、また頬張る。毛布に更に埋まる。
 ぼさぼさの黒髪で少年は、静かにそう言い、そして目線はどこかへ写り、一口分の煙を吸い、吐いていく。
 彼ら二人の姿を、街は懸命に照らしているかのよう。

ケイ「なぁ、それさっきから思っていたんだけど、痛いだろう。裸足で。靴なんか無いけどさ、消毒くらいならできるぜ。」
 照れ臭そうに言い、液を点けたハンカチを少女に向かい振る。それに無言の目線で答える少女。
 依然、背を曲げたままの体育座りで、顎を自分の膝の上に乗せて、写真を眺めている少女。なんとなく気になるのかそれをちらちらと見るが、気にしないように振舞う少年。煙草ばかり吸っている。

マリ(18)「花火がしたい。」

 少年は新しい煙草にちょうど火を点けたところで、咽る。しかし、なにか思いついたような動作から、くたくたしている大きめの荷物バッグを漁り、中から時化たファミリー用花火セットを取り出し、勢い良くビニールを引きちぎり、舗装されたアスファルトの上にばら撒く。その行動力に呆気に取られる少女。
 既に、少年は火を点けた花火を振り回して、くるくる、両手を広げて回っている。それにつられて、少女も立ち上がり、彼に近づいていく。気付いた彼は、他の花火に火を点け、渡す。一瞬、笑顔が見えたような気がする。少年は、少女の写真のことが気になっている。少女は手に持っていた花火で、その写真を焦がす。その動作を見ていた少年は一緒になって、写真を焦がす。三色の炎が写真を燃す。少女は彼の目を見る。目が合う。少年の手を掴む。彼を連れて、少女は歩き出す。夜の街へ二人は消えていく。花火は燃えたままで。

 夜はまだ明けそうに無い。


2 住宅街 (深夜)
 乗用車の為に設置されているバックミラーに彼らの姿が逆さまに映る。下方から上方へ。少女の胸には、首から下がったロケットのようなものが、動きに合わせて、跳ねている。

ケイ「もう、なんとなくわかるから手、離していいよ。付いていけばいいんだろう。」

 少女の眼を見ながら、彼女の歩く、その動作も見、どこへ向かっているのかを、少しだけ理解する。それは少年にしかわからないことでもある。奥のミラーが、並んで早歩きしていく二人を逃がしていく。
 やや立派な門扉の前で少女は立ち止まる。それに合わせ少年、外観に少し戸惑っている表情。つい彼女の足を見てしまう少年。眼を合わせる二人。一瞬俯くが、迷いの無い表情で後ろを振り向く少女。家はどかっとその大きな体を露呈している。丁寧に鍵を開け、一人、家の中へ入っていく。

3 家の中 (深夜)
 少女は瞬間、入ることに躊躇する。腕に付けていたゴムバンドで、荒くその頭を束ね一本に纏める。
 男性の臭気がそこを充満している。女性の気配はそこには無い。異世界。散らかり放題の部屋たちに、少女の知っているものは何も無い。懐かしい鏡が目に付く。家族でいつも食事をしていた、あの場所の一番大きな鏡。ここでいつも母親は少女の髪を整えてくれていた。しかし、今はそこで止まるわけには行かないのだ。一瞬、それと目が合うが、当に諦めは付いている。目も向けずに、静かに彼のいるであろう部屋へ向かう。静寂が少女を襲う。ドアを開ける。
 がー、と寝息を立て、すっかり寝ている男性。その顔を驚くほどの無表情で見ている少女。感情は無い。首のロケットを引きちぎり、ドアを閉める際、後ろ向きに放り投げる。振り返ることは、二度と無い。
 あの鏡の前で立ち止まる。少女はそこにいる彼女と目を合わせる。口を開いて、笑ってみる。出来ない。口を手で思いっきり横に引っ張る。笑えない。
 諦めて、鍵をそこに置いて帰ろうとする。その顔は笑顔だったように鏡に映る。

4 高等学校内 (深夜)

マリ「ヒトって生まれながらに、踊るために生きているんでしょ。ねぇ、違うのかな。私は、少なくともそう思っている。」

 夜の校舎の中に、ひたひたとこだまする二つの足音。一つのフロアの一部屋、一部屋を覗き、なにかを確認するように選び、歩いていく少女。その後に付いて少年はふらふら歩いてくる。
 少女はその部屋に決めた。少年の方を見、口元に人差し指を垂直に立て、ポーズを彼に見せる。彼もそれに気付き、片方の手で、小さく丸をつくり、それを見せる。
 少女はまず整頓された机を片付け始める。がらがらと音を立て、真ん中に動ける空間を作る。机なんかどうでもいい。

 一瞬、空気の音が聞こえる。CDコンポのあれが開く微かな音。入る。ピートのギターと共に、少女は歌いだす。壁のような音。鼻歌ではない。声。言葉。ステップを踏んでいる足音が、飛び跳ねている足音が、教室を越えて、廊下を突っ走り、校庭を低く這っていく。キース・ムーンのドラムスに彼女が同調する。黒板からはみ出て、回る少女の影が、巨大化し、今日の夜を翔け、羽ばたいていく。さなぎの皮を剥ぎながら、光が街を覆い、飛んでいく。
   
 少年は廊下側で壁に寄りかかり、その音に聴覚を集中させている。ロジャーの声、マリの声。煙草に火を点し、はにかむ様に微笑むケイ。


5 ダウンタウン (深夜)

ケイ「その人が人間なんだってわかったそのときは、そのときは優しくしてあげたい。男ってそういうものじゃないのかな。」

 四本の足が明るくなりかけた、見覚えのあるいつかの場所に腰をかけ、膝を振っている。相も変わらず、二人は毛布に包まり、少年は依然、街を見つめなにか考えているのか、わからない。
 裸足の少女は、裸足ではなくなった。靴下、まだそれでいいのかもしれない。少年の大きいバッグに頭を任せ、長い夜を終わらそうと、その大きな瞳を閉ざそうとしている。
 二人の姿を照らすように、太陽が昇り始める。いつかの光に似た白色が混ざった、オレンジ色の光線に、二人は照らされて。



 「ヒトって生まれながらに、踊るために生きているんでしょ。ねぇ、違うのかな。少なくとも、私はそう思っている。」


                        終

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