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蛍の唄が響き渡る三次元コミュの『混血児の腕の狭間』

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 井戸がある。古ぼけた井戸。そばでくるくるその穴を覗きながら、歩いている女性がいる。真っ赤なドレスに身を包み、足にはなにも覆うものが無い。腐りきって土まみれの木の葉や、なにかの枝のようなそれが彼女の足にはまとわりついて離れない。彼女は、井戸のそばで俯いている。俯いたまま、井戸の周りを歩いている。黒くてぼさぼさのその頭が、白い肌の上に乗っかってとても強調されている。彼女は井戸の周りを歩きながら、時折穴の中を覗く。水は枯れているのだろうか。
 僕はそんな彼女の一部始終を同じ視点からもうかれこれ何時間だろうか、捕らえ続けている。彼女はが僕のことを気付く様子は無い。突然、彼女は井戸のそばでそのまましゃがみこんで、震えているかのような仕草をする。心配になってしまう。彼女はなぜあの井戸の周りをくるくる廻っているのだろう。それも彼女には規則性があるわけでもない。第三者の視点から感じていると、気が狂っているようにしか見えないのだ。

 雨が降り出す。しとしと彼女の肌を貫いていく。僕には関係は無い。彼女はまだしゃがみこんだままの体勢で震えている。陽の刺さない木々に覆われたこの森は音が無い。正確にはおとはしているのだが、細かく言えば、文明の音がしない。静寂は彼女と僕を抱きしめる。とても窮屈だ。肌寒い風が、雨の槍と共に、僕らの五感を抱きしめる。母親の腕に包まれているみたいだ。

 霧が彼女を覆う。絹の細く輝く糸に包まれて、俯いている彼女は初めて僕の存在に気付いたようだ。こちらを見ている。いや、あちらを見ているのかもしれない。僕なんかを越えて、向こうの、向こうの、さらにその向こう。


 血のドレスがほどけていく。それは文字通りほどけていく。


 静寂はダイヤルを上げていくように無くなっていく。それは僕も消えていってしまうということなのだ。



                        2006.10.2 『混血児の腕の狭間』

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