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2016年06月25日21:46

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お題39『華道』 タイトル『書道ボーイのワンコイン文化祭』

 書道。
それは墨で字を表現するだけでなく、自分自身を映す鏡だ。
 墨で書く字は旅のセーブポイントであり、今まで辿った形跡はリセットできない。俺は今も、自分だけの字を探し迷いながらも前を向き、旅を続けている。
 その旅の途中、二つの字に出会い迷っている。それは『恋』と『愛』だ。俺には付き合っているカノジョがいるのだけど、もう一人別に気になる彼女がいる。彼女達に対する思いが恋か愛なのかがわからないのだ。
 俺がずっと信じてきた恋愛感情が彼女達の声によって崩れていく。どちらを選んでもいいのだろう。だがその選択によって何を失うかわからないことが怖いのだ。
 俺は『愛』を願っている。『恋』は一度経験しているため、別のものを知りたいと考えているのだ。だがどちらに対する思いが『愛』なのか、未だわからず暗闇の深海へと飲まれていく。この問いの答えを探すまでは墨よりも黒く、深い所まで潜らなければならない。
 どちらも手に入れることも考えたが、それは難しい。光を求めただ明るい未来を求める彼女と、影を求めただひたすら過去に縋る彼女達が合うわけがない。彼女たちは表と裏のように同じものを扱っても別の道へ向かう、始めから背を向け合って歩いているのだ。
 彼女たちを合わせる方法があるとすれば、それはコインだろう。『恋』と『愛』を合わせた表裏一体にする方法があれば、彼女たちと上手く付き合えるのかもしれない。
 自分自身の願う結末は未だ見えないが、それでも辿り着くために泳ぎ続ける。
 いつか見る旅の終着地点を目指すためにはここを超えなければならない――。

「よ、はかどってる? りょう」
「お、かりん。ああ、だいぶな」
 俺は筆を下ろして肩の力を抜いた。
「それにしても凄い量だね。一文字なのに、ここまでやるかね、普通」
「一文字だからだよ」俺は深呼吸していう。「自分の字を見つけるためには百枚以上描かないと出て来ないからね」
「そう、あたしには百枚以上描いているように見えるけど」
 花鈴はそういって書道教室を眺めている。教室の机に二枚ずつ並べ、教壇、ロッカールーム、全てが俺の字で埋まっている。それでも俺はまだ納得できていない。
「101枚描いたからってできるもんじゃないからな。後はどこまで自分と向き合えるかだ」
 書道は一瞬の煌きにあり、そこに達するまでに時間が掛かる。10分で納得できることもあれば、数日掛かっても納得できないこともある。今のものに関していえば、二週間以上になり、スランプ状態といっていいだろう。
 書き始めた頃の紅葉はまだ青かったのに、今外に見えるものは仄かに赤い。
「茶道部はもう終わったのか?」
「うん。といっても当日にお客さんが来たらお茶出すだけだし、楽ちんだよ」
「弟にさせたんだろう」
 花鈴の弟も茶道部だ。彼女の一つ下で扱き使われることをぼやいていたのを覚えている。彼女は表千家の茶道を習っており、同じくサーフィンをする幼馴染でもある。
「いいのよ、あいつは。幸せそうだから、何の文句もなく手伝ってくれるのよ。恋人と浮かれていたから、任せちゃった」
「何だよ、お前は恋人がいても幸せじゃないのかよ」
「んー正直微妙」花鈴は頬を膨らませ抗議する。「だってりょう、愛染さんと同じ展示だし。また同じことをするんでしょう」
 一度、彼女の生け花の展示会で書を描いた所、それが思いのほか好評で、俺達のクラスでもう一度やることになった。彼女だけが花を生けるのではなく皆で同じテーマのものを作り、俺はそのテーマを一文字書く。だがその一文字が描けないでいる。
「昨日だってサーフィンに誘ったって来なかったしさ。しばらく行ってないでしょ」
「サーフィンをしている暇なんかないよ」俺は花鈴のでこを人差し指でつく。「この状況を見ればわかるだろう。締め切りは明日だというのに全然先が見えない」
 彩華と会っていたなど、いえるはずがない。彼女に誘われるがままに体を動かし、未だこちらの答えも出せずにいる。
「……最近のりょう、字が上手くなったよね。妬けるくらいに」
「……そうかな。全然だよ」
 俺は首を振った。きっと迷いながらも何度も描いているせいで、上手く見えているだけだ。本当の俺は醜く、どうすれば二人の彼女を捕まえることができるか、そればかり考えている。そのため、自分の書いた字に自信を持てないでいる。
「……まだまだだよ。まだ先は見えない。ともかく書かないとな」
「テーマはどうして『愛』なの? りょうが決めたんでしょ」
「……誰から聞いたんだ?」
「愛、染さん」
 花鈴から彼女の名前が漏れると不思議と体が硬直する。俺の心にやましい部分があるのだろう。事実、隠しているのだから何もいえない。
 彩華のことについて花鈴も知っているのだろう。彼女自身、隠す素振りは見せないし、これだけ近い所に住んでいるのだから明白だ。
 すでに俺の心は彼女に囚われている。
「……ねえ、りょう、キスして」
 彼女は小さい手で俺の腹を掴む。決して自分から唇を近づけない所に愛おしさを感じる。
「ここでか?」
「……誰もいないじゃない」
 彼女の要求に応えるため、一つだけ軽くする。だが俺の心は何も感じない。いや、感じなくなっている。前までの気持ちが嘘みたいでただの儀式のように思えてしまう。
 彩華との口づけはもっと熱く、魂を揺さぶるようなものだったのに。
「ねえ、もうちょっとだけ……」
「ごめんな」俺は花鈴の頭を撫でながらいう。「これが終わったら、ちゃんとお疲れ会をしよう。な?」
「……お別れ会になったりしないよね?」花鈴の言葉が俺の心に刺さる。「ごめん……答えなくていいから」
「なるわけないだろう。俺はお前のことが好きなんだから」
 この気持ちは本心だ。ただこれが幼馴染に対する『愛』なのか、恋人としての『恋』のなのか、わからない。
「……ありがと」花鈴は小さく頷き振り向いた。「……私、りょうのこと、信じてるから」
「……ああ」
 俺は漠然と頷いた。何にたいして返事をしたのかはわからないが、彼女の期待を裏切ることはしないつもりでいる。
 再び筆を取り鉢巻を巻く。今まで巻いたことなどなかったが、これがなければ気が入らない。
 ……何をやっているのだ、俺は。
 気合を入れて書いた字を見て驚愕する。『愛』を書こうとして、『恋』を書いてしまったのだ。自分自身に迷いが生じているからこそ、何を書けばいいのかわからなくなっている。
 ……俺は一体どちらに恋をして、愛を感じているのだろう。
 再び筆を置き、鉢巻を外す。それすらもわからずにいるから、俺は俺の字を描けないでいる。

「まだいたのか、愛染さん」
「ああ、涼介」
 教室に戻ると、彩華がまだいた。チョコレートコスモスを掴み、枝ぶりを確かめている。
「苦戦してるみたいだな」
「あなたほどじゃないわ」彩華がにやりと微笑む。「眉間に皺が寄ってるわよ。どうせまだ完成してないんでしょう」
「……ばれたか」
 俺は再び肩の力を抜いた。
「愛染さんは『愛』と『恋』はどういう違いがあると思ってる?」
「愛は後ろを振り返るもの、恋は糸の絡まった様子でしょ」
「字の原型じゃない。君の見解が知りたい」
 愛という字は人が後ろを振り向くという原型があり、恋には糸を通して言葉を繋げるという意味がある。だがそんなことを聞きたいわけじゃない。
「愛は……私の苗字でもあるから、一言では難しいわね。ただ恋は一言でいえるわ」彩華は目を瞑っていった。「恋は……盲目よ。一人の相手しか見えていないわ」
「……なるほど」
 確かに彼女のいうことは理解できる。愛には様々な形があり、恋には一つの答えしかない。俺の恋はどちらにあるのかを考える。
「涼介、どうしてあなたはこの字を選んだの?」
「理由はないよ」俺は素直に答えた。「ただ、俺が知りたいのは愛なんだと思っただけだ。恋は一度知っているから、愛を知りたいと思ったんだよ」
「花鈴さんに恋をしたということ?」
「……それには答えられないな」
「答えられないのなら、私という風に解釈してもいい?」彩華はそういって俺の方に後ろから近づいてきた。「私の初恋はあなたよ。だからあなたも同じ気持ちだったら嬉しい」
「駄目だ、俺には花鈴がいる」
「どうして花鈴さんがいたらだめなの?」彼女は俺の背に体を傾け首に手を掛ける。「愛は一つじゃないのよ。一人にこだわる必要はないわ」
 彩華の声が俺の耳に振動し脳を柔らかくする。彼女の細い指が首筋に迫り、俺の背に根を這っていく。
「まだ途中なんだろう。俺もまだ終わってないから、止めよう」
「作業が終わったらしていいということになるけど、それでいいの?」
「……よくないな」
 俺は両手をあげて降参のポーズを取った。俺の心は彼女の牢獄に囚われている。この魔力には抗えない。
「私はいいのよ、あなたが花鈴さんと結婚したとしても、あなたを愛せるから」
 彼女の倫理観はやっぱり歪んでいる、と思った。華道の家元にいたせいか、吸収できるものは全て吸い尽くし、自分の養分へと変える。それは純粋に花を見ているようで美しい。
 だが花鈴の悲しむ顔は見たくない。
「それは本当に愛なのか?」
「愛に形はないのよ、涼介」彩華は再び耳元で呟く。「この世に溢れているものは全て愛よ。愛があるから形があるの、あそこにある花瓶にしてもそう、無機質な剣山にしてもそう、生きている花だって、人だって、全て愛があるから生きられる」
 彼女の体が俺の体に繋がり、心臓の鼓動が聞こえてくる。前まではこの距離で高鳴っていたのに、今では落ち着いて心臓の音も聞こえなくなっている。
「だからね、涼介。お願い」彩華は首筋を舐めるように吐息を這わせる。「私の体があなたを欲しいるの。だからあなたの体だけでいいから、私を満たして」 
 
 文化祭、当日。
 彩華の生け花展示に目を惹かれたのか、女性だけでなく男性も大勢来て、俺達の教室は展示室としての機能を果たせずにいた。
 ユキヤナギにチョコレートコスモス。テーマに違わぬ作品で、会場の客達はうっとりして見惚れていた。花を扱わない俺が見ても、そのテーマは充分伝わる。
 二つのチョコレートコスモスが体を捻り合わせて、一つになろうとして同じ方向を向いている。これは『恋』ではなく、『愛』だと直感が教えてくれる。
「……よかったよ、愛染さん」俺は自分の書を直しながら告げた。「これが愛染さんの『愛』だね。純粋に見入ったよ」
「ありがとう」
 やはり彼女に叶わない、と思った。彼女の目指す地点は俺の遥か先におり、俺の書を吸収した所でさらに上を目指している。それは光をまっすぐに受けて伸びる植物のように逞しさと純粋さを合わせ持っていた。
「涼介の字もよかったわよ」
「……ああ、ありがとう」
 結局、俺は自分の満足した字を描けずに書いたものの中から選んで提出した。たくさんの愛の中から一つ選んだだけだ。
「どうしてあなたがあの字を選んだか、教えてあげましょうか?」
「……」
 俺が何も答えないでいると、彼女は愛の心の部分を指した。
「心の語源にはこりごり、心臓の鼓動音からきているなど、様々な説があるけど、この言葉は目に見えないから裏と呼ぶことがあるわ。きっとあなたも知っているでしょう?」
「ああ、もちろん知っている」
「あなたの心は正直で、裏がない。だから点がきちんと離れているのよ」
 彩華にいわれて改めて自分の字を眺める。確かに今まで意識していなかったが、きちんと心の点を離して書いていた。
「私なら繋げて書くけど、あなたのはごまかしがない。この点は表と裏、二つの心をさしているともいうわ。だから、あなたは正直に思ったことを伝えればいいと思うわ」
「なるほど……そうか、そうだな」
 彼女の言葉に納得する。確かに色々考え過ぎていた。直感を信じるといい続け、自分を信じることができず、スランプに陥ったと勝手に決め付けていた。
 俺は自分自身で病気になりたいと願っていたのだ。
「これが……愛か」
 自分で描いた書を再び眺める。表と裏、表裏一体でなければならないと思っていた。表には表の解釈があり、裏には裏の領分がある。合わせなくてもそれは一つの愛であり、恋だ。どちらかである必要もなく、どちらであってもいい。
「吹っ切れたよ。ありがとう」書を丸めながら告げる。「お疲れ会、しないか? 花鈴も合わせて三人で」
「もちろん、いいわよ」彼女は嬉しそうに微笑んだ。「私は花鈴さんがいても、何とも思わないんだから、三人の方がいいわ」
「そうか。その時に話しておきたいことができた。だから覚悟しておいてくれ」
 俺が強くいっても、彩華は再び口元を緩めた。
「うん、いい知らせだと嬉しいわ」

 文化祭を終えて一週間後、紅葉は完全に染まりきり、銀杏(いちょう)の葉は風に流れ命を灯したまま零れていく。
 俺達は俺の家の庭で月見をしながらぼんやりとくつろいでいた。
「……三人で集まるのって珍しいね」花鈴が不安そうな声でいう。「何で今日は彩華さんもいるの?」
「俺が呼んだんだ。今日は決めないといけないことがあったからね」
 俺は一つのコインを取り出した。
「ずっと考えていたことがある……花鈴にも正直に伝えたい。俺には二人とも必要だ。だからこのコインで決めたい」
「決めるって何を?」
「どちらか一人を選ぶということね」彩華は冷静に継げた。「涼介が考えたことなんでしょう、私はいいわ、それで」
「愛染さん、本気でいってるの?」花鈴は彼女を見て目を大きく開ける。「りょう、冗談でしょう? コインで決めるって、そんな博打であたし達と付き合うってこと? そんなの最低だよ」
「じゃあ、あなたは降りたらいい。始めから私達が決める権利なんてないわ。涼介がそう決めたのならそれで構わない。あなたの思いはその程度だったということよ」
「そんなわけないじゃない。あたしがどれだけりょうのことを思っているかなんて……あなたにわかるはずがない」
「わかっていないのはあなたの方よ」彩華は花鈴に鋭くいった。「あなたは彼に求めすぎなのよ。愛してもらえなくて終わりなら、それは自分に恋しているだけよ」
「それは違うよ」花鈴も前に出て反論する。「好きな人に対して、そんな決め方をされて嬉しいの? 本当に好きならお互いのことを考えるのが愛だよ。そうじゃないと、お互いが崩れるじゃん。あなたの方が一方的よ。それこそ恋だよ」
「私は選んで貰えたらそれでいい。全てを知る必要があるの? 愛とはそういうもの?」
「そ、それは……わからない。でもこんな決め方は間違ってる」
「それで彼が字を書けなくなってもいいの?」
「……。りょう、どういうこと?」
「すまない、いきなりこんなことを言い出して」俺は愛染を止めながら花鈴を見た。「非難されるのは最初からわかってる。愛染さんがいうことも、かりんのいうこともわかる。ただ俺はこれをしないと、字が掛けない」
「どうして?」
「ずっと鳴り止まない音が聞こえてくるんだ。字を書くことに集中できていない。お前は俺の字をいいといってくれるが、俺は自分の字を認められてないんだ」
 書道は墨の旅だ。旅をすることに思い悩んでいて行き着く先なんてみえるはずがない。まして俺の旅はまだ始まったばかりだ。
「どちらともから離れようと思った。だけどそれは無理なんだ。俺には愛も恋も必要で、欠けることなんてできない。もちろん気持ちだけじゃない。お前達、二人がいるから、俺は成長し続けて、もっと上を目指そうと思った。負けたくなかった、でも書とは別に、俺一人の人間として、こんな状況が許せなかった」
 恋愛から切り離せた世界へ行けるのならそれでいい。だがそんなものは存在せず、この世界には愛が溢れすぎている。誰かが作った筆で、紙で、墨で、俺は書を描いている。その思いを無駄にして書が続けられるはずがない。
「それで一人に決めないといけないと思ったのね。あなたは本当に不器用ね……」彩華が溜息をつきながらいう。「私はさっきもいったけれど、それでいいわ。あなたはどうするの?」
「……りょうがそういうのなら、私も納得する」花鈴は泣きそうになる目を抑えながらいう。「仮にりょうがそれであたしを選ばなかったとしても、あたしはあなたのことが好きだから……りょうの気持ちがそれでおさまるのなら、それでいいよ」
「……ありがとう、二人とも」
 俺はコインをポケットに入れ直して再び取り出した。

「りょう、こっちにいい波があるよ。行かない?」
「ああ、先に行ってきていいよ」
 紅葉が終わり季節は冬を迎えようとしていた。俺と花鈴はボディースーツを着こんだまま、砂浜で風の音を聴きながら波をぼんやりと見ていた。
「りょうが行かないなら、あたしも行かない」花鈴は嬉しそうに俺の背中をぺたぺたと触る。「もう離さないよ。離してっていっても無理だからね」
「はいはい、んじゃ俺が行ってこようかな」
「だめですぅ」花鈴は俺の背中に抱きついたまま体重を掛ける。「あれだけ驚かせたんだから、りょうにいう権限はありません」
「悪かったって。何度も謝ってるじゃないか」
「そんなの駄目に決まってるじゃん。一生償って貰わないと、消えないよ」
 あの時、俺はコインを投げる前から俺の気持ちは決まっていた。それを彼女は見抜いたのだ。
「だって、あのコイン、どっちも表だったでしょ。最初からわかってたんでしょ。この、この」
 俺の頬をつねりながら花鈴の口元は緩んでいく。
「ああ、俺が好きなのはお前だけだよ。でもけじめをつけるためにああするしかなかった」
 俺が掴んだコインは両方表のコインだったのだ。だからこそ、コインをはじいた時点で花鈴を選ぶことは決まっていた。
「りょうなら、あたしのことを選んでくれると思ってたよ。うんうん」
 花鈴はそういって俺の顔に頬ずりする。動物のような求愛をされても困るが、彼女の気持ちがそれでおさまるのならそれでいい。
 俺には未だ出ない答えがある。
 俺はあの時、二人の顔を見て直感を信じた結果、花鈴を愛しているのだと思った。彼女の泣き顔を見て、チョコレートコスモスが浮かび、俺を必要としてくれているのは彼女だと悟ったのだ。その後、表だけしかないコインを掴みそれを弾いた。
 それが俺の出した答えだった。
 もちろん裏だけのコインも持っており、あの直感がなければ俺は彩華を選んでいただろう。だがそれを選ばなかったのは彩華に『恋』をしているからだと思った。俺の初恋は花鈴で、二度目は彼女だった。それは間違いない。
 彩華は恋には一つしかないといっていたが、それは嘘だろう。彼女の恋は華道にあり、華道がなければ彼女は生きる道を失う。俺がいなくても彼女は生きていける。恋は盲目で、人でなくてもできるのだ。その対象物は一つかもしれないが、様々に形を変え、彼女を肥やしていくだろう。
 俺に後悔はない。初めに『恋』をして『愛』された人物を思い続けることこそ、恋愛だ。俺にとってはその流れが重要で、旅を続けるにはそれだけでいい。
 書道に二度目はない。俺は先に見える人生を自分で切り開いていく。その答えの先に、自分を満たしてくれるものがあることを信じて――。
 





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