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世の中のルールブックと取扱説明書、この二つさえあればとりあえずなんとかなるのではないかとずっと思っていたのだ。僕は今でもルールブックと取扱説明書が欲しい。不安の出どころというのはだいたいがルールや扱い方の問題だ。

ところが、ルールブックがあったとして、これが役に立たないことは想像出来る。たとえば対人関係に於いてルールなんてものは人や集団の数だけあるのが実際のところだ。だいたいは暗黙の了解を読み取ることで成り立っている。これが分からないとKYだのアスペだのと言われるはめになる。だから人間関係ルールブックなんてものがあったとしても、それを読めば読むほど上手くいかないなんてことになるだろう。

基本的なルールに法律というものがあるけど、だいたい交通ルールからしてファジーなものだ。法定速度40キロの道路を40キロで走ったりすると渋滞の原因にもなるし逆に危険だったりする。この場合だって周りの状況から判断して適当な速度で走るという暗黙の了解事がある。交通ルールは目安程度にしか扱われない。最近、自動で運転してくれる車なるものが話題になっているけど、こういうのは40キロの道路をぴったり40キロで走るのだろうか？それとも多少40キロをオーバーしてでもちゃんと周りの車の速度に合わせて走るのだろうか？

また、人間の取扱説明書になるともっと厄介なことになる。昔は雑誌ホットドッグプレスなどで「女の子の取扱説明書」みたいな特集を頻繁に組んでいたが（こんなことを知ってるということは昔そんなのをよく読んでいたということでもある・・・）、それらが全く役に立たないことは男子なら誰でも実感してるだろう。女子は取扱説明書で一般化できるほど単純な生物ではなく、それどころか基本的に男には全く理解不能な生き物であって、異次元の住人なのだ。イブA錠のジェネリック薬品名がアダムA錠であるごとく、男なんてものはせいぜいが女のジェネリック程度のものであると捉えておいたほうがいい。世の男どもはみんな大学生になったあたりでそんなことに気づき、慄然としたり恐怖を覚えたりするわけだ。そして熱心に読んでいたホットドッグプレスはすべてちり紙交換へと捨てられていく。

いや、女の子の取扱説明書はともかく、人間の取扱説明書があったとしても、それだって人の数だけ取扱説明書が必要なわけで、文鳥の飼育説明書やカブトムシの解説書などのように一般化することが出来ない。だからなのか何なのか、血液型性格判断や星座別性格判断のようなアヤシゲなものは昔から人気のようだ（僕は明石家さんまと血液型も星座も干支も身長も一緒なのだが、どう考えても似てるところが無いように思える）。

さらに、人の数だけ取扱説明書があるのはいいとしても、その個人の取扱説明書からしてほぼ役に立たない。何故なら、誰でも自分の中にいくつものキャラがあるわけで、サルトルに「人間には『本当の自分』なる本質があるわけではなく、自分は本来何者でも無いのであって、ただいくつもの場面においてペルソナを使い分けることによって脱自していくのである」なんて小難しく言われるまでもなく、つぎつぎといろんなキャラを演じたりしてるわけだ。自分の中に何十人もの別人がいるようなもので、その中の代表者に関する取扱説明書があったとしても、すぐにそれとは矛盾したような自分でもよく分からない別キャラが出てきたりする。人間は矛盾を抱えた存在なのだ（特に女子）。取扱説明書に「ちなみに矛盾アリ」なんて書いてあったら、もはやそれは取扱説明書として役に立たぬと同義だろう。

さて、世の中のルールブックや取扱説明書なんてものが無いだけでなく、あったとしてもまるで役に立たぬシロモノであることが分かってしまった以上、そんなものにこだわっても仕方の無いことなんだけど、ではルールや取り扱い法はどうやって知ることが出来るのかといえば、大抵は人に教わったり見よう見まねで覚えたりするしか無いわけだ。でも人に教わるより書物から学んだ方が分かりやすいというタイプの自分からすればこれだと随分効率が悪い上、非常に分かりづらい。特に暗黙の了解事を察するなんていう芸当に至ってはどうやって教わるのかすらよく分からない。何かひとつ原理を押さえておけばそれですべて応用が効くような、そんな理路整然として論理的なものが欲しいわけだが、そもそも世の中が不条理に出来てるようなので、探すだけ無駄だろう。