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2023年09月26日22:01

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東西ウイグルと中央ユーラシア森安孝夫名古屋大学出版会 2015年1月30日

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p.655
"yänä ymä nomčï bilgä-lärdä ïnča äšidtimiz"「さらにまた私たちはノムチ＝ビルゲ(複数)より以下のように(いい話を)聴いた」[Zieme 1989a,pp.237,239]。これは、1008年につくられた第一棒杭文書に見える同様の表現[Moriyasu 2001,pp.161,162並びに本書pp.690-691]と比較すれば、nomčï bilgäがnomluγ bilgä baxšï「(仏)法を備えた賢き博士」に対応することは容易にみてとれる。
p.656
また1347年に印刷された仏典集成の奥書には"adïn ažun-qa samlïγ uluγ 'äš-ä atam nomčï bilgä küntük tay-ši ačari"「他の世界に属している(＝逝去した)私の曽祖父であるノムチ＝ビルゲのキュンテュクKüntük大師阿闍梨」[BTT 13,pp.167-168, Text 46, line 35]という表現がある。
…atam nomčï bilgä toyïnčoγ tutung bäg「我が父、Nomčï Bilgä Toyïnčoγ Tutung殿」。この場合、トインチョグが本名である。…その扉絵には3人の肖像とその名前の短縮形が印刷されており、それを奥書と対照させることによって、この仏典を印刷させた寄進者本人の名前はBuyančoγ Baxšï「ブヤンチョグ博士」、その父親はノムチ＝ビルゲToyïnčoγ Tutung、母親はOγul Yitmiš Tängrimであることが判明する。
p.657
既に森安 1985「教理問答」pp.35-36で史料を列挙して詳しく述べたように、西ウイグル王国初期の仏教には大乗的な漢人仏教よりも説一切有部の伝統を引くトカラ仏教の影響が強く、五道が優勢だったのである(14)。
p.658
『元史』をはじめとする漢文史料では「沙津愛護(or兀/忽)持(or赤)」と音写されるが、モンゴル語ではUyiγur-un šaǰin-u eǰen "master of the (Buddhistic) doctrine among the Uighurs"に対応することをリゲティ(L. Liget)が明らかにした(16)。
p.661
しかもbkčan(＜Tokh. A pākäccām, Tokh. B pakaccām)、lin piryan(＜Tokh. lem paryām)というトカラ語からの借用語が目立つ。
p.662
⁵　サンクトペテルブルグ所蔵のウイグル文書SI 4b Kr 222は、uluγ totung「大都統」からLiu sïču「劉寺主」へ宛てられた手紙(yarlïγヤルリグ)である[cf. Tyryшeвa 1996b, no.7; 松井 2004a, p.62, n.19; 松井 2010, p.36; 森安 2011「書式前編」p.15]。
p.664
k(e)šiはトカラ語kässi "master"から直接の借用であり(30)、ačariはサンスクリット語ācāryaからソグド語を経由しての借用である。複合語であるk(e)ši ačariを敢えて和訳すれば「尊師阿闍梨」となろう。
p.666
そしてそのムルトゥク本の奥書には、上記のようにトカラ人と思われる高僧tngri KL'NP'TRY ksi a[ca]riが見えるが、それを第三棒杭文書にウイグル仏教界の重鎮の一人として現れるtngri KL('NP'TR)Y ksi acariと同一人物だと最初に推測したのは、S.テキンであった。
p.667
　『マイトリシミット』のインド語からトカラ語への翻訳者Aryac(i)ntri = Sk.Aryacandraアーリヤチャンドラ「聖月」は焉耆(Agnidis = Argi/ark = Solmi = Karashar)生まれであるが、トカラ語からウイグル語への翻訳者Pr(a)t(an)yaraksit(i) = Skt. PrajnaraksitaプラジュニャーラクシタはイルバリクIl-baliq生まれである[前註35参照]。
p.670
　トカラ人たちは異教徒にも分かりやすい物語性の強い作品として『十業道物語』や『アラネーミ＝ジャータカ』を選び、またマニと弥勒(Skt.Maitreya; Uig.Maitri)が同一視されていたという事情から『マイトリシミット』を選んだ。…一方の漢人は、支配者となたウイグル人たちの信奉していたマニ教が光を重視する宗教であることに鑑み、光明に関わる仏典、例えば『天地八陽神呪経』『金光明最勝王経』『無量寿経』などを選んだ。前二者が光明に関わることはそのタイトルからも理解できようが、『無量寿経』が阿弥陀仏および光明と深く関わる点については百濟 1995を参照されたい。…なお『金光明最勝王経』には鎮護国家の目的があるが、多分同じ目的で『法華経』(『観音経』はその一部)や新来の密教経典『千眼千臂観世音菩薩陀羅尼神呪経』が選ばれたのだろう。
p.673
なぜなら、ウイグル仏教成立以前に、突厥第一帝国時代のモンゴリアの突厥や、アフガン＝トルキスタンのヒンドゥークシュ地方の突厥やハラジュといった古トルコ族の間に仏教が浸透した事実があるからである。
p.688
qocho baliq bagiを「高昌市長」と訳す根拠については、Moriyasu 2001, pp.178-179を参照されたい。この要人は、1008年の時点では高昌市長であったが、第三棒杭文書の3-4行目のil ogasi alp totoq oga・qutluγ qoco ulusuγ baslayur arkan「イル＝オゲシ(il ogasi宰相)のアルプ＝トトク＝オゲが幸ある高昌国を統率しておられる間に」という文言より判明する通り、1019年までにはイル＝オゲシ(il ogasi宰相)の地位に昇進するとともに、「高昌国二十二城」と総称される地方、すなわちトゥルファン盆地全体を統領する役割を与えられるまでに出世していたのである[Moriyasu 2001, pp.192-193 & n.106]。
p.706
　「見支」をkänč「若い」、「耶嚧地蜜施」をyarutmïš「輝かしくした、光あらしめた」、「居邪蜜施」をküsäiš「望んだ、熱望した」、「篤蜜施」をtoγmïš「高貴な、気高い」とみた(55)のも正しいように思われる。
p.707
第3行
英利耶嚧地蜜施天特銀
Il Yarutmis Tangri Tigin(国を輝かせし神聖なる王子)
天公主居邪蜜施登林
Tangri Quncuy Kusamis Tangrim(神聖なる公主、熱望する王女)
第4行
見支都信登林
Kanc Tozun Tangrim(若く気高き王女)
英利篤蜜施郎君
Il Tuγmis Lang-kiun(若く気高き王女)
見支篤蜜施郎君
Kanc Tuγmis Lang-kiun(幼く生まれし若君＝弟の方の若君)
p.718
早くにペリオが指摘したとおり、この「šat木」が本棒杭自体を指していることは文脈から疑いない。ペリオはまた、このšatは、語源はともかく、漢語の「刹」からの借用語だろうと推定した[Pelliot 1929,p.253]。私もそれに従い、このšat木を「刹木」と和訳することにした。
p.723
その五つとは、現地の地理と唐代の行政区画とを考慮すれば、おそらく①高昌地区(トゥルファン盆地全体)、②北庭地区(現在のウルムチ～ジムサ周辺の東部天山北麓)、③伊州(ハミ＝カムル)地区、④焉耆(ソルミ、カラシャール)地区、⑤亀茲(クチャ＝キュセン)地区である。
p.729
その後、音韻学的により厳密な考察を加えた辛島 2007,pp.446-451によって、梵語では「仏塔上部で幾重にも重ねられた傘蓋に似た円盤状のもの」を意味したchattraが、中央アジアのコータン語・トカラ語でksattraとなり、それが漢語で「刹」と音写されたこと、そしてその形状も東アジアに伝播するまでにいわゆる「相輪」に変化したことが明らかにされた。なお、この点に関する私からの問い合わせに対し、辛島氏からは、「刹」の原語は常にchattra/ksattraであるとは限らず、それがyasti「柱」に対応する例も見つかったというコメントを戴いた。
p.730
陳国燦や栄新江は正しく1人分と理解しており[陳国燦 1986,p.617; 栄新江 2009a,p.188＝栄新江 2009b,p.13]、それを受けて私なりにこの称号を分解すれば、「西州牧守という実職に就いており、頡于伽思(il ögäsi)の位にあり、俱宇合(külüg alp)逾越密施(Ögütmiš)莫賀都督(baγa totoq)という勲階を持つ宰相の安寧」となる。

■岸田政権、人権担当の補佐官不在に　首相「公約」ポストが消滅
(朝日新聞デジタル - 09月25日 19:48)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=7574855

　岸田文雄政権で新設された「国際人権問題担当」の首相補佐官が、2年足らずで不在となった。岸田首相が自民党総裁選で公約に掲げた「肝いりポスト」だった。日本外交のあり方が問われる深刻な人権課題が山積するなか、国際社会に誤ったメッセージになると懸念する声もある。

　首相補佐官は内閣法で5人以内と定められ、重要政策について首相にアドバイスする。今回の内閣改造で任命されたのは、新任・留任あわせて5人。女性活躍や国土強靱（きょうじん）化の担当が維持された一方、「人権」はなくなった。岸田政権が衆院解散・総選挙を経て本格始動した2021年11月から、中谷元・元防衛相が務めてきたポストだ。

　人権補佐官は、岸田首相が21年9月の総裁選で「香港の民主主義・ウイグルの人権問題に毅然（きぜん）と対応」（政策集）するとして新設を約束した。首相は22年1月の通常国会でも「同盟国・同志国と連携し、深刻な人権問題への対処にも、私の内閣で初めて任命した専任の補佐官と共に、しっかりと取り組む覚悟です」と述べていた。

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