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2023年05月18日11:58

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ウー!ヤー!「TAR ター」

まいった、まいった。
もうヘトヘトです。
俺が気軽に観るような映画じゃありませんでした。
降参です。

「ポゼッション」のイザベル・アジャーニみたいな狂った演技が観られたら最高だな、くらいに思っていたのですが、全然違いました。
見世物小屋に行こうとして、間違えて大学の講義を受けてしまった感じです。
なんでお前来たの?
申し訳なさそうに、ポップコーンをモソモソ食べるしかありませんでした。

事前にこの映画の感想をいくつか読んでみたところ、ものすごく賛否が分かれていたので、ちょっと心配はあったのです。
ダメな人にはもう、こんな何も無い映画許せない!くらいの怒りが感じられました。
シネフィルっぽい人は皆、絶賛。
これを評価しない(できない)ヤツは、消毒すべき汚物じゃね?くらい(あくまで印象です)。

不安は的中!
かなり頑張ったものの、序盤から全然面白くない長い長いシーンが延々と続き、ギブ、ギグアップ!と心の中で悲鳴を上げてしまいまいした。
終盤でようやく面白くなるのですが、2時間半の上映時間中、2時間は拷問に感じました。
耐えるだけで精いっぱい、内容なんて全然頭に入って来ませんよ!

最後まで観れば、どういう物語だったのかは誰にでも分かります。
実にありふれた、よくある物語だからです。
こういう話で、誰にでも面白い作品はたくさんあります。
ケイト・ブランシェット主演で言うと「ブルージャスミン」がそんな感じで、あれは本当に面白かったです。

この映画の主軸は、お話そのものではありません。
それをどうやって描くか、そしてその手法を楽しめるか、というところでしょう。
「娯楽映画」であるならば絶対描くだろうシーンは、ほとんど描かない。
代わりに、上映時間の都合でカットされる様な「人物を描くには必要だが、話の展開には不要」なシーンばかりを、すべてフルサイズで描く。

こういうシーンは、この映画がどういうものか、どこに進んでいるのか分かっていれば楽しめます。
しかし、分からない状態だと、そのシーンのどこに注目すれば良いのか分からないため、退屈に感じるのです。
音楽で言うと、メインフレーズが最後に出てきて、それでようやくどういう曲かが分かる感じでしょうか。
最後にそういうサビがあると知っていれば、退屈に感じたそこまでの部分も面白く聴けるわけです。

ちなみに、坂本龍一が作曲したYMOの曲「ハッピーエンド」は、メインフレーズが完全にカットされているため、4分以上不気味な音が鳴り続ける異様な曲となっています。
その後、自身のソロで発表した別バーションではメインフレーズがあって、これを聴くと「あの音はこのフレーズの残響音だったのか!」と分かるのです。
そして次からYMOバージョンを聴くと、かつては聴こえなかったメインフレーズが亡霊のように立ち上ってくるのです・・・。

こういう映画でこそ、映画評論家はイキイキとできるのです。
町山智浩さんの有料解説(200円。映画秘宝のnoteで聴けます)によれば、2回観るとようやく意味が分かるように作られているとのこと。
そして、終盤の展開を知った上で観直すと、様々な伏線があちこちに張られている事に気付くのだそうです。
それ以外にも様々な知識があると、さらに理解できるのだそうですが・・・。
俺はもう十分です!
あとはシネフィルに任せた!

これが曲だったら、何度も気軽に聴けるので解読していく面白さも味わえるのでしょうが、この映画は2時間半でしょう。
相当この映画に何かグッとくるものを感じた人以外は、見放してしまうのではないでしょうか。
ケイト・ブランシェットの演技は確かに文句ナシですが、「ポゼッション」のイザベル・アジャーニみたいな変態演技というわけではありませんから、あのシーンをどうしてももう一度!とはなりませんでした。

ドラマチックな音楽映画と見せかけた、かなり緻密に作られた難解な数学問題みたいな映画でした。
せっかく音響等は素晴らしいので、純粋に音楽の素晴らしさそのものをシンプルに体感できる映画が観たかったです。

坂本龍一さんの自伝「音楽は自由にする」を最近読みましたが、この映画の主人公よりずっと狂っていて、最高に面白かったです。
性格は常に不遜でハチャメチャなのに、名刺代わりに一人で「千のナイフ」という異次元のアルバムを作ってしまう。
その才能で、先輩であっても(強引に)黙らせるという点では、こちらの方が圧倒的です。
彼の音楽の多くは理屈の元に作られていますが、聴いた人間はそんなものを知らなくても、感覚的に凄いものを感じるわけですから。

「TAR ター」の様な、斬新な手法そのものを楽しむ映画も当然アリだと思いますが、個人的にはそういう計算が及ばない様な、圧倒的な何かを理屈抜きで浴びせるタイプの映画が好みなのだなあと、改めて再認識しました。

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