クルマ0373 ジャッキ不要(KLEINSCHNITTGER)

本稿0094及び0268にて記したように、ドイツでは1885年にKarl Benz(カール・ベンツ)が3輪の、同じ頃にGottlieb Daimler(ゴットリーブ・ダイムラー)が4輪のガソリン自動車を発明しました。しかし、この新しい乗り物の将来を予見して世界で最初に量産を開始したのはフランスでした(1890年、パナール・リヴァソールとプジョー) 。

そんなフランスですが、当時はまだクルマは超高級品でしたから、ベデリア(本稿0362)を祖とする安価なサイクルカーが走り始めました。
バイクを3ないし4輪にしたような簡素な乗り物です。
Paul Kleinschnittger(ポール・クラインシュニッガー)は手軽なこのような移動手段はドイツでも大きな需要があるはずだと考えました。

エンジニアの彼は、1930年代の終盤に生産販売を模索していたようですが、第二次世界大戦(ヨーロッパ戦線)の勃発でその計画は棚上げとなります。
戦後、復興のためにクルマが不可欠になり(バイクの積載量は不充分)、上述の計画の具現化はマストになります。
そしてスクラップ場に出てきた大戦中の軍用機や軍用車輌の部品を利用して、1949年にわずか98ccのDKW製スクーターのエンジンをリヤに搭載した4輪の超小型試作車を完成させました。
その後エンジンを大型化し搭載位置をフロントに変え、各部を改良して翌1950年に量産を始めたのがクラインシュニッガーです。

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全長2895・全幅1220mmのクラインシュニッガーには鋼管を溶接したシャシーが使われていましたが、スペースフレームと言うにはいささかおこがましい質素なモノでした。サスペンションはゴム製、ステアリングはラック&ピニオン式でした。
それに載せられたボディはアルミニウム製の軽快なオープン。

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ボディを被せた車体の前端には3速ギヤボックスと組み合わされた2サイクルの空冷単気筒123ccエンジンが搭載されていました(クラインシュニッガーF125)。円筒形の燃料タンクがエンジンの真上にあり危険この上ありません。
プロトタイプよりも排気量は増えていましたが、出力は5.4馬力に過ぎず最高速度は70km/h止まりでした。

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クラインシュニッガーに車載ジャッキは搭載されておりません。167kgしかない車体は簡単に持ち上がりましたから不要だったのです。

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軽いので加速は良いようで。

https://youtu.be/YDsA52FIUzo

この頃の方向指示器は、下写真のVWビートルに付いていたような腕木式が主流でした。曲がりたい側の腕木が電磁石で上にはね上げられて内蔵のランプが点灯します(点滅はしません)。

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これはすこぶる壊れやすく不評でしたが、1950年4月26日に発表されたクラインシュニッガーの生産型にはボディに埋め込まれたランプが装着されていました。

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これは電気に強いポール・クラインシュニッガーにはお手のもの、しかも可動部分が無いのでコストダウンできました。壊れにくいのでマーケットは歓迎したとか。
なお、腕木式方向指示器(セマフォー＝semaphore)のことを日本でよく「アポロ」と言いますが、これは商品名です。マジックインキ、タッパウエア、シャープペンシル、エレクトーンなどと同じですね。

1950〜57年に生産されたクラインシュニッガーは1980台、うち約100台が生き残っていると言われています。

上述のクラインシュニッガーF125に加え、ILO製の2サイクル250cc(14.8馬力)エンジンを搭載したF250も数台のプロトタイプが作られました(量産はされませんでした)。