２月４日（土）に一昨年の令和３年９月公開の日本映画「浜の朝日の嘘つきどもと」を観る。
「浜の朝日の嘘つきどもと」（タナダユキ）
東日本大震災もコロナ禍も乗り越えた相馬市に実在する開館１００年の映画館「朝日座」を取り上げ、映画館主を柳家喬太郎師匠が演じた福島中央ＴＶ開局の５０周年記念作品。
しかし、かなりフィクションの色付けがあるようだ。今時、グリフィス＝リリアン・ギッシュ「東への道」をフィルム保管してフィルム上映（ディジタル設備は無いみたい）している映画館なんて、「アリエネェ〜」状況だ。ま、一種のファンタジーとみればいいだろう。（コロナ禍なのに全員ノーマスクなのも然り）
東日本大震災は乗り切ったが、コロナ禍でついに廃館を決意した喬太郎を、やはりコロナ禍で配給会社を失った高畑充希が、映画愛への情熱で存続に繋げるべく奮闘する一篇だ。彼女の映画愛は、東日本大震災で傷ついた高畑を大きく励ました映画マニアの高校教師・大久保佳代子により目覚めさせられたことにあり、彼女の遺言で「朝日座」存続を託されたのだ。
「東への道」だけではなく、映画マニアを唸らせる蘊蓄満載で、決してメジャー作品とは言えぬ「喜劇 女の泣きどころ」まで引っ張り出されるあたり、思わずニヤリとさせられる。しかも映画マニア万歳だけに収まっていないのが素晴らしい。
映画館の跡地候補は、スーパー銭湯とリハビリセンターであり、それが求人を拡げ地元復興に大きく貢献するとの、「朝日座」買い手の主張はむしろ真っ当と言えるかもしれない。それはバラバラになった家族を郷土に呼び戻す力にもなる。
廃館を聞きつけた地元民で当初は押すな押すなの盛況だったのが、急に冷たくなるのがそれを明確に示す。世間の空気なんて、その位に移ろいやすいものだ。興味深いのは主人公３人が、いずれも家族関係に恵まれていないこと、そこから映画愛にのめり込んだ節もある。映画マニアはどこか世間と精神的にズレているあたりも、さり気なく示され、映画の力の限界も明瞭に示されるのだ。
東日本大震災以後、強調されるようになった「やっぱり家族の絆が全て」と「家族なんて結局は頼りにならない」との、深刻な価値観の対比も明確になる。簡単に結論の出る問題ではないが、そこを口当たり良くハッピーエンドに納めたタナダユキ監督（脚本も）を、安易と観るかどうかが評価のポイントでもあろう。でも、私は映画とはこのように後味よく収めるものだと思う。（よかった）
同日４日（土）にピンク映画「Ｅカップ�供）�熟」を観る。
「Ｅカップ�供）�熟」（佐藤俊喜）
佐藤俊喜（サトウトシキ）×小林宏一（小林政広）の監督＝脚本コンビ初期の平成元年作品で、大いに期待させる顔ぶれだ。妻に不倫された男が、たまたま捨てないでいた合鍵で、過去に婚前の妻が住んでいたアパートに入り込み、そこから過去と現在、現実と妄想が混濁を極めてくる。ある時期のピンクは、こういうゲージュツ気取り（断じて「芸術」ではない）が蔓延し、それをもてはやす一部空気もあったが、私は全くノレない。ヒロイン藤沙月が十分にエロく濡れ場が魅惑的だったので、正攻法で描いてほしかった。（あまりよくなかった）
２月６日（月）に一昨年２０２１年１０月公開の外国映画「キャッシュトラック」を観る。
「キャッシュトラック」（ガイ・リッチー）
ガイ・リッチーが１６年ぶりにジェイソン・ステイサムとタッグを組んだアクション映画。現金輸送車専門の警備会社に、新人のステイサムが試験ギリギリの合格で採用される。しかし、実際の強盗に遭遇したら圧倒的な戦闘力で制圧するは、彼の顔を見ただけで金も盗らず逃げ出す強盗団が出るはで、極めてミステリアスな存在だ。映画は、リッチー作品らしく倒叙法でその真相を薄皮剥ぐ如く明かしていくのだが、持って回った語り口の割には意外性も深味にも乏しい。クライマックスの輸送庫襲撃の銃撃戦の乱射乱撃はリッチーらしい荒々しさで見物ではあるが、とにかくステイサムが不死身過ぎる。これに比すればリーアム・ニーソンのタフなオッサンでさえリアルに見えてしまう荒唐無稽さだった。（まあまあ）
２月７日（火）に一昨年２０２１年９月公開の外国映画「ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません！」を観る。
「ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません！」
（エドワード・ホール）
ラブラブの妻を乗馬事故で喪ったベストセラー作家だったが、再婚し２度目の妻ともラブラブになる。順風満帆だが、自身原作の映画脚本化でスランプに陥り、ヒントの足しになればと、自宅に降霊術師を招いて降霊会を催したら、亡妻が呼び出されてしまう。二人の妻を前にして困惑の限りとなり、そのうち亡妻は狂暴化し、かつての２度のラブラブ生活も実は男女の確執もかなりあったことが判明し、亡妻との間にあった創作上の秘密も明らかになってくる。なかなか洒落た展開だが、それも当然、ノエル・カワードの名戯曲（映画化もされた）「陽気な幽霊」のリメークなのだ。一見いかがわしい降霊術師を、イギリス女優の重鎮ジュディ・デンチが手抜き無し大真面目に演じているので、大したものだと思っていたら、最後に画流点晴で締めたのは、ヤッパリ！と感心した。舞台は１９３７年のロンドン、渡米前のヒッチコックの撮影現場（ヒッチ自身は出てこないが）があったり、完成脚本がグレタ・ガルボとクラーク・ゲーブルの競演作になるとか、映画ファンの心をくすぐる仕掛けもある。（よかった）
２月８日（水）に一昨年の令和３年９月公開のキネ旬文化映画ベストテン２位「くじらびと」を観る。
「くじらびと」（石川梵）
農地に恵まれぬことから４００年来も鯨漁で生計を立てているインドネシアの１５００人程の小さな村のドキュメント。カソリックであるのだが、地元の自然信仰と巧みに融合された独特の宗教観が美しい。小さな船での命懸けの捕鯨で、海を大きく血に染めるシーンは壮絶だ。食用の肉だけでなく皮も油も有効活用、物々交換で果物などを入手し、船建造者や銛の造り手への分配も厳密に定められており、困っている未亡人家族にも施し村全体が福祉社会としての共生で、こうして年に何頭かの鯨で村全体が養われていく。この村人の謙虚な生き方こそ、人の生の真実ではないかと思えてきた。私も、今後の人生の価値観を謙虚さに置き、傲慢にならないことを心掛けたい。（よかった）
２月に入って観た映画は次の８本。
「青木ヶ原」「バレッツ」「浜の朝日の嘘つきどもと」「Ｅカップ�供）�熟」
「キャッシュトラック」
「ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません！」「くじらびと」
「ふたたび ｓｗｉｎｇ ｍｅ ａｇａｉｎ」
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