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2022年06月24日05:47

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シェリング『啓示の哲学』出版事情と邦訳版シェリング著作集の出版社新旧比較

シェリングの『啓示の哲学』は『神話の哲学』とセットで
『神話の哲学』で人間精神の異常な状態が克服される歴史的過程を哲学し
『啓示の哲学』で人間精神の最高の境位が実現する歴史を哲学することで
歴史事実によって啓示を理解する方法をシェリングは採(と)ることで
カントが不可能(人間には認識できない)と諦めた
「物自体」を解明した。

その『啓示の哲学』が今回
日本で初めて
全訳版が出版されることになった。

全訳としては
既に
2008年8月31日に
諸岡先生は
完了していたのだけれども
(これを読むためには
 1997年8月の最初の学術雑誌(紀要)掲載から
 2008年8月の最後の学術雑誌(紀要)掲載まで
 11年間掲載された学術雑誌を総(すべ)て集めて
 読まねばならず、
 そんな手間のかかることをしていたのは
 日本中で私一人ではなかったと思われるが
 今回(2022年6月28日)書籍化して(3分冊だが)
 誰もが簡単に手に取って読むことができる形式が与えられる)

出版界の事情で
2022年6月28日まで
完訳版の出版を待たねばならなかった。

シェリング『啓示の哲学』は
最終結論と見做される「ベルリン大学講義草稿版(1941/42年以降)」

ミュンヘン大学で最初に講義された「ミュンヘン大学講義草稿版(1831/32年)」

存在している。

ミュンヘン大学講義草稿(原草稿)版

アイヒシュテット大学図書館(Universitätbibliothek Eichstätt)に
請求番号が間違っていたために
誰にも知られずに眠り続け
(この講義草稿はシェリングが
 信頼する生徒に依頼して書き取ってもらった講義録で
 シェリングも目を通しており、
 しかもベルリン大学講義草稿のように
 出版にあたってシェリングの息子による必要以上の編集が加えられたものとは
 異なり
 完全に原型を留めた講義草稿であると言う点で
 文献学的に第一級の資料)

ある時偶然発見されて
講義されてから160年後(1992年)に
Walter E. Ehrhardt によって
出版された


この第一級の『啓示の哲学』の原型を知りうる資料は
早稲田大学の那須政玄先生と山本冬樹先生が
諸岡先生によるベルリン大学講義草稿の翻訳と同時期の
1997年10月から共訳で進められていたのだが
途中で(2003年3月の8回目の共訳を終えた後)
ヤスパースの『シェリング』を
高橋 章仁さんをメンバーに加えて共訳される仕事

優先され
(これはシェリングの原草稿が出版権が得られていなかったがために
 「試訳」という形で翻訳されていたのだが
 精神医学から哲学に転じたヤスパースがシェリングを解説した
 『シェリング』に関しては出版権が得られると言う理由から
 こちらの訳業を優先され)
しかし
その訳業が終わった後
(那須先生と山本先生の関係が悪化したことによって)
中断された
原草稿(ミュンヘン大学でシェリングが初めて講義した『啓示の哲学』)の
訳業は
途絶えたままである。

この極めて重要な訳業は
誰が引き継ぐのであろうか。

とはいえ
ベルリン大学の講義録は
(息子の必要以上の編集が入ったために
 原型が留められていないので
 アカデミー版シェリング全集(ドイツ語)の『啓示の哲学』が出版されるまでは
 本当のシェリングの原稿を特定することはできないのだが

 アカデミー版のシェリング全集は
 1976年には編集が既に開始されたのだが
 (アカデミー版フィヒテ全集は完結したのだが
  51歳で没したフィヒテと違って
  79歳まで生きながらえたシェリングの膨大な著作群を
  詳細を調べ尽くして編集作業を終えるには)
 完璧を記すためには
 シェリングが生きた年数(79年)以上にかかるのではないかと
 噂されていたので諦めていたが

 最近のコンピュータの進歩のお陰(かげ)か
 若干編集がスピードアップされたようで
 現在エアランゲン大学時代の講義草稿(1820/21年)までは
 編集が終わって読めるように(とはいえドイツ語でだが)なっているようで

 このあと『神話の哲学』『啓示の哲学』が現れる筈で
 それが楽しみだが、
 それでも出るまではまだかかりそうなので)
弘前大学の諸岡道比古先生によって
完訳が存在しているので

書籍化されるのを
楽しみにしていた。

私も完訳後(2008年8月31日以後)
シェリング学会で
諸岡道比古先生に直接お話をして
書籍化を楽しみにしていることをお伝えしたが
その時は
「出身校の東北大学出版会で
 出版してくれるという話はあるのだが」
と答えてられたが

結局
東北大学出版会で
出版されることはなく

その後
大阪大学出版会が
シェリング著作集の出版を
引き受けてくれた
みたいな話が出ていたはずだったのだが

阪大出版会から
シェリング著作集(あるいはシェリング全集)が
出版されることなく時が過ぎてゆき

そうこうするうちに
京都の燈影舎(京都市山科区)が
出版を引き受けてくれることになり

2006年3月10日に
まずは第三巻(同一哲学と芸術哲学)が
出た。

けれどもこの中の『芸術哲学』は
全訳ではなく芸術哲学の特殊部門を省かれた
序文と第一部の一般部門だけの訳出だった。
(この不備は「新装版」では解消している。
 私が直接新装版の出版社「文屋秋栄」にメールで伝えたことが
 受け止められたのかどうか判らないが
 とにかくこの第三巻は新装版では
 同一哲学と芸術哲学の2分冊(3a、3b巻)化され
 芸術哲学も「全訳化」が決定している
。)

そのあと
燈影舎では
4冊(1b 自然哲学、4a 自由の哲学、5b 啓示の哲学)
出された時点で
燈影舎は出版の継続を断念し

同じ京都市山科区の
文屋秋栄株式会社が
翻訳出版事業を
「拡大」して
継続することになった。


気づいたことがあって
燈影舎版の
シェリング著作集は

シェリングが若い頃の著作(自然哲学)でも
シェリングが壮年時代の著作(自由の哲学)でも
シェリングの熟年時代の著作(啓示の哲学)でも
同じ若い頃の肖像画が
表紙に使われているのだが

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文屋秋栄の新装版では
シェリングが若い頃の著作群(自然哲学など)では
シェリングが若い頃の肖像画を

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そして
シェリングが壮年時代の著作群(歴史の哲学など)では
壮年期のシェリングの肖像画を

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そして
シェリングの熟年期の著作群(啓示の哲学など)では
写真機が登場して間も無い頃の
熟年期のシェリングの写真を

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表紙に使っている
という配慮がなされていることに
気づいた。

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細かいところかもしれないが
そういうところに気が付く文屋秋栄さんは
そういうところに無頓着だった燈影舎よりも
(同じ京都市山科区の出版社なのだが)
シェリングに対する思い入れが深い
燈影舎は西田哲学や鈴木大拙、美学関連書を中心としている出版社だから
 シェリングに対しては批判的な視点があるのかもしれない、あるいは
 シェリングに深い思い入れがないのかもしれない。)
と思った。

『啓示の哲学』3分冊構成も
ベルリン大学講義録は
シェリングの息子(シェリングの息子も大学教授)の編集とはいえ
第一書「啓示の哲学への序論」
第二書「『啓示の哲学』第一部
    (啓示の内容が把握されうるということでもって、同時に、
     〈啓示の哲学〉の可能性が与えられる点までいたる)」
第三書「『啓示の哲学』第二部
    (この啓示の内容を把握させることに従事する)」
の構成に従って
分冊しているところが
とても良い。

(ドイツでの選集が
 第一書と第二書を纏(まと)めて第一分冊とし
 第三書のみを第二分冊としている
 
 
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 のとは異なっている。
 

 フランス語訳では
 第一書、第二書、第三書の三分冊で最も好感が持てていた


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 このたび、邦訳でも
 仏訳版と同じ3分冊で読むことができるようになるので
 とても喜ばしいことだと感じている。。

 ちなみに英訳版は
 第一書のみ英訳化されている


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 第二書、第三書は
 令和4(2022)年6月24日時点では
 英訳化されていないようだ。)

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最終更新
令和4(2022)年6月24日 10時45分
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