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2021年07月21日19:04

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『競馬の神様』

 「海が好き!2021」https://www.pixiv.net/artworks/90879493参加作品です。
 『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定。
 カノンが馬の神であるポセイドンに競馬の勝ち馬予想をさせようとする話です。ちょっとポセ→カノ風味。
 アリストファネスのギリシャ喜劇『雲』に「息子が戦車競走に熱を上げて金を使いまくってやがる!馬の神ポセイドン様のせいでこんな目に!」って父親が愚痴を言う話が出てきます。だからポセイドンが競馬の神なのはガチ。
 マイオリジナルの海界設定である「ポセイドニア」については『ポセイドニア・コモーディア』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3455689を参照。
 カノンとソレントがジュリアンを助ける話は、『倫敦三重奏』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3351082『鮫人の涙 土中の碧』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390376『ボスポラスの夕べ』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390443を参照。
 ちなみに現実の世界で「戦車競走の応援団が起こした暴動で死にかけたローマ皇帝」は実在します。ユスティニアヌス1世っていうんですけどね。「ニカの乱」で検索。
 昨年の作品はこちら。『海で泳ごう!』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13391716
 はるか様、今年も素敵な企画をありがとうございました!

『競馬の神様』

 双子座の黄金聖闘士であるサガの双子の弟カノンは、兄と同じく双子座の称号を持つと同時に海将軍筆頭・海龍を兼任していた。このため聖域の教皇アイオロスの首席補佐官として聖域で過ごしている兄と異なり、カノンの方は海界に居住してその地を統治している。
 そんなわけで普段は別々に暮らしている双子座の双子たちであるが、没交渉というわけではもちろんなく、時にお互いの住まう地を訪ねて一緒に時間を過ごすことがあった。
 そしてとある夏の日、カノンが聖域のサガの私宅に兄を訪ねてきた。サガの入れたアイスティーを飲みながら雑談をしていた双子たちだが、やがて話が途切れると、カノンは懐から二つ折りのパンフレットを取り出して眺め始めた。
「カノン。それは何だ?やけに熱心に見てるな」
 兄のサガが尋ねる。
「ん〜?今度、海界のポセイドニアで戦車競走があるんだけどさ…」
 カノンが説明を始めた。
 海の底に広がる異世界である海界には、神話の時代にポセイドン神に従ってその異空間に移り住んだ人々の子孫たちが暮らしている。その中心都市は主神ポセイドンの名前を取って「ポセイドニア」と名付けれらた。そのポセイドニアが、今のカノンの主な生活の場だ。
 そして古代ギリシャからの伝統を受け継ぐポセイドニアでは、四頭立ての戦車競走がいまだに行われており、市民たちが熱狂する人気競技であった。
 「ポセイドニアの市民が熱狂する物は三つ。大競技場で行われる四頭立ての戦車競走。東方からその年の新茶を最も早く運んでくる船がどれかを賭けるティー・レース。そして春のディオニュシア大祭に野外劇場で競演される演劇」と並び称されているくらいだ。この三つの中でも特に戦車競走に掛ける市民たちの情熱は凄まじく、四つある競走チームのそれぞれに熱心な市民たちの応援団が付いており、時には応援団同士で暴力沙汰になることもあるほどだ。地上で言うサッカーのフーリガンとさして変わらない。
 サガに説明したカノンが改めてパンフレットを見る。
「で、今回はどのチームが勝つかな、と思って」
 これにチームの御者や参加する馬の情報が書いてあるんだよ、と、カノンはサガにパンフレットを見せた。そして再びカノンはパンフレットを眺め始めた。
「ほう。戦車競走とは、なかなか古式ゆかしい…」
「う〜。やっぱり青チームが有力かな?良い馬と御者を揃えてるし…。しかしオッズで言うなら赤チームも捨てがたい…」
「オッズ?」
 パンフレットを眺めながらカノンが呟いた独り言に、サガが片眉を挙げた。
「…ちょっと待て?金を賭けるのか?」
「そりゃ賭けるよ?要は競馬だし。金が賭かってるからこそ、皆が熱狂するんだし」
 さも当然のようにカノンが言う。
 要するにカノンが「戦車競走でどのチームが勝つか」を気にしているのは、「どのチームが勝つかによっては暴動が起きるから、統治者として治安の責任が…」というような真面目な話では全然なく、どのチームに金を賭けたら自分の小遣いが増えるか、という俗な関心であったらしい。
「カノン、賭け事は…」
 弟と違い、聖域でも堅物なことで有名で、謹厳と清廉を売りにしているような兄のサガが「賭け事は良くないからやめなさい」と弟に説教を始めようとした時。
「あ、そうだ!」
 カノンは何かを思いついたようで、突如、席から立ち上がった。
「サガ、悪いけど用事を思い出した!今日はこれで!」
「あ、こら、カノン…」
 カノンはパンフレットを懐にしまうと、さっさとサガの私宅を後にした。
 こうして彼は兄のくそ長い説教を回避することに知らず知らずのうちに成功したのだった。

 兄のサガと別れたカノンが訪れたのは、アテネ市にある海運王ソロ家の邸宅だった。
「お〜い、ジュリアン、いるか?」
 カノンが玄関ホールで館の主であるジュリアン・ソロを呼び出す。
 海皇ポセイドンの憑代であるジュリアン・ソロは、ポセイドンとしての記憶は全く持たない。だがカノンは何だかんだでジュリアンの危機に巻き込まれた際に彼を助けたことがあり、「正体はいまいちよく分からないがジュリアン様の年上の友人」という立場をこのソロ家で確立していた。
 カノンの呼び声にまず出てきたのは、ソレントだった。「セイレーンの海将軍」としてのソレントの肩書きをジュリアンはこれまた全く知らないのだが、それでも「大水害の後に一緒に世界を回った同年の親友」として、ソレントはしばしばこのソロ邸に顔を出してジュリアンと一緒に過ごしている。
「ああ、ソレント、いたのか」
「カノン、ジュリアン様に何の用ですか?」
 ソレントは前触れもなくやって来たカノンに胡散臭そうな目を向けて尋ねた。
「いや、実は今度、海界で戦車競走があるんだが…」
 カノンがソレントに一連の事情を説明した。
「…で?」
 ソレントがカノンに問う。
「それで思い出したんだ。ほら、ポセイドンは馬の神だろ?だから戦車競走でどのチームが勝つか、予言できないかと思って…」
 「ポセイドンの魂を呼び出して競馬の勝ち馬の予想をさせる」というカノンの考えを聞いたソレントは、黙って自分の居室に戻った。しばらくしてカノンのいる玄関ホールに戻ってきたソレントは、手にフルートを持っていた。
 そして。
 ソレントはフルートをフルスイングさせてカノンの頭を殴りつけた。
 カコーン!という良い音が玄関ホール内に反響する。カノンの頭が野球のボールなら場外ホームラン間違いなしという勢いであった。
「ぐおっ!ソレント、何をする!?」
「やかましい!あなたはポセイドン様を何だと思ってるんだ!」
 「主神であるポセイドンに競馬の勝ち馬予想をさせる」というカノンの不敬極まりない計画を聞き、ソレントは激怒した。フルートを持ち直し、今度は剣道の「面」の要領でカノンの頭にフルートを打ち込み続ける。
「やめんかー!楽器で人を殴るな!音が狂うだろ!?」
 一方的にソレントに殴られ続けるカノンが叫んだ。だがソレントは楽器のことなどお構いなしで、カノンの頭に「めーん!」を続けた。
「このフルートはオリハルコン製です!武器として使っても問題ありません!」
「そのオリハルコン製のフルートを特注で海界の錬金術師に作らせたのはおれだろうが!少しはありがたいと思え!」
「誰が思うかー!」
「いいじゃないか!おれだってポセイドンのせいでいらぬ苦労をしてるんだぞ!これくらいの役得があっても…」
「この馬鹿!冒涜者!大罪人!あなたは前の戦いでポセイドン様を利用しようした過去からちっとも反省を…!」
 がん!がん!がん!と遠慮なくソレントがオリハルコン製の特注フルートでカノンの頭を連打する。
「やーめーろー!」
 このままではスイカ割りされたスイカのように頭がぱっくりと割れ、赤い果実を露出させたごとくに頭が血で真っ赤になりそうだと、カノンは危機を感じてソレントから逃げると玄関ホールの中を走り回った。
「ソレント!お前はただの競馬予想と侮っているがな!この戦車競走は大変なんだ!歴代のポセイドニアの元首の中には、戦車競走の番狂わせが原因で起きた暴動で死にかけた奴だっているんだぞ!」
「いっそあなたも暴動で死んでしまえー!」
「ぎゃー!」
 ソレントはしつこくカノンを追いかけ回してなおもフルートによる打撃を続けようとした。
 その時。
「話は聞いたぞ!シードラゴン!」
 バーン!と派手派手しく扉が開き、仁王立ちのジュリアン・ソロ…ではなく、彼の体に降臨した海皇ポセイドンが現れた。
「ポセイドン様!」
 カノンとソレントの視線が現れたポセイドンに集中する。
 腰に手を当て、さも偉そうに胸をそらしたポセイドンが、カノンに告げる。
「お前の望みは分かった!シードラゴンよ!その望み、叶えてやろうではないか!」
「おおっ、ポセイドン様!」
 珍しくカノンがキラキラと希望に満ちた目で主君(仮)を見つめた。普段は露骨に嫌そうな目を向けてくるカノンが、めったに見ないキラキラした様子で自分に懐いているような様子に、いよいよポセイドンは気をよくした。
「安心するがよい。私は確かに馬の神!競馬予想を全て的中させることも可能だ!」
「さすがです!ポセイドン様、最高!なんと慈悲深い!」
 ぐっとカノンが拳を握りしめてポセイドンを持ち上げる。
「だが一つ条件がある」
「…何でしょう」
 ポセイドンの言葉にカノンのキラキラした様子は消え失せ、代わりに警戒の色がにじんだ。
「今夜、裸で私の寝所を訪れて、『ポセイドン様、ずっとお慕い申し上げておりました。今宵は私に寵をくださいませ』と私を誘惑するのだ!」
「………」
 カノンは無言でくるっと踵を返して、玄関の扉に向かった。
「どこへ行く、シードラゴン?」
「すみません、ポセイドン様。急用を思い出しましたので、この話はなかったことに…」
 小金に目がくらんで忘れていたが、ポセイドン神がギリシャ神話では大神ゼウス以上にヤリチン設定で変態エロ爺いのセクハラ大魔王だった、ということをようやく思い出したカノンは、そそくさとソロ邸を後にしようとした。
「なぜだー!?シードラゴン、ちょっとセクシーポーズを決めてウインクの一つでもしてくれれば、万馬券を出してやるぞ!」
 慌ててポセイドンがカノンを引き留めようとする。
「いえ!結構です!このような雑事に神の御手を煩わせようとするなど、私が間違っておりました!海界に戻って謹慎して深く反省いたします!では!」
 カノンは脱兎の勢いでソロ邸から逃げ出した。ポセイドン神が狼だとすれば、海界最強の戦士であるカノンですら彼の前では非力な兎であった。そりゃ逃げる。
「…おお、シードラゴン。何が気に入らなかったのだ…」
 カノンの逃走に失望して落胆したポセイドンに対し、ソレントは彼の主君に尊敬と憧憬の眼差しを向けた。「あの」カノンをひるませるのだから、さすがは神!とソレントは改めてポセイドンに心服したのだった。
 神に競馬予想をさせようとするカノンも大概であったが、セクハラでカノンを撃退したことに感心するソレントの価値観も、やはり大概なのだった。

 後日談

ソレント「ところでジュリアン様は競馬に興味がおありですか?」
ジュリアン「うん、あるよ。馬を何頭か持ってる」
ソレント「(金を賭ける方ではなく馬主としての興味か…)」
カノン「(さすが金持ちは立ち位置が違った…)」
ジュリアン「でも最近、私の所有している馬が勝ちっぱなしで、他のオーナーからも不思議がられてるんだよね。特に変えたところもないんだけど、何でだろう?」
ソレント「(間違いなくポセイドン様のご加護だな…)」
カノン「(今度ジュリアン所有の馬に有り金を賭けとこ…)」

おしまい

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