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2020年11月30日22:43

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すべてじゃなくても良かった?「リリーのすべて」

世界初の性別適合手術を受けた人物リリー・エルベと、その妻ゲルダを描いた伝記映画です。
それは観た後に調べて分かった事で、実際はいつもの通り、録画した時の記憶が無いままどういう映画か分からずに観始めたのでした。

序盤は、主人公の男性で画家のアイナーが、同じく画家の奥さんと仲良く夫婦生活を送る中で、次第に女装への強い興味を持ち始める過程を描いています。
ここで僕は「そうか、女装癖のおじさんの物語なのだな」と理解しました。
奥さんの服にジットリと触れる仕草や、成り行きでドレスを着た時のウットリとした感じ等を、ネットリ描くシーンが頻発するのです。
なんともフェチィッシュなシーンの連続で、僕にはそういう嗜好が無いものの、好きな人にはたまらないのだろうな、と思いました。

「君の名前で僕を呼んで」という映画もそうで、残念ながら男色に興味の無い僕にはとにかく退屈な映画でしたが、好きな人なら何度も絶頂に達するだろうシーンが連続していて、お話よりもそうした描写が肝心な映画なのだろうと理解しました。
同じ監督の、リメイク版のサスペリアでは自分好みの「おんなのフェティッシュさ」が全開で、こちらはその年のベストに選んだほど気に入りました。
また、「男性が女装する」というシチュエーションに興奮する人は、性別に関係なく一定数いる事も理解しています。
これは、そういうマニア層に向けた変態映画なのだろうと思ったのです。

ところが、途中から奥さんの話にフォーカスしていきます。
奥さんは最初、旦那の女装を面白半分にそそのかすのですが、彼がそれにのめり込みそうになると「キメェんだよ!やめろや!」と怒るのです。
しかし、彼女も彼の女装姿に感じるものがあったのか、それを絵に描いて発表すると、それまでパッとしなかった彼女が一躍人気画家の仲間入りをするのです。

現金なもので、こうなると「男色、大いに結構。ウホッといこうぜ!」と応援し始めるのです。
ここでようやく、僕はこの映画が面白くなり始めました。
旦那の女装姿を絵に描くというのは、今であっても異様にとられると思いますが、当時(1926年)であればなおさらでしょう。
もちろん、その絵を見る人には単なる美しい女性がエロチックに描かれていると思うだけかもしれませんが、それは奥さんが旦那の女装にエロスを感じたからこそなわけで、この倒錯した感じと、そういうものが奥さんの才能を開眼させてしまうという部分が非常にユニークだと思ったのです。

・・・しかし、残念な事に、その後はまた旦那のお話になります。
彼は女装癖だけでなく、本格的に女性になりたい願望を強めていき、男性を恋愛対象とするようになり、体も女性になりたいと強く欲するようになるのです。
この描き方が、彼の中でリリーという女性の人格が次第に大きくなり、元々のアイナーという男性人格が消えていく、みたいなのです。
そういうものなのでしょうか。
僕には理解できない部分ですが、どうもこの辺から違和感が大きくなってしまったのです。

その後の結末まで、僕にはこの映画が割とどうでも良くなってしまいました。
結末も「そうなるのだろう」という予想の範疇で、感動もできませんでした。
性的マイノリティへのいわれなき差別も突然描かれたりして、あれも、これも、なにしろ「すべて」描かなくちゃ、という感じなのです。
当時は同性愛が精神病と診断され、なんとロボトミー手術の提案までされてしまうあたりは結構ワクワクしましたが・・・。
全体としては、なんとも散漫な映画に感じてしまいました。

後で、これが実話を元にした小説を映画化した作品だと知りました。
原作にはここに描かれているような様々な要素がすべてあるのでしょう。
しかし、2時間の映画にするならそこから芯となる部分を抜き出して、そこを中心とした内容に再構成する必要があると思います。
僕は、奥さんの視点に絞り、次第に理解出来なくなっていく旦那に対しての様々な感情を描く事に集中したら、非常に面白くなったと思います。

知っていた旦那が次第に消え、知らない誰かになっていく恐怖。
対して、女としての彼に対する抗いがたい魅力。
自分への裏切りに対する怒りと、しかしそれをどうにか理解しようとする狂おしい努力の姿こそ、もっと観たかったと思いました。

ただ、明らかに監督がノリノリになっていたのは、序盤のフェティッシュな変態シーンの数々だと思います。
監督のトム・フーパーは悪名高き「キャッツ」の監督でもあり、その映画でも猫がエロ過ぎると批判されたりしていました。
そういうのが好きなら、もっとそこを中心とした変態映画を撮れば良いのに。

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