シーン62

記者達 ああ来た来た。
日高 どうも皆さん、お待たせいたしました。えー、
梨本 三田さんちょっと顔上げてくれませんかね。
記者達 （撮る）
日高 まず皆様に、Wの悲劇の配役の交替についてお話ししたいと思います。座内オーディションで選ばれ、大阪公演で和辻摩子を演じました、菊地かおり、急病のため、東京公演は、三田静香が和辻摩子の役を演ずることになりました。あたたかいご声援のほどをお願いいたします。
記者達 （ざわめく）
梨本 スキャンダル女優を使ってですね、観客動員を狙ってるわけでしょやっぱり。
蜷川 スキャンダルったって勝手に騒いでんのはあんた方でしょう。
記者達 （ざわめく）
助手 スキャンダルを起こした三田さんをあえて起用したその理由を知りたいんですよ、だって研究生は他にもいっぱいいるじゃありませんか。
蜷川 三田君が優秀だからです。演出家としては、こちらの要求する芝居、あるいはそれ以上の芝居をしてくれりゃあ、他の誰と寝ようが一切関係ありません。
記者達 今の言葉無責任ですよ！
別記者 三田さん。堂原さんはどういう状況で亡くなったんですか。−−行為中だったんでしょ？
女記者 三田さん。堂原さんとはいつどこで、お知り合いになったんですか？
静香 −−１年ほど前です。演劇とか、文化的事業に、興味と、理解をお持ちの経営者だというのを、週刊誌の記事を読んで、ちょうどその頃、あたしたち研究生が、公演の準備をしていたので、思い切って、お願いに上がったら買って下さって、それからです。
梨本 堂原さんは、三田さんのそうなるとパトロンということですね。
静香 パトロンて…、
梨本 だから例えば月々にですね、お金をもらうとか。最近の言葉で言えば、愛人バンクですよ。
静香 違います。あたしお金なんかいただいてません。ただ、チケットを買っていただいたり、洋服を、プレゼントしていただいたり、あっあと食事とか
助手 （食って）三田さん。月々お小遣いもらったことはないんですか。
静香 いち…あ、二度あります。
記者達 そういうのをパトロンていうんだよ。
静香 違います。私…堂原さんを愛してたんです。
記者達 （撮る）
別記者 たしか歳が40歳近く離れてますよねえ。そんな親子以上にね、歳の離れた人を愛せるんですか？
静香 愛してしまったんです。
女記者 じゃあ堂原さんとの結婚は考えたんですか？
静香 ありません。
女記者 二十歳くらいの女性だとね、あの愛する男性と結婚したいって思うのがとっても自然な気持ちだと思うんですがいかがですか？
静香 奥様がおありでしたし。
女記者 じゃ奥様と別れて下さいっていう風にはおっしゃらなかったんですか？
静香 ありません。奥様には…大変にも、申し訳ないことをしたと思っています。でも、あの人もとても忙しい身だったんで、あたしも研究生で、芝居を勉強してる身で、レッスンや稽古で、忙しかったんで、たまに会って、何時間かいられるだけで幸せでした。
記者達 そりゃやっぱり愛人じゃないですか。そういうのを愛人ていうんですよ。
静香 皆さんが、お金の関係とか、（徐々にアップ）愛人とか妾とか、何て思われようと、人はあたしたちのこと、あたしと堂原さんのことを、なんて言おうとあたしは構わないと思います。仕方がないと思います。でも、でも、あたしは堂原さんを愛してたんです。−−食事もワリカンにして、洋服も要りませんて返せれば、バイトする時間がなくて、仕送りだけじゃ足りなくて、お小遣いって言われた時に、返せたら、そうしたら、恋愛だって、認めてくれるんですか？（泣く）でも…、たった一度、映画に行った時、あたしのお金でジュースとハンバーガー、あの人とてもよろこんで、
記者達 （撮る）