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2019年02月06日05:45

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『猪狩りの話』

 アルペイオス河神が登場する短編を二つ。
 『聖闘士星矢』の二次創作作品。聖戦後復活設定で、ロスサガ・ラダカノ前提。拙宅ではアイオリアと魔鈴さんは恋人とかじゃないです。
 アルペイオス河神について詳細な逸話はこちらを参照。『小っちゃくなっちゃった!』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8374971
 アケローオス河神については『ハルモニアの首飾り』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947『ドナウの白波 黄金の酒』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4939909『セクアナの泉』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4970379『春は失恋の季節』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9787807を参照。
 双子たちのオリジナル子供時代設定とマルコキアスとヴァピュラについては『雪解け』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3484101『What is Love…?』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4552772『太陽神の娘』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8980019を参照。
 女をストーカーする逸話しかないアルペイオス河神と、女に振られた逸話が一番有名なアケローオス河神と、どっちが恵まれてるんだろうと思ったが、ネイロス河神に「逸話があるだけましではないか」と言われた気がする。
 古代ギリシャの詩ではアルペイオス河神とアレトゥーサを夫婦扱いしてるものもあるんだけど、ストーカー男が夫扱いとかアレトゥーサは嫌だと思うなぁ…。


『猪狩りの話』

 それはサガとカノンがまだ十歳ごろのこと。養母キルケのもと、アイアイエの島にいた時の話である。
 根菜を育てていた畑が乱雑に掘り返され、かじられた作物が土の上に散らばっているのを見て、畑の所有者である女神キルケはため息をつきながら怒っていた。
「…やられたわね」
 女主人に付き従って畑を見回っていたニンフの一人が、面目なさそうに報告する。
「奥方様、畑の周りの柵が根元を掘り返されて、倒されてますぅ〜」
 畑を荒らした「犯人」は森から現れて、柵を鼻先で掘り返し、押し倒し、その隙間から畑に侵入し、収穫間近の作物を散々に食い荒らして、また森へと帰っていったらしい。
 残った足跡と掘り返された畑の様子を見て、キルケが忌々しそうに言う。
「猪が出たのね。せっかく柵まで作ったのに」
「キルケ、どうするの?」
 畑作業を手伝おうと養母に同伴したサガが彼女を見上げる。家庭菜園と言っていい規模の畑だが、サガとカノンにとっては彼らの大切な食料の供給減だ。
「もちろん、猪退治をするのよ」
 見上げる養子に、キルケはにこやかに微笑んだ。

 数日後の早朝、サガとカノンが朝食を食べ終わるころにキルケの館に来客があった。
「よう、双子たち、元気か?」
 現れたのはアルペイオス河神だった。このペロポネソス半島を流れる河の主は瑠璃色の短い巻き毛をした闊達な青年で、サガとカノンに声をかけるとたくましい腕を広げて再会の喜びを表した。
「アルペイオス様!いらっしゃい!」
 サガが顔に喜色を浮かべてアルペイオス河神の腕の中に飛び込む。河神はサガを抱き上げて、青紫色の瞳を輝かせた。
「はっはー!久しぶりだな。少し重くなったか?」
「背も伸びたよ!」
 サガがアルペイオス河神に自分の成長を報告する。
「…いらっしゃい」
 喜ぶサガとは対照的に、カノンはぶすっと不貞腐れたような顔でアルペイオス河神を迎えた。
 とはいえ、内心では彼もアルペイオス河神の訪れを歓迎しているのである。
 アルペイオス河神は優れた狩人で、彼はよく自分が狩った獲物の肉をおすそ分けで持って来てくれたり、今回のように畑が獣に荒らされると、その退治依頼を受けたりしてくれる。そして狩りの獲物は、夕食に調理されることになる。
 サガとカノンも育ち盛りの少年にふさわしく、「肉、肉、肉、肉ーっ!」と肉が食べたいわけで、「アルペイオス河神が来る=夕食のメインが肉料理になる」とまあ、そんな食い意地もあって、二人は彼の来訪を歓迎しているのだった。
「今日は猪狩りをキルケに頼まれてね。アケローオス大兄上も一緒だ」
 弟の後からのっそりと河神たちの長兄であるアケローオス河神が部屋に入ってきた。人懐こい顔立ちは弟のアルペイオス河神に似ているが、体格は弟よりも一回り大きく、さらにたくましい。
「アケローオス様!」
「なんだ、あんたも来たのか?」
 双子はそれぞれの態度で馴染みのアケローオス河神を迎えた。
「狩りの人手は多いほうがいいだろ?アルペイオスに誘われて来た」
 サガはアルペイオス河神から離れて、今度はアケローオス河神の胸の中にぽすんと飛び込んだ。
「よしよし、いい子だ、サガ」
 そして彼は手にしていた紙の箱をサガに差し出した。
「ほら、木苺のパイだ。娘たちに作ってもらった。あとで食べるといい」
「あはっ」
 これも双子たちが大好きな甘いデザートのお土産に、サガが喜びの声を上げる。
「サガ、カノン、お前たちも狩りに一緒に行くか?」
 アルペイオス河神の誘いに双子たちの片方は驚き、片方は瞳を輝かせた。そのように狩猟に誘われるのは初めてだった。
「え?」
「いいのか?」
 双子たちの頭をポンポンと叩きながらアルペイオス河神が言う。
「お前たちも大きくなったからな。荷物持ちくらいはさせてやる」
「やったー!」
「行く、行く!」
 冒険心を刺激され、双子たちははしゃぎながら両河神に従って外へと向かった。玄関の入り口で番をするように寝転がっていたキルケの使い魔、黒い狼の姿をした堕天使マルコキアスにアケローオス河神が声をかける。
「…というわけだ、マルコキアス、お前も猟犬としてついてこい」
「ええええ〜!?」
 起き上がったマルコキアスは不服の声を上げた。
「なんでおれが…!?おれは犬じゃねーよ。んなこと、ヴァピュラにやらせろよ」
 もう一人いるキルケの使い魔、こちらは真紅のたてがみを持つ獅子の姿をした堕天使の名をマルコキアスがあげる。
「私は無理だな」
 一人の男が外から皆の前に入ってきた。まとまりのない赤毛に緑眼の若い男、人間の姿に変化したヴァピュラである。彼は大工道具を入れた箱を二つ、肩と脇とにそれぞれ抱えていた。
「私は双子たちが、追いかけっこのあげくに壊した扉の修理をしないといけない」
 真面目な顔で言うヴァピュラに、マルコキアスがケチをつける。
「あ、てめぇ、上手く逃げる気だな?」
「お前が昨日、くじ引きで私に押し付けたんじゃないか」
「…うぐ…」
 言葉に詰まったマルコキアスにヴァピュラがさらに追い打ちをかけた。
「先月、同じように壊れた壁の修理も私がしたぞ」
「いーじゃねえか、その前の屋根の修理はおれがしたぞ。つーか、おれもヴァピュラも大工仕事は専門じゃないんだが…。人使いが荒すぎだろ、あの女…」
 渋々ながらもマルコキアスは立ち上がって、それでもアケローオス河神とアルペイオス河神に従って歩き始めた。
 キルケは子供たちが狩りに行くのは危険だと反対したが、双子たちの強い希望と、両河神が「おれたちがついているから」と言うので、押し切られた。こうして猪狩りに行くことになった一行は、物置から槍と弓矢を持ち出し、双子たちに箱型の罠を担がせて、館の周りを囲む森に入っていったのだった。

 アルペイオス河神は森の地形から、あらかじめ猪の寝床になっていそうな場所に当たりをつけて、風下から接近した。足跡や糞といった猪の生活の痕跡は見つけられたが、猪そのものは見つからなかった。アルペイオス河神は猪の通り道と思われるところに、双子たちに担がせていた箱型の罠を設置させた。猟銃などという近代的な物はないので、武器としてはアケローオス河神が槍を、アルペイオス河神が弓矢を持っている。
 猪に行き当たらないまま昼になったので、彼らは倒木に腰かけて昼食を取ることにした。サガとカノンは背負っていた皮袋からキルケ手製のハムサンドを取り出してかじりつき、アケローオス河神とアルペイオス河神は水袋に入れた葡萄酒を回し飲みした。
「アルペイオス様、猪ってどうやって狩るの?」
 ハムサンドを食べ終えたサガは、水筒から水を飲んでのどを潤すと、隣に座るアルペイオス河神に尋ねた。河神は飄々と答えた。
「猪か。あいつらは興奮すると真っ直ぐに突っ込んでくるからな。そこを額を狙ってゲンコでガーンと殴れば…」
 ため息交じりにアケローオス河神が弟をたしなめる。
「そういう乱暴な狩りをするのも、出来るのも、お前くらいだ。普通の人間には無理!子供たちに変なことを吹き込むな」
「ふ〜ん…」
 小用でももよおしたのか、立ち上がったカノンが皆から離れて灌木の茂みの向こう側に回った。
 すると。
 茶色い剛毛に包まれた物体がうずくまっていた。猪が茂みの陰で昼寝をしていたのだ。
「……」
 目が点になったカノンは、次の瞬間、思わず叫んだ。
「いのししーっ!」
 その声に猪がびくりと飛び起きた。カノンの姿に驚き、走って逃げていく。
 素早くマルコキアスが駆け出して猪を追いかけた。アケローオス河神がとっさに槍を手にして投げると、それは猪の背中に命中した。
「ブホォーツ!」
 怒りと痛みでパニックになった猪が走った先にあった木の幹に頭をぶつける。そこでまた動転したのか、猪はくるりと方向転換すると、今度はサガに向けて突進してきた。
「サガ、避けろ!」
 弓矢を猪に向けて構えたアルペイオス河神が叫ぶ。
 だがサガは驚きのあまり体を硬直させて立ちすくんでしまっていた。自分に直進してくる猪の姿に、サガの頭の中で先程のアルペイオス河神の言葉がリフレインする。
『額を狙ってゲンコでガーンと殴れば…』

 額をゲンコでガーン
 額をゲンコでガーン
 額をゲンコでガーン

 その考えだけが頭に浮かんだサガは、とっさにこぶしを握った。無意識のうちに小宇宙を燃やし、拳を突き出す。
「ええーい!」

 ゴガァッ!

 鈍い音が響いた。小宇宙を込めたサガの一撃で頭蓋骨をかち割られた猪は、血と脳髄を飛び散らせ、四肢をけいれんさせると、その場にどうっと倒れた。
 はあはあと荒い息をつきながら、サガは放心状態で倒れた猪を見つめていた。
「や…」
 やがて猪の血で汚れた拳を開き、両腕を天に向けて真っ直ぐに伸ばすとサガは小躍りした。
「やったー!」
「すげえぞ、サガ!」
「やった、やったー!」
「猪をやっつけたー!」
 カノンも兄に駆け寄って、二人は手を握り合って踊りながら喜んだ。
「ああ…うん…」
 思わぬ出来事になぜか脱力したアケローオス河神が呟く。
「…そういや、こいつら『普通』じゃなかったわ…」
 両河神は倒れた猪の周りを小躍りする二人の小さな「モンスター」たちを、やや呆然とした目で見るのだった。

 こうして猪を見事に仕留めた一行は、槍の柄に猪の手足を縄でくくりつけた。アケローオス河神とアルペイオス河神が槍の柄を肩に担ぎ、獲物を運ぶ。サガとカノンは二人の後について、
「焼肉!」
「シチュー!」
「串焼き!」
「モツ鍋!」
「腸詰め!」
 と、思いつく限りの猪の調理法を交互に言い合いながら、意気揚々とキルケの館に凱旋したのだった。

 その日の夕食は、もちろん猪肉のフルコースで、サガとカノンはたらふく猪の肉を平らげた。
 両河神はキルケから双子たちを危険にさらしたことにお叱りをくらった。その後、アルペイオス河神は戦利品として猪の毛皮と牙をもらい、さらにアケローオス河神と二人でキルケ特製の化粧品と香油を猪退治の礼として受け取った。なんでもこれらの品は娘の河の妖精たち(ナイアデス)が大喜びするそうだ。
 こうしてサガとカノンの初めての狩猟体験は、大成功と大満足のうちに終わったのだった。 

<FIN>

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