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2018年02月08日22:37

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「Ryuichi Sakamoto: CODA」を観ました



最近、ミュージシャンが映画になる事が多いです。
ライブだったりドキュメンタリーだったりと、内容は様々ですが、基本はファン向けのものでしょう。

僕が以前観たやつだと、Perfumeと電気グルーヴの映画がありました。
前者はワールドツアーの舞台裏に密着したドキュメントで、アーティストの紹介やこれまでの経緯についてはほとんど触れないというものでした。
後者はこれまでの歴史を関係者へのインタビューとライブ映像で振り返るというもので、映画自体にはアーティスト本人は一切係わらない(資料を提供しただけ)という点がユニークでした。
それぞれまったく違うタイプの映画ではありましたが、ライブ映像を多く見せる点は共通しています。

この坂本龍一の映画は、予告では彼がガンになったり震災をきっかけに反原発運動にかかわったりした点がフューチャーされていますが、そういう部分は本当に冒頭のみで、中心にあるのは新しいアルバムの制作過程についてです。

坂本龍一が凄い音楽作家だという事は、多くの人が何となく認識しているとは思いますが、一般に知られているのは「映画音楽をたくさんやって、賞ももらったから偉い」「YMOのメンバーだったから凄い」「忌野清志郎とキスしながら、いけないルージュマジックを歌ったからキモイ」という程度ではないでしょうか。

僕は中学生の頃からのファンで、初めて買ったCDが彼のベストアルバムだったほどなので、いかに彼が数々のアバンギャルドな挑戦と実験と悪ふざけを繰り返し、多くの結果を残したかについて、もっと知られて欲しいと思うのです。
電子音楽から現代音楽、民族音楽、クラシック、歌謡曲に至るまで、地球上のありとあらゆる音楽に手を出して、それぞれで傑作アルバムを作ってきた事こそが一番凄いと思う点なのです。

しかし、この映画では過去の映像については、唐突なYMOのライブ以外は、ほぼ映画音楽の仕事についてのみとなっています。
確かに今ではこれが一番知られている仕事なのでしょうが・・・・。

そのため、どうして最新アルバムのような音楽を作る境地に至ったのか、ファン以外には分かり辛いと思います。
環境音と調和しないリズム。
要は人間にコントロール出来ない音にこそ一番惹かれてしまうのは、これまでにあらゆる音楽を手なずけてきたからなのでしょう。

そして、音そのものへの追及。
最近僕自身も感じる事なのですが、結局音楽のどこに一番惹かれるのかを考えた時、まずは音そのものなのだと思うのです。
どんなに良く出来た曲であっても、音が好みでないと結局繰り返し聴きたいと思わなかったりします。

坂本龍一は自分の感動する音を求めて、バケツを被って雨を浴びたり、森を徘徊したり、ガラクタの様なものを部屋に持ち込んで鳴らしたりします。
これが一般の人なら、家族が心配してお医者様に「最近、おじいちゃんの様子がおかしいのですが。」と相談しに行ってしまうでしょう。
お医者様も「こういう時、叱ってはいけません。一緒に楽しんだフリをするのです。そうですね、施設を探してみては・・・」とアドバイスをする他無い状態。

しかし、こうして録音したお気に入りの音を聴いていて、おもむろにピアノを弾いたりするのは、音楽制作の上で最も幸福な瞬間であると思います。
そうした部分は非常に興味深く、もっとたくさん観たかったと思います。

映画としては、非常に奇妙で不思議なバランスです。
まず、過去の映像以外では、本人以外はほとんど誰も登場しません。
普通、周辺の人のインタビュー映像が入るのが多くのドキュメンタリーの常ですが、そういうのはまるで無いのです。

全体のバランスとしても、明らかに後半、特に終盤の盛り上がりに欠け、なにしろ退屈になります。
アルバムの完成、そしてライブでお客さんに聴いてもらうシーンがクライマックスになるべきだと思うのですが、割と何も無いまま唐突に終わってしまいます。
ファンの僕でもそうですから、一般の人には非常に分かり辛くて眠くなってしまう内容になってしまっていると思います。

彼のドキュメンタリーなら、時々NHKで放映されているものを観た方が簡潔で分かりやすいと思います。
そうではなく、もっと偽りの無い彼の姿を描きたいだけなら、アルバムのレコーディングのみに絞り、時系列に添って構成してくれればもっと観やすかったでしょう。
そして、演奏シーンがもっと欲しかったです。

ただ、音自体は非常に良かったと思います。
そうでなければ本当に説得力の無い映画になってしまいますからね。
そこは非常に力が入っています。
冒頭、津波で水没したピアノで演奏するシーンがありましたが、例えばあれがクライマックスでも良かったのでは?
水没したピアノを演奏したら、はたしてどんな音がするのだろう?と興味を持つあたりが、今の彼の興味を象徴していると思うからです。

盛り上がるシーンが序盤に集中しているのが非常に惜しいです。
音楽がアバンギャルドなのだから、映画はもっとシンプルで普通に楽しめる内容でも良かったのかな、と思いました。

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